(54)【発明の名称】エミュレーションモデルの生成、並びに生成されたエミュレーションモデルの目的変数の不確実性に関する情報の生成及び表示のためのシステム、方法、プログラム、プログラムを記憶した記憶媒体
【解決手段】複数の説明変数の各々の不確実性を設定する不確実性設定部103と、説明変数の各々の不確実性にしたがって、複数の初期サンプル点を生成するサンプル点生成部105と、初期サンプル点の値をシミュレーションモデルに入力し、シミュレーション値を計算するシミュレーション部107と、初期サンプル点の値とシミュレーション値から、線形回帰モデルの説明変数の各々の係数を計算することによって、説明変数を選択する設計変数選択部109と、初期サンプル点の各々に対応する、選択された前記1つ以上の説明変数を成分とする入力ベクトルと、入力ベクトルに対応する初期サンプル点のシミュレーション値から、エミュレーションモデルを生成するエミュレーションモデル生成部111とを備えるシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来の宇宙機設計モデルを用いた設計評価では、最悪環境条件のみの計算で得られた設計評価結果に対して、安全側での評価や設計マージンを考えることで、宇宙機の安全性を担保しているため、網羅的な観点で、宇宙空間環境の不確実性の評価が実施できていない。宇宙機の性能向上を狙う上で、過剰な安全側での評価や設計マージンは障害であり、宇宙空間環境の不確実性に則した合理的な評価や設計マージンを考えていく必要があり、また、網羅的な観点で、宇宙空間環境の不確実性の評価を実施する必要がある。
【0009】
また、計算コスト低減のために、シミュレーションの代わりにエミュレーションモデルを生成してエミュレーションにより計算を行う場合において、予測性能向上のためにノンパラメトリック回帰モデルを用いると計算コストが大きくなる場合がある。また、ノンパラメトリック回帰モデルを生成する場合、入力変数の次元が多いと、モデル生成に失敗する場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、ノンパラメトリック回帰モデルを用いたエミュレーションのモデル生成及び実施の計算コストを低減するシステム、方法を提供することを目的の1つとする。
【0011】
また、本発明は、多数の不確実性因子が存在する設計評価において、網羅的な観点で、不確実性の評価が可能なシステム、方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様は、複数の説明変数を用いるシミュレーションモデルに対応するエミュレーションモデルを生成するシステムであって、前記複数の説明変数の各々の不確実性を設定する不確実性設定部と、前記複数の説明変数の各々の前記不確実性にしたがって、前記複数の説明変数の、複数の初期サンプル点を生成するサンプル点生成部と、前記複数の初期サンプル点の値を、前記シミュレーションモデルに入力し、該複数の初期サンプル点の各々に対応するシミュレーション値を計算するシミュレーション部と、前記複数の初期サンプル点の値と、前記シミュレーション値から、前記複数の説明変数を用いる、正則化項を有する線形回帰モデルの前記説明変数の各々の係数を計算することによって、1つ以上の説明変数を選択する説明変数選択部と、前記複数の初期サンプル点の各々に対応する、選択された前記1つ以上の説明変数を成分とする入力ベクトルと、該入力ベクトルに対応する初期サンプル点のシミュレーション値から、エミュレーションモデルを生成するエミュレーションモデル生成部とを備えるシステムを提供するものである。
【0013】
前記サンプル点生成部は、前記複数の説明変数の各々の前記不確実性にしたがって、前記選択された1つ以上の説明変数の、複数のサンプル点を生成し、前記システムは、前記複数のサンプル点の値を前記エミュレーションモデルに入力し、該複数のサンプル点の各々に対応するエミュレーション値を計算するエミュレーション部と、計算された前記エミュレーション値に基づいて、前記エミュレーションモデルの目的変数の不確実性に関する情報を生成する不確実性情報生成部とを更に備えるものとすることができる。
【0014】
前記システムは、前記複数のサンプル点と、計算された前記エミュレーション値に基づいて、前記選択された1つ以上の説明変数の感度分析を行う感度分析部とを更に備えるものとすることができる。
【0015】
前記正則化項を有する線形回帰モデルは、LASSO回帰モデルであるものとすることができる。
【0016】
前記エミュレーションモデルはノンパラメトリック回帰モデルであるものとすることができる。
【0017】
前記ノンパラメトリック回帰モデルは、ガウス過程回帰モデルであるものとすることができる。
【0018】
本発明の1つの態様は、複数の説明変数を用いるシミュレーションモデルに対応するエミュレーションモデルを生成する、コンピュータにより実行される方法であって、前記複数の説明変数の各々の不確実性を設定するステップと、前記複数の説明変数の各々の前記不確実性にしたがって、前記複数の説明変数の、複数の初期サンプル点を生成するステップと、前記複数の初期サンプル点の値を、前記シミュレーションモデルに入力し、該複数の初期サンプル点の各々に対応するシミュレーション値を計算するステップと、前記複数の初期サンプル点の値と、前記シミュレーション値から、前記複数の説明変数を用いる、正則化項を有する線形回帰モデルの前記説明変数の各々の係数を計算することによって、1つ以上の説明変数を選択するステップと、前記複数の初期サンプル点の各々に対応する、選択された前記1つ以上の説明変数を成分とする入力ベクトルと、該入力ベクトルに対応する初期サンプル点のシミュレーション値から、エミュレーションモデルを生成するステップとを含む方法を提供するものである。
【0019】
本発明の1つの態様は、前記方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供するものである。
【0020】
本発明の1つの態様は、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
上記構成を有する本発明によれば、ノンパラメトリック回帰モデルを用いたエミュレーションのモデル生成及び実施の計算コストを低減するシステム、方法を提供することができる。
【0022】
また、上記構成を有する本発明によれば、多数の不確実性因子が存在する設計評価において、網羅的な観点で、不確実性の評価が可能なシステム、方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、複数の説明変数である設計変数を用いた宇宙機の熱設計モデルに対してエミュレーションモデル及び不確実性情報を生成する場合を例として説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るエミュレーションモデル・不確実性情報生成システム10の全体構成図である。エミュレーションモデル・不確実性情報生成システム10は、モデル設定部101、不確実性設定部103、サンプル点生成部105、シミュレーション部107、設計変数選択部109、エミュレーションモデル生成部111、エミュレーション部113、不確実性情報生成部115、感度分析部117、感度分析情報表示部119を備える。
【0026】
モデル設定部101は、ユーザからの入力等によって、目的変数と複数の設計変数を含むシミュレーションモデルである熱設計モデルを設定する。
【0027】
不確実性設定部103は、モデル設定部101によって設定された複数の設計変数の各々の不確実性を設定する。
【0028】
サンプル点生成部105は、1つ以上の設計変数から構成されるサンプル点を生成する。すなわち、不確実性設定部103によって設定された複数の設計変数の各々の不確実性にしたがって、複数の設計変数の、複数の初期サンプル点や後述の設計変数選択部109によって選択された設計変数の、複数のサンプル点を生成する。
【0029】
シミュレーション部107は、サンプル点生成部105によって生成された複数の初期サンプル点の値を、シミュレーションモデルである宇宙機の熱設計モデルに入力し、複数の初期サンプル点の各々に対応するシミュレーション値を計算する。
【0030】
設計変数選択部109は、複数の初期サンプル点の値と、シミュレーション部107によって計算されたシミュレーション値から、モデル設定部101によって設定された複数の設計変数を用いるL1正則化回帰モデルの複数の設計変数の各々の係数を計算することによって、1つ以上の設計変数を選択する。
【0031】
エミュレーションモデル生成部111は、複数の初期サンプル点の各々に対応する、選択された前記1つ以上の設計変数を成分とする入力ベクトルと、該入力ベクトルに対応する初期サンプル点のシミュレーション値から、エミュレーションモデルを生成する。
【0032】
エミュレーション部113は、サンプル点生成部105によって生成された、設計変数選択部109によって選択された設計変数の、複数のサンプル点を、エミュレーションモデル生成部111によって生成されたエミュレーションモデルに入力し、該複数のサンプル点の各々に対応するエミュレーション値を計算する。
【0033】
不確実性情報生成部115は、エミュレーション部によって計算されたエミュレーション値に基づいて、エミュレーションモデルの目的変数の不確実性に関する情報を生成し、表示部121に表示する。
【0034】
感度分析部117は、前記複数のサンプル点と、計算された前記エミュレーション値に基づいて、前記選択された1つ以上の設計変数の感度分析を行い、感度分析に関する情報を表示部121に表示する。
【0035】
図2は、本実施形態に係るエミュレーションモデル・不確実性情報生成システム10のハードウエア構成の例を示す図である。エミュレーションモデル・不確実性情報生成システム10は、CPU130a、RAM130b、ROM130c、外部メモリ130d、入力部130e、出力部130f、通信部130gを含む。RAM130b、ROM130c、外部メモリ130d、入力部130e、出力部130f、通信部130gは、システムバス130hを介して、CPU130aに接続されている。
【0036】
図1に示されるエミュレーションモデル・不確実性情報生成システム10の各部は、ROM130cや外部メモリ130dに記憶された各種プログラムが、CPU130a、RAM130b、ROM130c、外部メモリ130d、入力部130e、出力部130f、通信部130g等を資源として使用することで実現される。
【0037】
以上のシステム構成を前提に、本発明の第1つの実施形態に係るエミュレーションモデル・不確実性情報生成処理の例を、
図1、3A、3B等を参照して、以下に説明する。
図3A、3Bは、本実施形態に係るエミュレーションモデル・不確実性情報生成システムのエミュレーションモデル・不確実性情報生成処理のフローチャートである。
【0038】
モデル設定部101は、ユーザからの入力等によって、目的変数と複数の説明変数である複数(m個)の設計変数を含むシミュレーションモデルである宇宙機の熱設計モデルを設定する(S101)。
【0039】
不確実性設定部103は、設定された複数の設計変数の各々の不確実性を設定する(S103)。本実施形態において、設計変数の不確実性は、設計変数の公称値に対する上限・下限値である。設計変数の不確実性はこれに限定されるものではなく、公称値に対する標準偏差等の設計変数の確率分布等他の任意の適切なものとすることができる。
【0040】
サンプル点生成部105は、設定された各設計変数の不確実性にしたがって、高次元不確実性空間中を均一に選択されるように、LHS(Latin Hypercube Sampling)法により、L個の初期サンプル点を生成すし、記憶部119に記憶する(S105)。初期サンプル点を生成する手法は、これに限定されるものではなく、一様乱数、正規乱数等の他の任意の適切な手法を用いることができる。
【0041】
シミュレーション部107は、生成されたL個の初期サンプル点を、シミュレーションモデルである宇宙機の熱設計モデルに入力して、L個の目的変数のシミュレーション値w
1,w
2,・・・,w
Lを算出する(S107)。
【0042】
説明変数選択部である設計変数選択部109は、L1正則化回帰モデルを用いて、設計変数を選択し、後述のエミュレーションモデル生成に必要な設計変数の数を減らす。具体的には、L1正則化回帰モデルは、回帰係数の絶対値(L1ノルム)の和を正則化項としたもので、L1正則化回帰モデルの2乗和誤差関数に正則化項を加えた関数を最小とする回帰係数を推定する。その回帰係数の推定の際に、いくつかの回帰係数が真にゼロとなる。これは、ゼロとなった回帰係数に対応する説明変数は目的変数に影響がないこと意味する。したがって、L1正則化回帰モデルによるモデル推定法によれば、モデルの推定と説明変数選択を同時に実行できる。本実施形態においては、このように推定されたL1正則化回帰モデルをエミュレーションモデルとして用いるのではなく、計算コストを低減するために、エミュレーションモデルとしてノンパラメトリック回帰モデルを生成する際の入力因子数を低減することを目的として、説明変数の数を減らすために、L1正則化回帰モデルによる回帰係数の推定を行うものである。
【0043】
本実施形態においては、L1正則化回帰モデルとして、LASSO回帰モデルを用いる。LASSO回帰モデルは、以下の式(1)、(2)で表すことができる。
ここで、
は、各初期サンプル点に対する人工衛星の最高温度のシミュレーション値を成分とするL次元の列ベクトルである。
はm個の設計変数の各々の係数を成分とするm次元の列ベクトルである。
は、各初期サンプル点の設計変数の組を各列の成分とする(L×m)計画行列である。
はm次元の列ベクトルで、誤差ベクトルある。
λは定数である。
は、係数ベクトルのL1ノルムの正則化項である。
【0044】
設計変数選択部109は、S105で生成した初期サンプル点と算出された目的変数のシミュレーション値から、式(2)を最小化する係数ベクトル
を算出する(S109)。上述のように、いくつかの係数はゼロとなるが、非ゼロの係数の数がmからnとなったものとする。
【0045】
説明変数選択部109は、記憶部119から、L個の初期サンプル点に対応する設計変数の組を読み出し、そのうちの対応する係数β
iがゼロでない設計変数の組、すなわち、その数が減少した設計変数の組を成分とするL個のn次元の入力ベクトルを記憶部119に記憶する(S111)。
【0046】
上記実施形態においては、設計変数の選択基準が、算出された係数がゼロであるか否かであったが、設計変数の選択基準はこれに限定されるものではなく、算出された係数の値が所定の小さな値以下か否かとしてもよい。所定の小さな値としては、所定の固定値や、例えば、全係数の和の1/100といった変動する値を用いてもよい。また、上記実施形態においては、説明変数の選択にL1正則化モデルを用いたが、上述のように、設計変数の選択基準を算出された係数の値が所定の小さな値以下か否かとする等して、例えばRidge回帰モデル等のL2正則化モデルといった、他の任意の適切な、正則化項を有する線形回帰モデルを用いてもよい。
【0047】
次に、エミュレーションモデル生成部111は、記憶部119からL個のn次元の入力ベクトルとそれに対応するシミュレーション値を読み込む(S113)。
【0048】
エミュレーションモデル生成部111は、読み込まれたL個のn次元の入力ベクトルとそれに対応するシミュレーション値から、エミュレーションモデルを生成する(S115)。エミュレーションモデルの生成に用いる入力ベクトルの数や次元はL個やn次元でなくても、L個未満やn未満の次元の適切な数や次元としてもよい。本実施形態では、エミュレーションモデルは、式(3)で表されるガウス過程回帰モデルであるが、これに限定されるものではなく、サポートベクトル回帰モデル、ニューラルネットワーク回帰モデル等の他の任意の適切なノンパラメトリック回帰モデルとすることができる。
ここで、
は、選択されたn個の設計変数を成分とするn次元の入力ベクトル
である。
は、応答出力でスカラー量である。μは、定数を仮定した大域モデルである。
は、
におけるμからの偏差に相当する局所モデルである。
は、以下の条件でガウス過程に従うと仮定する。
ここで、
は、
の平均である。
は、
の分散である。
は、
と
の共分散である。
は、任意の2つの位置
と
の間の関係性を示すカーネル関数である。
【0049】
本実施形態においては、カーネル関数について、定常過程を仮定する。エミュレーションモデル生成部111は、読み込まれたL個のn次元の入力ベクトルとそれに対応するシミュレーション値から、線形関数カーネル、動径基底関数(RBF)カーネル、Matern32カーネル、Matern52の4つのカーネル関数の各々について、カーネル関数のハイパーパラメータ(定数、分散、長さスケール等)を、準ニュートン法や、勾配法であるBFGS法を用いて最適化する。次いで、エミュレーションモデル生成部111は、最適化された4つのカーネル関数の中から、尤度が最大となるカーネル関数を選択する。候補となるカーネル関数は、上述の4つのカーネル関数に限定されるものではなく、指数関数カーネル等の他の適切な任意のカーネル関数を用いることができる。また、カーネル関数の選択手法は、尤度が最大となるものとする手法に限定されるものではなく、k-fold交差検定等の他の適切な任意の手法を用いることができる。
【0050】
今、M個のサンプル点を
、これに対応する出力を
としたとき、
におけるμとσ
z2の値は式(7)、(8)を用いて予測される。
ここで、
は、i成分がk(x
(i))であるM次元のベクトルである。
は、(i,j)成分がk(x
(i), x
(j))であるM×M行列である。k
**は、(i,j)成分がk(x
i, x
j)であるn×n行列である。雑音の分散σ
n2は、ゼロと仮定する。
【0051】
このようにして、エミュレーションモデル生成部111によって、ガウス過程回帰モデルが生成される。
【0052】
次に、サンプル点生成部105は、初期サンプル点の生成と同様にして、初期サンプル点以外の、選択された説明変数から構成されるサンプル点を多数生成する(S117)。
【0053】
次に、エミュレーション部113は、生成された多数のサンプル点の入力ベクトルを、生成されたガウス過程回帰モデルに代入し、多数のサンプル点の各々に対応する目的変数の値である応答出力yの値(エミュレーション値)を計算する(S119)。
【0054】
不確実性情報生成部115は、計算された、多数のサンプル点の各々に対応するエミュレーション値に基づいて、目的変数の不確実性に関する情報である分布グラフを生成し、表示部121に表示する(S121)。生成、表示する不確実性に関する情報は、これに限定されるものでなく、これに加えて、又はこれに換えて、例えば標準偏差、分散等の他の任意の適切な情報とすることができる。
【0055】
感度分析部117は、計算された、多数のサンプル点の各々に対応するエミュレーション値に基づいて、感度分析を行う。本実施形態においては、S109〜S111の設計変数選択で用いた式(1)、(2)で表される線形重回帰モデルを用いるが、感度分析手法は、これに限定されるものではなく、他の任意の適切な重回帰分析、分散分析、自己組織化マップ、ラフセット等のデータマイニング手法を用いることができる。
【0056】
感度分析部117は、S117で生成された多数のサンプル点の入力ベクトルと、それに対する応答出力(エミュレーション値)を記憶部119から読み込む(S123)。
【0057】
次に、感度分析部117は、読み込んだ多数のサンプル点の入力ベクトルと、それに対する応答出力(エミュレーション値)から、S109〜S111の設計変数選択で用いたLASSO回帰モデルを表す式(1)、(2)の係数β
1、β
2、・・・、β
mを算出する(S125)。
【0058】
感度分析部117は、算出された係数β
1、β
2、・・・、β
mに基づいて、例えば、係数β
iの全係数の和(β
1+β
2+・・・+β
m)に対する割合等の感度分析に関する情報を生成し、表示部121に表示する(S127)。
【0059】
これにより、影響の大きい設計変数を把握することができ、その影響の大きい設計変数のばらつきを改善することにより、目的変数のばらつきを低減することが可能となる。
【0060】
<実施例>
本実施形態の実施例として、目的変数を人工衛星の最高温度とする人工衛星の熱設計モデルについて行った計算実験結果について説明する。
【0061】
図4は、実施例の熱設計モデルで用いた人工衛星モデルの斜視図である。また、
図5は、人工衛星モデルの分解斜視図である。人工衛星20は、1辺が500mmの立方体の形状を有し、立方体の各面が、1辺が500mmの正方形のアルミ製のハニカムパネルである+Xパネル201、−Xパネル203、+Yパネル205、−Yパネル207、+Zパネル209、−Zパネル211から構成されていた。また、人工衛星20の内部には、3枚の機器搭載用のアルミ製の矩形のデッキである+Xデッキ213、−Xデッキ215、+Zデッキ217が設けられていた。各デッキは、一方の長辺を互いに共有するように接続されていた。また、+Xデッキ213、−Xデッキ215の長辺の他方は、−Zパネル211の対向するY方向に延びる辺に接するように接続されていた。+Zデッキ217の長辺の他方は、+Zパネル209のX方向の中央部分に接続されていた。また、各パネルには、多層断熱材(MLI)が取り付けられていた。人工衛星20の重さは、50kgであった。人工衛星20は、地上から800kmの太陽同期軌道上で、軌道に対して約98度傾いていた。
【0062】
人工衛星の熱数学モデルは、人工衛星を、構成部品である、構体パネルや搭載機器などをいくつかの要素に分割し、各要素単位に熱特性(温度、比熱、熱伝導係数、輻射特性など)を代表する節点を設けることで構築された。太陽輻射、アルベド、地球赤外放射などの外部からの熱入力源や搭載機器からの発熱などによる内部熱入力もそれぞれ節点として考えることができ、これら節点間の熱交換を記述することで支配方程式が求められた。シミュレーションモデルである熱数学モデルは、式(9)で表された。
ここで、C
i、T
i、Q
iは節点iの熱容量[J/K]、温度[K]、内外の熱入力[W] であった。C
ijは節点i、j間の熱コンダクタンス[W/K]、R
ijは輻射係数[m
2]、σはStefan-Boltzmann係数(5.669×10
-8[W/m
2/K
4])であった。Nは総節点数であり、N個の支配方程式を連立させて解くことで各節点での温度を求めることができた。本計算実験においては、接点は、各パネル及び各デッキで、総節点数Nは9であった。熱コンダクタンスは節点i、jが同一物体内の場合は物体の熱伝導率で表された。一方、節点i、jが異種物体である場合は、接触熱伝達率で表された。
【0063】
人工衛星20の設計変数は、各節点(各パネル、デッキ)間の熱コンダクタンス19個、アルミの光吸収率、アルミの光放射率、黒色塗装の光吸収率、黒色塗装の光放射率、多層断熱材の光吸収率、多層断熱材の光放射率、銀テフロン(登録商標)の光吸収率、銀テフロン(登録商標)の光放射率、太陽電池パネルの光吸収率、太陽電池の光放射率、ハニカムの熱伝導率、ハニカムの比熱容量、多層断熱材の比熱容量、多層断熱材の有効放射の計33個であった。各設計変数は、公称値に対して±5%の幅で均一分布の不確実性を有するものとした。
【0064】
上述のように、目的変数は、人工衛星の最大温度、すなわちデッキの最大温度としたが、
図6は、設計変数が公称値の場合のデッキの温度の時間変化の一例を示す図である。
【0065】
シミュレーションは、C&R Technologies Company製のソフトウエア「SINDA/FLUINT」により行った。
【0066】
初期サンプル点は、35点生成した。また、不確実性に関する情報を生成するためのサンプル点は、1001点生成した。
【0067】
図7は、設計変数選択部109によって算出された係数を示す図である。上述のように、LASSO回帰モデルにより回帰係数を算出すると、目的変数に影響を与えない設計変数を、係数の値がゼロとして評価することができるが、当初の設計変数の数は33であったところ、係数がゼロよりも大きい意味のある設計変数の数は16に減少した。また、
図7から、太陽電池の光学特性である太陽電池光吸収率と太陽電池の光放射率の2つ設計変数が、支配的な設計変数であることが分かった。
【0068】
図8は、不確実性に関する情報の生成のために生成したサンプル点1001点についての、同一のサンプル点に対するデッキの最高温度のシミュレーション値とエミュレーション値を示す図である。また、
図9は、同一のサンプル点に対するデッキの最高温度のシミュレーション値とエミュレーション値の差を示す図である。
図9から、シミュレーション値とエミュレーション値は、−0.4K〜0.2Kの誤差の範囲内にあることが分かり、
図8、9から、シミュレーション結果とエミュレーション結果が非常によく一致することが分かった。
【0069】
計算時間については、1001点のサンプル点を生成するのに、シミュレーションは、21600秒を要した。これに対して、エミュレーションの計算時間は、1.5秒であった。エミュレーションにおいては、初期サンプル点をシミュレーションによって生成する時間が必要となり、これに780秒を要したが、これを考慮しても、エミュレーションがシミュレーションよりも格段に速い速度で計算が可能であることが分かった。
【0070】
図10は、シミュレーションによる予測誤差分布を示す図である。また、
図11は、エミュレーションによる予測誤差分布を示す図である。
図10、11から、シミュレーションによる予測誤差分布とエミュレーションによる予測誤差分布がほぼ同じであることが分かった。また、シミュレーションによる最高温度の予測値の最大値と最小値の差が13.32Kであったのに対して、エミュレーションによる最高温度の予測値の最大値と最小値の差は13.29Kであり、ほぼ同じであった。
【0071】
次に感度分析結果についてみてみる。
図12は、シミュレーション結果に基づく設計変数の感度分析に関する情報を示す図であり、
図13は、エミュレーション結果に基づく設計変数の感度分析に関する情報を示す図である。各感度分析に関する情報は、上述の式(1)、(2)による線形重回帰分析により得られた係数β
1、β
2、・・・、β
mについての、すべての係数の和(β
1+β
2+・・・+β
m)に対する各係数β
iの割合であった。よって、各感度分析に関する情報から、各設計変数の不確実性がデッキの最高温度の不確実性に与える影響の度合いが分かった。
【0072】
図12から、シミュレーション結果において、感度情報が大きい上位5つの設計変数は、太陽電池光吸収率、太陽電池光放射率、ハニカムの比熱容量、経路8−15の熱コンダクタンス、経路6−15の熱コンダクタンスであることが分かった。また、
図13から、エミュレーション結果において、感度情報が大きい上位5つの設計変数は、太陽電池光吸収率、太陽電池光放射率、ハニカムの比熱容量、経路8−15の熱コンダクタンス、経路14−15の熱コンダクタンスであることが分かった。よって、シミュレーション結果とエミュレーション結果において、感度情報が大きい上位4つの設計変数が一致することが分かった。また、シミュレーション結果とエミュレーション結果において、感度情報がほぼ同じであることが分かった。ここで、「経路A−B」は、節点Aと節点B間の経路を意味し、節点2、3、5、6、8、12、14、15は、それぞれ、−Xデッキ213,−Xパネル203、+Xデッキ213、+Xパネル201、−Yパネル207、−Zパネル211、+Zデッキ217、+Zパネル209に相当する。
【0073】
また、すべての設計変数の不確実性の中で、太陽電池光吸収率と太陽電池の光放射率が支配的な要因であることが分かった。したがって、これらの設計変数の不確実性を低減させれば、デッキの最高温度の不確実性を大きく低減させることができることが分かった。
【0074】
図14は、太陽電池光吸収率と太陽電池光放射率が高不確実性(公称値に対して10%の幅)の場合の10001点のサンプル点についてデッキの最高温度のエミュレーションを行った結果を示す図である。また、
図15は、太陽電池光吸収率と太陽電池光放射率が低不確実性(公称値に対して0%の幅)の場合の10001点のサンプル点についてデッキの最高温度のエミュレーションを行った結果を示す図である。ここで、デッキの最高温度の要求値が305Kとした。
図14、15から、すべての設計変数の不確実性の中で最も支配的な設計変数である太陽電池光吸収率と太陽電池光放射率の不確実性を低減させることにより、デッキの最高温度の信頼性が劇的に向上したことが分かった。
【0075】
本実施形態によれば、L1正則化回帰モデルをエミュレーションモデルとして用いるのではなく、計算コストを低減するために、エミュレーションモデルとしてノンパラメトリック回帰モデルを生成する際の入力因子数を低減することを目的として、説明変数の数を減らすために、L1正則化回帰モデルを用いるという従来にない新規な発想によって、ノンパラメトリック回帰モデルのエミュレーションのモデル生成及び実施に係る計算コストを大幅に減少させることができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、設計上考慮すべき不確実性の検証を、網羅的な観点で実施でき、従来、宇宙機設計モデルの信頼性担保のために実施されていたモデル校正作業のための大規模地上試験の要否を、モデルの不確実性を考慮した多数の計算結果で評価できるようになる。また、宇宙環境情報の不確実性の検証を多数の計算結果で評価できるようになり、宇宙機の性能向上にとって障害になる過剰な安全側での評価を不要とし、設計マージンを緩和することができる。
【0077】
上記実施形態においては、宇宙機の熱設計モデルを例として説明したが、宇宙機の熱設計モデルに限定されることなく、他の設計モデルや、設計モデル以外の例えば気象モデル等の一般のモデルにも本発明が適用できることは言うまでもない。
【0078】
以上、本発明について、例示のためにいくつかの実施形態に関して説明してきたが、本発明はこれに限定されるものでなく、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、形態及び詳細について、様々な変形及び修正を行うことができることは、当業者に明らかであろう。