耐熱保護性を有する被膜の補修をすべき凹部に、溶融温度90℃以下の熱可塑性樹脂100重量部に対し、耐熱性付与粉体を200〜1000重量部含む固形小片物を、加温した状態にて、押圧具を用いて押圧し、上記凹部に上記固形小片物を充填する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明は、耐熱保護性を有する被膜の補修方法であって、その被膜の補修をすべき凹部(以下単に「凹部」ともいう)に、特定の固形小片物を充填するものである。
【0012】
本発明補修方法の対象となる被膜は、耐熱保護性を有するものである。具体的には、火災等の高熱から基材を保護する性能を有するものである。このような被膜は、火災時等の温度上昇によって(好ましくは被膜表面温度が200℃以上、さらに好ましくは250℃以上となった場合)発泡して炭化断熱層を形成し、基材を高熱から保護する。
【0013】
基材としては、例えば、壁、柱、床、梁、屋根、階段、天井、戸等の各種部位を構成する各種基材が挙げられる。このような基材を構成する材料としては、例えば、鋼材、金属、コンクリート、モルタル、サイディングボード、タイル、煉瓦、ガラス、木材、合成樹脂、プラスチック、ゴム等が挙げられる。これら基材は、その表面に、既に被膜(防錆被膜、下塗被膜、上塗被膜等)が形成されたもの、何らかの下地処理(防錆処理、難燃処理等)が施されたもの等であってもよい。
【0014】
耐熱保護性を有する被膜としては、例えば、樹脂、並びに、発泡剤、炭化剤、難燃剤、及び充填剤等の耐熱性付与粉体を含む被覆材(熱発泡性塗料等)によって形成されたもの等が挙げられる。
【0015】
樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル−アクリル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニルエステル共重合樹脂、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニルエステル−アクリル共重合樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリブタジエン樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンゴム等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。
【0016】
発泡剤としては、例えば、膨張性黒鉛;メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素等の含窒素発泡剤等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。このような発泡剤は、火災時等の温度上昇によって被膜に発泡作用を付与できるものであり、具体的には、被膜表面の温度が好ましくは200℃以上となった場合に発泡作用を付与できるものである。
【0017】
炭化剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、デンプン、カゼイン等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。このような炭化剤は、火災時等の温度上昇によって、上記樹脂の炭化とともに脱水炭化することにより、炭化断熱層を形成する作用を付与することができるものである。
【0018】
難燃剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート等の有機リン系化合物;塩素化ポリフェニル、塩素化ポリエチレン、塩化ジフェニル、塩化トリフェニル、塩素化パラフィン、五塩化脂肪酸エステル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン、テトラクロル無水フタル酸等の塩素化合物;三酸化アンチモン、五塩化アンチモン等のアンチモン化合物;三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレム、リン酸ホウ素、ポリリン酸ホウ素、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム等のリン化合物;その他ホウ酸亜鉛、ホウ酸ソーダ等の無機質化合物等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。このような難燃剤は、火災時等の高温状態で脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、樹脂の燃焼抑制作用を発揮できるものである。
【0019】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム等の炭酸塩;二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;シリカ、粘土、タルク、クレー、カオリン、ケイソウ土、シラス、マイカ、ワラストナイト、珪砂、珪石、石英、ヒル石、アルミナ、フライアッシュ等の無機粉体等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。このような充填剤は、炭化断熱層の強度向上作用等を発揮できるものである。
【0020】
耐熱保護性を有する被膜を形成する被覆材は、上記成分の他、例えば、顔料、繊維、湿潤剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、増粘剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、希釈溶媒等を含むものであってもよい。
【0021】
このような被覆材によって形成される被膜の厚さは、所望の機能性、適用部位等により適宜設定すれば良いが、好ましくは0.4〜5mm程度である。なお、本発明において「a〜b」は「a以上b以下」と同義である。
【0022】
耐熱保護性を有する被膜は、その表面に、美観性向上、耐久性向上等の目的で化粧被膜等を備えたものであってもよい。このような化粧被膜は、公知の上塗材を塗付することによって形成することができる。上塗材としては、例えばアクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の被覆材が挙げられる。
【0023】
本発明は、上述の被膜に不具合(例えば、膨れ、浮き、剝れ、割れ、欠け等)が生じた場合に、その被膜の補修を行うものである。膨れ、浮き等の不具合箇所については、補修に先立ち、不具合箇所及びその近傍の被膜を部分的に除去しておくことが望ましい。これにより、補修をすべき凹部が形成される。剝れ、割れ、欠け等の不具合箇所については、多くの場合、不具合発生時点でその箇所に凹部が形成されるが、不具合箇所近傍の被膜を部分的に除去することにより、補修をすべき凹部の形状を整えることもできる。
【0024】
補修をすべき凹部の形状(被膜を正面から見たときの形状)は、特に限定されず、不定形であってもよいが、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形、短冊状等の形状、あるいはこれらに近似する形状に整えておけば、作業効率を高めることができる。このような凹部の大きさ(被膜を正面から見たときの短手方向の長さ)は、好ましくは5〜300mm、より好ましくは10〜100mmである。凹部の深さは、好ましくは0.3〜10mm、より好ましくは0.5〜6mmである。
【0025】
本発明では、このような凹部に特定の固形小片物を充填する。固形小片物としては、溶融温度90℃以下の熱可塑性樹脂100重量部に対し、耐熱性付与粉体を200〜1000重量部含むものを用いる。本発明では、このような固形小片物を用いることにより、比較的低温で効率良く押圧作業を行うことができ、付着性、仕上がり性等も良好であり、補修に要する手間と時間を軽減することができる。固形小片物を押圧する際には、押圧具を用いて、直接、固形小片物を押圧することができ、固形小片物と押圧具との間に各種機能性シート(例えば、耐熱シート、離型シート、可剥性シート等)を介在させる必要はない。
【0026】
固形小片物を構成する熱可塑性樹脂は、その溶融温度が90℃以下であり、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下である。溶融温度が上記値を上回る場合は、比較的高温で押圧作業を行うことが必要となり、押圧時に上述のような機能性シートも必要となる。なお、溶融温度は、JIS K6924−2に記載の方法(DSC(示差走査熱量計)を使用)によって測定される値である。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、上記溶融温度を満たす各種樹脂が使用できる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニルエステル樹脂、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニルエステル−アクリル樹脂、酢酸ビニル−アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリルスチレン樹脂(アクリル−スチレン共重合樹脂)、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)から選ばれる1種または2種以上が好適であり、少なくともエチレン酢酸ビニル樹脂を含む態様がより好適である。
【0028】
固形小片物における耐熱性付与粉体としては、例えば、発泡剤、炭化剤、難燃剤、及び充填剤から選ばれる1種以上が挙げられる。発泡剤、炭化剤、難燃剤、充填剤については、前述の耐熱保護性を有する被膜と同様のものが使用できる。このような耐熱性付与粉体としては、発泡剤、炭化剤、難燃剤、及び充填剤を含む態様が好適である。
【0029】
固形小片物における耐熱性付与粉体の比率は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、200〜1000重量部であり、好ましくは250〜900重量部、より好ましくは300〜800重量部である。耐熱性付与粉体の比率の下限が上記値であることにより、固形小片物を押圧する際、押圧具を用いて、直接、固形小片物を押圧することができ、機能性シートも不要となる。耐熱性付与粉体の比率の上限が上記値であることにより、付着性、仕上がり性等を十分に確保することができる。
【0030】
固形小片物を得るには、上述の各成分を均一に混合して得られる混合物を、公知の方法によって成形すればよく、シート状に成形した後、所望の形状に加工すること(例えば、カッター等による切断等)もできる。各成分の混合時には、必要に応じて溶剤を混合したり、加熱したりすることも可能である。
【0031】
上記混合物には、各種添加剤等を混合することができる。添加剤としては、例えば、顔料、繊維、湿潤剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、増粘剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。
【0032】
成形方法としては、例えば、混合物を型枠内に流し込み、乾燥後に脱型する方法、混合物を加温塗工機によって離型紙に塗付した後に巻き取る方法、ニーダー等によって混練した混合物を押し出し成型機によってシート状に成形する方法、ニーダー等によって混練した混合物を対ロールの間に供給してシート状に成形する方法、混合物をペレット状にした後に押し出し成型機によってシート状に成形する方法、バンバリーミキサーまたはミキシングロールで混練した混合物を複数の熱ロールからなるカレンダによって圧延してシート状に成形する方法等が挙げられる。
【0033】
固形小片物の形状(正面から見たときの形状)、大きさ(正面から見たときの短手方向の長さ)、厚さ等は、補修をすべき凹部の形状、大きさ、深さ等に応じて設定すればよい。凹部に不陸等が存在する場合は、凹部よりも固形小片物を大きめに設定することが望ましい。固形小片物の形状は、不定形であってもよいが、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形、短冊状等の形状、あるいはこれらに近似する形状に整えておけば、作業効率を高めることができる。このような固形小片物の大きさは、好ましくは5〜350mm、より好ましくは10〜120mmである。固形小片物の厚さは、好ましくは0.3〜10mm、より好ましくは0.5〜6mm、さらに好ましくは0.8〜3mmである。
【0034】
本発明では、補修をすべき凹部に、固形小片物を当接し、その固形小片物を加温した状態にして、押圧具を用いて押圧する。これにより、補修をすべき凹部に、固形小片物が充填される。
【0035】
固形小片物を加温する際、その温度(固形小片物の表面温度)は100℃以下にすることが好ましく、40〜90℃にすることがより好ましく、45〜80℃にすることがさらに好ましい。固形小片物の加温は、固形小片物を凹部に当接する前に行ってもよいし、当接した後に行ってもよい。加温する手段としては、例えば、ヒーター、ドライヤー、加熱コテ、恒温器等を用いる方法が挙げられる。
【0036】
固形小片物を押圧する際、固形小片物は上記のように加温された状態であればよい。本発明では、固形小片物を加温しながら押圧することもできる。押圧具としては、例えば、コテ、ヘラ、ローラー等が挙げられる。このような押圧具の材質は、金属製、プラスチック製等が挙げられ、特に金属製が好適である。
【0037】
本発明では、押圧具が直接、固形小片物に接する状態で押圧することができる。すなわち、前述の機能性シートを使用せずに押圧することができ、付着性、仕上がり性等を確保することができる。
【0038】
凹部に固形小片物を押圧する際には、必要に応じ、2以上の固形小片物を重ねたり、並べたりすることも可能である。また、1箇所の凹部に対して、固形小片物を押圧する工程を繰り返し行うことにより、2以上の固形小片物が重なった状態にすることもできる。固形小片物を押圧する際、例えば、凹凸形状を有するローラー等によって、固形小片物の表面に凹凸模様等を付与し、周辺の被膜の外観(テクスチャ等)と馴染ませることもできる。
【0039】
このような押圧によって固形小片物を凹部に充填した後、凹部からはみ出した部分については、例えば、切断処理、研磨処理等を行うことができる。また、固形小片物の表面ないしその近傍には、熱発泡性塗料を塗付することもできる。このような工程により、補修箇所の外観(テクスチャ等)を周辺の被膜と馴染ませることも可能である。熱発泡性塗料の塗付時には、例えば、刷毛、ローラー、コテ、スプレー等を用いることができる。
【0040】
さらに、固形小片物の表面(補修箇所)ないしその近傍には、上塗材等を塗付することもできる。このような工程により、仕上がり性が高まり、美観性に優れた外観を得ることができ、耐久性等を高めることもできる。上塗材としては、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の被覆材が挙げられ、周辺の被膜の外観(色調、光沢、テクスチャ等)に応じて選定することができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。
【0042】
(実施例1)
熱可塑性樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、溶融温度64℃)100重量部、耐火性付与粉体495重量部{発泡剤(メラミン)60重量部、炭化剤(ペンタエリスリトール)60重量部、難燃剤(ポリリン酸アンモニウム)300重量部、充填剤(酸化チタン)75重量部}の混合物を120℃に加温したニーダーで混練、圧延後、室温まで放冷し、厚さ1.5mmのシート状成形体1を得た。
【0043】
試験体として、鋼板にエポキシ樹脂系防錆下塗材、アクリルスチレン樹脂系熱発泡性塗料、アクリル系エマルションペイント(白色)が塗付積層されたものを用意し、この試験体の被膜の一部を切削し、円形の凹部(直径40mm、深さ3mm)を形成した。
【0044】
上記シート状成形体1を円形(直径42mm、厚さ1.5mm)に切り出して得た固形小片物2片を、固形小片物の表面温度が65℃となるようにドライヤーで加温し、試験体の凹部に重ねて当接し、固形小片物の表面を金属製ローラーで押圧した。凹部からはみ出た固形小片物の端部は、サンドペーパーで研磨処理した。次いで、凹部及びその近傍に、アクリル系エマルションペイント(白色)を塗付した。
【0045】
以上の方法により、効率的に凹部の補修を行うことができ、補修箇所の密着性、仕上がり性も良好であった。この試験体表面をバーナーで加熱したところ、補修個所を含む被膜全体が発泡して炭化断熱層を形成し、耐熱保護性も良好であった。
【0046】
(実施例2)
熱可塑性樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、溶融温度69℃)100重量部、耐火性付与粉体495重量部{発泡剤(メラミン)60重量部、炭化剤(ペンタエリスリトール)60重量部、難燃剤(ポリリン酸アンモニウム)300重量部、充填剤(酸化チタン)75重量部}の混合物を120℃に加温したニーダーで混練、圧延後、室温まで放冷し、厚さ1.5mmのシート状成形体2を得た。
【0047】
シート状成形体1に替えて上記シート状成形体2を使用し、実施例1と同様の方法で補修を行ったところ、効率的に凹部の補修を行うことができ、補修箇所の密着性、仕上がり性も良好であった。この試験体表面をバーナーで加熱したところ、補修個所を含む被膜全体が発泡して炭化断熱層を形成し、耐熱保護性も良好であった。
【0048】
(実施例3)
熱可塑性樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、溶融温度75℃)100重量部、耐火性付与粉体495重量部{発泡剤(メラミン)60重量部、炭化剤(ペンタエリスリトール)60重量部、難燃剤(ポリリン酸アンモニウム)300重量部、充填剤(酸化チタン)75重量部}の混合物を120℃に加温したニーダーで混練、圧延後、室温まで放冷し、厚さ1.5mmのシート状成形体3を得た。
【0049】
シート状成形体1に替えて上記シート状成形体3を使用し、実施例1と同様の方法で補修を行ったところ、効率的に凹部の補修を行うことができ、補修箇所の密着性、仕上がり性も良好であった。この試験体表面をバーナーで加熱したところ、補修個所を含む被膜全体が発泡して炭化断熱層を形成し、耐熱保護性も良好であった。