(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-100208(P2020-100208A)
(43)【公開日】2020年7月2日
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20200605BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-238476(P2018-238476)
(22)【出願日】2018年12月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 宏典
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】PCI工程後のタイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析できるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】シミュレーション装置1は、タイヤFEMモデルを取得するFEMモデリング部41とPCI解析部42と接地解析部43とを備える。PCI解析部42はPCI解析の解析条件を設定する部分であって、特にベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定するPCI解析条件設定部42aと、PCI工程後の形状を計算するPCI解析演算部42bとを含む。接地解析部43は接地解析の解析条件を設定する部分であって、特にタイヤFEMモデルのベルト部材を除く各部材についてPCI解析条件設定部42aにて設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定する接地解析条件設定部43aと、タイヤの接地性能を計算する接地解析演算部43bとを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するFEMモデリング部と、
前記タイヤの加硫成形直後に行うPCI工程を再現したPCI解析を実行するPCI解析部と、
前記PCI工程後のタイヤの接地状態を再現した接地解析を実行する接地解析部と
を備え、
前記PCI解析部は、
前記PCI解析の解析条件を設定する部分であって、この解析条件の設定はベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定することを含むPCI解析条件設定部と、
前記PCI解析条件設定部にて設定された解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記PCI工程後の形状を計算するPCI解析演算部と
を含み、
前記接地解析部は、
前記接地解析の解析条件を設定する部分であって、この解析条件の設定は前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記PCI解析条件設定部にて設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件設定部と、
前記接地解析条件設定部にて設定された解析条件および前記PCI工程後の前記タイヤFEMモデル形状に基づいて前記タイヤの接地性能を計算する接地解析演算部と
を含む、シミュレーション装置。
【請求項2】
前記PCI解析条件設定部は、前記ベルト部材の全幅の10〜15%の端部の弾性率を常温の弾性率に設定し、前記ベルト部材の前記端部以外の部分の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定する、請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記PCI解析条件設定部は、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも2倍以上高く設定する、請求項1または請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得し、
前記タイヤの加硫成形直後に行うPCI工程を再現したPCI解析を実行し、
前記PCI工程後のタイヤの接地状態を再現した接地解析を実行する
ことを含み、
前記PCI解析は、
前記PCI解析の解析条件を設定し、この解析条件の設定ではベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定し、
前記PCI解析の解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記PCI工程後の形状を計算する
ことを含み、
前記接地解析は、
前記接地解析の解析条件を設定し、この解析条件の設定では前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記PCI解析の解析条件として設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定し、
前記接地解析の解析条件および前記PCI工程後の前記タイヤFEMモデル形状に基づいて、前記タイヤの接地性能を計算する
ことを含む、シミュレーション方法。
【請求項5】
前記PCI解析の解析条件では、前記ベルト部材の全幅の10〜15%の端部の弾性率を常温の弾性率に設定し、前記ベルト部材の前記端部以外の部分の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定する、請求項4に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記PCI解析の解析条件は、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも2倍以上高く設定する、請求項4または請求項5に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
コンピュータにロードされることにより、前記コンピュータに、請求項4から請求項6のうちのいずれか1項に記載のシミュレーション方法を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ性能を精度良く予測するために、様々なシミュレーションが行われている。一般に、シミュレーションで使用するタイヤモデルの外面形状は、金型の内面形状から作成される。しかし、実際に製造されるタイヤは、加硫後に行われるポストキュアインフレーション(PCI)工程を経て、金型内面形状とは異なる形状となっている。その為、金型内面形状をもとに作成されるタイヤモデルではタイヤ性能を正しく評価できないことがある。これに対し、PCI工程を再現した解析(PCI解析)を行うことによってタイヤモデルを作成し、PCI工程を経たタイヤ形状にて接地解析を実行する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−79789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、PCI工程は加硫成形の直後に行われるため、タイヤの温度が高い。一方、接地試験を行う際には、タイヤの温度が常温となっている。従って、PCI工程と接地試験とを高精度に再現するシミュレーションを実行するためにはこの温度変化を考慮した物性値を与えることが好ましい。上記特許文献1の方法では、PCI解析と接地解析とで物性値などの種々の解析条件を再定義する必要がある。しかし、タイヤは、多くの部材で構成されているため、全ての部材の物性値などの種々の解析条件を工程ごとに再定義するのは手間がかかる。よって、上記特許文献1の方法は、シミュレーションをより簡易に行う観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、シミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラムにおいて、PCI工程後のタイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するFEMモデリング部と、前記タイヤの加硫成形直後に行うPCI工程を再現したPCI解析を実行するPCI解析部と、前記PCI工程後のタイヤの接地状態を再現した接地解析を実行する接地解析部とを備え、前記PCI解析部は、前記PCI解析の解析条件を設定する部分であって、この解析条件の設定はベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定することを含むPCI解析条件設定部と、前記PCI解析条件設定部にて設定された解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記PCI工程後の形状を計算するPCI解析演算部とを含み、前記接地解析部は、前記接地解析の解析条件を設定する部分であって、この解析条件の設定は前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記PCI解析条件設定部にて設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件設定部と、前記接地解析条件設定部にて設定された解析条件および前記PCI工程後の前記タイヤFEMモデル形状に基づいて前記タイヤの接地性能を計算する接地解析演算部とを含む、シミュレーション装置を提供する。
【0007】
この構成によれば、PCI解析と接地解析とで物性値を変更する部材は、ベルト部材のみである。従って、解析条件の再定義の手間が簡略化される。物性値の中でも特に弾性率は、一般に温度が高いほど低い値をとる。従って、PCI解析では各部材の弾性率を常温時の値よりも低く設定し、接地解析では各部材の弾性率を常温時の値に設定することが好ましい。しかし、全部材の物性値を工程ごとに再定義するのは手間がかかる。そこで、変形に対する寄与度の大きなベルト部材に着目し、ベルト部材の弾性率のみをPCI工程と接地解析とで変更することで、解析条件の再設定の手間を簡略化できる。特に、ベルト部材は、金属材料を含んでおり、トレッド面やサイドウォール面などを構成するゴム部材よりも弾性率の温度依存性が低い。そのため、ベルト部材とゴム部材との温度を考慮した弾性率の差異は、PCI解析においては大きく、接地解析においては小さくなることが現実に即しているといえる。上記構成では、数多く配置されたゴム部材の弾性率を工程ごとに変更するのではなく、ベルト部材の弾性率のみをPCI工程において常温時の弾性率よりも高く設定することで、上記の弾性率の差異の関係が保たれる。従って、PCI工程後のタイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。
【0008】
前記PCI解析条件設定部は、前記ベルト部材の全幅の10〜15%の端部の弾性率を常温の弾性率に設定し、前記ベルト部材の前記端部以外の部分の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定してもよい。
【0009】
この構成によれば、PCIの影響が少ないトレッド面の変形を抑え、PCIの影響が大きいサイドウォール面を変形させるので、PCIの影響を適切に再現したタイヤモデルを得ることができる。
【0010】
前記PCI解析条件設定部は、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも2倍以上高く設定してもよい。
【0011】
この構成によれば、PCIの影響が少ないトレッド面の変形を一層抑制できるので、PCI工程後のタイヤの外面形状をより高精度に再現できる。
【0012】
本発明の第2の態様は、加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得し、前記タイヤの加硫成形直後に行うPCI工程を再現したPCI解析を実行し、前記PCI工程後のタイヤの接地状態を再現した接地解析を実行することを含み、前記PCI解析は、前記PCI解析の解析条件を設定し、この解析条件の設定ではベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定し、前記PCI解析の解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記PCI工程後の形状を計算することを含み、前記接地解析は、前記接地解析の解析条件を設定し、この解析条件の設定では前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記PCI解析の解析条件として設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定し、前記接地解析の解析条件および前記PCI工程後の前記タイヤFEMモデル形状に基づいて、前記タイヤの接地性能を計算することを含む、シミュレーション方法を提供する。
【0013】
前記PCI解析の解析条件では、前記ベルト部材の全幅の10〜15%の端部の弾性率を常温の弾性率に設定し、前記ベルト部材の前記端部以外の部分の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定してもよい。
【0014】
前記PCI解析の解析条件は、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも2倍以上高く設定してもよい。
【0015】
本発明の第3の態様はコンピュータにロードされることにより、前記コンピュータに、前記いずれかのシミュレーション方法を実行させる、プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラムにおいて、PCI工程後のタイヤ外形を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】一実施形態のシミュレーション装置のブロック図。
【
図3】加硫成形直後のタイヤFEMモデルを示す断面図。
【
図4】PCI工程前後のタイヤFEMモデルの外面形状を示す断面図。
【
図5】一実施形態のシミュレーション方法のフローチャート。
【
図6】変形例における加硫成形直後のタイヤFEMモデルを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0019】
本実施形態のシミュレーション装置は、自動車等に用いられる空気入りタイヤ(以降、単にタイヤともいう。)の接地解析を高精度かつ簡易に行うものである。特に、本実施形態のシミュレーション装置は、PCI工程を経たタイヤの形状を再現し、そのように再現されたタイヤに所定内圧及び所定荷重をかけて路面に接地させ、所定境界条件の下、接地形状及び接地面に生じる力(接地圧など)を算出する。
【0020】
図1は、タイヤ100の模式的なタイヤ子午線断面である。なお、
図1は断面図であるが、図示が煩雑となるため、断面を示すハッチングを省略している。
【0021】
タイヤ100は、タイヤ本体110と、リム120とを備える。
【0022】
タイヤ本体110は、一対のビードコア111間にカーカス112を掛け渡し、カーカス112の中間部の外周側に巻き付けたベルト部材113によって補強し、そのタイヤ径方向(図中A方向)の外側にゴム材料からなるトレッド部114を有する構成となっている。トレッド部114のタイヤ幅方向(図中B方向)の両外側にはサイドウォール部115が連続している。サイドウォール部115のタイヤ径方向の内側には、ビード部116が連続している。ビード部116において、タイヤ本体110はリム120と接続される。
【0023】
リム120は、
図1に示す断面において、タイヤ本体110の2つのビード部116をそれぞれ配置する2つのフランジ部121と、タイヤ幅方向において2つのフランジ部121の間でタイヤ径方向内側に向かって凹形状を有する凹部122を有している。リム120は、アルミ合金製、マグネシウム合金製、または鋼鉄製などの金属製であり得る。
【0024】
本実施形態のシミュレーション装置では、タイヤ100の特にタイヤ本体110の外面形状を高精度に再現するべく、PCI工程が考慮される。一般に、タイヤ100の接地解析を行う際には、加硫成形金型(図示せず)の内面形状からタイヤ本体110の外面形状を再現する。しかし、加硫後に行われるPCI工程を経ることにより、タイヤ本体110の外面形状は、わずかに膨張し、加硫成形金型の内面形状とは異なる形状となる。以下、PCI工程を考慮した上でタイヤ100の接地解析を実行する本実施形態のシミュレーション装置について説明する。
【0025】
図2を参照して、本実施形態のシミュレーション装置1は、コンピュータであり、入力部10と、表示部20と、記憶部30と、制御部(プロセッサ)40とを備える。
【0026】
入力部10は、シミュレーション装置1に対する入力データを生成する若しくは受け取る部位であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等により構成される。ユーザは、入力部10を介して解析に関する種々の条件やデータを入力することができる。
【0027】
表示部20は、制御部40の処理結果等を表示する部位であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等により構成される。
【0028】
記憶部30は、制御部40で稼働するプログラムや解析のためのモデル生成に必要なデータ等が記録されている。
【0029】
制御部40は、タイヤのFEM(Finite Element Method)モデルを作成するFEMモデリング部41と、PCI解析を実行するPCI解析部42と、接地解析を実行する接地解析部43とを備える。これらは、ハードウェア資源であるプロセッサと、記憶部30などに記録されるソフトウェアであるプログラムとの協働により実現される。
【0030】
FEMモデリング部41は、加硫成形金型(図示せず)の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルM3(
図3参照)を取得する。
【0031】
PCI解析部42は、タイヤの加硫成形直後に行うPCI工程を再現したPCI解析を実行する。PCI解析部42は、PCI解析条件設定部42aと、PCI解析演算部42bとを含んでいる。
【0032】
PCI解析条件設定部42aは、PCI解析の解析条件を設定する部分である。PCI解析条件設定部42aによって、例えば、各部材の物性値や各種境界条件が設定される。特に、ベルト部材113(
図3参照)の弾性率は、常温の弾性率よりも所定以上高く設定され、その他の部材の弾性率は常温の弾性率に設定される。好ましくは、PCI解析条件設定部42aは、ベルト部材113の弾性率を常温の弾性率よりも2倍以上高く設定する。より好ましくは、PCI解析条件設定部42aは、ベルト部材113の弾性率を常温の弾性率よりも10倍以上高く設定する。これらの弾性率の設定は、トレッド部114等のゴム部材の種類に応じて決定されてもよい。
【0033】
PCI解析演算部42bは、PCI解析条件設定部42aにて設定された解析条件に基づいてタイヤFEMモデルM3(
図3参照)のPCI工程後の形状を計算する。PCI解析演算部42bは、PCI工程を再現すべく、ビード部を拘束した状態で内圧を付与してタイヤFEMモデルM3を変形させる。これにより、
図3のタイヤFEMモデルM3の外面形状は、
図4に示すタイヤFEMモデルM4の外面形状のように僅かに膨張する。特に、ベルト部材113の弾性率が高く設定されているため、トレッド部114においては膨張量が小さく、サイドウォール部115(特にショルダー部)において膨張量が大きい。そして、計算されたPCI工程後のタイヤFEMモデルM4の外面形状を、自然状態の形状として以下のように接地解析が行われる。
【0034】
接地解析部43は、PCI工程後のタイヤの接地状態を再現した接地解析を実行する。接地解析部43は、接地解析条件設定部43aと、接地解析演算部43bとを含んでいる。
【0035】
接地解析条件設定部43aは、接地解析の条件を設定する部分である。接地解析条件設定部43aによって、例えば、各部材の物性値や各種境界条件が設定される。特に、
図3,4を併せて参照して、タイヤFEMモデルM4のベルト部材113(
図4では図示省略)を除く各部材についてPCI解析条件設定部42aにて設定された物性値と同じ物性値が設定されるとともに、ベルト部材113の弾性率は常温の弾性率に設定される。そして、PCI工程後のタイヤFEMモデルM4を自然状態の形状として、当該モデルM4に所定内圧及び所定荷重をかけて路面に接地させるように境界条件を設定する。なお、
図4では、図示を明瞭にするため、タイヤFEMモデルM3,M4の外面形状のみを示し、内部構成部材の図示を省略している。
【0036】
接地解析演算部43bは、接地解析条件設定部43aにて設定された解析条件およびPCI工程後のタイヤFEMモデルM4の形状に基づいて、タイヤの接地性能を計算する。タイヤの接地性能の計算では、接地形状や接地圧などが算出される。
【0037】
接地形状や接地圧分布を正確に予測することにより、タイヤの転がり抵抗特性、摩耗特性、耐久特性、操縦安定性、振動乗り心地特性、ウェット特性、および騒音特性等を正確に予測することができる。
【0038】
本実施形態のシミュレーション装置で実行するシミュレーション方法について、
図5を参照して説明する。
【0039】
本実施形態のシミュレーション方法を開始すると(ステップS1)、FEMモデリング部41によって、タイヤFEMモデルM3(
図3参照)が取得される(ステップS2)。このタイヤFEMモデルM3は、前述のように加硫成形金型(図示せず)の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したものである。加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤの形状データは、入力部10を介して入力されてもよいし、予め記憶部30に記憶されていてもよい。
【0040】
次いで、PCI解析条件設定部42aによって、PCI解析における各部材の物性値や各種境界条件などの解析条件が設定される(ステップS3)。特に、ベルト部材113の弾性率は、常温の弾性率よりも所定以上高く設定され、その他の部材の弾性率は常温の弾性率に設定される。本実施形態では、ベルト部材113の弾性率を常温の弾性率よりも10倍高く設定している。そして、タイヤFEMモデルM3に対して、ビード部を拘束した状態で、所定の内圧を付与する。ここでの解析条件は、入力部10を介して入力されてもよいし、予め記憶部30に記憶されていてもよい。
【0041】
次いで、PCI解析演算部42bによって、PCI解析条件設定部42aにて設定された解析条件に基づいてタイヤFEMモデルM3のPCI工程後の形状を計算する(ステップS4)。PCI解析条件設定部42aにて設定された内圧と変形により発生する反力との釣り合いが取れる状態までタイヤFEMモデルM3が変形した結果、PCI工程を経て変形した後のタイヤFEMモデルM4(
図4参照)が得られる。
【0042】
次いで、接地解析条件設定部43aによって、接地解析の解析条件が設定される(ステップS5)。ここでは、PCI解析において内圧の付与により変形した後のタイヤFEMモデルM4の形状を、自然状態の形状とする。特に、タイヤFEMモデルM4のベルト部材113を除く各部材についてPCI解析条件設定部42aにて設定された物性値と同じ物性値が設定されるとともに、ベルト部材113の弾性率は常温の弾性率に設定される。そして、タイヤFEMモデルM4に所定内圧および所定荷重をかけて路面に接地させるように解析条件が設定される。ここでの解析条件は、入力部10を介して入力されてもよいし、予め記憶部30に記憶されていてもよい。
【0043】
次いで、接地解析演算部43bによって、接地解析条件設定部43aにて設定された解析条件およびPCI工程後のタイヤFEMモデルM4の形状に基づいて、タイヤの接地性能が計算される(ステップS6)。タイヤの接地性能の計算では、接地形状や接地圧などが算出される。そして、これらの解析結果を表示部20に出力して(ステップS7)、解析を終了する(ステップS8)。
【0044】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0045】
PCI解析と接地解析とで物性値を変更する部材は、ベルト部材113(
図1参照)のみである。従って、解析条件の再定義の手間が簡略化される。物性値の中でも特に弾性率は、一般に温度が高いほど低い値をとる。従って、PCI解析では各部材の弾性率を常温時の値よりも低く設定し、接地解析では各部材の弾性率を常温時の値に設定することが好ましい。しかし、全部材の物性値を工程ごとに再定義するのは手間がかかる。そこで、変形に対する寄与度の大きなベルト部材113に着目し、ベルト部材113の弾性率のみをPCI工程と接地解析とで変更することで、解析条件の再設定の手間を簡略化できる。特に、ベルト部材113は、金属材料を含んでおり、トレッド面114aやサイドウォール面115aなどを構成するゴム部材よりも弾性率の温度依存性が低い。そのため、ベルト部材113とゴム部材との温度を考慮した弾性率の差異は、PCI解析においては大きく、接地解析においては小さくなることが現実に即しているといえる。本実施形態では、数多く配置されたゴム部材の弾性率を工程ごとに変更するのではなく、ベルト部材113の弾性率のみをPCI工程において常温時の弾性率よりも高く設定することで、上記の弾性率の差異の関係が保たれる。従って、PCI工程後のタイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。
【0046】
また、PCIの影響が少ないトレッド面114aの変形を一層抑制できるので、PCI工程後のタイヤの外面形状をより高精度に再現できる。
【0047】
(変形例)
図6を参照して、上記実施形態の変形例として、PCI解析条件設定部42a(
図2参照)は、タイヤ幅方向(図中B方向)においてベルト部材113の全幅の10〜15%の端部113aの弾性率を常温の弾性率に設定し、ベルト部材113の上記端部113a以外の部分(中央部113b)の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定してもよい。換言すれば、PCI解析条件設定部42aによって、ベルト部材113の中央部113bの弾性率のみが常温の弾性率よりも所定以上高く設定される。好ましくは、ベルト部材113の中央部113bの弾性率のみが常温の弾性率よりも10倍以上高く設定される。なお、ベルト部材113の端部113aおよびベルト部材113以外の各部材の弾性率は、常温の弾性率に設定される。
【0048】
本変形例によれば、PCIの影響が少ないトレッド面114aの変形を抑え、PCIの影響が大きいサイドウォール面115aを変形させるので、PCIの影響を適切に再現したタイヤFEMモデルM4(
図4参照)を得ることができる。
【0049】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 シミュレーション装置
10 入力部
20 表示部
30 記憶部
40 制御部(プロセッサ)
41 FEMモデリング部
42 PCI解析部
42a PCI解析条件設定部
42b PCI解析演算部
43 接地解析部
43a 接地解析条件設定部
43b 接地解析演算部
100 空気入りタイヤ(タイヤ)
110 タイヤ本体
111 ビードコア
112 カーカス
113 ベルト部材
113a 端部
113b 中央部
114 トレッド部
114a トレッド面
115 サイドウォール部
115a サイドウォール面
116 ビード部
120 リム
121 フランジ部
122 凹部
M3,M4 タイヤFEMモデル