【解決手段】コロイダルシリカと、リン含有無機酸および/または有機酸と、水とを含む磁気ディスク基板用研磨剤組成物である。研磨剤組成物のコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が5〜50nmの範囲にある。コロイダルシリカの動的光散乱法による体積基準の粒度分布測定において、コロイダルシリカ粒子濃度を0.25質量%に調整して粒度分布測定を行った場合、50nmより大きいコロイダルシリカの粒子の割合がコロイダルシリカ中の10体積%以下である。さらに、研磨剤組成物中のコロイダルシリカの濃度が1〜50質量%であり、研磨剤組成物のpH(25℃)が0.1〜4.0の範囲にある。
前記リン含有無機酸が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、およびトリポリリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物である請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
前記リン含有有機酸が、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、およびα−メチルホスホノコハク酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物である請求項1または2に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない範囲において、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0019】
1.研磨剤組成物
本発明の磁気ディスク基板用研磨剤組成物は、コロイダルシリカと、リン含有無機酸および/または有機酸と、水とを含む研磨剤組成物である。研磨剤組成物のコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が5〜50nmの範囲にある。コロイダルシリカの動的光散乱法による体積基準の粒度分布測定において、コロイダルシリカ粒子濃度を0.25質量%に調整して粒度分布測定を行った場合、50nmより大きいコロイダルシリカの粒子の割合がコロイダルシリカ中の10体積%以下である。さらに、研磨剤組成物中のコロイダルシリカの濃度が1〜50質量%であり、研磨剤組成物のpH(25℃)が0.1〜4.0の範囲にある。以下、詳細に説明する。
【0020】
1.1 コロイダルシリカ
本発明の研磨剤組成物に含有されるコロイダルシリカは、平均粒子径が5〜50nmである。平均粒子径が5nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。平均粒子径が50nm以下であることにより、表面粗さやスクラッチの悪化を抑制することができる。コロイダルシリカの平均粒子径は、透過型電子顕微鏡によって写真撮影した写真を解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定したもので、小粒径側からの積算粒度分布(累積体積基準)が50%となる粒径を平均粒子径(D50)としたものである。
【0021】
また、コロイダルシリカの動的光散乱法による体積基準の粒度分布測定において、コロイダルシリカ粒子濃度を0.25質量%に調整して粒度分布測定を行った場合、50nmより大きい粒子の割合がコロイダルシリカ中の10体積%以下である。より好ましくは、5体積%以下である。コロイダルシリカの動的光散乱法による体積基準の粒度分布測定において、コロイダルシリカ粒子濃度を0.25質量%に調整して粒度分布測定を行った場合、50nmより大きい粒子の割合がコロイダルシリカ中の10体積%以下であることにより、ハレーションの悪化を抑制することができる。
【0022】
動的光散乱法でコロイダルシリカ濃度が低い条件(例えば0.25質量%)で粒度分布測定を行った場合、コロイダルシリカの凝集などの影響を受けることなく、コロイダルシリカの粒度分布の特に大きめの粒子に注目した粒度分布測定結果が得られると考えられる。動的光散乱法による粒度分布測定では、粒子径の小さな微粒子ほど散乱光強度が弱くなる傾向が見られ、コロイダルシリカ濃度が低くなることで粒子径の小さな微粒子の検出がより難しくなる。その結果、上述のようにコロイダルシリカの粒度分布の特に大きめの粒子に着目した粒度分布測定結果が得られると考えられる。上記の測定条件で検出されるコロイダルシリカ粒度分布の大きめの粒子が、ハレーションの原因と考えられる基板表面のなんらかの微細な不均一性を、研磨の際に引き起こしているものと考えられる。
【0023】
対して、透過型電子顕微鏡によって写真撮影した写真から解析した粒度分布は、一つ一つの粒子の大きさから算出されるため、実際の粒子の粒度分布を表しているとは言えるものの、研磨剤組成物中の一部の粒子のみを観察することしかできない。このため、凝集粒子なども含めた、大きめの粒子に着目するような分布を得ることはできない。
【0024】
研磨剤組成物中のコロイダルシリカの濃度は、1〜50質量%である。コロイダルシリカの濃度が1質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。コロイダルシリカの濃度が50質量%以下であることにより、経済性の悪化を抑制することができる。
【0025】
コロイダルシリカは、球状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。本発明で使用されるコロイダルシリカとしては、球状、または球状に近いコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムを原料とする水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解することによって得られるアルコキシシラン法などにより製造される。
【0026】
コロイダルシリカの分散形態は、水中に微細な一次粒子が単分散している状態であるが、一般にコロイダルシリカの製造工程において珪酸に含まれる水酸基の脱水縮合反応によるコロイダルシリカ粒子形成後、陽イオンの添加による安定化が必要となる。コロイダルシリカ粒子形成後の反応系に、陽イオンをコロイダルシリカスラリー中に含有させることにより、コロイダルシリカ粒子表面のマイナス帯電の絶対値が大きくなり、電気的反発により凝集しにくくなる。その際にコロイダルシリカ粒子の安定化のために使用される陽イオン(安定化イオン)としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオンなどが挙げられる。これらの安定化イオンの中でも、ナトリウムイオンを使用したナトリウム安定型のコロイダルシリカとアンモニウムイオンを使用したアンモニウム安定型のコロイダルシリカが、本発明には好ましく使用される。
【0027】
1.2 リン含有無機酸および/または有機酸
本発明で使用されるリン含有無機酸および/または有機酸について以下に説明する。リン含有無機酸の具体的な例としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などが挙げられる。この中でもリン酸が好ましく用いられる。
【0028】
リン含有有機酸の具体的な例としては、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸などが挙げられる。この中でも1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸が好ましく用いられる。
【0029】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施形態である。リン含有無機酸を2種以上組み合わせても良いし、リン含有有機酸を2種以上組み合わせても良い。また、リン含有無機酸とリン含有有機酸を2種以上組み合わせても良い。具体的にはリン酸と1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の組み合わせが挙げられる。
【0030】
研磨剤組成物中のリン含有無機酸および/または有機酸の濃度は、0.1〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは0.2〜10質量%である。濃度が0.1質量%以上であることにより、うねりのバラツキが改善される。濃度が20質量%以下であることにより、必要以上のリン含有無機酸および/または有機酸を使用することなく、十分な研磨性能を維持することができる。研磨剤組成物中のリン含有無機酸および/または有機酸含有量は、pH値の設定に応じて適宜決められる。
【0031】
1.3 酸化剤
本発明では、研磨促進剤として酸化剤を使用することができる。使用される酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、それらの酸化剤を2種以上混合したもの、等を用いることができる。
【0032】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸およびその塩、次亜塩素酸およびその塩、などが好ましく、過酸化水素が特に好ましい。研磨剤組成物中の酸化剤含有量は、0.01〜10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜5.0質量%である。
【0033】
1.4 その他の成分
本発明においては、さらに水溶性高分子化合物、緩衝剤、防腐剤などを必要に応じて含有してもよい。この中で、水溶性高分子化合物は、生産性を低下させることなく、ハレーション低減とうねりのバラツキ低減を実現するための補助的な働きがあり、必要に応じて用いられる。
【0034】
1.4.1 水溶性高分子化合物
本発明で任意成分として用いられる水溶性高分子化合物としては、アニオン性水溶性高分子化合物、カチオン性水溶性高分子化合物、ノニオン性水溶性高分子化合物などがあるが、好ましくはアニオン性水溶性高分子化合物が用いられる。中でもカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位とアミド基を有する単量体に由来する構成単位、およびスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位などを含有する共重合体が好ましく用いられる。すなわち、カルボン酸基を有する単量体および/またはその塩と、アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体などから共重合された高分子化合物が好ましく用いられる。
【0035】
1.4.1.1 カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体およびその塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの塩などが挙げられる。
【0036】
カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位は、水溶性高分子化合物中、その少なくとも一部がカルボン酸の塩として含有されてもよい。カルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0037】
水溶性高分子化合物中、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位を、カルボン酸として含有させるには、カルボン酸基を有する単量体を重合しても良いし、カルボン酸基を有する単量体の塩を重合した後、陽イオン交換することによりカルボン酸へと変換してもよい。また、水溶性高分子化合物中、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位をカルボン酸の塩として含有させるには、カルボン酸基を有する単量体の塩を重合しても良いし、カルボン酸基を有する単量体を重合した後、塩基で中和することによりカルボン酸の塩を形成しても良い。
【0038】
水溶性高分子化合物中、カルボン酸として含有される構成単位と、カルボン酸の塩として含有される構成単位との割合を評価するには、水溶性高分子化合物のpH値を用いることができる。水溶性高分子化合物のpH値が低い場合には、カルボン酸として含有される構成単位の割合が高いと評価できる。一方、水溶性高分子化合物のpH値が高い場合には、カルボン酸の塩として含有される構成単位の割合が高いと評価できる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の水溶性高分子化合物水溶液におけるpH値(25℃)が1〜13の範囲の水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0039】
1.4.1.2 アミド基を有する単量体
アミド基を有する単量体としては、α,β−エチレン性不飽和アミドを用いることが好ましい。より具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アミドが挙げられる。
【0040】
さらに好ましくは、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミドなどが挙げられる。N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミドなどの好ましい具体例としては、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−iso−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−sec−ブチルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−iso−プロピルメタクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N−iso−ブチルメタクリルアミド、N−sec−ブチルメタクリルアミド、N−tert−ブチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0041】
なかでも、N−n−ブチルアクリルアミド、N−iso−ブチルアクリルアミド、N−sec−ブチルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N−iso−ブチルメタクリルアミド、N−sec−ブチルメタクリルアミド、N−tert−ブチルメタクリルアミドなどが特に好ましい。
【0042】
1.4.1.3 スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などが挙げられる。好ましくは、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0043】
1.4.1.4 共重合体
本発明で使用される水溶性高分子化合物は、これらの単量体成分を組み合わせて重合することにより、共重合体とすることが好ましい。共重合体の組み合わせとしては、アクリル酸および/またはその塩とN−アルキルアクリルアミドの組み合わせ、アクリル酸および/またはその塩とN−アルキルメタクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とN−アルキルアクリルアミドの組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とN−アルキルメタクリルアミドの組み合わせ、アクリル酸および/またはその塩とN−アルキルアクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせ、アクリル酸および/またはその塩とN−アルキルメタクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とN−アルキルアクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせ、メタクリル酸および/またはその塩とN−アルキルメタクリルアミドとスルホン酸基を有する単量体の組み合わせなどが好ましく用いられる。
【0044】
なかでも、N−アルキルアクリルアミドまたはN−アルキルメタクリルアミドのアルキル基が、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基からなる群より選択される少なくとも1つであるものが特に好ましく用いられる。
【0045】
水溶性高分子化合物中のカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位とアミド基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位とアミド基を有する単量体に由来する構成単位の量比として、mol比で95:5〜5:95の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、mol比で90:10〜10:90の範囲である。またスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位が共重合体中に占める割合は、0.01〜10mol%の範囲であることが好ましい。
【0046】
1.4.1.5 水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
以下に、上記水性の溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0048】
ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても又は2種類以上を併用してもよい。上述した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、生成する水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易に行えることから、過硫酸塩やアゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0049】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1〜15質量%、特に0.5〜10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下とすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0050】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0051】
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2−プロパンチオール、2−メルカプトエタノール及びチオフェノール等が挙げられる。
【0052】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60〜100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで、着色を抑制することができる。
【0053】
また、重合反応は、加圧又は減圧下で行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は2〜20時間、特に3〜10時間程度で行うことが好ましい。
【0054】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。中でもアンモニア水が、生成した水溶性高分子化合物の分散性と研磨対象基板の汚染を避ける点から好ましい。中和後のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、2〜9が好ましく、さらに好ましくは3〜8である。
【0055】
1.4.1.6 水溶性高分子化合物の重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、1,000以上、2,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは、2,000以上、1,000,000以下である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものである。
【0056】
1.4.1.7 水溶性高分子化合物の濃度
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物の濃度は、固形分換算で0.0001質量%以上、2.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.001質量%以上、1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上、0.5質量%以下であり、特に好ましくは、0.01質量%以上、0.3質量%以下である。
【0057】
2.研磨剤組成物の物性(pH)
本発明の研磨剤組成物のpH値(25℃)の範囲は、0.1〜4.0である。好ましくは、0.5〜3.0である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物のpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0058】
本発明の研磨剤組成物は、ハードディスクといった磁気記録媒体などの種々の電子部品の研磨に使用することができる。特に、アルミニウム磁気ディスク基板の研磨に好適に用いられる。さらに好適には、無電解ニッケル−リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の仕上げ研磨に用いることができる。無電解ニッケル−リンめっきは、通常、pH値(25℃)が4〜6の条件下でめっきされる。pH値(25℃)が4以下の条件下で、ニッケルが溶解傾向に向かうためめっきしにくくなる。一方、研磨においては、例えば、pH値(25℃)が4.0以下の条件下でニッケルが溶解傾向となるため、本発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨速度を高めることができる。
【0059】
3.磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物は、アルミニウム磁気ディスク基板やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特に、無電解ニッケル−リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板(以下、「アルミディスク」)の仕上げ研磨での使用に適している。
【0060】
本発明の研磨剤組成物を適用することが可能な研磨方法としては、例えば、研磨機の定盤に研磨パッドを貼り付け、研磨対象物(例えばアルミディスク)の研磨する表面または研磨パッドに研磨剤組成物を供給し、研磨する表面を研磨パッドで擦り付ける方法(ポリッシングと呼ばれている)がある。例えば、アルミディスクのおもて面と裏面を同時に研磨する場合には、上定盤および下定盤それぞれに研磨パッドを貼り付けた両面研磨機を用いる方法がある。この方法では、上定盤および下定盤に貼り付けた研磨パッドでアルミディスクを挟み込み、研磨面と研磨パッドの間に研磨剤組成物を供給し、2つの研磨パッドを同時に回転させることによって、アルミディスクのおもて面と裏面を研磨する。研磨パッドは、ウレタンタイプ、スウエードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0062】
以下の各実施例、各比較例の研磨においては、あらかじめ粗研磨された無電解ニッケル−リンめっきアルミニウム合金基板を用意して、仕上げ研磨をおこなった。仕上げ研磨した際の研磨速度と、研磨後の基板のスクラッチ、ハレーション、基板周辺部のうねりなどの評価結果を表1に示した。
【0063】
[研磨剤組成物の調製方法]
実施例1〜12、比較例1〜4で使用した研磨剤組成物は、下記の材料を下記の含有量で含んだ研磨剤組成物である。尚、全ての実施例と比較例で研磨剤組成物中のコロイダルシリカ含有量は5.6質量%となるように調製した。
【0064】
コロイダルシリカAは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が24nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が0.5体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。実施例1、2、比較例3、4で使用した。
コロイダルシリカBは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が24nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が1.5体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。実施例3で使用した。
コロイダルシリカCは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が24nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が6.0体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。実施例4で使用した。
コロイダルシリカDは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が30nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が1.5体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。実施例5、6で使用した。
コロイダルシリカEは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が30nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が3.0体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。実施例7で使用した。
コロイダルシリカFは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が30nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が6.0体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。実施例8で使用した。
コロイダルシリカGは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が24nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が0.5体積%、安定化イオンがアンモニウムである市販品である。実施例9で使用した。
コロイダルシリカHは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が24nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が0.5体積%、安定化イオンがカリウムである市販品である。実施例10で使用した。
コロイダルシリカIは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が30nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が1.5体積%、安定化イオンがアンモニウムである市販品である。実施例11で使用した。
コロイダルシリカJは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が30nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が1.5体積%、安定化イオンがカリウムである市販品である。実施例12で使用した。
コロイダルシリカKは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が24nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が11.0体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。比較例1で使用した。
コロイダルシリカLは、透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)が30nm、動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が15.0体積%、安定化イオンがナトリウムである市販品である。比較例2で使用した。
【0065】
リン酸は、研磨剤組成物のpH(25℃)が1.6となるように含有量を調整した。実施例1〜12、比較例1、2で使用した。
硫酸は、研磨剤組成物のpH(25℃)が1.6となるように含有量を調整した。比較例3で使用した。
硝酸は、研磨剤組成物のpH(25℃)が1.6となるように含有量を調整した。比較例4で使用した。
HEDP(1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸)は、研磨剤組成物中の含有量が0.2質量%となるように添加した。実施例2、6で使用した。
過酸化水素は、研磨剤組成物中の含有量が0.6質量%となるように添加した。実施例1〜12、比較例1〜4で使用した。
【0066】
[コロイダルシリカの透過型電子顕微鏡観察による平均粒子径(D50)]
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac−View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒度分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac−View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0067】
[コロイダルシリカの動的光散乱法による粒度分布、50nmより大きい粒子の割合]
動的光散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラックベル(株)製、Nanotrac WaveII)を用いて測定した。測定用のコロイダルシリカ粒子分散液サンプルは、種々薬品と混合する前のコロイダルシリカ粒子分散液を、コロイダル粒子濃度が0.25%になるように純水で希釈し、よく撹拌したものを用いて測定を行った。体積を基準とした小粒径側からの積算粒度分布において、50nmにおける累積体積頻度を求め、その結果から50nmより大きい粒子の割合を求めた。
【0068】
[研磨条件]
無電解ニッケル−リンめっきした外径95mmのアルミディスクを粗研磨したものを研磨対象として研磨を行った。
研磨機:スピードファム(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P2用パッド
定盤回転数:上定盤 −8.3min
−1
下定盤 25.0min
−1
研磨剤組成物供給量: 100ml/min
研磨時間: 300秒
加工圧力: 11kPa
各成分を混合して研磨剤組成物を調製した後、目開き0.45μmのフィルターを通して研磨機に導入し、研磨試験を実施した。
【0069】
[研磨したディスク表面の評価]
[研磨速度比]
研磨速度は、研磨後に減少したアルミディスクの質量を測定し、下記式に基づいて計算した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスクの質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスクの片面の面積(cm
2)/無電解ニッケル−リンめっき皮膜の密度(g/cm
3)/2×10
4
(ただし、上記式中、アルミディスクの片面の面積は65.9cm
2,無電解ニッケル−リンめっき皮膜の密度は8.0g/cm
3)
研磨速度比は、比較例1で上記式を用いて求めた研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。尚、比較例1の研磨速度は0.062μm/minであった。
【0070】
[研磨後の基板表面のハレーション評価方法]
ハレーションは、基板全表面欠陥検査機(株)日立ハイテクファインシステムズ社製NS2000Hを使用して測定した。
測定条件は以下の通りである。
PMT/APD Power Control Voltage
Hi−Light1 OFF
Hi−Light2 900V
Scan Pitch 3μm
Inner/Outer Radius 18.0000−47.0000mm
Positive Level 76mV
H2 White Spot Level 80.0mV
ハレーションは、上記検査条件において、基板表面に微細な欠陥として検出され、ハレーションカウントとして定量評価できる。
【0071】
[ハレーション比]
ハレーション比は、比較例1で上記方法を用いて求めたハレーションカウントを1(基準)とした場合の相対値である。尚、比較例1のハレーションカウントは15,627であった。
【0072】
[研磨後の基板周辺部のうねり平均値とバラツキ評価方法]
基板外周部のうねりの平均値とバラツキは、アメテック株式会社製3次元光学プロファイラーNew View 8300を使用して測定した。
測定条件は以下の通りである。
レンズ 10倍Mirau型
ZOOM 1.0倍
Measurement Type Surface
Measure Mode CSI
Scan Length 5μm
Camera Mode 1024×1024
Filter Band Pass
Cut Off Short 20.000μm
Long 100.000μm
測定ポイント
半径 46.15mm
角度 10°毎に36点
基板周辺部のうねりは、上記測定条件で測定した、上記36点の観測ポイントのうねりの平均値およびSTDEV(標準偏差)を求めた。
【0073】
【表1】
【0074】
[考察]
比較例1と実施例1、3、4の対比、および比較例2と実施例5、7、8の対比から、コロイダルシリカの動的光散乱法による50nmより大きい粒子の割合が10体積%以下になることによりハレーションが大幅に改善されることがわかる。
さらに実施例1、9、10の中での比較、および実施例5、11、12の中での比較から、安定化イオンがナトリウムおよびアンモニウムの場合に、ハレーション改善が顕著であることがわかる。
また、比較例3、4と実施例1、2の対比から、リン含有無機酸および/または有機酸を使用することにより、硫酸または硝酸を使用した場合よりも周辺部うねりの平均値とバラツキが顕著に改善されていることがわかる。尚、この場合、リン含有無機酸および/または有機酸を使用することにより、研磨速度が向上することもわかる。
以上のことから、本願発明の研磨剤組成物を用いることにより、研磨後のハレーションを低減でき、さらに周辺部うねりの平均値とバラツキを顕著に低減できることがわかる。