特開2020-101128(P2020-101128A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-101128(P2020-101128A)
(43)【公開日】2020年7月2日
(54)【発明の名称】エンジンの燃焼制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20200605BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20200605BHJP
   F02M 26/52 20160101ALI20200605BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20200605BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20200605BHJP
   F02P 5/152 20060101ALI20200605BHJP
   F02M 26/03 20160101ALN20200605BHJP
【FI】
   F02D45/00 345B
   F02D43/00 301B
   F02D43/00 301N
   F02D45/00 301F
   F02D45/00 310J
   F02D45/00 368S
   F02M26/52
   F02D21/08 301G
   F02P5/15 G
   F02P5/15 L
   F02P5/152
   F02M26/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-239805(P2018-239805)
(22)【出願日】2018年12月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 健一
(72)【発明者】
【氏名】田中 博規
(72)【発明者】
【氏名】津村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】毎熊 泰樹
【テーマコード(参考)】
3G022
3G062
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G022AA03
3G022AA10
3G022DA01
3G022EA01
3G022EA08
3G022GA15
3G062AA05
3G062BA08
3G062CA07
3G062DA02
3G092AA01
3G092AA06
3G092AA17
3G092AA18
3G092AB02
3G092BA09
3G092DC09
3G092FA16
3G092FA36
3G092GA05
3G092HA01Z
3G092HA04Z
3G092HA16Z
3G092HB03Z
3G092HC01Z
3G092HD01Z
3G092HD06Z
3G092HE03Z
3G092HE08Z
3G092HF08Z
3G384AA01
3G384AA06
3G384BA24
3G384BA27
3G384CA06
3G384DA43
3G384DA55
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA08Z
3G384FA11Z
3G384FA15Z
3G384FA28Z
3G384FA29Z
3G384FA37Z
3G384FA45Z
3G384FA48Z
3G384FA58Z
3G384FA61Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】デポジットの除去性能を高めることにより、プリイグを効果的に抑制できるようにする。
【解決手段】自動車に搭載されているエンジン1の燃焼制御装置である。点火プラグ25、吸気通路40、排気通路50、EGR通路52、EGR弁54、およびECU10を備える。ECU10は、燃焼室17の中に堆積するデポジットを抑制するデポジット抑制部100を有している。デポジット抑制部100は、デポジットの堆積量を推定する制御と、デポジットを除去する制御とを実行する。デポジット除去制御で、点火プラグ25の制御とともに、排気ガスの量を減少させるEGR弁54の制御が行われる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載されているエンジンの燃焼制御装置であって、
前記エンジンの燃焼室の中で混合気に点火する点火プラグと、
前記燃焼室に吸気ガスを導入する吸気通路と、
前記燃焼室で発生する排気ガスを導出する排気通路と、
前記吸気通路と前記排気通路とに連通し、排気ガスの一部を前記吸気通路に還流させるEGR通路と、
前記EGR通路を流れる排気ガスの量を調整するEGR弁と、
前記エンジンの運転状態に応じて、前記点火プラグおよび前記EGR弁を制御する制御装置本体と、
を備え、
前記制御装置本体は、前記燃焼室の中に堆積するデポジットを抑制するデポジット抑制部を有し、
前記デポジット抑制部は、
前記デポジットの堆積量を推定するデポジット量推定制御と、
推定された前記デポジットの堆積量が所定の設定値以上になった場合に、前記デポジットを除去するデポジット除去制御と、
を実行し、
前記デポジット除去制御で、混合気に点火して燃焼させる前記点火プラグの制御とともに、前記燃焼室に導入される排気ガスの量を減少させる前記EGR弁の制御が行われる、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、エンジンの燃焼制御装置において、
前記エンジンの運転領域のうち、所定以上の高負荷側では前記デポジット除去制御の実行が制限される、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の、エンジンの燃焼制御装置において、
前記燃焼室の中の圧力を検出する筒内圧センサを更に備え、
前記デポジット抑制部が、
前記燃焼室に臨むピストンの表面温度に基づいて、経時的に変化する前記デポジットの増量分を推定するデポジット増量推定処理と、
前記筒内圧センサの検出値から算出される所定の燃焼騒音指標値に基づいて、経時的に変化する前記デポジットの減量分を推定するデポジット減量推定処理と、
を前記デポジット量推定制御で行うことにより、前記デポジットの増量分および減量分に基づいて、前記デポジットの堆積量を推定する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の、エンジンの燃焼制御装置において、
前記デポジット抑制部が、前記デポジット除去制御の実行中に、前記デポジット増量推定処理および前記デポジット減量推定処理を行い、前記デポジットの増量分および減量分に基づいて前記デポジットの堆積量を推定し、推定された前記デポジットの堆積量が所定の設定値以下になった場合に、前記デポジット除去制御を終了する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の、エンジンの燃焼制御装置において、
前記デポジット抑制部が更に、デポジット除去制御の実行後、所定の期間を経過したか否かを判別する堆積期間制御を実行し、
前記所定の期間を経過した場合にも前記デポジット除去制御を実行する、エンジンの燃焼制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の、エンジンの燃焼制御装置において、
前記デポジット除去制御で更に、前記点火プラグの点火時期を進角させる制御が行われる、エンジンの燃焼制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、自動車に搭載されているエンジンの燃焼制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼において、点火する前に燃焼が始まる異常燃焼現象(いわゆるプリイグニッション、「プリイグ」ともいう)が存在する。プリイグが発生すると、エンジンはダメージを受ける。そのため、プリイグの抑制は、エンジンの燃焼制御において重要な課題となっている。
【0003】
燃焼時には、燃料やエンジンオイルが燃焼室の壁面に付着する。その付着物が、時間を経て堆積することにより、「デポジット」を生成する。このデポジットがプリイグの一因であることは知られている。従って、デポジットが多量に生成しないようにすることは、プリイグの抑制に対する有効な措置となる。
【0004】
そのため、特許文献1には、デポジットを定期的に除去する技術が提案されている。具体的には、定期的に、点火時期を進角させることにより、燃焼室で強制的にノッキングを発生させる。そうすることにより、ノッキングの衝撃でデポジットを剥離して除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2013/132613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本来、ノッキングは、騒音や振動の原因となるため、抑制するのが好ましい。しかし、ノッキングはまた、特許文献1に記載されているように、デポジットの除去手段ともなり得る。
【0007】
エンジンの運転領域のうち、負荷の高い領域では、燃料や空気量が多くなるので、燃焼は激しくなり易い。そのため、通常の燃焼においてもノッキングは自然に発生する。特に、幾何学的圧縮比の高いエンジンや過給エンジンにおいて顕著である。
【0008】
従って、デポジットを除去するために、ノッキングを強制的に発生させる必要があるのは、主に、負荷の低い運転領域である。
【0009】
近年では、円滑な運転、エミッション抑制、燃費抑制などの観点から、エンジンの燃焼に際し、燃焼室にEGRガス(排気ガス)を導入することが行われている。混合気中のEGRガスの割合は、エンジンの運転状態に応じて調整される。
【0010】
燃焼室にEGRガスが導入されると、その分だけ空気量が減る。その結果、燃焼が緩慢になるので、ノッキングは発生し難くなる。従って、EGRガスの量が多いと、点火時期を進角させてもノッキングが発生しない場合が発生する。その傾向は、負荷の低い運転領域において、よりいっそう強くなる。従って、引用文献1の技術は、改善の余地がある。
【0011】
開示する技術の主たる目的は、デポジットの除去性能を高めることにより、プリイグを効果的に抑制できるエンジンの燃焼制御装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示する技術は、自動車に搭載されているエンジンの燃焼制御装置に関する。
【0013】
前記燃焼制御装置は、前記エンジンの燃焼室の中で混合気に点火する点火プラグと、前記燃焼室に吸気ガスを導入する吸気通路と、前記燃焼室で発生する排気ガスを導出する排気通路と、前記吸気通路と前記排気通路とに連通し、排気ガスの一部を前記吸気通路に還流させるEGR通路と、前記EGR通路を流れる排気ガスの量を調整するEGR弁と、前記エンジンの運転状態に応じて、前記点火プラグおよび前記EGR弁を制御する制御装置本体と、を備える。
【0014】
前記制御装置本体は、前記燃焼室の中に堆積するデポジットを抑制するデポジット抑制部を有している。前記デポジット抑制部は、前記デポジットの堆積量を推定するデポジット量推定制御と、推定された前記デポジットの堆積量が所定の設定値以上になった場合に、前記デポジットを除去するデポジット除去制御と、を実行する。そして、前記デポジット除去制御で、混合気に点火して燃焼させる前記点火プラグの制御とともに、前記燃焼室に導入される排気ガスの量を減少させる前記EGR弁の制御が行われる。
【0015】
すなわち、開示する技術が対象とするエンジンでは、燃焼時にEGR(Exhaust Gas Recirculation)が行われる。すなわち、燃焼時に排気ガスの一部を吸気通路に還流し、空気に排気ガスが混ざった吸気ガスを燃焼室の中に導入する。
【0016】
そして、デポジットの堆積量を推定し、その堆積量が所定の設定値以上になった場合にデポジットを除去する。デポジットが多量に堆積すると、プリイグが発生することから、デポジットの堆積量を所定値未満に抑制することで、プリイグの発生を抑制できる。
【0017】
この燃焼制御装置では、デポジットを除去するために、混合気に点火する燃焼とともに、外部EGRガスの導入量を減少させる制御を行う。外部EGRガスの導入量が減ると、その分だけ空気量が増える。空気量が増えれば、ノッキングが発生し易くなる。外部EGRガスの導入量を調節することで、安定してノッキングを発生させることができる。ノッキングが発生すれば、その衝撃でデポジットを除去できる。
【0018】
外部EGRガスの導入量の調節であれば、エンジンの広い運転領域で行える。負荷の低い運転領域でも、安定してノッキングを発生させることができる。その結果、デポジットの除去性能が高まるので、プリイグを効果的に抑制できるようになる。
【0019】
前記燃焼制御装置はまた、前記エンジンの運転領域のうち、所定以上の高負荷側では前記デポジット除去制御の実行が制限される、としてもよい。
【0020】
負荷の高い運転領域では、燃料や空気量が多くなるので、燃焼は激しくなり易い。そのため、通常の燃焼時にもノッキングは自然に発生する。そのような領域で、外部EGRガスの導入量を減少させると、強いノッキングが多発するようになる。その結果、騒音や振動で不快感を与えるおそれがある。
【0021】
そこで、この燃焼制御装置では、エンジンの運転領域のうち、所定以上の高負荷側では、デポジット除去制御の実行を制限する。それにより、強いノッキングの発生を抑制する。
【0022】
前記燃焼制御装置はまた、前記燃焼室の中の圧力を検出する筒内圧センサを更に備え、前記デポジット抑制部が、前記燃焼室に臨むピストンの表面温度に基づいて、経時的に変化する前記デポジットの増量分を推定するデポジット増量推定処理と、前記筒内圧センサの検出値から算出される所定の燃焼騒音指標値に基づいて、経時的に変化する前記デポジットの減量分を推定するデポジット減量推定処理と、を前記デポジット量推定制御で行うことにより、前記デポジットの増量分および減量分に基づいて、前記デポジットの堆積量を推定する、としてもよい。
【0023】
詳細は後述するが、燃焼室に臨むピストンの表面温度に基づいて、経時的に変化するデポジットの増量分を、精度高く推定することができる。また、筒内圧センサの検出値から算出される所定の燃焼騒音指標値に基づいて、経時的に変化するデポジットの減量分を、精度高く推定することができる。従って、これらデポジットの増減量に基づけば、経時的に変化するデポジットの堆積量を、精度高く推定することができる。
【0024】
デポジットの堆積量が精度高く推定できれば、適切なタイミングでデポジットの除去が行える。デポジットの除去性能が高まって、プリイグを効果的に抑制できるようになる。
【0025】
その場合、前記デポジット抑制部が、前記デポジット除去制御の実行中に、前記デポジット増量推定処理および前記デポジット減量推定処理を行い、前記デポジットの増量分および減量分に基づいて前記デポジットの堆積量を推定し、推定された前記デポジットの堆積量が所定の設定値以下になった場合に、前記デポジット除去制御を終了する、としてもよい。
【0026】
デポジット除去制御では、ノッキングを発生させて、その衝撃でデポジットを除去する。デポジットを十分に除去するには、ノッキングを多数発生させる必要がある。その際、デポジットの増減を推定すれば、定量的に、デポジット除去制御を終了するタイミングが判断できる。効率的かつ効果的なデポジット除去制御が行える。
【0027】
前記燃焼制御装置はまた、前記デポジット抑制部が更に、デポジット除去制御の実行後、所定の期間を経過したか否かを判別する堆積期間制御を実行し、前記所定の期間を経過した場合にも前記デポジット除去制御を実行する、としてもよい。
【0028】
すなわち、デポジット量推定制御と並行して堆積期間制御を行う。互いに独立した制御に基づいて、デポジット除去制御のタイミングを判断するので、デポジットの除去を、より確実に行える。
【0029】
前記燃焼制御装置はまた、前記デポジット除去制御で更に、前記点火プラグの点火時期を進角させる制御が行われる、としてもよい。
【0030】
点火時期を進角させれば、ノッキングは発生し易くなる。従って、外部EGRガスの導入量の減少と併せて点火時期を進角させれば、よりいっそうノッキングを発生させ易くなる。
【発明の効果】
【0031】
開示する技術によれば、デポジットの除去性能を高めることができる。それにより、プリイグを効果的に抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】開示する技術を適用したエンジンの構成を例示する概略図である。
図2】燃焼室の構成を例示する図であり、上図は燃焼室の平面視相当図、下図はII−II線断面図である。
図3】ECUとその主な関連装置との関係を例示するブロック図である。
図4】SPCCI燃焼の波形を例示する図である。
図5】エンジンの燃焼制御に関するマップの一例である。
図6】デポジットの抑制制御に関連する、ECUとその主な関連装置の機能的な関係を示すブロック図である。
図7】ノッキングとデポジット除去効果との関係を示すグラフである。
図8】デポジット除去制御に関するマップの一例である。
図9】デポジットの堆積と温度との関係を示すグラフである。
図10】デポジット除去制御に関するマップの一例である。
図11】デポジットの抑制制御に関する制御ブロックの一例である。
図12A】デポジットの抑制制御のフローチャートの一例である。
図12B図12Aに続くフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。すなわち、説明する各構成の内容は例示であり、逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0034】
<エンジン>
図1に、開示する技術を適用したエンジン1を例示する。エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程、および排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークのレシプロエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。
【0035】
詳細は後述するが、エンジン1には、ECU(Engine Control Unit)10が備えられている。エンジン1の運転は、ECU10によって制御される。ECU10はまた、開示する燃焼制御装置の制御装置本体を構成する。
【0036】
エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であればよい。燃料は、例えばバイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
【0037】
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11(気筒)が形成されている。図1では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
【0038】
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11およびシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。ピストン3の上面(表面)は、燃焼室17に臨んでいる。
【0039】
尚、「燃焼室」は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11およびシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
【0040】
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
【0041】
燃焼室17に臨むピストン3の上面は、燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、この構成例では、浅皿形状を有している。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側にずれている。
【0042】
詳細は後述するが、このエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼を行う。
【0043】
SI燃焼は、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行うことにより開始する火炎伝播を伴う燃焼である。CI燃焼は、燃焼室の中の混合気が圧縮着火することにより開始する燃焼である。
【0044】
SPCCI燃焼では、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行って、火炎伝播による燃焼を開始させる。それにより、SI燃焼の発熱及び火炎伝播による圧力上昇によって、燃焼室の中の未燃混合気がCI燃焼する。すなわち、SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。
【0045】
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定することができる。例えば、エンジン1の幾何学的圧縮比は、一般的な火花点火式エンジンよりも高い、16以上としてもよい。しかし、このエンジン1では、SPCCI燃焼を行うので、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を高くする必要がない。エンジン1は、幾何学的圧縮比を、比較的低く設定することが可能である。幾何学的圧縮比を低くすると、冷却損失の低減、および、機械損失の低減に有利になる。
【0046】
エンジン1の幾何学的圧縮比はまた、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度の低オクタン価燃料)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度の高オクタン価燃料)においては、15〜18としてもよい。
【0047】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。図示は省略するが、吸気ポート18は、2つの吸気ポートを有している。これら吸気ポート18,18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
【0048】
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミングおよび/またはバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。
【0049】
このエンジン1は、その可変動弁機構として、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している(図3参照)。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁タイミングおよび閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
【0050】
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、2つの排気ポートを有している。これら排気ポート19,19は、燃焼室17に連通している。
【0051】
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミングおよび/またはバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。
【0052】
このエンジン1では、その可変動弁機構として、排気電動S−VT24を有している(図3参照)。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁タイミングおよび閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
【0053】
吸気電動S−VT23および排気電動S−VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを長くすると、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。また、オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入することができる。内部EGRシステムは、吸気電動S−VT23および排気電動S−VT24によって構成されている。尚、内部EGRシステムは、S−VTによって構成されるとは限らない。
【0054】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6(燃料噴射弁)が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。図2に示すように、インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。
【0055】
インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。インジェクタ6の噴射軸心X2は、中心軸X1に平行である。インジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の中心とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。
【0056】
尚、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その構成の場合に、インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の中心とは一致していてもよい。
【0057】
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔(このエンジン1では10個)を有している。噴孔は、周方向に等角度に配置されている。従って、インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。
【0058】
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料タンク63は、燃料を貯留する。燃料供給路62には、燃料ポンプ65およびコモンレール64が設置されている。
【0059】
燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、例えば、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式である。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられた燃料が、インジェクタ6から燃焼室17の中に噴射される。
【0060】
燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能である。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。
【0061】
(点火プラグ25)
図1図2に示すように、シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中で混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、シリンダ11の中心軸X1よりも吸気側に配設されている。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。
【0062】
点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25を、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に配置してもよい。また、点火プラグ25をシリンダ11の中心軸X1上に配置してもよい。
【0063】
(吸気通路40)
図1に示すように、エンジン1の側面には吸気通路40が連結されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40を流れるガス(吸気ガス)が燃焼室17に導入される。
【0064】
吸気通路40の上流側の端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、新気を濾過する。吸気通路40の下流側の端部には、サージタンク42が配設されている。吸気通路40におけるサージタンク42よりも下流側の部位は、シリンダ11毎に分岐し、各々が独立した通路を構成している。これら通路が、各シリンダ11の吸気ポート18に連結されている。
【0065】
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間の部位には、開度の調節が可能なスロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、燃焼室17に導入する新気(空気)の量を調節する。
【0066】
吸気通路40におけるスロットル弁43の下流側の部位には、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気ガスを過給する。過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、または遠心式であってもよい。
【0067】
過給機44は、電磁クラッチ45を介してエンジン1と連結されている。電磁クラッチ45は、エンジン1から過給機44への駆動力の伝達の有無を切り替える。電磁クラッチ45の切り替えは、ECU10が行う。電磁クラッチ45の切り替えにより、過給機44のオンとオフとが切り替わる。
【0068】
吸気通路40における過給機44の下流の部位には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮した吸気ガスを冷却する。インタークーラー46には、例えば水冷式または油冷式のクーラーが利用できる。
【0069】
吸気通路40には、バイパス通路47が連結されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流側の部位と、インタークーラー46の下流側の部位とに連結されている。バイパス通路47は、過給機44およびインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れる吸気ガスの流量を調節する。
【0070】
ECU10は、過給機44をオフにしたときに、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れる吸気ガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に流入する。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
【0071】
過給機44をオンにすると、エンジン1は過給状態で運転する。エンジン1が過給状態で運転しているときには、ECU10は、エアバイパス弁48の開度を調節する。それにより、過給機44を通過した吸気ガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流側に逆流する。
【0072】
ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入される吸気ガスの圧力が変わる。つまり、過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
【0073】
エンジン1は、図2に白抜きの矢印で示すように、燃焼室17の中でスワール流を発生させる。図1に示すように、吸気通路40にスワールコントロール弁56が取り付けられている。スワールコントロール弁56は、詳細な図示は省略するが、二つの吸気ポート18,18のうちの一方の吸気ポート18に配設されている。
【0074】
スワールコントロール弁56は、流路を絞ることができる開度調節弁である。開度が小さくなるとスワール流は強くなる。開度が大きくなるとスワール流は弱くなる。全開になるとスワール流は発生しない。
【0075】
(排気通路50)
エンジン1の側面(吸気通路40とは反対側の側面)には、排気通路50が連結されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17で発生する排気ガスを導出する。排気通路50の上流側の部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐している。これら独立した通路の各々が、各シリンダ11の排気ポート19に連結されている。
【0076】
排気通路50には、複数の触媒コンバーター51U,51Dを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流側に位置する触媒コンバーター51Uは、自動車のエンジンルーム(図示せず)の中に配設されている。図1に示すように、その触媒コンバーター51Uは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。
【0077】
下流側に位置する触媒コンバーター51Dは、エンジンルームの外に配設されている。その触媒コンバーター51Dは、三元触媒513を有している。尚、GPF512は省略してもよい。また、触媒コンバーター51U,51Dは、三元触媒511,513を有するものに限定されない。さらに、三元触媒511およびGPF512の並び順は、適宜変更してもよい。
【0078】
(EGR通路52、EGR弁54)
吸気通路40と排気通路50との間には、EGR通路52が連結されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させる。従って、吸気ガスは、新気だけでなく排気ガスを含む場合もある。
【0079】
EGR通路52の上流側の端部は、排気通路50における上流の触媒コンバーター51Uと下流の触媒コンバーター51Dとの間の部位に連通している。EGR通路52の下流側の端部は、吸気通路40における過給機44の上流側の部位に連通している。EGR通路52を流れる排気ガスは、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40の過給機44より上流側に入る。
【0080】
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの量を調節する。すなわち、EGR弁54により、吸気通路40に還流する冷却された排気ガス(外部EGRガス)の量が調節される。外部EGRガスの量の多少により、吸気ガスの温度の調節が可能になる。
【0081】
(ECU10)
ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーである。図3に示すように、ECU10は、プログラムを実行するCPU10aと、プログラムおよびデータを格納するメモリ10bと、電気信号を入出力するインターフェース10cとを備えている。メモリ10bには、制御に用いる制御ロジック(詳細は後述)やマップなどが記憶されている。
【0082】
ECU10には、図1図3に示すように、各種のセンサSW1〜SW17が接続されている。これらセンサSW1〜SW17の各々は、検出した情報を電気信号として出力し、インターフェース10cを介してECU10に入力する。これらセンサSW1〜SW17の内容を以下に示す。
【0083】
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を検出する
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を検出する
第1圧力センサSW3:吸気通路40におけるEGR通路52の連結位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を検出する
第2吸気温度センサSW4:吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の連結位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を検出する
吸気圧センサSW5:サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を検出する
筒内圧センサSW6:各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17の中の圧力(筒内圧力)を検出する
排気温度センサSW7:排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検出する
リニアOセンサSW8:排気通路50における上流の触媒コンバーター51Uよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検出する
ラムダOセンサSW9:上流の触媒コンバーター51Uにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検出する
水温センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を検出する
クランク角センサSW11:エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を検出する
アクセル開度センサSW12:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出する
吸気カム角センサSW13:エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を検出する
排気カム角センサSW14:エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を検出する
EGR差圧センサSW15:EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流および下流の差圧を検出する
燃圧センサSW16:燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を検出する
第3吸気温度センサSW17:サージタンク42に取り付けられかつ、サージタンク42内のガスの温度、換言すると燃焼室17に導入される吸気ガスの温度を検出する。
【0084】
ECU10は、これらセンサSW1〜SW17から入力される、様々な検出値の電気信号(検出信号)に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。そして、ECU10は、マップを適宜用いながら制御ロジックに従って、各デバイスの目標量および/または制御量を演算する。
【0085】
ECU10は、演算で得た制御量に対応した電気信号を、インターフェース10cを介して、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、および、スワールコントロール弁56に出力する。それにより、ECU10は、これら機器を総合的に制御する。
【0086】
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上および排出ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態のときに、圧縮自己着火による燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
【0087】
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が強制的に点火をすることにより、SI燃焼とCI燃焼とが生じる形態である(部分的圧縮着火燃焼)。
【0088】
SI燃焼の発熱量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。ECU10が点火時期を調節することによって、混合気を目標のタイミングで自己着火させることができる。
【0089】
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率(dQ/dθ)の波形は、図4に例示するように、立ち上がりの傾きが、CI燃焼の波形における立ち上がりの傾きよりも小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動率(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
【0090】
SI燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火すると、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化する場合がある。熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングθciで、変曲点Xを有する場合がある。
【0091】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。しかし、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時の圧力変動率(dp/dθ)も、比較的穏やかになる。
【0092】
圧力変動率(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができる。SPCCI燃焼は、圧力変動率(dp/dθ)を小さくできるため、過剰な燃焼騒音を回避することが可能になる。従って、エンジン1の燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えられる。
【0093】
CI燃焼が終了することで、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。
【0094】
SPCCI燃焼の熱発生率波形は、SI燃焼によって形成された第1熱発生率部QSIと、CI燃焼によって形成された第2熱発生部QCIと、が、この順番に連続するように形成されている。
【0095】
ここで、SPCCI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。SI率は、SPCCI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の割合に関係する指標と定義する。SI率は、燃焼形態の相違する二つの燃焼によって発生する熱量比率である。
【0096】
SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合が高いと、燃焼騒音の抑制に有利になる。SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合が高いと、エンジン1の燃費効率の向上に有利になる。
【0097】
SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対するSI燃焼により発生した熱量の比率と定義してもよい。つまり、SPCCI燃焼において、CI燃焼が開始するクランク角をCI燃焼開始時期θciとして、図4に示す波形801において、θciよりも進角側であるSI燃焼の面積QSIと、θciを含む遅角側であるCI燃焼の面積QCIとから、SI率=QSI/QCIとしてもよい。
【0098】
(エンジン1の制御ロジック)
上述したように、ECU10は、メモリ10bに記憶している制御ロジックに従って、エンジン1を運転する。
【0099】
すなわち、ECU10は、各種センサSW1〜SW17から入力される電気信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断し、目標トルクを設定する。そして、ECU10は、エンジン1がその目標トルクを出力するように、燃焼室17の中の状態量、燃料の噴射量、燃料の噴射時期、および、点火時期などを調節するため、演算を行う。
【0100】
ECU10はまた、SPCCI燃焼を行うときには、SI率とθciとの二つのパラメータを用いてSPCCI燃焼をコントロールする。具体的には、ECU10は、エンジン1の運転状態に対応する目標SI率および目標θciを定める。そして、ECU10は、実際のSI率が目標SI率に一致し、かつ、実際のθciが目標θciとなるように、燃焼室17の中の温度および点火時期の調節を行う。
【0101】
ECU10は、エンジン1の負荷が低いときには、目標SI率を低く設定し、エンジン1の負荷が高いときには、目標SI率を高く設定する。エンジン1の負荷が低いときには、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制と燃費性能の向上とが両立する。エンジン1の負荷が高いときには、SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制に有利になる。
【0102】
(エンジン1の運転領域)
図5は、エンジン1の燃焼制御に係るマップ(温間時)を例示している。マップは、上述したように、ECU10のメモリ10bに記憶されている。マップは、負荷の高低および回転数の高低に対し、大別して5つの領域に分かれる。
【0103】
具体的には、5つの領域は、低負荷領域A1、中負荷領域A2(低負荷領域A1よりも負荷が高い領域)、高負荷中回転領域A3(中負荷領域A2よりも負荷が高くかつ中回転の領域)、高負荷低回転領域A4(中負荷領域A2よりも負荷が高くかつ高負荷中回転領域A3よりも回転数の低い領域)、および、高回転領域A5(高回転の領域)である。
【0104】
ここでいう低回転、中回転、および、高回転は、それぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に略三等分にしたときの、低回転、中回転、および、高回転としてもよい。図5の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
【0105】
また、低負荷の領域は、アイドル運転を含む低負荷側の領域、高負荷の領域は、全開負荷の運転状態を含む高負荷側の領域、中負荷の領域は、低負荷と高負荷との間の中間領域としてもよい。また、低負荷、中負荷、および、高負荷は、それぞれ、エンジン1の全運転領域を負荷方向に略三等分にしたときの、低負荷、中負荷、および、高負荷としてもよい。
【0106】
エンジン1は、低負荷領域A1、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、および、高負荷低回転領域A4において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1はまた、高回転領域A5においては、SI燃焼を行う。
【0107】
混合気の空燃比(A/F)については、低負荷領域A1では、リーンな状態に設定される(λ>1)。中負荷領域A2および高負荷低回転領域A4では、実質的に理論空燃比に設定される(λ=1)。高負荷中回転領域A3および高回転領域A5では、実質的に理論空燃比またはリッチな状態に設定される(λ≦1)。尚、λは空気過剰率に相当する(λ=1:理論空燃比)。
【0108】
(EGR弁54の制御)
EGR弁54は、SPCCI燃焼が適切に行われるようにその開度が制御される。すなわち、ECU10は、EGR弁54の開度を制御する、それにより、吸気ガスに還流する外部EGRガスの量が調節される。その結果、燃焼室17の中は、目標SI率および目標θciが得られる温度になる。
【0109】
エンジン1の運転領域のうち、アイドル運転など、燃焼が弱く、燃焼室17の中の温度が低い低負荷側の領域では、外部EGRガスを多く導入すると、目標SI率および目標θciが得られないおそれがある。従って、その場合は、外部EGRガスの導入量を少なくする(場合によっては、導入しない)。
【0110】
また、エンジン1の運転領域のうち、全開負荷など、要求されるトルクが大きい領域では、多量の空気が必要になる。従って、その分、外部EGRガスの導入量が少なくされる(場合によっては、導入しない)。
【0111】
エンジン1では、このような限られた領域を除く、運転領域の広い範囲で外部EGRガスが導入される。自動車の走行では、低負荷領域A1、中負荷領域A2、およびその周辺の領域が多用される。そのような運転領域では、比較的多くの外部EGRガスが導入される。
【0112】
<ノッキングの抑制制御>
ECU10はまた、制御ロジックに従って、燃焼騒音(ノッキング)を抑制する制御を行う。すなわち、SPCCI燃焼は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた燃焼形態であるため、SI燃焼に起因したノッキング(SIノックとする)、および、CI燃焼に起因したノッキング(CIノックとする)のそれぞれが発生する可能性がある。ECU10は、制御により、これらノッキングを抑制する。
【0113】
SIノックは、混合気がSI燃焼した領域の外側の領域において、未燃ガスが異常な局所自着火(正常なCI燃焼とは明確に異なる局所的な自着火)により、急速燃焼する現象である。CIノックは、CI燃焼による圧力変動に起因して、シリンダブロック12などのエンジン1の主要部品が共振する現象である。
【0114】
SIノックは、燃焼室17の中で生じる気柱振動により、約6.3kHzの周波数をもった大きな騒音として出現する。一方、CIノックは、共振により、約1〜4kHzの周波数(より厳密には当該範囲に含まれる複数の周波数)をもった大きな騒音として出現する。このように、SIノックとCIノックとは、異なる原因に起因した異なる周波数の騒音として出現する。
【0115】
ECU10は、SIノックおよびCIノックが共に発生しないよう、SPCCI燃焼を制御する。具体的には、ECU10は、筒内圧センサSW6の検出信号をフーリエ変換することによって、SIノックに関連したSIノック指標値と、CIノックに関連したCIノック指標値とを算出する。
【0116】
SIノック指標値は、SIノックの発生に伴って増大する6.3kHz付近の筒内圧力スペクトルである。CIノック指標値は、CIノックの発生に伴って増大する1〜4kHz付近の筒内圧力スペクトルである。
【0117】
ECU10は、SIノック指標値およびCIノック指標値のそれぞれが許容限界を超えないようなθci限界を、予め定めたマップに従って決定する。そして、ECU10は、エンジン1の運転状態から定めたθciと、θci限界とを比較する。そうすることにより、ECU10は、θci限界がθciと同じか進角側であれば、θciを目標θciに定める。一方、θci限界がθciよりも遅角側であれば、ECU10は、θci限界を目標θciに定める。
【0118】
ECU10は、SPCCI燃焼の制御に際し、このような制御も併せて行うことにより、SIノックおよびCIノックを抑制する。
【0119】
<プリイグの抑制制御>
ECU10はまた、制御ロジックに従って、点火する前に燃焼が始まる異常燃焼現象(プリイグ)を抑制する制御を行う。
【0120】
ところで、燃焼時には、微量ではあるが、燃料やエンジンオイルが燃焼室17を区画しているピストン3の上面に付着する。時間の経過により、その付着物が僅かずつ堆積することで「デポジット」が生成する。
【0121】
このデポジットが、プリイグの一因であることが知られている。従って、このエンジン1では、ECU10が、デポジットの抑制制御を実行し、デポジットが抑制されるようコントロールする。
【0122】
図6に、デポジットの抑制制御に関連する、ECU10とその主な関連装置の機能的な関係を示す。ECU10は、デポジット抑制部100およびデポジット情報記憶部101を有している。デポジット抑制部100は、燃焼室17の中に堆積するデポジットを抑制する制御を実行する。デポジット情報記憶部101は、デポジットの抑制制御に用いられる情報を記憶する。デポジットの抑制制御に用いられる情報は、デポジット抑制部100とデポジット情報記憶部101との間で入出力される。
【0123】
詳細は後述するが、デポジット抑制部100は、デポジット情報記憶部101と協働して、デポジットの堆積量を推定するデポジット量推定制御と、デポジットを除去するデポジット除去制御とを実行する。
【0124】
デポジット量推定制御では、ピストン3の表面温度に基づいて、経時的に変化するデポジットの増量分を推定するデポジット増量推定処理と、SIノック指標値に基づいて、経時的に変化するデポジットの減量分を推定するデポジット減量推定処理とが行われる。そして、これらデポジットの増量分および減量分に基づいて、デポジットの総堆積量が推定される。
【0125】
デポジット除去制御では、燃焼時にノッキングを発生させ、その衝撃によって堆積したデポジットの除去を行う。ただし、このエンジン1では、ノッキングを発生させるために、デポジット抑制部100は、混合気に点火して燃焼させる点火プラグ25の制御とともに、燃焼室17に導入される外部EGRガスの量を減少させるEGR弁54の制御を行う。具体的には、EGR率(燃焼室17の中の混合気全量に対する外部EGRガスの量の割合)が小さくなるように補正する。
【0126】
燃焼室17に導入される外部EGRガスの量が減ると、その分だけ空気量が増える。上述したように、このエンジン1では、ノッキングの抑制制御を含め、最適な燃焼が行えるように、SI率などのパラメータがコントロールされている。そのような最適な燃焼を実現する条件に対して空気量を増やせば、ノッキングを発生させることができる。EGR率の補正量を調節することで、安定してノッキングを発生させることができる。
【0127】
EGR率の調節であれば、エンジン1の広い運転領域で行える。負荷の低い運転領域でも、安定してノッキングを発生させることができる。
【0128】
(ノッキングとデポジット除去効果との関係)
開示する技術の検討時に、ノッキングがデポジットに与える影響について、実験を行い、調査した。
【0129】
実験では、ピストンにデポジットが堆積した2つのエンジンを用い、これらエンジンの各々で、強度が高低に異なる所定のノッキングを発生させながら30分間、標準的な運転を行った。図7に、その実験結果を示す。
【0130】
ノッキングの強度が低い条件(KI=1)およびノッキングの強度が高い条件(KI=3)のいずれにおいても、運転前に比べて運転後はデポジットの厚さが減少した(略半減した)。従って、ノッキングにより、デポジットが除去できることが確認された。
【0131】
また、ノッキングの強度の高低の違いによるデポジットの除去効果の差は、ほとんど認められなかった。従って、ノッキングの強度の高低は、デポジット除去効果に対する影響は少なく、ノッキングの強度が低くても、デポジットを除去することができることが確認された。
【0132】
これらの結果より、デポジット抑制部100は、デポジット除去制御を実行する際、不快感を与え得る強いノッキングを発生するのではなく、弱いノッキングが発生するように制御する。このことはまた、負荷の低い運転領域でのノッキングによるデポジット除去に対して有利となる。
【0133】
また、デポジット抑制部100は、デポジットの減量分を推定するデポジット減量推定処理において、個々のノッキングに対応したデポジットの減少量を求めるが、その際、複雑なマップを用いる必要がない点でも有利となる。具体的には、デポジット情報記憶部101には、デポジットの除去が可能になるSIノック指標値と、そのノッキングによって減少するデポジット量とを関連付けしたテーブル(デポ除去テーブル)が記憶されている。
【0134】
上述したように、このエンジン1では、運転領域の広い範囲において外部EGRガスが導入される。上述したデポジット除去制御では、EGR率を補正するだけであるので、制限を受けずに広い運転領域で実行できる。
【0135】
ただし、負荷の高い運転領域では、燃料や空気量が多くなるので、燃焼は激しくなり易い。そのため、通常の燃焼時にもノッキングは自然に発生する。特に、このエンジン1は、幾何学的圧縮比が高いし、負荷の高い運転領域では過給を行うので、強いノッキングが発生し易い。そのため、このエンジン1では、上述したように、ECU10がノッキングの抑制制御を行っている。
【0136】
そこで、ECU10は、強いノッキングが発生しないように、エンジン1の運転領域のうち、所定以上の高負荷側では、デポジット除去制御の実行を制限する。具体的には、図8に示すように、デポジット情報記憶部101には、エンジン1の運転領域に対応したマップ(デポ制御領域マップ)が記憶されている。図8のマップに斜線で示す領域が、デポジット除去制御の実行が制限される実行制限領域に相当する。
【0137】
実行制限領域の下限は、エンジン1の仕様に応じて適宜変更される。実行制限領域の下限は、個々の運転領域で可変させてもよいし、回転数の高低で可変させてもよい。デポジット抑制部100は、デポジット除去制御を実行する際、このマップを参照する。そうして、デポジット抑制部100は、エンジン1が実行制限領域で運転しているときは、デポジット除去制御を実行しない。エンジン1が実行制限領域で運転していないときに、デポジット除去制御を実行する。
【0138】
(デポジットの堆積と温度との関係)
デポジットは、燃料やエンジンオイルの付着物で構成されている。一般に、温度が高いと、エンジンオイル由来の成分が多くなり、温度が低いと、燃料由来の成分が多くなる傾向がある。温度の違いによってデポジットの成分が異なることから、温度の高低による、デポジットの堆積への影響についても、実験を行い、調査した。
【0139】
実験では、未使用のピストンを備えた2つのエンジンを用い、そのピストンの表面温度が所定の低温および高温となるように、これら2つのエンジンを運転した。そうして、ピストンの表面に生成したデポジットの厚みを経時的に計測した。図9に、その実験結果を示す。
【0140】
ピストンの表面温度が低い条件(実線)と、ピストンの表面温度が高い条件(破線)とでは、デポジットの堆積変化に違いが認められた。ピストンの表面温度が低い条件では、ピストンの表面温度が高い条件よりも、デポジットの堆積速度が大きく、堆積し易い傾向が認められた。
【0141】
そこで、ECU10は、デポジットの堆積量を推定するデポジット量推定制御に際して、温度の影響を考慮する。具体的には、図10に示すように、デポジット情報記憶部101には、ピストン3の表面温度に対応した所定のマップ(デポ堆積マップ)が記憶されている。
【0142】
図10のマップにおいて、縦軸は要求トルクの高低を表しており、横軸はエンジン1の回転数の高低を表している。要求トルクおよび回転数の各々の高低に対応して予測されるピストン3の表面温度が、マップに示されている。マップは、予め実験等によって設定される。
【0143】
このマップでは、上述した実験データに基づき、低温領域R1と高温領域R2とに区画されている。デポジット抑制部100は、デポジットの増量分を推定するデポジット増量推定処理を行う際、このマップを参照する。そうして、デポジット抑制部100は、エンジン1が低温領域R1で運転しているときは、その低温領域R1に対応した堆積速度を演算に用いる。エンジン1が高温領域R2で運転しているときには、その高温領域R2に対応した堆積速度を演算に用いる。
【0144】
尚、図10のマップの区画は例示である。3つ以上の領域に区画してもよい。各領域間で線形補間などを行ってもよい。
【0145】
(デポジットの抑制制御の具体例)
図11に、デポジットの抑制制御に関する制御ブロックの一例を示す。図12Aおよび図12Bに、図11の制御ブロックに対応した、デポジットの抑制制御のフローチャートの一例を示す。
【0146】
図12に示すように、自動車の運転が開始されると(ステップS1でYes)、ECU10は、各種センサSW1〜SW17から入力される検出値、メモリ10b(デポジット情報記憶部101)に記憶されているデポジット堆積量および燃焼サイクルのカウント数を読み込む(ステップS2)。
【0147】
イグニッションスイッチがオンにされると(ステップS3)、エンジン1は始動する。それにより、燃焼室17では燃焼が始まるので、ECU10は、デポジットの抑制制御を開始する。すなわち、デポジットの堆積量を推定するデポジット量推定制御を実行する。
【0148】
具体的には、ECU10(デポジット抑制部100)は、燃焼サイクル毎に、ピストン3の表面温度の推定とともに、騒音指標(SIノック指標値)を取得する処理を行う(ステップS4)。ピストン3の表面温度の推定は、各種センサSW1〜SW17から入力される検出から判断されるエンジン1の運転状態(要求トルク、回転数)に基づいて判断される。SIノック指標値は、上述したように、筒内圧センサSW6の検出値に基づいて算出される。
【0149】
図11に示すように、ECU10は、個々の燃焼サイクルにおけるピストン3の表面温度が推定されると、ピストン3の表面温度は急激には変化しないので、ローパスフィルタ(LPF)によってノイズ成分を除去し、その数値データを調整する。その後、その数値データを、メモリ10b(デポジット情報記憶部101)に記憶されているマップ(デポ堆積マップ)と照合することにより、その燃焼サイクルで堆積するデポジット量(増量分)を算出する。
【0150】
例えば、推定されたピストン3の表面温度に対応するエンジン1の運転領域が高温領域R2であった場合には、その堆積速度を用いて、その燃焼サイクルでのデポジットの堆積量を算出する。尚、これら一連の処理は、デポジット増量処理に相当する。
【0151】
ECU10はまた、燃焼サイクルの個々における、SIノック指標値を取得すると、そのSIノック指標値を、メモリ10b(デポジット情報記憶部101)に記憶されているテーブル(デポ除去テーブル)と照合することにより、その燃焼サイクルでデポジットが除去されるか否か、および、除去される場合はデポジットの減少量(減量分)を算出する。尚、これら一連の処理は、デポジット減量処理に相当する。
【0152】
そうして、ECU10は、算出したデポジットの増量分および減量分を加算することにより、その燃焼サイクルにおけるデポジットの堆積量の増減を算出する(ステップS5)。そうして得られる燃焼サイクル毎のデポジットの堆積量を積算することにより、ECU10は、デポジットの総堆積量を推定する(ステップS6)。
【0153】
ECU10はまた、デポジット量推定制御と並行して、燃焼サイクルの回数をカウントする制御(堆積期間制御)も実行する(ステップS7)。ECU10は、読み込んだ燃焼サイクルのカウント数(後述するデポジット除去制御の終了後における燃焼サイクルの回数)に、その後に開始された燃焼での燃焼サイクルの回数を加算していく。
【0154】
ECU10は、常時、デポジットの総堆積量と、所定の設定値T1(デポジット情報記憶部101に記憶されている)とを比較しており(ステップS8)、デポジットの総堆積量が所定の設定値T1以上であると判定した場合には、デポジット除去制御を開始する(ステップS9)。
【0155】
ECU10はまた、常時、燃焼サイクルの回数と、所定の設定値N1(デポジット情報記憶部101に記憶されている)とを比較しており(ステップS10)、燃焼サイクルの回数が所定の設定値N1以上であると判定した場合にも、デポジット除去制御を開始する。
【0156】
デポジット量推定制御よりも堆積期間制御の方が、デポジット除去制御の開始を判定する期間が長くなるように、設定値N1が設定される。すなわち、堆積期間制御は、予備的なものであり、デポジットの除去を、より確実に実行するために設けられている。堆積期間制御は、デポジット量推定制御から独立しているので、デポジットの除去は、よりいっそう確実に実行される。
【0157】
ECU10がデポジット除去制御を開始すると、ECU10は、まず、マップ(デポ制御領域マップ)を参照する。そして、各種センサSW1〜SW17から入力される電気信号に基づいて、現在運転しているエンジン1の運転領域が実行制限領域でないか否かを判定する。エンジン1の運転領域が実行制限領域であった場合には、実行制限領域から外れるまで、デポジット除去制御の実行を待機する。
【0158】
そして、実行制限領域でない場合には、ECU10は、本来設定すべきEGR率を小さく補正し、EGR弁54を制御する。それにより、燃焼室17に導入される外部EGRガスの量が減るので、燃焼室17では、燃焼が行われる度にノッキングが発生する。その結果、燃焼サイクル毎に、ノッキングの衝撃で、デポジットが除去されていく。
【0159】
ECU10は、デポジット除去制御の実行中も、上述したデポジット量推定制御を実行する。具体的には、ECU10は、デポジット増量処理およびデポジット減量処理を行い、デポジット除去制御の実行中に減少していく、デポジットの総堆積量を算出する(ステップS11〜S13)。
【0160】
ECU10は、デポジット除去制御の実行中、デポジットの総堆積量と、所定の設定値T2(デポジット情報記憶部101に記憶されている)とを比較しており(ステップS14)、デポジットの総堆積量が所定の設定値T2未満であると判定した場合には、デポジット除去制御を終了する(ステップS15)。
【0161】
ECU10はまた、デポジット除去制御の実行中も、上述した堆積期間制御を実行する。具体的には、ECU10は、デポジット除去制御を開始した後の燃焼サイクルの回数をカウントする(ステップS16)。そして、燃焼サイクルの回数と、所定の設定値N2(デポジット情報記憶部101に記憶されている)とを比較しており(ステップS17)、デポジット除去制御を開始した後の燃焼サイクルの回数が所定の設定値T2以上であると判定した場合にも、デポジット除去制御を終了する。
【0162】
具体的には、ECU10は、本来設定すべきEGR率に戻るように(EGR率を大きくする)、EGR弁54を制御する。それにより、外部EGRガスの導入量が適正な値に戻るので、ノッキングの発生は抑制され、本来の燃焼状態に復帰する。
【0163】
ECU10は、イグニッションスイッチがオフにされるまで(ステップS18)、このような一連の制御および処理を実行する。従って、エンジン1の運転に伴って経時的に燃焼室17に堆積していくデポジットの量は、適正にコントロールされる。デポジット量が過剰になることがないので、プリイグを効果的に抑制できる。
【0164】
イグニッションスイッチがオフされると(ステップS18でYes)、ECU10は、その時点におけるデポジットの総堆積量、デポジット除去制御の終了後における燃焼サイクルの回数をメモリ10b(デポジット情報記憶部101)に記憶する(ステップS19)。
【0165】
尚、設定値T1,T2,N1,N2は、仕様に応じて適宜、変更可能である。
【0166】
(変形例)
図11に、二点鎖線で示すように、デポジット除去制御において、更に、点火プラグ25の点火時期を進角させる制御を行ってもよい。点火時期を進角させれば、ノッキングは発生し易くなる。従って、燃焼室17に導入する外部EGRガスの量の減少と併せて点火時期を進角させれば、よりいっそうノッキングを発生させ易くなる。
【0167】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、上述した実施形態では、SPCCI燃焼を行うエンジンを例示したが、それに限らない。EGRガスを導入しながら点火プラグで点火して燃焼を行うエンジンであれば、開示する技術は適用できる。
【符号の説明】
【0168】
1 エンジン
10 ECU(制御装置本体)
17 燃焼室
25 点火プラグ
40 吸気通路
44 過給機
50 排気通路
52 EGR通路
54 EGR弁
61 燃料供給システム
100 デポジット抑制部
101 デポジット情報記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B