【課題】第1軸線を中心軸線とする第1伝動部材と、第1軸線回りに回転する第1伝動軸、及び第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が連結された回転部材と、偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、第1軸線回りに回転する第2伝動軸に連結され第2伝動部材に対向する第3伝動部材と、第1,第2伝動部材間の第1変速機構と、第2,第3伝動部材間の第2変速機構とを備えた伝動装置において、第1、第3伝動部材等のケーシングへの支持部に高度な加工精度を必要とせずに各変速機構の伝動効率を高める。
【解決手段】第1伝動部材5は、ケーシングCに軸方向相対移動可能に且つ相対回転不能に連結され、第1伝動部材5とケーシング一側壁Ca間に、第1〜第3伝動部材5,8,9をケーシング他側壁Cb側に付勢する付勢手段50が介装され、第1伝動部材5に径方向の遊びが付与される。
前記ケーシング(C)の前記他側壁(Cb)と、この他側壁(Cb)に対向する前記第3伝動部材(9)との間には、前記付勢手段(50)の付勢力の初期荷重を調整するシム(15)が介装されることを特徴とする、請求項1に記載の伝動装置。
前記第2伝動軸(S2)には、前記ケーシング(C)の前記他側壁(Cb)に第1軸線(X1)回りに回転可能に支持した外部軸(A2)が径方向に遊動可能にスプライン嵌合(SP2)されることを特徴とする、請求項3に記載の伝動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで特許文献1に示されるような従来の伝動装置では、第1変速機構における第1及び第2伝動溝に複数の第1転動体全部が適正に係合し、且つ第2変速機構における第3及び第4伝動溝に複数の第2転動体全部が適正に係合することが、第2伝動部材のスムーズな自転(第2軸線回り)及び公転(第1軸線回り)を確保して第1及び第2変速機構の伝動効率を高める上で有効である。
【0005】
そこで上記従来装置では、第1伝動部材をケーシングの一側壁と一体化させる一方、第1伝動軸及び第3伝動部材をそれぞれ軸受を介してケーシングに支持することで、第1伝動部材、第1伝動軸、及び第3伝動部材(第2伝動軸)の都合三者の互いの同軸配置をケーシングに関連付けて確保している。
【0006】
しかしながら、そのような手法では、各伝動部材及び各伝動軸のケーシングへの支持部に高度の加工精度が要求され、製造コストの増大を招く問題がある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、上記支持部に特別高度な加工精度を必要とせずに第1及び第2変速機構の伝動効率を高め得る伝動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、第1軸線を中心軸線とする第1伝動部材と、第1軸線回りに回転する第1伝動軸、及び第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体的に連結された偏心回転部材と、前記偏心軸部に第2軸線回りに回転自在に支持されると共に前記第1伝動部材に対向する第2伝動部材と、第1軸線回りに回転する第2伝動軸に同軸で連結されると共に前記第2伝動部材に対向する第3伝動部材と、前記第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、前記第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構と、前記第1〜第3伝動部材を収容するケーシングとを備え、前記第1変速機構が、前記第1伝動部材の、前記第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状の第1伝動溝と、前記第2伝動部材の、前記第1伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状で波数が第1伝動溝とは異なる第2伝動溝と、それら第1及び第2伝動溝の複数の交差部に各々介装され、第1及び第2伝動溝を転動しながら前記第1及び第2伝動部材間の変速伝動を行う複数の第1転動体とを有し、前記第2変速機構は、前記第2伝動部材の、前記第3伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状の第3伝動溝と、前記第3伝動部材の、前記第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状で波数が第3伝動溝とは異なる第4伝動溝と、それら第3及び第4伝動溝の複数の交差部に介装され、第3及び第4伝動溝を転動しながら前記第2及び第3伝動部材間の変速伝動を行う複数の第2転動体とを有し、前記第1及び第2伝動軸間で変速伝動を行い、又は前記ケーシングから前記第1及び第2伝動軸に回転トルクを分配するようにした伝動装置であって、前記第1伝動部材は、前記ケーシングとは別体に構成されていて、該ケーシングに対し軸方向相対移動可能に且つ相対回転不能に連結され、この第1伝動部材と、これに対向する前記ケーシングの一側壁との間には、前記第1〜第3伝動部材を該ケーシングの他側壁に向かって付勢する付勢手段が介装され、前記第1伝動部材には、前記ケーシングに対する径方向の遊びが付与されることを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記ケーシングの前記他側壁と、この他側壁に対向する前記第3伝動部材との間には、前記付勢手段の付勢力の初期荷重を調整するシムが介装されることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記第3伝動部材には、前記ケーシングに対する径方向の遊びが付与されることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第3の特徴に加えて、前記第2伝動軸には、前記ケーシングの前記他側壁に第1軸線回りに回転可能に支持した外部軸が径方向に遊動可能にスプライン嵌合されることを第4の特徴とする。
【0012】
また上記目的を達成するために、本発明は、第1軸線を中心軸線とする第1伝動部材と、第1軸線回りに回転する第1伝動軸、及び第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体的に連結された偏心回転部材と、前記偏心軸部に第2軸線回りに回転自在に支持されると共に前記第1伝動部材に対向する第2伝動部材と、第1軸線回りに回転する第2伝動軸に同軸で連結されると共に前記第2伝動部材に対向する第3伝動部材と、前記第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、前記第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構と、前記第1〜第3伝動部材を収容するケーシングとを備え、前記第1変速機構が、前記第1伝動部材の、前記第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状の第1伝動溝と、前記第2伝動部材の、前記第1伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状で波数が第1伝動溝とは異なる第2伝動溝と、それら第1及び第2伝動溝の複数の交差部に介装され、第1及び第2伝動溝を転動しながら前記第1及び第2伝動部材間の変速伝動を行う複数の第1転動体とを有し、前記第2変速機構は、前記第2伝動部材の、前記第3伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状の第3伝動溝と、前記第3伝動部材の、前記第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状で波数が第3伝動溝とは異なる第4伝動溝と、それら第3及び第4伝動溝の複数の交差部に介装され、第3及び第4伝動溝を転動しながら前記第2及び第3伝動部材間の変速伝動を行う複数の第2転動体とを有し、前記第1及び第2伝動軸間で変速伝動を行い、又は前記ケーシングから前記第1及び第2伝動軸に回転トルクを分配するようにした伝動装置であって、前記第1伝動軸は、前記ケーシングの一側壁に第1軸線回りに回転可能に支持される第1外部軸に対して、また前記第2伝動軸は、前記ケーシングの他側壁に第1軸線回りに回転可能に支持される第2外部軸に対して、それぞれ相対回転不能に連結され、前記第1伝動部材は、前記ケーシングとは別体に構成されていて、該ケーシングに対し相対回転不能に連結され、前記第1伝動部材には前記ケーシングに対する径方向の遊びが、また前記第2伝動軸には前記第2外部軸に対する径方向の遊びがそれぞれ付与されることを第5の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第5の特徴に加えて、前記第1伝動部材と前記ケーシングとの相互の前記連結は、その相互の軸方向相対移動を許容するものであり、この第1伝動部材と、これに対向する前記ケーシングの前記一側壁との間には、前記第1〜第3伝動部材を該ケーシングの前記他側壁に向かって付勢する付勢手段が介装されることを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、第1伝動部材は、ケーシングとは別体に構成されていて、ケーシングに対し軸方向相対移動可能に且つ相対回転不能に連結され、この第1伝動部材と、これに対向するケーシングの一側壁との間には、第1〜第3伝動部材をケーシングの他側壁に向かって付勢する付勢手段が介装されるので、この付勢手段による付勢力が第1及び第2変速機構に作用することとなり、各々の変速機構において伝動溝及び転動体間のバックラッシュを自動的に排除して、第1及び第2変速機構の伝動効率を高めることができる。これにより、第1伝動部材、第1伝動軸、及び第3伝動部材(第2伝動軸)の、ケーシングへの支持部に特別高度な加工精度を必要とすることなく第1及び第2変速機構の伝動効率が高められるため、装置の製造コストの低減に寄与することができる。しかも上記付勢手段は、相対回転不能に連結されるケーシング及び第1伝動部材の相互間に介装されるため、伝動中も付勢手段がケーシング及び第1伝動部材に対し摩擦することは殆どなく、その摩耗が回避されて高い耐久性が確保可能となる。
【0015】
その上、第1伝動部材には、ケーシングに対する径方向の遊びが付与されるので、上記付勢手段による第1転動体と第1,第2伝動溝との付勢係合によって、第1伝動部材が第2伝動部材に対し、ケーシングに影響されずに自動調心可能となり、これにより、複数の第1転動体全部と第1,第2伝動溝とが適正に係合して、第1変速機構の伝動効率の更なる向上が図られる。
【0016】
また本発明の第2の特徴によれば、ケーシングの他側壁と、この他側壁に対向する第3伝動部材との間には、上記付勢手段の付勢力の初期荷重を調整するシムが介装されるので、このシムの厚みの選定により、付勢力の初期荷重を簡単に調整できる。しかも、そのシムは、第3伝動部材及びケーシング他側壁間の回転摩擦を低減するワッシャとしても機能し得るから、第3伝動部材及びケーシングの耐久性向上に寄与することができる。
【0017】
また本発明の第3の特徴によれば、第3伝動部材には、ケーシングに対する径方向の遊びが付与されるので、上記付勢手段による第2転動体と第3,第4伝動溝との付勢係合によって、第3伝動部材が第2伝動部材に対し、ケーシングに影響されずに自動調心可能となり、これにより、複数の第2転動体全部と第3,第4伝動溝とが適正に係合して、第2変速機構の伝動効率の更なる向上が図られる。
【0018】
また本発明の第4の特徴によれば、第2伝動軸には、ケーシングの他側壁に第1軸線回りに回転可能に支持される外部軸が径方向に遊動可能にスプライン嵌合されるので、その第2伝動軸から、ケーシング他側壁に支持される外部軸にトルク伝達可能であり、しかも第2伝動軸は、外部軸に対する径方向の遊びを有することから、第3伝動部材の上記した自動調心作用が外部軸により阻害されるのを回避することができる。
【0019】
また本発明の第5の特徴によれば、第1伝動部材は、ケーシングとは別体に構成されていて、ケーシングに対し相対回転不能に連結され、第1伝動部材にはケーシングに対する径方向の遊びが付与されるので、第1伝動部材が、これと対向する第2伝動部材に対し第1変速機構を介して自動調心可能となり、複数の第1転動体全部と第1,第2伝動溝とが適正に係合して第1変速機構の伝動効率の向上が図られる。また第2伝動軸には第2外部軸に対する径方向の遊びが付与されるので、第2伝動軸と共に同軸回転する第3伝動部材が、これと対向する第2伝動部材に対し第2変速機構を介して自動調心可能となり、複数の第2転動体全部と第3,第4伝動溝とが適正に係合して第2変速機構の伝動効率の向上が図られる。以上により、全体として伝動効率の高い伝動装置が得られる。
【0020】
また本発明の第6の特徴によれば、第1伝動部材とケーシングとの相互の連結は、その相互の軸方向相対移動を許容するものであり、この第1伝動部材と、これに対向するケーシングの一側壁との間には、第1〜第3伝動部材をケーシングの他側壁に向かって付勢する付勢手段が介装されるので、付勢手段による付勢力が第1及び第2変速機構に作用して各変速機構における伝動溝及び転動体間のバックラッシュを自動的に排除可能となり、このバックラッシュ排除効果と、上記した第2伝動部材に対する第1,第3伝動部材の自動調心効果とが相俟って、第1,第2変速機構の伝動効率の更なる向上が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0023】
先ず、
図1において、自動車のミッションケース1内には、伝動装置としての差動装置Dが変速装置と共に収容される。この差動装置Dは、前記変速装置の出力側に連動回転するリングギヤCmの回転を、差動装置Dの中心軸線即ち第1軸線X1上に相対回転可能に並ぶ左右の第1,第2駆動車軸A1,A2(即ち第1,第2外部軸)に対して、両駆動車軸A1,A2相互の差動回転を許容しつつ分配する。尚、各々の駆動車軸A1,A2とミッションケース1との間は、シール部材4,4′でシールされる。
【0024】
差動装置Dは、ミッションケース1に第1軸線X1回りに回転可能に支持されるデフケースCと、そのデフケースC内に収容される後述の差動機構3とで構成される。デフケースCは、外周にヘリカルギヤ部を一体に有する短円筒状のリングギヤCmと、そのリングギヤCmの軸方向両端部に外周端部がそれぞれ接合される左右一対の第1,第2側壁Ca,Cbとを備える。その第1,第2側壁Ca,Cbの外周端部とリングギヤCmとの相互の接合面間は、溶接、接着、かしめ等の適当な結合手段により一体的に接合される。
【0025】
第1,第2側壁Ca,Cbは、各々の内周端部において軸方向外方に延びる円筒ボス状の第1,第2軸受B1,B2をそれぞれ一体に有しており、その第1,第2軸受B1,B2の外周部は、ミッションケース1に外軸受2,2′を介して第1軸線X1回りに回転自在に支持される。また第1,第2軸受B1,B2の内周部には、第1軸線X1を回転軸線とする第1,第2駆動車軸A1,A2がそれぞれ回転自在に嵌合、支持される。尚、第1,第2軸受B1,B2の内周部に、デフケースCとは別体の内軸受を装着し、この内軸受に第1,第2駆動車軸A1,A2をそれぞれ回転自在に支持させてもよい。
【0026】
次にデフケースC内の差動機構3の構造を説明する。差動機構3は、第1軸線X1を中心軸線とするリング板状の第1伝動部材5と、第1軸線X1を中心軸線とする第1伝動軸S1、および第1軸線X1から所定量eだけ偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eを一体に有する偏心回転部材6と、第1伝動部材5に一側部が対向配置され且つ偏心軸部6eに軸受B3を介して第2軸線X2回りに回転自在に支持される円環状の第2伝動部材8と、第2伝動部材8の他側部に対向配置されるリング板状の第3伝動部材9と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを主要な構成要素とする。
【0027】
上記第1伝動部材5は、デフケースCの第1側壁Caの内側面に設けた環状凹部51内に収容される。この第1伝動部材5は、第1側壁Caに一体的に回転するよう連結され、その連結部において第1伝動部材5には、デフケースCに対する径方向の遊びが付与される。即ち、環状凹部51の外周端内面には、第1伝動部材5の外周部が径方向遊動可能且つ軸方向相対摺動可能にスプライン嵌合SP3される。尚、このスプライン嵌合SP3部位においては、上記径方向遊動をスムーズ化するために、第1伝動部材5と第1側壁Ca間でのトルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも僅かな遊びが設定される。
【0028】
尚また、第1伝動部材5と第1側壁Ca間の、トルク伝動可能で径方向遊動可能且つ軸方向相対移動可能な連結手段としては、本実施形態のようなスプライン嵌合SP3に代えて、ドグ歯、クラッチ歯等を用いた噛み合わせ手段を採用してもよい。この場合、その噛み合わせ部位においても、上記径方向遊動をスムーズ化するために、第1伝動部材5と第1側壁Ca間でのトルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも僅かな遊びが設定される。
【0029】
また、偏心回転部材6の主軸部となる第1伝動軸S1は、円筒状をなしており、これの内周面には第1駆動車軸A1の内端部外周が同軸で連結(本実施形態ではスプライン嵌合SP1)される。尚、本実施形態のスプライン嵌合SP1部位には、径方向の遊びを設けてもよいし或いは設けなくてもよい。
【0030】
また、第3伝動部材9は、第1軸線X1を中心軸線とするものであって、それの内周端部に、軸方向外方に延びる円筒状の第2伝動軸S2が同軸で連結(本実施形態では一体に形成)される。それら第3伝動部材9及び第2伝動軸S2の連結体には、デフケースCに対する径方向の遊びが付与され、即ちその遊びを許容する径方向のクリアランスが該連結体とデフケースCとの間に設定される。但し、その遊び範囲は、次に説明する第2伝動軸S2と第2駆動車軸A2とのスプライン嵌合SP2部位における第2伝動軸S2の径方向遊動範囲が限界となる。
【0031】
第2伝動軸S2の内周面には、第2駆動車軸A2の内端部外周が径方向に遊動可能にスプライン嵌合SP2される。このスプライン嵌合SP2部位においては、上記径方向の遊動をスムーズ化するために、第2伝動軸S2と第2駆動車軸A2間でのトルク伝動に支障のない範囲で周方向(即ち回転方向)にも僅かな遊びが設定される。
【0032】
而して、第1軸線X1を中心軸線とする第1伝動軸S1と一体の偏心軸部6eに、第2伝動部材8が第2軸線X2回りに回転自在に支持されることで、第2伝動部材8は、偏心回転部材6(即ち第1伝動軸S1)の第1軸線X1回りの回転に伴い、偏心軸部6eに対し第2軸線X2回りに自転しつつ、第1伝動軸S1に対し第1軸線X1回りに公転可能である。
【0033】
ところで第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6eに軸受B3を介して回転自在に支持される円環状の第1半体8aと、その第1半体8aに間隔をおいて対向する円環状の第2半体8bと、その両半体8a,8b間の空間を囲むようにして両半体8a,8b間を一体的に連結する円筒状の連結部材8cとを備える。そして、第1半体8aと第1伝動部材5との間に前記第1変速機構T1が、また第2半体8bと第3伝動部材9との間に前記第2変速機構T2がそれぞれ設けられる。
【0034】
更に差動機構3は、第1軸線X1を挟んで偏心回転部材6の偏心軸部6e及び第2伝動部材8の総合重心とは逆位相であり且つその総合重心の回転半径よりも大なる回転半径を有するバランスウェイト7を第2伝動部材8の内部空間に備える。バランスウェイト7は、偏心回転部材6の主軸部たる第1伝動軸S1に一体回転するように装着される。また第2伝動部材8には、それの連結部材8cの周壁において、バランスウェイト7の取付けと潤滑油の流通確保に利用可能な複数の開口11が形成される。
【0035】
次に第1,第2変速機構T1,T2について順に説明する。第1伝動部材5の、第2伝動部材8の一側面(即ち第1半体8a)に対向する内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第1伝動溝21が形成され、この第1伝動溝21は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第2伝動部材8の、第1伝動部材5に対向する一側面(第1半体8a)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第2伝動溝22が形成される。第2伝動溝22は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、第1伝動溝21の波数よりも少ない波数を有して第1伝動溝21と複数箇所で交差する。第1伝動溝21及び第2伝動溝22の交差部(即ち重なり部)には、第1転動体としての複数の第1伝動ボール23が介装されており、各々の第1伝動ボール23は、第1及び第2伝動溝21,22の内側面を転動自在である。
【0036】
第1伝動部材5及び第2伝動部材8(第1半体8a)の相対向面間には、複数の第1転動ボール23を回転自在に保持し得る円環状の扁平な第1保持部材H1が介装される。
【0037】
また、第2伝動部材8の他側面(即ち第2半体8b)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第3伝動溝24が形成され、この第3伝動溝24は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第3伝動部材9の、第2伝動部材8との対向面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第4伝動溝25が形成される。第4伝動溝25は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、第3伝動溝24の波数よりも少ない波数を有して第3伝動溝24と複数箇所で交差する。第3伝動溝24及び第4伝動溝25の交差部(重なり部)には、第2転動体としての複数の第2伝動ボール26が介装され、各々の第2伝動ボール26は、第3及び第4伝動溝24,25の内側面を転動自在である。
【0038】
第3伝動部材9及び第2伝動部材8(第2半体8b)の相対向面間には、複数の第2転動ボール26を回転自在に保持し得る円環状の扁平な第2保持部材H2が介装される。
【0039】
以上において、第1伝動溝21の波数をZ1、第2伝動溝22の波数をZ2、第3伝動溝24の波数をZ3、第4伝動溝25の波数をZ4としたとき、下記式が成立するように、第1〜第4伝動溝21,22,24,25は形成される。
【0040】
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
望ましくは、図示例のように、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とするとよい。
【0041】
尚、図示例では、8波の第1伝動溝21と6波の第2伝動溝22とが7箇所で交差し、この7箇所の交差部(重なり部)に7個の第1伝動ボール23が介装され、また6波の第3伝動溝24と4波の第4伝動溝25とが5箇所で交差し、この5箇所の交差部(重なり部)に5個の第2伝動ボール26が介装される。
【0042】
而して、第1伝動溝21、第2伝動溝22及び第1伝動ボール23は互いに協働して、第1伝動部材5及び第2伝動部材8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1を構成し、また第3伝動溝24、第4伝動溝25及び第2伝動ボール26は互いに協働して、第2伝動部材8及び第3伝動部材9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2を構成する。
【0043】
ところで第1伝動部材5は、デフケースCの第1側壁Caとは別体に形成されるが、それら第1伝動部材5と第1側壁Caとの間には、第1〜第3伝動部材5,8,9を第2側壁Cbに向かって付勢する付勢手段として皿ばね50が介装される。この皿ばね50は、それの第1伝動部材5と第1側壁Ca間へのセット状態で所定の付勢力を生じさせるように、その間に適度な弾性圧縮状態で保持される。尚、上記付勢手段は、本実施形態のような皿ばねに限定されず、第1伝動部材5と第1側壁Ca間に介装可能であって上記付勢力を発揮し得る種々の弾性部材、例えばゴム、ウエーブワッシャ、板ばね等を使用してもよい。
【0044】
さらにデフケースCの第2側壁Cbと第3伝動部材9との相対向面間には、その相対向面の少なくとも一方に相対摺動可能なスラストワッシャ15が介装される。このスラストワッシャ15は、本実施形態では第3伝動部材9の外側面に設けた環状凹部に嵌合保持されるが、第2側壁Cbの内側面に、スラストワッシャ15を嵌合保持させる環状凹部を設けるようにしてもよい。
【0045】
而して、第2側壁Cbと第3伝動部材9との相対向面間に上記スラストワッシャ15を介装したことにより、その相対向面間の回転摩擦(従って摩耗)を低減できるため、その相対向面の耐久性が向上する。その上、このスラストワッシャ15は、皿ばね50の付勢力の初期荷重を調整するシムとしても機能し得るものであり、例えば厚みの異なる複数種類のスラストワッシャ15を予め用意しておき、それらのうちから任意のスラストワッシャ15を適宜選定することで皿ばね50の付勢力の初期荷重を容易且つ的確に調整可能となる。
【0046】
次に、前記実施形態の作用について説明する。
【0047】
いま、例えば右方の第1駆動車軸A1を固定することで偏心回転部材6(従って偏心軸部6e)を固定した状態において、エンジンからの動力でリングギヤCmが駆動され、デフケースC、従って第1伝動部材5を第1軸線X1回りに回転させると、第1伝動部材5の8波の第1伝動溝21が第2伝動部材8の6波の第2伝動溝22を第1伝動ボール23を介して駆動するので、第1伝動部材5が8/6の増速比を以て第2伝動部材8を駆動することになる。そして、この第2伝動部材8の回転によれば、第2伝動部材8の6波の第3伝動溝24が第3伝動部材9の4波の第4伝動溝25を第2伝動ボール26を介して駆動するので、第2伝動部材8が6/4の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0048】
結局、第1伝動部材5は、
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=(8/6)×(6/4)=2
の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0049】
一方、左方の第2駆動車軸A2を固定することで第3伝動部材9を固定した状態において、デフケース(従って第1伝動部材5)を回転させると、第1伝動部材5の回転駆動力と、第2伝動部材8の、不動の第3伝動部材9に対する駆動反力とにより、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6e(第2軸線X2)に対し自転しながら第1軸線X1回りに公転して、偏心軸部6eを第1軸線X1回りに駆動する。その結果、第1伝動部材5は、2倍の増速比を以て偏心回転部材6を駆動することになる。
【0050】
而して、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の負荷が相互にバランスしたり、相互に変化したりすると、第2伝動部材8の自転量及び公転量が無段階に変化し、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の回転数の平均値が第1伝動部材5の回転数と等しくなる。こうして、第1伝動部材5の回転は、偏心回転部材6及び第3伝動部材9に分配され、したがってリングギヤCmからデフケースCに伝達された回転力を左右の駆動車軸A1,A2に分配することができる。
【0051】
その際、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とすることにより、差動機能を確保しつゝ構造の簡素化を図ることができる。
【0052】
ところで、この差動装置Dにおいて、第1伝動部材5の回転トルクは、第1伝動溝21、複数の第1伝動ボール23及び第2伝動溝22を介して第2伝動部材8に、また第2伝動部材8の回転トルクは、第3伝動溝24、複数の第2伝動ボール26及び第4伝動溝25を介して第3伝動部材9にそれぞれ伝達されるので、第1伝動部材5と第2伝動部材8、第2伝動部材8と第3伝動部材9の各間では、トルク伝達が第1及び第2伝動ボール23,26が存在する複数箇所に分散して行われることになり、第1〜第3伝動部材5,8,9及び第1、第2伝動ボール23,26等の各伝動要素の強度増及び軽量化を図ることができる。
【0053】
また本実施形態では、第1伝動部材5が、デフケースCとは別体に構成されていて、デフケースCに対し軸方向相対摺動可能に且つ相対回転不能に連結(スプライン嵌合SP3)され、この第1伝動部材5と、これに対向するデフケースCの第1側壁Caとの間には、第1〜第3伝動部材5,8,9を第2側壁Cbに向かって付勢する付勢手段としての皿ばね50が介装されている。そして、この皿ばね50の弾発付勢力が第1及び第2変速機構T1,T2に作用することとなり、各々の変速機構T1(T2)において伝動溝21,22(24,25)及びボール23(26)間のバックラッシュが自動的に排除されるため、各変速機構T1,T2の伝動効率が高められる。これにより、第1伝動部材5、第1伝動軸S1、及び第3伝動部材9(第2伝動軸S2)の、デフケースCへの支持部に特別高度な加工精度を必要とすることなく両変速機構T1,T2の伝動効率が高められるため、差動装置Dの製造コスト低減が図られる。
【0054】
しかも上記皿ばね50は、相対回転不能に連結されるデフケースC及び第1伝動部材5の相互間に介装されるため、伝動中も皿ばね50がデフケースC及び第1伝動部材5に対し摩擦することは殆どなく、その摩耗が回避されて高い耐久性が確保される。
【0055】
その上、本実施形態では、第1伝動部材5とデフケースCとのスプライン嵌合SP3部位において、第1伝動部材5に、デフケースCに対する径方向の遊びが付与されるため、上記皿ばね50による第1ボール23と第1,第2伝動溝21,22との付勢係合によって、第1伝動部材5が第2伝動部材8に対し、デフケースCに影響されることなく第1変速機構T1を介して自動調心(即ち第1,第2伝動部材5,8の回転軸線相互が所定偏心量を保ちつつ互いに平行な対向位置関係を維持)可能となる。これにより、複数の第1ボール23全部と第1,第2伝動溝21,22とが適正に係合可能となるから、第1変速機構T1の伝動効率の更なる向上が図られる。
【0056】
また本実施形態では、第3伝動部材9にはデフケースCに対する径方向の遊びが付与されるため、上記皿ばね50による第2ボール26と第3,第4伝動溝24,25との付勢係合によって、第3伝動部材9が第2伝動部材8に対し、デフケースCに影響されることなく第2変速機構T2を介して自動調心(即ち第1,第2伝動部材5,8の回転軸線相互が所定偏心量を保ちつつ互いに平行な対向位置関係を維持)可能となる。これにより、複数の第2ボール26全部と第3,第4伝動溝24,25とが適正に係合可能となるから、第2変速機構T2の伝動効率の更なる向上が図られる。
【0057】
更に本実施形態において、第2伝動軸S2には、デフケースCの第2側壁Cb(即ち第2軸受B2)に回転可能に支持した第2駆動車軸A2が径方向遊動可能にスプライン嵌合SP2されるから、第2伝動軸S2から、デフケースC外に延びる第2駆動車軸A2へトルク伝達可能であり、しかも第2伝動軸S2は、上記スプライン嵌合SP2部位において第2駆動車軸A2に対し径方向の遊びを有することから、第3伝動部材9の上記した自動調心作用が第2駆動車軸A2により阻害されるのを回避可能である。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0059】
例えば、前記実施形態では、伝動装置として差動装置Dを例示し、動力源からデフケースC(第1伝動部材5)に入力された動力を、第1,第2変速機構T1,T2を介して第1,第2伝動軸S1,S2に差動回転を許容しつつ分配するようにしたものを示したが、本発明は差動装置以外の種々の伝動装置にも実施可能である。例えば、前記実施形態のデフケースCに対応するケーシングを固定の伝動ケースとし、第1,第2伝動軸S1,S2の何れか一方を入力軸、またその何れか他方を出力軸とすることで、前記実施形態の差動装置Dを、入力軸に入力される回転トルクを変速(減速又は増速)して出力軸に伝達し得る変速機(減速機又は増速機)として転用実施可能であり、その場合には、そのような変速機(減速機又は増速機)が本発明の伝動装置となる。尚、この場合、変速機は、車両用の変速機でも、或いは車両以外の種々の機械装置のための変速機であってもよい。
【0060】
また、前記実施形態では、伝動装置としての差動装置Dを自動車用として自動車のミッションケースM内に収容しているが、差動装置Dは自動車用の差動装置に限定されるものではなく、種々の機械装置のための差動装置としても実施可能である。
【0061】
また、前記実施形態では、伝動装置としての差動装置Dを、左・右輪伝動系に適用して、左右の駆動車軸A1,A2に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するものを示したが、本発明では、伝動装置としての差動装置を、前・後輪駆動車両における前・後輪伝動系に適用して、前後の駆動車輪に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するようにしてもよい。
【0062】
また前記実施形態の第2伝動部材8は、第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cを別々に製作した後、その三者を一体的に結合する構造のものを例示したが、本発明では、第2伝動部材8を、第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cが一体成形された一体物(例えば焼結品)で構成するようにした別実施形態(図示せず)も想定される。その場合、第2伝動部材8は、軸方向に扁平な板状に構成してもよい。
【0063】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の各伝動溝21,22;24,25をトロコイド曲線に沿った波形環状の波溝としているが、これら伝動溝は、実施形態に限定されるものでなく、例えばサイクロイド曲線に沿った波形環状の波溝としてもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の第1及び第2伝動溝21,22間、並びに第3及び第4伝動溝24,25間にボール状の第1及び第2転動体23,26を介装したものを示したが、その転動体をローラ状又はピン状としてもよく、この場合に、第1及び第2伝動溝21,22、並びに第3及び第4伝動溝24,25は、ローラ状又はピン状の転動体が転動し得るような内側面形状に形成される。
【0065】
また、前記実施形態では、第1,第2ボール23,26を円滑に転動させるために第1,第2保持部材H1,H2を用いたものを示したが、第1,第2保持部材H1,H2無しでも第1,第2ボール23,26が円滑に転動可能な場合は、第1,第2保持部材H1,H2を省略してもよい。