【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る阻集器は、阻集器本体槽とトラップ手段とを備え、阻集器本体槽(以下単に「本体槽」と言うことがある)は、排水を導入する排水導入部と、排水導入部を通じて導入された排水に含まれる夾雑物を分離する分離室と、分離室で夾雑物が除去された排水を排出する排水口を有する。またトラップ手段は、分離室と排水口との間に介在されるように本体槽内に備えられ、排水口から逆流する臭気を封水(排水)によって遮断する。
【0013】
従来の阻集器でも封水によって臭気の逆流を防ぐトラップ手段が備えられているが、本発明の阻集器が備えるトラップ手段は、従来のようなトラップ管ではなく、次のような特徴的な構造を有するトラップ槽である。
【0014】
すなわち当該トラップ槽は、分離室の底面部の排水が当該トラップ槽内に流入するように下端部に形成した排水流入口と、排水流入口から流入した排水を堰き止めて越流を生じさせる越流部を有する越流室と、越流室と連通して当該越流室から流入する排水を一時的に貯留し水封を行う水封室と、水封室内の排水を前記排水口へ流出させる排水流出口とを備える。そして、越流室と水封室との連通部を、排水流出口の下端位置より低い位置に形成することにより封水深を確保する一方、当該トラップ槽内が負圧となったときに外部から空気が流入できるようにする吸気開口を越流室に備えた。このような阻集器における排水の流れは、次のとおりである。
【0015】
処理すべき排水は、排水導入部から阻集器本体槽に導入され、分離室内で油脂及びバスケットを通過した固形物(以下「汚泥」と言う)が水との比重差を利用して分離室上部及び底部に集められることにより分離される。油脂及び汚泥が取り除かれた分離室底面部の排水は、トラップ槽の下端部に形成した前記排水流入口からトラップ槽(越流室)内に流入する。
【0016】
越流室には、流入する排水を堰き止めて越流を生じさせる越流部を備えてあり、排水は越流部を乗り越えて水封室との連通部に向かう。なお、本体槽内の排水の水位は、当該越流部によって決定され、当該越流部の高さと略等しくなる。
【0017】
上記連通部を通過した排水は、水封室内に浸入し、排水流出口へと流れていく。排水流出口は、本体槽の排水口に接続してあり、これら排水流出口と排水口を通じて阻集器の外部(例えば下水道)へと排水が排出される。
【0018】
また上記連通部は、排水流出口の下端位置より低位置に形成してある。したがって、水封室内に溜まった排水によって当該連通部は水没状態にあり、連通部を通って越流室に臭気が逆流することはない。また、水封室は、後に述べるように掃除用の開口を備えることはあるが、当該開口を備えた場合にも阻集器の運転状態では蓋体によって当該開口は閉塞され、臭気が外部に漏れないように密閉されている。
【0019】
一方、多量の排水が急激に本体槽およびトラップ槽内に流入するなどして、密閉されている水封室内が負圧となった場合には、サイフォン現象が発生することにより連通部を通じて越流室内の排水が水封室へと引き込まれることがある。しかしながら、越流室は吸気開口を備え、この吸気開口は少なくとも阻集器の運転中は常に開放されているから、当該吸気開口を通じて外部の空気が越流室内に吸い込まれる。したがって、越流部を既に乗り越えて越流室内に溜まっている排水が水封室にすべて吸い込まれると、これに続いて吸気開口から吸い込まれた外気が連通部を通って水封室へ流れ込むことになり、水封室の負圧(サイフォン現象)は一気に解消されることとなる。
【0020】
また本発明のトラップ槽では、吸気開口を備えることで外気に開放された(密閉されていない)越流室が、浮上分離した油脂及び重力沈降した汚泥を溜め置く分離室と、排水口に連通する水封室との間に介在され、越流室によって分離室と水封室とが遮断されている。したがって、たとえサイフォン現象が発生したとしても、あるいは排水口と下水道を接続する排水配管に何らかの原因で持続的に負圧状態が生じても、吸気開口から吸入される外気が排水口から下水道に向けて吸引されるだけで済み、分離室内に留め置かれた油脂や汚泥が下水道へ吸い出されることがない。
【0021】
このようにトラップ槽を備える本発明の阻集器によれば、吸気開口の作用によりたとえサイフォン現象が発生したとしても直ちにこれを解消することができるうえに、浮上油脂及び汚泥が貯留されている分離室と下水道に通じる水封室とが越流室によって遮断・分離されているから、阻集器内の浮上油脂や汚泥が下水道へ流出するアクシデントが生じることをより確実に防ぐことが出来る。
【0022】
なお、上記のような越流室内の排水とこれに続く吸気開口からの外気の吸引によって水封室の水封状態が一時的に(一瞬)破られることがあったとしても、空気の流れは排水の流れと同じ方向(越流室から水封室に向けた方向)となっており、水封室内の臭気は逆方向(水封室から越流室に向けた方向)へは逆流し難い。また阻集器は運転中であり、越流部を乗り越えて直ぐに排水が連通部および水封室へ流入してくるから、負圧状態(サイフォン現象)が解消されれば連通部は水没して直ちに水封室の水封機能は回復する。したがって、阻集器外部(屋内側)への臭気漏れの問題も生じない。
【0023】
以下、このような本発明の阻集器の好ましい態様について述べる。
【0024】
本発明の阻集器では、トラップ槽内で水平方向に隣り合うように越流室と水封室を配置し、これら越流室と水封室とを仕切る仕切板を越流室と水封室との間に備えることがある。この場合、当該仕切板を、水封室の底面より上方で且つ排水流出口の下端位置より低い位置まで立ち下げ、これにより水封を確保しつつ当該仕切板の下方に前記連通部を形成する。
【0025】
また越流室は、排水流入口と連通する前室と、この前室と水平方向に隣り合うように配置され水封室と連通する後室とを含み、越流部が、排水流入口から前室へ流入した排水を堰き止めて前室から後室への越流を生じさせるように前室と後室とを仕切る堰板を含む場合がある。
【0026】
さらに、越流室の前室を取り囲んでトラップ槽の外周面を形成する周板を備え、当該周板のうち排水流入口の上部の周板が排水流入口に向けて下方へ向かうにつれ外方へ広がる傾斜部を有し(言い換えれば、前室の水平断面積が下方に向かうに従って大きくなるように排水流入口の上部の周板に傾斜部を備え)、当該傾斜部の下縁部に排水流入口が形成されていることがある。
【0027】
排水をスムーズにトラップ槽内に流入させ、越流部に導くためである。すなわち、本体槽内の排水は、分離室底面部から排水流入口を通ってトラップ槽内に流れ込み、越流部を乗り越えるために越流室前室内を上昇するが、排水流入口上部の周板に上記のような傾斜部を備えれば、トラップ槽内に流入する排水が水平に前室に浸入した後に垂直に向きを変えて上昇するのではなく、分離室底面部から斜め上方に向け進行しつつ、排水流入口を通って越流室前室へ流入するようになり、トラップ槽内に流入する排水をスムーズに越流部へと導き入れることが出来る。
【0028】
前記吸気開口は、越流室の上面に備えることが好ましい。多量の排水が阻集器に流入したときにも水没することなく確実に吸気がなされるようにするためである。
【0029】
また、典型的な配置として本発明の阻集器では、阻集器本体槽の一端部に排水導入部を配置することにより当該一端部を阻集器内の排水の流れの「上流」とする一方、阻集器本体槽の他端部に排水口およびトラップ槽を配置することにより当該他端部を阻集器内の排水の流れの「下流」とし、排水導入部とトラップ槽との間に分離室を配置する。また排水導入部には、比較的大きな固形物を捕捉するバスケット(受け籠)を備え、このバスケットを通して本体槽に排水を導入するようにしても良い。
【0030】
さらに当該典型的な配置例においては、下流に配置されたトラップ槽の上流に面する(上流に向いた)側をトラップ槽の「正面」としたときに、排水流入口を、トラップ槽の正面ではなく、側面および背面のうちのいずれか一方または双方に備えることが好ましい。分離室内に留めるべき浮上油脂が流入口からトラップ槽内に吸い込まれることを防ぐためである。このような態様によれば、側面や背面側に回り込むようにして排水がトラップ槽に取り入れるようになることで浮上油脂がトラップ槽内に入り込み難くすることができ、上流から下流に向かって本体槽内を流れる排水に乗ってダイレクトに(真っ直ぐに)浮上油脂が排水流入口に進入することを防ぐことが出来る。
【0031】
また上記典型的な配置構造を備える阻集器では、トラップ槽の幅が阻集器本体槽の両側壁間の距離より小さく、これにより、トラップ槽の左側面と阻集器本体槽の左側壁との間、および、トラップ槽の右側面と阻集器本体槽の右側壁との間、のいずれか一方または双方にまで前記分離室が形成されていることがある。
【0032】
従来の阻集器では、本体槽の中間部を、上流側と下流側にそれぞれ備えた一対のバッフル(邪魔板)(スライド板とも言う)で仕切って分離室とし、これらバッフルの間に水面に浮いた油脂を堰き止めて貯留している(前記特許文献1の
図1〜
図2、特許文献2の
図1,
図4、特許文献3の
図10参照)。これに対して上記配置構造を備える本発明の阻集器によれば、本体槽の下流側端部まで一つの分離室を形成して従来に比べ多くの油脂を溜めることができ、グリース阻集効率を上げることが出来る。
【0033】
さらに前記トラップ槽は、越流室を取り囲んでトラップ槽の外周面を形成する筐体を備え、この筐体により分離室内の排水表面に浮遊する浮上油脂を堰き止め、トラップ槽内への浮上油脂の侵入を阻止することがある。
【0034】
このような態様によれば、トラップ槽の筐体により分離室に浮いた油脂を堰き止めることができ、従来備えられていた下流側のバッフルが不要となるから、前述のように多くの油脂を溜めることが可能となるうえに阻集器の構造を簡素化することが出来る。
【0035】
またトラップ槽は、阻集器内部の底板上に据え置くことが可能な一つのまとまりある独立したユニットとして構成することがある。本発明に係るトラップ槽の阻集器への適用を容易にし、阻集器の設計や製造(トラップ槽の設置)、メンテナンス(トラップ槽の交換修理等)を簡便にできるようにするためである。
【0036】
また前記排水流出口を阻集器の排水口に対して着脱可能に接続することにより、トラップ槽を阻集器に対して着脱自在に構成することも出来る。このような態様によれば、阻集器やトラップ槽のメンテナンス(本体槽やトラップ槽の掃除)を行い易くすることが出来る。
【0037】
さらに、水封室の内部を掃除することを可能とする開口を水封室の上面に備えても良い。この場合、当該開口から臭気が外部に漏れることを防ぐ蓋体を開閉可能に当該開口に備える。
【0038】
また、本体槽の一端部(上流)に排水導入部を、他端部(下流)にトラップ槽を、それらの間に分離室をそれぞれ配置した前述の典型的な配置例において、トラップ槽の上流に面する側をトラップ槽の正面としたとき、水平方向に隣り合うように且つ上流側に越流室が位置し下流側に水封室が位置するように越流室と水封室とをトラップ槽内に形成するとともに、越流室の背面、左側面および右側面のいずれかに排水流出口を備えるようにしても良い。
【0039】
後に述べる実施形態では本体槽の排水口の位置に対応して越流室の背面に排水流出口を備えたが、背面のほか、当該排水口が本体槽の左側壁にある場合には左側面に、あるいは、右側壁にある場合には右側面に排水流出口を備えることにより、排水口の位置の異なる、様々な現場に柔軟に対応可能な阻集器を構成することが出来る。
【0040】
さらに、背面、左側面および右側面のうちの2以上またはすべてに排水流出口を予め備えておいても良く、この場合、排水口の位置が異なる複数種類の阻集器に使用可能な、排水口の位置について汎用性の高いトラップ槽とすることが出来る。なお、使用しない(本体槽の排水口と接続しない)排水流出口は、蓋体によって閉塞すれば良い。
【0041】
また、本発明の阻集器に備えた前記トラップ槽は、トラップ槽単体として提供しても良い。トラップ槽を単体で提供することで、例えば、既設の阻集器に対して本発明を適用できるようになるからである。つまり、現在すでに設置され使用されている阻集器においてトラップ管を上記トラップ槽と交換すれば、本発明に係る前記阻集器と同様の阻集器を構成することができ、これを利用することが可能となる。
【0042】
当該本発明のトラップ槽は、排水から夾雑物を除去する阻集器に備えられ、阻集器内に収容された排水を封水として利用して臭気の逆流を防ぐトラップ槽であって、阻集器の底面部の排水が流入できるよう下端部に形成した排水流入口と、排水流入口から流入した排水を堰き止めて越流を生じさせる越流部を備えた越流室と、越流室と連通して当該越流室から流入する排水を貯留し水封を行う水封室と、水封室から排水を流出させる排水流出口とを備え、越流室と水封室との連通部を、排水流出口の下端位置より低い位置に形成することにより封水深を確保し、トラップ槽内が負圧となったときに外部から空気が流入することを可能とする吸気開口を越流室に備える。
【0043】
なお、単体で提供するこのトラップ槽についても、前記本発明の阻集器に備えたトラップ槽に関する様々な態様を採用することが可能である。