特開2019-90146(P2019-90146A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-90146(P2019-90146A)
(43)【公開日】2019年6月13日
(54)【発明の名称】網、テザー収容装置及び網の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04C 1/02 20060101AFI20190524BHJP
   B64G 1/66 20060101ALI20190524BHJP
   B21F 27/12 20060101ALI20190524BHJP
   A01K 75/00 20060101ALI20190524BHJP
   D04C 1/06 20060101ALI20190524BHJP
   H02G 3/04 20060101ALI20190524BHJP
   B64G 1/64 20060101ALN20190524BHJP
   H01B 7/24 20060101ALN20190524BHJP
【FI】
   D04C1/02
   B64G1/66 Z
   B21F27/12
   A01K75/00 C
   D04C1/06 A
   H02G3/04
   B64G1/64 A
   H01B7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-197238(P2018-197238)
(22)【出願日】2018年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-218064(P2017-218064)
(32)【優先日】2017年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】591018877
【氏名又は名称】日東製網株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】河本 聡美
(72)【発明者】
【氏名】壹岐 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝也
【テーマコード(参考)】
2B106
4E070
4L046
5G357
【Fターム(参考)】
2B106AA01
2B106ED03
2B106ED10
2B106HA03
2B106HA25
2B106HA32
4E070AC01
4E070BA02
4E070BA13
4E070FA03
4L046AA07
4L046AA21
4L046AA24
4L046AA25
4L046BA00
4L046BB00
4L046BB01
5G357DA10
5G357DB10
5G357DD17
5G357DG06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】切断などの際に伸展した状態から自律的に集束するテザーを提供すること。
【解決手段】テザー10は、張力解放時にキンクして自律的に集束する網であって、第1の単糸及びねじり剛性の高い第2の単糸から第1の子糸をZ撚りで下撚りし、複数の前記第1の子糸をS撚りで上撚りした第1の綱糸と、前記第1の単糸及び前記第2の単糸から第2の子糸をS撚りで下撚りし、複数の前記2の子糸をS撚りで上撚りした第2の綱糸とを含む複数の網糸を網状に構成してなり、テザー10は、伸展時には数km〜数十kmの長さで、切断などで張力が解放したときにキンクして自律的に集束して数十m〜数百m程度まで縮めることができる網。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
張力解放時にキンクして自律的に変形する網。
【請求項2】
第1の単糸及びねじり剛性の高い第2の単糸から第1の子糸をZ撚りで下撚りし、複数の前記第1の子糸をS撚りで上撚りした第1の綱糸と、前記第1の単糸及び前記第2の単糸から第2の子糸をS撚りで下撚りし、複数の前記2の子糸をS撚りで上撚りした第2の綱糸とを含む複数の網糸を網状に構成してなる請求項1に記載の網。
【請求項3】
前記第1の綱糸と前記第2の綱糸とが交互に隣接するように、前記複数の網糸を無結節となるように千鳥型に交差してなる請求項2に記載の網。
【請求項4】
前記第2の単糸は、ピアノ線、タングステン線又は高強度の繊維からなる請求項2又は3に記載の網。
【請求項5】
複数の単糸から第1の子糸を下撚りし、複数の前記第1の子糸から網糸を上撚りし、複数の前記網糸から網状に構成してなり、
張力解放時に自律的に変形するように前記下撚りの撚り密度と前記上撚りの撚り密度とのバランスが調整された請求項1、2、3又は4に記載の網。
【請求項6】
宇宙用テザーとして用いられる請求項1、2、3、4又は5に記載の網。
【請求項7】
導電性を有する請求項6に記載の網。
【請求項8】
漁網として用いられる請求項1、2、3、4又は5に記載の網。
【請求項9】
電線にとして用いられ、又は電線に補助部材として添えられる請求項1、2、3、4又は5に記載の網。
【請求項10】
張力解放時に撚りの弱いテザーを内抜きスプール方式で巻き取って収容し、一側よりテザーの一端が延び、他側よりテザーの他端が延び、前記一側よりテザーを外部に伸展できる第1の巻き取り部と、
前記第1の巻き取り部に収容されたテザーの他端と連続し、張力解放時に撚りの強いテザーを外抜きスプール方式で巻き取って収容する第2の巻き取り部と
を具備するテザー収容装置。
【請求項11】
前記撚りの弱いテザーは、張力解放時に自律的に集束しない乃至ほぼ集束しないテザーであり、前記撚りの強いテザーは、張力解放時に自律的に集束するテザーである請求項8に記載のテザー収容装置。
【請求項12】
第1の単糸及びねじり剛性の高い第2の単糸から第1の子糸をZ撚りで下撚りし、
複数の前記第1の子糸から第1の網糸をS撚りで上撚りし、
前記第1の単糸及び前記第2の単糸から第2の子糸をS撚りで下撚りし、
複数の前記2の子糸から第2の網糸をS撚りで上撚りし、
前記第1の綱糸と前記第2の綱糸とを含む複数の網糸を無結節となるように網状に構成する工程を有し、
張力解放時に所望の状態に自律的に変形するように、少なくとも前記第2の単糸の太さ、又は前記第1又は第2の網糸の上撚りの密度と前記第1の子糸の下撚りの密度とのバランスを調整する
網の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば宇宙空間のデブリを除去するために用いられる宇宙用テザーなどとして用いられる網、テザー収容装置及び網の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性テザーや運動量変換用テザーなどが提案され、数百m〜数十kmの長さのテザーが宇宙空間で実証されている。
【0003】
テザーは、巻き取られた状態で宇宙空間に打ち上げられ、テザーの一端に取り付けられたエンドマスをバネなどで秒速数m/sで放出することなどで伸展される(非特許文献1参照)。
【0004】
本発明者らは、軽量、省占有面積、かつ、高強度の宇宙用テザーを提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−131124号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】http://www.kenkai.jaxa.jp/research/debris/deb-edt.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
テザーが切断したり、テザーを運用していたテザー端の宇宙機が故障して、テザー衛星の推進力や衝突回避能力が失われた場合などに、テザーが伸展した状態で長期間宇宙空間の軌道上を周回することになり、運用衛星などに衝突回避の負担を与えたり、衝突のリスクを与えていた。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、テザーが長期間宇宙空間の軌道上を周回することになっても、運用衛星などに衝突回避の負担を与えることがなく、また衝突のリスクを与えることがなくなる技術を提供することにある。
本発明の別の目的は、自動的に網目が広がる漁網やそれ自体の切断時に邪魔にならない電線などに用いることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る網は、張力解放時にキンクして自律的に変形する。
本発明では、典型的には、宇宙空間で張力がかかって伸展した状態のテザーとしての網が切断すると張力が解放され、網は伸展した状態から自律的に例えば集束し、テザーとしての網が長期間宇宙空間の軌道上を周回することになっても、運用衛星などに衝突回避の負担を与えることが少なく、また衝突のリスクを与えることが少なくなる。
【0010】
本発明の一形態に係る網は、第1の単糸及び前記第1の単糸よりねじり剛性の高い第2の単糸から第1の子糸をZ撚りで下撚りし、複数の前記第1の子糸をS撚りで上撚りした第1の綱糸と、前記第1の単糸及び前記第2の単糸から第2の子糸をS撚りで下撚りし、複数の前記2の子糸をS撚りで上撚りした第2の綱糸とを含む複数の網糸を網状に構成してなる。
【0011】
本発明の一形態に係る網は、前記第1の綱糸と前記第2の綱糸とが交互に隣接するように、前記複数の網糸を無結節となるように千鳥型に交差して構成される。
本発明の一形態に係る網は、前記第2の単糸は、ピアノ線、タングステン線又は高強度の繊維からなる。
本発明の一形態に係る網は、これらの材料の第2の子糸を含むことで、張力解放時に伸展した状態から自律的に集束することを可能にし、その集束する力を強くでき、しかも網自体の強度を強くすることができる。
【0012】
本発明の一形態に係る網は、複数の単糸から第1の子糸を下撚りし、複数の前記第1の子糸から網糸を上撚りし、複数の前記網糸から網状に構成してなり、張力解放時に自律的に集束するように前記下撚りの撚り密度と前記上撚りの撚り密度とのバランスが調整されている。これにより、特別な材料を用いることなく、張力解放時に伸展した状態から自律的に集束する網を構成できる。
【0013】
本発明の一形態に係る網は、宇宙用テザーとして用いられる。
【0014】
本発明の一形態に係る網である宇宙用テザーは、導電性を有する。これにより、テザーに電流が流れ、誘導起電力が発生することが可能となり、導電性テザーシステムとして機能する。導電性を有する部位は被覆されず露出しているベア(被覆なし)テザーのこともある。これにより、テザー自体が周囲の電子を捕獲できる。また、テザーを網状に構成することでより多くの電子を捕獲することが可能となり、テザーとしての性能を高めることができる。
【0015】
本発明の一形態に係る網は、漁網として用いられる。
【0016】
本発明の一形態に係る網は、電線にとして用いられ、又は電線に補助部材として添えられる。
【0017】
本発明の一形態に係るテザー収容装置は、張力解放時に撚りの弱い網を内抜きスプール方式で巻き取って収容し、一側より網の一端が延び、他側より網の他端が延び、前記一側より網を外部に伸展できる第1の巻き取り部と、前記第1の巻き取り部に収容された網の他端と連続し、張力解放時に撚りの強い網を外抜きスプール方式で巻き取って収容する第2の巻き取り部とを具備する。
本発明の一形態に係るテザー収容装置は、前記撚りの弱い網は、張力解放時に自律的に集束しない乃至ほぼ集束しない網であり、前記撚りの強い網は、張力解放時に自律的に集束する網である。
これにより、このテザー収容装置を宇宙で使用した場合、テザーをスムーズに伸展することができる。
【0018】
本発明の一形態に係る網の製造方法は、第1の単糸及びねじり剛性の高い第2の単糸から第1の子糸をZ撚りで下撚りし、複数の前記第1の子糸から第1の網糸をS撚りで上撚りし、前記第1の単糸及び前記第2の単糸から第2の子糸をS撚りで下撚りし、複数の前記2の子糸から第2の網糸をS撚りで上撚りし、前記第1の綱糸と前記第2の綱糸とを含む複数の網糸を無結節となるように網状に構成する工程を有し、張力解放時に所望の状態に自律的に変形するように、少なくとも前記第2の単糸の太さ、又は前記第1又は第2の網糸の上撚りの密度と前記第1の子糸の下撚りの密度とのバランスを調整する。
これにより、張力解放時に所望の状態に自律的に変形する網の製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、テザーが長期間宇宙空間の軌道上を周回することになっても、運用衛星などに衝突回避の負担を与えることがなく、また衝突のリスクを与えることがなくなる。
【0020】
本発明により、自動的に網目が広がる漁網やそれ自体の切断時に邪魔にならない電線などを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態に係るデブリ除去システムの構成を示す図である。
図2A図1に示したテザーを構成する単糸を説明するための図である。
図2B図1に示したテザーを構成する子糸を説明するための図である。
図2C図1に示したテザーを構成する網糸を説明するための図である。
図3図2Cに示したテザーの一部拡大図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るテザー収容装置の構成を示す図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係るテザーの一部拡大図である。
図6図5に示したテザーを構成する網糸を説明するための図である。
図7】線のキンクを示す図である。
図8】S撚り及びZ撚りを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
<デブリ除去システム>
図1は、本発明の一実施形態に係るデブリ除去システムの構成を示す図である。
【0023】
デブリ除去システム1は、網としてのテザー10と、テザー10を収容するテザー収容装置を搭載する宇宙機20と、テザー10の一端に取り付けられたエンドマス30とを有する。エンドマス30側には、電子放出源が設けられている。電子放出源については、例えば非特許文献1に記載されている。図1では、宇宙機20がデブリ2に取り付けられた状態を示した。
【0024】
テザー10は、典型的には、伸展時には数km〜数十kmの長さで、切断などで張力が解放したときにキンクして自律的に集束して数十m〜数百m程度まで縮めることができる。テザー10のうち、一端から100m程度の範囲10aについては撚りが弱く、張力解放時に自律的に集束しない乃至ほぼ集束しない部分であり、残りの範囲10bについては撚りが強く、張力解放時に自律的に集束する部分である。なお、範囲10aの部分と範囲10bの部分とは連続するものであるが、製造時から一体物であってもよいし、これらを接続して一体化してもよい。
【0025】
<第1の実施形態に係るテザー>
〈テザーの構成〉
図2A〜Eは、テザー10の構成を説明するための図である。
・単糸
図2Aに示すように、テザー10は18本の単糸11a、11bからなり、そのうち12本の単糸11aはアルミニウムワイヤからなり、残り6本の単糸11bはステンレス繊維からなる。アルミニウムワイヤの単糸11aは例えば直径0.15mm程度であり、ステンレス繊維の単糸11bは例えば直径0.1mm程度である。テザー10はアルミニウムワイヤの単糸11aを含むことで良好な導電性を有する。また少なくともアルミニウムワイヤの単糸11aは被覆がされずに露出している。更に、テザー10の両端の例えば10m程度の部分は、補強部として12本のアルミニウムワイヤの単糸11a及び18本のステンレス繊維の単糸11bから構成されている。なお、上記の本数、材料、太さなどは一例にすぎず、本発明では様々な態様が考えられる。
・子糸
図2Bに示すように、2本のアルミニウムワイヤの単糸11aと1本のステンレス繊維の単糸11bを1組としてそれぞれ下撚りされ、6本の子糸11が構成される。なお、上記の補強部では、各子糸11は、2本のアルミニウムワイヤの単糸11aと3本のステンレス繊維の単糸11bとから構成される。
・網糸/テザー
図2Cに示すように、2本の子糸11を1組としてそれぞれ上撚され、3本の網糸12が構成されると共に、3本の網糸12が網状に構成するように結ばれることで、1本のテザー10が構成される。すなわち、テザー10は、伸展時には長さが数km〜数十kmで、幅が数mmの網状の線条体である。なお、図2B、Cにおいて、一部はテザー10の構成を分かりやすく説明するために撚られていないが、実際にはこの部分も撚られて、更に網状に構成されている。
【0026】
図3は、テザー10の拡大図である。テザー10は、3本の網糸12がそれぞれ隣接する網糸12と所定の間隔或いはランダム間隔で結ぶことで網状を構成している。これらの結ばれた部分を交差部14と呼ぶ。各交差部14は、典型的には、網の構造となるように、千鳥型で交差している。網の構造とすることで、軽量化し、且つ、収納時に嵩が張らないようにすることができる。
・張力解放時の集束
テザー10は、図2Bに示した単糸11a、11bから子糸11を下撚りする際の撚り密度と、図2Cに示した子糸11から網糸12を上撚りする際の撚り密度とのバランスを調整することで、張力解放時に自律的に集束するように構成できる。また、テザー10は、テザー10の撚りを弱くすることで、そのような集束しない或いはほぼ集束しないように構成できる。更に、テザー10は、下撚りの撚り密度と上撚りの撚り密度とのバランスを調整することで、張力解放時に集束しない或いはほぼ集束しないように構成できる。
【0027】
この実施形態においては、テザー10の一端から100m程度の範囲10aは、テザー10の撚りを弱くして、張力解放時に集束しない或いはほぼ集束しないように構成されている。残りの範囲10bは、張力解放時に集束するように、下撚りの撚り密度と上撚りの撚り密度とのバランスが調整されている。
【0028】
〈テザー収容装置〉
図4は、本発明の一実施形態に係るテザー収容装置の構成を示す図である。
【0029】
テザー収容装置40は、典型的には図1に示したテザー10を収容するものであり、筐体41内に2つの巻き取り部42、43を有する。
【0030】
第1の巻き取り部42は、テザー10のうちその一端から100m程度の範囲10aの部分を巻き取り収容する。第2の巻き取り部43は、テザー10のうち残りの範囲10bの部分を巻き取り収容する。
【0031】
第1の巻き取り部42は、テザー10を内抜きスプール方式で巻き取って収容し、一側42aよりテザー10の一端が延び、他側42bよりテザー10の他端が延び、一側42aよりテザー10を外部に伸展できる。テザー10の一端には、エンドマス30が取り付けられている。内抜きスプール方式は、典型的には、筐体41に固定され且つ回転しない固定型スプールリール42cにテザー10を巻き取って収納し、リール42cが回転せずにテザー10をリール42cの軸方向に且つ内側から伸展する。すなわち、テザー10は、リール42cの外周から外側方向に向けて抜けつつ、リール42cの軸方向に抜けていくことで伸展される。
【0032】
第2の巻き取り部43は、第1の巻き取り部42に収容されたテザー10の他端と連続し、テザー10を外抜きスプール方式で巻き取って収容する。外抜きスプール方式は、典型的には、筐体41に固定され且つ回転しない固定型スプールリール43cにテザー10を巻き取って収納し、リール43cが回転せずにテザー10をリール43cの軸方向に且つ外側から伸展する。すなわち、テザー10は、リール43cに巻かれたテザー10の外周から内側方向に向けて抜けつつ、リール43cの軸方向に抜けていくことで伸展される。
【0033】
内抜きスプール方式は、外抜きスプール方式と比べて、テザー10の伸展の際の摩擦抵抗(伸展抵抗)が小さい。
【0034】
なお、この例では、第1及び第2の巻き取り部42、43が直列に配置されているが、並列に配置してもよい。また、第1及び第2の巻き取り部42、43はそれぞれ2組以上有してもよい。
【0035】
このテザー収容装置40は宇宙機20に搭載されている。
【0036】
宇宙機20がデブリに固定されると、宇宙機20に搭載されたエンドマス30を下方(地球側)に向けてバネ等の力により秒速数数十cm〜数m程度の速度で放出する。テザー10はテザー収容装置40から抜き出されて下方に向けて伸展する。
【0037】
テザー収容装置40では、テザー10を伸展する際に、最初は第1の巻き取り部42に巻き取られたテザー10が抜き出される。
【0038】
第1の巻き取り部42では、伸展抵抗の小さい内抜きスプール方式によるリール42cから撚りの弱いテザー10が伸展される。これにより、高速にかつ過大な張力をかけずにテザー10を伸展させることができる。
【0039】
その後、伸展の距離がある程度、例えば100m程度伸びると、重力傾斜が大きくなる。そうなると、第2の巻き取り部43に巻き取られたテザー10が抜き出されて、テザー10が伸展される。
【0040】
第2の巻き取り部43では、外抜きスプール方式によるリール43cから伸展抵抗の大きいことから生じるブレーキをかけながら撚りの強いテザー10が伸展される。これにより、過度に高速になったり過大な張力をかけずにテザー10を伸展することができる。
【0041】
従って、この実施形態に係るテザー収容装置40により、テザー10をスムーズに伸展することができる。
【0042】
なお、このテザー収容装置40にテザー10を収容する際に、張力解放時にキンクして自律的に集束するようにテザー10を捻ってもよい。
【0043】
〈作用・効果〉
このようにして、テザー10は、宇宙空間でデブリとエンドマス30との間で張力がかかって伸展した状態となり、電子放出源から電子を放出することでテザー10に電流が流れ、ローレンツ力がテザー10にかかり、デブリはデブリ除去システム1と共に下降し、やがて大気圏に突入し、消失する。
【0044】
このように大気圏に突入し、消失する前に、テザー10が何らかの原因で切断したり、宇宙機20が故障した場合には一定時間後に自動的にテザーが外れることにより、重力傾斜が失われ、テザー10の張力が解放されると、テザー10は伸展した状態から自律的に集束してまとまる。
【0045】
このようにテザー10が集束してまとまることで、数km〜数十kmという長さのテザー10が宇宙空間に残らずに、運用衛星に与える負担を少なくすることができる。
【0046】
すなわち、テザー10が長期間宇宙空間の軌道上を周回することになっても、その長さが極めて短くなり、運用衛星などに衝突回避の負担を与えることが少なく、また衝突のリスクを与えることが少なくなる。
〈その他〉
本発明は、上記の実施形態には限定されず、その技術思想の範囲内で実施することが可能であり、その実施の範囲も本発明の範囲に属するものである。
【0047】
例えば、本発明に係るテザーでは、複数の網糸のうち少なくとも1つは、少なくとも1つの単糸が張力解放時に自律的に集束する材料からなるものであってもよい。例えば、上記実施形態では、テザー10を構成する子糸11がアルミニウムワイヤの単糸11aとステンレス繊維の単糸11bからなるものであったが、これに張力解放時に自律的に集束する材料からなる単糸を全体にわたり或いは一部の領域に追加すればよい。張力解放時に自律的に集束する材料としては、モノフィラメント繊維に代表される高強度の繊維やピアノ線など、高強度乃至ねじり剛性が高い材料を用いることが好ましい。ただし、本発明はこのような材料に限定されず、タングステン線など他の材料を用いてもよい。これらの材料を用いることで、張力解放時に伸展した状態から自律的に集束することを可能にしつつテザー自体の強度を強くすることができる。本発明では、テザー製作時の撚りのバランスを変えたり、上記の高強度の繊維などを一部に入れるなどで、テザーに弱い撚りやくせ等をつけておくことにより、テザーが切断したりして重力傾斜が失われた場合に、テザーが集束してまとまることにより、数km〜数十kmという長さのテザーが宇宙空間に残らずに、運用衛星に与える負担を小さくすることができる。
【0048】
上記の実施形態では、テザーがアルミニウムワイヤやステンレス繊維であったが、他の材料を用いてもよい。例えば、ステンレス繊維に代えて導電性アラミド繊維を用いることで、強度及び導電率を維持しつつ、軽量化することができる。
【0049】
また、本発明に係るテザーの表面に例えばMoS導電性膜を焼成し、真空凝着を防止しつつ伸展抵抗を低減することができる。
【0050】
更に、本発明に係るテザーは、導電性を有していなくてもデブリ除去等に用いることが可能である。
【0051】
また、本発明に係るテザーは、宇宙空間におけるデブリ除去用以外の様々な用途に用いることができる。
【0052】
更に、本発明に係るテザー収容装置は、本発明に係るテザー以外のテザーを収容してもよい。
【0053】
<第2の実施形態に係るテザー>
図5は、第2の実施形態に係るテザー50の構成を説明するための図である。
図5に示すように、網としてのテザー50は、第1〜第7の網糸51〜57を有し、第1〜第7の網糸51〜57を無結節となるように千鳥型に(図3参照)例えば30cm程度の間隔で交差して網状に構成される。無結節網とすることで、結び目がなくかさばらず、また結び目における強度低下がなくなる。また、千鳥型とすることで、網目がずれなくなる。ただし、本発明では、貫通型を採用しても勿論構わない。
第1〜第7の網糸51〜57は、それぞれ、図6に示すように、2本の子糸61を上撚りしてなる。
第1〜第7の網糸51〜57のうち第1〜第6の網糸51〜56の子糸61は、第1の単糸としての4本のアルミニウム及び1本の導電性アラミド繊維71及び第2の単糸としての1本のピアノ線72を下撚りしてなる。アルミニウム71の太さは、例えばΦ0.15mmであり、ピアノ線72の太さは、例えばΦ0.05mmである。また、第2の単糸としてのピアノ線72は第1の単糸としてのアルミニウム線71よりねじり剛性が高い。ねじり剛性が高い材料を混在させて撚ることで、図7に示すように、子糸61自体が符号61aに示す如くキンクしようとし、自律的な集束を実現することができる。
【0054】
なお、本発明では、アルミニウム71及びピアノ線72の太さは、この例に限定されない。また、子糸の本数もこの例に限定されない。
【0055】
第7の網糸57の子糸(図示を省略)は、4本のアルミニウム及び導電性アラミド(図示を省略)を下撚りしてなる。
第1、第3及び第5の網糸51、53、55は、アルミニウム71及びピアノ線72から子糸61をZ撚りで下撚りし、2本の子糸61をS撚りで上撚りしてなる。
第2、第4及び第6の網糸52、54、56は、アルミニウム71及びピアノ線72から子糸61をS撚りで下撚りし、子糸61をS撚りで上撚りしてなる。
S撚りとは、図8(A)に示すように、糸81の撚る方向を右に撚ることであり、Z撚りとは、図8(B)に示すように、糸82の撚る方向を左に撚ることである。
本実施形態に係るテザー50では、上記の如くS撚りとZ撚りを混在させることで、網糸間のキンクのバランスが崩れ、自律的な集束をより強く引き起こすことができる。
【0056】
第1の実施形態に係るテザー10は幅が数mmの網状の線条体、つまり網といえるが、紐に近い形態であったが、第2の実施形態に係るテザー50は、幅が10cm〜100cm、典型的には30cm程度の網の形態を有する。テザー50は、アルミニウム71及びピアノ線72からなり、導電性を有し、かつ、網の形態を有し面積を大きくすることで、テザー50自体が周囲の電子をより多く捕獲でき、テザーとしての性能を高めることができる。また、テザー50は、網の形態を有し、ある程度の幅を有することで、部分的に切れた場合でも、切断によって切り離れる確率を低くすることができる。
なお、第1〜第6の網糸51〜56の子糸61は、ピアノ線72を含むものであったが、ピアノ線に代えてタングステン線や高強度の繊維を用いてものよい。
第1〜第6の網糸51〜56の子糸61は、アルミニウム線71を含むものであったが、他の材質であってもよい。
アルミニウム線71やピアノ線72の表面に、銅等のより電気抵抗の低い材料のメッキを施してもよい。
【0057】
<応用例>
上記の実施形態に係るテザーは、張力解放時にキンクして自律的に集束するものであったが、本発明に係る網は、張力解放時にキンクして自律的に変形するものであればよい。例えば、本発明に係る網は、張力解放時にキンクして自律的にコイル状にまとまったり、張力解放時にキンクして自律的に網目が開いたり、或いは張力解放時にキンクして自律的に網目がひっくり返るものであってもよい。このような変形は、単糸の材質や太さ(ピアノ線)や撚り方(上撚りや下撚りのバランス(密度や撚り強さ)、撚り方向(S撚り、Z撚り)等)を適宜選択することで実現することができる。
【0058】
上記の実施形態では、宇宙用テザーを例にして説明したが、本発明に係る網は、宇宙用テザー以外の用途にも用いることができる。例えば、張力解放時にキンクして自律的に網目が開くように構成することで、漁網として用いることができる。また、張力解放時にキンクして自律的に集束する網を電線又は電線に補助部材として添えられる部材として用いることで、電線が切断したときに邪魔にならないようにすることができる。
【符号の説明】
【0059】
10、50 :テザー
11 :子糸
11a :単糸
11b :単糸
12 :網糸
40 :テザー収容装置
42 :第1の巻き取り部
42a :一側
42b :他側
43 :第2の巻き取り部
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8