は少なくともひとつはOH基を表し、他はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Aは、nが1の時は水素原子又は炭素原子1〜20よりなるアルキル基を表し、nが2の時は、直接結合若しくは酸素原子、SO
配合されるフェノール化合物の配合量が、アスファルトに対して0.05質量%以上、5.0質量%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアスファルト組成物。
【背景技術】
【0002】
アスファルト(歴青質)は骨材などの種々の成分を混合して、アスファルト混合物として用いることにより主に道路舗装材として用いられる。このアスファルト混合物は、低温下では脆化し、高温下では流動するという性質を有する。しかしながら、アスファルト混合物はこの性質により道路舗装材として用いた場合に、季節変動や車輌等の通過を繰り返すことによって、わだち掘れやクラック(ひび割れ)が発生し、アスファルト舗装が破損するといった種々の問題が発生する。この問題は、昨今の交通量の増大、車両の大型化や重量化に伴い一層助長され、アスファルト舗装の寿命が短くなっている。また、このわだち掘れ部に溜まる水のため、泥はねやハイドロプレ―ニング現象を生じたり、車両の走行安定性が損なわれ、事故や渋滞の原因にもなっている。
【0003】
一般に、道路舗装用アスファルトは、原油を常圧蒸留して得られた常圧残油をさらに減圧蒸留して得られる25℃における針入度40〜100のストレートアスファルトが使用されているが、上述のように重交通道路においてわだち掘れが顕著となり、車両の走行安全に支障をきたすという問題がある。
【0004】
このわだち掘れ対策として、高粘弾性のアスファルトがわだち掘れに対して抑制効果があることが知られており(特許文献1、非特許文献1)、60℃における粘度が従来のストレートアスファルトより高いアスファルトが求められている。
【0005】
そこで、原油を蒸留して得られる減圧残油を、さらに200〜300℃の加熱下で空気を数時間吹き込んで得られるセミブローンアスファルトは高粘度であることから、アスファルト舗装道路のわだち掘れを防止する改質アスファルトとして知られている。しかしながら、セミブローンアスファルトを製造する方法はストレートアスファルトの製造方法に比べて、蒸留操作に加えて煩雑なブローイング操作(減圧残油をさらに200〜300℃の加熱下で空気を数時間吹き込む操作)が必要であり、多くのエネルギーが必要であるうえ、反応に伴う廃ガスの処理設備も必要という欠点がある。
【0006】
また、ストレートアスファルトに軽度のブローイング操作を行う方法では空気の吹込量の調整または吹込みを途中で停止する時期の調整が極めて難しく、高度な操作技術が要求され、最終製品の性状もばらつきが大きくならざるを得ない。さらに、この方法では空気の吹込みを途中で停止して製品タンクに抜き出すために、製品中に未反応の空気が残っており、これが作用して、貯蔵中に徐々にブローイング反応が進行して、製品が変質してしまう欠点がある。タンク内での酸化反応を極力抑えるために、タンク内を窒素雰囲気または低温貯蔵にするという対策を実施している場合もあるが、この方法では設備投資及び維持費に多大な金額を必要とするという欠点がある。
【0007】
一方、アスファルト用添加剤としては、骨材との密着性を向上させるためにアスファルトにゴム、樹脂等の高分子材料を添加することが行われてきた。また、アルキルヒドロキシアミン類を添加する方法(特許文献2)、チタネート、リン酸エステル、ロジンエステル等を添加する方法(特許文献3)、酸性有機リン化合物を添加する方法(特許文献4)等が提案されている。しかし、いずれにおいても、60℃における粘度を高める効果は十分ではなく、耐わだち掘れ対策としては十分ではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、セミブローイング等の煩雑な操作を行う必要がなく、耐わだち掘れ性が改善された新しいアスファルト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、アスファルトに特定構造のフェノール化合物を添加することにより、60℃における粘度を高めることができ、耐わだち掘れ性に優れたアスファルトが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第一の発明は、アスファルトに、下記一般式(1)で表されるフェノール化合物を配合することを特徴とする、アスファルト組成物に存する。
【0013】
【化1】
【0014】
上記一般式(1)において、nは1又は2を表し、X
1、X
2、X
3、X
4、X
5は、少なくともひとつはOH基を表し、他はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Aは、nが1の時は水素原子又は炭素原子1〜20よりなるアルキル基を表し、nが2の時は、直接結合若しくは酸素原子、SO
2基又は炭素原子1〜20よりなるアルキレン基を表し、該アルキレン基は、脂環構造を有してもよく、芳香環を有してもよく、炭素原子1〜20よりなるアルキレン基の炭素原子のいずれか1以上をエステル基又はエーテル基で置換した基であってもよい。
【0015】
第二の発明は、上記一般式(1)において、OH基であるX
1、X
2、X
3、X
4、X
5と隣り合うX
1、X
2、X
3、X
4、X
5のいずれかひとつが水素原子である、一般式(1)で表されるフェノール化合物を配合することを特徴とする、第一の発明に記載のアスファルト組成物に存する。
【0016】
第三の発明は、アスファルトに、下記一般式(2)で表されるフェノール化合物を配合することを特徴とする、アスファルト組成物に存する。
【0017】
【化2】
【0018】
上記一般式(2)において、R
1、R
2は、それぞれ、水素原子、炭素原子1〜20よりなるアルキル基を表し、該アルキル基は脂環構造を有してもよく、芳香環を有してもよく、R
1とR
2はたがいに結合して環構造を取ってもよい。Y
1、Y
2、Y
3、Y
4、Y
5、Y
6は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0019】
第四の発明は、配合されるフェノール化合物の配合量が、アスファルトに対して0.05質量%以上、5.0質量%以下である、第一の発明乃至第三の発明のいずれかひとつに記載のアスファルト組成物に存する。
【0020】
第五の発明は、第一の発明乃至第四の発明のいずれかひとつに記載のアスファルト組成物を、酸素存在下に加熱撹拌することを特徴とする、アスファルト組成物の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アスファルトに酸素存在下に本発明のフェノール化合物を添加することにより、60℃における粘度が高まり、耐わだち掘れ性に優れたアスファルト組成物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のアスファルト組成物に添加されるフェノール化合物は下記一般式(1)又は(2)で表される。
【0024】
上記一般式(1)において、nは1又は2を表し、X
1、X
2、X
3、X
4、X
5は、少なくともひとつはOH基を表し、他はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Aは、nが1の時は水素原子又は炭素原子1〜20よりなるアルキル基を表し、nが2の時は、直接結合若しくは酸素原子、SO
2基又は炭素原子1〜20よりなるアルキレン基を表し、該アルキレン基は、脂環構造を有してもよく、芳香環を有してもよく、炭素原子1〜20よりなるアルキレン基の炭素原子のいずれか1以上をエステル基又はエーテル基で置換した基であってもよい。
【0026】
上記一般式(2)において、R
1、R
2は、それぞれ、水素原子、炭素原子1〜20よりなるアルキル基を表し、該アルキル基は脂環構造を有してもよく、芳香環を有してもよく、R
1とR
2はたがいに結合して環構造を取ってもよい。Y
1、Y
2、Y
3、Y
4、Y
5、Y
6は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0027】
上記一般式(1)において、X
1、X
2、X
3、X
4、X
5で表される炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、これらのアルキル基は更に置換基を有してもよい。また、Aで表される炭素原子1〜20よりなるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル基、4−メチル−3−ペンテニル基、デシリデン基等のアルキル基が挙げられ、炭素原子1〜20よりなるアルキレン基としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、1,4−ブチレン基、1,4−ペンチレン基、1,5−ペンチレン基、1,5−ヘキシレン基、1,6−ヘキシレン、1,7−ヘプチレン基、1,8−オクチレン基、1,9−ノニレン基、1,10−デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、デカヒドロナフチレン基、ノルボニレン基、トリシクロデシレン基、ペンタシクロペンタデシレン基、9,9−フルオレン基等が例示できる。
【0028】
上記一般式(2)において、Y
1、Y
2、Y
3、Y
4、Y
5、Y
5で表される炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、これらのアルキル基は更に置換基を有してもよい。
【0029】
一般式(2)において、R
1、R
2で表される炭素原子1〜20よりなるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル基、4−メチル−3−ペンテニル基、デシリデン基等のアルキル基が挙げられ、脂環構造を有している例としては、R
1,R
2が結合してシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、デカヒドロナフチレン基、ノルボニレン基、トリシクロデシレン基、ペンタシクロペンタデシレン基、9,9−フルオレン基などを形成しているものが挙げられ、芳香環を有するものとしては、フェニル基やトリル基等が挙げられる。
【0030】
一般式(1)で表される化合物の具体例について説明する。一般式(1)は、X
1、X
2、X
3、X
4、X
5の少なくともひとつはOH基であるフェノール化合物であるが、このフェノール性のOH基の隣の置換基が水素原子かどうか、立体的に込み合っているかどうかによって分けることができる。フェノール化合物であれば本発明のわだち掘れ性を改善する効果を有するが、フェノール性のOH基の隣の置換基が込み合っていない方が効果が顕著である傾向にある。
【0031】
まず、フェノール性のOH基の隣の置換基のひとつが水素原子である具体例を挙げる。まず、一般式(1)においてnが1の具体例としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3−エチルフェノール、2−イソプロピルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2−t−ブチルフェノール、2−sec−ブチルフェノール、4−オクチルフェノール、4−ドデシルフェノール、p−クミルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2−メチル−4−tert−ブチルフェノール、3―メチル−5−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、3,5−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジイソプロピルフェノール、o−フェニルフェノール、m―フェニルフェノール、p―フェニルフェノール、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸エステル、4−メトキシフェノール、4−エトキシフェノール、4−プロポキシフェノール、2−メトキシ−4−プロペニルフェノール、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、3,5−ジヒドロキシトルエン、1,2,4−ベンゼントリオール、1,3,5−ベンゼントリオール、1,2,3−ベンゼントリオール、2,4−ジクロロフェノール等が挙げられる。
【0032】
更に、フェノール性のOH基の隣の置換基のひとつが水素原子であり、nが2であり、Aが炭素原子1〜20よりなるアルキレン基である場合の一例が、一般式(2)の化合物である。そこで、次に、一般式(2)の化合物について説明する。
【0033】
一般式(2)で上げられるフェノール化合物の具体例としては、
ビフェノール、3,3'−ジメチルビフェノール、2,2'−ジメチルビフェノール、2,5,2',5'−テトラメチルビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,4−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)―2−プロピル)ベンゼン、5,5’−(1−メチルエチリデン)−ビス{1,1’−(ビスフェニル)−2−オール}プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−メチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)−4−(ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル−シクロヘキサン、4−[1−〔3−(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルシクロヘキシル〕−1−メチルエチル]−フェノール、4,4’−〔1−メチル−4−(1−メチルエチル)−1,3−シクロヘキサンジイル〕ビスフェノール、2,2,2’,2’−テトラヒドロ −3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビス−〔1H−インデン〕−6,6’−ジオール等が挙げられる。
【0034】
更に、レスヒンダードタイプの酸化防止剤として用いられる1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−ブタン(例えば、ADEKA社のアデカスタブAO−30、アデカスタブはADEKA社の登録商標)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、ADEKA社のアデカスタブAO−40)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(例えば、ICI社製、トパノールCA)、4,4'−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)(例えば、住友化学(株)製、スミライザーWX−R、スミライザーは住友化学社の登録商標)4,4'−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)(例えば、住友化学(株)製、スミライザーBBM)、アクリル酸2−tert−ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルベンジル)フェニル(例えば、住友化学(株)製、スミライザーGM)等が挙げられる。
【0035】
次に、フェノール性のOH基の隣の置換基が炭素数1〜8のアルキル基である場合の具体例を挙げる。その具体例としては、2,6-ジメチルフェノール、2−エチル−6−メチルフェノール、2,3,6―トリメチルフェノール、2,4,6―トリメチルフェノール、4−クロロ−2,6−ジメチルフェノール、4−ブロモ−2,6−ジメチルフェノール、4−ヨード−2,6−ジメチルフェノール、6−t−ブチル−o−クレゾール、2,6−ジイソプロピルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)、α,α’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、4−sec−ブチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2―メチル−6−tert−ブチルフェノール、2,4―ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、n−オクタデシル−β−(4'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3'−tert−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0036】
更に、いわゆるセミヒンダードフェノール系の酸化防止剤として知られている、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、ADEKA社のアデカスタブAO−80)、エチレンビス(オキシエチエレン)ビス[3−(5−ブチルヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](例えば、BASF社のイルガノックス245)、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート](例えば、ADEKA社のアデカスタブAO−70)等が挙げられ、そして更にいわゆるヒンダードフェノール系の酸化防止剤として知られている、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリス[(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0037】
例示したこれらの化合物の中でも、フェノール性OH基の隣の立体障害がない方が好ましく、いわゆるヒンダードフェノールよりセミヒンダードフェノールが好ましく、更にレスヒンダードフェノールが効果という点でより好ましい。更に、入手しやすいという点で、ビスフェノールタイプが好ましく、ビスフェノールAがさらに好ましい。
【0038】
(アスファルト組成物)
本発明のアスファルト組成物は、本発明のフェノール化合物をアスファルトに配合して得られる。
【0039】
アスファルトとしては、特に制限はなく、種々のアスファルトを使用できる。例えば、ストレートアスファルト、スチレン・ブタジエン・ブロック共重合体などの熱可塑性エラストマーで改質した改質アスファルトなども用いることができる。効果が明確に表れるという点で、ストレートアスファルトが好ましい。
【0040】
本発明におけるフェノール化合物の配合量であるが、アスファルトに対して0.05質量%以上、5.0質量%以下の範囲であることが好ましい。0.05質量%未満では配合効果が十分発現せず、5.0質量%を超えて添加しても、添加に見合う効果が得られない。
【0041】
本発明のアスファルト組成物による改質方法であるが、まず、アスファルトに本発明のフェノール化合物を添加して、アスファルト組成物を調製する。添加方法に特に制約はないが、均一に配合するという観点から、アスファルトを60℃程度に加温して流動性を持たせた状態で、撹拌下に添加することが好ましい。
【0042】
このようにして得られたアスファルト組成物を加熱下に撹拌することにより、アスファルトを改質することができる。加熱温度は装置、その他の条件によるが、100℃以上、150℃以下が好ましい。撹拌速度は、槽内が均一に撹拌できる速度であれば特に制限はない。反応時間は、やはり装置によるが、通常30分以上、5時間以内が好ましい。
【0043】
当該反応の際に、酸素が必要であるが、系内に存在する空気で十分であり特に空気を吹き込む等の操作は必要ないが、改質時間その他の関係で空気を吹き込んでもよい。
【0044】
本発明の組成物を用いた改質反応によって、なぜ60℃での粘度が増加するのか定かではないが、当該反応における改質機構としては、系内に存在する酸素と本発明のフェノール化合物が協業して、適度な酸化反応により、アスファルテンの特定の部位が縮合反応を起こしているものと推測される。例えば、セミブローンアスファルトのように空気だけで酸化するとアスファルテンが広範囲で無差別な架橋などの縮合や重合反応が生じるが、本発明のフェノールを添加すると、この酸素による酸化を制御し、アスファルテンの特定の部位だけの架橋が起こり、60℃の粘度を上昇するのではないかと推測している。
【0045】
また、本発明のフェノール化合物の中でもフェノール性OH基のオルソ位が水素原子である化合物の改質効果が高いことから、本発明のフェノール化合物は、アスファルテンが酸素によりラジカル化したものと結合し、アスファルトの架橋等を引き起こすと推測される。そのため、アスファルテンとフェノール化合物と結合しやすくするためには、フェノール化合物のオルソ位あるいはパラ位の立体障害が小さい方が好ましいといえる。一方、本発明のフェノール化合物を存在させても系内に酸素がないと改質効果は低い。そのことから、例えば不活性ガス雰囲気下ではアスファルテンがラジカルに成りにくいことから、フェノール化合物が反応に関与せず、アスファルトの架橋が起こりにくいと推測される。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるもの
ではない。実施例中の「部」は全て重量部を示す。
【0047】
[実施例1]
300mLセパラブルフラスコにて、空気中(酸素存在下)でストレートアスファルト(25℃針入度:60〜80)30gを60℃に保持してから、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、BPA)を0.15g添加し、130℃まで加熱してから、回転数を1100回転/分として1時間混合して、アスファルト組成物を作製した。当組成物の60℃における粘度は、Anton Paar社製レオメーター(MCR 102)を使用し、測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、6,6'−ジ−tert−ブチル−4,4'−ブチリデンジ−m−クレゾール(アデカスタブAO−40)を0.15g添加すること以外は、実施例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオザスピロ[5.5]ウンデカン(アデカスタブAO−80)を0.15g添加すること以外は、実施例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0050】
[実施例4]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)を0.15g添加すること以外は、実施例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
300mLセパラブルフラスコにて、窒素ガスで雰囲気を置換した上でストレートアスファルト(25℃針入度:60〜80)30gを60℃に保持してから、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、BPA)を0.15g添加し、130℃まで加熱してから、回転数を1100回転/分として1時間混合して、アスファルト組成物を作製した。当組成物の0℃または60℃における粘度は、Anton Paar社製レオメーター(MCR 102)を使用し、測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0052】
[比較例2]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、6,6'−ジ−tert−ブチル−4,4'−ブチリデンジ−m−クレゾール(アデカスタブAO−40)を0.15g添加すること以外は、比較例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0053】
[比較例3]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオザスピロ[5.5]ウンデカン(アデカスタブAO−80)を0.15g添加すること以外は、比較例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0054】
[比較例4]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)を0.15g添加すること以外は、比較例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0055】
[比較例5]
ビスフェノールA(BPA)を添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0056】
[比較例6]
ビスフェノールA(BPA)を添加しないこと以外は、比較例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の60℃における粘度を測定した。その60℃における結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1〜4、比較例1〜6と表1から次のことが明らかである。すなわち、本発明のアスファルト改質操作により、ストレートアスファルトの60℃(高温)での粘度が1.8倍以上増加していることがわかる。特に、BPAやAO−40などフェノール性OH基の隣が水素原子であるフェノール化合物を用いた場合は、2.5倍以上増加しており、60℃での粘度上昇効果が著しいことがわかる。本発明のフェノール化合物を添加しないで酸素雰囲気だけで改質反応を行った場合(比較例5)は、60℃での粘度上昇効果は小さいことから、本発明のフェノール化合物と酸素の協業によって、改質反応が進行していることがわかる。一方、窒素雰囲気下(酸素不存在下)では、本発明のフェノール化合物を添加しても、60℃での粘度上昇効果はほとんどなく、本発明の改質操作には、酸素の共存が必要であり、このことからも本発明のフェノール化合物と酸素が協業してアスファルトの物性を改質していることがわかる。
【0059】
[実施例5]
実施例1と同様に、300mLセパラブルフラスコにて、空気中(酸素存在下)でストレートアスファルト(25℃針入度:60〜80)30gを60℃に保持してから、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、BPA)を0.15g添加し、130℃まで加熱してから、回転数を1100回転/分として1時間混合して、アスファルト組成物を作製した。そして、当組成物の0℃における粘度を、Anton Paar社製レオメーター(MCR 102)を使用し、測定した。その0℃における結果を表2に示す。
【0060】
[実施例6]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオザスピロ[5.5]ウンデカン(アデカスタブAO−80)を0.15g添加すること以外は、実施例5と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の0℃における粘度を測定した。その0℃における結果を表2に示す。
【0061】
[比較例7]
比較例1と同様に300mLセパラブルフラスコにて、窒素ガスで雰囲気を置換した上でストレートアスファルト(25℃針入度:60〜80)30gを60℃に保持してから、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、BPA)を0.15g添加し、130℃まで加熱してから、回転数を1100回転/分として1時間混合して、アスファルト組成物を作製した。当組成物の0℃における粘度は、Anton Paar社製レオメーター(MCR 102)を使用し、測定した。その0℃における結果を表2に示す。
【0062】
[比較例8]
ビスフェノールA(BPA)の代わりに、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオザスピロ[5.5]ウンデカン(アデカスタブAO−80)を0.15g添加すること以外は、比較例7と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の0℃における粘度を測定した。その0℃における結果を表2に示す。
【0063】
[比較例9]
ビスフェノールA(BPA)を添加しないこと以外は、実施例5と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の0℃における粘度を測定した。その0℃における結果を表2に示す。
【0064】
[比較例10]
ビスフェノールA(BPA)を添加しないこと以外は、比較例1と同様の方法により、アスファルト組成物を作製し、当組成物の0℃における粘度を測定した。その0℃における結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例5、6と比較例7〜10及び表2から次のことが明らかである。すなわち、本発明のアスファルト改質操作により、BPAを用いた時は、60℃(高温)での粘度が増加し、耐わだち掘れ性が改善されだけでなく、0℃(低温)での粘度が原料アスファルトの0.7倍以下と低くなっていることがわかる。アスファルトの0℃(低温)での粘度が低いと、低温時の耐ひび割れ性が改善されることが報告されている(第2回舗装工学講演会講演論文集,1997年12月,P205−210)。すなわち、本発明のフェノール化合物の中でも、BPAを用いた場合は、耐わだち掘れ性だけでなく、耐ひび割れ性も改善されたことがわかる。
【0067】
この効果は、BPAのフェノール性OH基が他の置換基により遮蔽されておらず、酸素酸化によりアスファルト化合物内に発生したラジカル種と容易に反応しやすくなっているため、アスファルテンの更に特定の部位だけの架橋を進行させるためと考えられる。