特開2020-100780(P2020-100780A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-100780熱可塑性樹脂組成物、成形体、および成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-100780(P2020-100780A)
(43)【公開日】2020年7月2日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、成形体、および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20200605BHJP
   C08L 33/16 20060101ALI20200605BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20200605BHJP
   C08F 220/24 20060101ALI20200605BHJP
   C08C 19/20 20060101ALI20200605BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20200605BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L33/16
   C08F220/12
   C08F220/24
   C08C19/20
   C08J5/00CEW
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-241403(P2018-241403)
(22)【出願日】2018年12月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】千葉 香奈
(72)【発明者】
【氏名】天野 良治
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA26
4F071AA33X
4F071AA61X
4F071AF04
4F071AF45
4F071AH03
4F071AH04
4F071AH05
4F071BA01
4F071BB05
4F071BB06
4F071BB07
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC12
4J002AA01W
4J002BB03W
4J002BB12W
4J002BC03W
4J002BD04W
4J002BD12W
4J002BG06W
4J002BG08X
4J002CB00W
4J002CF00W
4J002CG00W
4J002CH07W
4J002CK02W
4J002CL00W
4J002GR00
4J002GT00
4J100AL02P
4J100AL08Q
4J100AM21Q
4J100BA15Q
4J100BB18Q
4J100CA03
4J100DA22
4J100DA36
4J100FA03
4J100FA19
4J100GA06
4J100GC07
4J100GC35
4J100HA53
4J100HA55
4J100HC70
4J100HE05
4J100HE14
4J100JA20
(57)【要約】
【課題】良好な撥水撥油性能を有する成形物を得られる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、含フッ素共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、含フッ素共重合体は、特定の式で表される化合物に基づく繰り返し単位と、特定の非フッ素単量体に基づく繰り返し単位と、1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位とを、それぞれ特定量含む、熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、含フッ素共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記含フッ素共重合体は、式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と、非フッ素単量体に基づく繰り返し単位と、1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位とを含み、
前記含フッ素共重合体の全質量に対して、前記式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の含有量が15質量%〜65質量%であり、前記非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の含有量が20質量%〜70質量%であり、前記1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位の含有量が5質量%〜20質量%であり、ただし、前記非フッ素単量体に基づく繰り返し単位が鎖状アルキル基含有単量体に基づく繰り返し単位を含むときは、前記含フッ素共重合体の全質量に対して、前記鎖状アルキル基含有単量体に基づく繰り返し単位の含有量が20質量%〜60質量%であり、
前記含フッ素共重合体において、前記式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と前記非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の質量比[式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の合計質量/非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の合計質量]が78.9/21.1〜21.1/78.9であり、
前記含フッ素共重合体の熱分解温度が250℃以上であり、
前記含フッ素共重合体の合計含有量が、前記熱可塑性樹脂と前記含フッ素共重合体の合計質量に対して、0.5質量%〜10質量%であり、かつ、
前記熱可塑性樹脂と前記含フッ素共重合体の合計含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して、80質量%以上である、
熱可塑性樹脂組成物。
CH=CR−CO−X−CR−(CHn1−(COO)n2−Q−Rf (1)
式(1)中:
は、水素原子またはメチル基を表す;
Xは、−O−または−NR−を表す;
、RおよびRは、相互に独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、または下記式(r)で表される基を表す;
は、単結合または二価の連結基を表す;
Rfは、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を表す;
n1は、0〜4の整数を表す;および、
n2は、0または1を表す。
−(CHm1−(COO)m2−Q−Rf (r)
式(r)中:
は、単結合または二価の連結基を表す;
Rfは、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を表す;
m1は、0〜4の整数を表す;および、
m2は、0または1を表す。
【請求項2】
前記非フッ素単量体が、式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
CH=CR−Q−Q−R (2)
式(2)中:
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す;
は、単結合、−COO−、または−CONH−を表す;
は、単結合または二価の連結基を表す;および、
は、水素原子、OH基、炭素数1〜30の鎖状アルキル基、環状アルキル基、または芳香環を表す。
【請求項3】
前記1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物が、1分子中に式(3)で表される基を2個以上有する、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
−OCO−(CH−CHR−(CH−SH (3)
式(3)中:
aは、0〜2の整数を表す;
bは、0または1を表す;
は、炭素数1または2のアルキル基を表す。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を加熱成形してなる成形物。
【請求項5】
押出成形、射出成形およびブロー成形からなる群から選択されるいずれかの成形方法によって加熱成形してなる、請求項4に記載の成形物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を加熱成形する工程
を備える、成形物の製造方法。
【請求項7】
前記加熱成形する工程において、押出成形、射出成形尾よびブロー成形からなる群から選択されるいずれかの成形方法によって加熱成形する、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、成形体、および成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形物表面に撥水撥油性を付与するため、表面にフッ素処理を施す技術は従来から知られており、例えば、成形物の表面に対する浸漬処理および塗布処理が挙げられる。
しかし、成形物の表面にフッ素処理を施す方法では、撥水撥油機能の持続性が弱く、繰り返し使用することにより撥水撥油機能が低下するという問題があった。
【0003】
この問題に対して、例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂および特定の含フッ素重合体を含んでなる樹脂組成物、および、その樹脂組成物を成形してなる成形体が記載されている。特許文献1に記載された技術は、成形加工前の段階で樹脂中にフッ素化合物を加え溶融混練することで、成形後表面にフッ素成分を偏析させ、持続的な撥水撥油性を付与しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−037085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者は、特許文献1に記載された樹脂組成物を成形してなる成形体は、撥水撥油性に改善の余地があることを知見した。
【0006】
そこで、本発明は、良好な撥水撥油性能を有する成形物を得られる熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、良好な撥水撥油性能を有する成形物およびその製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、熱可塑性樹脂と、特定の含フッ素共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物によれば、良好な撥水撥油性能を有する成形物を得られることを知得し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者は、以下の構成により、上記課題を解決できることを知得した。
【0008】
[1] 熱可塑性樹脂と、含フッ素共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記含フッ素共重合体は、式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と、非フッ素単量体に基づく繰り返し単位と、1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位とを含み、
前記含フッ素共重合体の全質量に対して、前記式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の含有量が15質量%〜65質量%であり、前記非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の含有量が20質量%〜70質量%であり、前記1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位の含有量が5質量%〜20質量%であり、ただし、前記非フッ素単量体に基づく繰り返し単位が鎖状アルキル基含有単量体に基づく繰り返し単位を含むときは、前記含フッ素共重合体の全質量に対して、前記鎖状アルキル基含有単量体に基づく繰り返し単位の含有量が20質量%〜60質量%であり、
前記含フッ素共重合体において、前記式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と前記非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の質量比[式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の合計質量/非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の合計質量]が78.9/21.1〜21.1/78.9であり、
前記含フッ素共重合体の熱分解温度が250℃以上であり、
前記含フッ素共重合体の合計含有量が、前記熱可塑性樹脂と前記含フッ素共重合体の合計質量に対して、0.5質量%〜10質量%であり、かつ、
前記熱可塑性樹脂と前記含フッ素共重合体の合計含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して、80質量%以上である、
熱可塑性樹脂組成物。
CH=CR−CO−X−CR−(CHn1−(COO)n2−Q−Rf (1)
式(1)中:
は、水素原子またはメチル基を表す;
Xは、−O−または−NR−を表す;
、RおよびRは、相互に独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、または下記式(r)で表される基を表す;
は、単結合または二価の連結基を表す;
Rfは、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を表す;
n1は、0〜4の整数を表す;および、
n2は、0または1を表す。
−(CHm1−(COO)m2−Q−Rf (r)
式(r)中:
は、単結合または二価の連結基を表す;
Rfは、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を表す;
m1は、0〜4の整数を表す;および、
m2は、0または1を表す。
[2] 前記非フッ素単量体が、式(2)で表される化合物である、上記[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
CH=CR−Q−Q−R (2)
式(2)中:
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す;
は、単結合、−COO−、または−CONH−を表す;
は、単結合または二価の連結基を表す;および、
は、水素原子、OH基、炭素数1〜30の鎖状アルキル基、環状アルキル基、または芳香環を表す。
[3] 前記1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物が、1分子中に式(3)で表される基を2個以上有する、上記[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
−OCO−(CH−CHR−(CH−SH (3)
式(3)中:
aは、0〜2の整数を表す;
bは、0または1を表す;
は、炭素数1または2のアルキル基を表す。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物を加熱成形してなる成形物。
[5] 押出成形、射出成形およびブロー成形からなる群から選択されるいずれかの成形方法によって加熱成形してなる、上記[4]に記載の成形物。
[6] 上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物を加熱成形する工程
を備える、成形物の製造方法。
[7] 前記加熱成形する工程において、押出成形、射出成形尾よびブロー成形からなる群から選択されるいずれかの成形方法によって加熱成形する、上記[6]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な撥水撥油性能を有する成形物を得られる熱可塑性樹脂組成物を提供できる。
また、本発明は、良好な撥水撥油性能を有する成形物およびその製造方法も提供できる。
【0010】
本発明の成形物では、含フッ素共重合体が成形物の表面に偏析することにより、成形物の表面に良好な撥水撥油性を付与することができると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔「〜」を用いて表される範囲〕
本明細書において、「〜」を用いて表される範囲には、「〜」の両端がその範囲内に含まれるものとする。例えば、「A〜B」と表される範囲には、「A」および「B」が含まれる。
【0012】
〔(メタ)アクリル〕
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」および「メタクリル」を包含するものとし、同様に、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」および「メタクリレート」を包含するものとする。
【0013】
〔−CO−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基(カルボニル基)を「−CO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化1】
【0014】
〔−COO−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基(エステル結合)を「−COO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化2】
【0015】
〔−OCO−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基(エステル結合)を「−OCO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化3】
【0016】
〔−N(R)−〕
本発明において、下記式で表される2価の連結基(イミノ基)を「−N(R)−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表し、「R」は水素原子または1価の基を表す。
【化4】
【0017】
〔−CONH−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基(アミド結合)を「−CONH−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化5】
【0018】
〔−NHCO−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基(アミド結合)を「−NHCO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化6】
【0019】
〔−SO−〕
本発明において、下記化学式で表される二価の連結基(スルホニル基)を「−SO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化7】
【0020】
〔−SCO−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基を「−SCO−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化8】
【0021】
〔−COS−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基を「−COS−」と表記することがある。ただし、下記式中「*」は他の原子または原子団との結合点を表す。
【化9】
【0022】
〔−PO(OR)−,−P(=O)(OR)−〕
本発明において、下記式で表される二価の連結基を「−PO(OR)−」または「−P(=O)(OR)−」と表記することがある。ただし、下記式中「」および「」は他の原子または原子団との結合点を表し、「R」は1価の基を表す。
【化10】
【0023】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、含フッ素共重合体とを含む。
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と含フッ素共重合体の合計含有量は、熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して、80質量%以上であり、80質量%〜100質量%が好ましい。熱可塑性樹脂と含フッ素共重合体の合計含有量がこの範囲内であると、熱可塑性樹脂組成物表面に撥水撥油性を効果的に発現させることができる。熱可塑性樹脂と含フッ素共重合体の合計含有量が80質量%未満であると、熱可塑性樹脂組成物表面に持続的な撥水撥油性を付与することができない。
【0024】
〈熱可塑性樹脂〉
熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、具体例として、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ウレタン樹脂、および含フッ素樹脂が挙げられる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂としては、撥水性撥油性等の改良効果が高いことから、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびポリフェニルエーテル樹脂がからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂および/またはポリプロピレン樹脂がより好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂は、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて、用いることができる。
【0027】
〈含フッ素共重合体〉
含フッ素共重合体は、式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と、非フッ素単量体に基づく繰り返し単位と、1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位とを含む。
【0028】
《熱可塑性樹脂組成物中の含フッ素共重合体の含有量》
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、含フッ素共重合体の合計含有量は、熱可塑性樹脂と含フッ素共重合体の合計質量に対して、0.5質量%〜10質量%であり、0.5質量%〜7.0質量%が好ましく、0.5質量%〜5.0質量%がより好ましい。含フッ素共重合体の合計含有量がこの範囲内であると、熱可塑性樹脂組成物を加熱成形して得られる成形物の表面の撥液性が良好であるとともに、含フッ素共重合体が熱可塑性樹脂に混ざりやすく、熱可塑性樹脂組成物の強度が低下しない。また、含フッ素共重合体の合計含有量が0.5質量%未満であると、効果的に撥水撥油性能を発現することができず、10質量%を超えると、樹脂混錬および成型が難しくなることに加え、成形物としてのコストアップにつながる。
【0029】
《式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の質量比》
含フッ素共重合体において、式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の質量比[式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の合計質量/非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の合計質量]は、78.9/21.1〜21.1/78.9である。式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の質量比がこの範囲内であると、比較的安価でかつ樹脂成形物に撥液性能を付与できる。また、式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位と非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の質量比が78.9/21.1よりも大きいと、コスト面で高価となる。21.1/78.9よりも小さいと、撥液性能が十分に発揮できない。
【0030】
《含フッ素共重合体の熱分解温度》
上記含フッ素共重合体の熱分解温度は250℃以上であり、樹脂混錬時に発生するせん断熱を考慮すると、250℃〜350℃が好ましい。
ただし、上記熱分解温度は、含フッ素共重合体を50℃から450℃に5℃/分の速度で昇温したときの含フッ素共重合体の質量の変化を測定し、得られたグラフにおいて、重量が減少し始める点と曲線の傾きが一番大きい点の外挿点(一般に補外開始温度と呼ばれるものと同値である。)の温度である。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、含フッ素共重合体の熱分解温度が250℃以上であることから、熱可塑性樹脂の混錬、成形温度に耐えられる耐熱性を有する。
【0032】
《式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位》
式(1)で表される化合物について説明する。
CH=CR−CO−X−CR−(CHn1−(COO)n2−Q−Rf (1)
式(1)中の記号の意味は以下のとおりである。
【0033】
は、水素原子またはメチル基を表し、メチル基であることが好ましい。
【0034】
Xは、−O−または−NR−を表し、−O−であることが好ましい。
、RおよびRは、相互に独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、または下記式(r)で表される基を表す。
【0035】
は、単結合または二価の連結基を表す。
上記二価の連結基としては、炭素数が1〜10のアルキレン基、炭素数が2〜10のアルケニレン基、炭素数が1〜10のオキシアルキレン基、6員のアリーレン基、4〜6員環の二価脂環基、5または6員のヘテロアリーレン基、−X−、−X−X−、−Z−X−、−X−Z−X−、−Z−X−X−、−Z−X−Z−X−、およびこれらのうち2つ以上を組み合わせてなる二価の基が挙げられる。ここで、複数の環基を組み合わせてなる二価の基においては、2つの単環が縮合していてもよい。
【0036】
上記−X−、−X−X−、−Z−X−、−X−Z−X−、−Z−X−X−および−Z−X−Z−X−において、
およびX:それぞれ独立に、炭素数が1〜10のアルキレン基、炭素数が1〜10のオキシアルキレン基、6員のアリーレン基、4〜6員の二価脂環基、5または6員のヘテロアリーレン基、および6員のアリーレン基、ならびに4〜6員の二価脂環基および5もしくは6員のヘテロアリーレン基のうち2つ以上組み合わせてなる、2つ以上の単環が縮合していてもよい二価の基からなる群から選択される二価の基を表し、
およびZ:それぞれ独立に、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−、−N(R)−、−SO−、−PO(OR)−、−N(R)−COO−、−COO−N(R)−、−N(R)−CO−、−CO−N(R)−、−N(R)−SO−、−SO−N(R)−、−N(R)−PO(OR)−、および−PO(OR)−N(R)−からなる群から選択される二価の基を表し、上記式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。
【0037】
上記Qは、二価の連結基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルキレン基であることがより好ましい。
【0038】
Rfは、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を表し、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基の例は、−CF、−CFCF、−CFCFCF、−CF(CF、−CFCFCFCF、−CFCF(CF、−C(CF、−(CFCF、−(CFCF(CF、−CFC(CF、−CF(CF)CFCFCF、−(CFCF、および−(CFCF(CFであるが、これらに限定されるものではない。
Rfは、−(CFCFまたは−(CFCFであることが好ましく、−(CFCFであることがより好ましい。
【0039】
n1は、0〜4の整数を表す。
n2は、0または1を表す。
【0040】
−(CHm1−(COO)m2−Q−Rf (r)
式(r)中の記号の意味は以下のとおりである。
【0041】
は、単結合または二価の連結器を表す。
上記二価の連結基としては、炭素数が1〜10のアルキレン基、炭素数が2〜10のアルケニレン基、炭素数が1〜10のオキシアルキレン基、6員のアリーレン基、4〜6員環の二価脂環基、5または6員のヘテロアリーレン基、−X−、−X−X−、−Z−X−、−X−Z−X−、−Z−X−X−、−Z−X−Z−X−、およびこれらのうち2つ以上を組み合わせてなる二価の基が挙げられる。ここで、複数の環基を組み合わせてなる二価の基においては、2つの単環が縮合していてもよい。
【0042】
上記−X−、−X−X−、−Z−X−、−X−Z−X−、−Z−X−X−および−Z−X−Z−X−において、
およびX:それぞれ独立に、炭素数が1〜10のアルキレン基、炭素数が1〜10のオキシアルキレン基、6員のアリーレン基、4〜6員の二価脂環基、5または6員のヘテロアリーレン基、および6員のアリーレン基、ならびに4〜6員の二価脂環基および5もしくは6員のヘテロアリーレン基のうち2つ以上組み合わせてなる、2つ以上の単環が縮合していてもよい二価の基からなる群から選択される二価の基を表し、
およびZ:それぞれ独立に、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−、−N(R)−、−SO−、−PO(OR)−、−N(R)−COO−、−COO−N(R)−、−N(R)−CO−、−CO−N(R)−、−N(R)−SO−、−SO−N(R)−、−N(R)−PO(OR)−、および−PO(OR)−N(R)−からなる群から選択される二価の基を表し、上記式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。
【0043】
上記Qは、二価の連結基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルキレン基であることがより好ましい。
【0044】
Rfは、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を表し、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基の例は、Rfについて記載したとおりである。
Rfは、−(CFCFまたは−(CFCFであることが好ましく、−(CFCFであることがより好ましい。
【0045】
m1は、0〜4の整数を表す。
m2は、0または1を表す。
【0046】
(式(1)で表される化合物の具体例)
式(1)で表される化合物の具体例は以下に掲げるものであるが、これらに限定されるものではない。
CH=CH−COO−CH−(CFCF
CH=C(CH)−COO−CH−(CFCF
CH=CH−COO−(CH−(CFCF(CF
CH=C(CH)−COO−(CH−(CFCF
CH=CH−COO−(CH−(CFCF
CH=CH−COO−(CH−CFCF
【0047】
【化11】
【0048】
【化12】
【0049】
【化13】
【0050】
(式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の含有量)
式(1)で表される化合物に基づく繰り返し単位の含有量は、含フッ素共重合体の全質量に対して、15質量%〜65質量%である。
【0051】
《非フッ素単量体に基づく繰り返し単位》
非フッ素単量体について説明する。
非フッ素単量体は、特に限定されないが、式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0052】
CH=CR−Q−Q−R (2)
式(2)中の記号の意味は以下のとおりである。
【0053】
は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、水素原子またはメチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0054】
は、単結合、−COO−、または−CONH−を表し、−COO−または−CONH−であることが好ましく、−COO−であることがより好ましい。
【0055】
は、単結合または二価の連結基を表す。
上記二価の連結基としては、炭素数が1〜10のアルキレン基、炭素数が2〜10のアルケニレン基、炭素数が1〜10のオキシアルキレン基、6員のアリーレン基、4〜6員環の二価脂環基、5または6員のヘテロアリーレン基、−X−、−X−X−、−Z−X−、−X−Z−X−、−Z−X−X−、−Z−X−Z−X−、およびこれらのうち2つ以上を組み合わせてなる二価の基が挙げられる。ここで、複数の環基を組み合わせてなる二価の基においては、2つの単環が縮合していてもよい。
【0056】
上記−X−、−X−X−、−Z−X−、−X−Z−X−、−Z−X−X−および−Z−X−Z−X−において、
およびX:それぞれ独立に、炭素数が1〜10のアルキレン基、炭素数が1〜10のオキシアルキレン基、6員のアリーレン基、4〜6員の二価脂環基、5または6員のヘテロアリーレン基、および6員のアリーレン基、ならびに4〜6員の二価脂環基および5もしくは6員のヘテロアリーレン基のうち2つ以上組み合わせてなる、2つ以上の単環が縮合していてもよい二価の基からなる群から選択される二価の基を表し、
およびZ:それぞれ独立に、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−COS−、−SCO−、−N(R)−、−SO−、−PO(OR)−、−N(R)−COO−、−COO−N(R)−、−N(R)−CO−、−CO−N(R)−、−N(R)−SO−、−SO−N(R)−、−N(R)−PO(OR)−、および−PO(OR)−N(R)−からなる群から選択される二価の基を表し、上記式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。
【0057】
上記Qは、二価の連結基であることが好ましい。
【0058】
は、水素原子、OH基、炭素数1〜30の鎖状アルキル基、環状アルキル基、または芳香環を表す。
【0059】
(非フッ素単量体の具体例)
非フッ素単量体の具体例としては、n−ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリルアクリレート、およびベヘニルメタクリレートが挙げられる。
非フッ素単量体としては、Rが鎖状アルキル基である、n−ステアリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、およびベヘニルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0060】
(非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の含有量)
非フッ素単量体に基づく繰り返し単位の含有量は、含フッ素共重合体の全質量に対して、20質量%〜70質量%である。
ただし、非フッ素単量体に基づく繰り返し単位が鎖状アルキル基含有単量体に基づく繰り返し単位を含むときは、含フッ素共重合体の全質量に対して、鎖状アルキル基含有単量体に基づく繰り返し単位の含有量は、20質量%〜60質量%である。
【0061】
《1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位》
1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物について説明する。
1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物は、特に限定されないが、1分子中に式(3)で表される基を2個以上有する化合物であることが好ましい。
【0062】
−OCO−(CH−CHR−(CH−SH (3)
式(3)中の記号の意味は以下のとおりである。
【0063】
aは、0〜2の整数を表し、1であることが好ましい。
bは、0または1を表し、0であることが好ましい。
【0064】
は、炭素数1または2のアルキル基を表し、メチル基であることが好ましい。
【0065】
(1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物の具体例)
1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物の具体例としては、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、および1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタンが挙げられる。
【0066】
1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、および1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0067】
(1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位の含有量)
1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物に基づく繰り返し単位の含有量は、含フッ素共重合体の全質量に対して、5質量%〜20質量%であり、6質量%〜19質量%が好ましく、7質量%〜18質量%がより好ましい。
【0068】
《含フッ素共重合体の合成方法》
含フッ素共重合体は公知の方法で合成できる。例えば、式(1)で表される化合物と、非フッ素単量体と、1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物を、溶液重合、懸濁重合、または乳化重合など、各種の重合方法を用いて重合することにより、含フッ素共重合体を合成することができる。
【0069】
〈その他の成分〉
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および含フッ素共重合体の他に、重合開始剤、溶媒、および、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、顔料および帯電防止剤等の添加剤を加えることも可能である。
【0070】
(重合開始剤)
重合開始剤は、特に限定されず、例えば2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ラウロイルペルオキシド等の有機化酸化物等が挙げられる。
【0071】
(溶媒)
溶媒は、熱可塑性樹脂および含フッ素共重合体を溶解できるものであれば特に限定されない。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、トルエンなど一般的な溶媒の他、フロン、ハイドロフルオロエーテル、キシレンヘキサフロライド等のフッ素系溶媒等も用いてもよい。
【0072】
〈熱可塑性樹脂組成物の製造方法〉
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂と含フッ素共重合体を混錬する方法が挙げられる。
熱可塑性樹脂と含フッ素共重合体の混練方法は、特に限定されないが、例えば、一軸押出機、二軸押出機、またはニーダーを用いた方法が挙げられる。
【0073】
[成形物および成形物の製造方法]
本発明の成形物は、上述した熱可塑性樹脂組成物を加熱成形してなるものである。
すなわち、上述した熱可塑性樹脂組成物を加熱成形する工程を備える成形物の製造方法によって、本発明の成形物を製造することができる。
加熱成形する方法は、特に限定されないが、押出成形、射出成形およびブロー成形からなる群から選択されるいずれかの成形方法によることが好ましい。
【0074】
成形物の撥液性を発揮させるため、80℃〜120℃の温度で加熱処理をしてもよい。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げて詳細を説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、単位は特記しない限り質量%である。
【0076】
[含フッ素単量体の合成]
300mL四つ口フラスコに2−パーフルオロヘキシルエチルアルコール(110.3g)と、L−アスパラギン酸(16.65g)と、シクロヘキサン(62.4g)と、p−トルエンスルホン酸一水和物(28.46g)とを仕込み、生成する水を除去しながら還流を20時間行った。反応液を60℃以下に冷却し、析出した固体をアセトンおよびイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄しながら減圧濾過を行った。得られた固体を真空乾燥し、白色の固体88.5gを得た。
得られた固体(79.78g)と、塩化メチレン(199.44g)と、トリエチルアミン(17.8g)とを300mL四つ口フラスコに仕込み、氷水で0.3℃まで冷却した。そこに、メタクリル酸クロリド(8.69g)をゆっくりと滴下した。室温で2時間撹拌を行った後ろ過した。そこに、ヒドロキノン(0.01g)を加えてから水で二回洗浄し、下層を回収して減圧濃縮を行い、46.2gの淡黄色個体を得た。そこに、酢酸エチルおよびヘキサンを加えて加熱溶解させた後、氷冷して結晶を析出させた。
得られた結晶をろ別回収後、減圧乾燥して、20.0gの淡黄色固体として下記式で表される化合物(ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)=N−メタクリロイルアスパルタート)を得た。
【0077】
【化14】
【0078】
[含フッ素共重合体の合成]
〈合成例1〜25〉
100mLデュラン瓶に、含フッ素単量体(以下「単量体A」という場合がある。)、非フッ素単量体(以下「単量体B」という場合がある。)、およびメルカプト基含有単量体(以下「単量体C」という場合がある。)を表1に示す量(単位:質量%)で仕込み(単量体混合物)、さらに、単量体混合物100gに対して、アゾ系重合開始剤(ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート);V−601,富士フイルム和光純薬社製)を0.069g〜0.070gと、溶媒(酢酸エチル,富士フイルム和光純薬社製)を単量体Aと単量体Bの合計質量の2質量%とを仕込み、系内を窒素置換したのち、蓋を閉め水温75℃で、15時間以上反応させた。
室温に冷却したのち、デュラン瓶にメタノールを50g入れて再沈、ろ過、および乾燥することにより、または、溶媒を留去することにより、目的物を得た。
【0079】
【表1-1】
【0080】
【表1-2】
【0081】
【表1-3】
【0082】
表1中の単量体A、単量体B、および単量体Cは以下のとおりである。
(単量体A)
C6FMA:CH=C(CH)COOCHCH(CFCF (C6FMA,AGC社製)
C6SFA:CH=CHCOOCHCH(CFCF (C6SFA,ダイキン工業社製)
ASP:「含フッ素単量体の合成」において合成した化合物(ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)=N−メタクリロイルアスパルタート)
【0083】
(単量体B)
LE S:n−ステアリルメタクリレート (ライトエステルS,共栄社化学社製)
LA S-A:ステアリルアクリレート (ライトアクリレートS−A,共栄社化学社製)
VMA-70:ベヘニルメタクリレート (C22:70%;ブレンマー(R)VMA−70,日油社製;)
LE CH:シクロヘキシルメタクリレート (ライトエステルCH,共栄社化学社製)
LE BZ:ベンジルメタクリレート (ライトエステルBZ,共栄社化学社製)
BZAA:ベンジルアクリレート (FA−BZA,日立化成社製)
LE PO:フェノキシエチルメタクリレート (ライトエステルPO,共栄社化学社製)
2-HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
PE-350:ポリエチレングリコールモノメタクリレート (ブレンマー(R)PE−350,日油社製)
DEAA:ジエチルアクリルアミド (KJケミカルズ社製)
【0084】
(単量体C)
MT-PE1:ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート) (カレンズMT(R) PE1,昭和電工社製)
MT-NR1:1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン (カレンズMT(R) NR1,昭和電工社製)
MT-BD1:1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン (カレンズMT(R) BD1,昭和電工社製)
【0085】
[比較共重合体の合成]
〈比較合成例1〜8〉
100mlデュラン瓶に、含フッ素単量体(単量体A)、非フッ素単量体(単量体B)、およびメルカプト基含有単量体(単量体C)を表2に示す量(単位:質量%)で仕込み(単量体混合物)、さらに、単量体混合物100gに対して、アゾ系重合開始剤(V−601)を0.069g〜0.070gと、溶媒(酢酸エチル)を単量体Aと単量体Bの合計質量の2重量%とを仕込み、系内を窒素置換したのち、蓋を閉め、水温75℃で、15時間以上反応させた。
室温に冷却したのち、デュラン瓶にメタノールを50g入れて再沈、ろ過、および乾燥することにより、または、溶媒を留去することにより、目的物を得た。
【0086】
【表2】
【0087】
表2中の単量体A、単量体B、および単量体Cは、表1と同様である。
【0088】
[共重合体の耐熱性評価(熱分解温度の測定)]
〈含フッ素共重合体1〜25、比較共重合体1〜8〉
合成例1〜25で合成した含フッ素共重合体1〜25および比較合成例1〜8で合成した比較共重合体1〜8の熱分解温度を、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6300,セイコーインスツルメンツ社製)を用いて測定した。
【0089】
なお、熱分解温度は、含フッ素共重合体または比較共重合体を50℃から450℃に5℃/分の速度で昇温したときの含フッ素共重合体または比較共重合体の質量の変化を測定し、得られたグラフにおいて、重量が減少し始める点と曲線の傾きが一番大きい点の外挿点の温度である。
【0090】
測定結果を表3(含フッ素共重合体1〜25)および表4(比較共重合体1〜8)に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
(共重合体の耐熱性評価結果)
合成例1〜25の含フッ素共重合体は熱分解温度が250℃以上であり、耐熱性が優れていた。これに対し、比較共重合体4、5の熱分解温度は250℃未満であり、耐熱性が劣っていた。
【0094】
[成形物表面の撥液性評価(接触角の測定)]
1.測定用サンプルの作製
(実施例1〜8)
熱可塑性樹脂(ポリプロピレン;ノバテックPP EA9,日本ポロプロピレン社製)と合成例1〜8で合成した含フッ素共重合体1〜8を、熱可塑性樹脂99.0質量%、含フッ素共重合体1.0質量%の割合で混合した後、複合型混錬押出機(IMC−1A75型,井元製作所社製)を用いて190℃で溶融混練し、スクリュー式立型射出成型機(TS−5−DV8−SE,田端機械工業社製)を用いて、接触角を測定するための板(板のサイズ 70mm×30mm×1〜3mm;段差あり)を作製した。
【0095】
(実施例9〜25)
熱可塑性樹脂(ポリプロピレンパウダー;PPW−5J,セイシン企業社製)と合成例9〜25で合成した含フッ素共重合体9〜25を、熱可塑性樹脂99.0質量%、含フッ素共重合体1.0質量%の割合で混合した後、ステンレスシャーレに入れ、200℃に加熱したホットプレートの上でスパチュラを用いて溶融撹拌した後、冷凍庫で冷却しステンレスシャーレから外して、接触角を測定するための板(板のサイズ(直径48mm×厚さ0.4mm;段差なし))を作製した。
【0096】
(比較例1〜8)
熱可塑性樹脂(ポリプロピレン;ノバテックPP EA9,日本ポロプロピレン社製)と比較合成例1〜8で合成した比較共重合体1〜8を、熱可塑性樹脂99.0質量%、含フッ素共重合体1.0質量%の割合で混合した後、複合型混錬押出機(IMC−1A75型 井元製作所製)を用いて190℃で溶融混練し、スクリュー式立型射出成型機(TS−5−DV8−SE 田端機械工業社製)を用いて、接触角を測定するための板(板のサイズ 70mm×30mm×1〜3mm;段差つき)を作製した。
【0097】
2.接触角の測定
作製した板を120℃に加熱したオーブンにより30分間加熱処理した後、自動接触角測定装置(OCA20,英弘精機社製)を用いて、脱イオン水(DIW)、ノルマルヘキサデカン(n−HD)、およびイソプロピルアルコール(IPA)に対する接触角を測定した。
測定結果を表5(実施例1〜25)および表6(比較例1〜8)に示す。
【0098】
【表5-1】
【0099】
【表5-2】
【0100】
【表5-3】
【0101】
【表6】
【0102】
(成形物表面の撥液性評価結果)
実施例1〜25の成形物は、脱イオン水(DIW)、イソプロピルアルコール(IPA)、およびノルマルヘキサデカン(n−HD)のすべてに対して、撥液性が良好であった
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の樹脂組成物から得られた成形物は比較的低コストで作製できることから、工業用薬品容器、家庭用品、床材、文房具、化粧品容器等の製品に使用可能である。
また、繊維への応用も可能であるため、衣料品関連にも使用可能である。