【解決手段】炭素原料と結合材とを含有する成形燃料であって、前記炭素原料は炭素の含有率が乾燥基準で60質量%以上であり、前記結合材は反応前の状態で、酸化カルシウムを主成分とし、平均粒子径が15μm以下であり、粉化率が30%以下であることを特徴とする成形燃料である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.成形燃料
本発明に係る成形燃料は、炭素の含有率が乾燥基準で60質量%以上の炭素原料と、反応前の状態で、酸化カルシウムを主成分として平均粒子径が15μm以下である結合材(バインダー)とを含有する。本明細書において「乾燥基準」とは、含水率が1%未満の成形燃料を基準とするものである。
【0014】
本発明に係る成形燃料において、炭素の含有率が乾燥基準で60質量%以上の炭素原料としては、石炭コークス粉、無煙炭の粉末、一般炭の粉末、すす、及びコークスダスト等の粉状燃焼物が挙げられる。石炭コークス粉単独で、炭素原料として用いることができる。石炭コークス粉は、0〜30%程度のファインスラグ、又は0〜25%程度のPCカーボンと組み合わせて混合炭素原料として用いてもよい。混合炭素原料は、0〜15%程度のファインスラグとともに0〜10%程度のPCカーボンを含有することもできる。なお、炭素とは固定炭素をさす。
【0015】
炭素原料(以下、可燃物とも称する)は、乾燥基準で炭素を60質量%以上含むが、炭素含有率は70質量%以上が好ましく、成形燃料の発熱量確保の観点から、80質量%以上がより好ましい。炭素原料は、炭素以外にも、水分、硫黄、灰分等を含む場合がある。乾燥基準の炭素含有率は、炭素原料の含水質量、含水量、炭素量を用いて求めることができる。
また、炭素原料は、粒径10mm以下の割合が95質量%以上であることが好ましく、粒径8mm以下の割合が95質量%以上であることがより好ましい。炭素原料の平均粒子径は、15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。炭素原料の平均粒子径は、試験用篩いを用いた手篩い及びレーザー回折法により求めることができる。
【0016】
反応前の状態で、酸化カルシウムを主成分として平均粒子径が15μm以下である結合材としては、石灰石を焼成したときに排出された排出ダストが挙げられる。「反応前の状態」とは、水および炭酸ガスと反応する前の酸化カルシウムが主成分である状態をさし、成分分析により確認することができる。また、「主成分とする」とは、全体の40〜65質量%を占めていることをさす。結合材の平均粒子径は15μm以下であるが、10μm以下がより好ましい。結合材の平均粒子径は、レーザー回折法により求めることができる。
【0017】
石灰石を焼成したときに排出された排出ダストは、石灰石の焼成における様々な工程で発生した細かい石灰石、生石灰、燃料未燃分等の固形分を含むダストであり、焼成炉から二酸化炭素と固形分を含んだガスが排出される際に、サイクロンセパレーター、バグフィルター等で構成される集塵設備でガスから固形分を取り除くことで得られる。本発明においては、平均粒子径が15μm以下である排出ダストを得るために、バグフィルターで取り除かれた排出ダストを用いる。
【0018】
排出ダストは、主成分としてのCaOの含有量が40〜65質量%であることが好ましい。排出ダストにおける不純物成分は、10〜30質量%のSiO
2、0.5〜5質量%のFe
2O
3、1〜10質量%のAl
2O
3、5質量%以下のMgO、5質量%以下のP、5質量%以下のS、5質量%以下のNa、5質量%以下のKであることが好ましい。
【0019】
本発明に係る成形燃料の粉化率は、30%以下であり、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。本明細書において、粉化率は、後述する実施例に記載の方法で測定した粉化率と定義する。粉化率が30%より大きいと、輸送工程で崩れる場合があり、崩れた粉状の燃料は、ガス流に乗り燃焼に寄与せず、炉外に排出されることとなるため好ましくない。
【0020】
本発明に係る成形燃料は、石灰石焼成用として特に好ましく用いられ、粒径が好ましくは10〜100mmの範囲、より好ましくは20〜70mmの範囲である。本明細書において成形燃料の粒径とは、成形燃料の中心を通過して、成形燃料の表面上の任意の2点を繋ぐ線分の中で、最も短い線分の長さをさす。粒径が10mmより小さいと、石灰石等を焼成する際に、充填された石灰石の隙間に詰まり、ガス流を阻害する場合がある。また、粒径が100mmより大きいと、製造が難しく、また、石灰石と共に充填した際に割れて石灰石の隙間に詰まり易くなる傾向にある。
【0021】
本発明に係る成形燃料の圧潰強度は、成形燃料が圧潰する荷重で1500N以上が好ましく、2000N以上がより好ましく、3000N以上がさらに好ましい。また、圧潰応力としては、2.0N/mm
2以上が好ましく、2.7N/mm
2がより好ましく、4.0N/mm
2以上がさらに好ましい。本明細書において、圧潰強度及び圧潰応力は、後述する実施例に記載の方法で測定した圧潰強度及び圧潰応力と定義する。圧潰する荷重が1500N未満であると、焼成時に強度が低下して燃焼炉内で成形燃料の形状を保つことが出来ない場合がある。成形燃料が炉内の石灰石に圧縮され粉体になると、石灰石間の空間を埋め、ガス流の妨げとなるため好ましくない。
【0022】
2.成形燃料の製造方法
本発明に係る成形燃料は、以下に示す本発明に係る成形燃料の製造方法によって得られる。本発明に係る成形燃料の製造方法は、炭素原料と、石灰石を焼成したときに排出された平均粒子径が15μm以下の排出ダストとを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、前記造粒物を養生して成形燃料を得る養生工程とを有する。
【0023】
(混合工程)
混合工程は、炭素原料と、石灰石を焼成したときに排出された平均粒子径が15μm以下の排出ダストとを混合して混合物を得る工程である。
炭素原料は、炭素の含有率が乾燥基準で60質量%以上であることが好ましい。乾燥基準の炭素含有率が異なる複数の炭素原料を用いる場合には、炭素原料全体の炭素含有率を60質量%となるように配合すればよい。
【0024】
炭素原料と排出ダストとの混合に当たっては、こうした炭素原料(可燃物)を乾燥基準で80〜90質量%と、バインダーとして、石灰石を焼成したときに排出された平均粒子径が15μm以下である排出ダストを乾燥基準で10〜20質量%とを用いることができる。炭素原料の割合は、好ましくは70〜90質量%である。可燃物、排出ダストから持ち込まれる水分も加味して、全体の水分量が10〜30%になるように添加する水分量を調整し、均一に混合することで達成される。
混合には、例えば石臼(フレットミル)、ミックスマーラーなどの機器を用いることができる。混合後、造粒までの時間が短いほど、特性の優れた成形燃料が得られる。具体的には、混合から造粒までの時間が短いほど、得られる成形燃料の強度が向上する。
【0025】
ここで用いられる可燃物は顆粒状、若しくは粉末状であり、2種類以上の可燃物を混合した混合品であって当該混合品の総量で炭素を乾燥基準で60質量%以上含むものでも良い。炭素を乾燥基準で60質量%以上含む可燃物は、一般に粘性成分に乏しく、そのままで造粒することは困難である。石灰石を焼成したときに排出された排出ダストを、インダーとして添加することで、可燃物中の炭素と、排出ダスト中の不純物成分(上記SiO
2、Al
2O
3等)とCa成分との間で反応が起こる。カルシウム化合物(カルシウムアルミネート、カルシウムシリケート等)が生成され、その生成物が成形燃料としたときの特性に影響を及ぼすと考えられる。
【0026】
(造粒工程)
造粒工程は、前記混合工程で得られた混合物を造粒して造粒物を得る工程である。
造粒工程において、造粒方法としては、一対の成形ロールを有するブリケットマシン(ロール型圧縮造粒機)でピロー形ブリケットやアーモンド形ブリケットを製造する圧縮造粒法や、パンペレタイザ(パン型造粒機)で球形に成形する転動造粒法等を適宜適用できる。
【0027】
造粒条件としては、30〜100N/mm
2の圧力で、20〜70mm程度の大きさに造粒することが好ましい。また、造粒直後の造粒物に含まれる水分を10〜25%に調整することで、次の養生工程において排出ダスト中の不純物成分(上記SiO
2、Al
2O
3等)とCa成分との間の反応を効率的に進めることができる。造粒物中の水分は、15〜20%であることがより好ましい。
【0028】
(養生工程)
養生工程は、前記造粒工程で得られた造粒物を養生して成形燃料を得る工程である。養生工程を経ることで、造粒物は、強固な成形燃料となる。
養生条件としては、気温0〜100℃、湿度60〜100%の条件下で、所定の強度(例えば、1500N)に達するまで養生する。一例として、大気下(気温10〜30℃、湿度60〜100%)であれば、24時間養生を行えば、概ね所定の強度を得ることができる。温度や湿度が高いほど、養生時間を短縮することができる。
【0029】
3.石灰石の焼成方法
本発明に係る石灰石の焼成方法は、炭素原料と、石灰石を焼成したときに排出された排出ダストとを含有する成形燃料を得る燃料製造工程と、前記成形燃料を用いて石灰石を焼成する焼成工程とを有する。
【0030】
(燃料製造工程)
燃料製造工程では、炭素原料と、石灰石を焼成したときに排出された排出ダストとを含有する成形燃料を得る。炭素原料は、炭素の含有率が乾燥基準で60質量%以上であることが好ましい。排出ダストは、平均粒子径が15μm以下であることが好ましい。
燃料製造工程で得られる成形燃料は、上述した本発明に係る成形燃料と同様であり、説明を省略する。
【0031】
(焼成工程)
焼成工程は、前記燃料製造工程で得られた成形燃料を用いて、石灰石を焼成する工程である。焼成炉としては、特に限定はなく、例えばメルツ炉、ベッケンバッハ炉、混焼炉、シャフトキルン、及びコマ式炉等の縦型焼成炉、並びにロータリーキルン等の横型焼成炉等が挙げられる。中でも、縦型焼成炉が好ましく、ベッケンバッハ炉が特に好ましい。焼成条件は、それぞれの焼成炉の焼成条件を用いることができるが、例えば、ベッケンバッハ炉においては、最大生産能力200〜400t/日のベッケンバッハ炉で、最高温度1000℃、滞留時間24時間の方法等が挙げられる。ただし、この条件に限定されない。
また、焼成工程で排出された排出ダストを用いて、再度燃料製造工程を経ることで、焼成工程と燃料製造工程とを循環させてリサイクルが可能であり、環境への配慮とコスト削減とを両立することが可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではなく、また、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0033】
まず、本実施例で用いた測定方法、炭素原料、及びバインダーを示す。
[落下強度(粉化率)]
成形燃料を1mの高さから繰返し5回、地面(滑らかなコンクリート床)に落下させた。落下の衝撃で発生した8mm以下の破砕物を篩い分けて質量を測定し、全体量に対する割合を粉化率として落下強度を評価した。
[圧潰強度]
円柱状に製造された成形燃料を電気炉内に置き、昇温速度5℃/minで400℃まで加熱した。400℃を保持しつつ30分経過後、円柱の軸方向に荷重をかけて一軸圧縮することで耐荷重である圧潰強度を測定した。耐荷重を圧縮面(円柱の端面)の断面積で除して、圧潰応力を算出した。
【0034】
[炭素原料]
炭素原料として、石炭コークス粉、石炭ガス化炉から発生する残渣物の微粉部分であるファインスラグ(FS)、及びオイルコークス燃焼ボイラから発生する未燃分を電気集塵機で捕集したPCカーボンを用いた。各炭素原料の組成を下記表1に示す。なお、石炭コークス粉、ファインスラグ、PCカーボンの平均粒子径は、それぞれ2000μm、108μm、112μmである。
【0035】
【表1】
【0036】
[バインダー]
ベッケンバッハ炉を用いて1000℃で24時間、石灰石を焼成した際に排出された排ガスのうち、サイクロンセパレーターを通過した後バグフィルターに捕集されたバグフィルター(BF)ダスト、サイクロンセパレーターに捕集されたサイクロンダスト、原料石灰石の輸送系統で集塵された石灰石ダストを用いた。各ダストに含有される化合物の組成を、下記表2に示す。なお、BFダスト、サイクロンダスト、石灰石ダストの平均粒子径は、それぞれ6μm、150μm、55μmである。
【0037】
【表2】
【0038】
(実施例1) 石炭コークス粉とバグフィルター(BF)ダスト
粒子径8mm以下、水分7%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉22gに粒子径20μm以下、水分2%のBFダストを5g加えた。さらに、水3gを加えて袋内で1分間振り混ぜ、手混合を行った。混合物を直径30mmの金枠に入れ、100N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で24h放置し、養生を行うことで実施例1に係る直径30mm×高さ28mmの円柱状の成形燃料を得た。
【0039】
(実施例2) 石炭コークス粉とファインスラグ(FS):置換率15%およびバグフィルター(BF)ダスト
粒子径8mm以下、水分7%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉18gに粒子径0.7mm以下、水分50%、固定炭素68%を含むファインスラグ6gを加え、袋内で均一になるまで振り混ぜた。次に、石炭コークス粉とファインスラグとの混合炭素原料24gに粒子径20μm以下、水分2%のBFダスト5gを加え、さらに水2gを加えて袋内で1分間振り混ぜた。混合物を直径30mmの金枠に入れ、50N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で24h放置し、養生を行うことで実施例2に係る直径30mm×高さ28mmの円柱状の成形燃料を得た。
【0040】
(実施例3) 石炭コークス粉とファインスラグ(FS):置換率25%およびバグフィルター(BF)ダスト
粒子径8mm以下、水分7%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉16gに粒子径0.7mm以下、水分50%、固定炭素68%を含むファインスラグ10gを加え、袋内で均一になるまで振り混ぜた。次に、石炭コークス粉とファインスラグとの混合炭素原料26gに粒子径20μm以下、水分2%のBFダスト5gを加え、さらに水1gを加えて袋内で1分間振り混ぜた。混合物を直径30mmの金枠に入れ、50N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で24h放置し、養生を行うことで実施例3に係る直径30mm×高さ28mmの円柱状の成形燃料を得た。
【0041】
(実施例4) 石炭コークス粉とPCカーボン(PC):置換率20%およびバグフィルター(BF)ダスト
粒子径8mm以下、水分7%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉17gに粒子径0.5mm以下、水分1%、固定炭素92%を含むPCカーボン4gを加え、袋内で均一になるまで振り混ぜた。次に、石炭コークス粉とPCカーボンとの混合炭素原料21gに粒子径20μm以下、水分2%のBFダスト5gを加え、さらに水5gを加えて袋内で1分間振り混ぜた。混合物を直径30mmの金枠に入れ、38N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で72h放置し、養生を行うことで実施例4に係る直径30mm×高さ28mmの円柱状の成形燃料を得た。
【0042】
実施例1〜4の成形燃料に用いた炭素原料の質量、水分含有量、及び炭素含有量を下記表3にまとめる。
【0043】
【表3】
【0044】
実施例1〜4で用いたBFダストは、含水質量5g、乾燥質量4.9g、含水率2%、含水量0.1gである。
下記表4には、各成形燃料における乾燥基準の質量比をまとめる。
【0045】
【表4】
【0046】
(比較例1) 石炭コークス粉とサイクロンダスト
粒子径8mm以下、水分12%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉24gに粒子径200μm以下、水分1%のサイクロンダスト6gを加え、袋内で1分間、手混合を行った。混合物を直径30mmの金枠に入れ、100N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で24h放置し、養生を行うことで比較例1に係る直径30mm×高さ28mmの成形燃料を得た。
【0047】
(比較例2)
養生日数を72hに変更する以外は比較例1と同様にして、比較例2に係る成形燃料を得た。
【0048】
(比較例3) 石炭コークス粉と石灰石ダスト
粒子径8mm以下、水分12%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉24gに粒子径100μm以下、水分1%の石灰石ダスト6gを加え、袋内で1分間、手混合を行った。混合物を直径30mmの金枠に入れ、100N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で24h放置し、養生を行うことで比較例3に係る直径30mm×高さ28mmの成形燃料を得た。
【0049】
(比較例4)
養生日数を72hに変更する以外は比較例3と同様にして、比較例4に係る成形燃料を得た。
【0050】
(比較例5) 石炭コークス粉
粒子径8mm以下、水分12%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉30gを直径30mmの金枠に入れ、100N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で24h放置し、養生を行うことで比較例5に係る直径30mm×高さ28mmの成形燃料を得た。
【0051】
(比較例6) 石炭コークス粉と澱粉
粒子径8mm以下、水分12%、固定炭素87%を含む石炭コークス粉30gに澱粉0.9gを加え、袋内で1分間、手混合を行った。混合物を直径30mmの金枠に入れ、100N/mm
2の圧力で造粒した。造粒物を室温で24h放置し、養生を行うことで比較例6に係る直径30mm×高さ28mmの成形燃料を得た。
【0052】
実施例1〜4、及び比較例1〜6の成形燃料の落下強度(粉化率)、圧潰強度及び圧潰応力を、下記表5にまとめる。
【0053】
【表5】
【0054】
表5より、バインダーとしてBSダスト(平均粒子径6μm)を用いた実施例1〜4に係る成形燃料は、比較例と比べて粉化率が低く、圧潰強度及び圧潰応力が高いことが分かる。