【課題】本開示は、樹脂形成領域に対して溶融樹脂を適切に注入することが可能で且つ溶融樹脂の注入後における樹脂注入装置のメンテナンスを容易に行うことが可能な鉄心製品の製造方法を説明する。
【解決手段】回転子積層鉄心の製造方法は、樹脂ペレットPを冷蔵庫内から取り出し、樹脂ペレットPを25℃よりも高い温度で24時間以上加熱することと、磁石挿入孔を有する積層体を下型と樹脂ガイド部材及び上型とで挟持することと、加熱された樹脂ペレットPを、上型の樹脂ポットに配置することと、樹脂ポット内の樹脂ペレットPを溶融状態とし、樹脂ガイド部材20の樹脂流路を通じて溶融樹脂を磁石挿入孔に注入することと、磁石挿入孔に注入された溶融樹脂を硬化させることとを含む。
エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び離型剤を含む熱硬化性樹脂組成物が所定形状に成形された樹脂ペレットを冷蔵庫内から取り出し、前記樹脂ペレットを25℃よりも高い温度で24時間以上加熱することと、
溶融樹脂の注入により樹脂が形成される対象の領域である樹脂形成領域を有する鉄心本体を一対の挟持部材で挟持することと、
加熱された前記樹脂ペレットを、前記一対の挟持部材の少なくとも一方に形成されている樹脂ポットに配置することと、
前記樹脂ポット内の前記樹脂ペレットを溶融状態とし、前記樹脂ポットから連通するように前記樹脂形成領域に延びる樹脂流路を通じて溶融樹脂を前記樹脂形成領域に注入することと、
前記樹脂形成領域に注入された溶融樹脂を硬化させることとを含む、鉄心製品の製造方法。
前記樹脂ペレットを加熱することは、前記冷蔵庫から取り出された前記樹脂ペレットを、25℃よりも高い温度に温度調節された熱処理室内に24時間以上放置しておくことを含む、請求項1又は2に記載の方法。
前記樹脂ペレットを加熱することは、複数の前記樹脂ペレットが収容された袋を前記冷蔵庫から取り出し、前記袋を25℃よりも高い温度で24時間以上加熱することを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。
【0010】
ところで、樹脂ペレットは、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、フィラー、離型剤等を含む熱硬化性樹脂組成物が所定の大きさ及び形状に成型されたものである。樹脂ペレットの成形直後から架橋反応が進行するので、そのまま樹脂ペレットを放置しておくと、樹脂注入工程において影響が生じてしまう。具体的には、樹脂ペレットが溶融した際の溶融樹脂の流動性(発現粘度)が適切でなく、樹脂形成領域(例えば磁石挿入孔)に未充填領域が生じたり、下型又は上型と鉄心本体との隙間等から溶融樹脂が漏れ出すことが生じたりしうる。
【0011】
従って、樹脂ペレットの製造メーカーは、樹脂ペレットの成形後に袋詰めし、樹脂ペレット入りの袋を低温(例えば4℃程度)が維持された冷蔵庫(冷蔵コンテナ)内に収容して客先に出荷している。樹脂ペレットの製造メーカーによれば、次のように樹脂ペレットを利用することを推奨している。すなわち、樹脂ペレットを使用するまでは購入者においても低温で保管しておき、使用の際には、樹脂ペレットが溶融状態になったときに適切な流動性が発揮されるよう、樹脂ペレットを常温で24時間放置することが望ましいとされている。本明細書において、「常温」とは、23℃±2℃を意味する(ISO554:1976 23/50に準拠)。また、樹脂ペレットが溶融状態になったときの粘度を、本明細書では「発現粘度」と称する。
【0012】
しかしながら、製造メーカーの推奨に従って常温で24時間放置した後の樹脂ペレットを用いた場合、溶融樹脂が接触するプランジャ、樹脂流路、上型又は下型等の表面に固化した樹脂が付着したまま残留してしまうことがあった。そのため、残留樹脂を除去するための樹脂注入装置のメンテナンスに手間を要していた。本発明者等が鋭意検討したところ、使用前の樹脂ペレットに対して予め所定の熱処理を施しておくことにより、樹脂が樹脂注入装置に残留し難くなるという新たな知見が得られた。
【0013】
例1.一つの例に係る鉄心製品の製造方法は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び離型剤を含む熱硬化性樹脂組成物が所定形状に成形された樹脂ペレットを冷蔵庫内から取り出し、樹脂ペレットを25℃よりも高い温度で24時間以上加熱することと、溶融樹脂の注入により樹脂が形成される対象の領域である樹脂形成領域を有する鉄心本体を一対の挟持部材で挟持することと、加熱された樹脂ペレットを、一対の挟持部材の少なくとも一方に形成されている樹脂ポットに配置することと、樹脂ポット内の樹脂ペレットを溶融状態とし、樹脂ポットから連通するように樹脂形成領域に延びる樹脂流路を通じて溶融樹脂を樹脂形成領域に注入することと、樹脂形成領域に注入された溶融樹脂を硬化させることとを含む。
【0014】
一つの例に係る鉄心製品の製造方法によれば、樹脂ペレットを加熱して溶融状態として鉄心本体の樹脂形成領域に注入する前に、樹脂ペレットに対して所定の熱処理を施している。そのため、製造メーカーの推奨条件で樹脂ペレットを準備する場合と比較して、樹脂ペレットが溶融したときの流動性(発現粘度)が樹脂注入に極めて適した大きさとなる。従って、樹脂形成領域に対して溶融樹脂を適切に注入することが可能となる。加えて、製造メーカーの推奨条件で樹脂ペレットを準備する場合と比較して、樹脂ペレットを構成するエポキシ樹脂の架橋反応がより進行する。その後、溶融樹脂を鉄心本体の樹脂形成領域に注入して加熱を続ける(保温する)と、エポキシ樹脂の架橋反応がさらに進行して、溶融樹脂が徐々に硬化する。その際、溶融樹脂に含まれる離型剤が外表面に滲みだして離型層を形成する。すなわち、所定の熱処理が施された樹脂ペレットは、準備の段階でエポキシ樹脂の架橋反応が進行した分、樹脂ペレットに含まれていた離型剤が溶融樹脂の外表面に滲みだしやすくなっている。従って、樹脂と樹脂注入装置との間に離型剤が介在しやすくなるので、樹脂が樹脂注入装置に残留し難くなる。その結果、溶融樹脂の注入後における樹脂注入装置のメンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0015】
例2.上記例1に記載の方法において、樹脂ペレットを加熱することは、樹脂ペレットを28℃〜32℃の温度で48時間以上加熱することを含んでもよい。この場合、樹脂ペレットが溶融した溶融樹脂の発現粘度を、当該溶融樹脂が樹脂形成領域に注入されるのにより適した状態とすることが可能となる。
【0016】
例3.上記例1又は例2に記載の方法において、樹脂ペレットを加熱することは、冷蔵庫から取り出された樹脂ペレットを、25℃よりも高い温度に温度調節された熱処理室内に24時間以上放置しておくことを含んでいてもよい。この場合、樹脂ペレットを熱処理室内に所定時間放置しておくだけで、熱処理された樹脂ペレットを手間なく得ることが可能となる。
【0017】
例4.上記例1〜例3のいずれか一つに記載の方法において、樹脂ペレットを加熱することは、複数の樹脂ペレットが収容された袋を冷蔵庫から取り出し、袋を25℃よりも高い温度で24時間以上加熱することを含んでいてもよい。袋を熱処理することで、熱処理された複数の樹脂ペレットを一度に得ることが可能となる。
【0018】
<<実施形態の例示>>
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0019】
[熱処理装置の構成]
図1に示される熱処理装置100は、樹脂ペレットP(
図2及び
図3参照)を熱処理する機能を有する。樹脂ペレットPは、熱硬化性樹脂組成物が所定の大きさ及び形状に成型されたものである。樹脂ペレットPは、例えば直径及び高さがそれぞれ数mm程度の円柱形状を呈していてもよい。樹脂ペレットPを構成する熱硬化性樹脂組成物は、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、フィラー、離型剤、その他の添加剤が混合されたものであってもよい。熱硬化性樹脂組成物を100質量%とした場合、エポキシ樹脂の含有量が20質量%以下であり、硬化剤の含有量が10質量%以下であり、硬化促進剤の含有量が1質量%以下であり、フィラーの含有量が70質量%以下であり、離型剤の含有量が1%以下であってもよい。その他の添加物としては、例えば、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0020】
熱処理装置100は、熱処理室101と、空調装置102と、温度センサ103と、コントローラ104とを備える。熱処理室101は、所定量の樹脂ペレットPを貯蔵可能に構成されている。
図1に示されるように、複数の樹脂ペレットPが収容された袋Bが熱処理室101内に貯蔵されてもよい。袋Bの内部又は外部に乾燥剤が取り付けることで、袋B内の樹脂ペレットPによる吸湿が抑制されていてもよい。
【0021】
空調装置102は、コントローラ104からの指示信号に基づいて動作し、熱処理室101内の温度を調節するように構成されている。空調装置102は、例えば、ルームエアコンが挙げられる。温度センサ103は、熱処理室101内の温度を測定するように構成されている。温度センサ103は、測定した温度のデータをコントローラ104に送信する。
【0022】
コントローラ104は、温度センサ103から受信した温度のデータと設定温度とが一致していない場合に、熱処理室101の温度が設定温度に近づくように空調装置102を動作させる。従って、熱処理室101内は、常に設定温度に保たれる。設定温度は、常温(25℃)よりも高い温度であって、28℃〜32℃であってもよいし、29℃〜31℃であってもよいし、30℃であってもよい。
【0023】
[回転子積層鉄心及び樹脂注入装置の構成]
樹脂注入装置1は、鉄心本体における所定の樹脂形成領域に溶融樹脂を注入する機能を有する。本実施形態では、樹脂注入装置1が、回転子積層鉄心2(
図2参照)の製造に用いられる。
【0024】
まず、
図2及び
図3を参照して、回転子積層鉄心2について説明する。回転子積層鉄心2は、回転子(ロータ)の一部である。回転子積層鉄心2に端面板及びシャフトが取り付けられることにより、回転子が構成される。回転子が固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。本実施形態における回転子積層鉄心2は、埋込磁石型(IPM)モータに用いられる。回転子積層鉄心2は、積層体3(鉄心本体)と、複数の永久磁石4と、複数の固化樹脂5とを備える。
【0025】
積層体3は、円筒状を呈している。すなわち、積層体3の中央部には、中心軸に沿って延びるように積層体3を貫通する軸孔3aが設けられている。軸孔3a内には、シャフトが挿通される。
【0026】
積層体3には、複数の磁石挿入孔6(樹脂形成領域)が形成されている。磁石挿入孔6は、
図1に示されるように、積層体3の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔6は、軸孔3aに沿って延びるように積層体3を貫通している。
【0027】
積層体3は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、電磁鋼板が所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体3に対応する形状を呈している。積層体3は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に積層体3の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0028】
積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、カシメによって締結されていてもよいし、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して積層体3を得た後、仮カシメを当該積層体から除去してもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ製品(回転子積層鉄心2)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0029】
永久磁石4は、
図2及び
図3に示されるように、各磁石挿入孔6内に一つずつ挿入されている。永久磁石4の形状は、特に限定されないが、本実施形態では直方体形状を呈している。永久磁石4の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて決定すればよく、例えば、焼結磁石であってもよいし、ボンド磁石であってもよい。
【0030】
固化樹脂5は、
図3に示されるように、永久磁石4が挿入された後の磁石挿入孔6内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填された後に当該溶融樹脂が固化したものである。固化樹脂5は、永久磁石4を磁石挿入孔6内に固定する機能と、積層方向(上下方向)で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。
【0031】
続いて、
図2及び
図3を参照して、樹脂注入装置1の構成について説明する。樹脂注入装置1は、下型10(挟持部材)と、樹脂ガイド部材20(挟持部材)と、上型30(挟持部材)と、複数のプランジャ40とを含む。
【0032】
下型10は、ベース部材11と、ベース部材11に設けられた挿通ポスト12とを含む。ベース部材11は、矩形状を呈する板状体である。ベース部材11は、積層体3を載置可能に構成されている。挿通ポスト12は、ベース部材11の略中央部に位置しており、ベース部材11の上面から上方に向けて突出している。挿通ポスト12は、円柱形状を呈しており、積層体3の軸孔3aに対応する外形を有する。
【0033】
樹脂ガイド部材20は、溶融樹脂を所定の磁石挿入孔6に導く機能を有する。樹脂ガイド部材20は、矩形状を呈する板状体である。樹脂ガイド部材20には、
図2及び
図3に示されるように、一つの貫通孔20aと、複数の貫通孔20b(樹脂流路)と、複数のランナ溝20c(樹脂流路)とが設けられている。貫通孔20aは、挿通ポスト12の外径と同程度の大きさの円形状を呈しており、樹脂ガイド部材20の略中央部に配置されている。
【0034】
複数の貫通孔20bは、貫通孔20aの周りを取り囲んで環状をなすように配置されている。
図2に示されるように、複数の貫通孔20bはそれぞれ、樹脂ガイド部材20が積層体3に載置された状態で、対応する磁石挿入孔6と少なくとも部分的に重なり合うと共に連通する。そのため、貫通孔20bは、溶融樹脂を磁石挿入孔6に注入するゲート孔として機能する。
【0035】
複数のランナ溝20cはそれぞれ、樹脂ガイド部材20の表面に沿って延びている。本実施形態では、複数のランナ溝20cはそれぞれ、貫通孔20aの径方向に沿って放射状に延びている。各ランナ溝20cの内側端部は、対応する貫通孔20bと連通している。そのため、貫通孔20b及びランナ溝20cは、溶融樹脂の磁石挿入孔6内への樹脂注入流路として機能する。
【0036】
上型30は、下型10及び樹脂ガイド部材20と共に積層体3をその厚さ方向(積層方向)において挟持可能に構成されている。上型30は、矩形状を呈する板状体である。上型30には、一つの貫通孔30aと、複数の貫通孔30b(樹脂ポット)と、図示しない内蔵熱源(例えばヒータ等)とが設けられている。
【0037】
貫通孔30aは、貫通孔20aと同様の形状及び大きさを有しており、上型30の略中央部に配置されている。複数の貫通孔30bは、貫通孔30aの周りを取り囲んで環状をなすように配置されている。
図3に示されるように、複数の貫通孔30bはそれぞれ、上型30が樹脂ガイド部材20に載置された状態で、ランナ溝20cの外側端部と少なくとも部分的に重なり合う。貫通孔30bはそれぞれ、樹脂ペレットPを少なくとも一つ収容する機能を有する。上型30の内蔵熱源によって樹脂ペレットPが加熱されると、貫通孔30b内において樹脂ペレットPが溶融して溶融樹脂に変化する。
【0038】
複数のプランジャ40は、上型30の上方に位置している。各プランジャ40は、図示しない駆動源によって、対応する貫通孔30bに対して挿抜可能となるように構成されている。
【0039】
[回転子積層鉄心の製造方法]
続いて、
図1〜
図3を参照して、回転子積層鉄心2の製造方法について説明する。ここでは、積層体3を形成する工程の説明は省略する。
【0040】
まず、樹脂ペレットPに熱処理を施す。具体的には、図示しない冷蔵庫(冷蔵コンテナ)から袋Bを取り出し、28℃〜30℃に維持された熱処理室101内に投入して、袋Bを熱処理室101内に24時間以上放置する。樹脂ペレットPに対する熱処理の時間(放置時間)は、24時間以上であってもよいし、48時間以上であってもよいし、48時間〜120時間であってもよいし、48時間〜96時間であってもよいし、48時間〜72時間であってもよい。このとき、袋Bの内部又は外部に乾燥剤が取り付けられていてもよい。
【0041】
続いて、
図2に示されるように、挿通ポスト12が積層体3の軸孔3a内に挿通されるように、積層体3を下型10上に載置する。次に、磁石挿入孔6内に永久磁石4をそれぞれ一つずつ挿入する。次に、貫通孔20a内に挿通ポスト12が挿通され、且つ、各貫通孔20bが、対応する磁石挿入孔6と連通するように、樹脂ガイド部材20を積層体3の上面に載置する。
【0042】
次に、次に、貫通孔30a内に挿通ポスト12が挿通され、且つ、各貫通孔30bが、対応するランナ溝20cの外側端部と連通するように、上型30を樹脂ガイド部材20の上面に載置する。これにより、積層体3が下型10と樹脂ガイド部材20及び上型30との対によって挟持される。このとき、磁石挿入孔6、貫通孔20b、ランナ溝20c及び貫通孔30bがいずれも連通した状態となる。
【0043】
次に、熱処理された樹脂ペレットPを袋Bから取り出して各貫通孔30b内に投入する。上型30の内蔵熱源によって樹脂ペレットPが溶融状態となると(溶融処理)、
図3に示されるように、プランジャ40が溶融樹脂を貫通孔30bから押し出し、各磁石挿入孔6内に溶融樹脂が注入される。内蔵熱源の温度は、例えば、150℃〜185℃程度であってもよいし、170℃〜180℃程度であってもよい。
【0044】
その後、溶融樹脂が固化すると、磁石挿入孔6内に固化樹脂5が形成される。下型10、樹脂ガイド部材20及び上型30が積層体3から取り外されると、回転子積層鉄心2が完成する。
【0045】
ここで、
図4を参照して、貫通孔20bにおける溶融樹脂Mの流通過程をより詳細に説明する。なお、溶融樹脂Mは樹脂注入装置1のうち貫通孔20b以外の箇所も流通するが、同様の流通過程を経るので説明を省略する。
【0046】
図4(a)に示されるように、樹脂ガイド部材20の貫通孔20bの内壁面には、離型剤RA又は離型性が高いコーティング剤が予め付与されていてもよい。図示していないが、樹脂注入装置1において溶融樹脂が流通する箇所には、同様に、離型剤RA又は離型性が高いコーティング剤が予め付与されていてもよい。
【0047】
樹脂ペレットPが溶融した溶融樹脂Mは、
図4(b)に示されるように、溶融樹脂Mが貫通孔20bの内壁面の離型剤RAによって潤滑されながら貫通孔20b内を流通する。その後、上型30の内蔵熱源から付与される熱が樹脂ペレットPに含まれる硬化剤に作用することにより、エポキシ樹脂の架橋反応が進行して樹脂が徐々に硬化する。この際、
図4(c)に示されるように、そのため、樹脂ペレットPに含まれていた離型剤が溶融樹脂Mの外表面に滲みだし、貫通孔20bの内壁面に供給される。これにより、溶融樹脂Mと貫通孔20bの内壁面との間に離型層が形成される。このように所定の熱処理が施された樹脂ペレットPは、準備の段階でエポキシ樹脂の架橋反応が進行した分、樹脂ペレットPに含まれていた離型剤が溶融樹脂Mの外表面に滲みだしやすい。
【0048】
溶融樹脂Mが貫通孔20b内において硬化すると、貫通孔20b内に固化樹脂Sが形成される。この固化樹脂Sは、カルと呼ばれることもある。固化樹脂Sは、
図4(d)に示されるように、棒材等の除去器具を用いて貫通孔20bから押し出される。この際、溶融樹脂Mから離型剤が貫通孔20bの内壁面に十分に滲み出ていたので、固化樹脂Sが貫通孔20bから容易に除去される。
【0049】
[作用]
以上のような本実施形態では、樹脂ペレットPを溶融状態として積層体3の磁石挿入孔6に注入する前に、樹脂ペレットPに対して所定の熱処理を施している。そのため、製造メーカーの推奨条件で樹脂ペレットPを準備する場合と比較して、樹脂ペレットPが溶融したときの流動性(発現粘度)が樹脂注入に極めて適した大きさとなる。従って、磁石挿入孔6に対して溶融樹脂を適切に注入することが可能となる。加えて、製造メーカーの推奨条件で樹脂ペレットを準備する場合と比較して、樹脂ペレットPを構成するエポキシ樹脂の架橋反応がより進行する。従って、溶融樹脂Mと樹脂注入装置1との間に離型剤が介在しやすくなるので、固化樹脂Sが容易に除去されて樹脂注入装置1に残留し難くなる。その結果、溶融樹脂Mの注入後における樹脂注入装置1のメンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0050】
なお、32℃を超える温度で48時間よりも短時間で樹脂ペレットPを熱処理して、所望の発現粘度を有する樹脂ペレットPをより短時間で得ることも考えられる。しかしながら、本発明者等が鋭意検討したところ、熱処理の完了後も架橋反応が進行するので、熱処理が完了してから実際に樹脂ペレットPを使用するまで時間があくほど、発現粘度が高くなってしまうという知見を得た。回転子積層鉄心2の製造工場においては、多量の樹脂ペレットPが収容された複数の袋Bを一度に熱処理し、袋Bから樹脂ペレットPを徐々に取り出しながら使用するため、熱処理後ある程度(例えば1日程度)時間が経過した樹脂ペレットPが使用される状況もしばしば発生する。そのため、一般的には、32℃以下の温度で48時間以上の時間をかけて樹脂ペレットPを熱処理することが好ましい。ただし、熱処理された樹脂ペレットPを熱処理後に短時間で使い切ることが可能な状況においては、32℃を超える温度でより短時間(24時間以上)に樹脂ペレットPを熱処理することも採用しうる。
【0051】
本実施形態では、樹脂ペレットPが28℃〜32℃の温度で48時間以上加熱されてもよい。この場合、樹脂ペレットPが溶融した溶融樹脂の発現粘度を、当該溶融樹脂が磁石挿入孔6に注入されるのにより適した状態とすることが可能となる。
【0052】
本実施形態では、樹脂ペレットPの加熱の一つの態様として、所定温度に温度調節された熱処理室101内に樹脂ペレットPを所定時間放置することで、樹脂ペレットPの熱処理が完了する。そのため、熱処理された樹脂ペレットPを手間なく得ることが可能となる。
【0053】
本実施形態では、複数の樹脂ペレットPが収容された袋Bを熱処理室101内に放置している。そのため、熱処理された複数の樹脂ペレットPを一度に得ることが可能となる。
【0054】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0055】
(1)樹脂ペレットPを一定の温度に加熱することができれば、熱処理装置100以外の熱処理手段を用いてもよい。例えば、一定の温度に維持されたホットプレート上に樹脂ペレットP又は樹脂ペレットPが収容された袋Bを載置したり、送風機を用いて一定の温度の熱風を樹脂ペレットP又は樹脂ペレットPが収容された袋に送風したりすることで、樹脂ペレットPを一定の温度に加熱してもよい。
【0056】
(2)樹脂ガイド部材20は、溶融樹脂を磁石挿入孔6(樹脂形成領域)にガイドする機能を有していれば、板状以外の他の形状を呈する部材で構成されていてもよい。
【0057】
(3)下型10と積層体3との間に樹脂ガイド部材20が配置されており、下型10から磁石挿入孔6内に溶融樹脂が注入されてもよい。下型10と積層体3との間、及び、上型30と積層体3との間の双方に樹脂ガイド部材20が配置されており、下型10及び上型30から磁石挿入孔6内に溶融樹脂が注入されてもよい。
【0058】
(4)樹脂注入装置1は、樹脂ガイド部材20を備えていなくてもよい。この場合、貫通孔20b及びランナ溝20cに相当する樹脂流路が下型10又は上型30に直接形成されていてもよい。
【0059】
(5)樹脂ペレットPの熱処理は、下型10と樹脂ガイド部材20及び上型30との対によって積層体3が挟持されるまでに完了していればよい。
【0060】
(6)上記の実施形態では、下型10に積層体3を取り付けた後に、各磁石挿入孔6内に永久磁石4を挿入していたが、各磁石挿入孔6内に永久磁石4が挿入された状態の積層体3を下型10に取り付けてもよい。
【0061】
(7)2つ以上の永久磁石4が組み合わされた一組の磁石組が、一つの磁石挿入孔6内にそれぞれ挿入されていてもよい。この場合、一つの磁石挿入孔6内において、複数の永久磁石4が磁石挿入孔6の長手方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔6内において、複数の永久磁石4が磁石挿入孔6の延在方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔6内において、複数の永久磁石4が当該長手方向に並ぶと共に複数の永久磁石4が当該延在方向において並んでいてもよい。
【0062】
(8)上記の実施形態では、複数の打抜部材Wが積層されてなる積層体3が、永久磁石4が取り付けられる鉄心本体として機能していたが、鉄心本体が積層体3以外で構成されていてもよい。具体的には、鉄心本体は、例えば、強磁性体粉末が圧縮成形されたものであってもよいし、強磁性体粉末を含有する樹脂材料が射出成形されたものであってもよい。
【0063】
(9)回転子積層鉄心2のみならず、固定子積層鉄心に本発明を適用してもよい。
【0064】
(10)樹脂形成領域は磁石挿入孔6に限定されない。例えば、樹脂形成領域は、固定子積層鉄心のスロットの表面であってもよい。この場合、例えば、スロット内に中子が挿入されてスロットの表面と中子の外周面との間に生ずる空間内に、樹脂注入装置1が溶融樹脂を注入することで、固化樹脂5がスロットの表面に形成されてもよい。
【0065】
(11)打抜部材W同士が樹脂材料を用いて互いに接合される場合には、例えば、積層方向に貫通するように積層体3に設けられた結合孔(樹脂形成領域)内に溶融樹脂を充填することによって、積層方向に隣り合う打抜部材W同士を互いに接合してもよい。また、打抜部材W同士の接合手法は、カシメ14による接合、接着剤による接合、溶接による接合を併用したものであってもよい。
【0066】
(12)樹脂形成領域の大きさ、深さ等に応じて、樹脂ペレットPの加熱時間又は加熱温度を変化させてもよい。例えば、磁石挿入孔6が比較的長い場合(積層体3が比較的高背である場合)又は磁石挿入孔6とそれに挿入された永久磁石4との隙間が比較的小さい場合には、磁石挿入孔6において未充填領域が生じないよう溶融樹脂をスムーズに磁石挿入孔6内全体に注入するために、比較的低い温度で比較的短時間に樹脂ペレットPを加熱して、比較的低い発現粘度の溶融樹脂を得るようにしてもよい。あるいは、例えば、磁石挿入孔6が比較的短い場合(積層体3が比較的低背である場合)又は磁石挿入孔6とそれに挿入された永久磁石4との隙間が比較的大きい場合には、隙間等から溶融樹脂が漏れ出さないようにするために、比較的高い温度で比較的長時間に樹脂ペレットPを加熱して、比較的高い発現粘度の溶融樹脂を得るようにしてもよい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
[充填性]
主要成分としてシリカを55重量%〜65重量%、エポキシ樹脂を10重量%〜20重量%、フェノール樹脂を5重量%〜10重量%含有する樹脂で構成された樹脂ペレットPを用いて、熱処理室101の温度及び熱処理時間を変化させたときの樹脂ペレットPの発現粘度を測定した。発現粘度の測定には、株式会社島津製作所製「定試験力押出形 細管式レオメータ フローテスタ CFT−500EX」を用いた。試験は定温法で行い、計算式としてハーゲンポアズイユの法則を用いた。試験条件として、試験力を230kgf、試験温度を175℃、予熱時間を10秒、ダイ孔径を1mm、ダイ長さを10mmに設定した。また、熱処理後の各樹脂ペレットPを用いて、樹脂注入装置1により溶融樹脂を磁石挿入孔6内に充填する試験を行った。
【0069】
発現粘度の測定結果を表1及び
図5に示す。
図5は、横軸を熱処理時間、縦軸を発現粘度として、10Pa・s〜50Pa・sの発現粘度の範囲で表1のデータをプロットしたグラフである。なお、各近似曲線は、切片を15.1とした指数近似曲線である。
【表1】
【0070】
表1及び
図5に示されるとおり、温度が35℃で且つ熱処理時間が96時間以上である場合、発現粘度が極めて高く、磁石挿入孔6内に溶融樹脂を注入できなかった。温度が35℃で且つ熱処理時間が72時間である場合、発現粘度が高いものの、磁石挿入孔6内に溶融樹脂を注入することができた。ただし、磁石挿入孔6内に樹脂の未充填領域が生じた。その他の条件においては、発現粘度が適切であり、未充填領域が生ずることなく磁石挿入孔6内に溶融樹脂を充填することができた。以上より、温度が32℃以下で樹脂ペレットPを熱処理した場合に、磁石挿入孔6に対して溶融樹脂を適切に注入できることが確認された。
【0071】
[メンテナンス性]
続いて、樹脂注入装置1のメンテナンス性について試験を行った。具体的には、下記の条件で熱処理された樹脂ペレットPを用いて磁石挿入孔6内に溶融樹脂を充填する作業を行った際に、プランジャ40、樹脂ガイド部材20及び下型10のそれぞれに付着した固化樹脂Sを除去するのに要する労力を評価した。その結果を表2〜表4に示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【0072】
表2〜表4に示されるとおり、プランジャ40及び樹脂ガイド部材20において、熱処理された樹脂ペレットPを用いた場合に、清掃頻度が半減した。プランジャ40、樹脂ガイド部材20及び下型10のいずれにおいても、熱処理された樹脂ペレットPを用いた場合に、簡便な方法で清掃できたと共に、固化樹脂Sの除去時間が大幅に短縮化された。以上より、熱処理された樹脂ペレットPを用いた場合、溶融樹脂Mの注入後における樹脂注入装置1のメンテナンスを容易に行えることが確認された。
【0073】
(実施例2)
[充填性]
実施例2においては、主要成分としてシリカを70重量%〜80重量%、エポキシ樹脂を10重量%〜20重量%、フェノール樹脂を5重量%〜10重量%含有する樹脂で構成された樹脂ペレットPを用いた以外は、実施例1と同様の試験条件とした。
【0074】
発現粘度の測定結果を表5及び
図6に示す。
図6は、横軸を熱処理時間、縦軸を発現粘度として、20Pa・s〜180Pa・sの発現粘度の範囲で表5のデータをプロットしたグラフである。なお、各近似曲線は、切片を29.31とした指数近似曲線である。
【表5】
【0075】
表5及び
図6に示されるとおり、温度が35℃で且つ熱処理時間が120時間である場合、発現粘度を測定することができなかった。温度が35℃で且つ熱処理時間が96時間である場合、発現粘度が極めて高く、磁石挿入孔6内に溶融樹脂を注入できなかった。温度が35℃で且つ熱処理時間が72時間である場合、発現粘度が高いものの、磁石挿入孔6内に溶融樹脂を注入することができた。ただし、磁石挿入孔6内に樹脂の未充填領域が生じた。その他の条件においては、発現粘度が適切であり、未充填領域が生ずることなく磁石挿入孔6内に溶融樹脂を充填することができた。以上より、温度が32℃以下で樹脂ペレットPを熱処理した場合に、磁石挿入孔6に対して溶融樹脂を適切に注入できることが確認された。
【0076】
[メンテナンス性]
実施例1と同様に樹脂注入装置1のメンテナンス性について試験を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。すなわち、熱処理された樹脂ペレットPを用いた場合、溶融樹脂Mの注入後における樹脂注入装置1のメンテナンスを容易に行えることが確認された。