【解決手段】鋼構造物の溶接部を保護する方法であって、(1)溶接部の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シートで被覆する工程、(2)第1保護シートの周辺部を液状固定化剤で被覆した後、第1保護シートと液状固定化剤の被覆面とを、工程(3)で使用する塗料に対して不透過性の第2保護シートで更に被覆して、第2保護シートを鋼構造物に固定する工程、及び(3)第2保護シートとその周辺部とを塗料で被覆する工程を含むことを特徴とする方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の「鋼構造物の溶接部を保護する方法」は、
(1)溶接部の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シートで被覆する工程、
(2)第1保護シートの周辺部を液状固定化剤で被覆した後、第1保護シートと液状固定化剤の被覆面とを、工程(3)で使用する塗料に対して不透過性の第2保護シートで更に被覆して、第2保護シートを鋼構造物に固定する工程、及び
(3)第2保護シートとその周辺部とを塗料で被覆する工程
を含むことを特徴とする。
【0008】
〔鋼構造物の溶接部〕
「鋼構造物」とは、鋼製部材(例えば、炭素鋼製の鋼板)を用いた構造を有する建造物をいう。具体例としては、液体又は気体を貯蔵するための鋼構造物、橋梁、鉄塔、プラントの配管や、煙突等が挙げられる。
以下、「液体又は気体を貯蔵するための鋼構造物」について詳述する。
「液体又は気体」としては、後記する「危険物」に該当する物品の他、水等の液体や、水素、窒素、酸素、アンモニア、キセノン、アルゴン、プロパンガス、天然ガス等の気体等が挙げられる。
「危険物」としては、例えば、消防法において危険物として規定されている物品が挙げられる。具体例としては、引火性液体(例えば、石油類やアルコール類)や、酸化性液体(例えば、過酸化水素や硝酸)等が挙げられる。
「液体又は気体を貯蔵するための鋼構造物」としては、前記の液体又は気体を貯蔵できるものであれば特に制限はなく、具体例としては、石油タンク、ガスタンク、アンモニアタンクや、消防水用タンク等が挙げられる。石油タンクに対して特に好適に本発明を適用できる。
なお、鋼構造物には、構造物本体(例えば、タンク)に付随する配管類も含まれる。
「溶接部」とは、鋼構造物を構成している2つ以上の鋼製部材(例えば、炭素鋼等の鋼板)が、局部的な加熱や圧力等により冶金的に接合している部分をいう。接合手段は特に限定されないが、例えば、ガス溶接、アーク溶接、電気抵抗溶接や電子ビーム溶接等が挙げられる。
溶接金属と熱影響部(溶接による熱で母材の組織が変化した部分)からなる溶接部は、保安検査又は自主検査の対象部位である。
溶接部には、一般的に「溶接痕の盛り上がり(溶接ビード)」が存在しているので、目視により他の部位(非溶接部)から容易に識別できる。
溶接部の位置に制限はなく、鋼構造物の外部及び内部のいずれに存在していてもよいが、鋼構造物の内部に存在する溶接部に対して本発明を好適に適用できる。
本発明は「液体又は気体を貯蔵するための鋼構造物」以外の鋼構造物、例えば、橋梁、鉄塔や煙突等にも適用可能である。
本発明は、環境保全や安全防災等のためのコーティング(塗料)が内面及び/又は外面に施されている鋼構造物へ特に好適に適用できるが、前記コーティングが施されていない鋼構築物に対しても適用可能である。
【0009】
〔工程(1)〕
第1保護シートは、従来技術で行われていたコーティング(塗料)と溶接部表面との直接接触を回避しつつ、溶接部を保護(発錆防止)するために用いられる。
第1保護シートは可撓性を有し、溶接部に対して高い密着性及び被覆性を有する。したがって、鋼構造物が変形(膨張や収縮)したときでも、当該変形に追従して溶接部表面を被覆し続けることができる。
第1保護シートの材料としては、当該シートに可撓性を付与できるものを制限なく使用できる。金属箔(例えば、アルミニウム製、ステンレス製、銅製の金属箔)や、プラスチック製(例えば、ポリプロピレンやポリエチレン製)又は紙製のシートが好ましい。特に、液体又は若しくは気体を貯蔵するための鋼構造物に関しては、長期間貯蔵物のヘッド(上載荷重)が掛かるため、圧縮強度のあるプラスチック製の保護シートを用いることが好ましい。
第1保護シートは、鋼構造物の構成材料(例えば、炭素鋼等)の発錆を抑制できる防錆性を有することが好ましい。特に、気化性の防錆剤を可撓性基材へ塗布又は混練してなる気化性防錆シートや防錆紙が好ましい。
第1保護シートには、接着剤を使用せず溶接部に吸着可能となる帯電処理を施してもよい。
第1保護シートの大きさは、後記の工程(2)を実施できる大きさであれば特に制限されない。
第1保護シートは、市場で容易に入手可能であるか、又は、公知の方法で製造可能である。
【0010】
第1保護シートによる溶接部の表面の被覆は、接着剤を用いることなく行う。したがって、被覆は、第1保護シートを溶接部の表面へ被せることで行う。
なお、第1保護シートと溶接部とは静電気的に接着(仮固定)されていてもよい。仮固定すると、後記の工程(2)を円滑に実施できる。
【0011】
〔工程(2)〕
「液状固定化剤」は、第2保護シートを鋼構造物に固定するために用いる。液状固定化剤としては、本来は鋼構造物の保護(防錆や、貯蔵物からの遮断等)を目的として用いられている塗料やライニング剤を使用できる。
ライニング剤としては、鋼構造物へ適用されている公知のものを特に制限なく使用できる。具体例としては、ガラスフレークを配合したライニング剤やガラス強化プラスチックを配合したライニング剤等が挙げられる。
塗料としては、鋼構造物へ適用されている公知のもの(例えば、貯蔵物と鋼構造物との直接接触を避けるために、鋼構造物内面へ適用されている塗料)を特に制限なく使用できる。具体例としては、エポキシ樹脂塗料、ガラスフレークを配合したビニルエステル樹脂塗料やタールエポキシ塗料等が挙げられる。液状固定化剤として使用する塗料は、下塗り塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料のいずれであってもよく、鋼構造物の用途に応じて適宜選択できる。液状固定化剤としての塗料は、後記の工程(3)で使用する塗料と同じであってもよい。
鋼構造物が石油タンクである場合、液状固定化剤として用いる塗料としては、合成樹脂塗料(例えば、エポキシ樹脂塗料、ガラスフレークを配合したビニルエステル樹脂塗料、タールエポキシ塗料やポリウレタン樹脂塗料)等が挙げられ、エポキシ樹脂塗料及びガラスフレークを配合したビニルエステル樹脂塗料が好ましい。
液状固定化剤が塗料である場合、塗布領域周囲の塗膜層に用いられている塗料と同じ種類の塗料を用いることが好ましい。
なお、後記する「鋼構造物の溶接部を補修する方法」では、補修前の当該構造物へ適用されていた塗料と同じ種類の塗料を液状固定化剤として用いることが好ましい。
【0012】
液状固定化剤による被覆は、第1保護シートの周辺部に液状固定化剤を塗布することで達成できる。第1保護シートの周辺部とは、当該シートで覆われていない領域をいい、鋼製部材表面であってもよく、鋼製部材表面に塗膜層が設けられている場合には、下塗り塗膜層の表面、中塗り塗膜層の表面、上塗り塗膜層の表面のいずれであってもよい。
液状固定化剤の塗布方法に特に制限はなく、例えば、刷毛、スプレーや、ローラー等を用いて実施できる。
尚、液状固定化剤による被覆対象には、第1保護シートの周辺部に加えて、第1保護シートの一部(外縁部)を含めてもよい。したがって、「第1保護シートの一部(外縁部)」と「該第1保護シートの周辺部」との境界をまたぐ領域を液状固定化剤で被覆してもよい。
【0013】
「第2保護シート」は工程(3)で使用する塗料に対して不透過性(バリア性)である。不透過性であると、下記A〜Cの事象の発生を回避できる。
A.工程(3)の塗料が第2保護シートを透過して第2保護シートと第1保護シートとの間に入り込み、工程(3)の塗料によって形成される塗膜の平滑性が損なわれること。
B.第2保護シートを透過した工程(3)の塗料と接触した第1保護シートが膨潤又は軟化すること。
C.第2保護シートを透過した工程(3)の塗料が、第1保護シートと溶接部表面との間(両者は接着剤を用いることなく接触している)に侵入すること。
第2保護シートとしては、プラスチックフィルムや金属箔等が挙げられる。
プラスチックフィルムの材質は、工程(3)の塗料に対して不透過性である限り特に制限されないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、エチレン―ビニルアルコール共重合(EVOH)樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂や、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂等が挙げられる。
また、プラスチックフィルムは、アルミ、シリカや、酸化アルミを蒸着したフィルムであってもよい。
第2保護シートの強度を高めるために、プラスチックフィルムに繊維補強層を積層してもよい。繊維補強層としてはポリエステル繊維を格子状に配したシート等が挙げられる。
第2保護シートと液状固定化剤との密着性を高めるために、プラスチックフィルムに接着剤付着層(液状固定化剤付着層)を積層してもよい。接着剤付着層としてはPET製の不織布等が挙げられる。
第2保護シートと工程(3)の塗料との密着性を高めるために、プラスチックフィルムにトップコート付着層を積層してもよい。トップコート付着層としてはPET製の不織布等が挙げられる。
トップコート付着層と、プラスチックフィルムと、繊維補強層と接着剤付着層とをこの順番で積層してなるシート(例えば、ShieM−CSシート(株式会社ケー・エフ・シー製))を第2保護シートとして好適に使用できる。
金属箔としては、アルミニウム箔、ステンレス箔や、銅箔等が挙げられる。
第2保護シートの大きさは、後記する被覆工程を実施できる大きさであれば特に制限されない。
第2保護シートは、市場で容易に入手可能であるか、又は、公知の方法で製造可能である。
【0014】
第2保護シートによる被覆は、「第1保護シート(好ましくは第1保護シートの全面)」と「液状固定化剤の被覆面(液状固定化剤が塗布された領域)」とを覆うように第2保護シートを被せることで達成できる。この被覆により第2保護シートと液状固定化剤とが接着して、第2保護シートが鋼構造物に固定される。
【0015】
〔工程(3)〕
工程(3)は、第2保護シートの外部への直接露出に伴う劣化を防ぐために実施する。
工程(3)の塗料としては、液状固定化剤として使用可能なものが挙げられる。工程(3)の塗料は液状固定化剤(塗料)と同じでもよく、異なっていてもよい。
工程(3)の塗料は、その塗布領域周囲の塗膜層に用いられている塗料と同じ種類の塗料を用いることが好ましい。
なお、後記する「鋼構造物の溶接部を補修する方法」では、補修前の当該構造物へ適用されていた塗料と同じ種類の塗料を用いることが好ましい。
【0016】
工程(3)は、第2保護シート(好ましくは第2保護シート全面)とその周辺部を塗料で被覆することで達成できる。被覆(塗布)方法に特に制限はなく、例えば、刷毛、スプレーや、ローラー等を用いて実施できる。
「第2保護シートの周辺部」鋼製部材表面であってもよく、鋼製部材表面に塗膜層が設けられている場合には、下塗り塗膜層の表面、中塗り塗膜層の表面、上塗り塗膜層の表面のいずれであってもよい。
工程(3)の被覆は、同一種類又は異なる種類の塗料を用いて複数回実施してもよい。例えば、第2保護シートとその周辺部とを下塗り塗料で被覆した後、下塗り塗膜層の上に中塗り塗料を塗布し、更に中塗り塗膜層の上に上塗り塗料を塗布してもよい。
【0017】
ここで、前記工程(1)〜(3)を、例示としての図面を用いて説明する。
図1は、本発明の方法を適用する前の鋼構造物1とその溶接部2を示す。
図2に示す工程(1)では、溶接部2の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シート3で被覆する。
図3−1に示す工程(2)前半では、第1保護シート3の周辺部を液状固定化剤4で被覆する。
図3−2に示す工程(2)後半では、第1保護シート3の全面と液状固定化剤4の被覆面とを、工程(3)で使用する塗料に対して不透過性の第2保護シート5で更に被覆して、第2保護シート5を鋼構造物1に固定する。
図4に示す工程(3)では、第2保護シート5の全面とその周辺部とを塗料6で被覆する。
【0018】
〔保安検査又は自主検査時の作業〕
本発明に従い溶接部が保護されている鋼構造物に対して検査を行う場合、第1保護シートによる被覆を解除することで溶接部が容易に露出する。具体的には、第1保護シートを、その外縁よりも内側の領域に沿って切断する。切断はカッターやグラインダー等を用いて実施できる。
切断された第1保護シートの下面と溶接部表面とは接着剤なしに接触しているので、切断された第1保護シートを取り除くことで、溶接部を容易に露出させることができる。
この露出工程では、従来技術で必要としていた溶接部を覆うコーティングや錆を除去するためのブラスト作業が不要なので、ブラスト作業に起因する問題(粉塵やブローホールの発生)を抑制できる。なお、第1保護シートの除去後の溶接部に錆が存在する場合には、これを除去するための最低限のブラスト作業を行ってもよい。
【0019】
〔鋼構造物の溶接部を補修する方法〕
前記の「鋼構造物の溶接部を保護する方法」の工程(1)〜(3)は、第1保護シートによる被覆を採用することなく建造された鋼構造物の保安検査又は自主検査の際に露出した溶接部の補修のために使用できる。
したがって、本発明の「鋼構造物の溶接部を補修する方法」は、
(1)溶接部の表面を露出させる工程、
(2)溶接部の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シートで被覆する工程、
(3)第1保護シートの周辺部を液状固定化剤で被覆した後、第1保護シートと液状固定化剤の被覆面とを、工程(4)で使用する塗料に対して不透過性の第2保護シートで更に被覆して、第2保護シートを鋼構造物に固定する工程、及び
(4)第2保護シートとその周辺部とを塗料で被覆する工程
を含む。
【0020】
工程(1)は、従来のブラスト作業を用いて実施することができる。
工程(2)〜(4)は、それぞれ、前記「鋼構造物の溶接部を保護する方法」の工程(1)〜(3)と同様に実施できる。
本発明の補修方法により溶接部が補修された鋼構造物は、次回の保安検査又は自主検査の際にブラスト作業を行うことなく溶接部を容易に露出させることができるので、ブラスト作業に起因する問題(粉塵やブローホールの発生)を抑制できる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
〔使用した材料〕
1.鋼構造物
下記のA−1〜A−2を使用した。
A−1:炭素鋼製石油タンク
A−2:橋梁用鋼板(JFEスチール製SM570−EX)を溶接したもの
2.第1保護シート
下記のB−1〜B−4を使用した。
B−1:ポリプロピレンフィルム(商品名:ユポ静電吸着(ユポ・コーポレーション社製)
B−2:気化防錆剤を混練したポリエチレンフィルム(商品名:ゼラストフィルム(Northern Technologies International社製))
B−3:アルミニウム箔(商品名:アルノーブルZR(東洋アルミニウム社製))
B−4:防錆紙(商品名:アドパックホワイトTP‐810(M)(アドコート社製))
3.第2保護シート
下記のC−1を使用した。
C−1:ShieM−CSシート(株式会社ケー・エフ・シー製)。
C−1は、トップコート付着層と、高バリアフィルム層と、繊維補強層と接着剤付着層とが一体化されたシートである。
トップコート付着層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の不織布である。
高バリアフィルム層は、PET製フィルム(プラスチックフィルム)である。このPETフィルムは、後記のD−1及びD−2に対して不透過性であった。
繊維補強層は、格子状の繊維シート(ポリエステルメッシュ)である。
接着剤付着層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の不織布である。
4.液状固定化剤及び下塗り塗料
下記のD−1〜D−2を使用した。
D−1:有機溶剤含有エポキシ樹脂塗料(商品名:エポニックス#310DV(下塗)。大日本塗料株式会社)
D−2:ガラスフレークを配合した有機溶剤含有ビニルエステル樹脂塗料(商品名:レジライニング#50(下塗)。大日本塗料株式会社。粘度:20ポイズ)
5.中塗り塗料
下記のE−1を使用した。
E−1:有機溶剤含有エポキシ樹脂塗料(商品名:エポニックス#310DV(中塗)。大日本塗料株式会社)
6.上塗り塗料
下記のF−1〜F−2を使用した。
F−1:有機溶剤含有エポキシ樹脂塗料(商品名:エポニックス#310DV(上塗)。大日本塗料株式会社)
F−2:ガラスフレークを配合した有機溶剤含有ビニルエステル樹脂塗料(商品名:レジライニング#50(上塗)。大日本塗料株式会社。粘度:25ポイズ)
【0023】
実施例1〜5及び比較例1では、鋼構造物A−1(石油タンク)を対象とした。
【0024】
〔実施例1〕
下記の工程1〜3−4に従い、石油タンクの溶接部を保護した。
工程1:石油タンク内面の隅角部分の溶接線(溶接部:溶接ビード)(幅20cm)の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シートB−1で被覆した。
工程2:「第1保護シートの一部(外縁部)」と「第1保護シートで覆われていない石油タンク表面(第1保護シートの周辺部)」との境界をまたぐ領域に、液状固定化剤としてのD−1を塗布した後、第1保護シート(全面)と液状固定化剤の塗布面とを覆うように第2保護シートC−1を被せて、第2保護シートを石油タンクに固定した。なお、C−1による被覆は、接着剤付着層側が前記D−1と接触するように行った。
工程3−1:第2保護シート(全面)とその周辺部に下塗り塗料としてD−1を塗布(塗装膜厚:50μm)した後、室温で16時間乾燥させて、下塗り塗膜層を形成した。
工程3−2:下塗り塗膜層の全面に中塗り塗料E−1を塗布した(塗装膜厚:70μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、中塗り塗膜層を形成した。
工程3−3:中塗り塗膜層の全面に上塗り塗料F−1を塗布した(塗装膜厚:140μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、上塗り塗膜層を形成した。
工程3−4:工程3−3を更に1回行った(2つの上塗り塗膜層が形成)。
【0025】
〔実施例2〕
下記の工程1〜4−4に従い、石油タンクの溶接部を補修した。
工程1:旧塗膜が表面に形成された石油タンク内面の隅角部分の溶接線(溶接部:溶接ビード)を含む周辺部分をサンドブラスト処理に付し、旧塗膜を取り除いた。サンドブラスト処理は、除錆度がISO8501−1でSa2 1/2以上、表面粗さが標準板法(KTAコンパレーター)でRz30〜70μmの範囲となるように実施した。サンドブラスト処理後、表面清掃を行い、ブローホールが生じた部分には、溶接部鋼板表面からブローホールが消失するまで研削を実施した。研削により法令に定める最小板厚を割った場合には肉盛補修を行い、法令上の板厚を満たすように調整した。
工程2:旧塗膜が取り除かれた石油タンク内面の隅角部分の溶接線(溶接部:溶接ビード)(幅20cm)の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シートB−1で被覆した。
工程3:「第1保護シートの一部(外縁部)」と「第1保護シートで覆われていない石油タンクの上塗り塗膜層表面(第1保護シートの周辺部)」との境界をまたぐ領域に、液状固定化剤としてのD−1を塗装した後、第1保護シート(全面)と液状固定化剤の塗布面とを覆うように第2保護シートC−1を被せて、第2保護シートを石油タンクに固定した。なお、C−1による被覆は、接着剤付着層側が前記D−1と接触するように行った。
工程4−1:第2保護シート(全面)とその周辺部に下塗り塗料としてD−1を塗布(塗装膜厚:50μm)した後、室温で16時間乾燥させて、下塗り塗膜層を形成した。
工程4−2:下塗り塗膜層の全面に中塗り塗料E−1を塗布した(塗装膜厚:70μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、中塗り塗膜層を形成した。
工程4−3:中塗り塗膜層の全面に上塗り塗料F−1を塗布した(塗装膜厚:140μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、上塗り塗膜層を形成した。
工程4−4:工程4−3を更に1回行った(2つの上塗り塗膜層が形成)。
【0026】
〔実施例3〕
液状固定化剤をD−1からD−2に変更し、下塗り塗料をD−1からD−2に変更し、上塗り塗料をF−1からF−2に変更した点以外は、実施例2と同様の工程により、石油タンクの溶接部を補修した。
【0027】
〔実施例4〕
第1保護シートをB−1からB−2に変更した点以外は、実施例2と同様の工程により、石油タンクの溶接部を補修した。
【0028】
〔実施例5〕
第1保護シートをB−1からB−3に変更した点以外は、実施例2と同様の工程により、石油タンクの溶接部を補修した。
【0029】
〔比較例1〕
下記の工程1−1〜1−4に従い、石油タンクの溶接部を保護した。
工程1−1:石油タンク内面の隅角部分の溶接線(溶接ビード)(幅20cm)及びその周辺に下塗り塗料D−1を塗布(塗装膜厚:50μm)した後、室温で16時間乾燥させて、下塗り塗膜層を形成した。
工程1−2:下塗り塗膜層の全面に中塗り塗料E−1を塗布した(塗装膜厚:70μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、中塗り塗膜層を形成した。
工程1−3:中塗り塗膜層の全面に上塗り塗料F−1を塗布した(塗装膜厚:140μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、上塗り塗膜層を形成した。
工程1−4:工程1−3を更に1回行った(2つの上塗り塗膜層が形成)。
比較例1では、第1及び第2保護シートを用いなかった。
【0030】
実施例6〜10では、鋼構造物A−2(橋梁用鋼板)を対象とした。
【0031】
〔実施例6〕
下記の工程1〜3−4に従い、橋梁用鋼板の溶接部を保護した。
工程1:鉄鋼の隅角部分の溶接線(溶接部:溶接ビード)(幅20cm)の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シートB−1で被覆した。
工程2:「第1保護シートの一部(外縁部)」と「第1保護シートで覆われていない鋼板表面(第1保護シートの周辺部)」との境界をまたぐ領域に、液状固定化剤としてのD−1を塗装した後、第1保護シート(全面)と液状固定化剤の塗布面とを覆うように第2保護シートC−1を被せて、第2保護シートを鋼板表面に固定した。なお、C−1による被覆は、接着剤付着層側が前記D−1と接触するように行った。
工程3−1:第2保護シート(全面)とその周辺部に下塗り塗料としてD−1を塗布(塗装膜厚:50μm)した後、室温で16時間乾燥させて、下塗り塗膜層を形成した。
工程3−2:下塗り塗膜層の全面に中塗り塗料E−1を塗布した(塗装膜厚:70μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、中塗り塗膜層を形成した。
工程3−3:中塗り塗膜層の全面に上塗り塗料F−1を塗布した(塗装膜厚:140μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、上塗り塗膜層を形成した。
工程3−4:工程3−3を更に1回行った(2つの上塗り塗膜層が形成)。
【0032】
〔実施例7〕
下記の工程1〜4−4に従い、橋梁用鋼板の溶接部を補修した。
工程1:旧塗膜が表面に形成された鋼板の隅角部分の溶接線(溶接部:溶接ビード)を含む周辺部分をサンドブラスト処理に付し、旧塗膜を取り除いた。サンドブラスト処理は、除錆度がISO8501−1でSa2 1/2以上、表面粗さが標準板法(KTAコンパレーター)でRz30〜70μmの範囲となるように実施した。サンドブラスト処理後、表面清掃を行い、ブローホールが生じた部分には、溶接部鋼板表面からブローホールが消失するまで研削を実施した。尚、研削により法令に定める最小板厚を割った場合には肉盛補修を行い、法令上の板厚を満たすように調整した。
工程2:旧塗膜が取り除かれた鋼板の隅角部分の溶接線(溶接部:溶接ビード)(幅20cm)の表面を、接着剤を用いることなく、第1保護シートB−1で被覆した。
工程3:「第1保護シートの一部(外縁部)」と「第1保護シートで覆われていない鋼板の上塗り塗膜層表面(第1保護シートの周辺部)」との境界をまたぐ領域に、液状固定化剤としてのD−1を塗装した後、第1保護シート(全面)と液状固定化剤の塗布面とを覆うように第2保護シートC−1を被せて、第2保護シートを鋼板表面に固定した。なお、C−1による被覆は、接着剤付着層側が前記D−1と接触するように行った。
工程4−1:第2保護シート(全面)とその周辺部に下塗り塗料D−1を塗布(塗装膜厚:50μm)した後、室温で16時間乾燥させて、下塗り塗膜層を形成した。
工程4−2:下塗り塗膜層の全面に中塗り塗料E−1を塗布した(塗装膜厚:70μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、中塗り塗膜層を形成した。
工程4−3:中塗り塗膜層の全面に上塗り塗料F−1を塗布した(塗装膜厚:140μm)。塗布後、室温で16時間乾燥させて、上塗り塗膜層を形成した。
工程4−4:工程4−3を更に1回行った(2つの上塗り塗膜層が形成)。
【0033】
〔実施例8〕
液状固定化剤をD−1からD−2に変更し、下塗り塗料をD−1からD−2に変更し、上塗り塗料をF−1からF−2に変更した点以外は、実施例7と同様の工程により、橋梁用鋼板の溶接部を補修した。
【0034】
〔実施例9〕
第1保護シートをB−1からB−2に変更した点以外は、実施例7と同様の工程により、橋梁用鋼板の溶接部を補修した。
【0035】
〔実施例10〕
第1保護シートをB−1からB−4に変更した点以外は、実施例7と同様の工程により、橋梁用鋼板の溶接部を補修した。
【0036】
〔溶接部の露出に関する評価〕
実施例及び比較例について、下記の手順に従い溶接部の露出及びその評価を行った。
〔露出手順〕
実施例1〜10では、第1保護シートを、その外縁よりも内側の領域に沿ってカッターで切断した。切断された第1保護シートを手で剥がして、溶接部を露出させた。
実施例1〜10ではブラスト作業が不要であったので、ブラスト作業による粉塵の発生はなかった。
比較例1では、ブラスト作業によって溶接部を露出させた。ブラスト作業によって、粉塵が発生した。
【0037】
〔溶接部の評価〕
露出した溶接部の外観を目視観察し、下記の判断基準に従い2段階評価した。
○:異常なし。
×:溶接部にブローホール(微小欠陥)が認められた。
【0038】
実施例1〜10では溶接部の外観に異常は認められなかったが(評価:○)、比較例1では溶接部にブローホール発生が認められた(評価:×)。
この評価結果は、ブラスト作業を実施しなかった実施例1〜10ではブラスト作業による粉塵やブローホールの発生が無かったことを示している。したがって、本発明は、ブラスト作業に起因する問題を抑制することができる。