(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-8583(P2019-8583A)
(43)【公開日】2019年1月17日
(54)【発明の名称】タッチパッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/0354 20130101AFI20181214BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20181214BHJP
【FI】
G06F3/0354 453
G06F3/041 460
G06F3/041 495
G06F3/041 660
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-124157(P2017-124157)
(22)【出願日】2017年6月26日
(71)【出願人】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉沢 和敏
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌宏
【テーマコード(参考)】
5B087
【Fターム(参考)】
5B087AA04
5B087BC21
5B087BC22
(57)【要約】
【課題】ガラス製のものより安価であり、表面のフィーリングがよく、かつ、耐油性を有するパッドプレートを備えたタッチパッドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るタッチパッドは、電気的に絶縁性を有する樹脂製の基部12と、基部12上を覆うよう積層された光硬化樹脂層13と、光硬化樹脂層13上を覆うよう積層されたアンチフィンガー膜14と、を備え、アンチフィンガー膜14がタッチ操作面である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に絶縁性を有する樹脂製の基部と、
前記基部上を覆うよう積層された光硬化樹脂層と、
前記光硬化樹脂層上を覆うよう積層されたアンチフィンガー膜と、
を備え、前記アンチフィンガー膜がタッチ操作面であるタッチパッド。
【請求項2】
前記光硬化樹脂層が、硬化した光硬化性樹脂組成物で構成され、
前記アンチフィンガー膜が、酸化物またはフッ化物で構成されている請求項1に記載のタッチパッド。
【請求項3】
電気的に絶縁性を有する樹脂製の基部上に、光硬化性樹脂組成物を塗布し、光照射して前記光硬化性樹脂組成物を硬化させて光硬化樹脂層を形成し、
前記光硬化樹脂層上に、酸化物またはフッ化物をスプレーまたは蒸着させてアンチフィンガー膜を形成するタッチパッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパッドおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノートブック型パーソナルコンピュータ(ノート型PC)およびタブレット型パーソナルコンピュータ(タブレット型PC)等の電子機器は、ディスプレイに表示されるカーソル(マウスポインタ)を操作するための入力装置を備えている(特許文献1参照)。
【0003】
入力装置の1つに、タッチパッドがある。タッチパッドは、平板状のセンサを指等でなぞることでマウスポインタを操作でき、マウスの代わりとして操作可能な入力手段である。
【0004】
タッチパッドは、通常、タッチ操作を検出する基板プレートと、基板プレートの上部に積層されたタッチ操作面を有するパッドプレートと、を備えている。
【0005】
パッドプレートは、一般的に、ガラス製の板または樹脂製の板である。樹脂板の素材は、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリウレタン(PU)などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−27684号公報(段落0025および段落0028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラス製のパッドプレートは、手触り(フィーリング)が良いが、高価である。より安価なタッチパッドとするためには、樹脂製のパッドプレートを用いるのが好ましい。
【0008】
しかしながら、樹脂製のパッドプレートは、ガラス製と比較して、手触り(フィーリング)が悪く、耐油性があまり高くないという課題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、表面のフィーリングがよく、かつ、耐油性を有するパッドプレートを備えたタッチパッドをガラス製のものより安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のタッチパッドおよびその製造方法は以下の手段を採用する。
【0011】
本発明は、電気的に絶縁性を有する樹脂製の基部と、前記基部上を覆うよう積層された光硬化樹脂層と、前記光硬化樹脂層上を覆うよう積層されたアンチフィンガー膜と、を備え、前記アンチフィンガー膜がタッチ操作面であるタッチパッドを提供する。
【0012】
また、本発明は、電気的に絶縁性を有する樹脂製の基部上に、光硬化性樹脂組成物を塗布し、光照射して前記光硬化性樹脂組成物を硬化させて光硬化樹脂層を形成し、前記光硬化樹脂層上に、酸化物またはフッ化物をスプレーまたは蒸着させてアンチフィンガー膜を形成するタッチパッドの製造方法を提供する。
【0013】
基部を樹脂製の部材とすることで、ガラス製のものよりも安価なタッチパッドとすることができる。基部上にアンチフィンガー膜を積層してタッチ操作面とすることで、タッチ操作面の耐油性を向上させるとともに、摩擦を減らして滑りやすくできる。これにより、タッチ操作面に指紋、脂および汚れが付着しにくくなるとともに、手触りもよくなる。
【0014】
一方、基部上にアンチフィンガー膜を積層したたけでは、ガラス製のものと比較して強度が弱い。これを補うため、上記発明の一態様では基部とアンチフィンガー膜との間に光硬化樹脂層を配置する。光硬化樹脂層は、樹脂が光により硬化されてなるため、基部よりも硬い層とできる。基部上に光硬化樹脂層を設けることで、摩擦などに対する耐久性および耐薬性が向上する。また、光硬化樹脂層を介することでアンチフィンガー膜が剥れにくくできるため、タッチパッドを長寿命化させられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂製の基部上に光硬化樹脂層およびアンチフィンガー膜を順次積層させたタッチパッドは、ガラス製の基部を用いたものより安価であり、表面のフィーリングがよく、かつ、耐油性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係るタッチパッドを搭載したノート型PCの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るタッチパッドについて、このタッチパッドを備える電子機器との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係るタッチパッドを搭載したノート型PC(電子機器)の斜視図である。
【0019】
ノート型PC1は、本体筐体2と、ヒンジ3を介して開閉可能に本体筐体2に連結されたディスプレイ筐体4とを備えている。本実施形態において、本体筐体2およびディスプレイ筐体4は略直方体である。ノート型PC1は、本体筐体2側にディスプレイ筐体4を倒すことで閉じた状態とされうる。
【0020】
本体筐体2の内部には、図示しない基板、演算処理装置、ハードディスク装置、メモリ等の各種電子部品が収納されている。
【0021】
ディスプレイ筐体4には、各種情報を表示出力するための液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置5が設けられている。
【0022】
本体筐体2は、各種情報を入力するためのキーボード装置6およびタッチパッド7を備えている。キーボード装置6の略中央にはポインティングスティック8が設けられている。タッチパッド7およびポインティングスティック8は、それぞれカーソル(マウスポインタ)を操作するためのものであり、マウスの代わりとして操作する入力手段である。
【0023】
図2は、タッチパッド7の部分縦断面図である。タッチパッド7は、指先等の接近又は接触によるタッチ操作を受け付ける。本実施形態のタッチパッド7は、タッチ操作に加えて押下操作によるクリック動作が可能なクリックパッドとして構成されている。
【0024】
タッチパッド7は、タッチ操作を受け付けるタッチ操作面となるパッドプレート10と、タッチ操作面に対するタッチ操作を検出する基板プレート11とを備えている。
【0025】
基板プレート11は平面視矩形状の電子基板であり、図示しない配線によって本体筐体2内の基板に接続されている。基板プレート11は、パッドプレート10へのタッチ操作及びタッチパッド7に対する押下操作を検出するセンサである。
【0026】
パッドプレート10は、基板プレート11の上面に接着剤や両面テープ等によって固着されている。
【0027】
パッドプレート10は、基部12、光硬化樹脂層13、アンチフィンガー膜(AF膜)14を備えている。基部12が基板プレート11に固着されている。AF膜は、パッドプレート10の最表面に配置され、タッチ操作面となる。光硬化樹脂層13は、基部12とAF膜14との間に挟まれるよう配置されている。光硬化樹脂層13は、基部12のAF膜側表面の全体を覆い、AF膜14は、光硬化樹脂層の表面全体を覆っている。
【0028】
基部12は、樹脂製である。樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、アクリル系樹脂(例えばポリメチルメタクリレート)である。樹脂は、電気的絶縁材料である。樹脂としては、−40℃から120℃程度までの耐熱性を有するものが選択される。基部12の厚さは、一般的に0.15mm以上0.6mm以下とするとよい。
【0029】
光硬化樹脂層13は、基部12よりも硬く、外部から付与される負荷から基部12を保護できる。光硬化樹脂層13の厚さは、0.02mm以上0.04mm以下とするとよい。
【0030】
光硬化樹脂層13は、光硬化性樹脂組成物を硬化させてなる層である。光硬化性樹脂組成物は、光照射により重合反応を起こし硬化する樹脂(光硬化性樹脂)のモノマーまたはオリゴマーを主成分とする。主成分とは、最も多く含む成分を意味する。硬化前の光硬化性樹脂組成物は、液体である。
【0031】
光硬化性樹脂は、ラジカル重合型およびカチオン重合型のいずれであってもよい。例えば光硬化性樹脂は、アクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂である。光硬化性樹脂は、市販の紫外線硬化性樹脂であってよい。光硬化性樹脂にポリメタクリル酸エステル系樹脂を用いた場合、基部12の材料には、アクリル酸またはアクリル酸エステル系の樹脂を用いるとよい。
【0032】
光硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、光に照射されると最終的に酸になる酸ラジカルを発生する化合物、あるいは、他のラジカルを発生する化合物である(以降、酸ラジカルおよび他のラジカルは区別なく「ラジカル」と称する)。光重合開始剤は、例えば、α-ヒドロキシアセトフェノンである。光重合開始剤には、他の公知のものが使用され得る。
【0033】
光硬化性樹脂組成物は、溶剤、顔料、その他の添加剤を含んでもよい。溶剤は揮発性を有し、光硬化性樹脂組成物を硬化させた後、光硬化樹脂層13に残存しないものが用いられる。
【0034】
AF膜14は、パッドプレート10に耐水性および耐油性を付与する膜である。AF膜14は、指紋の付着を防止できる。AF膜14の厚さは、0.03mm以上0.06mm以下とするとよい。
【0035】
AF膜14は、フッ化物を主成分とする膜である。フッ化物は、ポリテトラフロロエチレン系(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン系(PFA)、テトラフルオロエチレン系(FEP)等である。AF膜14は、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂(ETFE)、または、フッ素樹脂と有機バインダー樹脂とを含んだ変性塗料等でもよい。
【0036】
次に、パッドプレート10の製造方法について説明する。
【0037】
まず、基部12上に光硬化樹脂層13の材料(光硬化性樹脂組成物)を塗布し、塗膜を形成する。塗布は、スプレー、ローラーコーター塗装で行うことができる。
【0038】
次に、塗膜に光を照射する。照射する光の波長は、使用した光硬化性樹脂組成物を硬化させ得る範囲から選択する。例えば、市販の紫外線硬化性樹脂を硬化させる場合、450nm〜280nmの波長の紫外線を照射する。
【0039】
光を照射すると、光重合開始剤が光のエネルギーを吸収してラジカルに変化する。光硬化性樹脂組成物はラジカルにより重合反応し、硬化される。これにより塗膜は、固体(光硬化樹脂層13)となる。
【0040】
次に、基部12上に形成された光硬化樹脂層13の上に、AF膜14を形成する。AF膜14の形成には、公知のスプレー法、物理蒸着法(PVD)または化学蒸着法(CVD)等が採用されうる。
【0041】
ここで、PVDによってAF膜14を形成する方法を例示的に説明する。光硬化樹脂層13を備えた基部12を、物理蒸着装置のチャンバーにセットした後、チャンバー内を真空引きする。チャンバー内は、10
−3Paから10
−4Pa程度とするとよい。それにより、AF膜材料(酸化物またはフッ化物)の蒸発温度を下げることができるため、蒸着が容易となる。また、真空引きすることでチャンバー内の余分な気体分子を排気できる。そのため、蒸発したAF膜材料が残存気体分子と衝突するのを避けることができる。
【0042】
チャンバー内の真空環境下でAF膜材料を加熱し、光硬化樹脂層13の表面に蒸着させ、AF膜14を形成する。
【0043】
<耐水性・耐油性確認>
以下の試料1、2を用い、各試料表面を羊毛(ウールフェルト)で3000回摩擦した。摩擦前後において試料1,2の表面の水滴角を計測した。「水滴角」とは、水滴の接線と試料表面とのなす角度θである。
【0044】
試料1:基部/光硬化樹脂層(0.03mm)
試料2:基部/光硬化樹脂層(0.03mm)/AF膜(0.04mm)
【0045】
基部には、PET(inhontech社製,IHAG77)を用いた。基部上に光硬化樹脂層を形成し、試料1とした。また、試料1と同様に光硬化性樹脂層まで形成した後、光硬化性樹脂層上にAF膜をPVD法により形成したものを試料2とした。
【0046】
表1に水滴角の計測結果を示す。
【表1】
【0047】
試料1の表面の水滴角は、摩擦前(摩擦0回)で89.1°だったものが、摩擦後(摩擦3000回)には77.1°になった。試料2の表面の水滴角は、摩擦前(摩擦0回)で131°だったものが、摩擦後(摩擦3000回)には124°になった。摩擦前後における試料表面の水滴角は、表面にAF膜を備えた試料2の方が試料1よりも大きかった。上記結果によれば、AF膜を設けることで、耐水性および耐油性を向上させられることが確認できた。
【0048】
<RCA試験>
以下の試料3〜5を用いてRCA試験を実施した。RCA試験は、コイル状の試料表面に一定速度で荷重をかけ、磨耗性を試験するものである。
【0049】
試料3:基部/光硬化樹脂層(0.03mm)/AF膜(0.04mm)
試料4:基部/光硬化樹脂層(0.03mm)
試料5:基部/AF膜(0.04mm)
【0050】
試験条件は、荷重175g、試料移動速度:約60mm/sとし、下地表面(試料3では光硬化樹脂層13、試料4,5では基部12)が露出するまでの摩擦回数をカウントした。
【0051】
図3に、試験結果を示す。同図において、横軸は試料への摩擦回数である。試料3は180回、試料4は68回、試料5は47回で下地表面が露出した。この結果から、基部上に光硬化樹脂層/AF膜を積層することで、光硬化樹脂層のみを積層したものよりも耐摩耗性が2倍程度向上することが確認された。
【0052】
また、AF膜は、光硬化樹脂層を介して基部上に積層された方が、直接基部上に積層されるより寿命が延長されることが確認された。
【0053】
試験後に、試料表面における傷、気泡、ひび割れ、変色の有無を目視で確認した。試料3表面では、傷等は認められなかった。この結果は、試験後の試料3の表面に組成変化や表面特性の変化がなかったことを示している。これにより、試料3の基部/光硬化樹脂層/AF膜の構成は、ユーザーの使用に向いており、悪影響を及ぼさないことがわかった。
【0054】
なお、上記実施形態では、電子機器としてノート型PCを例示したが、これに限定されず、タッチパッドは、デスクトップ型PC等に接続される単体のキーボード装置等に搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 ノート型PC(電子機器)
2 本体筐体
3 ヒンジ
4 ディスプレイ筐体
5 ディスプレイ装置
6 キーボード装置
7 タッチパッド
8 ポインティングスティック
10 パッドプレート
11 基板プレート
12 基部
13 光硬化樹脂層
14 アンチフィンガー膜(AF膜)