カテキン類が、茶抽出物、茶抽出物の濃縮物若しくはそれらの精製物又はこれらから単離されたものである請求項1記載のアユの香気改善剤又は請求項2記載のアユの香気改善用飼料。
【背景技術】
【0002】
近年、魚食は、健康志向の高まりにより世界的に普及し、その需要は急速に拡大している。その一方で、水産資源には限りがある。そのため、養殖業の技術発展が期待されるが、感染症対策の必要性、天然と比較して栄養面だけでなく風味が劣るという課題が存在する。
【0003】
アユ(鮎:Plecoglossus altivelis)は、キュウリウオ目に分類される、川や海などを回遊する魚であり、スイカやキュウリ様の独特の香気をもつことから、香魚とも呼ばれる。斯かる魚体の香りは、アユ体内における不飽和脂肪酸の酸化代謝物に起因し、2,6−ノナジエナール、3,6−ノナジエノール等であることが知られている(非特許文献1)。体内の脂肪酸は餌飼料の影響を受けることから、育ち方によって香りが異なる。アユの養殖は、短期間での成長を促すため、飼料として動物質飼料が用いられるが、それが原因で香りが悪くなるという問題があった。これに対し、青葉アルコールを主成分として香りづけをする技術も報告されている(特許文献1)。
【0004】
一方、茶成分は、魚類甲殻類の病気を改善するため(特許文献2)、養殖魚の脂質改善のため(特許文献3)、養殖魚のビタミンC代謝を改善するため(特許文献4)等に、飼料に配合されて使用されることが報告されている。
【0005】
しかしながら、カテキン類にアユの香気を改善する作用があることは全く知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明おいて、「アユ」とは、キュウリウオ目(Osmeriformes)の、「Plecoglossus altivelis 」を指し、「香魚」、「年魚」とも称される。アユの魚体においては、香気成分として、3,6−ノナジエノール(3,6−Nonadienol)、2,6−ノナジエナール(2,6−nonadienal)等が生成され(前記非特許文献1)、生活環境によってその量が変化すると考えられている。
【0013】
本発明において、「カテキン類」とは、カテキン、カテキンガレート、ガロカテキン及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類と、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類を併せた非重合体カテキンの総称であり、本発明においてはこれらのうちの少なくとも1種の非重合体カテキンを含有すればよい。なお、本発明において、カテキン類の含有量又は投与量は、当該8種の非重合体カテキンの合計量に基づいて定義される。
【0014】
カテキン類は、一般的には茶葉から抽出した茶抽出物、その濃縮物又はそれらの精製物に含まれているため、本発明のカテキン類としては、当該茶抽出物、その濃縮物又はそれらの精製物、又はこれらから単離されたものが好ましく使用されるが、化学合成品であってもよい。
ここで、「茶抽出物」とは、茶葉から水又は親水性有機溶媒を用いて抽出したものであって、濃縮や精製操作が行われていないものをいう。なお、親水性有機溶媒として、例えば、エタノール等のアルコールを使用することができる。また、抽出にはニーダーやカラムを使用することができる。また、「茶抽出液の濃縮物」とは、茶葉から水又は親水性有機溶媒により抽出した茶抽出物から溶媒の少なくとも一部を除去してカテキン類の濃度を高めたものをいい、例えば、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に記載の方法により調製することができる。更に、「茶抽出物の精製物」は、溶剤や吸着剤を用いて茶抽出物又はその濃縮物を処理し固形分中のカテキン類の純度を高めたものをいい、例えば、特開2004−147508号公報、特開2007−282568号公報、特開2006−160656号公報、特開2008−079609号公報等に記載の方法により調製することができる。
【0015】
抽出に使用する茶葉としては、例えば、Camellia属、例えばC. sinensis var. sinensis及びC. sinensis var. assamica、やぶきた種又はそれらの雑種から選ばれる茶樹が挙げられる。茶葉は、その加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に大別することができる。不発酵茶としては、例えば、煎茶、番茶、碾茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等の緑茶が例示される。また、半発酵茶としては、例えば、鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の烏龍茶が例示される。更に、発酵茶としては、ダージリン、アッサム、スリランカ等の紅茶が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明のカテキン類としては、上記のように茶葉などから抽出・精製したものの他、市販品を用いても良い。たとえば、ポリフェノン(三井農林)、テアフラン(伊藤園)、サンフェノン(太陽化学株式会社)、テアビゴ(DMS Nutritional Products)などのカテキン製剤を用いることができる。
【0017】
後記実施例に示すように、カテキン類を含む飼料をアユに給与して養殖した場合、アユの皮膚と筋肉中の3,6−ノナジエノール量が有意に増加する。
3,6−ノナジエノールは、アユの香気成分のうちスイカ様の香り成分として知られており(前記非特許文献1)、斯かる成分が体内で増加することにより魚体がフルーティーな良い香りを呈する。
したがって、カテキン類は、アユの香気改善剤となり得、アユの香気改善のために使用することができ、また、アユの香気改善剤を製造するために使用できる。
【0018】
本発明において、「香気改善」とは、アユの魚体から発せられる香気、すなわち魚体臭を改善すること、具体的には3,6−ノナジエノールに起因する香りを付与すること、或いは3,6−ノナジエノールに起因する香りを強めるようにアユの魚体の香りを変化させることを意味する。香気改善の程度は、アユの体内(皮膚又は筋肉)における3,6−ノナジエノール量を測定することにより評価できる。
【0019】
上記のアユの香気改善剤は、アユの香気を改善するための飼料(アユの香気改善用飼料)、或いは養殖アユの飼料として通常用いられる飼料へ配合するための素材又は製剤となり得る。
【0020】
カテキン類を含有する上記飼料は、養殖アユの飼料として通常用いられる飼料にカテキン類を添加することにより製造することができる。養殖アユの飼料としては、アユに対して必要とする栄養成分や物性が考慮された飼料であれば特に限定されず、例えば、魚粉、甲殻類ミール、小麦粉、澱粉、ビタミン、ミネラル等の粉末原料に、油脂や水、蒸気を加えて成型機でペレット状に成型後乾燥した固形乾燥配合飼料や、イワシ、サバ、イカナゴ等の鮮魚、冷凍魚をミンチにした生餌飼料や、これに粉末飼料を混合し成型したモイストペレット等が挙げられる。
市販の養殖アユの飼料としては、例えば、あゆソフト(日本農産工業(株))、あゆアルファメガ(日本配合飼料(株))、ラーバルフィード(株)科学飼料研究所)、レスキューニューえ付((株)科学飼料研究所)、ニュー新鮎EP((株)科学飼料研究所)、あゆ育成用ベーシック((株)科学飼料研究所)、あゆEP((株)科学飼料研究所)等が挙げられる。
【0021】
本発明の飼料におけるカテキン類の含有量は、全質量中0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、且つ10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。また、0.1〜2質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、より好ましくは0.75〜1.25質量%である。
【0022】
アユに対するカテキン類の給与量は、香りの強度及び飼料の苦味又は渋味の点から、適宜決定することができるが、体重1kgに対して1日あたり20mg以上、好ましくは100mg以上、より好ましくは150mg以上であり、且つ250mg以下、好ましくは1000mg以下、より好ましくは2000mg以下である。また、20〜2000mg、好ましくは100〜1000mg、より好ましくは150〜250mgである。
【0023】
本発明に係る飼料の給与は、一般のアユ養殖飼料の給与方法に準じて行えばよく、1日当たり1回給与しても、複数回給与してもかまわない。実給与日数は30〜50日であれば良いが、好ましくは35〜45日であり、より好ましくは40〜45日である。実給与日は連日でもよいし、間隔をあけても良い。間隔をあける場合、実給与日と次の実給与日の間隔は1日以内が望ましい。
【0024】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>カテキン類を有効成分とするアユの香気改善剤。
<2>カテキン類を有効成分とするアユの香気改善用飼料。
<3>アユにカテキン類を含有する飼料を給与するアユの香気改善方法。
【0025】
<4>アユの香気改善剤を製造するためのカテキン類の使用。
<5>アユの香気改善用飼料を製造するためのカテキン類の使用。
【0026】
<6>前記<1>〜<5>において、カテキン類は、茶抽出物、茶抽出物の濃縮物若しくはそれらの精製物又はこれらから単離されたものである。
<7>前記<1>〜<5>において、香気改善は、アユ体内の3,6−ノナジエノール量の増加に基づくものである。
【0027】
<8>前記<2>において、飼料中のカテキン類の含有量は、全質量中0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上であり、且つ10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。また、0.1〜2質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、より好ましくは0.75〜1.25質量%ある。
<9>アユに対するカテキン類の給与量が、体重1kgに対して1日あたり20mg以上、好ましくは100mg以上、より好ましくは150mg以上であり、且つ250mg以下、好ましくは1000mg以下、より好ましくは2000mg以下である。また、20〜2000mg、好ましくは100〜1000mg、より好ましくは150〜250mgである、<3>の方法。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
調製例1 飼料の調製
(1)市販アユ用飼料(あゆアルファメガ(日本配合飼料(株))に、表1に示すカテキン類を含有する緑茶抽出物(GTE)溶液及び同量の水を添加し(飼料中のGTE濃度が1%及び0%になるように)、凍結乾燥した。調製した飼料は使用時まで冷暗所で保存した。得られた飼料はGTE食及びCont食とした
【0029】
【表1】
【0030】
試験例1 カテキン類のアユ組織中香気成分(3,6−ノナジエノール)へ及ぼす影響
(1)給餌試験
アユの稚魚(10匹)にGTE食を5週間給餌した。5週間後、2群に分けGTE食(5匹)もしくはCont食(5匹)を6週間給餌した。給餌量はアユが食べきれる程度で、2回/日給餌した。その後、冷水中で安楽死させ、解析まで凍結状態(−80℃)で保存した。
【0031】
(2)香り成分の抽出と成分分析
1)凍結アユは、氷上にて皮部と筋肉部に分離して秤量済みチューブに分取後、冷食塩水を加え、ホモジナイズにより組織を破砕した。
2)エーテルを用いて抽出を行い、エーテル層は脱水処理し、分析サンプルとした。
3)3,6−ノナジエノールについて、下記条件にて分析を行い(標準物質:3,6-ノナジエン-1-オール(m/z=93)、和光純薬工業(株);内部標準物質:1,4-Dibromobenzene (m/z=236)、東京化成工業(株))、組織重量(湿重量)当たりで表記した。結果を表2に示す。
<測定条件>
大量注入(LVI)−GC/MSシステム
GC :Agilent Technologies 6890N
分析カラム:DB-1 (60m×0.25mmID)
注入量 :100μL
MS :Agilent Technologies 5975 inert MSD
測定法 :SIM/Scan
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示すように茶抽出物摂取によりアユ組織中(皮膚・筋肉)香気成分である3,6−ノナジエノールが有意に増加した。