【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成29年度資源エネルギー庁「福島沖での浮体式洋上風力発電システムの実証研究事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【解決手段】浮体1は、風力発電装置2が設置される浮体本体10と、浮体本体10に設置されるチェーンシーブ20と、チェーンシーブ20に掛けられるチェーンに接続される引上げ機40と、浮体本体10に設置可能なチェーンストッパーとを備える。引上げ機40は、浮体本体10のポートサイドコラム11のデッキ111と、浮体本体10のスターボードサイドコラム12のデッキ121とにそれぞれ取り外し可能に装着される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の作業船は、特殊な作業船であるので、前述したセンサ、船体制御機構を備えていない汎用の作業船と比べて、船体数が少なく手配困難である。また、特殊な作業船の利用は、汎用の作業船を利用する場合と比べてコストがかかる。
また、前述した汎用の作業船を用いて係留索を引き上げて浮体に固定する場合には、特許文献2に記載の作業船を用いる場合と比べて、海象条件の制約が大きく、浮体の係留作業が長期化するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、特殊な作業船が不要であり、浮体の係留作業の長期化を抑えることができる浮体、浮体係留装置および浮体係留方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る浮体は、洋上構造物が設置される浮体本体と、前記浮体本体に設置される係留索ガイドと、前記係留索ガイドに掛けられる係留索に接続される引上げ機と、を備え、前記引上げ機は、前記浮体本体のデッキに取外し可能に装着され、前記浮体本体に設置可能な係留索ストッパーをさらに備えている。
【0009】
本発明の浮体によれば、次の手順によって浮体を洋上に係留できる。先ず、係留索の一端側を海底に配置し、係留索の他端側を浮体の係留索ガイドに掛け渡して引上げ機に接続する。次に、引上げ機により係留索を引き上げて当該係留索の張力を調整する。張力調整後、引上げ機を浮体本体のデッキ上から取り外す。
このように浮体を洋上に係留することで、クレーン船などの汎用の作業船よりも海象の影響が小さい浮体本体のデッキに装着された引上げ機によって係留索を引き上げることができる。このため、汎用の作業船を用いて係留索を引き上げる場合と比べて、海象条件の制約を緩和でき、海象条件を満たさない日数を減らすことができて、係留作業の長期化を抑えることができる。
また、船体姿勢を制御する特殊な作業船を用いる必要がないので、この特殊な作業船の手配に時間や手間を要することがなく、また、特殊な作業船の利用によってコストが増すことを抑制できる。
さらに、係留索を引き上げて張力を調整した後、動力機械である引上げ機を浮体本体のデッキから取り外すことで、洋上における引上げ機の点検、メンテナンス等の手間を省くことができる。
また、引上げ機による係留索の引上げ後に当該係留索を係留索ストッパーによって簡単に浮体に固定でき、かつ、係留索ストッパーによって係留索を浮体に固定することで、係留索と引上げ機との接続を簡単に解除できる。このため、引上げ機の取外し作業を容易にできる。
【0010】
上記の浮体では、前記係留索ガイドには、前記係留索のうち、前記引上げ機によって引き上げ可能であり、前記係留索ストッパーによって前記浮体本体に固定可能であり、かつ、海底に配置される一端から前記浮体本体に接続される他端までの長さを調整可能となるように、延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられた引上げ索が掛けられ、前記浮体本体には、前記係留索のうち、海底に配置される一端から前記浮体本体に接続される他端までの長さが固定の固定索が固定されていてもよい。
【0011】
このような構成によれば、例えば、次の手順によって浮体を洋上に係留できる。先ず、海底に配置する係留索のうち固定索の端部は作業船が移動することなく引き上げられるよう予め端部を引き寄せて配置する。また、ドック内や岸壁など海象条件の影響を受けない場所で予め浮体本体に固定索の他端側を取り付けておく。その際、固定索は、張力導入後の最終長さに調整し浮体本体に取り付けておく。洋上において浮体本体を固定索端部を引き寄せた場所に曳航し、作業船上に海底から端部を引き上げ、浮体本体に取り付けた固定索の端部も作業船上に取り込み、作業船上で両者を接続する。その後、浮体を係留計画位置まで移動し、次に、引上げ索の端部を作業船上に取り込み、海底に設置した引上げ索の端部も作業船上に引き上げ、作業船上で接続する。接続部を海中に戻しデッキに設置した引上げ機で所定の長さまで引上げ索を引き上げる。ここで引上げ索にはその延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられている。このため、浮体本体を係留計画位置に配置した際の引上げ索の初期張力を予め設定しておき、この初期張力に応じた目印の位置で、引上げ索を係留索ストッパーによって浮体本体に固定することができる。この結果、引上げ索の張力を計測しつつ初期張力が設定張力となるように引上げ機で引上げ索を引き上げる必要が無くなる。浮体は潮流、風、波によって移動するため係留計画位置に浮体を配置し続けることは難しい。引上げ索の設定張力は、浮体が係留計画位置に係留されている場合の数値である。このため、浮体が係留計画位置とは異なる位置に配置された状態で、設定張力通りに引上げ索に張力を付与したとしても、その後に浮体を係留計画位置に移動させた場合には引上げ索には設定張力とは異なる張力が付与された状態となる。本態様ではこのように係留索の張力管理ではなく係留索の長さ管理(リンク数管理)によって、外乱の影響を受けることなく、係留計画位置で設定張力を係留索に付与した状態で浮体を係留することが可能となる。
【0012】
上記の浮体では、前記浮体本体は、前記洋上構造物が設置される設置コラムと、前記設置コラムの左舷に配置される左舷コラムと、前記設置コラムの右舷に配置される右舷コラムと、前記左舷コラム、前記右舷コラムおよび前記設置コラムを接続するロワーハルとを備え、前記係留索ガイドは、前記左舷コラムおよび前記右舷コラムのみにそれぞれ設置され、前記引上げ機は、前記左舷コラムのデッキおよび前記右舷コラムのデッキのみにそれぞれ取外し可能に装着され、前記設置コラムには、前記係留索のうち、海底に配置される一端から前記設置コラムに接続される他端までの長さが固定の固定索が接続され、前記左舷コラムおよび前記右舷コラムには、前記係留索のうち、前記引上げ機によって引き上げ可能であり、前記係留索ストッパーによって前記左舷コラムおよび前記右舷コラムに固定可能であり、かつ、海底に配置される一端から前記設置コラムに接続される他端までの長さを調整可能となるように、延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられた引上げ索が接続されていてもよい。
【0013】
このような構成によれば、例えば、次の手順によって浮体を洋上に係留できる。先ず、海底に配置する係留索のうち設置コラムに引き上げる係留索の端部は作業船が移動することなく引き上げられるよう予め端部を引き寄せて配置する。また、ドック内や岸壁など海象条件の影響を受けない場所で予め設置コラムに係留索の他端側を取り付けておく。その際、設置コラムに取り付ける係留索である固定索は、張力導入後の最終長さに調整し設置コラムに取り付けておく。洋上において浮体本体を係留索端部を引き寄せた場所に曳航し、作業船上に海底から端部を引き上げ、設置コラムに取り付けた係留索の端部も作業船上に取り込み、作業船上で両者を接続する。その後、浮体を係留計画位置まで移動し、次に、設置コラムと同様に左舷コラムに取り付けた係留索の端部を作業船上に取り込み、海底に設置した係留索の端部も作業船上に引き上げ、作業船上で接続する。接続部を海中に戻しコラム上に設置した引上げ機で所定の長さまで係留索(引上げ索)を引き上げる。ここで左舷コラムおよび右舷コラムに取り付けた係留索(引上げ索)にはその延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられている。このため、浮体本体を係留計画位置に配置した際の引上げ索の初期張力を予め設定しておき、この初期張力に応じた目印の位置で、引上げ索を係留索ストッパーによって左舷コラムに固定することができる。この結果、引上げ索の張力を計測しつつ初期張力が設定張力となるように引上げ機で引上げ索を引き上げる必要が無くなる。浮体は潮流、風、波によって移動するため係留計画位置に浮体を配置し続けることは難しい。引上げ索の設定張力は、浮体が係留計画位置に係留されている場合の数値である。このため、浮体が係留計画位置とは異なる位置に配置された状態で、設定張力通りに引上げ索に張力を付与したとしても、その後に浮体を係留計画位置に移動させた場合には引上げ索には設定張力とは異なる張力が付与された状態となる。本態様ではこのように係留索の張力管理ではなく係留索の長さ管理(リンク数管理)によって、外乱の影響を受けることなく、係留計画位置で設定張力を係留索に付与した状態で浮体を係留することが可能となる。
【0014】
本発明の一態様に係る浮体係留装置は、洋上構造物が設置される浮体本体に設置される係留索ガイドと、前記係留索ガイドに掛けられる係留索と、前記係留索に接続される引上げ機と、を備え、前記引上げ機は、前記浮体本体のデッキに取外し可能に装着され、前記浮体本体に設置可能な係留索ストッパーをさらに備えている。
【0015】
本発明の浮体係留装置によれば、浮体本体に係留索ガイドを設置し、引上げ機を浮体本体のデッキに装着することによって、係留索を係留索ガイドに掛けて引き上げることができる。このため、クレーン船などの汎用の作業船によって係留索を引き上げる場合よりも、海象条件を緩和でき、海象条件を満たさない日数を減らすことができて、係留作業の長期化を抑えることができる。
また、船体姿勢を制御する特殊な作業船を用いる必要がないので、この特殊な作業船の手配に時間や手間を要することがなく、また、特殊な作業船の利用によってコストが増すことを抑制できる。
さらに、係留索を引き上げて張力を調整した後、動力機械である引上げ機を浮体本体のデッキから取り外すことで、洋上における引上げ機の点検、メンテナンス等の手間を省くことができる。
【0016】
また、引上げ機による係留索の引上げ後に当該係留索を係留索ストッパーによって簡単に浮体に固定でき、かつ、係留索ストッパーによって係留索を浮体に固定することで、係留索と引上げ機との接続を簡単に解除できる。このため、引上げ機の取外し作業を容易にできる。
【0017】
本発明の一態様に係る浮体係留方法は、上記の浮体を、洋上に係留する浮体係留方法であって、前記固定索を前記浮体本体に接続して固定する固定索接続工程と、前記固定索接続工程の後に、前記浮体本体を曳船によって牽引して、前記浮体本体を係留計画位置に配置する浮体配置工程と、前記浮体配置工程の後に、前記係留索ガイドに前記引上げ索を掛け渡して前記引上げ機に接続し、該引上げ機によって前記引上げ索を引上げる引き上げ工程と、前記引き上げ工程の後に、前記浮体本体を係留計画位置に配置した際の前記引上げ索の設定張力に応じた前記目印の位置で、前記引上げ索を前記係留索ストッパーによって前記浮体本体に固定するストッパー固定工程と、を含んでいる。
【0018】
本発明の浮体係留方法によれば、クレーン船などの汎用の作業船よりも海象の影響が小さい浮体本体のデッキに装着された引上げ機によって引上げ索を引き上げることができる。このため、汎用の作業船を用いて引上げ索を引き上げる場合と比べて、海象条件の制約を緩和でき、海象条件を満たさない日数を減らすことができて、係留作業の長期化を抑えることができる。
また、船体姿勢を制御する特殊な作業船を用いる必要がないので、この特殊な作業船の手配に時間や手間を要することがなく、また、特殊な作業船の利用によってコストが増すことを抑制できる。
さらに、引上げ索を引き上げて張力を調整した後、動力機械である引上げ機を浮体本体のデッキから取り外すことで、洋上における引上げ機の点検、メンテナンス等の手間を省くことができる。
さらに引上げ索にはその延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられている。よって本態様では、引上げ索の張力管理ではなく引上げ索の長さ管理(リンク数管理)によって、外乱の影響を受けることなく、係留計画位置で設定張力を引上げ索に付与した状態で浮体を係留することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特殊な作業船が不要であり、浮体の係留作業の長期化を抑えることができる浮体、浮体係留装置および浮体係留方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本実施形態の構成]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1,
図2において、本実施形態に係る浮体1は、洋上構造物である風力発電装置2が設置され、洋上に浮上した状態で、係留索であるチェーン3によって係留されるものである。
【0022】
浮体1は、浮体本体10と、チェーンシーブ20(係留索ガイド)と、チェーンストッパー30(係留索ストッパー)と、引上げ機40と、方向変更ウインチ50とを備える。
【0023】
浮体本体10は、ポートサイドコラム11(左舷コラム)と、スターボードサイドコラム12(右舷コラム)と、センターコラム13と、ロワーハル14(14A,14B)とを備える。ポートサイドコラム11は、ロワーハル14Aによってセンターコラム13に接続され、センターコラム13の左舷に配置される。スターボードサイドコラム12は、ロワーハル14Bによってセンターコラム13に接続され、センターコラム13の右舷に配置される。
この浮体本体10は、平面視略V字状に形成され、海水の内部への出し入れによって浮力調整可能に構成される。
【0024】
ポートサイドコラム11、スターボードサイドコラム12およびセンターコラム13は、デッキ111,121,131(コラムデッキ)をそれぞれ備える。
ポートサイドコラム11のデッキ111とスターボードサイドコラム12のデッキ121には、チェーンシーブ20と、引上げ機40と、方向変更ウインチ50とが設置される。
また、ポートサイドコラム11の側面とスターボードサイドコラム12の側面には、サイドデッキ15がそれぞれ設けられる。各サイドデッキ15には、チェーン3を挿通可能な三つの孔16がそれぞれ形成される。各孔16は、チェーンストッパー30を上方から嵌め込み可能に構成される。なお、各孔16の下方には、フェアリーダー17が設けられる。
なお、本実施形態では、前述したチェーンストッパー30は、サイドデッキ15に載せられているが、これに限られず、例えばデッキ111,121に載せられていてもよい。
【0025】
センターコラム13は、デッキ131に風力発電装置2が設置される設置コラムとして構成される。
センターコラム13の側面にはサイドデッキ15が設けられており、サイドデッキ15には、チェーン3を挿通可能な二つの孔16が形成される。各孔16には、チェーンストッパー30を嵌め込み可能に構成される。なお、各孔16の下方には、フェアリーダー17が設けられる。
【0026】
チェーンシーブ20(20A,20B,20C)は、ポートサイドコラム11のデッキ111に三つ設置されており、各々のチェーン引上げ方向が交差する位置に配置される。本実施形態では、各チェーンシーブ20、各孔16および各フェアリーダー17は、鉛直線上に沿って配置される。
【0027】
チェーンストッパー30は、チェーン3を挟み込み可能な半割体301,302によって構成される。半割体301,302は、チェーン3を挟み込んだ状態で孔16に上方から嵌め込まれることによって、チェーン3の下方への繰り出しを停止する。
【0028】
引上げ機40は、ポートサイドコラム11のデッキ111に設置される。引上げ機40は、チェーンシーブ20A,20B,20Cのチェーン引上げ方向がそれぞれ交差する一つの交差点上に配置される。従って、引上げ機40の周囲にはチェーンシーブ20A,20B,20Cが配置される。
【0029】
引上げ機40は、チェーンウインチ41(引上げ機本体)と、回転架台42とを備える。回転架台42は、チェーンウインチ41とデッキ111との間に配置される。デッキ111にボルト止めなどによって固定される。回転架台42は、ボルト抜き出しなどによってデッキ111から取り外し可能である。
【0030】
チェーンウインチ41は、回転架台42上に配置されるので、デッキ111に対して鉛直軸を中心として回転方向Rに回転可能である。ここで、チェーンウインチ41自体をデッキ111にボルト止めなどによって固定することで、引上げ機40によるチェーン引上げ方向を固定可能である。また、前記ボルト抜き出しなどによってチェーン引上げ方向の固定を解除可能である。
【0031】
方向変更ウインチ50は、
図2に示すように、ポートサイドコラム11のデッキ111に設置される。
方向変更ウインチ50は、
図3に示すように、引上げ機40にワイヤー51を掛け回し、このワイヤー51を巻き取ることによって引上げ機40を回転方向Rに回転可能に構成される。これにより、引上げ機40のチェーン引上げ方向をチェーンシーブ20A,20B,20Cのいずれかのチェーン引上げ方向を向くように、引上げ機40のチェーン引上げ方向を変更する。
また、方向変更ウインチ50は、ワイヤー51を逆向きに掛け回し、方向変更ウインチ50によってワイヤー51を巻き取ることによって引上げ機40を回転方向Rにおいて前記回転とは逆向きに回転可能に構成される。
なお、方向変更ウインチ50は、デッキ111にボルト止めなどによって固定されており、ボルト抜き出しなどによってデッキ111への固定を解除可能である。
【0032】
なお、チェーンシーブ20(20A,20B,20C)、チェーンストッパー30、引上げ機40および方向変更ウインチ50は、スターボードサイドコラム12にも同様に設置されるので詳細な説明を省略する。
【0033】
[浮体係留方法]
以下、本実施形態に係る浮体1の浮体係留方法について説明する。
本浮体係留方法は、アンカーチェーン敷設工程と、浮体準備工程と、浮体仮係留工程と、浮体係留工程と、機材撤去工程とを有する。
【0034】
アンカーチェーン敷設工程は、次の通りである。
浮体1を係留する現場海域において、作業船によって本係留用の所定数のアンカーを所定の海底位置に配置する。各アンカーにはチェーン3の一端を接続しておき、他端は海面に浮かぶフローターにワイヤーを介して接続する。また、
図5に示す仮係留索4(4A,4B)も仮係留用のアンカーに一端を接続し、他端をフローターにワイヤーを介して接続する。
本実施形態では、本係留用のアンカーは8個、仮係留用のアンカーは2個である。本係留用のチェーン3には、センターコラム13に接続されるための第一チェーン(固定索)31,32と、ポートサイドコラム11に接続されるための第二チェーン(引上げ索)33,34,35と、スターボードサイドコラム12に接続されるための第三チェーン(引上げ索)36,37,38とがある(
図9参照)。
相対してアンカーチェーンの端部2本を作業船上に引き上げ、船上に設置したチェーンプーラー等チェーンに張力を生じさせる機器を用いて設計上の最大荷重で引き、満足することを確認する。このアンカー引張試験により最終アンカー位置(座標)が決まるので、必要張力を発揮するためにチェーンストッパー30に止めなければならないチェーン長を算出することが可能となる。
センターコラム13に接続される二本のチェーン3の端部は移動することなく作業船7で引き上げられるよう所定の位置に引き寄せておく。
【0035】
ここで第一チェーン31,32は、海底に配置されるアンカー側の一端から、センターコラム13に接続される他端までの長さが固定のチェーンである。即ち、アンカー引張試験により決まった最終アンカー位置と、事前に設定した後述する浮体1を係留する係留計画位置Xとから、第一チェーン31,32のチェーン長が一定の値に設定される。
また第二チェーン33,34,35、および第三チェーン36,37,38には、海底に配置されるアンカー側の一端からポートサイドコラム11、およびスターボードサイドコラム12に接続される他端までの長さを調整可能となるように、延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられている。
なお、アンカーチェーン敷設工程は、浮体仮係留工程までに完了していればよい。
【0036】
浮体準備工程は、次の通りである。
先ず、
図4に示す例では、浮体本体10のスターボードサイドコラム12およびセンターコラム13を岸壁8に沿って配置する。この浮体本体10のポートサイドコラム11、スターボードサイドコラム12には、チェーンシーブ20およびチェーンストッパー30が予め設置されている。またセンターコラム13にはチェーンストッパー30が予め設置されている。次に、プレリグチェーン3A(
図2参照)、風力発電装置2、引上げ機40および方向変更ウインチ50を、浮体本体10に取り付ける。各チェーンウインチ41は、そのチェーン引上げ方向を各チェーンシーブ20Bのチェーン引上げ方向に向けて配置し、デッキ111,121にボルトなどによって固定する。この作業はドック内で実施することも可能であり、場所は特定しない。
【0037】
プレリグチェーン3Aは、各チェーンシーブ20に掛けられ、各孔16に挿通され、各フェアリーダー17に掛けられる。センターコラム13に取り付けられるプレリグチェーン3Aは、予め張力導入後の最終長さに調整し、チェーンストッパー30によって当該センターコラム13に係止した状態とされる。また、ポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12に設置されたチェーンシーブ20Bに掛けられるプレリグチェーン3Aのうち現場海域で最初に引き上げるチェーンは、各引上げ機40に接続し現場海域ですぐに引き上げられる状態とされる。
風力発電装置2は、センターコラム13のデッキ131上に設置される。
引上げ機40および方向変更ウインチ50は、ポートサイドコラム11のデッキ111およびスターボードサイドコラム12のデッキ121にそれぞれ設置される。具体的には、引上げ機40および方向変更ウインチ50は、クレーン船などの作業船7によって持ち上げられ、デッキ111,121に降ろされて配置され、前述したようにボルト止め等によってデッキ111,121に固定される。
なお、デッキ111,121には、発電機なども設置される。
【0038】
浮体仮係留工程は、次の通りである。
浮体準備工程において準備した浮体1を、曳船によって、アンカーやチェーン3、仮係留索4が敷設された現場海域まで曳航し、
図5に示すように、浮体1を係留する係留計画位置Xから所定距離を離間した初期位置に配置する。
次に、仮係留索4Aを作業船によって引き上げ、スターボードサイドコラム12に接続する。また、仮係留索4Bを作業船によって引き上げ、ポートサイドコラム11に接続する。かかる仮係留索4A,4Bは、
図5に示すように交差して張られる。そして、浮体1は、ロワーハル14A,14Bが作業船7に連結索を介して接続され、当該作業船7によって仮係留索4A,4Bから離間方向に向かう引張力が加えられる。なお、本実施形態では、作業船7にはクレーン船を採用している。
このようにして、浮体1は初期位置に仮係留される。
【0039】
浮体係留工程は、次の通りである。
浮体係留工程として、
図6に示すように固定索接続工程と、浮体配置工程と、引き上げ工程と、ストッパー固定工程とが実行される。
先ず、予め引き寄せておいた第一チェーン31,32を浮体本体10のセンターコラム13に張設する(固定索接続工程)。具体的には、作業船7を連結索によって浮体本体10に連結する前に、当該作業船7によって第一チェーン31,32を海底から引き上げておき、
図7に示すように、第一チェーン31,32をセンターコラム13に浮体準備工程において取り付けられた各プレリグチェーン3Aも作業船7に取り込み、作業船7上で両者を接続し、接続したチェーンを海中に戻す。続いて、
図8に示すように、作業船7と浮体本体10とを繋ぐ連結索を浮体本体10から外し、曳船によって浮体本体10を係留計画位置Xまで牽引する(浮体配置工程)。この牽引によって、第一チェーン31,32は引っ張られて正規の方向に向けて張設される。
第一チェーン31,32の長さは所定の張力を導入した時のカテナリー計算により張力導入後の長さに調整しておく。また、仮係留索4A,4Bは、曳船によって浮体本体10を牽引する前に浮体本体10から取り外す。
なお、後述する各チェーン33〜38の引上げ、接続手順は、第一チェーン31,32の引上げ、接続手順と同様であるので説明を省略する。
【0040】
次に、第二チェーン34をポートサイドコラム11に張設する。具体的には、第二チェーン34を
図9に実線で示す作業船7によって海底から引き上げ、作業船7に取り込まれたポートサイドコラム11に取り付けられたプレリグチェーン3A端部と接続する。ここで、第二チェーン34が接続されるプレリグチェーン3Aは、チェーンシーブ20Bに掛け渡されて引上げ機40に接続した状態のものである。
第二チェーン34のプレリグチェーン3Aへの接続後、接続部を海中に戻した後、引上げ機40によって第二チェーン34を巻き上げる(引き上げ工程)。これにより、第二チェーン34は引き上げられて所定のカテナリー曲線を形成し、チェーン張力が調整される。チェーン張力の調整後、第二チェーン34はチェーンストッパー30によってポートサイドコラム11に係止される(ストッパー固定工程)。このとき、第二チェーン34には浮体本体10を係留計画位置Xに配置した際の設定張力応じた初期張力が付与されるように、複数の目印のうちの一つが選択され、この目印の位置でチェーンストッパー30によってポートサイドコラム11に係止されて固定される。引き上げた余剰チェーンはチェーンストッパー30の上部位置で切断後作業船7上に回収する。
【0041】
次に、第三チェーン37をスターボードサイドコラム12に張設する。具体的には、第三チェーン37を
図9に点線で示す作業船7によって海底から引き上げ、作業船7に取り込まれたスターボードサイドコラム12に取り付けられたプレリグチェーン3A端部と接続する。ここで、第三チェーン37が接続されるプレリグチェーン3Aは、チェーンシーブ20Bに掛け渡されて引上げ機40に接続した状態のものである。
第三チェーン37のプレリグチェーン3Aへの接続後、接続部を海中に戻した後、
図10に示すように、引上げ機40によって第三チェーン37を巻き上げる(引き上げ工程)。これにより、第三チェーン37は引き上げられて所定のカテナリー曲線を形成し、チェーン張力が調整される。チェーン張力の調整後、第三チェーン37はチェーンストッパー30によってスターボードサイドコラム12に係止される(ストッパー固定工程)。このとき、第三チェーン37には浮体本体10を係留計画位置Xに配置した際の設定張力応じた初期張力が付与されるように、複数の目印のうちの一つが選択され、この目印の位置でチェーンストッパー30によってスターボードサイドコラム12に係止されて固定される。引き上げた余剰チェーンはチェーンストッパー30上部位置で切断後作業船7上に回収する。回収途中、切断したチェーン3端部が引上げ機40のドラム手前に来たところで当該チェーン3を止め、チェーン3が作業船7に向かう側のチェーン3も適切な位置で切断することにより引上げ機40内にチェーン3が残った状態とする。なお第二チェーン37の接続作業と第三チェーン37の接続作業は順不同である。
【0042】
第一チェーン31,32、第二チェーン34および第三チェーン37の張設によって、浮体本体10は四方に係留された状態となる。この状態からさらに、
図11に示すように第三チェーン36,38をスターボードサイドコラム12に追加張設し、かつ、
図12に示すように第二チェーン33,35をポートサイドコラム11に追加張設する。
【0043】
第三チェーン36のスターボードサイドコラム12への張設手順は次の通りである。先ず、チェーンウインチ41とデッキ121とのボルトなどによる固定を解除し、チェーンウインチ41を回転可能状態とする。続いて、方向変更ウインチ50によって前述した通りに引上げ機40を回転方向Rに回転し、引上げ機40のチェーン引上げ方向を、チェーンシーブ20Bのチェーン引上げ方向からチェーンシーブ20Cのチェーン引上げ方向に変更する。そして、チェーンウインチ41をデッキ121に再び固定し、チェーンシーブ20Cに掛け渡されたプレリグチェーン3Aを引上げ機40内に残したチェーンと接続する。
【0044】
次に、第三チェーン36を作業船7によって海底から引き上げ、スターボードサイドコラム12のチェーンシーブ20Cに掛け渡されたプレリグチェーン3Aの端部も作業船7上に取り込み、作業船7上で両者を接続する。
第三チェーン36のプレリグチェーン3Aへの接続後、接続部を海中に戻し、引上げ機40によって第三チェーン36を巻き上げる。これにより、第三チェーン36は引き上げられて所定のカテナリー曲線を形成し、チェーン張力が調整される。チェーン張力の調整後、第三チェーン36はチェーンストッパー30によってスターボードサイドコラム12に係止される。引き上げた余剰チェーンはチェーンストッパー30の上部位置で切断後作業船7上に回収する。回収途中、切断したチェーン3端部が引上げ機40のドラム手前に来たところで当該チェーン3を止め、チェーン3が作業船7に向かう側のチェーン3も適切な位置で切断することにより引上げ機40内にチェーン3が残った状態とする。
【0045】
次に、第三チェーン38をスターボードサイドコラム12へ張設する。具体的には、先ず、チェーンウインチ41とデッキ121との固定を解除し、チェーンウインチ41を回転可能状態とする。続いて、方向変更ウインチ50によって前述した通りに引上げ機40を回転方向Rにおいて逆回転し、引上げ機40のチェーン引上げ方向を、チェーンシーブ20Cのチェーン引上げ方向からチェーンシーブ20Aのチェーン引上げ方向に変更する。そして、チェーンウインチ41をデッキ121に再び固定し、チェーンシーブ20Aに掛け渡されたプレリグチェーン3Aを引上げ機40内に残したチェーンと接続する。
【0046】
次に、第三チェーン38を作業船7によって海底から引き上げ、スターボードサイドコラム12のチェーンシーブ20Aに掛け渡されたプレリグチェーン3Aの端部も作業船7上に取り込み、作業船7上を接続する。
第三チェーン38のプレリグチェーン3Aへの接続後、接続部を海中に戻し、引上げ機40によって第三チェーン38を巻き上げる。これにより、第三チェーン38は引き上げられて所定のカテナリー曲線を形成し、チェーン張力が調整される。チェーン張力の調整後、第三チェーン38はチェーンストッパー30によってスターボードサイドコラム12に係止される。引き上げた余剰チェーンはチェーンストッパー30の上部位置で切断後作業船7上に全量回収する。
【0047】
本実施形態では、第三チェーン36,38の張設後に、第二チェーン33,35を張設する。
第二チェーン33のポートサイドコラム11への張設手順は次の通りである。先ず、チェーンウインチ41とデッキ111とのボルトなどによる固定を解除し、チェーンウインチ41を回転可能状態とする。続いて、方向変更ウインチ50によって前述した通りに引上げ機40を回転方向Rに回転し、引上げ機40のチェーン引上げ方向を、チェーンシーブ20Bのチェーン引上げ方向からチェーンシーブ20Aのチェーン引上げ方向に変更する。そして、チェーンウインチ41をデッキ111に再び固定し、チェーンシーブ20Aに掛け渡されたプレリグチェーン3Aを引上げ機40内に残したチェーンと接続する。
【0048】
次に、第二チェーン33を作業船7によって海底から引き上げ、ポートサイドコラム11のチェーンシーブ20Aに掛け渡されたプレリグチェーン3Aの端部も作業船7上に取り込み、作業船7上で両者を接続する。
第二チェーン33のプレリグチェーン3Aへの接続後、接続部を海中に戻し、引上げ機40によって第二チェーン33を巻き上げる。これにより、第二チェーン33は引き上げられて所定のカテナリー曲線を形成し、チェーン張力が形成される。チェーン張力の調整後、第二チェーン33はチェーンストッパー30によってポートサイドコラム11に係止される。引き上げた余剰チェーンはチェーンストッパー30の上部位置で切断後作業船7上に回収する。回収途中、切断したチェーン3端部が引上げ機40のドラム手前に来たところで当該チェーン3を止め、チェーン3が作業船7に向かう側のチェーン3も適切な位置で切断することにより引上げ機40内にチェーン3が残った状態とする。
【0049】
次に、第二チェーン35をポートサイドコラム11へ張設する。具体的には、先ず、チェーンウインチ41とデッキ111との固定を解除し、チェーンウインチ41を回転可能状態とする。続いて、方向変更ウインチ50によって前述した通りに引上げ機40を回転方向Rにおいて逆回転し、引上げ機40のチェーン引上げ方向を、チェーンシーブ20Aのチェーン引上げ方向からチェーンシーブ20Cのチェーン引上げ方向に変更する。そして、チェーンウインチ41をデッキ111に再び固定し、チェーンシーブ20Cに掛け渡されたプレリグチェーン3Aを引上げ機40内に残したチェーンと接続する。
【0050】
次に、第二チェーン35を作業船7によって海底から引き上げ、ポートサイドコラム11のチェーンシーブ20Cに掛け渡されたプレリグチェーン3Aの端部も作業船7上に取り込み、作業船7上で両者を接続する。
第二チェーン35のプレリグチェーン3Aへの接続後、接続部を海中に戻し、引上げ機40によって第二チェーン35を巻き上げる。これにより、第二チェーン35は引き上げられて所定のカテナリー曲線を形成し、チェーン張力が調整される。チェーン張力の調整後、第二チェーン35はチェーンストッパー30によってポートサイドコラム11に係止される。引き上げた余剰チェーンはチェーンストッパー30の上部位置で切断後作業船7上に全量回収する。
【0051】
ここで、従来のチェーン引上げ作業は、洋上風力を行う外洋(港外)において、浮体本体10よりも海象の影響を受けて揺れやすい作業船7によって行われる。このため、作業船7によるチェーン引上げ作業が可能な気象・海象条件は、例えば、有義波高1.0m以下、平均風速10m/s以下に制約される。
これに対し、前述した第二チェーン33〜35および第三チェーン36〜38の引上げ作業は、作業船7よりも海象の影響を受けにくく揺れにくい浮体本体10に設置された引上げ機40によって行われる。このため、チェーン引上げ作業が可能な海象条件は、例えば、有義波高2.0m以下に緩和できる。
【0052】
機材撤去工程は、次の通りである。
本実施形態では、先ず、ポートサイドコラム11のデッキ111上の機材を撤去し、次に、スターボードサイドコラム12のデッキ121上の機材を撤去する。
デッキ111上の機材の撤去は次の通りである。引上げ機40をボルト抜き出しなどによってデッキ111への固定を解除する。続いて、
図13に示すように、作業船7によって引上げ機40を持ち上げ、デッキ111上から撤去する。
また、方向変更ウインチ50も、デッキ111への固定を解除し、作業船7によって持ち上げてデッキ111上から撤去する。
なお、図示しないが、デッキ111上に設置された発電機なども撤去する。
【0053】
デッキ121上の引上げ機40、方向変更ウインチ50、発電機などの撤去は、デッキ111上の引上げ機40、方向変更ウインチ50、発電機などの撤去と同様に行うので詳細な説明を省略する。
以上のようにして、浮体1を洋上に係留する。
【0054】
[本実施形態の効果]
(1)本実施形態では、浮体1は、風力発電装置2が設置される浮体本体10と、浮体本体10に設置されるチェーンシーブ20と、チェーンシーブ20に掛けられるチェーン3に接続される引上げ機40とを備え、引上げ機40は、浮体本体10のデッキ111,121に取外し可能に装着されることを特徴とする。
上記構成を有するため、先ず、チェーン3の一端側を海底に配置し、チェーン3の他端側をドック内や岸壁など海象条件の影響を受けない場所で予め浮体1のチェーンシーブ20に掛け渡して引上げ機40に接続し、引上げ機40によりチェーン3を引き上げて当該チェーン3の張力を調整し、チェーン張力の調整後、引上げ機40を浮体本体10のデッキ111,121上から取り外すことで、浮体1を洋上に係留できる。
このように浮体1を洋上に係留することで、汎用の作業船7よりも海象の影響が小さい浮体本体10のデッキ111,121に装着された引上げ機40によってチェーン3を引き上げることができる。このため、汎用の作業船7を用いてチェーン3を引き上げる場合と比べて、海象条件の制約を緩和でき、海象条件を満たさない日数を減らすことができて、係留作業の長期化を抑えることができる。
また、船体姿勢を制御する特殊な作業船を用いる必要がないので、特殊な作業船の手配に時間や手間を要することがなく、また、特殊な作業船の利用によってコストが増すことを抑制できる。
さらに、チェーン3を引き上げて張力を調整した後、動力機械である引上げ機40を浮体本体10のデッキ111,121から取り外すことで、洋上における引上げ機40の点検、メンテナンス等の手間を省くことができる。
さらに、本実施形態では、以下の各効果を発揮できる。
【0055】
(2)引上げ機40は、チェーンウインチ41と、回転架台42とを備え、チェーンウインチ41と浮体本体10のデッキ111(デッキ121)との間には、回転架台42が設置され、チェーンシーブ20は、引上げ機40の周囲に複数配置される。このため、回転架台42によってチェーンウインチ41を回転することで引上げ機40によるチェーン3の引上げ向きを変更できる。このため、引上げ機40の周囲に配置された複数のチェーンシーブ20(20A,20B,20C)に掛けられるチェーン3をそれぞれ引き上げることができる。このように複数のチェーン3の引き上げに引上げ機40を共用でき、浮体本体10のデッキスペースが狭小であっても複数のチェーン3を引上げ可能な浮体1を構成できる。
【0056】
(3)浮体1は、浮体本体10に設置されるチェーンストッパー30を備える。このため、引上げ機40によるチェーン3の引上げ後に当該チェーン3をチェーンストッパー30によって簡単に浮体本体10に固定でき、かつ、チェーンストッパー30によってチェーン3を浮体本体10に固定することで、チェーン3と引上げ機40との接続を簡単に解除できる。このため、引上げ機40の取外し作業を容易にできる。
【0057】
(4)浮体本体10は、風力発電装置2が設置されるセンターコラム13と、センターコラム13の左舷に配置されるポートサイドコラム11と、センターコラム13の右舷に配置されるスターボードサイドコラム12と、ポートサイドコラム11、スターボードサイドコラム12およびセンターコラム13を接続するロワーハル14(14A,14B)とを備え、チェーンシーブ20は、ポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12にそれぞれ設置され、引上げ機40は、ポートサイドコラム11のデッキ111およびスターボードサイドコラム12のデッキ121にそれぞれ取外し可能に装着される。このため、先ず、ドック内や岸壁など海象条件の影響を受けない場所で予めセンターコラム13に緊張後のチェーン長さに調整されたチェーン3の他端側を取り付け、予め海底に設置しておいたチェーン3の端部と洋上において接続する。次に、洋上において浮体本体10を係留計画位置Xまで移動し、次に、ポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12のチェーンシーブ20にチェーン3の他端側を掛けて各引上げ機40に接続し、各引上げ機40によってチェーン3を引き上げることで張力を調整し、最後に、ポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12にチェーン3をそれぞれ固定し、各引上げ機40をポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12のデッキ111,121からそれぞれ取り外すことで、浮体1を洋上に係留できる。
このように、センターコラム13に引上げ機40を装着することなく浮体1を係留でき、センターコラム13に引上げ機40を装着する場合と比べて、引上げ機40を取り外す手間を軽減でき、係留作業期間を短縮できる。
【0058】
(5)チェーンシーブ20は、ポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12のみにそれぞれ設置され、引上げ機40は、ポートサイドコラム11のデッキ111およびスターボードサイドコラム12のデッキ121のみにそれぞれ取外し可能に装着され、センターコラム13には、チェーン3のうち、海底に配置される一端から、センターコラム13に接続される他端までの長さが固定の第一チェーン31,32が接続され、ポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12には、チェーン3のうち、引上げ機40によって引き上げ可能であり、チェーンストッパー30によってポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12に固定可能であり、かつ、海底に配置される一端からセンターコラム13に接続される他端までの長さを調整可能となるように、延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられた第二チェーン33,34,35と、第三チェーン36,37,38とが接続されている。
このように、ポートサイドコラム11およびスターボードサイドコラム12に取り付けた第二チェーン33,34,35と、第三チェーン36,37,38とにはその延在方向に間隔を空けて複数の目印が設けられている。このため、浮体本体10を係留計画位置Xに配置した際の第二チェーン33,34,35および第三チェーン36,37,38の初期張力を予め設定しておき、この初期張力に応じた目印の位置で、第二チェーン33,34,35および第三チェーン36,37,38をチェーンストッパー30によって各コラム11,12に固定することができる。この結果、各チェーン33,34,35,36,37,38の張力を計測しつつ初期張力が設定張力となるように引上げ機40で各チェーン33,34,35,36,37,38を引き上げる必要が無くなる。浮体1は潮流、風、波によって移動するため係留計画位置Xに浮体1を配置し続けることは難しい。各チェーン33,34,35,36,37,38の設定張力は、浮体1が係留計画位置Xに係留されている場合の数値である。このため、浮体1が係留計画位置Xとは異なる位置に配置された状態で、設定張力通りに各チェーン33,34,35,36,37,38に張力を付与したとしても、その後に浮体1を係留計画位置Xに移動させた場合には各チェーン33,34,35,36,37,38には設定張力とは異なる張力が付与された状態となる。本実施形態ではこのように各チェーン33,34,35,36,37,38の張力管理ではなく、長さ管理(リンク数管理)によって、外乱の影響を受けることなく、係留計画位置Xで設定張力をチェーン3に付与した状態で浮体1を係留することが可能となる。
【0059】
(6)本実施形態では、風力発電装置2が設置される浮体本体10に設置可能なチェーンシーブ20と、チェーンシーブ20に掛けられるチェーン3と、チェーン3に接続される引上げ機40とを備え、引上げ機40は、浮体本体10のデッキ111(デッキ121)に装着および取外し可能に構成される浮体係留装置を構成できる。この浮体係留装置によれば、前述した浮体1と同様の作用効果を発揮できる。
【0060】
[変形例]
本発明は、以上の実施形態で説明した構成のものに限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形例は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態では、引上げ機40は、ポートサイドコラム11のデッキ111およびスターボードサイドコラム12のデッキ121にそれぞれ装着されるが、これに限定されず、デッキ111,121の一方だけに装着されてもよい。
また、センターコラム13のデッキ131には、引上げ機40の装着スペースは設けられてなく、引上げ機40は装着されていないが、例えば、デッキ131に前記装着スペースを設け、当該デッキ131に引上げ機40を装着してもよい。この場合、デッキ111,121の一方または双方に引上げ機40が装着されていなくてもよい。
【0061】
前記実施形態では、一つの引上げ機40の周囲に複数のチェーンシーブ20(20A,20B,20C)が配置されているが、これに限られず、例えば、一つのチェーンシーブ20だけが引上げ機40の周囲に配置されてもよい。この場合には、引上げ機40は、チェーン引上げ方向を変更する必要がないので、回転架台42の構成を省略してもよい。また、この場合、方向変更ウインチ50も省略してよい。
【0062】
前記実施形態では、チェーンシーブ20A,20B,20Cに対して一つの引上げ機40を共用しているが、これに限られず、例えば、チェーンシーブ20A,20B,20Cのそれぞれに対応した個数の小型引上げ機を設置してもよい。
【0063】
前記実施形態では、浮体本体10は、平面視略V字状に形成されるが、この形状に限定されず、平面視Y字状や平面視多角形状(平面視八角形状)などであってもよい。
具体的には
図14に示すように浮体本体10が平面視三角形状の場合、三角形の一つの頂点に第一チェーン31,32が固定され、残りの二つの頂点に第二チェーン33,34、及び第三チェーン36,37が固定される。また、
図15に示すように浮体本体10が平面視四角形状の場合、四角形の隣接する二つの頂点に第一チェーン31,32がそれぞれ固定され、残りの二つの頂点に第二チェーン33、第三チェーン36がそれぞれ固定される。
【0064】
前記実施形態では、チェーンストッパー30は、孔16に嵌め込み可能な半割体301,302によって構成されるが、チェーン3を係止できる形状であればよく、前記構成に限定されない。
【0065】
前記実施形態では、第一チェーン31,32の張設後、第二チェーン34,第三チェーン37、第三チェーン36、第三チェーン38、第二チェーン33、第二チェーン35の順に張設するが、これに限定されず、張設する順は、現場状況(風や波の向きなどの状況)や作業船7の移動等を考慮して適宜変更可能である。
例えば、第三チェーン37を第二チェーン34よりも先に張設してもよく、この場合には、第二チェーン33,35は、第三チェーン36,38よりも先に張設してもよい。
また、第二チェーン33〜35同士の張設順や第三チェーン36〜38同士の張設順も、現場状況や作業船7の移動等を考慮して適宜変更可能である。
【0066】
前記実施形態では、チェーンシーブ20が仮係留ガイドとされるが、これに限られず、例えば、滑りガイドを仮係留ガイドとしてしてもよい。
【0067】
前記実施形態では、仮係留索4によって浮体本体10を仮係留するが、これに限られず、曳船によって浮体本体10を初期位置に位置決めできる場合には、仮係留索を用いて仮係留しなくてもよい。
【0068】
前記実施形態では、作業船7にクレーン船を採用しているが、これに限られず、クレーンを備えず、チェーン3を引き上げるウインチなどを備える作業船であってもよい。この場合、機材撤去工程では、前記作業船とは別個に、引上げ機40を持ち上げて撤去するためにクレーン船を利用する。
【0069】
前記実施形態では、浮体1には、風力発電装置2が洋上構造物として設置されるが、これに限定されず、いったん係留した後の係留位置の変更が必要とされない洋上構造物であればよく、例えば、風力発電装置2にケーブルなどによって接続されるサブステーションが設置されてもよい。