特開2019-97566(P2019-97566A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-97566(P2019-97566A)
(43)【公開日】2019年6月24日
(54)【発明の名称】体内時計調整用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20190603BHJP
   A61K 31/37 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190603BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190603BHJP
【FI】
   A23L33/10
   A61K31/37
   A61P3/00
   A61P25/20
   A61P25/24
   A61P25/28
   A61P1/14
   A61P1/00
   A61P1/10
   A61P17/00
   A61P3/02
   A61P25/00
   A61P13/02
   A61P35/00
   A61P43/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-223693(P2018-223693)
(22)【出願日】2018年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2017-234754(P2017-234754)
(32)【優先日】2017年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 隆人
(72)【発明者】
【氏名】小川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】野口 和雄
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD07
4B018ME14
4B018MF02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA19
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA07
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA05
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA22
4C086ZA69
4C086ZA72
4C086ZA84
4C086ZA89
4C086ZB26
4C086ZC21
4C086ZC22
4C086ZC52
(57)【要約】
【課題】
食経験豊富で安全性の高い食品由来であって、かつ効果的に時計遺伝子発現リズムに作用し、体内時計を調整することができる成分を有効成分とする飲食品等を提供する。
【解決手段】
有効成分としてウロリチンAを含有し、時計遺伝子Period2発現リズムの振幅を増強することによって、体内時計を調整する組成物、である。本発明により、体内時計機能低下に起因する様々な不定愁訴や疾病、例えば入眠障害、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害等の睡眠時に関連する愁訴や、寝起き不良、起床時の疲労・だるさ、起床時の憂鬱な気分、起床時の意欲・やる気低減等の起床時に関連する愁訴を予防または改善する食品等の提供が可能となった。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてウロリチンAを含有することを特徴とする、時計遺伝子Period2発現リズムの振幅増強作用を有する組成物。
【請求項2】
有効成分としてウロリチンAを含有することを特徴とする、体内時計調整用組成物。
【請求項3】
時計遺伝子発現リズムの位相、周期または振幅のうち少なくとも1つを調整する作用を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な不定愁訴や疾病の予防または改善に有効な体内時計(概日時計)調整用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
体内時計(概日時計)は、生命が地球の自転周期に伴う環境変化に適応するために進化の過程で獲得した重要な生体機構であり、睡眠覚醒やエネルギー代謝をはじめとした様々な生理現象に認められる約24時間周期の概日リズム(サーカディアンリズム)を発振している(非特許文献1参照)。
【0003】
哺乳類の体内時計は、主時計と末梢時計から構成される階層構造をなしており、前者が視床下部の視交差上核と呼ばれる細胞集団に局在する一方で、後者は全身の臓器や組織を構成する個々の細胞にまで分布している。これらの時計がそれぞれ光や食物といった様々な外部環境に同調し、全身の生理機能を時間的に統合することで、個体としての健全性を維持している。
【0004】
現代社会に特有な光環境(人工照明)に端を発する生活時間の慢性的な不規則化・夜型化は、体内時計の機能を低下させ、睡眠障害や代謝障害をはじめとした様々な不定愁訴や疾病の原因となると考えられている。また、老化に伴って体内時計機能が低下することが報告されており、様々な加齢関連疾患にも体内時計機能の低下が関与していると考えられている(非特許文献2及び3参照)。
【0005】
従って、上述したような現代社会または高齢化社会の中で、日々継続して体内時計を調整することによってその機能を正常に維持することは、様々な不定愁訴や疾病を予防または改善するための有効な手段となるものと期待される。
【0006】
体内時計が約24時間周期のリズムを発振する分子機構は、時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子群が形成する、時間的なずれを伴った転写・翻訳のネガティブフィードバックループであり、哺乳類においては、Period、Cryptochrome、Bmal1、Clockといった時計遺伝子がこの機構の中核をなしている。
【0007】
近年、培養細胞における時計遺伝子発現(Period2もしくはBmal1)をリアルタイムモニターする分子イメージング技術が確立されたことにより、いくつかの機関で大規模な合成化合物ライブラリを用いたハイスループットスクリーニングが行われた(非特許文献3参照)。その結果、時計遺伝子発現リズムに作用し、体内時計を調整しうる化合物が数種得られており、これらは医療用医薬品としての開発が進められている。
【0008】
しかしながら、日々継続的に時計遺伝子発現リズムに作用させて体内時計を調整し、その機能を長期的に正常に維持するという目的を達するためには、新規化合物や医薬品よりも、毎日の摂取が可能な安全性の高い食品由来成分を用いることが望ましい。
【0009】
時計遺伝子発現リズムに作用しうる食品もしくは食品由来成分としては、例えばケイヒ酸類(特許文献1参照)、カルノシン及びアンセリン(特許文献2参照)、黒生姜(特許文献3参照)、ヘスペレチン及びナリンゲニン(特許文献4参照)等が知られている。しかし、継続的に摂取することにより長期的に体内時計の機能を正常化し、睡眠覚醒障害、エネルギー代謝障害を予防または改善しうる食品もしくは食品由来成分については未だ報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「時間生物学」海老原史樹文、吉村崇 編、株式会社化学同人、2102年
【非特許文献2】「体内時計の科学と産業応用」柴田重信 監修、株式会社シーエムシー出版、2011年
【非特許文献3】「サーカディアンリズム睡眠障害の臨床」千葉茂、本間研一 編、株式会社新興医学出版社、2003
【非特許文献4】Hirota T. et al., Chem Biol. 2009 Sep 25;16(9):921−7.
【非特許文献5】Chen Z. et al., Cell MOL Life Sci. 2013 Aug;70(16):2985−98.
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2016−204281
【特許文献2】特開2015−110564
【特許文献3】特開2016−210703
【特許文献4】特開2008−266319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、食経験豊富で安全性の高い食品由来であって、かつ効果的に時計遺伝子発現リズムに作用し、体内時計を調整することができる成分を有効成分とする飲食品等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、ウロリチン類の中でも特にウロリチンAが時計遺伝子Period2発現リズムの振幅増強作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の態様は、次のとおりである。
(1)有効成分としてウロリチンAを含有することを特徴とする、時計遺伝子Period2発現リズムの振幅増強作用を有する組成物。
(2)有効成分としてウロリチンAを含有することを特徴とする、体内時計調整用組成物。
(3)時計遺伝子発現リズムの位相、周期または振幅のうち少なくとも1つを調整する作用を有する、(1)または(2)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、体内時計機能低下に起因する様々な不定愁訴や疾病、例えば入眠障害、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害等の睡眠時に関連する愁訴や、寝起き不良、起床時の疲労・だるさ、起床時の憂鬱な気分、起床時の意欲・やる気低減等の起床時に関連する愁訴を予防または改善する食品等の提供が可能となった。また、体内時計機能低下に起因する様々な不定愁訴や疾病のうち、例えば時差ぼけや社会的時差ぼけ、認知記憶障害、気分障害、生活習慣病、食欲不振や便秘等を含む消化管機能障害、肌荒れやしわ等を含む皮膚機能障害、頻尿や夜間頻尿を含む排尿機能障害、癌、老化等を予防または改善する食品等の提供も可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】時計遺伝子Period2発現リズムの振幅に対するウロリチンAの作用を示すグラフである。
【0017】
図2】時計遺伝子Period2発現リズムの振幅に対するウロリチンBの作用を示すグラフである。
【0018】
図3】時計遺伝子Period2発現リズムの振幅に対するウロリチンCの作用を示すグラフである。
【0019】
図4】時計遺伝子Period2発現リズムの振幅に対するウロリチンDの作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の組成物は、ウロリチンAを有効成分として含有することを特徴とする。
【0021】
ウロリチンAは、エラグ酸の代謝産物である。すなわち、ザクロ等の植物に含有されるエラジタンニンの加水分解産物であるエラグ酸が、腸内細菌よりウロリチンAに変換されることが知られている。ウロリチンAには、その薬学的に許容される塩が含まれる。また、本発明の組成物に配合する態様としては、ウロリチンAの前駆体であるエラジタンニンおよびエラグ酸、もしくはこれらを含有する植物由来抽出エキス等であってもよい。
【0022】
ウロリチンAの有効投与量は、年齢等に応じて異なるが、通常成人で1日当たり1mg〜1000mgであり、1mg〜50mgが好ましく、1mg〜10mgがより好ましい。
【0023】
また、有効投与量の範囲内で、使用態様や使用者の体内時計の状態などに応じ、用法及び用量を適宜に設定することができる。
【0024】
体内時計調整作用とは、時計遺伝子発現リズムまたは行動リズムの位相、周期、振幅の少なくとも1つを調整することを指す(非特許文献5参照)。体内時計の位相を調整することの好ましい態様としては、遅延した体内時計の位相を早めることである。また、体内時計の周期を調整することの好ましい態様としては、延長した時計遺伝子発現リズムの周期を短縮することである。さらに、体内時計の振幅を調整することの好ましい態様としては、減衰した時計遺伝子発現リズムの振幅を増強することである。
【0025】
本発明の組成物は、特に時計遺伝子Period2の発現リズムの振幅を増強することができる。これによって、時計遺伝子発現リズムの位相、周期または振幅のうち少なくとも1つを調整する作用を発揮し、体内時計を調整する。
【0026】
本発明の組成物には、その効果を損なわない質的および量的範囲で、他の有効成分を配合することができる。また、公知の添加剤等を配合して、固形剤や内服液剤等の経口製剤、外用剤等の非経口製剤として提供することができる。さらに、経口製剤とする場合、医薬品、医薬部外品及び食品等として提供することができるが、毎日の摂取や服用のし易さ、保存の便宜等を勘案すると、経口の固形剤を食品として提供するのが最も好ましい。
【0027】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0028】
試験例1
<試験方法>
ウロリチンAの時計遺伝子発現リズムの振幅に対する作用を、レポーターアッセイにより評価した(非特許文献3参照)。具体的なプロトコールは以下の通りである。
(1)マウス繊維芽細胞であるNIH−3T3細胞にPeriod2遺伝子のプロモーター領域(−280/+48)を組み込んだレポータープラスミド(pSLG−Per2)を導入して作製したPer2−Lucレポーター遺伝子安定発現株を3日間培養後,100nMデキサメサゾンで2時間処理し、リズムを同調化させた。
(2)同調化後、培養液をルシフェリンが150μM含有する培地に交換し、ウロリチンA溶液を最終濃度0.3〜30μMとなるように添加した。
(3)ウロリチンA溶液添加後のルシフェラーゼの発光をCOインキュベータ機能付ルミノメーター(クロノスDio AB−2550)で連続的に3日間測定した。
(4)コントロールは,サンプル溶液のマトリックスであるDMSOをサンプルと同濃度(0.1%)添加したものとした。
【0029】
<結果>
ウロリチンAを添加することにより、コントロールと比較してPeriod2遺伝子発現リズムの振幅増強が認められた(図1参照)。
【0030】
試験例2<試験方法>
ウロリチンAの構造類似物であるウロリチンB、C、及びDについて、試験例1と同様の方法にて、時計遺伝子発現リズムの振幅に対する作用を評価した。
【0031】
<結果>
ウロリチンB、C、及びDを添加することにより、コントロールと比較してPeriod2遺伝子発現リズムの振幅増強が認められたものの、その作用はウロリチンAと比較し弱かった(図2〜4参照)。
【産業上の利用可能性】
【0032】
時計遺伝子Period2発現リズムの振幅を増強させ、体内時計を調整する組成物の提供により、様々な不定愁訴や疾病の予防または改善を通じて、人々の健康の増進に寄与するとともに、医薬品・食品等の産業の健全な発展が期待される。
図1
図2
図3
図4