【解決手段】音響管の断面A上で点対称配置された少なくとも1組のマイクロホンMic.1及びMic.3からなる第一マイクロホン群と、音響管の断面B上で点対称配置された少なくとも1組のMic.5及びMic.7からなる第二マイクロホン群と、マイクロホンMic.1,Mic.3,・・・の出力信号S
【背景技術】
【0002】
試料の垂直入射吸音率(試料に対して垂直に入射した音波が試料に対して垂直に反射される場合における、垂直に入射する音波のパワーと試料で吸収されるパワーの比)を測定する垂直入射吸音率測定装置としては、
図19に示すように、音響管(インピーダンス測定管)と、音響管の軸線方向に所定間隔を隔てて配された2本のマイクロホンとを備えたものが知られている。この種の垂直入射吸音率測定装置において、垂直入射吸音率は、音響管の一端側に配したスピーカから音響管の他端側に保持された試料に向けて音(信号発生器により生成されたランダム信号)を発し、そのときに計測された2本のマイクロホン間の伝達関数(H
12とする。)を、伝達関数法(ISO 10534−2,JIS A 1405−2,ASTM E1050)に当て嵌めることにより求めることができる。伝達関数H
12は、2本のマイクロホンからの出力信号を高速フーリエ変換分析器(FFTアナライザー)に入力することにより計測される。
【0003】
すなわち、伝達関数法によると、試料の垂直入射音圧反射率(r
0とする。)は、下記式(1)で表わすことができ、試料の垂直入射吸音率(αとする。)は、下記式(2)で表わすことができる。下記式(1)において、kは波数(=ω/c,ω:角周波数,c:音速)、sは2本のマイクロホンの間隔、z
2は試料から遠い方のマイクロホンと試料との間の距離である。
【0004】
【数1】
【数2】
【0005】
したがって、上記の高速フーリエ変換分析器から出力された伝達関数H
12を上記式(1)に代入して垂直入射音圧反射率r
0を求め、その垂直入射音圧反射率r
0を上記式(2)に代入することにより、垂直入射吸音率αを求めることができる。ただし、2本のマイクロホン間の伝達関数H
12には、マイクロホン間のミスマッチの影響が含まれるため、事前に2つのマイクロホン間のミスマッチを補正しておく必要がある(JIS A 1405−2 7.5)。
【0006】
ところで、上記の垂直入射吸音率測定装置で測定可能な周波数fの範囲は、下記式(3)で規定される。下記式(3)において、f
lは、下限周波数であり、信号処理装置の精度によって決まる。また、f
uは、非軸方向平面波(斜め進行波)を発生させない周波数であり、音響管の内径をDとすると、下記式(4)で表わすことができる。下記式(3)及び下記式(4)は、音響管の(1,0)次音響モードのカットオン周波数より低い周波数とする必要があることを示している。したがって、上記の垂直入射吸音率測定装置で高い周波数の吸音率を測定しようとすると、音響管の内径Dを小さくする必要がある。
【0007】
【数3】
【数4】
【0008】
また、2本のマイクロホンの間隔sは、波長に対して十分小さくする必要があり、規格では下記式(5)を満たすように規定されている。下記式(5)は、上記の垂直入射吸音率測定装置で高い周波数の吸音率を測定しようとすると、2本のマイクロホン間の距離sを小さくする必要があることを意味している。
【数5】
【0009】
以上のように、上記の垂直入射吸音率測定装置において、高い周波数の吸音率を測定しようとすると、音響管の内径Dを小さくし、且つ、2本のマイクロホン間の距離sを小さくする必要がある。この点、近年、電気自動車やインバーターを搭載する機器等において、より高い周波数における吸音特性の計測ニーズが高まっている。このような実状に鑑みて、測定装置メーカーのなかには、音響管の内径Dを15mm程度まで細くすることにより、10kHz付近までの測定が可能な垂直入射吸音率測定装置を開発しているところもある。
【0010】
このほか、複数本のマイクロホンを用いて音響管内を伝播する音波を計測する方法としては、非特許文献1や非特許文献2に記載されたものもある。これらはいずれも、複数本のマイクロホン間の伝達関数を計測することで、音響管内の音響モードを分離して計測を行うものとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、
図19の垂直入射吸音率測定装置において、音響管の内径Dを小さくすると、必然的に試料寸法も小さくなる。このため、試料のバラツキや、試料と音響管との間に生ずる摩擦や、音響管に対する試料の取り付け方による影響が、垂直入射吸音率の測定結果に表れやすくなるという問題がある。特に、入射音波の周波数が高くなるにつれて、音響管内部には、試料に対して垂直に入射及び試料において垂直に反射する成分((0,0)次音響モード成分)だけでなく、試料に対して斜めに入射及び試料において斜めに反射する成分((1,0)次音響モード等の高次音響モード成分)による影響が表れるようになるところ、
図19の垂直入射吸音率測定装置では、斜め進行成分による影響が、得られる垂直入射吸音率αに含まれてしまうという問題もある。
【0013】
また、非特許文献1や非特許文献2にも、(1,0)次音響モード等を引き起こす斜め進行成分による影響を除去することについては記載されていない。加えて、非特許文献2の方法は、音響管内の音場を厳密に計測することを主眼としているため、構造が複雑であるだけでなく、音源の位置を変えて複数回測定が必要である等、実用的なものとは言い難い。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、斜め進行成分による測定結果(垂直入射吸音率)への影響を低減することができ、音響管の内径を特に小さくすることなく、高い周波数帯域まで測定することができるようにした垂直入射吸音率測定装置を提供するものである。また、試料における散乱の影響を計測することで、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を評価することのできる垂直入射吸音率測定装置を提供することも本発明の目的である。さらに、本発明の垂直入射吸音率測定装置を用いて試料の垂直入射吸音率を測定する垂直入射吸音率測定方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、
軸線方向に垂直な断面の形状が線対称性及び点対称性を有する管状を為し、軸線方向先端側の内部に試料が配置される音響管と、
音響管の軸線方向基端側に取り付けられたスピーカと、
音響管の周壁部に設けられた複数本のマイクロホンと、
を備えた垂直入射吸音率測定装置であって、
複数本のマイクロホンが、
音響管における軸線方向に垂直な一の断面A上で点対称配置された少なくとも1組のマイクロホンM
A.1,M
A.2からなる第一マイクロホン群と、
音響管の断面Aから軸線方向に所定間隔を隔てた他の断面B上で点対称配置された少なくとも1組のマイクロホンM
B.1,M
B.2からなる第二マイクロホン群と、
で構成されるとともに、
第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2,・・・の出力信号S
A.1,S
A.2,・・・の和S
A.1+S
A.2+・・・(以下、「ΣS
A」と表記する。)と、第二マイクロン群を構成するマイクロホンM
B.1,M
B.2,・・・の出力信号S
B.1,S
B.2,・・・の和S
B.1+S
B.2+・・・(以下、「ΣS
B」と表記する。)とから、第一マイクロホン群と第二マイクロホン群との間の伝達関数を求め、この伝達関数に伝達関数法を当て嵌めて試料の垂直入射吸音率を算出する垂直入射吸音率算出手段(通常、コンピュータにおけるプログラム)と、
少なくとも、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2の出力信号S
A.1,S
A.2の差S
A.1−S
A.2を算出する信頼性評価パラメータ算出手段(通常、コンピュータにおけるプログラム)と、
をさらに備えた
ことを特徴とする垂直入射吸音率測定装置
を提供することによって解決される。
【0016】
というのも、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2の出力信号の和ΣS
Aや、第二マイクロン群を構成するマイクロホンM
B.1,M
B.2の出力信号の和ΣS
Bをとることによって、(1,0)次音響モード等の斜め進行成分による影響をキャンセルすることが可能になる。このため、上記のように、第一マイクロホン群の出力信号の和ΣS
Aと、第二マイクロン群の出力信号の和ΣS
Bとから、第一マイクロホン群と第二マイクロホン群との間の伝達関数を求め、この伝達関数から垂直入射吸音率を算出することによって、(1,0)次音響モード等の斜め進行成分による影響が、得られる垂直入射吸音率に表れにくくすることが可能になる。このため、音響管の内径Dを小さくすることなく、高い周波数帯域まで測定することが可能になる。
【0017】
また、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2の出力信号S
A.1,S
A.2の差S
A.1−S
A.2には、(1,0)次音響モード等の斜め進行成分が2倍になって表れるところ、この差S
A.1−S
A.2を見れば、音響管の内部で斜め進行成分が生じているか否かを判断することが可能になる。換言すると、差S
A.1−S
A.2は、垂直入射吸音率算出手段で算出された垂直入射吸音率を評価するためのパラメータ(信頼性評価パラメータ)として利用することが可能になる。このため、上記のように、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2の出力信号S
A.1,S
A.2の差S
A.1−S
A.2を算出することによって、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を評価することも可能になる。
【0018】
本発明の垂直入射吸音率測定装置においては、
第一マイクロホン群を、少なくとも、
断面A上で点対称配置された1組のマイクロホンM
A.1,M
A.2と、
マイクロホンM
A.1,M
A.2に対して断面A上で線対称配置された1組のマイクロホンM
A.3,M
A.4と、
で構成し、
第二マイクロホン群を、少なくとも、
断面B上で点対称配置された1組のマイクロホンM
B.1,M
B.2と、
マイクロホンM
B.1,M
B.2に対して断面B上で線対称配置された1組のマイクロホンM
B.3,M
B.4と、
で構成し、
垂直入射吸音率算出手段を、
第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2,M
A.3,M
A.4,・・・の出力信号S
A.1,S
A.2,S
A.3,S
A.4,・・・の和ΣS
Aと、第二マイクロホン群を構成するマイクロホンM
B.1,M
B.2,M
B.3,M
B.4,・・・の出力信号S
B.1,S
B.2,S
B.3,S
B.4,・・・の和ΣS
Bとから、第一マイクロホン群と第二マイクロホン群との間の伝達関数を求め、この伝達関数に伝達関数法を当て嵌めて試料の垂直入射吸音率を算出するものとする
ことが好ましい。
【0019】
上記のように、音響管の断面A及び断面Bに2組ずつ(4本ずつ)マイクロホンを配するとともに、断面A上に配されたマイクロホンM
A.1,M
A.2,M
A.3,M
A.4の出力信号S
A.1,S
A.2,S
A.3,S
A.4の和ΣS
Aと、断面B上に配されたマイクロホンM
B.1,M
B.2,M
B.3,M
B.4の出力信号S
B.1,S
B.2,S
B.3,S
B.4,・・・の和ΣS
Bをとることによって、(1,0)次音響モードの斜め進行成分だけでなく、(2,0)次音響モード等の斜め進行成分による影響もキャンセルすることが可能になる。このため、(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モード等の斜め進行成分による影響が、得られる垂直入射吸音率に表れにくくすることが可能になる。このため、さらに高い周波数帯域における垂直入射吸音率を測定することが可能になる。
【0020】
本発明の垂直入射吸音率測定装置において、上記のように、音響管の断面A及び断面Bに2組ずつ(4本ずつ)マイクロホンを配する場合には、
信頼性評価パラメータ算出手段を、
和ΣS
Aに対する、マイクロホンM
A.1,M
A.2の出力信号S
A.1,S
A.2の差S
A.1−S
A.2の比(S
A.1−S
A.2)/ΣS
Aと、
和ΣS
Aに対する、マイクロホンM
A.3,M
A.4の出力信号S
A.3,S
A.4の差S
A.3−S
A.4の比(S
A.3−S
A.4)/ΣS
Aと、
を算出するものとすることが好ましい。
【0021】
というのも、比(S
A.1−S
A.2)/ΣS
A及び比(S
A.3−S
A.4)/ΣS
Aが分かると、試料に対して垂直に入射した音波成分(「音波成分B
00」とする。)に対する、(1,0)次音響モードで試料から斜めに反射される成分(「音波成分A
10」とする。)の比A
10/B
00を求めることが可能になり、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を、比較的簡易な手法で比較的高精度で評価することが可能になるからである。以下においては、比(S
A.1−S
A.2)/ΣS
A及び比(S
A.3−S
A.4)/ΣS
Aから比A
10/B
00を求めることにより、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を評価する方法を「簡易法」と呼ぶことがある。
【0022】
また、本発明の垂直入射吸音率測定装置において、上記のように、音響管の断面A及び断面Bに2組ずつ(4本ずつ)マイクロホンを配する場合には、
信頼性評価パラメータ算出手段を、
和ΣS
Aに対する、マイクロホンM
A.1,M
A.2の出力信号S
A.1,S
A.2の差S
A.1−S
A.2の比(S
A.1−S
A.2)/ΣS
Aと、
和ΣS
Aに対する、マイクロホンM
A.3,M
A.4の出力信号S
A.3,S
A.4の差S
A.3−S
A.4の比(S
A.3−S
A.4)/ΣS
Aと、
和ΣS
Bに対する、マイクロホンM
B.1,M
B.2の出力信号S
B.1,S
B.2の差S
B.1−S
B.2の比(S
B.1−S
B.2)/ΣS
Bと、
和ΣS
Bに対する、マイクロホンM
B.3,M
B.4の出力信号S
B.3,S
B.4の差S
B.3−S
B.4の比(S
B.3−S
B.4)/ΣS
Bと、
を算出するものとすることも好ましい。
【0023】
上記の「簡易法」で述べたように、比(S
A.1−S
A.2)/ΣS
A及び比(S
A.3−S
A.4)/ΣS
Aが分かると比A
10/B
00を求めることが可能になるところ、さらに、比(S
B.1−S
B.2)/ΣS
B及び比(S
B.3−S
B.4)/ΣS
Bが分かると、試料に対して垂直に入射した音波成分(「音波成分B
00」とする。)に対する、(1,0)次音響モードで試料に斜めに入射する成分(「音波成分B
10」とする。)の比B
10/B
00を求めることも可能になる。したがって、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を、簡易法よりもさらに高精度に評価することが可能になる。以下においては、比(S
A.1−S
A.2)/ΣS
A及び比(S
A.3−S
A.4)/ΣS
A並びに比(S
B.1−S
B.2)/ΣS
B及び比(S
B.3−S
B.4)/ΣS
Bから比A
10/B
00及び比B
10/B
00を求めることにより、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を評価する方法を「詳細法」と呼ぶことがある。
【0024】
本発明の垂直入射吸音率測定装置においては、信頼性評価パラメータ算出手段で、音響管の管内入射パワー反射率(上記の簡易法による場合には、後掲する式(45)で定義される反射率R、上記の詳細法による場合には、後掲する式(58)で定義される反射率R。以下同じ。)も算出するようにすることも好ましい。
【0025】
というのも、実際には、試料の表面で散乱が生じるため、試料で斜めに反射された音波が、音響管の内周面や、音響管におけるスピーカ側の管端等で繰り返し反射して停留した後、再び試料に入射するものと考えられる。この点、管内入射パワー反射率が分かれば、試料の表面における散乱の影響も評価することができるようになり、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を、さらに高精度に評価することが可能になるからである。
【0026】
本発明の垂直入射吸音率測定装置においては、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2,・・・と、第二マイクロン群を構成するマイクロホンM
B.1,M
B.2,・・・とを、音響管の軸線方向から見たときに互いに重ならない状態で配する(以下において「非重合配置」と呼ぶことがある。)ことも好ましい。
【0027】
というのも、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2,・・・と、第二マイクロン群を構成するマイクロホンM
B.1,M
B.2,・・・とを、音響管の軸線方向から見たときに互いに重なる状態で配している(以下において「重合配置」と呼ぶことがある。)と、マイクロホンの間隔s(断面Aと断面Bの間隔)を狭くしようとしても、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2,・・・の筺体と、第二マイクロン群を構成するマイクロホンM
B.1,M
B.2,・・・の筺体とが干渉しない範囲でしか、マイクロホンの間隔s(断面Aと断面Bの間隔)を狭くすることができない。すなわち、既に述べたように、間隔sは、小さくした方が、高い周波数帯域における吸音率を測定することが可能になるところ、重合配置では、間隔sを小さくすることができない。この点、非重合配置を採用すれば、マイクロホンの間隔s(断面Aと断面Bの間隔)を狭くしても、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンM
A.1,M
A.2,・・・の筺体と、第二マイクロン群を構成するマイクロホンM
B.1,M
B.2,・・・の筺体とが干渉しないようになるため、マイクロホンの間隔s(断面Aと断面Bの間隔)をより小さく設定することができ、より高周波数帯域における吸音率を測定することが可能になるからである。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によって、斜め進行成分による測定結果(垂直入射吸音率)への影響を低減することができ、音響管の内径を特に小さくすることなく、高い周波数帯域まで測定することができるようにした垂直入射吸音率測定装置を提供することが可能になる。また、測定により得られた垂直入射吸音率の信頼性を評価することのできる垂直入射吸音率測定装置を提供することも可能になる。さらに、本発明の垂直入射吸音率測定装置を用いて試料の垂直入射吸音率を測定する垂直入射吸音率測定方法を提供することも可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の垂直入射吸音率測定装置について、図面を用いてより具体的に説明する。初めに、本発明の垂直入射吸音率測定装置における代表的な実施態様である「8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置」及び「4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置」における垂直入射吸音率の測定原理について説明する。
【0031】
以下においては、説明の便宜上、上述した第一マイクロホン群を構成する「マイクロホンM
A.1」、「マイクロホンM
A.2」、「マイクロホンM
A.3」及び「マイクロホンM
A.4」を、それぞれ、「Mic.1」、「Mic.3」、「Mic.2」及び「Mic.4」と表記し、上述した第二マイクロホン群を構成する「マイクロホンM
B.1」、「マイクロホンM
B.2」、「マイクロホンM
B.3」及び「マイクロホンM
B.4」を、それぞれ、「Mic.5」、「Mic.7」、「Mic.6」及び「Mic.8」と表記する。これらの対応を下記表1に示す。
【表1】
【0032】
[1] 8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置
[1.1] 8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置の測定原理
まず、8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置の測定原理について説明する。8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置は、音響管における断面Aと断面Bとにマイクロホンを4つずつ計8個配置するタイプの垂直入射吸音率測定装置である。ここでは、
図1に示すような音響管の内部の円筒音場について考える。音響管の内部の音圧は、下記式(6)で表すことができる。
【数6】
【0033】
ただし、上記式(6)において、r
Tは音響管における円形断面中心からの距離、θはx軸からの角度、J
m は第1種ベッセル関数、mとnはそれぞれ周方向と半径方向の音響モード次数を表わす。また、C
mnは基準化定数、A
σmn,B
σmn,A
τmn,B
τmn,は音波の振幅である。さらに、k
z(m,n)は、(m,n)次音響モードのz方向の波数を表わし、k
0=ω/c(c:音速)とすると、下記式(7)を満たす。
【数7】
【0034】
ただし、上記式(7)におけるk
r(m,n)は、音響管の内壁における境界条件から導かれる音響管の断面内の波数であり、下記式(8)を満足する。
【数8】
【0035】
上記式(8)を満たす、k
r(m,n)Rの値をα
m,nとすると、各音響モードの断面内音圧分布及びα
m,nの値は、
図2に示すようになる。(0,0)次音響モードは、音響管の内部を断面に垂直に進行する平面波を表す。垂直入射吸音率は、この(0,0)次音響モードの平面音波に対する吸音率である。これに対して、(0,0)次音響モード以外の高次の音響モードは、音響管の内部を斜めに進行する平面波を表す。ただし、上記式(7)から分かるように、k
0<k
r(m,n)となる低周波数においては、k
z(m,n)は純虚数となるため、音響管の内部ではエバネッセント波となって、減衰し伝搬しない。したがって、(m,n)次音響モードが音響管の内部で伝搬できる最小の周波数(カットオン周波数)f
m,nは、下記式(9)で表わすことができる。
【数9】
【0036】
通常の吸音率を測定する音響管では、(0,0)次音響モード以外の高次の音響モードが伝搬しないような周波数領域で計測を行う。つまり、カットオン周波数が最も低い音響モードは(1,0)次音響モードなので、上記式(9)より測定可能な上限周波数は、下記式(10)に示すようになる。この下記式(10)は、上記式(4)に相当するものである。
【数10】
【0037】
ここで、(0,0)次音響モード、(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードが伝播する周波数領域を考える。この場合、音響管の内部の音圧は、上記式(6)から、下記式(11)に示すようになる。
【数11】
【0038】
まず、
図1の断面Aについて考える。r
1、r
2、r
3及びr
4の4点における音圧は、下記式(12)〜(15)で表わされる。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【0039】
ただし、上記式(12)〜(15)におけるα
10及びα
20は、それぞれ上記式(8)を満足する(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードに対するk
r(m,n)Rの値を示しており、α
10は凡そ1.8413、α
20は凡そ3.0543である。また、z
1は断面Aのz座標である。r
1、r
2、r
3及びr
4の和をとると、下記式(16)に示すようになる。
【数16】
【0040】
次に、断面Bについて考える。断面Aのマイクロホンの位置に対して、断面Bのマイクロホンの位置は中心からの角度θ
mだけずらされているものとする。音響管の内部の音圧は、これまでと同様に下記式(17)〜(20)で表わすことができる。
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【0041】
ただし、z
2は断面Bのz座標である。r
5、r
6、r
7及びr
8の和をとると、下記式(21)に示すようになる。
【数21】
【0042】
上記式(16)及び上記式(21)より、断面A及び断面Bともに、各マイクロホンの信号を足しあわせることで、(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードの影響を除去し、垂直進行成分((0,0)次音響モード成分)のみが抽出されることが分かる。p
s{1}(「p」の下付き文字「s{1}」における「{1}」は丸囲みの「1」。以下、「{」と「}」とで挟まれた数字については、当該数字を丸囲みで表わしたものとする。)に対するp
s{2}の比p
s{2}/p
s{1}で表わされる伝達関数H
{1}{2}を求めると下記式(22)に示すようになる。
【数22】
【0043】
ここでは、
図3に示すような測定装置を考え、z=0面に測定対象(試料)となる吸音材料が設置されているとし、試料に対して垂直に入射した平面音波に対する試料で垂直に反射した平面音波の音圧反射率をr
0→0=A
00/B
00とすると、上記式(22)は下記式(23)で表わすことができる。
【数23】
【0044】
上記式(23)より、反射率r
0→0について求めると下記式(24)に示すようになる。
【数24】
【0045】
上記式(24)において、sは断面Aと断面Bとの間隔であり、s=z
2−z
1である。上記式(24)より反射率r
0→0が求められれば、吸音率αは、α=1−|r
0→0|
2で求めることができる。すなわち、8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置では、(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードが伝播する周波数領域まで垂直入射吸音率を測定可能である。
【0046】
[1.2] 8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置の構成
8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置において、音響管の断面形状は、線対称性及び点対称性を有するのであれば、特に限定されない。このような断面形状としては、真円や、楕円や、長方形(正方形を含む。)等が例示される。勿論、線対称性及び点対称性を有するのであれば、上記以外の断面形状(三角形や五角形や六角形等。以下、「三角形等」と表記する。)を採用することもできるが、三角形等の場合には、音響管や試料を作成することが難しくなるだけであり、特に得られるメリットはない。これは、後述する4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置においても同様である。
【0047】
また、8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置において、断面Aで対向配置される第一マイクロホン群(
図3におけるマイクロホンMic.1〜Mic.4)は、互いに対向する2組のマイクロホン(マイクロホンMic.1及びマイクロホンMic.3からなる組、並びに、マイクロホンMic.2及びマイクロホンMic.4からなる組)のうち、
図18(b)に示すように、1組(例えばマイクロホンMic.1,Mic.3からなる組)を点対称配置し、その線対称位置にもう1組(例えばマイクロホンMic.2,Mic.4からなる組)を配置するようにする必要がある。
【0048】
これに対し、例えば、
図18(a)に示すように、1組(例えばマイクロホンMic.1,Mic.3からなる組)を点対称配置し、それに直交した位置にもう1組(例えばマイクロホンMic.2,Mic.4からなる組)を配置した場合には、断面形状が真円である場合(真円の場合は、上述した、1組を点対称配置し、その線対称位置にもう1組を配置した場合と同様になる。)以外は、2組目のマイクロホンは、1組目のマイクロホンの線対称な位置にはならず、上記の測定原理を適用できなくなってしまう。
【0049】
このことは、断面Aに配される第一マイクロホン群だけでなく、断面Bに配される第二マイクロホン群(
図3におけるマイクロホンMic.5〜Mic.8)についても同様のことが言える。このため、8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置において、上記の測定原理を適用できるようにするためには、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンMic.1〜Mic.4と、第二マイクロホン群を構成するマイクロホンMic.5〜Mic.8は、それぞれの断面において対向配置される2組のマイクロホンのうち、1組目を点対称配置し、2組目のマイクロホンを1組目のマイクロホンに対して線対称配置する必要がある。
【0050】
ただし、対称線と1組目のマイクロホンとが近い場合には、2組目のマイクロホンが1組目のマイクロホンに近くなってしまい、信頼性評価パラメータの精度が悪くなる虞がある。信頼性評価パラメータの精度を高めるためには、各断面のマイクロホンはできるだけ均等に配置することが好ましい。換言すると、1組目のマイクロホンを対称線からできるだけ離れた位置に配置することが好ましい。この点、断面形状が真円である場合には、対称線を任意の方向にとれるため、直交する対称線を決めて、その2本の対称線から遠い位置(つまり対称線に対して45度の角度を為す方向)に1組目のマイクロホンを配置し、1組目のマイクロホンに対して線対称な位置に2組目のマイクロホンを配置すると最適である。
【0051】
また、断面Aに配置される第一マイクロホン群を構成するマイクロホンMic.1〜Mic.4と、断面Bに配置される第二マイクロン群を構成するマイクロホンMic.5〜Mic.8は、
図3に示すように、音響管の軸線方向(z軸方向)から見たときに互いに重ならない状態(同図における角度θ
mを参照。)で配することが好ましい。
これにより、マイクロホンMic.1〜Mic.4とマイクロホンMic.5〜Mic.8との間隔s(断面Aと断面Bの間隔)を狭くしても、第一マイクロホン群を構成するマイクロホンMic.1〜Mic.4の筺体と、第二マイクロン群を構成するマイクロホンMic.5〜Mic.8の筺体とが干渉しないようになるため、間隔sをより小さく設定することが可能になる。したがって、より高周波数帯域における吸音率を測定することが可能になる。このことは、後述する4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置においても同様である。
【0052】
[2] 4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置の測定原理
続いて、4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置の測定原理について説明する。4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置は、音響管における断面Aと断面Bとにマイクロホンを2つずつ計4個配置するタイプの垂直入射吸音率測定装置である。前節で説明した8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置では、(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードが伝播する周波数領域まで垂直入射吸音率を測定可能であったが、(1,0)次音響モードが伝播する領域以下の周波数を考える場合には、4本のマイクロホンを用いる4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置で垂直入射吸音率を測定することが可能である。
【0053】
4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置においては、断面Aに2本のマイクロホンを音響管の中心に対して点対称となる位置に対向配置するとともに、断面Bにも2本のマイクロホンを音響管の中心に対して点対称となる位置に対向配置する。例えば、
図2の例で見ると、(1,0)次音響モードが伝播する領域までを考えた場合、断面Aのr
1における音圧p(r
1)とr
3における音圧p(r
3)は、上記式(12)及び上記式(14)より、それぞれ下記式(25)及び下記式(26)で表わすことができる。
【数25】
【数26】
【0054】
上記式(25)と上記式(26)とを足し合わせると、上記式(16)と同様に、下記式(27)が得られる。
【数27】
【0055】
断面Bについても同様に2本のマイクロホンの和を求めることで下記式(28)が得られる。
【数28】
【0056】
上記式(27)及び上記式(28)から、4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置でも、(1,0)次音響モードが伝播する周波数領域まで垂直伝播成分を分離でき、垂直入射吸音率を測定することが可能であることが分かる。8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置では、周波数領域での和をとる場合、計測器の入力も8チャンネル必要となるため、マイクロホンや計測チャンネル数にコストがかかるというデメリットがあるが、4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置では、8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置よりは周波数範囲が狭くなるものの、測定装置のコストを抑えることができるというメリットがある。
【0057】
[3] 散乱成分モニタ法
続いて、散乱成分モニタ法(垂直入射音波に対する(1,0)次音響モードで反射される音波の反射率算出法)について説明する。既に述べたように、各断面に設置した2本又は4本のマイクロホンの信号を足しあわせることで、各断面における垂直進行成分を抽出することが可能である。2つの断面について垂直進行成分を求めることで、垂直入射吸音率を(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードが伝播する帯域まで測定可能である。
【0058】
しかしながら、これは、垂直に入射した平面波が、垂直に反射されることを前提としたもので、垂直に入射した音波が斜め方向に反射(散乱)される場合には、正確な評価を行うことができない。散乱があると、斜めに反射される成分は、上記の8マイクロホン型や4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置では測定されないため、見かけ上、吸音率が大きく計測されてしまう。ただし、そもそも散乱があるような試料の場合、実際使用される状況においても散乱が発生することから、垂直入射吸音率を求めること自体に無理があるとも考えられる。このことから、測定時に試料表面で散乱が生じているかを評価する方法について検討を行った。散乱の影響をモニタすることができれば、測定された垂直入射吸音率の信頼性を評価することができ、測定結果の信頼性を担保しながら測定を行うことが可能になる。また、試料自体が垂直入射吸音率測定に適切なものであるかどうかの指標にもなると考えられる。
【0059】
[3.1] (1,0)次音響モードの分離法
ここでは、これまでと同様に(0,0)次音響モード、(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードの3つの音響モードが伝播する周波数領域を考え、(1,0)次音響モード成分のみを抽出する方法を考える。断面A及び断面Bのそれぞれについて、対向する2つのマイクロホンの信号の差を求めると、上記式(12)〜(15)及び上記式(17)〜(20)より、下記式(29)〜(32)が得られる。
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
【0060】
上記式(29)〜(32)より、対向する2本のマイクロホンの信号差をとることで、各音響モードの対称性から、(0,0)次音響モード及び(2,0)次音響モードの成分がキャンセルされ、(1,0)次音響モード成分のみを分離できることが分かる。上記「[1] 8マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置の測定原理」や「[2] 4マイクロホン型の垂直入射吸音率測定装置の測定原理」では、信号の和をとることにより、(0,0)次音響モード成分のみを抽出する方法を示したが、ここでは、信号の差をとるという単純な処理で、(1,0)次音響モード成分のみを抽出できることを明らかにした。
【0061】
[3.2] 垂直入射(1,0)次音響モード反射率の算出法(簡易法)
次に、前節で抽出した(1,0)次音響モードの信号を用いて、垂直に入射した音波が(1,0)次音響モードで反射される反射率を求める方法について説明する。
【0062】
まず、音源(スピーカー)が音響管の中心に配置され、垂直入射平面音波のみを発生しているとし、さらに音源側が十分に吸音されていると考え、試料に入射する音波は(0,0)次音響モードのみである(B
σ10=0,B
τ10=0)と仮定する。このときの4点の音圧の和の信号p
sと対向する2点の音圧差の周波数伝達関数を考える。まず、p
s{1}に対するΔp
h{1}の伝達関数H
h{1}(断面Aと断面Bのどちらでもよいが、ここでは断面Aを対象とする)は、下記式(33)で示すようになる。
【数33】
【0063】
ただし、上記式(33)において、r
0→0は、(0,0)次音響モードの入射波振幅B
00に対する(0,0)次音響モードの反射波振幅A
00の比A
00/B
00を表わし(r
0→0=A
00/B
00)、r
σ0→1は、(0,0)次音響モードの入射波振幅B
00に対するθの+方向の(1,0)次音響モード振幅A
σ01の比A
σ01/B
00を表わし(r
σ0→1=A
σ01/B
00)、r
τ0→1は、(0,0)次音響モードの入射波振幅B
00に対するθの−方向の(1,0)次音響モード振幅A
τ01の比A
τ01/B
00を表わす(r
τ0→1=A
τ01/B
00)。
【0064】
上記式(33)より、下記式(34)が求められる。
【数34】
【0065】
次に、p
sに対するΔp
v{1}の伝達関数H
v{1}を考えると、同様に、下記式(35)が得られる。
【数35】
【0066】
上記式(35)より、下記式(36)が求められる。
【数36】
【0067】
したがって、上記式(34)と上記式(36)より、下記式(37)及び下記式(38)が得られる。
【数37】
【数38】
【0068】
つまり、上記式(37)及び上記式(38)により、垂直に入射((0,0)次音響モードで入射)した音波に対する、(1,0)次音響モードとして反射される音波の振幅比を求めることができる。上記式(37)及び上記式(38)中のr
0→0は、マイクロホンの信号の和から別に求めてあるので、r
0→1を求めるには、1つの断面のみにおけるマイクロホンの信号の和に対する対向するマイクロホンの信号の差の比を計測すればよい。
【0069】
次に、入射音響パワーと反射音響パワーについて考える。今、入射音には、垂直入射成分しかないと考えたので、入射音の音圧p
i及び粒子速度v
iは、それぞれ下記式(39)及び下記式(40)で表わすことができる。
【数39】
【数40】
【0070】
したがって、入射音響パワーW
iは、下記式(41)で示すようになる。
【数41】
【0071】
(0,0)次音響モード及び(1,0)次音響モードのみが伝播する周波数領域を考えると、反射音の音圧p
r及びz方向の粒子速度v
rは、それぞれ下記式(42)及び下記式(43)で表わすことができる。
【数42】
【数43】
【0072】
したがって、反射音響パワーW
rは、下記式(44)で示すようになる。
【数44】
【0073】
上記式(41)及び上記式(44)からトータルの反射率(ここでは、「管内入射パワー反射率」と呼ぶこととする。)Rを求めると、下記式(45)のようになる。
【数45】
【0074】
上記式(45)における右辺第1項は、垂直入射成分に対する垂直反射成分の反射率を表わし、右辺第2項及び右辺第3項は、垂直入射成分に対する(1,0)次音響モードでの反射率を表わす。したがって、計測からr
σ0→1とr
τ0→1を求めれば、垂直入射に対して、試料で散乱され、(1,0)次音響モードで反射される音波の影響を評価することが可能である。
【0075】
[3.3] 垂直入射(1,0)次音響モード反射率の算出法(詳細法)
前節の「簡易法」では、入射音波に斜め進行成分がないと仮定した。この場合、1つの断面のみについて、4本のマイクロホンの信号の和に対する対向する信号の差の比を計測することで、r
0→1を求めることができた。しかしながら、試料表面で散乱がある場合には、斜めに反射した音波が音源(スピーカ)側の管端で反射された音や音響管の断面方向で繰り返し反射して停留し、再度、試料に入射する成分があると考えられる。このことから、入射音波にも斜め進行成分があると考えて、r
0→1を計測する方法(詳細法)について考える。詳細法においては、断面Aと断面Bの2つの断面におけるマイクロホンの信号の和に対する対向する信号の差の比を求める方法について検討した。
【0076】
p
sに対する、上記式(29),(30),(31),(32)の比をそれぞれとると、下記式(46),(47),(48),(49)が得られる。
【数46】
【数47】
【数48】
【数49】
【0077】
ただし、上記式(46)〜(49)におけるβ
σ0→1及びβ
τ0→1は、入射(0,0)次音響モードに対する入射(1,0)次音響モードの振幅の比を表わし、それぞれ下記式(50)及び下記式(51)で与えられる。
【数50】
【数51】
【0078】
上記式(46)〜(49)より、r
σ0→1、r
τ0→1、β
σ0→1及びβ
τ0→1を求めると、それぞれ、下記式(52),(53),(54),(55)となる。
【数52】
【数53】
【数54】
【数55】
【0079】
したがって、H
h{1}、H
v{1}、H
h{2}及びH
v{2}を計測することで、入射(0,0)次音響モードに対する反射(1,0)音響モードの反射率を求めることができる。2つの断面について、マイクロホンの信号の和に対する対向する信号の差の比を求めることにより、入射音に斜め成分が存在する場合においてもr
0→1を求めることが可能であることが分かる。また、2つの断面で、マイクロホン位置が角度θ
mだけずれた場合においても、反射率を算出することが可能であることも分かる。
【0080】
パワー反射率は、前節で説明した簡易法と同様に、次のように求めることができる。すなわち、入射音に(1,0)次音響モードの成分までが含まれていると考えると、入射音響パワーW
iは、下記式(56)のように求めることができる。
【数56】
【0081】
また、反射音響パワーW
rは、下記式(57)のように求めることができる。
【数57】
【0082】
したがって、管内入射パワー反射率は、下記式(58)で求められる。
【数58】
【0083】
ただし、上記式(58)において、R
0→0は、入射(0,0)次音響モードによる音響パワーに対する(0,0)次音響モードのパワー反射率であって下記式(59)で与えられ、R
0→1は、入射(0,0)次音響モードによる音響パワーに対する(1,0)次音響モードのパワー反射率であって下記式(60)で与えられ、B
r0→1は、(0,0)次音響モードによる入射音響パワーに対する(1,0)次音響モードによる入射音響パワーの比であって下記式(61)で与えられる。
【数59】
【数60】
【数61】
【0084】
上記式(58)は、(1,0)次音響モードによる斜め入射成分、斜め反射成分を含んだ管内入射パワー反射率(全体のパワー反射率)である。垂直入射成分及び垂直反射成分が大きく、(1,0)次音響モードの影響が小さい場合は、上記式(24)により求めた垂直入射パワー反射率r
0→0の絶対値の2乗(=|r
0→0|
2)と上記式(58)の管内入射パワー反射率Rが一致する。したがって、この管内入射パワー反射率Rをモニタすれば、散乱の影響があるかどうかを判断する指標となると考えられる。もちろん、r
0→1やβ
0→1をモニタしてもよいが、管内入射パワー反射率Rをモニタした方が、垂直入射吸音率における散乱の影響をより直感的に評価できると考えられる。
【0085】
[4] 実験
本発明の垂直入射吸音率測定装置で、上記の理論どおりに、高周波数まで測定することが可能であるかを確認するため、実験を行った。
【0086】
[4.1] 実験装置
実験の概要を
図4に、実験の様子を
図5に示す。実験では、音響管として内径が100mmのアクリルパイプを用い、音響管における音源(スピーカ)側には吸音材を挿入した。音響管の管径から決まる各音響モードのカットオン周波数及びマイクロホン間距離s(=25mm)から決まる上限周波数を下記表2に示す。
【表2】
【0087】
マイクロホンは、径が1/4インチのもの(B&K4958)を8本用いた。音源(スピーカ)はホワイトノイズを用いた。同一断面内のマイクロホンの信号の和を取るには、マイクロホン間の特性ミスマッチの補正を行うため、本実験ではFFTによる周波数領域での処理を行った。
【0088】
[4.2] 散乱を無視できる場合の垂直入射吸音率の測定結果(多孔質材料)
まず、試料として多孔質材料を用いて実験を行った場合の垂直入射吸音率の測定結果を
図6〜9に示す。
図6は、試料として反毛フェルト(20mm厚)を用いた場合の測定結果を、
図7は、試料としてメラミンフォーム(25mm厚)を用いた場合の測定結果を、
図8は、試料としてグラスウール(50mm厚)を用いた場合の測定結果を、
図9は、試料としてPETフェルト(12mm厚)を用いた場合の測定結果を示したものである。これらの測定結果は、Mic.1及びMic.5の2本のマイクロホンのみを用いた場合と、Mic.1、Mic.3、Mic.5及びMic.7の4本のマイクロホンを用いた場合と、Mic.1からMic.8までの8本全てのマイクロホンを用いた場合とのそれぞれについて示す。また、計測器メーカ製の音響管(B&K4206)を用いた場合の測定結果(管径29mm)も示す。
【0089】
図6〜9の測定結果を見ると、試料として、反毛フェルト(
図6)、メラミンフォーム(
図7)、グラスウール(
図8)又はPETフェルト(
図9)のいずれを用いた場合であっても、2本のマイクロホンのみを用いた場合の測定結果(2−mic)では、(1,0)次音響モードのカットオン周波数付近である2kHzを超えるあたりから吸音率のカーブが乱れているのに対し、4本のマイクロホンを用いた場合の測定結果(4−mic)では、(2,0)次音響モードのカットオン周波数付近の3.3kHzあたりまで吸音率のカーブが滑らかに変化している。さらに、8本のマイクロホンを用いた場合の測定結果(8−mic)では、4kHz付近まで滑らかな曲線が得られている。吸音率が滑らかな曲線として表れる領域では、管径が細いメーカ製の音響管(管径29mm)の測定結果によく一致している。これらの結果から、一般的な多孔質吸音材料の垂直入射吸音率を測定する場合においては、本発明の垂直入射吸音率測定装置を用いることで、従来の測定装置の約2倍の周波数まで計測可能であることが分かった。
【0090】
[4.3] 散乱がある場合の垂直入射吸音率の測定結果(完全反射条件)
続いて、試料表面で散乱がある場合において、測定される垂直入射吸音率にどのような影響が表れるかについて、実験により確認を行った。本実験では、音波を完全に反射する壁面が音響管の内部に斜めに設置されている場合を想定し、
図10に示すように、音響管の内部における試料が設置される箇所に油粘土を詰めて、その油粘土の壁面(背壁面)を音響管の断面に対して30度傾けた。比較のため、油粘土の壁面(背壁面)を音響管の断面に対して平行(0度)にした場合についても実験を行った。背壁面を30度傾けた場合と0度にした場合とにおける垂直入射吸音率の測定結果を
図11に示す。
【0091】
背壁面を音響管の断面に対して30度傾けた場合の測定結果を示す
図11(a)からは、約2kHz以上の領域において、垂直入射吸音率は高い値を示していることが読み取れる。ところが、背壁面を音響管の断面に対して平行(0度)にした場合の測定結果を示す
図11(b)から分かるように、油粘土は音波を略完全に反射することから、背壁面が傾いている場合も、同様に全てが反射され、垂直入射吸音率は0に近い値となるはずである。それにもかかわらず、
図11(a)の垂直入射吸音率が高い値を示している理由は、背壁面が傾いていることで、略全ての音波が当該背壁面で斜めに反射され、垂直方向には殆ど反射されなくなったためと考えられる。つまり、斜めに反射された音波は、本実験では検出されないため、見かけ上、垂直入射吸音率が高く測定されたと考えられる。
【0092】
垂直入射(1,0)次音響モード反射率R
0→1を求め、管内入射パワー反射率を算出した結果を
図12及び
図13に示す。
図12は、上述した簡易法による結果を示したものであり、
図13は、上述した詳細法による結果を示したものである。
図12及び
図13のいずれにおいても、背面壁が30度のときには、散乱の影響が反射率R
0→1に現れており、反射率R
0→1の値を見れば散乱が生じているかどうかを判断することが可能である。これに対し、背面壁が0度のときには、4kHz付近まで反射率R
0→1の値は略0となっており、散乱が生じていないことが確認できる。
【0093】
また、背面壁が30度の場合には、詳細法(
図13)で算出した管内入射パワー反射率は、約3.3kHz以下で略1の値となっており、本来の壁面の反射率が計測された妥当な結果が得られたものと考えられる。詳細法により求めた管内入射パワー反射率と実測の垂直入射反射率の差は、測定された垂直入射吸音率における散乱の影響を表しており、この差を見ることで、散乱の影響を定量的に把握することが可能になると考えられる。一方、簡易法では、管内入射パワー反射率が1よりも大きい値となっている場合が多く、散乱が生じていることは判断できるものの、散乱の影響を定量的に把握するのにはやや難があると考えられる。
【0094】
[4.4] 散乱がある場合の垂直入射吸音率の測定結果(吸音材料)
次に、試料が吸音材料である場合に、散乱の影響が評価できるか否かを検証するため、吸音材料(試料)の密度分布等にばらつきがある場合や、反射する材料が吸音材料(試料)の表面の一部に貼り付けられている場合を想定して実験を行った。本実験で検証対象とした吸音材料(試料)を
図14に示す。
【0095】
図14(a)は、厚さ25mmのメラミン樹脂フォーム(左)からなる試料と、厚さ25mmのメラミン樹脂フォームに直径29mmの穴を開けた試料(中央)と、厚さ25mmのメラミン樹脂フォームに63.5mmの穴を開けた試料(右)を撮影したものである。穴は、音響管の内壁面に近い位置となるように、試料の中心からずらして配置した。
図14(b)は、厚さ25mmのメラミン樹脂フォームの表面に厚さ0.4mmのポリプロピレン(PP)製の円板(直径40mm)を貼り付けた試料を撮影したものであり、試料(左)は、同円板を試料の中心に貼り付けた場合、試料(中央)は、同円板を試料の中心から15mmずれた位置に貼り付けた場合、試料(右)は、同円板を試料の中心から30mmずれた位置に貼り付けた場合となっている。
図14(c)は、厚さ25mmのメラミン樹脂フォームの表面に厚さ0.4mmのポリプロピレン(PP)製の円板(直径50mm)を貼り付けた試料を撮影したものであり、試料(左)は、同円板を試料の中心に貼り付けた場合、試料(右)は、同円板を試料の中心から25mmずれた位置に貼り付けた場合となっている。
【0096】
図14(a)の試料を用いて垂直入射吸音率等を測定した結果を
図15に示す。また、
図14(b)の試料を用いて垂直入射吸音率等を測定した結果を
図16に示す。さらに、
図14(c)の試料を用いて垂直入射吸音率等を測定した結果を
図17に示す。
【0097】
図15(a)を見ると、「穴なし」の場合は、反射率R
0→1の成分が殆ど計測されておらず、散乱が生じていないことが分かる。ただし、
図15(b)に示すように、簡易法によりパワー反射率(管内入射パワー反射率)を算出した場合には、2.2kHz付近で0.05程度の反射率のピークが表れている。これは、簡易法の場合には、入射音に高次の音響モード成分が含まれていないという仮定のもとに反射率R
0→1を算出したために生じたエラーであると考えられる。また、「穴29mm」の場合も、反射率R
0→1の値は小さく、この程度の材料のばらつきでは、散乱による大きな影響は現れないと考えられる。一方、「穴63.5mm」の場合には、2〜4kHzあたりの広い帯域において、0.03程度の反射率R
0→1が測定されており、大きくはないものの、この程度の散乱による影響が垂直入射吸音率に及ぼされたものと考えられる。
【0098】
ここで、
図15(a)における垂直入射吸音率の測定結果を振り返ると、2本のマイクロホンで測定した垂直入射吸音率(2−mic.)が(1,0)次音響モードのカットオン周波数を超える範囲で大きく乱れていることが分かる。この傾向は、穴が大きくなるほど顕著に表れている。これは、音響管の内部を斜めに進む音波の影響により、垂直進行成分が正確に測定できなかったことが原因であると考えられる。このことから、マイクロホンの本数が2本である場合には、僅かな散乱であっても、(1,0)次音響モードのカットオン周波数を超える範囲で、垂直入射吸音率の測定結果が大きく影響を受けることが分かる。これに対し、8本のマイクロホンで垂直入射吸音率を測定した場合には、「穴63.5mm」の場合ですら、吸音率のカーブは比較的滑らかになっている。このことから、8本のマイクロホンを用いた測定が有効であることが改めて確認できた。
【0099】
また、試料の表面に直径40mmのポリプロピレン(PP)製の円板を貼り付けた場合には、
図16に示すように、円板の貼り付け位置を中央からずらしていくほど、算出される反射率R
0→1の値が大きくなっていくことが分かる。試料の中心に円板を貼り付けた場合には、円板によって散乱が起こるとしても、円板の中心に節が入る(1,0)モードや(2,0)モードは励振されないことから影響が現れていない。これに対し、円板の貼り付け位置を中央からずらすと、(1,0)モードや(2,0)モードが励振され、散乱による影響が表れている。
【0100】
さらに、試料の表面に直径50mmのポリプロピレン(PP)製の円板を貼り付けた場合には、
図17に示すように、円板が試料の中心からずれると、2kHz以上で0.05程度の散乱が生じ、試料の表面に直径40mmのポリプロピレン(PP)製の円板を貼り付けた場合(
図16)よりも大きな散乱が生じている。このため、管内入射パワー反射率と垂直入射反射率とに差が生じている。この差は、散乱による影響を示しており、この差をモニタすることにより、垂直入射吸音率の測定結果の信頼性を評価することができると考えられる。また、反射率の計測結果は、簡易法の方が詳細法よりも大きな値になる傾向があることが分かった。これは、入射音中の高次モードの影響を無視していることが原因である。簡易法では入射音を斜め入射成分の分だけ小さく算出するので、反射率が大きくなると考えられる。