(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-94517(P2019-94517A)
(43)【公開日】2019年6月20日
(54)【発明の名称】耐変形性に優れる単層加熱接合用のアルミニウム合金材
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20190530BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20190530BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20190530BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20190530BHJP
【FI】
C22C21/02
C22F1/043
B23K35/28 310A
C22F1/00 602
C22F1/00 630M
C22F1/00 630K
C22F1/00 641A
C22F1/00 651A
C22F1/00 650F
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-222428(P2017-222428)
(22)【出願日】2017年11月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 友仁
(57)【要約】
【課題】単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材について、ろう付前の加工による耐変形性の低下が抑制されたものを提供する。
【解決手段】本発明は、Si:1.5質量%〜5.0質量%、Mn:0.05質量%〜2.0質量%、Fe:0.01質量%〜2.0質量%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材であって、繊維状組織を有し、Si系化合物又はAlMnFeSi系化合物からなり、円相当径5.0μm〜10.0μmである第二相粒子の数密度が1000個/mm
2以下であり、最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から、最大荷重点の公称歪のまで2点間の加工硬化指数n値が0.03以上であり、局部伸びが1%以上である、アルミニウム合金材である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:1.5質量%〜5.0質量%、Mn:0.05質量%〜2.0質量%、Fe:0.01質量%〜2.0質量%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材であって、
繊維状組織を有し、Si系化合物又はAlMnFeSi系化合物からなり、円相当径5.0μm〜10.0μmである第二相粒子の数密度が1000個/mm2以下であり、
最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から、最大荷重点の公称歪のまで2点間の加工硬化指数n値が0.03以上であり、
局部伸びが1%以上である、アルミニウム合金材。
【請求項2】
更に、下記の1種又は2種以上の元素を含有する請求項1記載の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材。
Zn:0.05〜6.0%、
Mg:0.05〜2.0%
Cu:0.05〜1.5%
Ni:0.05〜2.0%
Cr:0.05〜0.3%
Zr:0.05〜0.3%
Ti:0.05〜0.3%
V:0.05〜0.3%
【請求項3】
更に、下記の1種又は2種の元素を含有する請求項1又は請求項2記載の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材。
In:0.005〜0.3%
Sn:0.005〜0.3%
【請求項4】
更に、下記の1種又は2種以上の元素を含有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材。
Be:0.0001〜0.1%
Sr:0.0001〜0.1%
Bi:0.0001〜0.1%
Na:0.0001〜0.1%
Ca:0.0001〜0.05%
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアルミニウム合金材の製造方法であって、
DC鋳造によりスラブを製造する鋳造工程と、
前記鋳造工程後、均質化処理工程、又は、均質化処理を行わずに熱間圧延前に加熱する加熱工程、のいずれかを行った後に熱間圧延する工程と、
前記熱間圧延工程後に冷間圧延する工程と、
前記冷間圧延工程中に行われる少なくとも1回の焼鈍工程と、を含み、
前記鋳造工程の鋳造速度を20〜100mm/分とし、
前記均質化処理工程又は熱間圧延前の前記加熱工程の条件を、加熱温度350℃〜480℃、保持時間0〜30時間とすると共に、
前記焼鈍工程で、再結晶を生じさせない温度及び時間で焼鈍する、アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材の製造方法であって、
連続鋳造により板状鋳塊を製造する鋳造工程と、
前記鋳造工程後に行われる均質化処理工程と、
前記均質化処理工程後に冷間圧延する工程と、
前記冷間圧延工程中に行われる少なくとも1回の焼鈍工程と、を含み、
前記鋳造工程の鋳造速度を500〜3000mm/分とし、
前記均質化処理工程の条件を、加熱温度350℃〜480℃、保持時間1〜10時間とすると共に、
前記焼鈍工程で、再結晶を生じさせない温度及び時間で焼鈍する、アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項7】
焼鈍工程の後に冷間圧延を行い、当該冷間工程における加工率を20%以下とする請求項5又は請求項6記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層加熱接合用のアルミニウム合金材及びその製造方法に関する。詳しくは、ろう付時における耐変形性が向上された、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器やヒートシンク等、アルミニウム材料からなり、多数の金属接合部を有する製品の製造方法にはろう付が用いられることが多い。ろう付用のアルミニウム材料としては、アルミニウム材料からなる心材にろう材をクラッドしたブレージングシートや、置きろう材が使用されてきた。しかし、ブレージングシートのような複数層を重ね接合するクラッド材や、置きろう材のような追加的な接合材の使用は、その製造コストや材料コストの関係から熱交換器等のコスト上昇の要因となっていた。
【0003】
そこで、近年、上記したブレージングシートやろう材に対して、単層で加熱接合が可能なアルミニウム合金材が提案されている。(例えば、特許文献1)。このアルミニウム合金材は、Al−Si系合金からなり、加熱により合金材内部で生成される液相を接合に利用するものである。このアルミニウム合金材によれば、上述した液相がろう材として作用することから、単層でありながら置きろう材等の接合材を用いることなく、他の部材と接合することができる。尚、本発明では、このように接合材がなくとも加熱することで接合を可能とすることを「加熱接合機能」と称する。また、かかる単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材による接合を「ろう付」と称し、そのときの加熱温度をろう付け温度について、「ろう付温度」と称する。
【0004】
この単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、ろう付中に材料が半溶融状態となることから、ろう付温度における耐変形性を確保することが重要となる。このアルミニウム合金材における耐変形性の向上の手法として、例えば、特許文献2では、ろう付中の再結晶粒を粗大化することが提案されており、そのような作用を有する単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材が明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5436714号明細書
【特許文献2】特許5345264号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、従来の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、ろう付時の耐変形性が不十分となる場合がある。特に、高い加工度で加工したアルミニウム合金材ついて、ろう付の耐変形性の低下がみられることがある。熱交換器やヒートシンク等の部材となるアルミニウム合金材においては、ろう付前にコルゲート成形やプレス成形等の加工が施されるのが一般的である。そして、部材の形態によっては、加工度の増加もやむを得ない。従って、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材に対しては、加工の有無や加工度の高低に左右されることなく、ろう付時の耐変形性を確保することが必要である。
【0007】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、その目的は、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材について、ろう付前の加工による耐変形性の低下が抑制されたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材の金属組織上の特徴とろう付前の加工が及ぼす影響について検討を行った。
【0009】
本発明の対象である、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、比較的高濃度のSiを含むAl−Si系合金からなる。例えば、一般的なブレージングシートの心材である3000系アルミニウム合金と比較すると、この加熱接合機能を有するアルミニウム合金材のSi濃度は高くなっている。このような高濃度のSiを含むアルミニウム合金においては、第二相粒子の密度が高くなる傾向がある。高濃度のSiを含むアルミニウム合金では、鋳造工程で多くの晶出物が生成し、これがアルミニウム合金材中で前記した第二相粒子となる。そして、この晶出物由来の第二相粒子は、比較的粒径が大きく、再結晶核となりやすいことが確認されている。即ち、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、その組成に起因して、本来、再結晶核が高密度で発生しやすい傾向にあるといえる。
【0010】
また、従来の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材の製造過程においては、鋳造工程後の材料を圧延工程及び焼鈍工程にかける。この焼鈍工程は、通常、再結晶が生じる条件で行なわれる。例えば、上記特許文献1では、その実施例において380℃で2時間の焼鈍を行っており、これは再結晶を伴う焼鈍工程である。また、上記特許文献2では、再結晶組織とする焼鈍工程が設けられることが明示されている(特許文献2の段落0073)。このように、従来の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材の製造過程では、再結晶を伴う条件での焼鈍工程の実施が一般的であった。
【0011】
このように、従来の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、その組成及び製造工程に基づき、再結晶組織を有するマトリックスに、上記した晶出物由来の第二相粒子が高密度で分布した金属組織を有するといえる。
【0012】
そして、再結晶組織を有するアルミニウム合金材においては、ろう付前の加工の際、歪が第二相粒子周辺に局在しやすく、加工度が増加することで再結晶核が急激に増加することとなる。そのため、ろう付の際には、微細化した再結晶粒が発生し、結晶粒径が小さくなる。結晶粒径の微細化により、粒界すべりが多発して耐変形性が低下することになる。
【0013】
本発明者は、従来の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材においては、上述のような要因によって、加工度の増加に伴い、ろう付時の耐変形性が低下すると考察した。そして、上述のろう付前の加工による再結晶核の局在を緩和するため、アルミニウム合金材の材料組織を再結晶組織とせずに、未再結晶の繊維状組織にすることが好適であることを見出した。
【0014】
本発明者によれば、繊維状組織を有するアルミニウム合金材においては、ろう付前の加工による歪が第二相粒子周辺に局在しにくく、その他の部位にも分散する傾向がある。そのため、第二相粒子周辺における再結晶核の誘発を低減することができる。よって、繊維状組織とすることで、ろう付時の微細な再結晶の発生を抑制し、耐変形性を維持することができると考えられる。
【0015】
但し、繊維状組織とすることのみで、ろう付時の耐変形性を確保することは困難である。繊維状組織は、それ自体は再結晶の駆動力が高く、加熱時に再結晶し易い材料組織だからである。つまり、繊維状組織は、ろう付前の加工による問題(歪の局在)には対処できるものの、ろう付時(加熱時)の再結晶の問題にはそれ単独では対処できない。即ち、本発明の対象である、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材においては、繊維状組織を採用しつつ、更に、加熱時の再結晶粒の微細化を抑制するための要素を加えることが必要である。
【0016】
そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、アルミニウム合金材に分散する第二相粒子について、再結晶粒の微細化に起因する粒子の粒径と数密度を規定することが必要であることを見出した。これに加えて、アルミニウム合金材の所定の機械的性質を好適化することで、加工度による影響を受け難く、高温における耐変形性に優れたものとすることを見出し本発明に想到した。
【0017】
上記目的を達成する本発明は、Si:1.5質量%〜5.0質量%、Mn:0.05質量%〜2.0質量%、Fe:0.01質量%〜2.0質量%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材であって、繊維状組織を有し、Si系化合物又はAlMnFeSi系化合物からなり、円相当径5.0μm〜10.0μmである第二相粒子の数密度が1000個/mm
2以下であり、最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から、最大荷重点の公称歪のまで2点間の加工硬化指数n値が0.03以上であり、局部伸びが1%以上である、アルミニウム合金材である。
【0018】
また、本発明は、下記の1種又は2種以上の元素を含有する請求項1記載の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材である。
Zn:0.05〜6.0%、
Mg:0.05〜2.0%
Cu:0.05〜1.5%
Ni:0.05〜2.0%
Cr:0.05〜0.3%
Zr:0.05〜0.3%
Ti:0.05〜0.3%
V:0.05〜0.3%
【0019】
また、下記の1種又は2種の元素を含有する請求項1又は請求項2記載の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材でもある。
In:0.005〜0.3%
Sn:0.005〜0.3%
【0020】
更に、本発明は、下記の1種又は2種以上の元素を含有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材としても良い。
Be:0.0001〜0.1%
Sr:0.0001〜0.1%
Bi:0.0001〜0.1%
Na:0.0001〜0.1%
Ca:0.0001〜0.05%
【0021】
そして、本発明に係るアルミニウム合金材の製造方法は、DC鋳造によりスラブを製造する鋳造工程と、前記鋳造工程後、均質化処理工程、又は、均質化処理を行わずに熱間圧延前に加熱する加熱工程、のいずれかを行った後に熱間圧延する工程と、前記熱間圧延工程後に冷間圧延する工程と、前記冷間圧延工程中に行われる少なくとも1回の焼鈍工程と、を含み、前記鋳造工程の鋳造速度を20〜100mm/分とし、前記均質化処理工程又は熱間圧延前の前記加熱工程の条件を、加熱温度350℃〜480℃、保持時間0〜30時間とすると共に、前記焼鈍工程で、再結晶を生じさせない温度及び時間で焼鈍する、アルミニウム合金材の製造方法である。
【0022】
また、本発明に係るアルミニウム合金材の製造方法は、連続鋳造により板状鋳塊を製造する鋳造工程と、前記鋳造工程後に行われる均質化処理工程と、前記均質化処理工程後に冷間圧延する工程と、前記冷間圧延工程中に行われる少なくとも1回の焼鈍工程と、を含み、前記鋳造工程の鋳造速度を500〜3000mm/分とし、前記均質化処理工程の条件を、加熱温度350℃〜480℃、保持時間1〜10時間とすると共に、前記焼鈍工程で、再結晶を生じさせない温度及び時間で焼鈍する、アルミニウム合金材の製造方法であってもよい。
【0023】
尚、上記の2つの製造方法は、焼鈍工程の後に冷間圧延を行う場合を含み、当該冷間工程における加工率を20%以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るアルミニウム合金材は、単層で加熱接合機能を有し、ろう付前の加工による耐変形性の低下が少ないものである。本発明によれば、熱交換器等の製品寸法や歩留まりの向上が見込まれる。また、ろう付前に従来よりも強い加工を加えても、ろう付中の耐変形性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例及び比較例で製造したアルミニウム合金材の結晶粒組織の一例を示すと共に、繊維状組織の判定を目視にて行うときの方法を説明する図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材及びその製造方法について、より詳細に説明する。まず、本発明に係るアルミニウム合金材の構成元素、材料組織、及び、機械的性質について説明する。尚、本願明細書において、合金の組成の説明に関して単に「%」と表記している場合は、「mass%」を意味する。
【0027】
I.本発明に係るアルミニウム合金材の構成元素
(1)必須元素
本発明に係るアルミニウム合金材は、必須元素としてSi、Mn、Feを含む。これら必須元素の技術的意義と添加量は下記のとおりである。尚、本発明に係るアルミニウム合金材は、下記の必須元素と選択的な添加元素以外の残部としてアルミニウムと不可避の不純物で構成される。
【0028】
・Si
SiはAl−Si系の液相を生成し、接合に寄与する元素である。但し、Si濃度が1.5%未満の場合は充分な量の液相を生成することができず、液相の染み出しが少なくなり、接合が不完全となる。一方、5.0%を越えるとアルミニウム合金材中のSi粒子が多くなり、液相の生成量が多くなるため、加熱中の材料強度が極端に低下し、フィン材としての形状維持が困難となる。従って、Si濃度を1.5%〜5.0%と規定する。このSi濃度は、好ましくは1.6%〜3.5%であり、より好ましくは2.0%〜3.0%である。尚、染み出す液相の量は板厚が厚く、加熱温度が高いほど多くなるので、加熱時に必要とする液相の量は、製造する熱交換器のフィンの構造・寸法に応じて必要となるSi量やろう付温度を調整することが望ましい。
【0029】
・Mn
Mnは、SiやFeとともに、第二相粒子であるAlMnFeSi系の金属間化合物を形成して分散強化として作用する。また、Mnはアルミニウム母相中に固溶して固溶強化としても作用する。このように、Mnは、合金材の強度を向上させる重要な添加元素である。Mn含有量が2.00%を超えると、粗大金属間化合物が形成され易くなり耐食性を低下させる。一方、Mn含有量が0.05%未満では、上記効果が不十分となる。従って、Mn含有量は、0.05〜2.00%とする。Mn含有量は、好ましくは0.10〜1.50%である。
【0030】
・Fe
Feはマトリクスに若干固溶して強度を向上させる効果を有することに加えて、AlMnFeSi系の晶出物や析出物として分散して、特に高温での強度低下を防止する効果を有する。Feは、その含有量が0.01%未満の場合には、上記効果が十分に得られないだけでなく、高純度の地金を使用する必要があり材料コストの増加を招く。一方、Fe含有量が2.00%を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成するので製造性に問題が生じる。また、本接合体が腐食環境(特に腐食性液体が流動するような腐食環境)に曝された場合には、耐食性が低下する。更に、接合時の加熱によって再結晶した結晶粒が微細化して粒界密度が増加するため、接合中の変形量が増大することで接合前後の寸法変化が大きくなる。従って、Fe含有量は、0.01〜2.00%とする。Feの含有量は、好ましくは0.10%〜0.60%である。
【0031】
(2)選択的添加元素
本発明に係るアルミニウム合金材は、上記した必須元素の他、選択的に、Mg、Cu、Ni、Cr、Zr、Ti、V、Be、Sr、Bi、Na、Ca、Zn、In、Snの1種又は2種以上含むことができる。
【0032】
・Mg
Mgは、ろう付後において、Mg
2Siとなり時効硬化を生じさせて強度を向上させる。よって、Mgは強度向上の効果を発揮する添加元素である。Mg添加量が、2.0%を超えるとフラックスと反応して、高融点の化合物を形成するため著しく接合性が低下する。従って、Mgの添加量は2.0%以下とするのが好ましい。好ましいMgの添加量は0.05%〜2.0%である。尚、本発明においては、Mgのみならず他の合金成分においても、所定添加量以下という場合は0%も含むものとする
【0033】
・Cu
Cuは、マトリクス中に固溶して強度向上させる添加元素である。但し、Cu添加量が1.5%を超えると耐食性が低下する。従って、Cuの添加量は1.5%以下とするのが好ましい。好ましいCuの添加量は0.05%〜1.5%である。
【0034】
・Ni
Niは、金属間化合物として晶出又は析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果がある。Niの添加量は、2.0%以下とするのが好ましい。好ましい添加量は0.05%〜2.0%である。Niの含有量が2.0%を超えると、粗大な金属間化合物を形成しやすくなり、加工性を低下させる。また、自己耐食性も低下する。
【0035】
・Cr
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物が析出し、加熱後の結晶粒粗大化に作用する。添加量が0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Crの添加量は0.3%以下とするのが好ましい。より好ましい添加量は0.05%〜0.3%である。
【0036】
・Zr
ZrはAl−Zr系の金属間化合物として析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。また、Al−Zr系の金属間化合物は加熱中の結晶粒粗大化に作用する。添加量が0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Zrの添加量は0.3%とするのが好ましい。好ましい添加量は0.05%〜0.3%である。
【0037】
・Ti、V
Ti、Vは、マトリクス中に固溶して強度向上させる他に、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防ぐ効果がある。添加量が0.3%を越えると巨大晶出物が発生し、成形性、耐食性を阻害する。従って、Ti及びVの添加量は、それぞれ0.3%以下とするのが好ましい。より好ましい添加量は0.05%〜0.3%である。
【0038】
・Zn
Znは、犠牲防食作用による耐食性向上に有効な元素である。Znは、マトリクス中にほぼ均一に固溶して自然電位を卑化させる作用を有する。例えば、本発明に係るアルミニウム合金材をフィン材とし、これを卑化させることで、接合しているチューブの腐食を相対的に抑制する犠牲防食作用を発揮させることができる。Zn含有量が0.05%未満の場合は、電位卑化の効果が不十分となる。一方、Zn含有量が6.00%を超える場合は、腐食速度が速くなって自己耐食性が低下し、犠牲防食作用も低減する。従って、Zn含有量は、0.05〜6.00%とする。Zn含有量は、好ましくは0.10%〜5.00%である。
【0039】
・Sn、In
Sn、Inは、犠牲陽極作用を発揮する効果がある。添加量が0.3%を超えると腐食速度が速くなり自己耐食性が低下する。従って、これら元素のそれぞれの添加量は、0.3%以下とするのが好ましい。より好ましい添加量は0.05%〜0.3%である。
【0040】
・Be、Sr、Bi、Na、Ca
Be、Sr、Bi、Na、Caは、液相の特性改善を図ることにより接合性をさらに良好にする。これら各元素の好ましい範囲は、Be:0.0001%〜0.1%、Sr:0.0001%〜0.1%、Bi:0.0001%〜0.1%、Na:0.0001%〜0.1%、Ca:0.0001%〜0.05%であり、これらの1種又は2種以上が必要に応じて添加される。これらの微量元素はSi粒子の微細分散、液相の流動性向上等によって接合性を改善することができる。これらの微量元素は、上記のより好ましい規定範囲未満ではその効果が小さく、上記のより好ましい規定範囲を超えると耐食性低下等の弊害を生じる場合がある。尚、Be、Sr、Bi、Na、Caの1種又は2種以上が添加される場合には、各添加成分のいずれもが上記好ましい又はより好ましい成分範囲内にあることを必要とする。
【0041】
II.本発明に係るアルミニウム合金材の金属組織
上記したとおり、本発明に係る単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、その金属組織に特徴を有し、繊維状の結晶粒組織(以下、繊維状組織と称する)有し、更に、所定粒径範囲の第二相粒子の密度を制限する。以下、これらの技術的意義について説明する。
【0042】
(a)繊維状組織
本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材は、繊維状組織を有することを特徴とする。繊維状組織とすることで、ろう付前の加工による歪を第二相粒子周辺に局在化させることなく、均一に分散させることができる。そして、これにより加工時における再結晶核の増加を抑制して、ろう付時の微細再結晶による耐変形性の低下を抑制する。ここで繊維状組織とは、圧延方向に伸長した結晶粒からなる金属組織である。具体的には、本発明では、アスペクト比が10以上の結晶粒を有する金属組織である。
【0043】
繊維状組織の判定のために、結晶粒のアスペクト比を測定する場合は、アルミニウム合金材の幅方向に垂直な断面に対して、陽極酸化法による結晶粒観察を行い、画像解析により結晶粒の形状を測定することが好ましい。陽極酸化法の条件としては、例えば、3.3%HBF
4水溶液を用い、電圧30Vにて60sec電流を流すことで酸化膜を生成する。陽極酸化後の試料は、光学顕微鏡にて偏光フィルターを用いて観察することができる。このときの観察倍率は特に制約はないが、結晶粒の大きさに応じて50倍〜200倍程度が選ばれる。
【0044】
繊維状組織の判定のため、結晶粒のアスペクト比を測定するときには、1つの試料に対し、少なくとも5視野を観察することが好ましい。このとき、少なくとも300μm以上の長さの合金材を含む画像を1視野として対象に解析することが好ましい。画像は、少なくとも5視野分用意して測定するのが好ましい。画像解析では、光学顕微鏡で撮影した画像にて、結晶粒のアスペクト比を判定する。
【0045】
そして、顕微鏡で撮影した画像に対する画像解析、又は、画像の直接的な測定によって、繊維状組織の成否の判定が可能である。画像解析は、適宜のソフトウエアを使用することができ、解析によって平均アスペクト比を算出する。平均アスペクト比が10以上と算出されたとき、当該視野において繊維状組織を有する判定する。観察した視野数に対して、8割以上の視野数で繊維状組織と判定されたとき、当該試料は、繊維状組織の合金材とする。また、画像を直接測定する場合、1視野当りでアスペクト比が10以上の結晶粒が10個以上測定可能であるとき、当該視野において繊維状組織を有する判定する。観察した視野数に対して、8割以上の視野数で繊維状組織と判定されたとき、当該試料は、繊維状組織の合金材とする。
【0046】
(b)円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の数密度
本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材は、Si系化合物、又は、AlMnFeSi系化合物からなる第二相粒子を含む。そして、本発明は、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子密度が1000個/mm
2以下となるようにする。第二相粒子とは、マトリックスであるAl又はAl合金とは異なる組成の相の粒子である。第二相粒子は、Si系化合物又はAlMnFeSi系化合物からなる。具体的には、Si系化合物とは、単体Si及びSi化合物である。Si化合物とは、Siを含む化合物であり、例えば、単体Siの一部にCa、P等の元素を含む化合物がある。また、AlMnFeSi系化合物とは、Alと合金の添加元素とから生成される金属間化合物である。具体的には、Al−Fe系化合物、Al−Fe−Si系化合物、Al−Mn−Si系化合物、Al−Fe−Mn系化合物、Al−Mn−Fe−Si系化合物等である。
【0047】
本発明の第二相粒子は、アルミニウム合金材の製造工程で生成する晶出物又は析出物に由来する。晶出物は、主に鋳造工程で液相から生成し、析出物は、主に均質化処理等の鋳造工程以降の工程で固相から生成する。但し、本発明においては、アルミニウム合金材の金属組織を観察したときに観察された第二相粒子が、晶出物又は析出物の何れに起因するものであるかを問うことはない。第二相粒子が何れに由来するものであっても、それが特定の粒径範囲内のものであれば本願発明で規定する第二相粒子となる。本明細書における「晶出物」及び「析出物」の用語の意義は、その生成のタイミングのみに基づき区別される。いずれも、アルミニウム合金材中で「第二相粒子」となる点では同義である。
【0048】
本発明において、特定の粒径範囲の第二相粒子の密度を制限するのは、アルミニウム合金材のろう付時の再結晶の進行を抑制するためである。即ち、上述したとおり、本発明のアルミニウム合金材は繊維状組織を有することを特徴とする。この繊維状組織は、ろう付前の加工時においては、歪を均一に分散させて再結晶核形成を抑制する効果が有る一方、ろう付時(加熱時)においては、従来のアルミニウム合金材と比較して再結晶の駆動力が高い材料組織である。そこで、本発明では、ろう付の際に再結晶核となり得る第二相粒子の密度を規制し、その影響を低減している。これにより、ろう付時に生じる再結晶を抑制することとしている。
【0049】
そして、ろう付時に再結晶核となる可能性がある第二相粒子とは、円相当径5μm〜10μmの比較的粒径が大きい第二相粒子である。本発明者によれば、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の数密度(面密度)が1000個/mm
2を超えると再結晶粒が微細化し、耐変形性が低下する。そこで、かかる第二相粒子の密度を1000個/mm
2以下と規定した。この円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の数密度は、ろう付時の再結晶粒の微細化の抑制のためには低いことが好ましく、かかる第二相粒子がないものが好ましい。
【0050】
尚、本発明では、円相当径5μm未満の第二相粒子については、その有無及び数密度の規定は不要である。本発明者等による検討によれば、円相当径5μm未満の微細な第二相粒子は、再結晶核となりにくいからである。また、円相当径10μmを超える第二相粒子に関しても、特に規定する必要はない。そのような粗大な第二相粒子は、後述する本発明のアルミニウム合金材の好適な製造条件のもとでは、ほとんど存在しないからである。
【0051】
本発明において、第二相粒子の円相当径とは円相当直径の意義である。第二相粒子の円相当径は、アルミニウム合金材の任意の断面についてSEM観察を行うことで測定することができる。SEM観察で得られたSEM像の画像解析により、第二相粒子の円相当径を求めることができる。尚、第二相粒子の構成の区別は、SEM像におけるコントラストの濃淡により、Siからなる第二相粒子とAlMnFeSi系化合物からなる第二相粒子とを区別することができる。正確な組成は、EPMA(電子線マイクロプローブ分析)で確認することができる。
【0052】
III.本発明に係るアルミニウム合金材の機械的特性
本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材は、組成及び材料組織において上述の特徴を有する。そして、それらに起因して、本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材は、n値及び局部伸びにおいて特徴的な傾向を示す。
【0053】
(a)n値(加工硬化指数)
本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材においては、最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から、最大荷重点の公称歪までの2点間のn値を0.03以上とする。ここでn値とは、加工硬化指数と呼ばれ、材料が変形した際における加工硬化のしやすさを示す指標である。 このn値は、引張試験から得られた公称応力−公称歪曲線に基づき得られる真応力及び真歪から求めることができる。n値は、算出の際に適用する公称歪の範囲によって数値が異なる。最大荷重点の公称歪のa倍の公称歪から最大荷重点のb倍の公称歪までの範囲のn値は、下記式(1)を使用して求めることができる。
【0054】
【数1】
【0055】
本発明に係るアルミニウム合金材のn値規定のための公称歪の範囲(式(1)a及びb)は、公最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から最大荷重点の公称歪とした(a=0.9、b=1.0)。一般に、アルミニウム合金では公称歪が低い領域ではn値が高く、公称歪が高い領域ではn値が低くなる傾向がある。本発明に係るアルミニウム合金材では、公称歪が高くなる最大荷重点に近い領域においても、高いn値を維持し、加工による歪を局在化させないことが重要である。そのため、最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から、最大荷重点の公称歪(1.0倍)の2点間のn値を適用することとした。
【0056】
そして、本発明では、最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から、最大荷重点の公称歪までの範囲におけるn値を0.03以上とする。加工硬化指数であるn値は、加工硬化のしやすさを示す指標であり、加工硬化し易い材料ほど変形が周囲に及ぶため、均一に変形することができる。n値が0.03未満では、ろう付前の加工時に、最大荷重点における公称歪よりも小さな歪が付与された際に、変形が局所的に導入される。そのため、ろう付時の再結晶粒径が微細化し、耐変形性が低下する。かかる理由により、n値を0.03以上とする。このn値の好ましい値は0.04以上であり、さらに好ましい値は0.05以上である。n値の上限はないが、実質的には0.98以下とするのが好ましい。
【0057】
(b)局部伸び
本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材においては、局部伸びを1%以上とする。局部伸びは、引張試験から得られた公称応力―歪曲線の、最大荷重点における歪と、破断点における歪の差である。局部伸びが1%未満では、ろう付前の加工時に、最大荷重点における歪よりも大きな歪が付与された際に、変形が局所的に導入される。そのため、ろう付時の再結晶粒が微細化し、耐変形性が低下する恐れがある。この局部伸びの好ましい値は2%以上であり、さらに好ましい値は4%以上である。局部伸びの上限については限定されるべきではないが、実質的には30%とするのが好ましい。
【0058】
IV.本発明に係るアルミニウム合金材の製造方法
次に、本発明に係る単層加熱接合用のアルミニウム合金材の製造方法について説明する。本発明のアルミニウム合金材は、基本的には常法に従って製造できるが、鋳造後の加熱条件に関して特に留意する必要がある。これまで述べたとおり、本発明においては、未再結晶組織である繊維状組織を有することを要するからである。以下、本発明のアルミニウム合金材の製造方法として、DC鋳造による場合と連続鋳造(CC)による場合について説明する。
(A)DC鋳造による製造方法
DC鋳造法で鋳造したスラブは、熱間圧延前の加熱工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、及び、焼鈍工程を経て本発明のアルミニウム合金材となる。ここで鋳造工程においては、晶出物を生成し得るが、ろう付時の再結晶核となる円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の形成を抑制するため、鋳造速度を20〜100mm/分とすることが好ましい。尚、熱間圧延前に均質化処理を施してもよい。
【0059】
DC鋳造法で製造したスラブは、均質化処理を行った後、又は、均質化処理を施さずに、熱間圧延前の加熱工程にかけることができる。この均質化処理及び加熱工程の条件は、それぞれ加熱保持温度を350〜480℃とし、保持時間を0〜30時間の範囲内とするのが望ましい。保持温度が350℃未満の場合は、熱間圧延でのスラブの変形抵抗が大きく割れが発生する虞がある。一方、この均質化処理及び加熱工程では、微細な析出物が生成される可能性があり、高温・長時間の熱処理は第二相粒子の粗大化の要因となる。保持温度が480℃を超える場合や、保持時間が30時間を超える場合は、第二相粒子の粗大化が起こり、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子密度が増加する。また、高温・長時間の熱処理は、添加元素の固溶量が増加し、ろう付後の再結晶粒が微細化する。尚、保持時間が0時間とは、上記した加熱保持温度に達した後に直ちに加熱を終了することをいう。
【0060】
そして、上記加熱工程の後に熱間圧延を行って、調質の内容に応じて冷間加工工程及び焼鈍工程にかけられる。H1n調質の場合、熱間圧延工程終了後は、熱間圧延材を冷間圧延工程にかける。冷間圧延工程の条件は、特に限定されるものではない。そして、冷間圧延工程の途中において、冷間圧延材を焼き鈍す焼鈍工程が少なくとも1回設けられる。この焼鈍工程の条件は、再結晶が生じない条件で実施される。具体的には、150〜300℃で1〜5時間の範囲で材料を加熱する。150℃未満では材料の軟化が不十分となってその後の加工性が低下し、最終板厚における伸びが低下する。300℃を超えると再結晶が発生しやすくなる。300℃以下であっても、合金組成や製造工程によっては再結晶が起こることがあるため、その場合には上記の温度範囲内で再結晶が起こらない温度にする。
【0061】
焼鈍工程後は、冷間圧延材を最終冷間圧延にかけて最終板厚とする。この最終冷間圧延での加工率(加工率=(加工前の板厚−加工後の板厚)/加工前の板厚%)が高過ぎると、ろう付中の再結晶の駆動力が大きくなり結晶粒が小さくなるため、ろう付中の変形が大きくなる。尚、最終冷間圧延は任意であって、必ずしも行わなくても良く、焼鈍工程後の板厚を最終板厚としても良い。また、最終冷間圧延はを行う場合の加工率は、3〜20%程度とするのが好ましい。
【0062】
アルミニウム合金材をH2n調質で製造する場合には、熱間圧延工程終了後、熱間圧延材を冷間圧延工程で最終板厚まで加工してから焼鈍工程(最終焼鈍)を施す場合と、H1n調質と同様に冷間圧延工程の途中で少なくとも1回の焼鈍工程を設け、最終冷間圧延後に最終焼鈍を施す場合がある。いずれの場合においても、焼鈍工程は上記と同様に再結晶が起こらない条件で実施する。
【0063】
(B)連続鋳造による製造方法
連続鋳造法としては、双ロール式連続鋳造圧延法や双ベルト式連続鋳造法等、連続的に板状鋳塊を鋳造する方法であれば特に限定されるものではない。双ロール式連続鋳造圧延法とは、耐火物製の給湯ノズルから一対の水冷ロール間にアルミニウム溶湯を供給し、薄板を連続的に鋳造圧延する方法であり、ハンター法や3C法等が知られている。また、双ベルト式連続鋳造法は、上下に対峙し水冷されている回転ベルト間に溶湯を注湯し、ベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る連続鋳造方法であり、ハズレー法等が知られている。
【0064】
上記のような連続鋳造法による板状鋳塊の鋳造工程では、ろう付時の再結晶核となる円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の形成を抑制するため、鋳造速度が500〜3000mm/分とすることが必要となる。
【0065】
連続鋳造法で鋳造された板状鋳塊は、その状態で均質化処理を行う。その後、最終板厚に冷間圧延する工程中において、焼鈍工程を行う。この焼鈍工程は、少なくとも1回以上行う必要がある。
【0066】
均質化処理は、微細な析出物を析出させて適切な金属組織を得るため、350〜480℃で1〜10時間の範囲で行うことが望ましい。350℃未満では微細な析出物の析出が不十分となる。一方、ここで生成する微細析出物も、第二相粒子としてアルミニウム合金材中に分布し得る。均質化処理温度が480℃を超えると、第二相粒子が粗大化し、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の密度が増加する。また、1時間未満の均質化時間では上記効果が十分ではなく、10時間を超える均質化時間では上記効果が飽和しているために経済的に不利となる。
【0067】
焼鈍工程では、材料を軟化させて最終圧延で所望の材料強度を得易くする。この焼鈍工程は再結晶が起こらない条件で行う必要がある。具体的には、150〜300℃で1〜5時間の範囲で行う。150℃未満では材料の軟化が不十分なため、その後の加工性が低下し、最終板厚における伸びが低下する。300℃を超えると再結晶が発生しやすくなる。300℃以下であっても、合金組成や製造工程によっては再結晶が起こることがあるため、その場合には上記の温度範囲内で再結晶が起こらない温度にする。
【0068】
焼鈍工程後は、圧延材を最終冷間圧延にかけ、最終板厚のアルミニウム合金材とする。H1n調質の場合、最終冷間圧延段階での加工率が大き過ぎると、ろう付中の再結晶の駆動力が大きくなり結晶粒が小さくなることで、ろう付中の耐変形性が低下する。尚、最終冷間圧延は任意であって、必ずしも行わなくても良く、焼鈍工程後の板厚を最終板厚としても良い。また、最終冷間圧延はを行う場合の加工率は、3〜20%程度とするのが好ましい。
【0069】
アルミニウム合金材をH2n調質で製造する場合には、熱間圧延工程終了後、熱間圧延材を冷間圧延工程で最終板厚まで加工してから焼鈍工程(最終焼鈍)を施す場合と、H1n調質と同様に冷間圧延工程の途中で少なくとも1回の焼鈍工程を設け、最終冷間圧延後に最終焼鈍を施す場合がある。いずれの場合においても、焼鈍工程は上記と同様に再結晶が起こらない条件で実施する。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により、本発明を比較例と対比して説明する。
本実施例では、表1〜表4に示すアルミニウム合金を、溶解してDC鋳造した後、熱間圧延工程、冷間圧延工程を行った。冷間圧延工程の途中で再結晶しない条件で中間焼鈍を施し、最終冷間圧延を行い、最終板厚0.1mmのアルミニウム合金材とした。この実施例において、熱間圧延前の加熱工程では450℃まで加熱し、その温度で10時間保持した。また、冷間圧延工程の途中の焼鈍工程は、200℃で3時間保持して再結晶しないようにした。更に、最終冷間圧延率は10%とした。
【0071】
但し、表4の合金A69は、最終冷間圧延率を20%とした。また、表4の合金A70では熱間圧延温度を420℃とした。また、表4の合金A71ではH2n調質とするため、熱間圧延後の冷間圧延で板厚を0.1mmとし、その後の最終焼鈍を行って供試材とした。最終焼鈍は200℃で3時間保持しした。
【0072】
また、表4の合金A72では、表1の合金A1と同じアルミニウム合金を、溶解し連続鋳造して板状鋳塊を製造した。そして、板状鋳塊を均質化処理、冷間圧延を行った後、再結晶が生じない条件で焼鈍工程(中間焼鈍)を行った後、最終冷間圧延を施して、最終板厚0.1mmのアルミニウム合金材とした。均質化処理は450℃まで加熱してその温度で10時間保持した。中間焼鈍は200℃で3時間保持した。また、最終冷間圧延率は10%とした。
【0073】
表5に示すアルミニウム合金を、実施例と同様に溶解してDC鋳造した後、熱間圧延工程、冷間圧延工程を行った。この比較例では、表5の合金B1〜B5を、実施例と同様の条件(熱延前加熱工程、焼鈍工程)で製造し、合金B6〜B10においては実施例と相違する製造条件を適用した。具体的には、合金B6では焼鈍温度を350℃で3時間とした。合金B7ではH2n調質とし、中間の焼鈍工程は行わず最終の焼鈍工程を焼鈍温度350℃で3時間とした。合金B8では熱延前の加熱工程での加熱温度を520℃とし、保持時間を5時間とした。合金B9では熱延前の加熱温度を350℃とした。合金B10では最終冷間圧延率を30%とした。
【0079】
以上の実施例及び比較例のアルミニウム合金材について、金属組織の観察として結晶粒組織(繊維状組織)の判定、及び、第二相粒子の数密度の測定と、機械的特性(n値、局部伸び)に関する物性測定を行った。
【0080】
製造した各種板材(素板)の結晶粒組織は、幅方向に垂直な断面を光学顕微鏡にて観察することで判定した。観察においては、供試材を樹脂埋め及び研磨した後、陽極酸化法にて表面処理して結晶粒組織を観察しやすくした。本実施例、比較例では、光学顕微鏡にて本発明サンプルの結晶粒組織を各供試材にて5視野撮影し、市販の画像解析ソフトウエア(商品名:A像くん、旭化成株式会社製)による画像解析を行って結晶粒の平均アスペクト比を測定した。平均アスペクト比が10以上となっている結晶粒組織を繊維状組織と判定し、平均アスペクト比が10未満となっているものを再結晶組織と判定した。そして、5視野うち8割(4視野)で繊維状組織と判定されたとき、当該試料の結晶粒組織を繊維状組織の合金材と判定し、それ以外を再結晶組織の合金材と判定した。
【0081】
また、試験材によっては、結晶粒が線状に観察され、画像解析によるアスペクト比の測定が困難であるものがあった。そのような試験材に関しては、アスペクト比10の結晶粒見本を利用した目視判定による直接的な測定に基づき繊維状組織を判断した。
【0082】
この目視による結晶粒組織判定法の例を説明する。
図1は、本実施例のアルミニウム合金板材で観察された繊維状組織の例と、その拡大画像を示すものである。
図1において、白いコントラストの結晶粒は、必ずしも一定の厚さを有していない。これは、隣接する結晶粒の影響を受けているためである。
【0083】
このような結晶粒組織については、観察された結晶粒のうち、最も厚みのある結晶粒の厚さを基準とし、この厚さを短辺とするアスペクト比10の長方形を作図して判定した。具体的に説明すると、
図1下側の拡大画像で示したようなアスペクト比10の直方体図形を作成して判定した。
図1の拡大画像の例においては、測定対象の結晶粒は、アスペクト比が10の直方体よりも長いため、アスペクト比10以上と判定される。ここでは、
図1の拡大画像中の白いコントラストの結晶粒を適宜に選択し、上述のようなアスペクト比が10となる長さを持つ直方体図形を作成・対比し、アスペクト比が10以上であるかを判定した。そして、アスペクト比が10以上の結晶粒が1視野当り10個以上であったとき繊維状組織とした。5視野うち8割(4視野)で繊維状組織と判定されたとき、当該試料の結晶粒組織を繊維状組織の合金材と判定し、それ以外を再結晶組織の合金材と判定した。
【0084】
尚、画像の目視観察による結晶粒組織の判定では、陽極酸化法により第二相粒子が大きく観察され、結晶粒の観察が困難となる部位が発生していることがある。よって、第二相粒子が多く発生する試料では、結晶粒の正確なアスペクト比を正確に測定することは困難である。特に、偏光観察において黒に近いコントラストで観察される結晶粒は、第二相との区別が困難となる。そのような理由から、結晶粒組織観察で、白いコントラストで観察される結晶粒を対象にアスペクト比を測定することが好ましい。
【0085】
次に、各アルミニウム合金板材(素板)について、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の数密度(面密度)を測定した。この測定は、板厚方向に垂直な断面のSEM観察(反射電子像観察)により行った。観察は各供試材にて5視野ずつ行い、それぞれの視野のSEM写真(倍率1000倍)を画像解析することで、円相当径が5μmを超える第二相粒子の面密度を調べた。
【0086】
各アルミニウム合金板材(素板)のn値と局部伸びを測定した。これらの物性値の測定は、短冊状に切断したフィン材(寸法:幅35mm×長さ200mm)を成形加工し、常温で引張試験を行い、その結果に基づき行った。n値は、引張試験から得られた公称応力−公称歪曲線に基づき、真応力−真歪を作成し、上述した式(1)に従い、最大荷重点の公称歪の0.9倍の公称歪から、最大荷重点の公称歪の2点間のn値を求めた。局部伸びは、引張試験から得られた公称応力−公称歪曲線から求めた。尚、この測定試験において、最大荷重点を示さずに破断したものについては、破断伸びを最大荷重点の公称歪とした。
【0087】
以上の金属組織評価及び物性値測定を行った後、各アルミニウム合金板材(素板)に対する評価試験を行った。この評価試験は、加工による耐変形性の評価、ろう付け性の評価について行った。
【0088】
[加工による耐変形性の評価]
変形性の評価試験は、アルミニウム合金板材に対して、ろう付前の加工を模擬して冷間加工を10%加えた。その後、幅16mm、突き出し長さ50mmのサグ試験用試験片に切断し、600℃×3minの条件でサグ試験を行った。サグ試験の結果、垂下量が20mm以下であるものを「◎」、20mmを超え30mm以下であるものを「○」、30mmを超え40mm以下であるものを「△」、40mmを超えるものを「×」とした。本実施例では、「△」以上の結果を、対変形性が良好であると判定した。
【0089】
[ろう付性の評価]
ろう付性の評価試験では、製造したアルミニウム合金板材を幅20mm、長さ300mmの短冊状に切断し、コルゲート加工を施した。コルゲート加工したフィン材を、JIS A1050の押出扁平管と組み合わせてミニコア形状に組付け、ミニコアにフッ化物系フラックスを吹き付けて乾燥させた後、窒素雰囲気で600℃の温度に3分間保持し、ろう付接合を行った。ろう付後のミニコアの断面を観察し、フィン・チューブ間の接合部のフィレットの有無を調査してろう付性を評価した。その際、フィレットの形成が100%であるものを「◎」、100%未満98%以上であるものを「○」、90%以上98%未満であるものを「△」、90%未満であるものを「×」とした。本実施例では、「△」以上の結果を、ろう付性が良好であると判定した。尚、このろう付け性の評価試験においては、合金A24〜A26についてのみ、フラックスを塗布せずに真空中でろう付接合を行って評価をした。
【0090】
また、本実施例、比較例におけるアルミニウム合金板材おいては、板材製造における製造性の評価を予め行った。製造性の評価は、熱間圧延工程の際に荷重が設備能力を超えたために板材の製造が不可となった場合、又は、冷間圧延工程の際に割れが発生したために板材の製造が不可となった場合を「×」と判定した。板材が製造可能であった場合は、「○」と判定した。
【0091】
本実施例、比較例のアルミニウム合金板材の測定結果及び評価結果を表6〜表10に示した。これらの表から、本発明の構成と効果に関して、以下のような検討結果が得られた。
【0097】
表6〜表9より、本発明で規定した各種条件を具備する実施例1〜72のアルミニウム合金材は、いずれも、結晶粒組織が繊維状組織を呈しており、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の数密度(面密度)、n値、局部伸びのいずれもが条件を満たす。
そして、これらの実施例は、加工後の耐変形性が良好であった。また、製造性に問題がなく、ろう付性も良好であった。
【0098】
一方、表10より、比較例1〜比較例10(合金B1〜B10)においては、その組成、又は、製造条件に起因する金属組織や物性値(n値)が本発明の規定外であった。その結果、耐変形性の評価やろう付け性において劣る点があった。具体的には、下記のとおりである。
【0099】
比較例1では、Siが少なすぎるため、流動ろうが不足し、ろう付性が×となった。
比較例2では、Siが多すぎるため、芯材の溶融や侵食が顕著となり、加工後の耐変形性が×となった。
比較例3では、Mnが少なすぎるため、ろう付後の結晶粒の粗大化が不十分となり、加工後の耐変形性が×となった。
比較例4では、Mnが多すぎるため、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、圧延が困難となり製造性が×となった。
比較例5では、Feが多すぎるため、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、圧延が困難となり製造性が×となった。
以上のように、比較例1〜比較例5においては、組成に起因して不十分な特性となった。
【0100】
また、比較例6では、焼鈍工程(中間焼鈍)の温度が高かった。そのため、結晶粒組織が繊維状組織ではなく再結晶組織となっていた。その結果、加工後の耐変形性が×であった。また、この合金は局部伸びが1%未満と低かった。
比較例7の合金も、焼鈍工程の温度が高い。この比較例では最終焼鈍温度であるが、焼鈍温度が高く再結晶組織となっており、加工後の耐変形性が×であった。この合金も局部延びが低かった。
これらの比較例から、焼鈍工程の温度が高く、再結晶が生じる場合、合金材の結晶粒組織は、繊維状組織(未再結晶)から再結晶組織となり、加工後の耐変形性が低下することが確認された。
【0101】
比較例8では、熱延前の加熱工程における加熱温度が高く、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の数密度(面密度)が好適範囲を超えていた。粗大な第二相粒子が過剰に生成したことにより、ろう付時に再結晶粒が微細化し加工後の耐変形性が×であった。
この比較例8の結果と、上記の比較例6、7の結果とを併せて考察すると、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材において、加工後にろう付けするときの耐変形性を確保するためには、結晶粒組織(繊維状組織)の調整と、円相当径5μm〜10μmの第二相粒子の密度の抑制(1000個/mm
2以下)の双方が必要であることがわかる。
【0102】
そして、比較例9では、熱延前の加熱工程の加熱温度が低すぎるため圧延が困難となり製造性が×となった。比較例10については、冷間圧延(最終冷間圧延)の圧延率が高く、n値が低すぎるため、加工後の耐変形性が×であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上説明したとおり、本発明は、単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材であって、従来技術に対して加工後にろう付したときの耐変形性に優れる材料である。この耐変形性は、ろう付前加工の加工度が高い場合であっても維持される。本発明は、熱交換器やヒートシンク等の各種のアルミニウム材料製品の構成材料として有用である。そして、単層で加熱接合機能を有することから、ブレージングシートや置きろう材の適用よりも低コストでの製品供給を可能とする。