特開2020-101127(P2020-101127A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-101127(P2020-101127A)
(43)【公開日】2020年7月2日
(54)【発明の名称】筒内圧センサの異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20200605BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20200605BHJP
   F02M 26/03 20160101ALI20200605BHJP
   F02M 26/52 20160101ALI20200605BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20200605BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20200605BHJP
   F02P 5/152 20060101ALI20200605BHJP
【FI】
   F02D45/00 368U
   F02D45/00 345Z
   F02D43/00 301B
   F02D43/00 301N
   F02D45/00 301F
   F02M26/03
   F02M26/52
   F02D21/08 301G
   F02P5/15 L
   F02P5/15 G
   F02P5/152
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-239803(P2018-239803)
(22)【出願日】2018年12月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 頌示
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】奥村 拓仁
(72)【発明者】
【氏名】中川 滋
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 和
(72)【発明者】
【氏名】木下 真幸
(72)【発明者】
【氏名】津村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】毎熊 泰樹
【テーマコード(参考)】
3G022
3G062
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G022AA03
3G022AA10
3G022DA01
3G022EA01
3G022EA08
3G022GA15
3G062AA05
3G062BA08
3G062CA07
3G062DA02
3G092AA01
3G092AA06
3G092AA17
3G092AA18
3G092AB02
3G092BA09
3G092DC09
3G092FA16
3G092FA36
3G092GA05
3G092HA01Z
3G092HA04Z
3G092HA16Z
3G092HB03Z
3G092HC01Z
3G092HD01Z
3G092HD06Z
3G092HE03Z
3G092HE08Z
3G092HF08Z
3G384AA01
3G384AA06
3G384BA24
3G384BA27
3G384DA43
3G384DA55
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA08Z
3G384FA11Z
3G384FA15Z
3G384FA28Z
3G384FA29Z
3G384FA37Z
3G384FA45Z
3G384FA48Z
3G384FA58Z
3G384FA61Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】筒内圧センサの異常診断の正確性を高める。
【解決手段】筒内圧センサSW6の異常診断装置である。筒内圧センサSW6の性能を判別するセンサ診断部101を備える。センサ診断部101が、所定のタイミングで性能判別処理を実行する。筒内圧センサSW6の性能は所定の基準値未満であると判別した場合、デポジット除去制御を実行する。性能回復処理の実行後に、再度、性能判別処理を実行する。第2判別処理で、筒内圧センサSW6の性能は所定の基準値未満であると判別した場合に、筒内圧センサSW6は異常であると診断する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室の中の圧力を検知するために自動車のエンジンに付設されている筒内圧センサの異常診断装置であって、
前記筒内圧センサから入力される電気信号に基づいて、前記筒内圧センサの性能を判別する性能判別処理を実行するセンサ診断部を備え、
前記センサ診断部が、
所定のタイミングで前記性能判別処理を実行する第1判別処理と、
前記筒内圧センサの性能は所定の基準値未満であると判別した場合に、前記燃焼室の中に堆積するデポジットを除去する所定のデポジット除去制御を実行する性能回復処理と、
前記性能回復処理の実行後に、再度、前記性能判別処理を実行する第2判別処理と、
を実行し、
前記第2判別処理で、前記筒内圧センサの性能は所定の基準値未満であると判別した場合に、前記筒内圧センサは異常であると診断する、異常診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常診断装置において、
前記エンジンは、前記燃焼室の中で混合気に点火する点火プラグを備え、
前記所定のデポジット除去制御は、前記点火プラグの点火時期を進角させる制御である、異常診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の異常診断装置において、
前記エンジンは、
前記燃焼室の中で混合気に点火する点火プラグと、
前記燃焼室に吸気ガスを導入する吸気通路と、
前記燃焼室で発生する排気ガスを導出する排気通路と、
前記吸気通路と前記排気通路とに連通し、排気ガスの一部を前記吸気通路に還流させるEGR通路と、
前記EGR通路を流れる排気ガスの量を調整するEGR弁と、
を備え、
前記デポジット除去制御は、前記EGR弁を制御して前記燃焼室に導入される排気ガスの量を減少させた状態で、前記点火プラグで混合気を点火して燃焼させる制御である、異常診断装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の異常診断装置において、
前記性能判別処理は、所定のタイミングでの前記燃焼室の中の圧力を演算によって予測し、その予測値と、前記所定のタイミングでの前記筒内圧センサの出力値とを比較することによって行われる、異常診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の異常診断装置において、
前記エンジンの回転数に応じて前記予測値の補正が行われる、異常診断装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の異常診断装置において、
前記性能判別処理が、前記エンジンへの燃料の供給が停止されている時に行われる、異常診断装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の異常診断装置において、
前記筒内圧センサは異常であると診断された場合に、その診断結果を知らせる報知処理が行われる、異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、筒内圧センサの異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筒内圧センサの異常診断装置は、特許文献1に開示されている。特許文献1の異常診断装置では、筒内圧センサの出力値を検出し、そのゲインが異常に低下した場合に、筒内圧センサが異常であると診断する。
【0003】
開示する技術に関し、異常燃焼(プリイグニッション)の抑制を目的としたものであるが、燃焼室の内部に堆積する付着物(デポジット)を除去する技術は、特許文献2に開示されている。
【0004】
特許文献2では、点火時期を進角させることにより、燃焼室で強制的にノッキングを発生させる。ノッキングの衝撃でデポジットが剥離するので、デポジットを除去できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−144670号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2013/132613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジンを長期間運転すると、燃焼室の内部に、燃料およびエンジンオイルに起因した硬質の付着物(デポジット)が堆積するようになる。このデポジットは、燃焼室の内部に臨んでいる筒内圧センサにも悪影響を与える。
【0007】
すなわち、デポジットが筒内圧センサのダイヤフラムに付着することにより、ダイヤフラムのバネ乗数が増加する。ダイヤフラムのバネ乗数が増加すると、筒内圧センサの出力値が低下する。
【0008】
その結果、デポジットの付着によって出力値が低下した場合であっても、筒内圧センサが異常である、あるいは筒内圧センサに付設されたチャージアンプの感度が低下していると誤診し、筒内圧センサやチャージアンプの不必要な交換を招くおそれがある。
【0009】
そこで、開示する技術の主たる目的は、筒内圧センサの異常診断の正確性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示する技術は、燃焼室の中の圧力を検知するために自動車のエンジンに付設されている筒内圧センサの異常診断装置に関する。
【0011】
前記筒内圧センサから入力される電気信号に基づいて、前記筒内圧センサの性能を判別する性能判別処理を実行するセンサ診断部を備える。前記センサ診断部が、所定のタイミングで前記性能判別処理を実行する第1判別処理と、前記筒内圧センサの性能は所定の基準値未満であると判別した場合に、前記燃焼室の中に堆積するデポジットを除去する所定のデポジット除去制御を実行する性能回復処理と、前記性能回復処理の実行後に、再度、前記性能判別処理を実行する第2判別処理と、
を実行する。そして、前記第2判別処理で、前記筒内圧センサの性能は所定の基準値未満であると判別した場合に、前記筒内圧センサは異常であると診断する。
【0012】
上述したように、デポジットが筒内圧センサのダイヤフラムに付着してそのバネ乗数が増加すると、筒内圧センサの出力値が低下して、筒内圧センサの診断時に誤診するおそれがある。
【0013】
それに対し、この異常診断装置では、筒内圧センサの異常を診断するために、その性能を判別する性能判別処理を1回または2回行う。
【0014】
すなわち、性能判別処理を一度行って、筒内圧センサの性能が不良であった場合には、燃焼室の中に堆積するデポジットを除去する。その後、再度、性能判別処理を行う。そして、その結果、筒内圧センサの性能が不良であった場合に、筒内圧センサは異常であると診断する。
【0015】
一度の性能判別処理では、デポジットに起因した性能低下による誤診があり得る。デポジットを除去した後の性能判別処理では、そのような誤診を排除できる。筒内圧センサの異常を適切に診断できる。従って、筒内圧センサの異常診断の正確性が高まる。筒内圧センサやチャージアンプの不必要な交換を抑制できる。
【0016】
性能判別処理を一度行って、筒内圧センサの性能が不良であった場合にのみ、デポジット除去制御および再度の性能判別処理を行うことで、効率的に診断できる。エンジンに余計な負担を与えることなく運転できる。
【0017】
前記異常診断装置はまた、前記エンジンは、前記燃焼室の中で混合気に点火する点火プラグを備え、前記所定のデポジット除去制御は、前記点火プラグの点火時期を進角させる制御である、としてもよい。
【0018】
点火プラグの点火時期を進角させると、燃焼が促進する。適切な点火時期から進角すれば、ノッキングが発生し易くなる。進角量を調整することで、ノッキングを発生させることができる。ノッキングの衝撃でデポジットを除去できる。
【0019】
前記異常診断装置はまた、前記エンジンは、前記燃焼室の中で混合気に点火する点火プラグと、前記燃焼室に吸気ガスを導入する吸気通路と、前記燃焼室で発生する排気ガスを導出する排気通路と、前記吸気通路と前記排気通路とに連通し、排気ガスの一部を前記吸気通路に還流させるEGR通路と、前記EGR通路を流れる排気ガスの量を調整するEGR弁と、を備え、前記デポジット除去制御は、前記EGR弁を制御して前記燃焼室に導入される排気ガスの量を減少させた状態で、前記点火プラグで混合気を点火して燃焼させる制御である、としてもよい。
【0020】
燃焼室にEGRガス(排気ガス)が導入されると、その分だけ空気量が減る。その結果、燃焼が緩慢になるので、ノッキングは発生し難くなる。従って、EGRガスの量が多いと、点火時期を進角させてもノッキングが発生しない場合が発生する。その傾向は、負荷の低い運転領域において、よりいっそう強くなる。
【0021】
対して、EGRガスの導入量が減ると、その分だけ空気量が増える。空気量が増えれば、ノッキングが発生し易くなる。EGRガスの導入量を調節することで、安定してノッキングを発生させることができる。ノッキングが発生すれば、その衝撃でデポジットを除去できる。
【0022】
EGRガスの導入量の調節であれば、エンジンの広い運転領域で行える。負荷の低い運転領域でも、安定してノッキングを発生させることができる。
【0023】
前記異常診断装置はまた、前記性能判別処理は、所定のタイミングでの前記燃焼室の中の圧力を演算によって予測し、その予測値と、前記所定のタイミングでの前記筒内圧センサの出力値とを比較することによって行われる、としてもよい。
【0024】
燃焼室の中の圧力を演算によって予測すれば、筒内圧センサが異常であっても、燃焼室の中の正確な圧力を予測できる。その予測値と、同じタイミングで検出される筒内圧センサの出力値、つまり実測値を比較すれば、筒内圧センサの性能を精度高く判別できる。
【0025】
その場合、前記エンジンの回転数に応じて前記予測値の補正が行われる、としてもよい。
【0026】
エンジンの回転数が変化すると、それに伴って冷却損失が変化する。冷却損失が変化すれば、燃焼状態も変化する。その変化の影響が予測値に及ぶと、判別精度が低下するおそれがある。エンジンの回転数に応じて予測値の補正が行われるので、高い判別精度を保持できる。
【0027】
前記異常診断装置はまた、前記性能判別処理が、前記エンジンへの燃料の供給が停止されている時に行われる、としてもよい。
【0028】
そうすれば、燃焼の影響を受けることなく、燃焼室の中の圧力変化に基づいて、筒内圧センサの性能を判別できる。筒内圧センサの異常診断の正確性を高めることができる。
【0029】
前記異常診断装置はまた、前記筒内圧センサは異常であると診断された場合に、その診断結果を知らせる報知処理が行われる、としてもよい。
【0030】
すなわち、筒内圧センサかチャージアンプに異常があるので、その交換をユーザに促す。その結果、筒内圧センサやチャージアンプを適切なタイミングで、無駄なく交換することができる。
【発明の効果】
【0031】
開示する技術によれば、筒内圧センサの異常診断の正確性を高めることができる。その結果、筒内圧センサやチャージアンプの不必要な交換を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】開示する技術を適用したエンジンの構成を例示する概略図である。
図2】燃焼室の構成を例示する図であり、上図は燃焼室の平面視相当図、下図はII−II線断面図である。
図3】ECUとその主な関連装置との関係を例示するブロック図である。
図4】筒内圧センサの構成を示す概略図である。
図5】SPCCI燃焼の波形を例示する図である。
図6】エンジンの燃焼制御に関するマップの一例である。
図7】筒内圧センサの異常診断に関連する、ECUとその主な関連装置の機能的な関係を示すブロック図である。
図8】筒内圧センサの検知信号を示す概略図である。一点鎖線は、適正な検出信号を表しており、実線は、感度が低下した不適正な検知信号を表している。
図9】判別クランク角の補正値を例示するグラフである。
図10】筒内圧センサの異常診断における処理の一例を示すフローチャートである。
図11】性能判別処理のフローチャートである。
図12】デポジット除去制御(応用例)のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。すなわち、説明する各構成の内容は例示であり、逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0034】
<エンジン>
図1に、開示する技術を適用したエンジン1を例示する。エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程、および排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークのレシプロエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。
【0035】
詳細は後述するが、エンジン1には、ECU(Engine Control Unit)10が備えられている。エンジン1の運転は、ECU10によって制御される。ECU10はまた、開示する技術に関する「筒内圧センサの異常診断装置(単に、異常診断装置ともいう)」の主体を構成する。
【0036】
エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であればよい。燃料は、例えばバイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
【0037】
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11(気筒)が形成されている。図1では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
【0038】
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11およびシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。ピストン3の上面(表面)は、燃焼室17に臨んでいる。
【0039】
尚、「燃焼室」は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11およびシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
【0040】
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
【0041】
燃焼室17に臨むピストン3の上面は、燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、この構成例では、浅皿形状を有している。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側にずれている。
【0042】
詳細は後述するが、このエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼を行う。
【0043】
SI燃焼は、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行うことにより開始する火炎伝播を伴う燃焼である。CI燃焼は、燃焼室の中の混合気が圧縮着火することにより開始する燃焼である。
【0044】
SPCCI燃焼では、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行って、火炎伝播による燃焼を開始させる。それにより、SI燃焼の発熱及び火炎伝播による圧力上昇によって、燃焼室の中の未燃混合気がCI燃焼する。すなわち、SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。
【0045】
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定することができる。例えば、エンジン1の幾何学的圧縮比は、一般的な火花点火式エンジンよりも高い、16以上としてもよい。しかし、このエンジン1では、SPCCI燃焼を行うので、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を高くする必要がない。エンジン1は、幾何学的圧縮比を、比較的低く設定することが可能である。幾何学的圧縮比を低くすると、冷却損失の低減、および、機械損失の低減に有利になる。
【0046】
エンジン1の幾何学的圧縮比はまた、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度の低オクタン価燃料)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度の高オクタン価燃料)においては、15〜18としてもよい。
【0047】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。図示は省略するが、吸気ポート18は、第1吸気ポートおよび第2吸気ポートを有している。これら吸気ポート18,18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
【0048】
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミングおよび/またはバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。
【0049】
このエンジン1は、その可変動弁機構として、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している(図3参照)。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁タイミングおよび閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
【0050】
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、第1排気ポートおよび第2排気ポートを有している。これら排気ポート19,19は、燃焼室17に連通している。
【0051】
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミングおよび/またはバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。
【0052】
このエンジン1では、その可変動弁機構として、排気電動S−VT24を有している(図3参照)。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁タイミングおよび閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
【0053】
吸気電動S−VT23および排気電動S−VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを長くすると、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。また、オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入することができる。内部EGRシステムは、吸気電動S−VT23および排気電動S−VT24によって構成されている。尚、内部EGRシステムは、S−VTによって構成されるとは限らない。
【0054】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6(燃料噴射弁)が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。図2に示すように、インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。
【0055】
インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。インジェクタ6の噴射軸心X2は、中心軸X1に平行である。インジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の中心とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。
【0056】
尚、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その構成の場合に、インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の中心とは一致していてもよい。
【0057】
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔(このエンジン1では10個)を有している。噴孔は、周方向に等角度に配置されている。従って、インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。
【0058】
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料タンク63は、燃料を貯留する。燃料供給路62には、燃料ポンプ65およびコモンレール64が設置されている。
【0059】
燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、例えば、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式である。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられた燃料が、インジェクタ6から燃焼室17の中に噴射される。
【0060】
燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能である。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。
【0061】
(点火プラグ25)
図1図2に示すように、シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中で混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、シリンダ11の中心軸X1よりも吸気側に配設されている。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。
【0062】
点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25を、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に配置してもよい。また、点火プラグ25をシリンダ11の中心軸X1上に配置してもよい。
【0063】
(吸気通路40)
図1に示すように、エンジン1の側面には吸気通路40が連結されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40を流れるガス(吸気ガス)が燃焼室17に導入される。
【0064】
吸気通路40の上流側の端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、新気を濾過する。吸気通路40の下流側の端部には、サージタンク42が配設されている。吸気通路40におけるサージタンク42よりも下流側の部位は、シリンダ11毎に分岐し、各々が独立した通路を構成している。これら通路が、各シリンダ11の吸気ポート18に連結されている。
【0065】
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間の部位には、開度の調節が可能なスロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、燃焼室17に導入する新気の量を調節する。
【0066】
吸気通路40におけるスロットル弁43の下流側の部位には、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気ガスを過給する。過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、または遠心式であってもよい。
【0067】
過給機44は、電磁クラッチ45を介してエンジン1と連結されている。電磁クラッチ45は、エンジン1から過給機44への駆動力の伝達の有無を切り替える。電磁クラッチ45の切り替えは、ECU10が行う。電磁クラッチ45の切り替えにより、過給機44のオンとオフとが切り替わる。
【0068】
吸気通路40における過給機44の下流の部位には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮した吸気ガスを冷却する。インタークーラー46には、例えば水冷式または油冷式のクーラーが利用できる。
【0069】
吸気通路40には、バイパス通路47が連結されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流側の部位と、インタークーラー46の下流側の部位とに連結されている。バイパス通路47は、過給機44およびインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れる吸気ガスの流量を調節する。
【0070】
ECU10は、過給機44をオフにしたときに、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れる吸気ガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に流入する。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
【0071】
過給機44をオンにすると、エンジン1は過給状態で運転する。エンジン1が過給状態で運転しているときには、ECU10は、エアバイパス弁48の開度を調節する。それにより、過給機44を通過した吸気ガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流側に逆流する。
【0072】
ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入される吸気ガスの圧力が変わる。つまり、過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
【0073】
エンジン1は、図2に白抜きの矢印で示すように、燃焼室17の中でスワール流を発生させる。図1に示すように、吸気通路40にスワールコントロール弁56が取り付けられている。スワールコントロール弁56は、詳細な図示は省略するが、二つの吸気ポート18,18のうちの一方の吸気ポート18に配設されている。
【0074】
スワールコントロール弁56は、流路を絞ることができる開度調節弁である。開度が小さくなるとスワール流は強くなる。開度が大きくなるとスワール流は弱くなる。全開になるとスワール流は発生しない。
【0075】
(排気通路50)
エンジン1の側面(吸気通路40とは反対側の側面)には、排気通路50が連結されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17で発生する排気ガスを導出する。排気通路50の上流側の部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐している。これら独立した通路の各々が、各シリンダ11の排気ポート19に連結されている。
【0076】
排気通路50には、複数の触媒コンバーター51U,51Dを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流側に位置する触媒コンバーター51Uは、自動車のエンジンルーム(図示せず)の中に配設されている。図1に示すように、その触媒コンバーター51Uは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。
【0077】
下流側に位置する触媒コンバーター51Dは、エンジンルームの外に配設されている。その触媒コンバーター51Dは、三元触媒513を有している。尚、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーター51U,51Dは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒およびGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
【0078】
(EGR通路52、EGR弁54)
吸気通路40と排気通路50との間には、EGR通路52が連結されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させる。従って、吸気ガスは、新気だけでなく排気ガスを含む場合もある。
【0079】
EGR通路52の上流側の端部は、排気通路50における上流の触媒コンバーター51Uと下流の触媒コンバーター51Dとの間の部位に連通している。EGR通路52の下流側の端部は、吸気通路40における過給機44の上流側の部位に連通している。EGR通路52を流れる排気ガスは、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40の過給機44より上流側に入る。
【0080】
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの量を調節する。すなわち、EGR弁54により、吸気通路40に還流する冷却された排気ガス(外部EGRガス)の量が調節される。外部EGRガスの量の多少により、吸気ガスの温度の調節が可能になる。
【0081】
(ECU)
ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーである。図3に示すように、ECU10は、プログラムを実行するCPU10aと、プログラムおよびデータを格納するメモリ10bと、電気信号を入出力するインターフェース10cとを備えている。メモリ10bには、制御に用いる制御ロジック(詳細は後述)やマップなどが記憶されている。
【0082】
ECU10には、図1図3に示すように、各種のセンサSW1〜SW17が接続されている。これらセンサSW1〜SW17の各々は、検出した情報を電気信号として出力し、インターフェース10cを介してECU10に入力する。これらセンサSW1〜SW17の内容を以下に示す。
【0083】
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を検出する
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を検出する
第1圧力センサSW3:吸気通路40におけるEGR通路52の連結位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を検出する
第2吸気温度センサSW4:吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の連結位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を検出する
吸気圧センサSW5:サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を検出する
筒内圧センサSW6:各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17の中の圧力(筒内圧力)を検出する
排気温度センサSW7:排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検出する
リニアOセンサSW8:排気通路50における上流の触媒コンバーター51Uよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検出する
ラムダOセンサSW9:上流の触媒コンバーター51Uにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検出する
水温センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を検出する
クランク角センサSW11:エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を検出する
アクセル開度センサSW12:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出する
吸気カム角センサSW13:エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を検出する
排気カム角センサSW14:エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を検出する
EGR差圧センサSW15:EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流および下流の差圧を検出する
燃圧センサSW16:燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を検出する
第3吸気温度センサSW17:サージタンク42に取り付けられかつ、サージタンク42内のガスの温度、換言すると燃焼室17に導入される吸気ガスの温度を検出する。
【0084】
ECU10は、これらセンサSW1〜SW17から入力される、様々な検出値の電気信号(検知信号)に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。そして、ECU10は、マップを適宜用いながら制御ロジックに従って、各デバイスの目標量および/または制御量を演算する。
【0085】
ECU10は、演算で得た制御量に対応した電気信号を、インターフェース10cを介して、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、および、スワールコントロール弁56に出力する。それにより、ECU10は、これら機器を総合的に制御する。
【0086】
(筒内圧センサSW6)
図4は、筒内圧センサSW6の構成を例示している。筒内圧センサSW6は、燃焼室17の中に臨むダイヤフラム71を有している。ダイヤフラム71は、可撓性を有する材料で形成されている。ダイヤフラム71は、筒内圧センサSW6の先端に配設されている。
【0087】
ダイヤフラム71の周縁部は、ハウジングに支持されている。ハウジングは、アウタハウジング72とインナハウジング73とを有している。燃焼室17の中の圧力が高くなると、ダイヤフラム71の外面が押される。そうすることにより、アウタハウジング72およびダイヤフラム71の中央部(インナハウジング73によって支持されていない)が撓む。
【0088】
アウタハウジング72は、図示は省略するが、エンジン1のシリンダヘッド13に固定される。アウタハウジング72は、先端が開口している筒状である。ダイヤフラム71は、アウタハウジング72の先端面に取り付けられる。ダイヤフラム71の周縁部は、アウタハウジング72に対し、溶接により固定されている。
【0089】
インナハウジング73は、アウタハウジング72の中に挿入されている。インナハウジング73は、アウタハウジング72の先端部分に位置している。インナハウジング73は、複数の部品を組み合わせて構成されている。インナハウジング73も筒状である。ダイヤフラム71の周縁部は、インナハウジング73にも、溶接により固定されている。
【0090】
インナハウジング73は、付勢部材74によって、筒内圧センサSW6の先端に向かって付勢されている。付勢部材74は、アウタハウジング72の内部における、インナハウジング73よりも筒内圧センサSW6の基端側(つまり、図4における上側)に配設されている。
【0091】
インナハウジング73の内部には、圧電素子75が配設されている。圧電素子75は、ダイヤフラム71が撓むことによって変形する。圧電素子75は、その変形量に応じた微弱な電荷を出力する。
【0092】
圧電素子75の先端部には、台座76が取り付けられている。台座76は、その中央部に、筒内圧センサSW6の先端に向かって突出する突出部761を有している。突出部761は、インナハウジング73の先端部に設けた貫通孔731の内部に位置している。
【0093】
ダイヤフラム71の内面の中央部分には、筒内圧センサSW6の基端に向かって突出する中央突起711が、ダイヤフラム71と一体に設けられている。中央突起711と突出部761とは互いに当接している。ダイヤフラム71の中央部分が撓むと、中央突起711によって台座76が筒内圧センサSW6の基端に向かって押される。そうすることにより、圧電素子75が変形する。
【0094】
圧電素子75の基端部には、電極77が取り付けられている。圧電素子75が出力する微弱な電荷は、電極77を通じて出力される。
【0095】
電極77の基端部は、電極支持部78に支持されている。電極支持部78も複数の部材で構成されている。電極支持部78は、インナハウジング73に溶接されている。電極支持部78の内部には、導電部79が配設されている。導電部79は、筒内圧センサSW6の基端に向かって延びている。導電部79の基端は、筒内圧センサSW6が有するチャージアンプ710に接続されている。
【0096】
チャージアンプ710は、圧電素子75が出力する微弱な電荷をチャージし、電圧に変換する。チャージアンプ710は、その電圧を増幅して、ECU10に出力する。
【0097】
電極77と導電部79との間には、圧縮ばね791が配設されている。圧縮ばね791は、電極77と導電部79との間を導通させる。
【0098】
インナハウジング73と、一体化された台座76、圧電素子75、および電極77との間には、環状の絶縁部712(図4において黒色に着色した部分)が介在している。
【0099】
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上および排出ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態のときに、圧縮自己着火による燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
【0100】
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が強制的に点火をすることにより、SI燃焼とCI燃焼とが生じる形態である(部分的圧縮着火燃焼)。
【0101】
SI燃焼の発熱量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。ECU10が点火時期を調節することによって、混合気を目標のタイミングで自己着火させることができる。
【0102】
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率(dQ/dθ)の波形は、図5に例示するように、立ち上がりの傾きが、CI燃焼の波形における立ち上がりの傾きよりも小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動率(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
【0103】
SI燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火すると、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化する場合がある。熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングθciで、変曲点Xを有する場合がある。
【0104】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。しかし、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時の圧力変動率(dp/dθ)も、比較的穏やかになる。
【0105】
圧力変動率(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができる。SPCCI燃焼は、圧力変動率(dp/dθ)を小さくできるため、過剰な燃焼騒音を回避することが可能になる。従って、エンジン1の燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えられる。
【0106】
CI燃焼が終了することで、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。
【0107】
SPCCI燃焼の熱発生率波形は、SI燃焼によって形成された第1熱発生率部QSIと、CI燃焼によって形成された第2熱発生部QCIと、が、この順番に連続するように形成されている。
【0108】
ここで、SPCCI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。SI率は、SPCCI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の割合に関係する指標と定義する。SI率は、燃焼形態の相違する二つの燃焼によって発生する熱量比率である。
【0109】
SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合が高いと、燃焼騒音の抑制に有利になる。SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合が高いと、エンジン1の燃費効率の向上に有利になる。
【0110】
SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対するSI燃焼により発生した熱量の比率と定義してもよい。つまり、SPCCI燃焼において、CI燃焼が開始するクランク角をCI燃焼開始時期θciとして、図5に示す波形801において、θciよりも進角側であるSI燃焼の面積QSIと、θciを含む遅角側であるCI燃焼の面積QCIとから、SI率=QSI/QCIとしてもよい。
【0111】
(エンジンの制御ロジック)
上述したように、ECU10は、メモリ10bに記憶している制御ロジックに従って、エンジン1を運転する。
【0112】
すなわち、ECU10は、各種センサSW1〜SW17から入力される電気信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断し、目標トルクを設定する。そして、ECU10は、エンジン1がその目標トルクを出力するように、燃焼室17の中の状態量、燃料の噴射量、燃料の噴射時期、および、点火時期などを調節するため、演算を行う。
【0113】
ECU10はまた、SPCCI燃焼を行うときには、SI率とθciとの二つのパラメータを用いてSPCCI燃焼をコントロールする。具体的には、ECU10は、エンジン1の運転状態に対応する目標SI率および目標θciを定める。そして、ECU10は、実際のSI率が目標SI率に一致し、かつ、実際のθciが目標θciとなるように、燃焼室17の中の温度および点火時期の調節を行う。
【0114】
ECU10は、エンジン1の負荷が低いときには、目標SI率を低く設定し、エンジン1の負荷が高いときには、目標SI率を高く設定する。エンジン1の負荷が低いときには、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制と燃費性能の向上とが両立する。エンジン1の負荷が高いときには、SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制に有利になる。
【0115】
(エンジン1の運転領域)
図6は、エンジン1の燃焼制御に係るマップ(温間時)を例示している。マップは、上述したように、ECU10のメモリ10bに記憶されている。マップは、負荷の高低および回転数の高低に対し、大別して5つの領域に分かれる。
【0116】
具体的には、5つの領域は、低負荷領域A1、中負荷領域A2(低負荷領域A1よりも負荷が高い領域)、高負荷中回転領域A3(中負荷領域A2よりも負荷が高くかつ中回転の領域)、高負荷低回転領域A4(中負荷領域A2よりも負荷が高くかつ高負荷中回転領域A3よりも回転数の低い領域)、および、高回転領域A5(高回転の領域)である。
【0117】
ここでいう低回転、中回転、および、高回転は、それぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に略三等分にしたときの、低回転、中回転、および、高回転としてもよい。図6の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
【0118】
また、低負荷の領域は、アイドル運転を含む低負荷側の領域、高負荷の領域は、全開負荷を含む高負荷側の領域、中負荷の領域は、低負荷と高負荷との間の中間領域としてもよい。また、低負荷、中負荷、および、高負荷は、それぞれ、エンジン1の全運転領域を負荷方向に略三等分にしたときの、低負荷、中負荷、および、高負荷としてもよい。
【0119】
エンジン1は、低負荷領域A1、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、および、高負荷低回転領域A4において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1はまた、高回転領域A5においては、SI燃焼を行う。
【0120】
混合気の空燃比については、低負荷領域A1では、リーンな状態に設定される(λ>1)。中負荷領域A2および高負荷低回転領域A4では、実質的に理論空燃比に設定される(λ=1)。高負荷中回転領域A3および高回転領域A5では、実質的に理論空燃比またはリッチな状態に設定される(λ≦1)。尚、λは空気過剰率に相当する(λ=1:理論空燃比)。
【0121】
(EGR弁54の制御)
EGR弁54は、SPCCI燃焼が適切に行われるようにその開度が制御される。すなわち、ECU10は、EGR弁54の開度を制御する、それにより、吸気ガスに還流する外部EGRガスの量が調節される。その結果、燃焼室17の中は、目標SI率および目標θciが得られる温度になる。
【0122】
エンジン1の運転領域のうち、アイドル運転など、燃焼が弱く、燃焼室17の中の温度が低い低負荷側の領域では、外部EGRガスを多く導入すると、目標SI率および目標θciが得られないおそれがある。従って、その場合は、外部EGRガスの導入量を少なくする(場合によっては、導入しない)。
【0123】
また、エンジン1の運転領域のうち、全開負荷など、要求されるトルクが大きい領域では、多量の空気が必要になる。従って、その分、外部EGRガスの導入量が少なくされる(場合によっては、導入しない)。
【0124】
エンジン1では、このような限られた領域を除く、運転領域の広い範囲で外部EGRガスが導入される。自動車の走行では、低負荷領域A1、中負荷領域A2、およびその周辺の領域が多用される。そのような運転領域では、比較的多くの外部EGRガスが導入される。
【0125】
<ノッキングの抑制制御>
ECU10はまた、制御ロジックに従って、燃焼騒音(ノッキング)を抑制する制御を行う。すなわち、SPCCI燃焼は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた燃焼形態であるため、SI燃焼に起因したノッキング(SIノックとする)、および、CI燃焼に起因したノッキング(CIノックとする)のそれぞれが発生する可能性がある。ECU10は、制御により、これらノッキングを抑制する。
【0126】
SIノックは、混合気がSI燃焼した領域の外側の領域において、未燃ガスが異常な局所自着火(正常なCI燃焼とは明確に異なる局所的な自着火)により、急速燃焼する現象である。CIノックは、CI燃焼による圧力変動に起因して、シリンダブロック12などのエンジン1の主要部品が共振する現象である。
【0127】
SIノックは、燃焼室17の中で生じる気柱振動により、約6.3kHzの周波数をもった大きな騒音として出現する。一方、CIノックは、共振により、約1〜4kHzの周波数(より厳密には当該範囲に含まれる複数の周波数)をもった大きな騒音として出現する。このように、SIノックとCIノックとは、異なる原因に起因した異なる周波数の騒音として出現する。
【0128】
ECU10は、SIノックおよびCIノックが共に発生しないよう、SPCCI燃焼を制御する。具体的には、ECU10は、筒内圧センサSW6の検知信号をフーリエ変換することによって、SIノックに関連したSIノック指標値と、CIノックに関連したCIノック指標値とを算出する。
【0129】
SIノック指標値は、SIノックの発生に伴って増大する6.3kHz付近の筒内圧力スペクトルである。CIノック指標値は、CIノックの発生に伴って増大する1〜4kHz付近の筒内圧力スペクトルである。
【0130】
ECU10は、SIノック指標値およびCIノック指標値のそれぞれが許容限界を超えないようなθci限界を、予め定めたマップに従って決定する。そして、ECU10は、エンジン1の運転状態から定めたθciと、θci限界とを比較する。そうすることにより、ECU10は、θci限界がθciと同じか進角側であれば、θciを目標θciに定める。一方、θci限界がθciよりも遅角側であれば、ECU10は、θci限界を目標θciに定める。
【0131】
ECU10は、SPCCI燃焼の制御に際し、このような制御も併せて行うことにより、SIノックおよびCIノックを抑制する。
【0132】
<筒内圧センサSW6の異常診断>
このエンジン1では、筒内圧センサSW6の検出値に基づいてSPCCI燃焼を行う。従って、筒内圧センサSW6の検出精度が低下すると、エンジン1の安定した運転制御が確保できなくなるおそれがある。そのため、このエンジン1には、筒内圧センサSW6の異常の有無を診断する異常診断装置が備えられている。
【0133】
燃焼時には、微量ではあるが、燃料やエンジンオイルが燃焼室17を区画しているピストン3の上面などに付着する。時間の経過により、その付着物が僅かずつ堆積することでデポジットが生成する。このデポジットは、燃焼室17の内部に臨んでいる筒内圧センサSW6にも悪影響を与える。
【0134】
すなわち、デポジットが筒内圧センサSW6のダイヤフラム71に付着することにより、ダイヤフラム71のバネ乗数が増加する。ダイヤフラム71のバネ乗数が増加すると、筒内圧センサSW6の出力値が低下する。すなわち、筒内圧センサSW6の検出精度が低下する。
【0135】
その結果、筒内圧センサSW6の異常診断を行った時に、デポジットの付着によって出力値が低下した場合であっても、筒内圧センサSW6が異常である、あるいはチャージアンプ710の感度が低下していると誤診し、筒内圧センサSW6やチャージアンプ710の不必要な交換を招くおそれがある。
【0136】
そこで、このエンジン1では、筒内圧センサSW6やチャージアンプ710の不必要な交換を抑制するために、異常診断装置における異常診断の正確性を高める工夫が施されている。尚、異常診断装置の主体はECU10であるため、便宜上、異常診断装置をECU10ともいう。
【0137】
図7は、その異常診断装置の機能的な構成を例示している。異常診断装置は、エンジン制御部100と、センサ診断部101とを備えている。センサ診断部101は、筒内圧センサSW6から入力される検知信号に基づいて、筒内圧センサSW6の性能を判別する処理(性能判別処理)を実行する。
【0138】
エンジン制御部100は、センサ診断部101と協働することにより、筒内圧センサSW6の異常診断に際して、エンジン1の燃料カット制御を行う。
【0139】
具体的に、エンジン制御部100は、自動車の走行中に、減速燃料カット条件が成立したときに、インジェクタ6を通じてエンジン1への燃料の供給を停止する。エンジン制御部100は、アクセル開度センサSW12の検知信号に基づいて、減速燃料カット条件が成立したことを判定する。
【0140】
燃料の供給が停止すると、エンジン1は、燃料カット運転を行う。燃料カット運転中は、点火プラグ25も点火を行わない。吸気S−VT23は、吸気弁21のバルブタイミングを、予め設定されている目標バルブタイミングにする。目標バルブタイミングは、燃料カットからの復帰に適したバルブタイミングである。エンジン制御部100は、エンジン1への燃料の供給を停止した後、吸気S−VT23を通じて、吸気弁21のバルブタイミングを目標バルブタイミングに変更する。
【0141】
センサ診断部101は、エンジン1が燃料カット運転をしている間に性能判別処理を行う。こうすることで、センサ診断部101は、燃焼の影響を受けることなく、燃焼室17の中の圧力変化に基づいて、筒内圧センサSW6の性能を判別できる。その間、点火が行われないため、筒内圧センサSW6の検知信号が、点火プラグ25のノイズの影響を受けないという利点もある。
【0142】
その際、センサ診断部101は、エンジン1への燃料の供給を停止してから、予め設定されている所定時間が経過するまで、性能判別処理は行わない。すなわち、燃焼室17の中の状態が安定した後に性能判別処理を行う。こうすることで、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6の性能を、より正確に判別できる。
【0143】
センサ診断部101はまた、吸気弁21のバルブタイミングが目標バルブタイミングになるまで、性能判別処理は行わない。吸気弁21の閉弁タイミングが変わると、燃焼室17の圧縮開始タイミングが変わる。そのため、燃焼室17の中の圧力が変動し、筒内圧センサSW6の検知信号がばらつく。すなわち、燃焼室17の中の圧力が安定した後に性能判別処理を行う。こうすることで、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6の性能を、よりいっそう正確に判別できる。
【0144】
センサ診断部101は、筒内圧センサSW6の異常を診断するために、性能判別処理を1回または2回行う。
【0145】
すなわち、センサ診断部101は、最初に、所定のタイミングで性能判別処理を実行する(第1判別処理)。その結果、筒内圧センサSW6の性能は適正であると判別した場合、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6は正常であると判断し、異常診断を終了する。
【0146】
一方、筒内圧センサSW6の性能は適正でない(感度が低下、不良)と判別した場合、センサ診断部101は、後述するデポジット除去制御を実行する(性能回復処理)。すなわち、ダイヤフラム71に付着したデポジットを除去する。そして、センサ診断部101は、性能回復処理の実行後に、再度、性能判別処理を実行する(第2判別処理)。
【0147】
その結果、第2判別処理で、筒内圧センサSW6の性能は適正でないと判別した場合に、ECU10は、筒内圧センサSW6は異常であると診断する。ECU10は、筒内圧センサSW6が異常であると診断したときには、報知器57(図3参照)により、その診断結果をユーザに知らせる処理(報知処理)を行う。
【0148】
(性能判別処理)
図8に、筒内圧センサSW6の検知信号を例示する。図8の横軸はクランク角であり、そこでの「0」は圧縮上死点である。図8の縦軸は筒内圧力(燃焼室17の中の圧力)である。一点鎖線は、適正な検出信号を表しており、実線は、感度が低下した不適正な検知信号を表している。
【0149】
エンジン1が燃料カット運転をしているときは、燃焼が行われないため、筒内圧力は、燃焼室17の容積変化に伴い変化する。筒内圧力は、圧縮上死点(圧縮TDC)付近において最大(ピーク)となる。
【0150】
筒内圧センサSW6が適正であれば、その検出信号のピークは、燃焼室17の中の圧力変化に対応した所定の筒内圧力に達する。それに対し、筒内圧センサSW6の感度が低下すると、その感度の低下に応じて検出信号のピークも低下する。
【0151】
筒内圧センサSW6が示すべきピークでの筒内圧力の値は、圧縮行程における燃焼室17の容積変化から予測できる。
【0152】
すなわち、吸気弁21の閉弁タイミング(IVC)を基準に、ポリトロープ変化の式を用いることにより、ピークでの筒内圧力が予測できる。吸気弁21の閉弁タイミングにおける筒内圧力を、吸気圧センサSW5から取得する。その筒内圧力を基準に、燃焼室17の中のガスがポリトロープ変化をすると仮定して、演算することにより、ピークでの筒内圧力を予測する。
【0153】
筒内圧センサSW6が適正、つまり感度が良好であれば、筒内圧センサSW6は、筒内圧力の予測値と同等の値を示す検出信号を出力する。感度が低下すれば、筒内圧力の予測値よりも低い値を示す検出信号を出力する(実測値)。
【0154】
従って、ピークのタイミングでの予測値と、そのタイミングでの筒内圧センサSW6の出力値(実測値)とを比較することにより、筒内圧センサSW6の性能が判別できる。センサ診断部101は、この予測値と実測値の差(ゲイン)の大きさの変化により、筒内圧センサSW6の性能を判別する。尚、判別するタイミングは、ピークが好ましいが、それ以外のタイミングであってもよい。
【0155】
予測値は、エンジン1の回転数に応じて補正するのが好ましい。
【0156】
すなわち、エンジン1の回転数の高低により、冷却損失が変化する。回転数が高いと冷却損失が少なく、回転数が低いと冷却損失が多い。冷却損失の多少により、ピークとなるクランク角(判別クランク角)が変化する。センサ診断部101は、エンジン1の回転数の高低に応じて、判別クランク角を補正する。
【0157】
図9に、判別クランク角の補正値を例示している。センサ診断部101は、エンジン11の回転数が高いときには、低いときよりも判別クランク角を進角させる。このような補正を行うことにより、ピークでの筒内圧力を精度高く予測できる。
【0158】
(デポジット除去制御)
上述したように、センサ診断部101は、第1判別処理で、筒内圧センサSW6の性能は適正でない(感度が低下)と判別した場合、デポジット除去制御を実行する(性能回復処理)。
【0159】
筒内圧センサSW6の感度低下の原因としては、筒内圧センサSW6またはチャージアンプ710の感度低下など、筒内圧センサSW6の異常の他に、デポジットの付着によるダイヤフラム71のバネ乗数の増加が考えられる。そこで、センサ診断部101は、デポジットに起因した感度低下か否かを判別するために、デポジットを除去する性能回復処理を行う。
【0160】
デポジット除去制御は、様々な方法が考えられる。例えば、デポジット除去制御として、点火プラグの点火時期を進角させる制御を行ってもよい。点火プラグの点火時期を進角させれば、燃焼が促進されるため、ノッキングが発生する。ノッキングが発生すれば、その衝撃でデポジットが剥離するので、デポジットを除去できる。
【0161】
また、燃焼室17への外部EGRガスの導入量を減らす制御を行ってもよい。具体的には、EGR弁54を制御して燃焼室17に導入される排気ガスの量を減少させた状態で、点火プラグ25で混合気を点火して燃焼させる制御を行う。より具体的には、EGR率(燃焼室17の中の混合気全量に対する外部EGRガスの量の割合)が小さくなるように補正する。
【0162】
燃焼室17に導入される外部EGRガスの量が減ると、その分だけ空気量が増える。上述したように、このエンジン1では、ノッキングの抑制制御を含め、最適な燃焼が行えるように、SI率などのパラメータがコントロールされている。そのような最適な燃焼を実現する条件に対して空気量を増やせば、ノッキングを発生させることができる。EGR率の補正量を調節することで、安定してノッキングを発生させることができる。
【0163】
EGR率の調節であれば、エンジン1の広い運転領域で行える。負荷の低い運転領域でも、安定してノッキングを発生させることができる。
【0164】
点火プラグ25の点火時期を進角させる制御と、燃焼室17への外部EGRガスの導入量を減らす制御とを組み合わせた制御を行ってもよい。また、これら以外の方法で、デポジットを除去してもよい。要は、デポジットが除去できればよい。
【0165】
性能回復処理の実行後に再度行う第2判別処理において、筒内圧センサSW6の性能が回復し、適性であると判別された場合には、第1判別処理で筒内圧センサSW6の感度低下は、デポジットに起因したものであると判別できる。対して、第2判別処理においても筒内圧センサSW6は適正でない(感度が低下)と判別された場合には、デポジットに起因したものでないと判別できる。従って、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6は異常であると診断する。
【0166】
(筒内圧センサSW6の異常診断の具体例)
図10図11は、筒内圧センサSW6の異常診断における処理の流れを示すフローチャートである。自動車がキーインされて電源が入ると、図10に示すように、ECU10(エンジン制御部100)は、各センサSW1〜SW17の検知信号を読み込む(ステップS1)。ECU10は、減速燃料カット条件が成立したか否かを判定する(ステップS2)。
【0167】
具体的には、ECU10は、アクセル開度センサSW12の検知信号に基づいて、アクセル開度がゼロになったか否かを判定する。また、ECU10は、は、水温センサSW10の検知信号に基づいて、エンジン水温が所定値を超えているか否か、EGR弁54の開度が閉じたか否かを判定する。
【0168】
ECU10は、アクセル開度がゼロである、エンジン水温が所定値を超えている、およびEGR弁54の開度が閉じている、と判定した場合(減速燃料カット条件が成立)、エンジン1への燃料の供給を停止、つまり燃料カットする(ステップS3)。
【0169】
そうして、燃料カットが行われている間に、性能判別処理(第1判別処理)が行われる(ステップS4)。性能判別処理では、図11に示すように、センサ診断部101との協働により、エンジン制御部100は、吸気S−VT23を通じて、吸気弁21のバルブタイミング(開弁および閉弁のタイミング)を、燃料カット運転中に設定される目標バルブタイミングに変更する(ステップS100)。
【0170】
センサ診断部101は、所定の燃焼サイクルにおいて、吸気圧センサSW5の検出信号に基づいて、吸気弁21の閉弁タイミング(IVC)での筒内圧力Psを検知する(ステップS101、図8参照)。そして、センサ診断部101は、その筒内圧力Psを所定のポリトロープ変化の式に導入して演算することにより、圧縮TDC付近のピークでの筒内圧力Pcを予測する(ステップS102)。
【0171】
このとき、予測値PCは、エンジン1の回転数に応じて、適宜補正される(図9参照)。
【0172】
同時に、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6により、圧縮TDC付近のピークでの筒内圧力Paを実測する(ステップS103)。そうして、センサ診断部101は、これら筒内圧力の予測値Pcおよび実測値Paからゲイン値を求め、予め設定されている所定の基準値Pkと比較する(ステップS104)。
【0173】
その結果、ゲイン値が基準値Pkを越えている、すなわち、筒内圧力の性能が所定の基準値未満であると判別した場合には、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6の性能は「不良(不適正)」であると判別する(ステップS105)。対して、ゲイン値が基準値Pkを越えていない、すなわち、筒内圧力の性能が所定の基準値以上であると判別した場合には、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6の性能は「良(適正)」であると判別する(ステップS106)。そうして、性能判別処理が終了すると、センサ診断部101は、図10に示すメインルーチンにリターンする。
【0174】
性能判別処理の結果、筒内圧センサSW6の性能が良であった場合(ステップS5でNo)、センサ診断部101は、筒内圧センサSW6は正常であると診断する(ステップS6)。対して、性能判別処理の結果、筒内圧センサSW6の性能が不良であった場合(ステップS5でYes)、センサ診断部101は、デポジット除去制御(性能回復処理)を実行する(ステップS7)。
【0175】
デポジット除去制御の具体例としては、上述したように、点火プラグ25の点火時期を進角させる制御や、燃焼室17への外部EGRガスの導入量を減らす制御などが挙げられる。これら制御により、所定期間、燃焼時にノッキングを発生させる。そうすることで、ノッキングの衝撃により、デポジットを剥離して除去することができる。
【0176】
デポジット除去制御が終了した場合(ステップS8でYes)、再度、性能判別処理(第2判別処理)を実行するため、ECU10は、減速燃料カット条件が成立したか否かを判定する(ステップS9)。そして、減速燃料カット条件が成立した場合、再度、燃料カットが行われる(ステップS10)。
【0177】
その燃料カットが行われている間に、第1判別処理と同様に、性能判別処理(第2判別処理)が行われる(ステップS11)。第2判別処理の結果、筒内圧センサSW6の性能が良であった場合(ステップS12でNo)、第1判別処理での判別結果(不良の判別)は、デポジットが原因であったと判ることから、ECU10は、筒内圧センサSW6は正常であると診断する(ステップS6)。
【0178】
対して、第2判別処理の結果、筒内圧センサSW6の性能が不良であった場合(ステップS12でYes)、第1判別処理での判別結果(不良の判別)は、デポジットが原因でなく、筒内圧センサSW6に原因があると判ることから、ECU10は、筒内圧センサSW6は「異常」と診断する(ステップS13)。
【0179】
筒内圧センサSW6の異常を診断した場合、ECU10は、報知器57を通じて筒内圧センサSW6の異常をユーザに知らせる報知処理を実行する(ステップS14)。すなわち、ユーザに対し、筒内圧センサSW6および/またはチャージアンプ710の交換を促す。
【0180】
このように、開示する技術(異常診断装置)を適用したエンジン1によれば、筒内圧センサSW6の異常診断の正確性を高めることができる。その結果、筒内圧センサSW6やチャージアンプ710の不必要な交換を抑制できる。
【0181】
<デポジット除去制御の応用例>
図12に、デポジット除去制御の応用例のフローチャートを示す。この応用例のデポジット除去制御では、デポジット除去制御の実行中に変化するデポジットの堆積量を推定し、その推定されたデポジットの堆積量の変化に基づいて、デポジット除去制御の終了を判別するように構成されている(デポジット除去量推定制御)。
【0182】
具体的には、ECU10(センサ診断部101)は、デポジット除去制御の実行期間内の燃焼サイクル毎に、ピストン3の表面温度の推定とともに、騒音指標値(SIノック指標値)を取得する処理を行う(ステップS200)。ピストン3の表面温度の推定は、各種センサSW1〜SW17から入力される検出から判断されるエンジン1の運転状態(要求トルク、回転数)に基づいて判断される。SIノック指標値は、上述したように、筒内圧センサSW6の検出値に基づいて算出される。
【0183】
メモリ10bには、予めマップ(デポ堆積マップ)が設定されている。デポ堆積マップでは、エンジン1の運転領域に対応して推定されたピストン3の表面温度と、デポジットの堆積変化とが関連付けされている。ECU10は、エンジン1の運転領域と、このデポ堆積マップとを照合することにより、その燃焼サイクルで堆積するデポジット量(増量分)を算出する。
【0184】
ECU10はまた、デポジット除去制御の実行期間内の燃焼サイクル毎に、SIノック指標値を取得する。メモリ10bには、予めテーブル(デポ除去テーブル)が設定されている。デポ除去テーブルには、ノッキングの状態(例えば、ノッキングの回数など)と、そのノッキングによって除去されるデポジット量とが関連付けされている。ECU10は、そのSIノック指標値を、デポ除去テーブルと照合することにより、その燃焼サイクルで除去されるデポジットの減少量(減量分)を算出する。
【0185】
そうして、ECU10は、算出したデポジットの増量分および減量分を加算することにより、その燃焼サイクルにおけるデポジットの増減量を算出する(ステップS201)。そうして得られる、デポジット除去制御の実行期間内における燃焼サイクル毎のデポジットの増減量を積算することにより、ECU10は、デポジットの総変化量、すなわちデポジットの除去量を推定する(ステップS202)。
【0186】
ECU10はまた、デポジット除去量推定制御と並行して、燃焼サイクルの回数をカウントする制御(除去期間制御)も実行する(ステップS204)。ECU10は、デポジット除去制御の開始後、燃焼サイクルの回数をカウントしていく。
【0187】
ECU10は、常時、デポジットの除去量と、所定の設定値T1(メモリ10bに記憶されている)とを比較しており(ステップS203)、デポジットの除去量が所定の設定値T1以上であると判定した場合には、デポジット除去制御を終了する(ステップS206)。
【0188】
ECU10はまた、常時、燃焼サイクルの回数と、所定の設定値N1(メモリ10bに記憶されている)とを比較しており(ステップS205)、燃焼サイクルの回数が設定値N1以上であると判定した場合にも、デポジット除去制御を終了する(ステップS206)。
【0189】
この応用例のデポジット除去制御によれば、デポジットの除去が定量的に行えるので、筒内圧センサSW6の異常診断の正確性を高めることができる。
【0190】
デポジット除去量推定制御よりも除去期間制御の方が、デポジット除去制御の期間が長くなるように、設定値が設定される。すなわち、除去期間制御は、予備的なものであり、デポジットの除去を、より確実に実行するために設けられている。除去期間制御は、デポジット除去量推定制御から独立しているので、デポジットの除去は、よりいっそう確実に実行される。
【0191】
尚、デポジット除去量推定制御だけ行ってもよいし、除去期間制御だけを行ってもよい。
【0192】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。上述した実施形態では、SPCCI燃焼を行うエンジンを例示したが、エンジンは、これに限るものではない。筒内圧センサが付設されているエンジンであれば、適用できる。
【符号の説明】
【0193】
1 エンジン
10 ECU(異常診断装置)
17 燃焼室
25 点火プラグ
40 吸気通路
44 過給機
50 排気通路
52 EGR通路
61 燃料供給システム
71 ダイヤフラム
710 チャージアンプ
100 センサ診断部
101 エンジン制御部
SW6 筒内圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12