(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-95554(P2019-95554A)
(43)【公開日】2019年6月20日
(54)【発明の名称】光学素子及び投射型画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20190530BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20190530BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20190530BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20190530BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20190530BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20190530BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20190530BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/115
G03B21/00 D
G03B21/14 Z
G02F1/13363
G02F1/13 505
B32B9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-223769(P2017-223769)
(22)【出願日】2017年11月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳一
(72)【発明者】
【氏名】金賀 芳
(72)【発明者】
【氏名】菅原 利明
【テーマコード(参考)】
2H088
2H149
2H291
2K009
2K203
4F100
【Fターム(参考)】
2H088EA12
2H088HA15
2H088HA18
2H088HA28
2H088JA10
2H149AA17
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2H149DB38
2H149EA12
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2H149FA42Z
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2H149FC02
2H291FA22X
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2H291FA30Z
2H291FA86Z
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2H291FC04
2H291FC32
2H291HA11
2H291LA03
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2H291PA81
2K009AA05
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2K203HB26
2K203HB29
2K203MA14
4F100AA17B
4F100AA17C
4F100AA19C
4F100AA20C
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4F100AG00A
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4F100JG05C
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4F100JN01A
4F100JN06C
4F100JN18B
4F100JN18C
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を得ることができる光学素子及び投射型画像表示装置を提供する。
【解決手段】光学素子は、使用波長帯域の光に対して透明である基板と、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層とを備える。投射型画像表示装置は、前述した光学素子を有する液晶表示装置と、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系とを備え、液晶表示装置が、光源と投射光学系との間の光路上に配置されてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用波長帯域の光に対して透明である基板と、
酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層と
を備える光学素子。
【請求項2】
前記複屈折層が、前記基板の法線に対して第1の傾斜方向を有する第1の斜方蒸着膜と第2の傾斜方向を有する第2の斜方蒸着膜とが交互に成膜されてなる請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層備える請求項1又は2記載の光学素子。
【請求項4】
前記複屈折層上に誘電体膜からなる保護層をさらに備える請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなるマッチング層をさらに備え、
前記基板と前記マッチング層と前記複屈折層とが、この順に積層されてなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記保護層の誘電体膜が、SiO2である請求項4記載の光学素子。
【請求項7】
前記マッチング層の前記複屈折層に接する誘電体膜が、SiO2である請求項5記載の光学素子。
【請求項8】
前記反射防止層が、TiO2、SiO2、Ta2O5、Al203、CeO2、ZrO2、ZrO、Nb2O5、HfO2から選択される2種類以上の誘電体膜が積層されてなる請求項3に記載の光学素子
【請求項9】
前記基板が、ガラス、石英、水晶、サファイアから選択されるいずれか1種である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光学素子と、光変調装置と、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系とを備え、
前記光変調装置及び前記光学素子が、前記光源と前記投射光学系との間の光路上に配置されてなる投射型画像表示装置。
【請求項11】
蒸着対象面の法線に対して傾斜する方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、斜方蒸着膜からなる複屈折層を形成する光学素子の製造方法。
【請求項12】
蒸着対象面の法線に対して傾斜する第1の方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、第1の斜方蒸着膜を成膜する工程と、蒸着対象面の法線に対して傾斜する第2の方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、第2の斜方蒸着膜を成膜する工程とを繰り返し、複屈折層を形成する光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記複屈折層を形成後に200℃以上600℃以下の温度でアニール処理を行うことを特徴とする請求項11又は12記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、斜方蒸着膜を有する光学素子及び投射型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明基板表面に誘電体材料の斜方蒸着膜を形成した光学素子が知られている。斜方蒸着は、蒸着材料の飛来方向に対して基板表面を傾斜させて成膜する方法であり、その蒸着膜の構造は、微細なコラムの集合体が基板表面に対して一定の角度で傾斜した柱状組織として観察される。このコラムの密度は、面内で異方性があり、屈折率が面内異方性を有する結果、斜方蒸着膜に複屈折現象が生じる。斜方蒸着膜は、その複屈折現象により、1/4波長位相差板、1/2波長板などの光学素子に用いられている。例えば、特許文献1には、五酸化タンタル(Ta
2O
5)を主成分とした斜方蒸着膜を有する位相差素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−256024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、プロジェクタに用いられる光源として、高輝度かつ高出力の光が得られるレーザー光源が注目されている。しかしながら、前述の五酸化タンタルを主成分とした斜方蒸着膜では、レーザー光源からの高輝度かつ高出力の光によって損傷を受けることがあった。
【0005】
本技術は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を得ることができる光学素子及び投射型画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するために、本技術に係る光学素子は、使用波長帯域の光に対して透明である基板と、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本技術に係る投射型画像表示装置は、前述した光学素子と、光変調装置と、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系とを備え、前記光変調装置と前記光学素子が、前記光源と前記投射光学系との間の光路上に配置されてなることを特徴とする。
【0008】
また、本技術に係る光学素子の製造方法は、蒸着対象面の法線に対して傾斜する方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、斜方蒸着膜からなる複屈折層を形成することを特徴とする。
【0009】
また、本技術に係る光学素子の製造方法は、蒸着対象面の法線に対して傾斜する第1の方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、第1の斜方蒸着膜を成膜する工程と、蒸着対象面の法線に対して傾斜する第2の方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、第2の斜方蒸着膜を成膜する工程とを繰り返し、複屈折層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本技術によれば、斜方蒸着膜が酸化ハフニウムを主成分として形成されているため、高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、位相差素子の構成例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、斜方蒸着膜を成膜する斜方蒸着法を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、蒸着源からの蒸着方向を蒸着対象面に投影した向きを示す模式図である。
【
図6】
図6は、位相差素子の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.光学素子
2.光学素子の製造方法
3.投射型画像表示装置
4.実施例
【0013】
<1.光学素子>
本実施の形態に係る光学素子は、使用波長帯域の光に対して透明である基板と、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層とを備える。これにより、レーザー光源などからの高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を得ることができる。これは、高い融点を有する酸化ハフニウムが、斜方蒸着膜の柱状組織の熱崩壊を防ぐためであると考えられる。
【0014】
複屈折層は、基板の法線に対して第1の傾斜方向を有する第1の斜方蒸着膜と第2の傾斜方向を有する第2の斜方蒸着膜とが交互に成膜されていてもよい。複屈折層が第1の斜方蒸着膜と第2の斜方蒸着膜とが交互に成膜された膜である場合、柱状組織の充填率が大きくなるため、高輝度かつ高出力の光に対する耐性の効果が顕著になる。
【0015】
また、光学素子は、屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層備えることが好ましい。これにより、反射を軽減し、透過率を増加させることができる。
【0016】
このような構成を有する光学素子としては、入射光に位相差を与える位相差素子、位相差補償偏光素子などを挙げることができる。以下、光学素子の一例として位相差素子について説明する。
【0017】
図1は、位相差素子の構成例を示す断面図である。
図1に示すように、位相差素子10は、透明基板11と、透明基板11上に高屈折率膜と低屈折率膜とが交互に積層され、各層の厚さが使用波長以下であるマッチング層12と、マッチング層12上に形成された斜方蒸着膜からなる複屈折層13と、複屈折層13上に形成された誘電体膜からなる保護層14とを備える。また、透明基板11側に第1の反射防止層15A、保護層14側に第2の反射防止層15Bを備える。
【0018】
透明基板11は、使用波長帯域の光に対して透明であり、使用波長帯域の光に対して高い透過率を有する。透明基板11の材料としては、例えば、ガラス、石英、水晶、サファイアなどが挙げられる。透明基板11の形状は、四角形が一般的であるが、目的に応じた形状が適宜選択される。透明基板11の厚みは、例えば0.1〜3.0mmであることが好ましい
【0019】
マッチング層12は、誘電体膜が積層された多層膜であり、透明基板11と複屈折層13との間に、必要に応じて設けられる。マッチング層12は、表面反射光と界面反射光の位相を逆転させ打ち消し合うように設計され、透明基板11と複屈折層14の界面における反射を防止する。
【0020】
マッチング層12は、TiO
2、SiO
2、Ta
2O
5、Al
20
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5、HfO
2から選択される2種類以上の誘電体膜により構成することができる。また、マッチング層12の複屈折層13に接する誘電体膜は、酸化ハフニウムとの密着性に優れるSiO
2であることが好ましい。これにより、レーザー光源などに対する耐光性をさらに向上させることができる。
【0021】
複屈折層13は、酸化ハフニウム(HfO
2)を主成分とする斜方蒸着膜からなる。ここで、主成分とは、斜方蒸着膜の柱状組織中で占める割合が最も大きい成分を意味する。また、複屈折層13は、斜方蒸着膜の単層膜であっても、斜方蒸着膜が交互に成膜された膜であってもよい。また、各斜方蒸着膜の厚さは、使用波長以下であることが好ましい。
【0022】
図2は、斜方蒸着膜の斜視模式図である。
図2に示すように、斜方蒸着膜は、蒸着対象面21の法線Sに対して傾斜する方向に蒸着材料を堆積して形成される。蒸着対象面21の法線Sに対する傾斜角度は、60°以上80°以下であることが好ましい。
【0023】
斜方蒸着膜は、酸化ハフニウムを主成分とする柱状の束が蒸着対象面の法線に対して斜めに構成された斜め柱状構造からなる。この斜め柱状構造は、酸化ハフニウムを主成分とする微粒子が堆積された柱状部と、柱状部間の空気層である空隙部とを有する。
【0024】
図3は、斜方蒸着膜を成膜する斜方蒸着法を説明するための模式図であり、
図4は、蒸着源からの蒸着材料の飛来方向を蒸着対象面に投影した向き(蒸着方向)を示す模式図である。
図3及び
図4に示すように、斜方蒸着膜が交互に成膜された膜は、第1の蒸着方向31からの蒸着による成膜と、第2の蒸着方向32からの蒸着による成膜とを交互に繰り返して形成される。具体的には、第1の蒸着方向31からの蒸着による成膜後に、蒸着対象面を蒸着対象面に垂直で蒸着対象面の中心を通る中心線回りに180°回転させることにより、第2の蒸着方向32からの蒸着による成膜を行う。そして、これを繰り返すことにより、蒸着対象面の法線に対して第1の傾斜方向を有する第1の斜方蒸着膜と第2の傾斜方向を有する第2の斜方蒸着膜とが交互に成膜された膜が得られる。
【0025】
保護層14は、誘電体膜からなり、複屈折層13の斜方蒸着膜に接して配置される。これにより、位相差素子10の反りを防止することができ、斜方蒸着膜の耐湿性を向上させることができる。
【0026】
保護層14の誘電体材料としては、位相差素子10にかかる応力を調整可能であり、且つ耐湿性向上に効果のあるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。このような誘電体材料としては、例えば、SiO
2、Ta
2O
5、TiO
2、Al
2O
3、Nb
2O
5、LaO、MgF
2などが挙げられ、特に酸化ハフニウムとの密着性に優れるSiO
2であることが好ましい。これにより、耐湿性をさらに向上させることができる。
【0027】
第1の反射防止層15Aは、透明基板11の複屈折層13側とは対向する面に接して設けられ、第2の反射防止層15Bは、保護層14の複屈折層13側とは対向する面に接して必要に応じて設けられる。第1の反射防止層15A及び第2の反射防止層15Bは、所望の使用波長帯域において反射防止の機能を有する。
【0028】
図5は、第1の反射防止層の断面模式図である。
図5に示すように第1の反射防止層15Aは、屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層された光学多層膜であり、例えば、屈折率が各々異なる第1の誘電体膜151と、第2の誘電体膜152とが交互に積層された多層膜で形成される。反射防止層の層数は、必要に応じて適宜決定され、5〜40層程度が生産性の点から好ましい。なお、第2の反射防止層15Bも、第1の反射防止層15Aと同様に構成される。
【0029】
第1の反射防止層15A及び第2の反射防止層15Bは、それぞれTiO
2、SiO
2、Ta
2O
5、Al
20
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5、HfO
2から選択される2種類以上の誘電体膜により構成される。例えば、反射防止層は、相対的に高屈折率であるNb
20
5からなる第1の誘電体膜151と、相対的に低屈折率であるSiO
2からなる第2の誘電体膜152とが交互に積層された多層膜とすることできる。
【0030】
このような構成の位相差素子によれば、レーザー光源などからの高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を得ることができる。
【0031】
<2.光学素子の製造方法>
次に、本実施形態に係る光学素子の製造方法について説明する。本実施形態に係る光学素子の製造方法は、蒸着対象面の法線に対して傾斜する方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層を形成する。また、本実施形態に係る光学素子の製造方法は、蒸着対象面の法線に対して傾斜する第1の方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、第1の斜方蒸着膜を成膜する工程と、蒸着対象面の法線に対して傾斜する第2の方向に酸化ハフニウムを主成分とする蒸着材料を堆積し、第2の斜方蒸着膜を成膜する工程とを繰り返し、斜方蒸着膜が交互に成膜された膜からなる複屈折層を形成する。これにより、レーザー光源などからの高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を有する光学素子を得ることができる。
【0032】
以下、光学素子の製造方法の具体例として、
図1に示す構成例の位相差素子の製造方法について説明する。
図6は、位相差素子の製造方法を示すフローチャートである。
【0033】
先ず、ステップS1において、透明基板11を準備する。次に、ステップS2において、複屈折層13と透明基板11の界面における反射を防止するため、透明基板11上に誘電体膜が積層されてなるマッチング層12を形成する。次に、ステップS3において、マッチング層12が形成されていない基板21の反対面に対して、第1の反射防止層15A(裏面AR層)を形成する。
【0034】
次に、ステップS4において、マッチング層12上に複屈折層13を斜方蒸着法により形成する。例えば、
図3及び
図4に示すように、第1の蒸着方向31からの蒸着による成膜後に、蒸着対象面を蒸着対象面に垂直で蒸着対象面の中心を通る中心線回りに180°回転させることにより、第2の蒸着方向32からの蒸着による成膜を行う。そして、これを繰り返すことにより、蒸着対象面の法線に対して第1の傾斜方向を有する第1の斜方蒸着膜と第2の傾斜方向を有する第2の斜方蒸着膜とが交互に成膜された膜が得られる。
【0035】
次に、ステップS5において、複屈折層13を200℃以上600℃以下の温度でアニール処理する。より好ましくは300℃以上500℃以下の温度で、さらに好ましくは400℃以上500℃以下の温度で、複屈折層13をアニール処理する。これにより、複屈折層13の特性を安定化させることができる。
【0036】
次に、ステップS6において、複屈折層13上に保護層14を成膜する。例えば、保護層14としてSiO
2を成膜する場合、SiO
2の材料として、TEOS(テトラエトキシシラン)ガスとO
2を用い、プラズマCVD装置を使用することが好ましい。
【0037】
プラズマCVD装置によって形成されるSiO
2CVD膜は、スパッタ法を代表とする物理的気相成長と異なり、気化された材料ガスを用いることを特徴とするため、TEOSガスを比較的容易に柱状構造の空隙部に侵入させることができ、複屈折層13との密着性をさらに向上させることができる。
【0038】
次に、ステップS7において、保護層14の上に第2の反射防止層15B(表面AR層)を成膜する。最後に、ステップS8において、仕様に合せたサイズにスクライブ切断を実施する。
【0039】
以上の製造方法により、レーザー光源などからの高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を有する位相差素子を得ることができる。
【0040】
<3.投射型画像表示装置>
前述した光学素子は、高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を有するため、液晶プロジェクタ、DLP(登録商標)(Digital Light Processing)プロジェクタ、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)プロジェクタ、GLV(登録商標)(Grating Light Valve)プロジェクタなどのプロジェクタ用途として好適に用いられる。すなわち、本実施の形態に係る投射型画像表示装置は、前述した光学素子と、光変調装置と、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系とを備え、光変調装置及び光学素子が、光源と投射光学系との間の光路上に配置されてなるものである。光変調装置としては、透過型液晶パネルなどを有する液晶表示装置、DMD(Digital Micro-mirror Device)などを有するマイクロミラー表示装置、反射型液晶パネルなどを有する反射型液晶表示装置、1次元回析型光変調素子(GLV)などを有する1次元回析型表示装置などが挙げられる。
【0041】
例えば液晶表示装置を用いた投射型画像表示装置に於いて、液晶表示装置は、液晶パネルと、第1の偏光板と、第2の偏光板とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0042】
液晶パネルは、特に制限はなく、例えば、基板と、基板の主面の直交方向に対してプレチルトを有する液晶分子を含有するVAモード液晶層とを有し、入射された光束を変調する。VAモード(Vertical alignment mode)とは、基板に垂直に(又はプレチルトを有して)配置した液晶分子を、垂直方向の縦電界を使って動かす方式を意味する。
【0043】
第1の偏光板は、液晶パネルの入射側に配置されるものであり、第2の偏光板は、液晶パネルの出射側に配置されるものである。第1の偏光板及び第2の偏光板は、耐久性の点から、無機偏光板であることが好ましい。
【0044】
位相差素子は、例えば
図1に示す構成例の酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜を備えるものであり、投射型画像表示装置を構成する光路上に於いて、必要とされる位置に配置される。
【0045】
また、マイクロミラー表示装置を用いた投射型画像表示装置に於いても、位相差素子は拡散板や偏光ビームスプリッタなどと組み合わせ、同一光路上に設けられる。
【0046】
光源としては、光を出射する部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。本実施の形態では、液晶表示装置が酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜を有する光学素子を備えるため、高輝度かつ高出力の光を出射するレーザー光源などを使用することができる。
【0047】
投射光学系としては、変調された光を投射する部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、変調された光をスクリーンに投射する投射レンズなどが挙げられる。
【0048】
このような構成の投射型画像表示装置によれば、レーザー光源などからの高輝度かつ高出力の光を用いて、高輝度かつ高出力の画像を表示することができる。
【実施例】
【0049】
<4.実施例>
以下、本技術の実施例について説明する。ここでは、斜方蒸着膜を有する位相差素子を作製し、レーザー照射試験を行った。なお、本技術はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
先ず、ガラス基板(平均厚み0.7mm)の一方の面上に、SiO
2/Nb
2O
5/SiO
2の3層をスパッタ法により積層することによって、マッチング層を形成した。
【0051】
次いで、ガラス基板の他方の面上に、Nb
2O
5とSiO
2とを用いて、11層をスパッタ法により交互積層することによって反射防止層を形成した。
【0052】
続けて、マッチング層上にHfO
2を蒸着材料として、基板法線方向に対して70度傾斜した位置に蒸着源を配置し、第1の蒸着方向を0度、第2の蒸着方向を180度とし、交互に斜方蒸着を行った。蒸着後、特性を安定化させるため、450℃でアニール処理を行った。アニール処理後、TEOS(テトラエトキシシラン)ガスとO
2を用い、プラズマCVD法により、SiO
2膜を成膜して保護層を形成した。
【0053】
次いで、Nb
20
5とSiO
2とを用いて、7層をスパッタ法により交互積層することによって反射防止層を形成した。そして、仕様に合せたサイズにスクライブ切断を実施し、位相差素子を作製した。
【0054】
[比較例1]
蒸着材料をTa
2O
5とした以外は、実施例1と同様のプ口セスで位相差素子を作製した。
【0055】
[レーザー照射試験]
実施例及び比較例の方法で作成した各30個の位相差素子に対して、以下の条件にてレーザー照射を行ない、損傷の個数をカウントした。損傷の基準は、透明な位相差素子のレーザーが照射された部位が白濁することとし、これを目視にて確認した。表1に、レーザー照射による位相差素子の損傷個数の結果を示す。
波長:455nm CW(連続波)半導体レーザー
レーザー出力:61W
パワー密度:10.2W/mm
2
照射時間:3分間
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、斜方蒸着膜をTa
2O
5とした比較例では、レーザー照射によって半数以上の破損が生じた。一方、斜方蒸着膜をHfO
2とした実施例では損傷は生じず、高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐久性を示すことが分かった。
【符号の説明】
【0058】
10 位相差素子、11 透明基板、 12 マッチング層、 13 複屈折層、 14 保護層、 15A,15B 反射防止層、21 蒸着対象面、31 第1の蒸着方向、32 第2の蒸着方向、151 第1の誘電体膜、152 第2の誘電体膜
【手続補正書】
【提出日】2018年4月23日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用波長帯域の光に対して透明である基板と、
酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層と、
屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層とを備え、
前記反射防止層が、TiO2、SiO2、Al2O3、CeO2、ZrO2、ZrO、Nb2O5、HfO2から選択される2種類以上の誘電体膜が積層されてなる光学素子。
【請求項2】
前記複屈折層が、前記基板の法線に対して第1の傾斜方向を有する第1の斜方蒸着膜と第2の傾斜方向を有する第2の斜方蒸着膜とが交互に成膜されてなる請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記複屈折層上に誘電体膜からなる保護層をさらに備える請求項1又は2記載の光学素子。
【請求項4】
屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなるマッチング層をさらに備え、
前記基板と前記マッチング層と前記複屈折層とが、この順に積層されてなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記保護層の誘電体膜が、SiO2である請求項3記載の光学素子。
【請求項6】
前記マッチング層の前記複屈折層に接する誘電体膜が、SiO2である請求項4記載の光学素子。
【請求項7】
前記基板が、ガラス、石英、水晶、サファイアから選択されるいずれか1種である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学素子と、光変調装置と、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系とを備え、
前記光変調装置及び前記光学素子が、前記光源と前記投射光学系との間の光路上に配置されてなる投射型画像表示装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
前述した課題を解決するために、本技術に係る光学素子は、使用波長帯域の光に対して透明である基板と、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層と
、屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層とを備え、前記反射防止層が、TiO2、SiO2、Al2O3、CeO2、ZrO2、ZrO、Nb2O5、HfO2から選択される2種類以上の誘電体膜が積層されてなることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正書】
【提出日】2018年9月21日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用波長帯域の光に対して透明である基板と、
酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層と、
屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層とを備え、
前記反射防止層が、TiO2、SiO2、Al2O3、CeO2、ZrO2、ZrO、Nb2O5、HfO2から選択される2種類以上の誘電体膜が積層されてなる光学素子。
【請求項2】
前記複屈折層が、前記基板の法線に対して第1の傾斜方向を有する第1の斜方蒸着膜と第2の傾斜方向を有する第2の斜方蒸着膜とが交互に成膜されてなり、
前記第1の斜方蒸着膜及び前記第2の斜方蒸着膜の厚さが、使用波長以下である請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記複屈折層上に誘電体膜からなる保護層をさらに備える請求項1又は2記載の光学素子。
【請求項4】
屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなるマッチング層をさらに備え、
前記基板と前記マッチング層と前記複屈折層とが、この順に積層されてなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記保護層の誘電体膜が、SiO2である請求項3記載の光学素子。
【請求項6】
前記マッチング層の前記複屈折層に接する誘電体膜が、SiO2である請求項4記載の光学素子。
【請求項7】
前記基板が、ガラス、石英、水晶、サファイアから選択されるいずれか1種である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学素子と、光変調装置と、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系とを備え、
前記光変調装置及び前記光学素子が、前記光源と前記投射光学系との間の光路上に配置されてなる投射型画像表示装置。