【解決手段】偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板11と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在する反射層12と、第1の誘電体層13Aと、吸収層13Bと、第2の誘電体層13Cとをこの順に有する格子状凸部と、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に不連続に形成され、誘電体からなる誘電体部14と、誘電体部14の表面に形成され、撥水性を有する撥水部15とを備える。
使用波長帯域の光に対して透明である透明基板と、前記使用帯域の光の波長よりも短いピッチで前記透明基板上に配列され、所定方向に延在し、反射層と反射抑制層とを有する格子状凸部とを備える光学部材に誘電体を成膜し、前記格子状凸部の表面及び前記格子状凸部間の底面部の表面に前記誘電体からなる誘電体部を不連続に形成し、前記誘電体部の表面に撥水性を有する撥水部を形成する偏光板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.偏光板
2.偏光板の製造方法
3.実施例
【0012】
<1.偏光板>
本実施の形態に係る偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在し、反射層と反射抑制層とを有する格子状凸部と、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に不連続に形成され、誘電体からなる誘電体部と、誘電体部の表面に形成され、撥水性を有する撥水部とを備える。このような偏光板によれば、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体部が不連続に形成され、誘電体部の表面に撥水部が形成されているため、優れた光学特性及び耐久性を得ることができる。
【0013】
格子状凸部は、少なくとも反射層と反射抑制層とを有する。反射層は、吸収軸であるY方向に帯状に延びた金属薄膜が配列されてなるものである。すなわち、反射層は、ワイヤーグリッド型偏光子としての機能を有し、透明基板のワイヤーグリッドが形成された面に向かって入射した光のうち、ワイヤーグリッドの長手方向に平行な方向(Y方向)に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、ワイヤーグリッドの長手方向と直交する方向(X方向)に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0014】
反射抑制層は、TE波を偏光波の選択的光吸収作用によって減衰させる。反射抑制層の構成を適宜調整することによって、反射層で反射したTE波について、反射抑制層を透過する際に一部を反射し、反射層に戻すことができ、また、反射抑制層を通過した光を干渉により減衰させることができる。反射抑制層の構成としては、例えば、光吸収性材料からなる吸収層と、誘電体からなる誘電体層との多層膜であっても、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなる混合層であってもよい。
【0015】
このような構成の光学部材によれば、透過、反射、干渉、偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、反射層の格子に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、格子に垂直な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させることができる。すなわち、TE波は、反射抑制層の偏光波の選択的光吸収作用によって減衰され、反射抑制層を透過したTE波は、ワイヤーグリッドとして機能する格子状の反射層によって反射される。
【0016】
誘電体部は、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に不連続に形成されている。ここで、誘電体部が不連続に形成されているとは、誘電体膜が一様ではなく、途中で切れていて続いていないことをいう。このような誘電体部の形状としては、例えば、島状、ドット状などが挙げられる。これにより、光学特性を劣化させずに撥水部を保持することができる。
【0017】
撥水部は、誘電体部の誘電体と反応する官能基を有する撥水性化合物を用いて形成されることが好ましい。具体的には、SiO
2と結合するフルオロアルキル基はアルキル基を有するシラン化合物、又はAl
2O
3と結合するフルオロアルキル基又はアルキル基を有するリン酸化合物が挙げられる。これにより、撥水性化合物の蒸発を防止し、耐熱性を向上させることができる。
【0018】
[具体例1]
図1は、具体例1として示す偏光板の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板11と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在する反射層12と、第1の誘電体層13Aと、吸収層13Bと、第2の誘電体層13Cとをこの順に有する格子状凸部と、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に不連続に形成され、誘電体からなる誘電体部14と、誘電体部14の表面に形成され、撥水性を有する撥水部15とを備える。すなわち、具体例1として示す偏光板は、反射抑制層として、第1の誘電体層13Aと、吸収層13Bと、第2の誘電体層13Cとを有するものである。
【0019】
透明基板11としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm〜810nm程度の可視光が挙げられる。
【0020】
反射層12は、吸収軸であるY方向に帯状に延びた金属薄膜が配列されてなるものである。すなわち、反射層12は、ワイヤーグリッド型偏光子としての機能を有し、透明基板11のワイヤーグリッドが形成された面に向かって入射した光のうち、ワイヤーグリッドの長手方向に平行な方向(Y方向)に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、ワイヤーグリッドの長手方向と直交する方向(X方向)に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0021】
反射層12としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えばAl、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Teなどの金属単体もしくはこれらを含む合金又は半導体材料を用いることができる。
【0022】
第1の誘電体層13Aは、例えば、吸収層13Bで反射した偏光に対して、吸収層13Bを透過し、反射層12で反射した当該偏光の位相が半波長ずれる膜厚で形成される。実用上、膜厚が最適化されていなくても、吸収層13Bが反射した光を吸収し、コントラストの向上が実現できるので、所望の偏光特性と実際の作製工程の兼ね合いで決定して構わない。
【0023】
第1の誘電体層13Aとしては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。これらの中でも、Si酸化物が好ましく用いられる。
【0024】
吸収層13Bは、金属材料や半導体材料等の光学定数の消衰定数が零でない、光吸収作用を持つ光吸収性材料からなり、使用帯域の光によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、CoSi
2、TaSi等)等が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。これらの中でも、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0025】
第2の誘電体層13Cは、第1の誘電体層13Aと同様の材料を用いることができ、中でも、SiO
2等のSi酸化物が好ましく用いられる。
【0026】
誘電体部14は、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に不連続に形成される誘電体からなり、撥水部15と選択的に結合するアンカーとして機能する。誘電体としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。これらの中でも、撥水性化合物との反応性の観点から、SiO
2又はAl
2O
3であることが好ましい。
【0027】
誘電体部14は、厚みが0.8nm〜1.2nmとなるように成膜されることが好ましい。これにより、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体を島状もしくはドット状に形成することができ、光学特性の劣化を抑制することができる。
【0028】
撥水部15は、誘電体部14の表面に形成され、撥水性を有する。撥水部15は、誘電体部14の誘電体と反応する官能基を有する撥水性化合物を用いて形成されることが好ましい。これにより、撥水性化合物の蒸発を防止し、耐熱性を向上させることができる。
【0029】
具体的な撥水性化合物としては、SiO
2と結合するフルオロアルキル基又はアルキル基を有するシラン化合物が挙げられ、アルキル鎖の炭素数は、4〜20であることが好ましい。具体例としては、例えば、FDTS(heptadecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrodecyltrichlorosilane)、PETS(pentafuorophenylpropyltrichlorosilane)、FOTS((tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl) trichlorosilane)、OTS(n-octadecyltrichlorosilane, (C18))などが挙げられる。また、Al
2O
3と結合するフルオロアルキル基又はアルキル基を有するリン酸化合物が挙げられ、アルキル鎖の炭素数は、4〜20であることが好ましい。具体例としては、FOPA(1H,1H,2H,2H-perfluoro-n-octylphosphonic acid)、FDPA(1H,1H,2H,2H-perfluoro-n-decylphosphonic acid)、FHPA(1H,1H,2H,2H-perfluoro-n-hexylphosphonic acid)、ODPA(octadecylphosphonic acid)などが挙げられる。
【0030】
このような構成からなる偏光板によれば、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体部14が不連続に形成され、誘電体部14の表面に撥水部15が形成されているため、優れた光学特性及び耐久性を得ることができる。
【0031】
[具体例2]
図2は、具体例2として示す偏光板の構造を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板21と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在する反射層22と、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなる混合層23と有する格子状凸部と、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に不連続に形成され、誘電体からなる誘電体部24と、誘電体部24の表面に形成され、撥水性を有する撥水部25とを備える。すなわち、具体例2として示す偏光板は、反射抑制層として、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなる混合層23を有するものである。
【0032】
透明基板21、反射層22、誘電体部24、及び撥水部25は、それぞれ前述した具体例1に示す偏光板の透明基板11、反射層12、誘電体部14、及び撥水部15と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0033】
混合層23は、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなり、例えば光吸収性材料又は誘電体の濃度が層厚方向に傾斜した濃度分布を有する。
【0034】
光吸収性材料としては、金属材料、半導体材料などが挙げられ、使用帯域の光によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、CoSi
2、TaSi等)等が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。これらの中でも、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0035】
誘電体としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。これらの中でも、Si酸化物が好ましく用いられる。
【0036】
[変形例]
前述した具体例1、2では、透明基板上に格子状凸部を設けることとしたが、これに限られるものではなく、透明基板上にさらに誘電体層を設け、誘電体層上に格子状凸部を形成してもよい。また、透明基板又は誘電体層を掘りこんで凸状の台座とし、この台座上に格子状凸部を形成するようにしてもよい。また、台座の断面形状も、長方形に限定されず、例えば台形状であっても、曲面であってもよい。
【0037】
<2.偏光板の製造方法>
次に、本実施形態に係る偏光板の製造方法について説明する。本実施形態に係る偏光板の製造方法は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで前記透明基板上に配列され、所定方向に延在し、反射層と反射抑制層とを有する格子状凸部とを備える光学部材に誘電体を成膜し、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体からなる誘電体部を不連続に形成し、誘電体部の表面に撥水性を有する撥水部を形成する。このような偏光板の製造方法によれば、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体部を不連続に形成するとともに、誘電体部の表面に撥水部を形成するため、優れた光学特性及び耐久性を有する偏光板を得ることができる。
【0038】
図3は、偏光板の製造方法を示すフローチャートである。先ず、各種膜の成膜工程S1において、透明基板31上に、反射層32と、反射抑制層33とを、例えばスパッタリング法により積層させる。次に、レジストとして感光性樹脂40を塗布し(感光性樹脂塗布工程S2)、露光及び現像を行い、レジストによる格子状のパターン40Aを形成する(露光・現像工程S3)。
【0039】
次に、ドライエッチング工程S4において、レジストによるグリッドパターンを下層の反射層32及び反射抑制層33に転写させ、反射層32A及び反射抑制層33Aのグリッドを形成する。反射層32及び反射抑制層33は、それぞれ異なる物質であり、エッチング性に差があるため、材料に合わせて、エッチングガスを変えることが好ましい。例えば、反射層32にアルミニウムを使用した場合、塩素系のプラズマを用いることが好ましく、反射抑制層33にSiO
2やFeSiを使用した場合には、フッ素系プラズマを用いることが好ましい。また、Al
2O
3を用いた場合には、BCl
3を用いることがこのましい。このようにエッチングガスを材料により使い分けることにより、材料の境界の断面形状がエッチング性の違いにより乱れるのを抑制することができ、光学特性の劣化を抑制することができる。
【0040】
次に、誘電体部成膜工程S5において、反射層32A及び反射抑制層33Aが形成された格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体部34を不連続に形成する。誘電体部34の形成は、物理蒸着法、化学蒸着法などを用いることができる。これらの中でも、特にALD法(Atomic Layer Deposition法、原子堆積法)を用いることが好ましい。これにより、アスペクト比の高いトレンチ構造でも、溝の細部まで均等に誘電体を付着させることができる。
【0041】
次に、撥水部成膜工程S6において、誘電体部34の表面に撥水性化合物を塗布する。撥水性化合物の塗布方法としては、ディップ塗布、スピンコート、ベーパー処理などが挙げられる。これらの中でも、特にべーパー処理を用いることが好ましい。これにより、撥水性化合物をアスペクト比の高いトレンチ構造の細部まで塗布できる。
【0042】
次に、熱処理工程S7において、加熱処理を行い、誘電体部34と撥水性化合物とを結合させ、誘電体部34の表面に撥水性を有する撥水部35を形成すするとともに、誘電体部以外の場所に付着している撥水性化合物を蒸発除去させる。加熱処理の温度は、250〜350℃であることが好ましく、280〜320℃であることがより好ましい。
【0043】
このような偏光板の製造方法によれば、アスペクト比の高いトレンチ構造であっても誘電体部及び撥水部を不連続に形成することができ、優れた光学特性及び耐久性を有する偏光板を得ることができる。
【実施例】
【0044】
<3.実施例>
以下、本技術の実施例について説明する。なお、本技術はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[シミュレーション]
先ず、ワイヤーグリッド型の偏光板において、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に成膜されるSiO
2の厚みの影響について、シミュレーションを行った。
【0046】
図4は、シミュレーションを行うワイヤーグリッド型の偏光板の構成を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、この偏光板は、透明基板51と、基板51上に141nmのピッチPで配列された幅W35nmのAlからなる反射層52と、反射層52上に配置され、SiO
2とFeSiとからなり、反射層52側から厚み方向へFeSiの濃度が高くなる混合層53とを備えることとした。また、基板51の掘り込み51Aの深さD
51は25nm、反射層52の厚みT
52は250nm、混合層53の厚みT
53は34nmとした。そして、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体部54として所定厚み(0,1,2,5,10nm)のSiO
2と、撥水部55として1nmのFDTS(トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル)シラン)とを備えることとした。
【0047】
シミュレーションは、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより行った。シミュレーションには、Grating Solver Development社製のグレーティングシミュレータ「Gsolver」を用いた。
【0048】
図5は、誘電体部として所定厚み(0,1nm,2nm,5nm,10nm)のSiO
2を成膜したときの透過軸透過率Tpのシミュレーション結果を示すグラフであり、
図6は、誘電体部として所定厚み(0,1nm,2nm,5nm,10nm)のSiO
2を成膜したときの吸収軸透過率Tsのシミュレーション結果を示すグラフである。また、
図7は、SiO
2の厚みに対する各波長帯域の透過軸透過率Tpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフであり、
図8は、SiO
2の厚みに対する各波長帯域の吸収軸透過率Tsの平均値のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、透過軸透過率Tpは、グリッドに垂直な方向の透過率であり、吸収軸透過率Tsは、グリッドに平行な方向の透過率である。
【0049】
図5及び
図7に示すように、透過軸透過率Tpは、特に、青色波長帯域(波長430−510nm)において、SiO
2の厚みが増加するほど低下することが分かった。また、
図6及び
図8に示すように、吸収軸透過率Tsは、SiO
2の厚みが1nm,2nm,5nmの場合、SiO
2の厚みが0nmの場合に比して、緑色波長帯域(波長520−590nm)及び赤色波長帯域(波長600−680nm)において、低下することが分かった。また、SiO
2の厚みが10nmの場合、SiO
2の厚みが0nmの場合に比して、青色波長帯域(波長430−510nm)及び緑色波長帯域(波長520−590nm)において、高くなることが分かった。これらのシミュレーション結果より、SiO
2の厚みが1nm程度の場合、透過軸透過率Tpが高く、吸収軸透過率Tsが低くなり、光学特性上良好であることが分かった。
【0050】
[偏光板の作製]
次に、誘電体部として所定厚み(0.8nm,1.0nm,1.2nm,10nm)のSiO
2を成膜した偏光板を作製し、耐熱性及び耐煮沸性について評価した。また、偏光板を構成する材料の接触角について検討した。
【0051】
図9は、実験で作製する偏光板の構成を模式的に示す断面図である。
図9に示すように、この偏光板は、透明基板61と、透明基板61上にSiO
2からなる反射層下地層62Aと、反射層下地層62A上に141nmのピッチPで配列された幅W35nmのAlからなる反射層62と、反射層62上に配置された、SiO
2からなる第1の誘電体層63Aと、FeSiかなる吸収層63Bと、SiO
2からなる第2の誘電体層63Cとを備えることとした。また、反射層下地層62Aの厚みは80nm、反射層下地層62Aの掘り込み62Bの深さD
62Aは25nm、反射層62の厚みT
62は250nm、第1の誘電体層63Aの厚みT63Aは5nm、吸収層63Bの厚みT63Bは25nm、第2の誘電体層63Cの厚みT63Cは10nmとした。そして、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の底面部の表面に誘電体部64として所定厚み(0.8nm,1.0nm,1.2nm,10nm)のSiO
2をALD法により成膜し、撥水部65として1nm程度のFDTSをべーパー処理により成膜した。
【0052】
図10は、カーボン膜上にALD法でSiO
2を1nm成膜したときのTEM(Transmission Electron Microscope)画像である。偏光板上に形成した誘電体部の観察は困難であるため、カーボン膜上にSiO
2を成膜し、誘電体部の偏光板上の存在状態をシミュレートした。
図10において、白色部71はカーボンであり、黒色部72はSiO
2であり、SiO
2が島状に付着していることが分かった。
図10より、SiO
2を0.8〜1.2nm成膜した場合、一様な膜とはならず、不連続なSiO
2が形成されるものと考えられる。
【0053】
[耐熱性]
耐熱性試験の温度は250℃とした。耐熱性試験後の各偏光板について、コントラスト(透過軸透過率/吸収軸透過率)を測定し、耐熱性試験前からのコントラストの変化率を算出した。
【0054】
図11は、耐熱性試験の試験時間に対するコントラストの変化率を示すグラフである。
図11に示すように、SiO
2を成膜しない場合、短い試験時間でコントラストの変化率が大きくなり、500時間の試験時間での変化率が40%程度であった。一方、厚み0.8nm、1.0nm、1.2nmのSiO
2を成膜した場合、500時間の試験時間でも変化率が10%以下であった。以上より、SiO
2を0.8〜1.2nm成膜した場合、優れた光学特性を維持したまま、従来の10nmの成膜と同等の耐熱性を示すことが分かった。
【0055】
[各材料の接触角]
次に、偏光板を構成する各材料の撥水処理後の接触角について、誘電体としてのSiO
2膜の有無の影響について検討した。
【0056】
表1に、SiO
2を成膜せずに撥水処理したときの初期及び熱処理後の接触角を示す。基板(コーニング社製、EAGLE XG)上に各材料を成膜した後、FDTSをべーパー処理により成膜した。熱処理は、300℃の温度で16時間行った。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、Al膜、基板、FeSi膜は、撥水処理後の初期の接触角が高く、撥水性を示しているが、熱処理後では、FDTSが蒸発したため、撥水性が消失した。一方、SiO
2膜は、FDTSとSiO
2が結合したため、撥水剤が蒸発せずに撥水性を示すことが分かった。
【0059】
表2に、SiO
2の成膜後に撥水処理したときの初期及び熱処理後の接触角を示す。基板(コーニング社製、EAGLE XG)上に各材料を成膜した後、ALD法により所定厚みのSiO
2を成膜し、FDTSをべーパー処理により成膜した。また、
図9に示す偏光板において、ALD法により所定厚みのSiO
2を成膜し、FDTSをべーパー処理により成膜した。熱処理は、300℃の温度で16時間とした。
【0060】
【表2】
【0061】
表2より、全ての材料においてSiO
2を成膜することにより、FDTSとSiO
2とが結合し、FDTSが蒸発せずに撥水性を示すことが分かった。
【0062】
以上より、誘電体部としてSiO
2を1nm程度、具体的には0.8〜1.2nm成膜し、撥水部を形成することにより、優れた光学特性を維持したまま、良好な耐久性が得られることが分かった。