【解決手段】マイクロ波プラズマ源において、筒状磁石部は、第1開口端と第2開口端とを有する。第1開口端は、第1極性を有し、第2開口端は、第2極性を有する。筒状体は、筒状磁石部に囲まれる。第1磁気回路部は、第1開口端を閉塞する。第2磁気回路部は、第1磁気回路部に対向配置される。第2磁気回路部は、第1開口部を有する。アンテナは、第1磁気回路部を貫通し、空間に導入され、空間にマイクロ波電力を供給する。ノズル部は、第1開口部よりも開口面積が小さく第1開口部に連通する第2開口部を有する。筒状体の内径をa(mm)、空間に供給されるマイクロ波電力のマイクロ波遮断波長をλ(mm)としたときに、マイクロ波プラズマ源は、λ>3.41×(a/2)の関係式を満たすように構成される。
第1開口端と、前記第1開口端とは反対側に位置する第2開口端とを有し、前記第1開口端が第1極性を有し、前記第2開口端が前記第1極性とは反対の第2極性を有する筒状磁石部と、
前記筒状磁石部に囲まれた筒状体と、
前記第1開口端に接し、前記第1開口端を閉塞する第1磁気回路部と、
前記第2開口端に接し、前記第1磁気回路部に対向配置され、前記筒状体によって囲まれた空間を開口する第1開口部を有する第2磁気回路部と、
前記第1磁気回路部を貫通し、前記空間に導入され、前記空間にマイクロ波電力を供給することが可能なアンテナと、
前記第1磁気回路部とは反対側において前記第2磁気回路部に接し、前記第1開口部よりも開口面積が小さく前記第1開口部に連通する第2開口部を有するノズル部と、
前記筒状磁石部及び前記筒状体を貫通し、前記空間に放電ガスを供給することが可能なガスポート部と、
前記アンテナと前記第1磁気回路部との間に設けられた絶縁部材と
を具備し、
前記筒状体の内径をa(mm)、前記空間に供給される前記マイクロ波電力のマイクロ波遮断波長をλ(mm)としたときに、λ>3.41×(a/2)の関係式を満たすように構成された
マイクロ波プラズマ源。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、空洞共鳴器、キャビティがマイクロ波の波長以上の大きさになると、プラズマ源が大型になるばかりか、プラズマ源からマイクロ波が漏洩する可能性がある。プラズマ源からマイクロ波が漏洩すると、プラズマ源がノイズ源となり、周辺機器のノイズ対策が必要になる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高密度のプラズマを形成し、マイクロ波の漏洩が抑制されたマイクロ波プラズマ源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るマイクロ波プラズマ源は、筒状磁石部と、筒状体と、第1磁気回路部と、第2磁気回路部と、アンテナと、ノズル部と、ガスポート部と、絶縁部材とを具備する。
筒状磁石部は、第1開口端と、第1開口端とは反対側に位置する第2開口端とを有する。第1開口端は、第1極性を有し、第2開口端は、第1極性とは反対の第2極性を有する。
筒状体は、筒状磁石部に囲まれる。
第1磁気回路部は、第1開口端に接し、第1開口端を閉塞する。
第2磁気回路部は、第2開口端に接し、第1磁気回路部に対向配置される。第2磁気回路部は、筒状体によって囲まれた空間を開口する第1開口部を有する。
アンテナは、第1磁気回路部を貫通し、空間に導入され、空間にマイクロ波電力を供給することができる。
ノズル部は、第1磁気回路部とは反対側において第2磁気回路部に接する。ノズル部は、第1開口部よりも開口面積が小さく第1開口部に連通する第2開口部を有する。
ガスポート部は、筒状磁石部及び筒状体を貫通し、空間に放電ガスを供給することができる。
絶縁部材は、アンテナと第1磁気回路部との間に設けられる。
筒状体の内径をa(mm)、空間に供給されるマイクロ波電力のマイクロ波遮断波長をλ(mm)としたときに、マイクロ波プラズマ源は、λ>3.41×(a/2)の関係式を満たすように構成される。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、マイクロ波と磁場との相互作用によって、空間に電子サイクロトロン共鳴が起こる。これにより、プラズマ中の電子に選択的かつ直接的にエネルギーが供給され、高いエネルギーを持った電子と、放電ガスとが衝突して空間に高密度プラズマが発生する。さらに、λ>3.41×(a/2)の関係式を満たすように構成されているので、空間では、マイクロ波が共振しにくくなり、空間におけるマイクロ波の進行が抑制される。この結果、マイクロ波プラズマ源からはマイクロ波が漏洩しにくくなる。
【0009】
マイクロ波プラズマ源においては、第1磁気回路部は、空間において第1磁気回路部からノズル部に向かって突出する筒状の突出部を有してもよい。
突出部は、アンテナの一部を囲んでもよい。
突出部は、第2磁気回路部の第1磁気回路部側の主面と第1開口部の内壁とが交差する角部に向かうほど薄くなる先端部を含んでもよい。
先端部と、角部との間に形成される磁場のミラー比は、3以上であってもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、突出部と角部との間に、ミラー磁場が形成され、磁場に閉じ込めた電子が連続的に電子サイクロトロン共鳴により加熱される。これにより、マイクロ波の電界が弱くても、放電ガスを電離できるほどの高エネルギー電子を生成できる。
【0010】
マイクロ波プラズマ源においては、先端部及び角部の少なくともいずれかにおいて、その角度が鋭角に構成されてもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、突出部と角部との間に、ミラー比の高いミラー磁場が形成され、磁場に閉じ込めた電子が連続的に電子サイクロトロン共鳴により加熱される。これにより、マイクロ波の電界が弱くても、放電ガスを電離できるほどの高エネルギー電子を生成できる。
【0011】
マイクロ波プラズマ源においては、突出部の外径よりも第1開口部の内径のほうが大きくてもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、磁場において、磁力線が突出部から角部に向かうほど、より疎になり。ノズル部側の磁束密度は、突出部側の磁束密度よりも小さくなる。この結果、空間においては、ノズル部の開口部付近に低磁場領域が形成され、開口部付近では、プラズマが磁場によって捕捉されにくくなり、開口部付近でのプラズマの移動度が高まって、プラズマが開口部から効率よく噴射される。
【0012】
マイクロ波プラズマ源においては、空間に形成される放電ガスによるプラズマにおいて、絶縁部材に晒されるプラズマの密度が第1開口部に形成されるプラズマの密度よりも高くてもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、放電中に、絶縁部材にコンタミ、被膜等の異物が堆積したとしても、異物は、プラズマによるスパッタリング効果によって即座に除去される。
【0013】
マイクロ波プラズマ源においては、アンテナは、第1磁気回路部からノズル部に向かう第1アンテナ部と、第1アンテナ部と交差し第1アンテナ部に連結する第2アンテナ部とを有してもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、アンテナが折れ曲がった構成になり、マイクロ波がプラズマ中に効率よく吸収される。
【0014】
マイクロ波プラズマ源においては、第2アンテナ部は、複数の部材からなり、複数の部材のそれぞれが第1アンテナ部と交差してもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、複数の部材から供給されるマイクロ波と磁場との相互作用によって、空間に電子サイクロトロン共鳴が起こり、空間にさらに高密度のプラズマが発生する。これにより、マイクロ波プラズマ源から、より大きい電子電流またはイオン電流を取り出すことができる。
【0015】
マイクロ波プラズマ源においては、アンテナは、第1磁気回路部からノズル部に向かう方向に延在する第1アンテナ部と、円盤状またはコーン状に構成された第2アンテナ部とを有してもよい。第1アンテナ部は、第2アンテナ部の中心部に連結してもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、円盤状またはコーン状の第2アンテナ部から万遍なく供給されるマイクロ波と磁場との相互作用によって、空間に電子サイクロトロン共鳴が起こり、空間にさらに高密度のプラズマが発生する。これにより、マイクロ波プラズマ源から、さらに大きい電子電流またはイオン電流を取り出すことができる。
【0016】
マイクロ波プラズマ源においては、ガスポート部において、放電ガスの供給口が供給口とアンテナの先端との距離が最も短くなるように配置されてもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、供給口から空間に導入された放電ガスがアンテナから発せられるマイクロ波によって効率よく電離して、高密度のプラズマが空間に形成される。
【0017】
マイクロ波プラズマ源においては、空間に形成されるプラズマ中の荷電粒子を静電界によって引き出す電極機構をさらに具備してもよい。
このようなマイクロ波プラズマ源によれば、プラズマ中の荷電粒子の中、電子またはイオンを優先的にマイクロ波プラズマ源から引き出すことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によれば、高密度のプラズマを形成し、マイクロ波の漏洩が抑制されたマイクロ波プラズマ源が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。
【0021】
図1(a)は、本実施形態に係るマイクロ波小型プラズマ源の模式的断面図である。
図1(b)は、その模式的上面図である。
図1(a)には、
図1(b)のA1−A2線の位置での断面が示されている。
【0022】
図1(a)、(b)に示すマイクロ波小型プラズマ源1は、電子サイクロトロン共鳴を利用したECRプラズマ源である。マイクロ波小型プラズマ源1は、筒状磁石部40と、筒状体50と、第1磁気回路部10と、第2磁気回路部20と、アンテナ30と、ノズル部60と、ガスポート部70と、絶縁部材80とを具備する。
【0023】
筒状磁石部40は、筒状の磁性体であり、その内部が中空になっている。筒状磁石部40は、開口端40a(第1開口端)と、開口端40aとは反対側に位置する開口端40b(第2開口端)とを有する。筒状磁石部40では、例えば、開口端40aがS極性(第1極性)を有し、開口端40bがS極性とは反対のN極性(第2極性)を有している。
【0024】
筒状磁石部40では、例えば、サマリウムコバルトで構成された複数のブロック状の磁石40MがX−Y軸平面において環状に並べられている。筒状磁石部40の極性は、上記の例に限らず、開口端40aがN極性を示し、開口端40bがS極性を示してよい。
【0025】
筒状磁石部40の外形は、例えば、円状である。筒状磁石部40の外径は、例えば、50mm以下に構成され、マイクロ波小型プラズマ源1の小型化が実現されている。筒状磁石部40の外形は、円状に限らず、三角形、四角形、五角形、六角形・・、といった多角形であってもよい。
【0026】
筒状体50は、筒状磁石部40に囲まれている。筒状体50の内部は、中空である。筒状体50は、開口端50aと、開口端50aとは反対側に位置する開口端50bとを有する。開口端50aは、開口端40aに面一に構成される。開口端50bは、開口端40bに面一に構成される。X−Y軸平面において、筒状体50と筒状磁石部40とは、同心円状に配置されている。筒状体50と筒状磁石部40とは、同心円状に配置されている必要はなく、それぞれの中心軸同士が若干ずれてもよい。
【0027】
筒状体50の外形は、筒状磁石部40の外形に応じて適宜変更される。
図1(b)の例では、筒状体50の外形は、円状である。筒状体50は、例えば、モリブデン(Mo)を含む。
【0028】
磁気回路部10(第1磁気回路部)は、筒状磁石部40の開口端40a及び筒状体50の開口端50aに接する。磁気回路部10は、開口端40a、50aを閉塞する。ここで、「閉塞」とは、磁気回路部10が開口端40a、50aを隙間なく封じ切ることに限らず、微小の隙間がある場合、または、磁気回路部10に他の部材を貫通させる小径孔が設けられた状態で閉じる場合も含む。磁気回路部10は、板状である。磁気回路部10は、強磁性体であり、例えば、軟鉄で構成されている。磁気回路部10の外形は、筒状磁石部40の外形に応じて適宜変更される。
図1(b)の例では、磁気回路部10の外形は、円状である。
【0029】
磁気回路部10は、空間51に設けられた突出部110を有する。突出部110は、磁気回路部10からノズル部60に向かって突出している。突出部110は、筒状であり、アンテナ30の一部を囲む。突出部110の先端部111は、磁気回路部20(第2磁気回路部)の角部220に向かうほど、その肉厚が薄くなっている。先端部111の角度は、例えば、鋭角に構成されている。先端部111と角部220との間に形成される磁場のミラー比は、3以上である。また、ECR加熱された電子をミラー閉じ込めするために、先端部111と角部220の磁場強度はECR磁場より高くなければならない。マイクロ波周波数fとECR磁場Bには、2πf=eB/mの関係がある。ここでeは電気素量、mは電子質量である。マイクロ波周波数が2.45GHzの場合、ECR磁場は875Gaussになる。
【0030】
磁気回路部20は、筒状磁石部40の開口端40b及び筒状体50の開口端50bに接する。磁気回路部20は、筒状磁石部40を介して磁気回路部10に対向配置される。磁気回路部20は、板状である。磁気回路部20は、強磁性体であり、例えば、軟鉄で構成されている。磁気回路部20の外形は、筒状磁石部40の外形に応じて適宜変更される。
図1(b)の例では、磁気回路部20の外形は、円状である。
【0031】
磁気回路部20は、筒状体50によって囲まれた空間51を開口する開口部210(第1開口部)を有する。開口部210は、磁気回路部10、20に対して、同心円状に配置されている。開口部210は、磁気回路部10、20に対して、同心円状に配置されている必要はなく、それぞれの中心軸同士が若干ずれてもよい。開口部210の内径は、突出部110の外径よりも大きい。
【0032】
磁気回路部20に開口部210が設けられたことにより、磁気回路部20においては、磁気回路部20の磁気回路部10側の主面20aと、開口部210の内壁210wとが交差する角部220が形成される。角部220の角度は、
図1(a)の例では、略90°となっている。角部220の角度は、鋭角であってもよい。例えば、角部220の角度が鋭角の場合、開口部210の断面形状は、その内径が磁気回路部10から遠ざかるほど、徐々に広がるテーパ状になる。なお、磁気回路部20の主面20aと反対側に位置する主面を主面20bとする。
【0033】
アンテナ30は、マイクロ波小型プラズマ源1外からマイクロ波小型プラズマ源1内に導入される。例えば、アンテナ30は、磁気回路部10を貫通し、空間51に導入される。アンテナ30は、いわゆるマイクロ波ランチャーである。アンテナ30は、例えば、モリブデンを含む。
【0034】
例えば、マイクロ波小型プラズマ源1外には、マイクロ波発信器(不図示)が設けられ、アンテナ30にマイクロ波発信器が接続されている。これにより、アンテナ30を介して空間51にマイクロ波電力が供給される。マイクロ波の波長は、例えば、122mm(2.45GHz)である。但し、マイクロ波の波長は、この波長に限らない。
【0035】
アンテナ30は、棒状であり、その途中が折り曲がっている。例えば、アンテナ30は、第1アンテナ部301と、第1アンテナ部301に連結する第2アンテナ部302とを有する。
【0036】
第1アンテナ部301は、例えば、磁気回路部10に直交し、磁気回路部10からノズル部60に向かう方向に延在する。第1アンテナ部301は、例えば、磁気回路部10の中心軸に位置する。
【0037】
第2アンテナ部302は、第1アンテナ部301と交差する。
図1(a)の例では、第1アンテナ部301と第2アンテナ部302とが直交し、アンテナ30がL字型になっている。第2アンテナ部302は、さらに、先端部111と角部220との間に位置している。つまり、第2アンテナ部302は、磁場B1に挿入されている。このように、アンテナ30が折れ曲がった構成になることにより、マイクロ波がプラズマ中に効率よく吸収される。第1アンテナ部301と第2アンテナ部302とがなす角度は、直交に限らず、鈍角または鋭角であってもよい。
【0038】
ノズル部60は、磁気回路部10とは反対側において磁気回路部20に接する。例えば、ノズル部60は、磁気回路部20の主面20bに接している。ノズル部60は、開口部610(第2開口部)を有する。開口部610は、開口部210に連通する。開口部610の開口面積は、開口部210の開口面積よりも小さい。
【0039】
開口部610は、開口部210に対して、同心円状に配置されている。開口部610は、開口部210に対して、同心円状に配置されている必要はなく、それぞれの中心軸同士が若干ずれてもよい。開口部610の内径は、例えば、5mmである。空間51が開口部610を介して装置外と通じていることにより、空間51に形成されたプラズマを開口部610から取り出すことができる。ノズル部60は、例えば、モリブデンを含む。
【0040】
ガスポート部70は、筒状磁石部40及び筒状体50を貫通する。ガスポート部70は、例えば、磁気回路部10と、筒状磁石部40及び筒状体50との間に配置されている。ガスポート部70は、空間51に、キセノン、アルゴン、ヘリウム、窒素等の放電ガスを供給することができる。
【0041】
ガスポート部70において、放電ガスが供給される供給口71は、供給口71とアンテナ30の先端30pとの距離が最も短くなるように配置される。例えば、ガスポート部70及びアンテナ30をZ軸方向から上面視した場合、供給口71と先端30pとは、互いに対向する。
【0042】
絶縁部材80は、アンテナ30と磁気回路部10との間に設けられている。絶縁部材80は、フッ化炭素樹脂、石英等を含む。これにより、アンテナ30と磁気回路部10との絶縁が保たれる。
【0043】
マイクロ波小型プラズマ源1において、筒状体50の内径(幅)をa(mm)、空間51に供給されるマイクロ波電力のマイクロ波遮断波長をλ(mm)としたときに、マイクロ波小型プラズマ源1は、λ>3.41×(a/2)の関係式を満たすように構成されている。筒状体50が多角径の場合は、内径aは、筒状体50の中心軸を通過する内径の最大内径とする。
【0044】
図2は、マイクロ波小型プラズマ源の動作を説明する模式的断面図である。
【0045】
マイクロ波小型プラズマ源1において、筒状磁石部40に接続された磁気回路部10及び筒状磁石部40に接続された磁気回路部20は、それぞれヨーク材として機能する。さらに、磁気回路部10は、突出部110を有し、磁気回路部20は、角部220を有する。これにより、双方の突起間(突出部110と角部220との間)に、ミラー比の高い磁場B1(ミラー磁場)が形成される。さらに、磁場B1は、突出部110が筒状であり、磁気回路部20の開口部210が円状であることから、円環状に形成される。
【0046】
このような状況下で、空間51に供給口71から放電ガスが供給され、アンテナ30から空間51にマイクロ波が供給されると、放電ガスが放電し、マイクロ波と磁場B1との相互作用によって、空間51に電子サイクロトロン共鳴が起こる。これにより、プラズマ中の電子に選択的かつ直接的にエネルギーが供給され、高いエネルギーを持った電子と、放電ガスとが衝突して空間51に高密度プラズマが発生する。
【0047】
ここで、マイクロ波小型プラズマ源1は、λ>3.41×(a/2)の関係式を満たすように構成されている。これにより、空間51では、マイクロ波が共振しにくくなり、空間51におけるマイクロ波の進行が抑制される。この結果、マイクロ波小型プラズマ源1からはマイクロ波が漏洩しにくくなる。また、共振させなければ、マイクロ波電界が高くならず、マイクロ波電界に比例する容器壁面でのマイクロ波損失を抑制することができる。
【0048】
さらに、マイクロ波小型プラズマ源1においては、突出部110と角部220との間に、ミラー磁場(磁場B1)を形成し、磁場B1に閉じ込めた電子が連続的に電子サイクロトロン共鳴により加熱される。これにより、マイクロ波の電界が弱くても、放電ガスを電離できるほどの高エネルギー電子を生成できる。
【0049】
また、マイクロ波小型プラズマ源1においては、開口部210の内径が突出部110の外径よりも大きく構成されている。これにより、磁場B1においては、磁力線が突出部110から角部220に向かうほど、より疎になる。この結果、ノズル部60側の磁束密度は、突出部110側の磁束密度よりも小さくなる。
【0050】
これにより、空間51においては、ノズル部60の開口部610付近に低磁場領域が形成され、開口部610付近では、プラズマが磁場によって捕捉されにくくなっている。このため、開口部610付近でのプラズマの移動度が高まり、プラズマ中の電子またはイオンが開口部610から効率よく噴射される。
【0051】
例えば、空間51に供給口71から流量0.3sccm程度のキセノンガスを導入し、8Wのマイクロ波をアンテナ30に投入したとき、開口部610から200mA程度の電子電流と、5mA程度のイオン電流とが得られている。
【0052】
なお、空間51に残ったプラズマ中のイオンは、磁場B1を通り抜けて、筒状体50の内壁または磁気回路部10、20の主面に到達する。筒状体50または磁気回路部10、20に当たったイオンは、電荷を失い、中性ガスに戻り、放電ガスとして再利用される。このため、マイクロ波小型プラズマ源1では、極力少ないガス流量でプラズマの維持が可能になっている。
【0053】
一方、突出部110側では、磁力線が角部220から突出部110に向かうほど、より密になっている。これにより、絶縁部材80付近には、高磁場領域が形成され、空間51に形成されるプラズマにおいては、絶縁部材80に晒されるプラズマの密度が開口部210に形成されるプラズマの密度よりも高くなる。
【0054】
これにより、放電中に、絶縁部材80にコンタミ、被膜等の異物が堆積したとしても、異物は、プラズマによるスパッタリング効果によって即座に除去される。仮に、異物が金属を含み、絶縁部材80に異物が堆積することになれば、アンテナ30と磁気回路部10とが導通し、アンテナ30から空間51にマイクロ波を充分に供給できないことになる。
【0055】
これに対し、マイクロ波小型プラズマ源1では、空間51にプラズマを形成さえすれば、絶縁部材80上の異物がセルフクリーニングにより除去される。すなわち、マイクロ波小型プラズマ源1は、メンテナンスフリーで長期間にわたり稼動することができる。
【0056】
また、マイクロ波小型プラズマ源1では、供給口71とアンテナ30の先端30pとが最も近くなるように構成されていることから、第2アンテナ部302付近に放電ガスが供給される。これにより、供給口71から空間51に導入された放電ガスは、アンテナ30から発せられるマイクロ波によって効率よく電離する。この結果、高密度のプラズマが空間51に形成される。
【0057】
また、磁気回路部10とノズル部60との間の距離をL(mm)としたときに、マイクロ波小型プラズマ源1は、λ>3.41×(L/2)の関係式を満たすように構成れてもよい。これにより、マイクロ波は、ノズル部60の開口部610からより確実に漏洩しにくくなる。
【0058】
以上のようなマイクロ波小型プラズマ源1によれば、マイクロ波小型プラズマ源1からマイクロ波が漏洩しにくく、マイクロ波小型プラズマ源1によって高密度のプラズマが生成され、電子またはイオンをマイクロ波小型プラズマ源1外に噴射することができる。このようなマイクロ波小型プラズマ源1は、例えば、真空環境(1×10
−5Pa以上1×10
−2Pa以下)で使用され、真空環境が要求される製造装置、機器の帯電を緩和する除電として利用することができる。
【0060】
図3は、本実施形態に係るマイクロ波小型プラズマ源の第1変形例の模式的上面図である。
【0061】
図3に示すマイクロ波小型プラズマ源2においては、第2アンテナ部302が複数の部材302aから構成されている。複数の部材302aのそれぞれは、第1アンテナ部301と交差している。さらにマイクロ波小型プラズマ源2をZ軸方向から上面視した場合、複数の部材302aのそれぞれとガスポート部70とが対向している。
【0062】
このような構成であれば、複数の部材302aから供給されるマイクロ波と磁場B1との相互作用によって、空間51に電子サイクロトロン共鳴が起こり、空間51にさらに高密度のプラズマが発生する。これにより、マイクロ波小型プラズマ源2から、より大きい電子電流またはイオン電流を取り出すことができる。
【0064】
図4(a)は、本実施形態に係るマイクロ波小型プラズマ源の第2変形例の模式的断面図である。
図4(b)は、その模式的上面図である。
【0065】
図4(a)、(b)に示すマイクロ波小型プラズマ源3においては、第2アンテナ部302が円盤状に構成されている。第2アンテナ部302は、コーン状に構成されてもよい。第1アンテナ部301は、第2アンテナ部302の中心部に連結している。また、マイクロ波小型プラズマ源3をZ軸方向から上面視した場合、ガスポート部70が複数の箇所に設けられている。
【0066】
このような構成であれば、円盤状またはコーン状の第2アンテナ部302から万遍なく供給されるマイクロ波と磁場B1との相互作用によって、空間51に電子サイクロトロン共鳴が起こり、空間51にさらに高密度のプラズマが発生する。これにより、マイクロ波小型プラズマ源3から、さらに大きい電子電流またはイオン電流を取り出すことができる。
【0068】
図5は、本実施形態に係るマイクロ波小型プラズマ源の第3変形例の模式的断面図である。
【0069】
図5に示すマイクロ波小型プラズマ源4は、空間51に形成されるプラズマ中の荷電粒子を静電界によって引き出す電極機構90をさらに具備する。電極機構90は、電源91と、多孔状の電極(グリッド電極)92とを有する。電極92は、空間51とは反対側において開口部610に対向する。
【0070】
例えば、マイクロ波小型プラズマ源4から電極機構90の除いた部分をマイクロ波小型プラズマ源4の本体とした場合、電源91によって電極92に本体よりも高いバイアス電位(正電位)を印加した場合は、空間51から電子を優先的に引き出すことができる。一方、電源91によって電極92に本体よりも低いバイアス電位(負電位)を印加した場合は、空間51からイオンを優先的に引き出すことができる。
【0071】
また、これらの荷電粒子は電極92と本体との間に形成される静電界によって加速されることから、進行方向が揃った荷電粒子のビーム流が形成されることになる。これにより、除電をする目的対象を定めて、除電を行うことができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合させることができる。