特開2020-100298(P2020-100298A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-100298(P2020-100298A)
(43)【公開日】2020年7月2日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20200605BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20200605BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20200605BHJP
【FI】
   B60C11/00 B
   B60C11/00 D
   B60C13/00 E
   B60C15/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-240124(P2018-240124)
(22)【出願日】2018年12月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 浩一
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA01
3D131BA05
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC13
3D131BC31
3D131BC44
3D131BC51
3D131DA12
3D131EA02U
3D131GA11
3D131GA19
3D131HA33
(57)【要約】
【課題】耐久性の悪化を防ぎつつ、良好な低燃費性能を発揮し、しかもノイズ性能の悪化を抑制できる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部3外表面を形成するトレッドゴム5が、接地面を形成するキャップゴム51と、キャップゴム51のタイヤ径方向内側に設けられたベースゴム52とを有する。ベースゴム52のtanδは、サイドウォールゴム6のtanδよりも低い。ベースゴム52はサイドウォール部2まで延長されており、ビードベースラインBLを基準にしたベースゴム52の延長端52Eの高さH52がタイヤ断面高さHTの80%以下である。ベースゴム52はリムストリップゴム7に接しないように設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至るカーカスと、前記トレッド部の外表面を形成するトレッドゴムと、前記サイドウォール部の外表面を形成するサイドウォールゴムと、前記ビード部の外表面を形成するリムストリップゴムとを備え、
前記トレッドゴムが、接地面を形成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ径方向内側に設けられたベースゴムとを有し、前記ベースゴムのtanδが前記サイドウォールゴムのtanδよりも低く、
前記ベースゴムが前記サイドウォール部まで延長されており、ビードベースラインを基準にした前記ベースゴムの延長端の高さがタイヤ断面高さの80%以下であり、前記ベースゴムが前記リムストリップゴムに接しないように設けられている空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記カーカスが、前記ビード部に設けられたビードコアを介してタイヤ径方向外側に巻き上げられた巻き上げ部を有し、
前記ベースゴムの延長端が、前記巻き上げ部の先端よりもタイヤ径方向内側に配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記リムストリップゴムがタイヤ最大幅位置を超えてタイヤ径方向外側に延びている請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
ビードベースラインを基準にした前記リムストリップゴムの高さがタイヤ断面高さの50%以上である請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイドウォール部のバットレス領域でのタイヤ厚みが、タイヤ最大幅位置でのタイヤ厚みの125%以上である請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのサイドウォール部の外表面は、耐カット性(耐外傷性)や対候性に優れたサイドウォールゴムによって形成されている。近年、転がり抵抗を低減して低燃費化を図るべく、サイドウォールゴムの厚みを小さくしたタイヤが提案されている。しかし、サイドウォールゴムを薄肉化すると、断面二次モードの振動による変形が大きくなる傾向にあり、この変形に起因する中周波帯域(250〜400Hz)のロードノイズが悪化するという問題がある。
【0003】
特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、サイドウォールゴムが内外の二層構造を有し、その内層サイドウォールがトレッド部まで連続的に延びている。内層サイドウォールは、静電気を路面に放出するための導電経路を構成するため、トレッド部に設けられた通電ゴム、及び、ビード部に設けられたリムストリップゴム(クリンチゴム)の双方と接するように設けられる。それ故、内層サイドウォールとリムストリップゴムとのゴム硬度差が大きいと、それらの界面において、走行時の繰り返し変形に伴う応力が集中しやすく、耐久性の悪化が懸念される。
【0004】
特許文献2に記載の空気入りタイヤでは、ビード部の外表面を形成するリムストリップゴムの高さが通常よりも大きく、タイヤ径方向外側に向けて延長されている。サイドウォール部では、サイドウォールゴムのタイヤ幅方向内側にリムストリップゴムの延長部分が配置されている。特許文献2において、転がり抵抗に対する改善効果は、タイヤ最大幅位置におけるリムストリップゴムの厚みを相対的に小さくしたことによる効果として位置付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−218096号公報
【特許文献2】特開2018−010393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性の悪化を防ぎつつ、良好な低燃費性能を発揮し、しかもノイズ性能の悪化を抑制できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至るカーカスと、前記トレッド部の外表面を形成するトレッドゴムと、前記サイドウォール部の外表面を形成するサイドウォールゴムと、前記ビード部の外表面を形成するリムストリップゴムとを備え、前記トレッドゴムが、接地面を形成するキャップゴムと、前記キャップゴムのタイヤ径方向内側に設けられたベースゴムとを有し、前記ベースゴムのtanδが前記サイドウォールゴムのtanδよりも低く、前記ベースゴムが前記サイドウォール部まで延長されており、ビードベースラインを基準にした前記ベースゴムの延長端の高さがタイヤ断面高さの80%以下であり、前記ベースゴムが前記リムストリップゴムに接しないように設けられている。
【0008】
かかる構成によれば、サイドウォール部において、tanδ(損失正接)が相対的に低いベースゴムがサイドウォールゴムのタイヤ幅方向内側に配置されるため、サイドウォールゴムの厚みを小さくしなくても転がり抵抗を低減できる。また、ベースゴムがリムストリップゴムに接しないので、それらの間にゴム硬度差の大きい界面が形成されず、耐久性の悪化を防止できる。これにより、耐久性の悪化を防ぎつつ、良好な低燃費性能を発揮し、しかもノイズ性能の悪化を抑制できる。
【0009】
前記カーカスが、前記ビード部に設けられたビードコアを介してタイヤ径方向外側に巻き上げられた巻き上げ部を有し、前記ベースゴムの延長端が、前記巻き上げ部の先端よりもタイヤ径方向内側に配置されていることが好ましい。これにより、応力が集中しがちな巻き上げ部の発熱を抑制して耐久性を向上できる。また、カーカスの巻き上げ部とタイヤ幅方向にオーバーラップする程度にベースゴムが長く延在することになるため、良好な低燃費性能を発揮するうえで都合がよい。
【0010】
前記リムストリップゴムがタイヤ最大幅位置を超えてタイヤ径方向外側に延びていることが好ましい。これにより、ベースゴムがサイドウォール部に配置されることに伴うタイヤ剛性の低下をリムストリップゴムで補い、操縦安定性能の維持向上を図ることができる。
【0011】
ビードベースラインを基準にした前記リムストリップゴムの高さがタイヤ断面高さの50%以上であることが好ましい。これにより、ベースゴムがサイドウォール部に配置されることに伴うタイヤ剛性の低下をリムストリップゴムで補い、操縦安定性能の維持向上を図ることができる。
【0012】
前記サイドウォール部のバットレス領域でのタイヤ厚みが、タイヤ最大幅位置でのタイヤ厚みの125%以上であることが好ましい。これにより、サイドウォールゴムの厚みを適度に確保して、ノイズ性能の悪化を良好に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例(第1実施形態)を示すタイヤ子午線断面図
図2】空気入りタイヤの第2実施形態を示すタイヤ子午線断面図
図3】空気入りタイヤの第3実施形態を示すタイヤ子午線断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、環状のビードコア1aと、そのビードコア1aのタイヤ径方向外側に設けられたビードフィラー1bとが設けられている。ビードコア1aは、鋼線などの収束体をゴム被覆して形成されている。ビードフィラー1bは、タイヤ径方向外側に延びた断面三角形状の硬質ゴムにより形成されている。
【0016】
空気入りタイヤTは、更に、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るカーカス4と、トレッド部3の外表面を形成するトレッドゴム5と、サイドウォール部2の外表面を形成するサイドウォールゴム6と、ビード部1の外表面を形成するリムストリップゴム7とを備える。トレッド部3には、カーカス4のタイヤ径方向外側に積層されたベルト8と、そのベルト8のタイヤ径方向外側に積層されたベルト補強材9とが設けられ、それらがトレッドゴム5で覆われている。図示を省略しているが、トレッドゴム5の表面には、要求されるタイヤ性能や使用条件に応じたトレッドパターンが形成されている。タイヤTの内表面は、インナーライナーゴム10で形成されている。
【0017】
カーカス4は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列した複数のコードをゴム被覆してなるカーカスプライで形成されている。コードの材料には、スチールなどの金属、または、ポリエステルやレーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維が好ましく用いられる。カーカス4を形成するカーカスプライは一枚に限られず、複数枚でもよい。カーカス4は、ビードコア1aを介してタイヤ径方向外側に巻き上げられて(即ち、ターンアップされて)いる。換言すると、カーカス4は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至る本体部41に、ビードコア1a及びビードフィラー1bのタイヤ幅方向外側に配置された巻き上げ部42を一連に設けてある。
【0018】
トレッドゴム5は、接地面を形成するキャップゴム51と、そのキャップゴム51のタイヤ径方向内側に設けられたベースゴム52とを有する。ベースゴム52は、キャップゴム51よりも発熱性の低いゴムで形成されている。ベースゴム52のtanδ(損失正接)は、キャップゴム51のtanδよりも低く、サイドウォールゴム6のtanδよりも低い。ベースゴム52のtanδは、例えば0.1〜0.3である。本明細書において、tanδは、35℃で測定される値を指すものとする。具体的に、tanδは、USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度35℃の条件で測定される。
【0019】
本実施形態では、キャップゴム51が導電性ゴムにより形成されている例を示すが、これに限定されない。導電性ゴムとしては、体積抵抗率が10Ω・cm未満を示すゴムが例示される。導電性ゴムは、例えば、原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックを高比率で配合することにより作製される。カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーやグラファイトなどのカーボン系、及び、金属粉や金属酸化物、金属フレーク、金属繊維などの金属系の公知の導電性付与材を使用可能である。原料ゴムとしては、天然ゴムやスチレンブタジエンゴムなどが例示される。
【0020】
サイドウォールゴム6は、耐カット性や対候性に優れたゴムで形成されている。本実施形態では、サイドウォールゴム6のtanδがキャップゴム51のtanδよりも低い。このタイヤTでは、サイドウォールゴム6のタイヤ径方向外側の端部をトレッドゴム5(のキャップゴム51)の側方部に載せてなる、いわゆるサイドウォールオントレッド(SWOT;sidewall on tread)構造を採用している。タイヤ子午線断面において、サイドウォールゴム6は、バットレス領域2bからタイヤ径方向内側に延び、タイヤ最大幅位置2mを経由してリムストリップゴム7に到達している。
【0021】
バットレス領域2bは、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側の領域であって、平坦な舗装路での通常走行時には接地しない領域である。バットレス領域2bは、断面二次モードの振動の腹となるため、この領域の質量を確保することにより、主に中周波帯域(280〜400Hz)のロードノイズを低減できる。タイヤ最大幅位置2mは、サイドウォール部2におけるタイヤTの外表面のプロファイルラインが、タイヤ赤道(図示せず)からタイヤ幅方向に最も離れる位置である。このプロファイルラインは、リムプロテクタなどの突起を除いたサイドウォール部本体の外表面の輪郭であり、通常、複数の円弧を滑らかに接続することで規定されるタイヤ子午線断面形状を有する。
【0022】
リムストリップゴム7は、耐摩滅性に優れたゴムにより形成されている。リムストリップゴム7は、タイヤTが装着されるリム(図示せず)と接触する部位に設けられている。リムストリップゴム7のゴム硬度は、サイドウォールゴム6やベースゴム52のゴム硬度よりも高い。リムストリップゴム7のゴム硬度は、例えば60〜70度である。サイドウォールゴム6のゴム硬度は、例えば55〜65度である。ベースゴム52のゴム硬度は、例えば50〜55度である。本明細書において、ゴム硬度は、JIS K6253に準拠し、23℃雰囲気下でタイプAデュロメータを使用して測定された値(デュロメータ硬さ)を指すものとする。
【0023】
本実施形態において、ビードベースラインBLを基準にしたリムストリップゴム7の高さH7は、例えばタイヤ断面高さHTの15〜55%である。低周波帯域(80〜100Hz)のロードノイズを低減する観点から、高さH7はタイヤ断面高さHTの50%以下であることが好ましい。これにより、リムストリップゴム7をタイヤ径方向外側に向けて延長した構造(図3参照)に比べて、タイヤ剛性の上昇が抑えられ、一次固有値を下げることができる。
【0024】
ビードベースラインBLは、標準リムのリム径を規定するタイヤ幅方向の仮想直線である。外径ラインDLは、タイヤ外径位置(図示せず)を通るタイヤ幅方向の仮想直線である。タイヤ断面高さHTは、ビードベースラインBLを基準にしたタイヤ外径位置の高さとして求められる。リムストリップゴム7の高さH7は、カーカス4の巻き上げ高さH4よりも小さい。巻き上げ高さH4は、ビードベースラインBLを基準にした巻き上げ部42の高さ(先端4Eの位置)を指す。巻き上げ高さH4は、例えばタイヤ断面高さHTの25〜80%である。巻き上げ高さH4は、ビードベースラインBLを基準にしたビードフィラー1bの高さH1bよりも大きいが、これに限られない。
【0025】
ベルト8は、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に配列した複数のコードをゴム被覆してなるベルトプライで形成されている。ベルト8は、複数枚(本実施形態では二枚)のベルトプライにより構成され、そのプライ間でコードが互いに逆向きに交差するように積層されている。コードの材料には、スチールが好ましく用いられる。ベルト補強材9は、実質的にタイヤ周方向に延びるコードをゴム被覆してなる補強プライで形成されている。コードの材料には、有機繊維が好ましく用いられる。ベルト補強材9によってベルト8を補強することにより、高速耐久性能を向上できる。
【0026】
このタイヤTでは、ベースゴム52がサイドウォール部2まで延長されている。ベースゴム52は、カーカス4(の本体部41)とサイドウォールゴム6との間に介在し、湾曲しながらタイヤ径方向に沿って延びている。ベースゴム52の延長端52Eは、キャップゴム51の側方端51Eよりもタイヤ径方向内側に配置される。ビードベースラインBLを基準にしたベースゴム52の延長端52Eの高さH52はタイヤ断面高さHTの80%以下であり、そのベースゴム52はリムストリップゴム7に接しないように設けられている。かかるベースゴム52の構造は、少なくとも片側のサイドウォール部2に適用されていればよく、改善効果を高めるうえでは両側に適用されることが好ましい。
【0027】
かかる構成によれば、サイドウォール部2において、tanδの低いベースゴム52がサイドウォールゴム6のタイヤ幅方向内側に配置される。そのため、サイドウォールゴム6の厚みを小さくしなくても、例えばタイヤ最大幅位置2mにおけるタイヤ厚みT2mが5.0mm以上であっても、転がり抵抗を低減できる。低燃費性能を高める観点から、延長端52Eは、タイヤ最大幅位置2mよりもタイヤ径方向内側に位置することが好ましい。同様に、低燃費性能を高める観点から、高さH52は、タイヤ断面高さHTの80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0028】
このタイヤTでは、ベースゴム52とリムストリップゴム7とが接することなく、それらの間に界面が形成されないため、耐久性の悪化を防止できる。本実施形態では、ベースゴム52とリムストリップゴム7とが接しないよう(即ち、界面を形成しないよう)、延長端52Eとリムストリップゴム7の外側端7Eとがタイヤ径方向に離れて配置され、高さH7は高さH52よりも小さい。かかる構成は、製造工程でのエア入りを低減するうえで都合がよい。また、tanδの低いゴム部材を別個に追加するのではなく、ベースゴム52を延長させてサイドウォール部2に配設しているので、ゴム界面を不必要に増やすことなく、タイヤTの繰り返し変形による応力集中が抑えられる。
【0029】
上記のように、このタイヤTでは、サイドウォール部2の薄肉化に依らずに転がり抵抗を低減して、ノイズ性能の悪化を抑えられる。バットレス領域2bの質量を確保して中周波帯域のロードノイズを低減する観点から、バットレス領域2bでのタイヤ厚みT2bを適度に大きくすることが好ましい。具体的に、タイヤ厚みT2bは、タイヤ厚みT2mの125%以上が好ましく、130%以上がより好ましく、150%以上が更に好ましい。タイヤ厚みT2bは、外径ラインDLを基準にした高さH2bがタイヤ断面高さHTの20%となる位置で測定される。低燃費性能に鑑みて、タイヤ厚みT2bをタイヤ厚みT2mの100〜125%の範囲内に抑えることも可能である。
【0030】
空気入りタイヤTにおける高さや厚みなどの各寸法は、タイヤを標準リムに装着して正規内圧を充填した無負荷の状態で測定したものとする。標準リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim"、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" とする。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば"INFLATION PRESSURE" とする。
【0031】
図示したようなゴム部材の界面は、加硫成形後のタイヤ断面において特定が可能であり、例えば鋭利な刃物でタイヤを切断することによって、その断面に薄く観察されるゴム界面の性状によって判別することができる。
【0032】
[第2実施形態]
次に、図2を参照しながら第2実施形態について説明する。第2実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様の構成であるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で説明した構成と同一の構成には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。後述する第3実施形態もこれと同様である。
【0033】
カーカス4は、ビード部1に設けられたビードコア1aを介してタイヤ径方向外側に巻き上げられた巻き上げ部42を有する。本実施形態では、ベースゴム52の延長端52Eが、巻き上げ部42の先端4Eよりもタイヤ径方向内側に配置されている。したがって、延長端52Eの高さH52は巻き上げ高さH4よりも小さい。図2の例において、延長端52Eは、巻き上げ部42のタイヤ幅方向内側に配置されているが、これに限られず、巻き上げ部42のタイヤ幅方向外側に配置されていてもよい。
【0034】
このように延長端52Eが先端4Eよりもタイヤ径方向内側に配置されていることにより、応力が集中しがちな巻き上げ部42の発熱を抑制して耐久性を向上できる。また、カーカス4の巻き上げ部42とタイヤ幅方向にオーバーラップする程度にベースゴム52が延長されているため、良好な低燃費性能を発揮するうえで都合がよい。本実施形態において、延長端52Eの高さH52は、例えばタイヤ断面高さHTの20〜75%であり、巻き上げ高さH4は、例えばタイヤ断面高さHTの25〜80%である。
【0035】
[第3実施形態]
次に、図3を参照しながら第3実施形態について説明する。ベースゴム52のゴム硬度がサイドウォールゴム6のゴム硬度よりも低い場合(例えば、ゴム硬度差が2度以上)、ベースゴム52をサイドウォール部2まで延長することによりタイヤ剛性が低下するため、操縦安定性能が悪化する恐れがある。そこで、本実施形態では、ゴム硬度が比較的高いリムストリップゴム7をタイヤ径方向外側に向けて延長することにより、ベースゴム52によるタイヤ剛性の低下をリムストリップゴム7で補い、操縦安定性能の維持向上を図っている。
【0036】
本実施形態では、リムストリップゴム7がタイヤ最大幅位置2mを超えてタイヤ径方向外側に延びている。即ち、リムストリップゴム7の外側端7Eは、タイヤ最大幅位置2mよりもタイヤ径方向外側に配置されている。本実施形態において、リムストリップゴム7の高さH7はタイヤ断面高さHTの50%以上であることが好ましい。ベースゴム52とリムストリップゴム7との界面の形成を避ける観点から、高さH7はタイヤ断面高さHTの80%未満であることが好ましい。
【0037】
本実施形態においても、ベースゴム52はリムストリップゴム7に接しないように設けられている。図3の例では、タイヤ径方向外側に向けて延長したリムストリップゴム7がベースゴム52とタイヤ幅方向にオーバーラップしており、高さH7が高さH52よりも大きい。しかし、ベースゴム52とリムストリップゴム7との間に巻き上げ部42が介在しているため、それらが互いに接しない。かかる構成において、巻き上げ高さH4は、高さH7と同じかそれよりも大きく、例えばタイヤ断面高さHTの25〜80%に設定される。
【0038】
本発明の空気入りタイヤは、サイドウォール部を上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、製法などがいずれも本発明に採用できる。
【0039】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0040】
本発明の構成と効果を具体的に示すため、下記(1)〜(4)の評価を行ったので、説明する。
【0041】
(1)低燃費性能
ISO条件にて転がり抵抗を測定し、その測定結果の逆数を算出して、比較例を100として指数化した。数値が大きいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性能に優れることを示す。
【0042】
(2)中周波帯域のロードノイズ(ノイズ性能)
運転席の耳元位置にマイクを設置し、荒れた路面を時速60km/hで走行したときの中周波帯域(315Hz帯)の音圧を計測して、比較例を100として指数化した。数値が大きいほど音圧レベルが低く、ノイズ性能に優れることを示す。
【0043】
(3)低周波帯域のロードノイズ
運転席の耳元位置にマイクを設置し、荒れた路面を時速60km/hで走行したときの低周波帯域(80Hz帯)の音圧を計測して、比較例を100として指数化した。数値が大きいほど音圧レベルが低いことを示す。
【0044】
(4)操縦安定性能
タイヤをテスト車両に装着し、実車走行で旋回や制動、加速試験などを実施してドライバーによる官能評価を行い、比較例を100として指数化した。数値が大きいほど操縦安定性能に優れることを示す。
【0045】
試験に供したタイヤのサイズは195/65R15であり、これをJATMAに規定されるサイズの標準リムに装着して、空気圧を240kPaとした。表1のように、ベースゴムの延長端の高さ(H52)、カーカス巻き上げ高さ(H4)、リムストリップゴムの高さ(H7)、及び、バットレス領域でのタイヤ厚み(T2b)を種々に異ならせ、その他の構成は共通にして、比較例及び実施例1〜6とした。比較例は、サイドウォール部まで延長されていない通常のベースゴムを備えたものである。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、実施例1〜6では、いずれも良好な低燃費性能が発揮され、しかも中周波帯域のロードノイズ(ノイズ性能)の悪化を抑制できている。また、実施例1,4では、一次固有値を下げることにより、低周波帯域のロードノイズを低減できている。実施例2,6では、タイヤ剛性の低下をリムストリップゴムで補うことにより、操縦安定性能を維持向上できている。
【符号の説明】
【0048】
1 ビード部
1a ビードコア
2 サイドウォール部
2b バットレス領域
2m タイヤ最大幅位置
3 トレッド部
4 カーカス
5 トレッドゴム
6 サイドウォールゴム
7 リムストリップゴム
51 キャップゴム
52 ベースゴム
52E 延長端
BL ビードベースライン
HT タイヤ断面高さ
T 空気入りタイヤ
図1
図2
図3