【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成29年7月2日に亀田総合病院(千葉県鴨川市東町975番地2)で開催された「岡山大学麻酔集中治療セミナー in 鴨川2017」にて公開 平成29年8月18日・19日に札幌コンベンションセンター(北海道札幌市白石区東札幌6条1丁目1−1)にて開催された「第49回日本医学教育学会大会 企業展示会」において展示 平成29年8月25日・26日にベネッセハウス(香川県香川郡直島町琴弾地)で開催された「岡山大学麻酔集中治療セミナー in 直島2017」にて公開
【解決手段】医療シミュレータは、少なくとも鼻又は口から行われる医療手技の訓練を可能とし、人体の少なくとも頭部から頸部にかけての形状の基礎となる骨格ベース部と、骨格ベース部に対して着脱可能であって、鼻腔、口腔、咽頭及び喉頭を含む中空の体内器官を模した形状を持ち、柔軟性を有する体内造形部20とを備えており、当該体内造形部20は、喉頭蓋を模した形状を持ち少なくとも周囲の部位よりも硬く成形されている模擬喉頭蓋部24aを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下に挙げる実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る医療シミュレータの外観を示す図である。
本実施形態に係る医療シミュレータ1は、人体模型2、その人体模型2を載置する基台7などを有し、経鼻及び経口気管挿管、経鼻及び経口内視鏡検査、喀痰吸引などの挿管に関する手技の訓練を可能とする。即ち、ユーザ(以降、被訓練者と表記する場合もある)は、人型モデルである人体模型2を用いることで、そのような医療手技の訓練を受けることができる。但し、医療シミュレータ1により訓練可能な医療手技は、このような挿管に関する手技に限定されない。
【0013】
医療シミュレータ1に関する以降の説明において、各構成要素の相対的な位置関係を特定するために、人体の解剖学などで利用される方向を用いて、便宜的に上下方向、前後方向、左右方向、正面、背面などを設定している。具体的には、前額面と直交する方向を「前後方向」とし、矢状面と直交する方向を「左右方向」とし、横断面(水平面)と直交する方向を「上下方向」とし、人体の腹側を前又は正面、背側を後ろ又は背面、左手側を左、右手側を右、頭側を上、足側を下と表記する。即ち、
図1の紙面における上下方向は、前後方向で示され、当該紙面における左右方向は、上下方向で示され、当該紙面における前後方向は、左右方向で示される。
【0014】
また、左右方向を軸方向とする回動又は揺動を「上下方向」の回動又は揺動と表記し、前後方向を軸方向とする回動又は揺動を「左右方向」の回動又は揺動と表記し、上下方向を軸とする回動又は揺動を「前後方向」の回動又は揺動と表記する。
本明細書で表記する方向は、重力方向の上下とは一致しない場合もあるし、医療シミュレータ1の使用態様を限定するものでもない。
また、人体の表面のうち外界に直接触れている表面を「体外表面」と表記し、口腔から消化器官に繋がる飲食物通路及び鼻腔から肺に繋がる気道の表面を「体内表面」と表記する場合がある。更に、「体外表面」又は「体内表面」から外側とは反対方向の側を「内側」又は「内部」と表記する場合がある。
【0015】
人体模型2の体外表面は、頭部から頸部(肩及び胸の一部も含む)にかけての人体外形を模した皮膚マスク3に覆われており、頭部にはウィッグ5が装着されている。
皮膚マスク3は、シリコーンゴム等の柔軟性を有する素材により形成されている。
本明細書において「柔軟性」とは、折り曲げたとしても破断、損傷などを生じ難い特性を意味し、伸縮性及び弾性のいずれか一方又は両方の特性を含んでいてもよい。
本実施形態では、皮膚マスク3は、人体口裂に対応する開口部を有すると共に、眉毛、まつ毛、鼻、耳、唇などを模した形状や色が施された一枚のシートで形成されている。皮膚マスク3の少なくとも開口部周辺は、伸縮性を有する素材で形成されていることが好ましい。これにより、人体模型2の口部を手動で開く際の感覚をリアルに再現することができる。なお、本実施形態では、人体模型2の胸部には皮膚マスク3は設けられておらず、模擬肺部13が露出している。但し、皮膚マスク3の材質や形状、サイズは、
図1に示されるものに限定されない。
【0016】
皮膚マスク3及びウィッグ5は、人体模型2に対して着脱可能に形成されている。具体的には、皮膚マスク3は、左右両側端部に線ファスナを有しており、この線ファスナにより人体模型2の背中側で左右両側部が連結される。また、皮膚マスク3には、下顎に相当する部位の裏側に点ファスナが設けられており、その点ファスナにより後述する下顎骨部62と接合可能とされている。
基台7は、人体模型2を載置する。
図1の例では、人体模型2は、仰向け姿勢で基台7上に載置されているが、訓練目的となる医療手技に応じて、横向き姿勢などに切り替え可能な構造とされてもよい。
【0017】
図2は、本実施形態における人体模型2の内部構造を示す図であり、人体模型2の正面側から見た図である。
人体模型2は、皮膚マスク3及びウィッグ5の内側には、
図2に示されるような内部構造を有する。人体模型2の内部構造は、体内器官構造や骨格ベース部などにより構成される。
【0018】
骨格ベース部は、人体模型2の形状の基礎となる骨組みを形成する構成要素群であり、金属やプラスチックといった被訓練者による操作に耐え得る強度及び硬度を有する材質で形成される。
図2には、骨格ベース部として、模擬頭蓋骨9、下顎骨部62及び胸カバー11が示されている。模擬頭蓋骨9、下顎骨部62及び胸カバー11は、人体模型2における頭部、下顎及び胸周辺の形状を形作るべく設けられた形状保持構造である。
体内器官構造は、口腔、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、食道、気管支、胃などの中空の体内器官を模した形状を有する構成要素群である。
図2には、体内器官構造として、体内造形部20、模擬気管支部12、模擬肺部13、及び模擬胃部15が示されている。
【0019】
模擬気管支部12は、体内造形部20における少なくとも気管を形成する部位(気管形成部25)よりも硬くかつ透明な材質を用いて成形された管状体であり、骨格ベース部に固定されている(
図8参照)。模擬気管支部12は、上から下にかけて一つの管から二つの管に分岐した形状を有し、その上端には開口12aを有している(
図8参照)。そして、その開口12aのある上端部(開口端部)が体内造形部20の気管形成部25の端部の開口25aに嵌合される。
【0020】
このようにして、柔軟性を有する体内造形部20の気管形成部25の端部をより硬い材質で成形された模擬気管支部12に連結させることで、体内造形部20の一端部を着脱容易に適切に固定することができる。また、模擬気管支部12の上端部が嵌合された体内造形部20の端部を取り外し容易な固定バンドで締結することで、両者の連結をより強固にすることができる。
被訓練者又は監視者は、模擬気管支部12が透明な材質で成形されているため、模擬気管支部12内への挿管の様子を外部から視認し、片肺挿管や食道挿管になっていないかを容易に確認することができる。
【0021】
模擬気管支部12における二つの下端部はそれぞれ模擬肺部13に連結されている。模擬肺部13は、二つの袋体からなり、模擬気管支部12側から送り込まれる気体で膨張可能に形成されている。
【0022】
模擬胃部15もまた袋体であり、胃連結チューブを介して体内造形部20における食道を形成する部位(食道形成部26)の端部と連結している。胃連結チューブの上端部14は、体内造形部20の食道形成部26よりも硬い材質を用いて成形されており開口14aを有する(
図8参照)。胃連結チューブの上端部14は、体内造形部20の食道形成部26の端部の開口26aに嵌合される。加えて、胃連結チューブの上端部14が嵌合された体内造形部20の端部を取り外し容易な固定バンドで締結することで、両者の連結をより強固にすることができる。
【0023】
以下、体内造形部20について
図3、
図4、
図5、及び
図6を用いて詳述する。
図3は、骨格ベース部と体内造形部20との分解図であり、
図4は、体内造形部20と鼻口支持部40との分解図であり、
図5は、体内造形部20の断面模式図であり、
図6は、体内造形部20の模擬喉頭蓋24をまくり出した状態を示す図である。
【0024】
体内造形部20は、各図に示されるとおり、鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、気管、及び食道を含む中空の体内器官を模した形状を持ちつつ柔軟性材料を用いて一体成形されている。体内造形部20における各体内器官を模擬的に形成する各部位は、鼻腔形成部21、口腔形成部22、咽頭形成部23、喉頭形成部24、気管形成部25、及び食道形成部26と表記される。
ここでの「一体成形」とは、繋ぎ目なく一体的に成形されることを意味する。このため、シート状の部材の端部を繋ぎ合わせて一つの管状体を成形することや、別体成形された部材を接着剤等により相互に繋ぎ合わせて一つの物体を成形することは、この「一体成形」には含まれない。
【0025】
このような体内造形部20の成形手法は限定されない。例えば、コンピュータ断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像法(MRI)などを用いてスキャンニングされた体内器官の三次元情報を入手し、その三次元情報に基づいて製作された型を用いて、体内造形部20が成形されてもよいし、三次元プリンタを用いて成形されてもよい。
体内造形部20を形成する柔軟性材料は、シリコーンゴム等の柔軟性を有する材料であれば、特に制限されない。体内造形部20は、模擬対象となる体内器官と同様に、引っ張り力の印加に応じて形状がその方向に伸び、引っ張り力の消失により形状がおおよそ元に戻る伸縮性及び弾性を有することが好ましい。
【0026】
このように体内造形部20を柔軟性材料を用いて一体成形することで、繋ぎ目をなくし、体内造形部20で再現する中空の体内器官を実物により近付けることができ、ひいては、リアルな医療シミュレーションが可能となる。
【0027】
体内造形部20は、喉頭蓋を模した形状を持つ模擬喉頭蓋24aを有している(
図5及び
図6参照)。具体的には、模擬喉頭蓋24aは、
図5に示されるように、模擬舌部22aの舌根部から喉頭寄りの体内表面から鋭角に上方に突出した舌状体として形成されており、模擬喉頭蓋24aの口腔側の模擬舌部22aの舌根部との間に喉頭蓋谷に相当する箇所が形成されている。なお、模擬喉頭蓋24aは、体内造形部20の喉頭形成部24の一部であるということもできる。
模擬喉頭蓋24aは、全体的に、体内造形部20の少なくとも周囲の部位よりも硬く成形されていることが好ましい。ここでの「周囲の部位」とは、模擬喉頭蓋24aが突設されている根元部位を含む、体内造形部20における喉頭形成部24の模擬喉頭蓋24a以外の部位や咽頭形成部23などである。
【0028】
当該周囲の部位と同様の柔軟性素材でそれより硬い(又はヤング率の大きい)部材を包むようにして成形することで、模擬喉頭蓋24aを全体的に当該周囲の部位よりも硬くしてもよいが、より好ましくは、模擬喉頭蓋24aは、当該周囲の部位よりも硬い(又はヤング率の大きい)柔軟性材料で成形されることである。これにより硬い部材を内包した場合に比べて、製造コストを低減できると共に、耐久性に優れかつ動きをよりリアルに再現することができる。
本実施形態では、模擬喉頭蓋24aと当該周囲の部位とは硬さの異なる柔軟性材料で当該周囲の部位と一体成形されている。まず、型枠の模擬喉頭蓋24aに対応する部位に硬い柔軟性材料を流し込むことで、模擬喉頭蓋24aのみを成形し、その後、型枠の他の部位に他の柔軟性材料を流し込むことで、模擬喉頭蓋24aと他の部位とが一体化された体内造形部20を成形することができる。
【0029】
気管挿管時の喉頭展開などでは、声門を見えるようにするために、喉頭鏡のブレードの先端をその喉頭蓋と舌根との間の喉頭蓋谷に当てることで、喉頭蓋を間接的に持ちあげる。このような喉頭蓋の動きは、模擬喉頭蓋24aを周囲の部位と同じ硬さで成形したとしても、模擬喉頭蓋24が部分的に上方に持ち上がるため、ある程度は再現することができる。
本実施形態によれば、模擬喉頭蓋24aとその周囲の部位とを硬さの異なる柔軟性材料で一体成形することで、繋ぎ目等の不自然な要素もなく、模擬喉頭蓋24aと模擬舌部22aとの境(喉頭蓋谷)を押したときに、模擬喉頭蓋24aが一体的に上方に持ち上がるようにすることができ、実際の喉頭蓋の動きをリアルに再現することができる。また、本実施形態によれば、体内造形部20の模擬喉頭蓋24aの構造によりこのような作用効果を実現しており、骨格ベース部に対する体内造形部20の着脱容易性を阻害することもない。
【0030】
図5に示されるように、体内造形部20は、鼻腔形成部21と口腔形成部22とが相互に分離しており、後方の咽頭形成部23及び喉頭形成部24で両者が結合し、下方の気管形成部25及び食道形成部26で再度分離する外形を有している。更に言えば、鼻腔形成部21は、左鼻腔形成部と右鼻腔形成部とから構成されており、両者が相互に分離した外形を有している。
これら各部位で形成される中空領域が各体内器官を模擬しており連通している。
また、口腔形成部22の一部に模擬舌部22aが設けられている。模擬舌部22aは、中空状態で口腔形成部22により形成される口腔領域に突出した形状とされている。
【0031】
上述したように体内造形部20は、柔軟性を持つため、医療シミュレータ1の繰り返し利用により、劣化や損傷する可能性がある。また、体内造形部20によって模擬される体内器官の形状や大きさは患者によって異なるため、被訓練者の医療手技の能力をより高めるためには、様々なバリエーションの体内器官で訓練することが望まれる。
そこで、本実施形態では、体内造形部20を骨格ベース部に対して容易に着脱可能とすることで、複数種の体内造形部20の入れ替えや新旧の体内造形部20の交換を容易に行えるようにしている。更に言えば、体内表面にポリープや腫瘍などの病変を模擬した体内造形部20を成形することもでき、そのような体内造形部20を用いることで、ポリープや腫瘍等の病変を切除する手技の訓練も可能としている。
【0032】
これを実現する構成として、体内造形部20及び骨格ベース部に対して着脱可能な鼻口支持部40が設けられている。これにより、
図3に示されるように、体内造形部20は、鼻口支持部40が装着された状態で、骨格ベース部に対して着脱可能となっている。
鼻口支持部40は、体内造形部20に装着されている状態において、鼻腔形成部21と口腔形成部22との間隙に介在して鼻腔形成部21を支持すると共に、口腔形成部22の口腔側に配置される上顎歯列構造部50と、口腔形成部22の上壁を挟持する。つまり、鼻口支持部40は、上面側で鼻腔形成部21を支持し、下面側で口腔形成部22を支持する。
【0033】
より具体的には、鼻口支持部40は、上面側に、鼻腔形成部21を下方及び左右両側から支持固定する鼻腔固定部を持つ。更に、その鼻腔固定部の前方には、鼻腔形成部21よりも硬い材質で成形された2つの鼻孔管部45が設けられている。鼻孔管部45は、鼻骨及び鼻の軟骨に相当し鼻の形状を形作る管状体である。各鼻孔管部45の前端部及び後端部はそれぞれ開口しており、各後端部が鼻腔形成部21の開口21aにそれぞれ嵌合される。これにより、鼻腔形成部21は、前方からも鼻口支持部40(鼻孔管部45)に支持固定される。
鼻口支持部40の下面側には、左右の離間した箇所に、下方に突出した2つの凸部41が設けられている。各凸部41は、体内造形部20の口腔形成部22の上壁に設けられた2つの貫通孔22bを介して、上顎歯列構造部50の上面側に上方を向けて設けられた2つの凹部58にそれぞれ挿嵌される。
【0034】
鼻口支持部40の凸部41及び上顎歯列構造部50の凹部58のいずれか一方には、永久磁石が組み込まれており、他方は鉄などの強磁性体で成形されていてもよい。このようにすれば、凸部41が貫通孔22bを介して凹部58に挿嵌されることで、口腔形成部22の上壁を挟んだ状態で鼻口支持部40と上顎歯列構造部50とを磁力により吸着させることができる。一方で、人力よりも小さい磁力の永久磁石を用いることで、相互に吸着した鼻口支持部40と上顎歯列構造部50とを人力により引き離すことができる。
【0035】
但し、鼻口支持部40と上顎歯列構造部50とが口腔形成部22の上壁を挟持するための構造は、口腔形成部22を挟んだ状態で鼻口支持部40と上顎歯列構造部50とを適度な強度で連結させかつ何らかの方法で引き離すことができるのであれば、このような例に限定されない。例えば、鼻口支持部40と上顎歯列構造部50とはネジ構造により連結されてもよいし、バネ弾性や摩擦力により連結されてもよい。なお、鼻口支持部40と上顎歯列構造部50とは、道具を使うことなく人手で着脱できる構造となっていることが望ましい。
【0036】
鼻口支持部40のこのような構造により、柔軟性のある鼻腔形成部21及び口腔形成部22を支持固定することができると共に、簡単操作で体内造形部20に対して鼻口支持部40を着脱させることができる。具体的には、鼻孔管部45の後端部を鼻腔形成部21の開口21aから抜き、上顎歯列構造部50を鼻口支持部40から引き離すことで、体内造形部20から鼻口支持部40を外すことができ、逆に、鼻孔管部45の後端部を鼻腔形成部21の開口21aに嵌め込み、上顎歯列構造部50を鼻口支持部40に連結させることで、体内造形部20に鼻口支持部40を装着することができる。
【0037】
鼻口支持部40は、鼻腔形成部21と口腔形成部22とをしっかりと支持し、かつ、取り扱い性を上げるべく、少なくとも鼻腔形成部21及び口腔形成部22よりも硬い材質で成形されることが好ましい。例えば、鼻口支持部40は、金属やプラスチックなどのような素材で成形される。
【0038】
また、骨格ベース部との連結を実現する構造として、鼻口支持部40は、体内造形部20の鼻腔形成部21を下支えする領域(鼻腔固定部)を挟んで左右両側に上方を向けて設けられた2つの凹部43(骨格連結部)を有している。
一方で、骨格ベース部として、人体模型2の頭部の上顎付近に前後方向に延設されている上顎支持プレート71が設けられており、その上顎支持プレート71の下面には、左右離間した箇所に、下方に突出した2つの凸部72が設けられている。
上顎支持プレート71の凸部72及び鼻口支持部40の凹部43のいずれか一方には、永久磁石が組み込まれており、他方は鉄などの強磁性体で成形されていてもよい。このようにすれば、凸部72が凹部43に挿嵌されることで、骨格ベース部としての上顎支持プレート71と鼻口支持部40とを磁力により吸着させることができる。人力よりも小さい磁力の永久磁石を用いることで、相互に吸着した上顎支持プレート71と鼻口支持部40とを人力により引き離すことができる。
【0039】
このような操作を助けるべく、更に、鼻口支持部40の下面側には左右両端に2つの摘み部42が設けられている。摘み部42は、下方に延設されている棒状体である。ユーザは、2つの摘み部42を片手の親指と中指等とで挟み持つことができるため、体内造形部20に装着された状態の鼻口支持部40を上顎支持プレート71から容易に引き離すことができる。
【0040】
本実施形態では、鼻口支持部40に骨格ベース部への着脱を可能とする骨格連結部として凹部43が設けられたが、鼻口支持部40と骨格ベース部とを適度な強度で連結させかつ引き離すことができるのであれば、骨格連結部の形態は何ら制限されない。例えば、適度な弾性力を有するプランジャを側面に備えた凸部とそのボールプランジャのボールを係止可能な係止凹部とのいずれか一方が骨格連結部とされてもよいし、ネジ又はネジ孔が骨格連結部とされてもよい。但し、骨格連結部は、着脱を容易にするためには、道具を使うことなく人手で両者を着脱できる形態であることが望ましい。
【0041】
骨格ベース部と体内造形部20との連結を実現する構造として、更に、体内造形部20は、背面側に咽頭壁プレート80(
図8及び
図9参照)への着脱を可能とするプレート連結部29を有している。本実施形態では、プレート連結部29は、体内造形部20の背面側の咽頭形成部23と食道形成部26との境界付近から後方に突設された凸状部材であり、先端にフランジ部3aが設けられている。
咽頭壁プレート80は、上下方向に延設された板状の部材であり、骨格ベース部としての第二頸椎リンク75に連結されている(
図8及び
図9参照)。咽頭壁プレート80は、その前面で、体内造形部20(咽頭形成部23)の咽頭壁に相当する部位を背面側から支持する。咽頭壁プレート80には、前後方向(厚み方向)に貫通しておりプレート連結部29を挿嵌可能な挿嵌孔が設けられている。挿嵌孔は、上下方向に並び相互に連続する、フランジ部29aを挿嵌可能な大開口部83aと、フランジ部29aの縁部分を係止可能でありプレート連結部29のフランジ部29a以外の部分を挿嵌可能な小開口部83bとからなる。
これにより、プレート連結部29を咽頭壁プレート80の大開口部83aに挿嵌させてから上方にスライドさせることで、プレート連結部29のフランジ部29aの縁部分が小開口部83bに係止され、体内造形部20と咽頭壁プレート80とを連結固定することができる。
【0042】
但し、体内造形部20に設けられたプレート連結部29の形態は上述のような例に制限されない。例えば、プレート連結部29は面ファスナ又は点ファスナで実現されてもよい。前者の場合、咽頭壁プレート80には挿嵌孔(83a及び83b)の代わりに、プレート連結部29とは異なるタイプの面ファスナが設けられればよい。但し、プレート連結部29は、咽頭壁プレート80と連結されている状態において、その形状が体内造形部20の体内表面に表出しないような形態とされることが望ましい。不自然な体内表面となり、リアルな医療シミュレーションを阻害する要因となり得るからである。本実施形態では、プレート連結部29は咽頭壁プレート80の挿嵌孔(83a及び83b)に嵌め込まれるため、その形状が体内造形部20で形成される体内表面に表出し難くなっている。
【0043】
このような鼻口支持部40及び体内造形部20により、柔軟性のある体内造形部20を骨格ベース部に対してしっかりと固定させることができると共に、着脱も容易に行うことができる。具体的には、鼻口支持部40を上顎支持プレート71から引き離し、かつ、体内造形部20のプレート連結部29を咽頭壁プレート80から離脱させることで、骨格ベース部から体内造形部20を外すことができ、逆に、鼻口支持部40を上顎支持プレート71に連結させ、かつ、プレート連結部29を咽頭壁プレート80に連結させることで、骨格ベース部に体内造形部20を装着することができる。
なお、体内造形部20の口腔形成部22の下壁は、後述する下顎歯列構造部60と下顎骨部62とにより挟持されている。このため、鼻口支持部40及び体内造形部20を骨格ベース部から外す場合には、下顎歯列構造部60を下顎骨部62から離脱させることも必要となるが、この操作も容易に行うことができる。
【0044】
更に、体内造形部20の喉頭形成部24には模擬甲状軟骨部33が脱着可能に装着されている。
模擬甲状軟骨部33は、体内造形部20よりも硬い素材で成形された管状の部材である。模擬甲状軟骨部33は、体内造形部20の気管形成部25の下端部から挿嵌し、上方にスライドさせることで喉頭形成部24に装着することができ、逆に、気管形成部25の下端部から外すことができる。
【0045】
ところで、気管挿管の際に喉頭鏡のブレードを患者の歯に強く当接させ過ぎると、患者の歯が折れたり損傷したりする可能性がある。このような事象は、気管挿管時だけではなく、声帯や喉頭におけるポリープ等の病変を切除する手術時に用いられる喉頭直達鏡(金属製の筒状器具)などでも同様に生じ得る。本実施形態では、上顎歯列構造部50により、このような事象を再現可能としている。
以下、上顎歯列構造部50について
図7を用いて詳述する。
図7(a)は、上顎歯列構造部50の分解図であり、
図7(b)は、歯折れを再現する上顎歯列構造部50を示す図である。
上顎歯列構造部50は、上顎歯列を模した形状を有し、上述したように、体内造形部20の口腔形成部22により形成される口腔部内に配置される。
【0046】
上顎歯列構造部50は、少なくとも上顎中切歯(いわゆる前歯)を含む前方中央の一部の第一歯列を模した形状を有する可動歯列部52と、残りの第二歯列を模した形状を有し可動歯列部52を揺動可能に支持する固定歯列部51と、可動歯列部52の揺動を制限する揺動制限手段とを有する。
本実施形態では、可動歯列部52で模擬される第一歯列は、上顎中切歯及び上顎側切歯の4本の歯からなる。また、可動歯列部52は、上部に、左右方向に穿設された貫通孔59を有している。一方で、固定歯列部51は、前方中央部(第一歯列の位置)に後方に向けて窪んだ凹部を有しており、その凹部の左右側壁間に支持軸54が架設されている。可動歯列部52は、貫通孔59に固定歯列部51の支持軸54が挿通された状態で、固定歯列部51の凹部に嵌め込まれており、支持軸54により揺動可能に軸支されている。
【0047】
揺動制限手段は、第二歯列と第一歯列とが上顎歯列の並びを形成する位置で可動歯列部52の回動を制限し、所定の外力の付与によりその制限を解除する。ここでの「所定の外力」は、健常な歯を折る程度の力に設定されることが望ましい。
本実施形態では、この揺動制限手段として、可動歯列部52のボールプランジャ57及び固定歯列部51の係止凹部55及び56が設けられている。具体的には、ボールプランジャ57は、可動歯列部52の左右両側に設けられており、係止凹部55及び56は、ボールプランジャ57のボールを係止する凹部であり固定歯列部51の凹部の左右側壁に設けられている。ボールプランジャ57は、可動歯列部52の左右の各側面から周面の一部が突出した状態でその側面に対して出没自在に保持されたボールと、このボールを常時突出方向に付勢するスプリングとから形成されている。係止凹部55及び56は、ボールプランジャ57のボールの突出方向に窪んでおり、スプリングの弾性力で突出した当該ボールを受け入れ係止する。逆に、係止凹部55及び56によるボールの係止力及びボールプランジャ57のボールの付勢力を超える外力が加わると、当該ボールが可動歯列部52の側面に対して沈み係止凹部55及び56から離脱する。このときの外力が上述の「所定の外力」となるように、ボールプランジャ57の付勢力が設定されることが好ましい。このようにして、ボールプランジャ57並びに係止凹部55及び56は、可動歯列部52の揺動を制限し、かつ、その制限を解除することができる。
【0048】
本実施形態では、2つの係止凹部55及び56が離間した位置に設けられている。つまり、本実施形態では、揺動制限手段は、2つの位置で可動歯列部52の揺動を制限する。具体的には、係止凹部56は、可動歯列部52のボールプランジャ57のボールを係止した際に第一歯列と第二歯列とが上顎歯列の並びを形成する位置に設けられおり、係止凹部55は、当該ボールを係止した際に第一歯列の先が前方を向く位置に設けられている。これにより、可動歯列部52は、主に、第一歯列と第二歯列とが上顎歯列の並びを形成する位置と第一歯列の先が前方を向く位置との間で揺動可能となる。
但し、揺動制限手段を実現する構造は、本実施形態の例に限定されない。例えば、係止凹部56のみが設けられ、係止凹部55はなくてもよい。また、3つ以上の係止凹部が設けられてもよい。また、ボールプランジャ57の代わりに、ピンプランジャ等の他種のプランジャが利用されてもよい。
【0049】
本実施形態では、更に、人体模型2が、口を開閉する際の下顎の動き及び気管挿管時の下顎挙上(頸部後屈)の動きをリアルに再現可能に構成されている。
以下、このような人体模型2の動きを再現する構造について主に
図8及び
図9を用いて説明する。
図8は、骨格ベース部及び骨格ベース部に連結される部材の一部を示す斜視図であり、
図9は、骨格ベース部及び骨格ベース部に連結される部材の一部を示す側面図である。なお、見て分かるように、
図9には、
図8に示される構成の更に一部が示されている。
【0050】
まず、骨格ベース部の主な構成について説明する。骨格ベース部の主な構成として、第一頸椎リンク74、第二頸椎リンク75、及び上顎支持プレート71が設けられている。
上顎支持プレート71は、人体模型2の頭部の骨組みの中心となる部材であり、人体模型2の頭部の上顎付近に前後方向に延設されている。本明細書では、説明の便宜のために、人体模型2の頭部の上顎付近に前後方向に延設されている板状の部材に加えて、その板状の部材に直接的に固設されている部材も合わせて、上顎支持プレート71と表記するものとする。
【0051】
上顎支持プレート71は、左右方向の中央かつ前後方向の中央より後方寄りで、後述する第二頸椎リンク75により上下方向に揺動可能に支持されている。
また、上顎支持プレート71は、上述したとおり、その下面に、鼻口支持部40の着脱を可能とする2つの凸部72を有しており、鼻口支持部40を介して上顎歯列構造部50を支持している。上顎支持プレート71の上面側には、模擬頭蓋骨9を保持する構造や目の形状を形作る構造が連結されており、下面側には、後述の二枚の下顎連結プレート73が延設されている。
【0052】
第一頸椎リンク74及び第二頸椎リンク75は、人体模型2の頸部の骨組みの中心となる部材であり、人体模型2の胸部から頭部にかけて上下方向に延設されている。本実施形態では、第一頸椎リンク74及び第二頸椎リンク75はそれぞれ、左右に並ぶ二枚組の細幅の板状部材で形成されている。第一頸椎リンク74の二枚の板状部材を第二頸椎リンク75の二枚の板状部材で挟む形で配置される。以降、説明の便宜のために、特に必要となる場合を除き、第一頸椎リンク74及び第二頸椎リンク75を形成する二組ずつの板状部材のうちの一方を指し示して第一頸椎リンク74及び第二頸椎リンク75の説明を行うものとする。
【0053】
第二頸椎リンク75は、下端部で後方に突出した形状を有しており、その突出した端部で基台7に連結されている。第二頸椎リンク75は、上下方向の略中央部で前方に少し湾曲しており、その上端部で上顎支持プレート71と連結している。
第一頸椎リンク74は、二枚の第二頸椎リンク75の間に介在し、下端部で第二頸椎リンク75に対して相対的に上下方向にスライド可能に支持されている。第一頸椎リンク74は、上端部で上顎支持プレート71の後端部の上下方向のスライドをガイドする。第一頸椎リンク74と第二頸椎リンク75と上顎支持プレート71との関係の詳細については後述する。
【0054】
次に、口を開閉する際の下顎の動きを実現する構造について詳述する。この構造として、骨格ベース部は、下顎骨部62、下顎支持プレート63、及び下顎連結プレート73を有している。
下顎骨部62は、上方から視認される形状が、前方が閉じた略U字状である。下顎骨部62は、上面に、下顎歯列構造部60との連結部となる二つの凸部66を有している。凸部66は、体内造形部20の口腔形成部22の下壁に設けられた貫通孔22cを介して下顎歯列構造部60の下面に設けられた凹部に挿嵌される。これにより、下顎骨部62と下顎歯列構造部60とは、体内造形部20の口腔形成部22の下壁を挟持することができる。
【0055】
下顎支持プレート63は、下顎骨部62の左右後端部から上方に向けて上顎支持プレート71を超えた位置まで延設された二枚の板状部材である。以下の説明では、説明の便宜のために、特に必要となる場合を除き、二枚の下顎支持プレート63のうちのいずれか一方を対象にして、下顎支持プレート63を説明するものとする。
下顎支持プレート63は、第一揺動軸部64及び第二揺動軸部65を有している。第一揺動軸部64及び第二揺動軸部65は、下顎支持プレート63の延設方向(上下方向)に離間した位置において、左又は右の外側へ向けて突設された、下顎支持プレート63の揺動軸である。本実施形態では、第一揺動軸部64は、下顎支持プレート63の下端から少し上方に設けられており、第二揺動軸部65は、第一揺動軸部64よりも上方かつ上顎支持プレート71よりも下方に設けられている。第一揺動軸部64及び第二揺動軸部65は、下顎支持プレート63よりも左又は右の外側に配置される下顎連結プレート73に係止される。
【0056】
下顎連結プレート73は、上顎支持プレート71の左右両端部から下方向に延設されている二枚の板状部材である。二枚の下顎連結プレート73は、二枚の下顎支持プレート63の左又は右の外側にそれぞれ隣接して設けられている。以下の説明では、説明の便宜のために、特に必要となる場合を除き、二枚の下顎連結プレート73のうちのいずれか一方を対象にして、下顎連結プレート73を説明するものとする。
【0057】
下顎連結プレート73は、第一揺動軸部64をスライド可能に係止しかつガイドする第一軸ガイド部73aと、第二揺動軸部65をスライド可能に係止しかつガイドする第二軸ガイド部73bとを有している。本実施形態では、第一軸ガイド部73a及び第二軸ガイド部73bは、第一揺動軸部64又は第二揺動軸部65を挿嵌可能な幅で下顎連結プレート73の厚み方向に貫通された貫通孔である。第一軸ガイド部73aは、第二揺動軸部65を軸にして下顎支持プレート63が揺動する際に第一揺動軸部64のスライドをガイドし、第二軸ガイド部73bは、第一揺動軸部64を軸にして下顎支持プレート63が揺動する際に第二揺動軸部65のスライドをガイドする。
ここで、第二揺動軸部65のスライド距離が第一揺動軸部64のスライド距離よりも長くなるように、第一軸ガイド部73a及び第二軸ガイド部73bが形成されている。本実施形態では、第二軸ガイド部73bのほうが第一軸ガイド部73aよりも下顎連結プレート73の面上において長い孔とされている。
【0058】
このような下顎支持プレート63及び下顎連結プレート73の作用により、口を開閉する際に人体模型2の下顎骨部62は次のように動作する。
まず、口が閉じている状態、即ち下顎骨部62の先端が上がっている状態の下顎支持プレート63と下顎連結プレート73との位置関係は、
図8に示されるとおりである。即ち、第一揺動軸部64が第一軸ガイド部73aの前端の内周面に当接し、第二揺動軸部65が第二軸ガイド部73bの後端の内周面に当接している。
【0059】
口を開ける際には、第二軸ガイド部73bの後端の内周面で支持されている第二揺動軸部65を軸にして下顎支持プレート63が下方に回転する。これにより、第一揺動軸部64が第一軸ガイド部73a内を後方にスライドする。第一揺動軸部64が第一軸ガイド部73aの後端の内周面へ当接すると、下顎支持プレート63の下方への回転の一段階目が終わる。
更に大きく口を開ける際には、第一軸ガイド部73aの後端の内周面で支持されている第一揺動軸部64を軸にして下顎支持プレート63が更に下方に回転する。これにより、第二揺動軸部65が第二軸ガイド部73b内を前方にスライドする。第二揺動軸部65が第二軸ガイド部73bの前端の内周面へ当接すると、下顎支持プレート63の下方への回転は制限される。
【0060】
逆に、大きく口を開けた状態から口を閉じる際には、第一軸ガイド部73aの後端の内周面で支持されている第一揺動軸部64を軸にして下顎支持プレート63が上方に回転する。これにより、第二揺動軸部65が第二軸ガイド部73b内を後方にスライドする。第二揺動軸部65が第二軸ガイド部73bの後端の内周面へ当接すると、下顎支持プレート63の上方への回転の一段階目が終わる。
更に口を閉じる際には、第二軸ガイド部73bの後端の内周面で支持されている第二揺動軸部65を軸にして下顎支持プレート63が更に上方に回転する。これにより、第一揺動軸部64が第一軸ガイド部73a内を前方にスライドする。第一揺動軸部64が第一軸ガイド部73aの前端の内周面へ当接すると、下顎支持プレート63の上方への回転は制限される。
【0061】
このように、本実施形態では、人体模型2の口を開く際には、下顎骨部62は、上方の軸を中心に少し下方に回転することで一段階目の動作を行う。その後、下顎骨部62は、下方に回転した状態の他の軸を中心に当該上方の軸を前方にスライドさせながら更に下方に回転することで、人体模型2の口が更に大きく開くことになる。
つまり、本実施形態によれば、口を開き始めたときは、側頭骨の下顎窩のくぼみで下顎骨の下顎頭が回転し、更に大きく口を開ける際には、下顎頭がそのくぼみから前に滑り出して回転するという口を開閉する際の実際の人体の顎の動きに近い動きを再現することができる。
【0062】
ところで、実際の医療現場では、顎関節などの骨格の違い等により、口の開きが小さい患者が存在する。そこで、本実施形態では、実践に即した高精度の訓練を可能とするべく、人体模型2の口の開きを制限し得る機能が提供されている。
この機能を実現する構成として、骨格ベース部は、下顎支持プレート63の揺動範囲を制限可能な下顎揺動制限部を有している。これにより、下顎支持プレート63の揺動範囲は、第一軸ガイド部73a及び第二軸ガイド部73bによる第一揺動軸部64及び第二揺動軸部65のスライド範囲制限、並びに、下顎搖動制限部により、段階的に制限され得る。
【0063】
本実施形態では、下顎搖動制限部は、二つの下顎支持プレート63の上端部の間に架設された棒状体67と、棒状体67の移動を制限する係止片68とにより実現されている。
棒状体67は、二つの下顎支持プレート63の上端部の間に架設されており、下顎支持プレート63と一体的に移動する。本実施形態では、棒状体67は、上顎支持プレート71の上方で略前後方向に移動する。
係止片68は、棒状体67の前側に当接することで棒状体67の前方への移動を抑止し得る部材である。本実施形態では、係止片68は、上顎支持プレート71の上面に固設された、模擬頭蓋骨9を保持する構造に設けられており、棒状体67が移動する軌跡中の所定の位置に配置される。
これにより、棒状体67は、係止片68の位置まで前方に移動することが可能となり、結果として、下顎支持プレート63及び下顎骨部62の下方への回転範囲が制限されることになる。即ち、人体模型2の口の開きを制限することができる。
【0064】
更に、本実施形態では、係止片68の位置が段階的に調整可能とされている。例えば、係止片68のガイドレールと複数の位置決め部材により、係止片68の位置を段階的に調整することができる。これにより、人体模型2の口の開きの限度を段階的に調整することができるため、口の開きの制限程度が異なる様々な患者を再現することができ、ひいては、実践に即した高精度の訓練が可能となる。
但し、下顎揺動制限部の実現形態は、下顎支持プレート63の揺動範囲を限定することができれば、上述の例に限定されない。例えば、棒状体67及び係止片68を設けることなく、二つの下顎支持プレート63の一方又は両方に直接当接してその揺動範囲を制限する部材が下顎搖動制限部として設けられてもよい。また、第二軸ガイド部73bにより実現される第二揺動軸部65のスライド範囲を狭めることができる部材が下顎搖動制限部として設けられてもよい。
【0065】
また、気管挿管時に喉頭展開するための患者の体位として、スニッフィングポジションと呼ばれる体位がある。その体位では、頸部を軽く後屈させて、下顎を挙上させる。次に、
図9を用いて、気管挿管時の下顎挙上(頸部後屈)の動きを実現する構造について詳述する。
この下顎挙上の動きは、主に、第一頸椎リンク74、第二頸椎リンク75及び上顎支持プレート71の関係により実現される。
【0066】
上顎支持プレート71は、後端部よりも前方で、第二頸椎リンク75により揺動可能に支持されており、左右方向に延在する軸を中心に上下方向に揺動可能とされている。また、上顎支持プレート71は、その後端部が引張コイルバネに連結されているため、その後端部が所定距離を超えて上昇すると、その後端部に下方への引っ張り力が付与されるようになっている。加えて、上顎支持プレート71は、後端部の上下方向のスライド範囲が第一頸椎リンク74のスライド規制部74aで規制されている。
【0067】
第一頸椎リンク74のスライド規制部74aは、上顎支持プレート71の後端部の上下方向のスライドをガイドしながら、そのスライド範囲を規制している。本実施形態では、スライド規制部74aは、第一頸椎リンク74の上端部に設けられた厚み方向に貫通した長孔であり、上顎支持プレート71の後端部に設けられたスライドピン71aが挿嵌されている。このため、上顎支持プレート71は、第一頸椎リンク74のスライド規制部74aで規定されているスライド範囲で上下方向に揺動可能となっている。
【0068】
また、第一頸椎リンク74は、第二頸椎リンク75に対して相対的に上下方向にスライド可能に支持されている。本実施形態では、第一頸椎リンク74の下端部に厚み方向に貫通したスライドガイド孔74bが設けられており、スライドピン77aが挿嵌されている。そのスライドピン77aは、二つの第一頸椎リンク74のスライドガイド孔74b及び第一頸椎リンク74を挟んで左右両外側に隣接する二つの第二頸椎リンク75のスライドガイド孔、並びに第二頸椎リンク75を挟んで左右両外側に隣接するスライダ77の貫通孔に挿通されている。つまり、スライドピン77aが第一頸椎リンク74のスライドガイド孔74b内のスライド可能な範囲で第一頸椎リンク74は上下方向にスライド可能となっている。
【0069】
このような構成により、上顎支持プレート71は、第一頸椎リンク74のスライド規制部74aで規定されているスライド範囲で上下方向に揺動可能となっており、更に、第二頸椎リンク75に対する第一頸椎リンク74の下方へのスライドによって、上顎支持プレート71の後端部の下方へのスライド範囲が大きくなる。結果、人体模型2の下顎を挙上させることができる。
【0070】
ところで、実際の医療現場では、頸椎などの骨格の違い等により、頸部の後屈、即ち下顎挙上が困難な患者が存在する。そこで、本実施形態では、実践に即した高精度の訓練を可能とするべく、人体模型2の下顎挙上の動きを制限し得る機能が提供されている。
この機能を実現する構成として、骨格ベース部は、第一頸椎リンク74の上下方向のスライド範囲を制限可能な頸椎スライド制限部を有している。この頸椎スライド制限部により第一頸椎リンク74の下方向へのスライド距離が制限されると、上顎支持プレート71の後端部(スライドピン71a)の下方へのスライド距離が制限されることになり、結果として、下顎骨部62の先端の上方への回転角度を制限することができる。
【0071】
本実施形態では、この頸椎スライド制限部として、スライダ77、スライダ調整ピン77b、第二頸椎リンク75の位置決め孔78a、78b、78c又は78dが設けられている。
スライダ77は、第一頸椎リンク74の下方向へのスライド距離を段階的に調整可能とする。具体的には、スライダ77は、スライドピン77aが第一頸椎リンク74のスライドガイド孔74bでスライドできる範囲で第二頸椎リンク75に沿ってスライド可能に形成されている。つまり、スライダ77は、二つの第二頸椎リンク75を左右両外側から挟んだ形状を有しており、第二頸椎リンク75に沿って上下方向にスライド可能とされている。加えて、スライダ77は、第二頸椎リンク75の位置決め孔78a、78b、78c又は78dに挿嵌可能なスライダ調整ピン77bを備えている。第二頸椎リンク75の位置決め孔78a、78b、78c及び78dは、上下方向に所定間隔で離間して設けられている。
【0072】
ユーザは、スライダ77を上下方向にスライドさせ、スライダ調整ピン77bを位置決め孔78a、78b、78c又は78dのいずれか一つに挿嵌することで、スライダ77の上下方向の位置を決める。これに伴い、スライドピン77aの位置が決まるため、結果として、第一頸椎リンク74の下方向へのスライドの限界が決まる。スライドガイド孔74bの上端の内周面がスライドピン77aに当接することで、第一頸椎リンク74がそれ以上、下方へスライドできなくなるからである。つまり、スライダ調整ピン77bが位置決め孔78dに挿嵌された際には、スライドピン77aが最も上の位置で保持されるため、第一頸椎リンク74の下方向へのスライド範囲が最も短くなり、ひいては、下顎挙上の限度が小さくなる。逆に、スライダ調整ピン77bが位置決め孔78a(
図9の状態)に挿嵌された際には、スライドピン77aが最も下の位置で保持されるため、第一頸椎リンク74の下方向へのスライド範囲が最も長くなり、ひいては、下顎挙上の限度が大きくなる。
【0073】
このように、本実施形態によれば、顎関節や頸椎などの骨格の違いによる患者ごとの口の開きの違いや下顎挙上の程度の違いを再現することができるため、実際の医療現場に即した高精度の医療手技訓練が可能となる。
【0074】
[変形例]
上述の実施形態は、医療シミュレータ1の一例である。医療シミュレータ1は、上述の構成のみに限定されるわけではなく、上述の少なくとも一部の構成を有していれば、部分的に適宜変形されてもよい。
【0075】
例えば、上述の実施形態は、体内造形部20が一体成形されていない構成が採用されてもよい。この場合、医療シミュレータ1は、少なくとも鼻又は口から行われる医療手技の訓練を可能とするべく、少なくとも、人体の少なくとも頭部から頸部にかけての形状の基礎となる骨格ベース部と、骨格ベース部に対して着脱可能であって、鼻腔、口腔、咽頭及び喉頭を含む中空の体内器官を模した形状を持ち、柔軟性を有する体内造形部20とを備えており、体内造形部20は、喉頭蓋を模した形状を持つ模擬喉頭蓋部24aを含み、模擬喉頭蓋部24aが柔軟性材料で成形された周囲の部位よりも硬い柔軟性材料で当該周囲の部位と一体成形されるようにする。これによれば、模擬喉頭蓋部24aとその周囲の部位とが硬さの異なる柔軟性材料で一体成形されるため、模擬喉頭蓋24aと模擬舌部22aとの境(喉頭蓋谷)を押したときに、模擬喉頭蓋24aが一体的に上方に持ち上がるようにすることができ、実践に即した高精度の訓練を行うことができる。
また、体内造形部20は、気管形成部25及び食道形成部26を有していなくてもよい。同様に、医療シミュレータ1は、模擬気管支部12、模擬肺部13、胃連結チューブの上端部14及び模擬胃部15を有していなくてもよい。また、医療シミュレータ1は、下顎のリアルな動きを再現する構成や、口の開きの違いや下顎挙上の程度の違いを再現する構成を有していなくてもよい。また、繰り返しになるが、体内造形部20を骨格ベース部に対して着脱可能とする構成についても、上述の例に限定されないため、鼻口支持部40が設けられなくてもよい。
【0076】
また、体内造形部20が一体成形されず、かつ、体内造形部20が上述模擬喉頭蓋24aを有していない構成が採用されてもよい。この場合、人体の少なくとも頭部から頸部にかけての形状の基礎となる骨格ベース部と、柔軟性を有する体内造形部とに対して、着脱可能な鼻口支持部40が設けられていればよい。これにより、複数種の体内造形部20を入れ替え容易になるため、様々な患者の体内気管に対して訓練可能となり、実践に即した高精度の訓練を行うことができる。
【0077】
更に言えば、医療シミュレータ1は、体内造形部20を有していなくてもよい。この場合、例えば、医療シミュレータ1は、少なくとも人体頭部の外形を模した人体模型2を有しており、人体模型2の骨格ベース部は、少なくとも、下顎骨部62、下顎支持プレート63、及び下顎連結プレート73を有してればよい。これによっても、人の口の開きをリアルに再現する人体模型2を用いて、高精度な医療手技訓練を行うことができる。他の例としては、医療シミュレータ1は、少なくとも頭部から頸部にかけての人体外形を模した人体模型2を有しており、人体模型2の骨格ベース部は、少なくとも、第一頸椎リンク74、第二頸椎リンク75及び上顎支持プレート71を有していればよい。これによっても、人の下顎挙上の動き(頸部後屈)をリアルに再現することができる。また、医療シミュレータ1は、少なくとも人体口腔内を模した人体模型2を有しており、人体模型2が少なくとも歯折れを再現可能な上顎歯列構造部50を有していてもよい。