【解決手段】(A)燃料と、(B)塩素酸塩と、(C)カリウム塩とを含有し、前記(C)カリウム塩が、10℃毎分昇温のDSC(示差走査熱量測定)分析において100〜400℃の間で発現した吸熱ピーク総量が100〜900J/gの範囲であるエアロゾル消火剤組成物であり、前記エアロゾル消火剤組成物の熱分解開始温度が90℃超〜260℃以下の範囲である、エアロゾル消火剤組成物とする。
前記(C)カリウム塩が、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム、重炭酸カリウムから選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のエアロゾル消火剤組成物。
前記(A)燃料が、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素から選ばれる少なくとも一種である、請求項1または請求項2に記載のエアロゾル消火剤組成物。
前記(B)塩素酸塩が、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウムから選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のエアロゾル消火剤組成物。
前記(D)触媒が、酸化リチウム、酸化ベリリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化スカンジウム(III)、酸化チタン(IV)、酸化バナジウム(V)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化マンガン(IV)、酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(III)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化亜鉛、酸化ガリウム(III)、酸化モリブデン(VI)、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム(IV)、酸化セリウム(IV)、銅、ルビジウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、プラチナ、金、またはこれらの担体および合金から選ばれる少なくとも一種である、請求項5に記載のエアロゾル消火剤組成物。
前記(A)燃料と前記(B)塩素酸塩の合計量100質量部に対して、前記(A)燃料を20〜50質量部、前記(B)塩素酸塩を80〜50質量部、前記(C)カリウム塩を6〜1000質量部含有する、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のエアロゾル消火剤組成物。
前記(A)燃料と前記(B)塩素酸塩と前記(D)触媒の合計量100質量部に対して、前記(A)燃料を20〜50質量部、前記(B)塩素酸塩を80〜50質量部、前記(D)触媒を0.1〜10質量部、前記(C)カリウム塩を6〜1000質量部含有する、請求項5または請求項6に記載のエアロゾル消火剤組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸化金属触媒を用いた水素ガスの処理方法は、漏洩した水素ガスが空気と接触しない設備内で行う必要がある。したがって、酸化金属触媒を用いた水素ガスの処理方法は、水素燃料電池から空気中に漏洩した水素ガスの処理には不適切である。一方、水素利用技術や燃料電池発電技術を用いる場合に、何らかの事象により水素ガスが漏洩しても、漏洩した水素の燃焼を防止する措置を講じる必要がある。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、空気中に漏洩した水素ガスの燃焼を抑制できるエアロゾル消火剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] (A)燃料と、(B)塩素酸塩と、(C)カリウム塩とを含有し、
前記(C)カリウム塩が、10℃毎分昇温のDSC(示差走査熱量測定)分析において100〜400℃の間で発現した吸熱ピーク総量が100〜900J/gの範囲であるエアロゾル消火剤組成物であり、
前記エアロゾル消火剤組成物の熱分解開始温度が90℃超〜260℃以下の範囲である、エアロゾル消火剤組成物。
【0008】
[2] 前記(C)カリウム塩が、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム、重炭酸カリウムから選ばれる少なくとも一種である、[1]に記載のエアロゾル消火剤組成物。
【0009】
[3] 前記(A)燃料が、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素から選ばれる少なくとも一種である、[1]または[2]に記載のエアロゾル消火剤組成物。
[4] 前記(B)塩素酸塩が、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウムから選ばれる少なくとも一種である、[1]〜[3]のいずれかに記載のエアロゾル消火剤組成物。
【0010】
[5] さらに(D)触媒を含有する、[1]〜[4]のいずれかに記載のエアロゾル消火剤組成物。
[6] 前記(D)触媒が、酸化リチウム、酸化ベリリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化スカンジウム(III)、酸化チタン(IV)、酸化バナジウム(V)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化マンガン(IV)、酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(III)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化亜鉛、酸化ガリウム(III)、酸化モリブデン(VI)、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム(IV)、酸化セリウム(IV)、銅、ルビジウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、プラチナ、金、またはこれらの担体および合金から選ばれる少なくとも一種である、[5]に記載のエアロゾル消火剤組成物。
【0011】
[7] 前記(A)燃料と前記(B)塩素酸塩の合計量100質量部に対して、前記(A)燃料を20〜50質量部、前記(B)塩素酸塩を80〜50質量部、前記(C)カリウム塩を6〜1000質量部含有する、[1]〜[4]のいずれかに記載のエアロゾル消火剤組成物。
【0012】
[8] 前記(A)燃料と前記(B)塩素酸塩と前記(D)触媒の合計量100質量部に対して、前記(A)燃料を20〜50質量部、前記(B)塩素酸塩を80〜50質量部、前記(D)触媒を0.1〜10質量部、前記(C)カリウム塩を6〜1000質量部含有する、[5]または[6]に記載のエアロゾル消火剤組成物。
[9] 見かけ密度が1.0g/cm
3以上である、[1]〜[8]のいずれかに記載のエアロゾル消火剤組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエアロゾル消火剤組成物によれば、空気中に漏洩した水素ガスの燃焼を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のエアロゾル消火剤組成物について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物は、(A)燃料(以下「(A)成分」という場合がある。)と、(B)塩素酸塩(以下「(B)成分」という場合がある。)と、(C)カリウム塩(以下「(C)成分」という場合がある。)とを含有する。
【0016】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物の熱分解開始温度は、90℃超〜260℃以下の範囲である。熱分解開始温度は、150℃超〜260℃以下の範囲であることが好ましい。エアロゾル消火剤組成物の熱分解開始温度は、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の各成分の含有量を変化させることにより調整できる。
室内にある可燃物として一般的な木材の引火温度は260℃である。熱分解開始温度が260℃以下であると、点火装置などを使用することなく、火災発生時の熱を受けて、木材の引火温度以下の温度で(A)成分と(B)成分が自動的に着火燃焼し、(C)成分に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)が発生する。したがって、木材の引火温度以下の温度で、速やかにエアロゾル消火剤組成物による消火効果が発揮される。
【0017】
水素燃料電池用ボンベの安全弁作動温度は、100〜150℃である。また、火気を取扱う場所に設置する自動火災報知設備の熱感知器における一般的な作動温度は、90℃である。熱分解開始温度が90℃超であると、エアロゾル消火剤組成物の熱分解が開始されることによる自動火災報知設備の熱感知器の誤作動を防止できる。
また、自動火災報知設備の熱感知器における作動温度の最高設定温度は、150℃である。熱分解開始温度の下限値が150℃超であると、エアロゾル消火剤組成物の熱分解が開始されることによる自動火災報知設備の熱感知器の誤作動をより確実に防止でき、高い汎用性が得られるため、好ましい。
【0018】
<(A)燃料>
(A)燃料は、(B)塩素酸塩の熱分解によって発生した酸素によって燃焼(酸化)する。(A)燃料は、(B)塩素酸塩と共に燃焼により熱エネルギーを発生させて、(C)成分に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させる成分である。
(A)燃料としては、燃焼によって熱エネルギーと、水素ガスの火炎を吹き飛ばすCO
2ガス、N
2ガスなどの不活性ガスとを発生する有機物を用いることができる。また、(A)燃料として、燃焼(酸化)することにより熱エネルギーを発生し、周囲の雰囲気を加熱・膨張させて、燃焼している水素ガスの火炎を吹き飛ばすガスを発生させる金属粉末を用いてもよい。
【0019】
具体的には(A)燃料は、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0020】
これらの中でも特に、(B)塩素酸塩の熱分解によって発生した酸素によって燃焼(酸化)し、(B)塩素酸塩と共に燃焼により熱エネルギーを発生させるなどの観点から、(A)燃料としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)を用いることが好ましい。
【0021】
なお、カルボキシメチルセルロースカリウムはカリウム塩であるが、上記の(A)燃料に分類され、本発明の(C)成分としてのカリウム塩には分類されない。それは、カルボキシメチルセルロースカリウムは、分子中のカリウム含有率が低く、カリウムを含むことによる消火効果が小さく、後述する吸熱ピーク総量が900J/g超であるためである。
【0023】
<(B)塩素酸塩>
(B)塩素酸塩は、強力な酸化剤である。(B)塩素酸塩は、熱分解によって酸素を発生させて(A)燃料を燃焼させる。すなわち、(B)塩素酸塩は、(A)燃料と共に燃焼により熱エネルギーを発生させて、(C)成分に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させる成分である。
(B)塩素酸塩は、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウムから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
これらの中でも特に、(A)燃料と共に燃焼により熱エネルギーを発生させるなどの観点から、(B)塩素酸塩として塩素酸カリウム(KClO
3)を用いることが好ましい。
【0024】
<(C)カリウム塩>
(C)カリウム塩は、10℃毎分昇温のDSC(示差走査熱量測定)分析において100〜400℃の間で発現した吸熱ピーク総量が100〜900J/gの範囲であるものである。(C)カリウム塩の上記吸熱ピーク総量が100J/g以上であり、900J/g以下であると、空気中に漏洩した水素の燃焼を抑制できる。
【0025】
(C)カリウム塩は、(A)成分と(B)成分の燃焼により生じた熱エネルギーにより、エアロゾル(カリウムラジカル)を発生させる成分である。
(C)カリウム塩は、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム、重炭酸カリウムから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
これらの中でも特に、(A)成分と(B)成分の燃焼により生じた熱エネルギーにより、エアロゾル(カリウムラジカル)を発生させる観点から、(C)カリウム塩としてクエン酸三カリウムを用いることが好ましい。
表1に、10℃毎分昇温のDSC(示差走査熱量測定)分析において100〜400℃の間で発現したカリウム塩の吸熱ピーク温度と吸熱ピーク総量を示す。
【0026】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物は、必要に応じて、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分に加えて、さらに(D)触媒(以下「(D)成分」という場合がある。)を含有していてもよい。
(D)触媒は、(A)成分と(B)成分の燃焼を促進し、エアロゾル消火剤組成物の燃焼速度(ガス発生速度)を増加させてエアロゾル(カリウムラジカル)発生を促進することにより、空気中に漏洩した水素の燃焼をより効果的に抑制する成分である。また、(D)触媒は、水素を安定化させることにより、空気中に漏洩した水素の燃焼をより効果的に抑制する成分である。
【0027】
(D)触媒は、酸化リチウム、酸化ベリリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化スカンジウム(III)、酸化チタン(IV)、酸化バナジウム(V)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化マンガン(IV)、酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(III)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化亜鉛、酸化ガリウム(III)、酸化モリブデン(VI)、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム(IV)、酸化セリウム(IV)、銅、ルビジウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、プラチナ、金、またはこれらの担体および合金から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
これらの中でも特に、入手が容易であるため、(D)触媒として、酸化銅、酸化セリウム、プラチナ担体、ロジウム担体から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0028】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物中の(A)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部、より好ましくは25〜40質量部、さらに好ましくは25〜35質量部である。
また、エアロゾル消火剤組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは80〜50質量部、より好ましくは75〜60質量部、さらに好ましくは75〜65質量部である。
【0029】
(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、(A)成分の含有量が20〜50質量部であって、(B)成分の含有量が80〜50質量部であると、(A)成分と(B)成分が燃焼することにより十分な熱エネルギーが生成される。このため、エアロゾル(カリウムラジカル)の発生拡散が促進され、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。
【0030】
エアロゾル消火剤組成物中の(C)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは6〜1000質量部、より好ましくは10〜1000質量部である。(C)成分の上記の含有量が、6質量部以上であると、エアロゾル消火剤組成物が燃焼することにより、十分にエアロゾルが発生するため、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。(C)成分の上記の含有量が、1000質量部以下であると、エアロゾル消火剤組成物中の(A)成分と(B)成分の含有量を十分に確保できるため、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。
【0031】
(D)成分のエアロゾル消火剤組成物中の含有量は、(A)成分と(B)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜7質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部である。(D)成分の含有量が、0.1質量部以上であると、(D)成分を含むことによる効果が十分に発揮され、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。(D)成分の含有量が10質量部以下であると、エアロゾル消火剤組成物中の(A)成分と(B)成分の含有量を十分に確保できるため、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。
【0032】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物が(D)成分を含む場合、(A)成分のエアロゾル消火剤組成物中の含有量は、(A)成分と(B)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部、より好ましくは25〜40質量部、さらに好ましくは25〜35質量部である。
また、エアロゾル消火剤組成物が(D)成分を含む場合、(B)成分のエアロゾル消火剤組成物中の含有量は、(A)成分と(B)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは80〜50質量部、より好ましくは75〜60質量部、さらに好ましくは75〜65質量部である。
【0033】
(A)成分と(B)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、(A)成分の含有量が20〜50質量部であって、(B)成分の含有量が80〜50質量部であると、(A)成分と(B)成分が燃焼することにより十分な熱エネルギーが生成される。このため、エアロゾル(カリウムラジカル)の発生および(D)成分の拡散が促進され、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。
【0034】
エアロゾル消火剤組成物が(D)成分を含む場合、(C)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは6〜1000質量部、より好ましくは10〜1000質量部である。(C)成分の上記の含有量が、6質量部以上であると、エアロゾル消火剤組成物が燃焼することにより、十分にエアロゾルが発生するため、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。(C)成分の上記の含有量が、1000質量部以下であると、エアロゾル消火剤組成物中の(A)成分と(B)成分の含有量を十分に確保できるため、より効果的に水素の燃焼を抑制できる。
【0035】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物の形態は、特に制限されるものではない。例えば、エアロゾル消火剤組成物は、粉末であってもよいし、所望形状の成形体であってもよい。エアロゾル消火剤組成物が成形体である場合、顆粒、ペレット(円柱形状など)、錠剤、球形、円板などの形状にすることができる。
【0036】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物は、見かけ密度が1.0g/cm
3以上、1.7g/cm
3以下であることが好ましい。見かけ密度が1.0g/cm
3以上であると、エアロゾル消火剤組成物の充填された容器を備える消火装置を製造する場合に、容器の小型化が容易となるため、好ましい。
【0037】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物は、例えば、(A)燃料と(B)塩素酸塩と(C)カリウム塩と、必要に応じて含有してもよい(D)触媒とを、任意の方法を用いて混合する方法により製造できる。
エアロゾル消火剤組成物の各成分を混合する方法は、水を用いない乾式方法であってもよいし、水を用いる湿式方法であってもよく、湿式方法を用いることが好ましい。
【0038】
ここで、本実施形態のエアロゾル消火剤組成物の消火機能について説明する。
例えば、空気中に漏洩した水素ガスの火炎に、エアロゾル消火剤組成物を投入すると、エアロゾル消火剤組成物が着火して燃焼する。エアロゾル消火剤組成物が燃焼すると、(A)燃料と(B)塩素酸塩の燃焼により生じた熱エネルギーおよび発生したガスによって、火炎が吹き飛ばされるとともに、(C)カリウム塩がエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させる。発生したエアロゾルは、水素を含む空気中に存在する水素ラジカルと酸素ラジカルと水酸化ラジカルとを捕捉し、燃焼している水素ガスの火炎を消火するとともに、水素ガスの燃焼を抑制する。
【0039】
エアロゾル消火剤組成物が(D)触媒を含む場合、(A)燃料と(B)塩素酸塩の燃焼により生じた熱エネルギーによって(D)触媒が周囲に拡散し、水素を含む空気中に存在する水素を安定化させるため、水素の燃焼が効果的に抑制される。また、エアロゾル消火剤組成物中の(D)触媒が、(A)成分と(B)成分の燃焼を促進するため、エアロゾル消火剤組成物による消火効果が、より顕著となる。
【0040】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物は、(A)燃料と(B)塩素酸塩と(C)カリウム塩とを含有するので、空気中に漏洩した水素の燃焼を抑制できる。
これに対し、例えば、エアロゾル消火剤組成物に含有する酸化剤として(B)塩素酸塩に代えて過塩素酸を用いた場合、(B)塩素酸塩を用いた場合と比較して酸化剤から多くの酸素が放出される。したがって、過塩素酸から放出された酸素と、空気中に漏洩した水素との燃焼が生じやすくなる。このため、過塩素酸は、空気中に水素が漏洩した場合に水素の燃焼を抑制するエアロゾル消火剤組成物に含有させる酸化剤として、好ましくない。
【0041】
本実施形態のエアロゾル消火剤組成物は、自動消火装置の消火剤として好適である。消火剤として本実施形態のエアロゾル消火剤組成物を用いた自動消火装置では、エアロゾル消火剤組成物が熱分解開始温度超の温度になると、エアロゾル消火剤組成物が自動的に着火してエアロゾルが発生する。したがって、エアロゾル消火剤組成物を用いた自動消火装置を、水素燃料電池の周囲など、水素が空気中に漏洩する可能性のある場所に設置することで、空気中に漏洩した水素の燃焼を抑制できる。
【0042】
また、エアロゾル消火剤組成物が燃焼すると、(A)燃料と(B)塩素酸塩の燃焼により生じた熱エネルギーによってエアロゾルが拡散する。このため、エアロゾル消火剤組成物を用いた自動消火装置では、消火剤を拡散させるための噴霧部材を備えなくてもよい。よって、噴霧部材が必須である消火剤を用いる場合と比較して、小型化および軽量化できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
「実施例1〜27」
表1に示す(A)(B)(C)および(D)の各成分を表1に示す配合割合(水分を含まない乾燥物として)で十分に混合し、混合物とした。ここで、(C)成分の配合割合は、(A)成分、(B)成分および(D)成分の合計量100質量部に対する質量部で示してある。得られた混合物に、(A)成分と(B)成分と(D)成分の合計量100質量部に対して、10質量部相当のイオン交換水を添加してさらに混合した。
【0044】
得られた水湿混合物を110℃で16時間、恒温槽で乾燥させて、水分1質量%以下の乾燥品とした。乾燥品をメノウ乳鉢にて破砕して、500μm以下の平均粒径となるように整粒し、粉砕品を得た。粉砕品2.0gを内径9.6mmの金型(臼)に充填し、杵を挿入の上、油圧ポンプを用いて面圧5MPa(50.1kg/cm
2)で10秒ずつ両面から加圧し、実施例1〜27の組成物の成形体を得た。
【0045】
実施例1〜27の成形体について、以下に示す方法により、「燃焼速度」「見かけ密度」「水素燃焼」を測定した。その結果を表2および表3に示す。
また、実施例1〜27の成形体について、「熱分解開始温度」を測定した。その結果、実施例1〜27の成形体は、いずれも熱分解開始温度が90℃超〜260℃以下の範囲であった。
【0046】
「燃焼速度」
図1は、成形体の燃焼速度の測定に用いた測定装置を説明するための図である。
図2は、
図1に示す測定装置の一部を拡大して示した斜視図である。
【0047】
図2に示す成形体9の上面から側面下側へ約2.5mmの位置と、下面から側面上側へ約2.5mmの位置とにそれぞれ上面に平行に、各孔の間が約5.0mmになるように直径0.35mmの孔を設け、各孔に直径0.3mmのニクロム線10を通した。
図2に示すサンプルスタンド7の上に、組成物の成形体9を載置し、ニクロム線10を固定し、ニクロム線11を成形体9の表面に接触させ、
図1に示すチムニ型ストランドバーナー1に設置した。窒素ガスで加圧し、1MPaの窒素雰囲気で、ニクロム線10を約1000℃まで赤熱させて着火した。
ニクロム線10に通電し、通電を開始してからニクロム線10が切断されるまでの時間を測定した。その後、2つの孔間の距離を、切断されるまでの時間で割って、成形体9の燃焼速度を算出した。
【0048】
「見かけ密度」
ノギスで成型体の形状を測定し、得られた寸法を用いて成型体の体積を求めた。そして、成形体の体積を成形体の重量で割った値を算出し、成型体の見かけ密度とした。
【0049】
「水素燃焼」
試験管に上方置換法で水素ガスを入れ、着火させた試料を試験管内へ入れた。その後、水素ガスが着火したか否かを確認した。通常、燃焼物の燃焼熱と燃焼温度で試験管下部の水素が着火する。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表2および表3に示すように、実施例1〜27の組成物の成形体は、窒素雰囲気下で、燃焼速度が十分に速いものであり、全て不着火であった。このことから、実施例1〜27の組成物は、水素ガスの火炎に投入し、水素ガスの燃焼を抑制するのに有効であることが確認できた。
また、表2および表3に示すように、実施例1〜27の組成物の成形体は、見かけ密度が1.0g/cm
3以上であった。