【解決手段】筒内圧センサの異常診断装置100は、筒内圧センサSW6と、制御部(ECU10)と、を備える。制御部は、自動車の走行中にエンジン1への燃料の供給を停止している状態から、エンジンへ燃料の供給を開始した後に、筒内圧センサの信号を用いてエンジンを運転することを制限する制限期間を設ける。
予荷重が付与された圧電素子を有しかつ、自動車に搭載されたエンジンの燃焼室内の圧力によって前記圧電素子が変形することに伴い、前記圧力に対応する信号を出力する筒内圧センサと、
前記筒内圧センサの信号が入力されかつ、少なくとも前記筒内圧センサの信号を用いて前記エンジンを運転する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記自動車の走行中に前記エンジンへの燃料の供給を停止している状態から、前記エンジンへ燃料の供給を開始した後に、前記筒内圧センサの信号を用いて前記エンジンを運転することを制限する制限期間を設けている筒内圧センサの異常診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、筒内圧センサの異常診断装置に関する実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は、筒内圧センサの異常診断装置の一例である。
【0027】
図1は、筒内圧センサの異常診断装置を備えている、圧縮着火式のエンジンシステムの構成を例示する図である。
図2は、エンジンの燃焼室の構成を例示する図である。尚、
図1における吸気側は紙面左側であり、排気側は紙面右側である。
図2における吸気側は紙面右側であり、排気側は紙面左側である。
図3は、エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
【0028】
エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークのレシプロエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であればよい。燃料は、例えばバイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
【0029】
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。
図1及び
図2では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
【0030】
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。また、以下の説明では、燃焼室とほぼ同義の言葉として、「筒内」を用いる場合がある。
【0031】
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、
図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の軸X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側からインジェクタ6の軸X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
【0032】
ピストン3の上面は燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、この構成例では、浅皿形状を有している。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側にずれている。
【0033】
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。しかし、このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度を高くする必要がない。エンジン1は、幾何学的圧縮比を、比較的低く設定することが可能である。幾何学的圧縮比を低くすると、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度の低オクタン価燃料)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度の高オクタン価燃料)においては、15〜18としてもよい。
【0034】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。図示は省略するが、吸気ポート18は、第1吸気ポート及び第2吸気ポートの二つの吸気ポート18を有している。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
【0035】
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、
図3に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S−VT23は、吸気カムシャフトの位相を所定の範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
【0036】
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、第1排気ポート及び第2排気ポートの二つの排気ポート19を有している。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
【0037】
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、
図3に示すように、可変動弁機構は、排気電動S−VT24を有している。排気電動S−VT24は、排気カムシャフトの位相を所定の範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S−VTに代えて、油圧式のS−VTを有していてもよい。
【0038】
吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを長くすると、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。また、オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に入れることができる。吸気電動S−VT23及び排気電動S−VT24は、内部EGRシステムを構成している。尚、内部EGRシステムは、S−VTによって構成されるとは限らない。
【0039】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃料噴射部の一例である。インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差する部分に配設されている。
図2に示すように、インジェクタ6の軸X2は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。インジェクタ6の軸X2は、中心軸X1に平行である。インジェクタ6の軸X2とキャビティ31の中心とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。尚、インジェクタ6の軸X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その構成の場合に、インジェクタ6の軸X2と、キャビティ31の中心とは一致していてもよい。
【0040】
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、
図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、本構成例においては、十個の噴孔を有しており、噴孔は、周方向に等角度に配置されている。
【0041】
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料タンク63は、燃料を貯留する。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能である。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
【0042】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は点火部の一例である。点火プラグ25は、この構成例では、シリンダ11の中心軸X1よりも吸気側に配設されている。点火プラグ25は、二つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、
図2に示すように、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25を、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に配置してもよい。また、点火プラグ25をシリンダ11の中心軸X1上に配置してもよい。
【0043】
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に入るガスは、吸気通路40を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、新気を濾過する。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
【0044】
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調節することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。
【0045】
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に入るガスを過給する。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
【0046】
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の接続及び遮断を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。
【0047】
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮したガスを冷却する。インタークーラー46は、例えば水冷式又は油冷式に構成してもよい。
【0048】
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
【0049】
ECU10は、過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に入る。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
【0050】
過給機44をオンにすると、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に入るガスの圧力が変わる。つまり、過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
【0051】
この構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
【0052】
エンジン1は、燃焼室17内に、スワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール流は、
図2に白抜きの矢印で示すように流れる。スワール発生部は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、詳細な図示は省略するが、二つの吸気ポート18のうちの一方の吸気ポート18につながるプライマリ通路と、他方の吸気ポート18につながるセカンダリ通路との内の、セカンダリ通路に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路の断面を絞ることができる開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、一方の吸気ポート18から燃焼室17に入る吸気流量が相対的に多くかつ、他方の吸気ポート18から燃焼室17に入る吸気流量が相対的に少ないから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、二つの吸気ポート18のそれぞれから燃焼室17に入る吸気流量が、略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流が発生しない。
【0053】
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。
【0054】
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
【0055】
吸気通路40と排気通路50との間には、EGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52は、外部EGRシステムを構成する。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に接続されている。EGR通路52を流れるEGRガスは、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40における過給機44の上流部に入る。
【0056】
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54の開度を調節することによって、冷却した排気ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調節することができる。
【0057】
このエンジン1は、EGRシステム55として、外部EGRシステムと、内部EGRシステムとを有している。外部EGRシステムは、内部EGRシステムよりも低温の排気ガスを、燃焼室17に供給することができる。
【0058】
圧縮着火式エンジンの制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとする制御部であって、
図3に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)を含むマイクロコンピュータ101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号を入出力するI/F回路103と、を備えている。
【0059】
ECU10には、
図1及び
図3に示すように、各種のセンサSW1〜SW17が接続されている。センサSW1〜SW17は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
【0060】
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量に対応する信号を出力する
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度に対応する信号を出力する
第1圧力センサSW3:吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に入るガスの圧力に対応する信号を出力する
第2吸気温度センサSW4:吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度に対応する信号を出力する
吸気圧センサSW5:サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力に対応する信号を出力する
筒内圧センサSW6:各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力に対応する信号を出力する
排気温度センサSW7:排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度に対応する信号を出力する
リニアO
2センサSW8:排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度に対応する信号を出力する
ラムダO
2センサSW9:上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度に対応する信号を出力する
水温センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度に対応する信号を出力する
クランク角センサSW11:エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角に対応する信号を出力する
アクセル開度センサSW12:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に比例するアクセル開度に対応する信号を出力する
吸気カム角センサSW13:エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角に対応する信号を出力する
排気カム角センサSW14:エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角に対応する信号を出力する
EGR差圧センサSW15:EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧に対応する信号を出力する
燃圧センサSW16:燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力に対応する信号を出力する
第3吸気温度センサSW17:サージタンク42に取り付けられかつ、サージタンク42内のガスの温度、換言すると燃焼室17に入る吸気の温度に対応する信号を出力する。
【0061】
ECU10は、これらのセンサSW1〜SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。制御ロジックは、メモリ102に記憶しているマップを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。
【0062】
ECU10は、演算をした制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S−VT23、排気電動S−VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。
【0063】
例えば、ECU10は、アクセル開度センサSW12の信号とマップとに基づいて、エンジン1の目標トルクを設定すると共に、目標過給圧を決定する。そして、ECU10は、目標過給圧と、第1圧力センサSW3及び吸気圧センサSW5の信号から得られる過給機44の前後差圧とに基づいて、エアバイパス弁48の開度を調節するフィードバック制御を行う。このフィードバック制御により、過給圧が目標過給圧になる。
【0064】
また、ECU10は、エンジン1の運転状態とマップとに基づいて目標EGR率(つまり、燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの比率)を設定する。そして、ECU10は、目標EGR率とアクセル開度センサSW12の信号に基づく吸入空気量とに基づき目標EGRガス量を決定すると共に、EGR差圧センサSW15の信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調節するフィードバック制御を行う。このフィードバック制御により、燃焼室17の中に入る外部EGRガス量が、目標EGRガス量になる。
【0065】
さらに、ECU10は、所定の制御条件が成立している場合に空燃比フィードバック制御を実行する。具体的にECU10は、リニアO
2センサSW8、及び、ラムダO
2センサSW9の信号から得られる排気中の酸素濃度に基づいて、混合気の空燃比が所望の値となるように、インジェクタ6の燃料噴射量を調節する。
【0066】
尚、その他のECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
【0067】
ECU10にはまた、報知部57が接続されている。報知部は、例えばインストルメントパネルに設けたワーニングランプによって構成されている。後述するように、筒内圧センサSW6の異常診断装置100が筒内圧センサSW6の故障を診断した場合に、報知部57は、ユーザに報知を行う。
【0068】
(筒内圧センサの構成)
図4は、筒内圧センサSW6の構成を例示している。筒内圧センサSW6は、燃焼室17内に臨んで配設されるダイヤフラム71を有している。ダイヤフラム71は、可撓性を有する材料によって構成されている。ダイヤフラム71は、筒内圧センサSW6の先端に配設されている。ダイヤフラム71の周縁部は、ハウジングに支持されている。ハウジングは、アウタハウジング72とインナハウジング73とを有している。燃焼室17内の圧力が高くなると、ダイヤフラム71の外面が押されることによって、アウタハウジング72及びインナハウジング73に支持されていないダイヤフラム71の中央部が撓む。ダイヤフラム71の中央部の周囲には、薄肉部712が設けられている。
【0069】
アウタハウジング72は、図示は省略するが、エンジン1のシリンダヘッド13に固定される。アウタハウジング72は先端が開口している筒状である。ダイヤフラム71はアウタハウジング72の先端面に取り付けられる。ダイヤフラム71の周縁部は、アウタハウジング72に対し、溶接により固定されている。
【0070】
インナハウジング73は、アウタハウジング72に内挿されている。インナハウジング73は、アウタハウジング72における先端部に位置している。インナハウジング73は、複数の部品を組み合わせることによって構成されている。インナハウジング73も筒状である。ダイヤフラム71の周縁部は、インナハウジング73にも、溶接により固定されている。
【0071】
インナハウジング73は、付勢部材74によって、筒内圧センサSW6の先端に向かって付勢されている。付勢部材74は、アウタハウジング72の内部における、インナハウジング73よりも筒内圧センサSW6の基端側(つまり、
図4における上側)に配設されている。
【0072】
インナハウジング73の内部には、圧電素子75が配設されている。圧電素子75は、ダイヤフラム71が撓むことにより変形すると共に、その変形量に応じた微弱電流を出力する。圧電素子75は、付勢部材74によって予荷重が付与されている。
【0073】
圧電素子75の先端部には、台座76が取り付けられている。台座76は、その中央部に、筒内圧センサSW6の先端に向かって突出する突出部761を有している。突出部761は、インナハウジング73の先端部に設けた貫通孔731内に位置している。
【0074】
ダイヤフラム71の内面における中央部には、筒内圧センサSW6の基端に向かって突出する中央突起711が、ダイヤフラム71と一体に設けられている。ダイヤフラム71の中央突起711と台座76の突出部761とは互いに当接している。ダイヤフラム71の中央部が撓むと、中央突起711によって台座76が筒内圧センサSW6の基端に向かって押される。予荷重が付与されている圧電素子75は、台座76に押されて潰れる。
【0075】
圧電素子75の基端部には、電極77が取り付けられている。圧電素子75の微弱電流は、電極77を通じて出力される。
【0076】
電極77の基端部は、電極支持部78に支持されている。電極支持部78も複数の部材が組み合わさって構成されている。電極支持部78は、インナハウジング73に溶接されている。電極支持部78の内部には、導電部79が配設されている。導電部79は、筒内圧センサSW6の基端に向かって延びている。導電部79の基端は、筒内圧センサSW6のチャージアンプ710に接続されている。チャージアンプ710は、圧電素子75からの電荷をためて、その電荷量に相当する信号を、筒内圧センサSW6の信号としてECU10に出力する。
【0077】
電極77と導電部79との間には、圧縮ばね791が配設されている。圧縮ばね791は、電極77と導電部79との間を導通させる。
【0078】
一体化された台座76、圧電素子75、及び、電極77と、インナハウジング73との間には、環状の絶縁部713が介設している。絶縁部713は、
図4において黒色に着色した部分である。
【0079】
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態にある場合に圧縮自己着火による燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
【0080】
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする形態である。
【0081】
SI燃焼の発熱量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、混合気を目標タイミングで自己着火させることができる。
【0082】
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率(dQ/dθ)の波形は、
図5に例示するように、立ち上がりの傾きが、CI燃焼の波形における立ち上がりの傾きよりも小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動率(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
【0083】
SI燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火すると、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化する場合がある。熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで、変曲点Xを有する場合がある。
【0084】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。しかし、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時の圧力変動率(dp/dθ)も、比較的穏やかになる。
【0085】
圧力変動率(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができる。前述の通りSPCCI燃焼は、圧力変動率(dp/dθ)を小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。エンジン1の燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えられる。
【0086】
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。
【0087】
SPCCI燃焼の熱発生率の波形は、SI燃焼によって形成された第1熱発生率部Q
SIと、CI燃焼によって形成された第2熱発生部Q
CIと、が、この順番に連続するように形成されている。
【0088】
ここで、SPCCI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。本願出願人は、SI率を、SPCCI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の割合に関係する指標と定義する。SI率は、燃焼形態の相違する二つの燃焼によって発生する熱量比率である。SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合が高いと、燃焼騒音の抑制に有利になる。SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合が高いと、エンジン1の燃費効率の向上に有利になる。
【0089】
SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対するSI燃焼により発生した熱量の比率と定義してもよい。つまり、SPCCI燃焼において、CI燃焼が開始するクランク角をCI燃焼開始時期θciとして、
図5に示す波形801において、θciよりも進角側であるSI燃焼の面積Q
SIと、θciを含む遅角側であるCI燃焼の面積Q
CIとから、SI率=Q
SI/Q
CIとしてもよい。
【0090】
(エンジンの制御ロジック)
図6は、エンジン1の制御ロジックを実行するECU10の機能構成を例示するブロック図である。ECU10は、メモリ102に記憶している制御ロジックに従いエンジン1を運転する。具体的にECU10は、各センサSW1〜SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、燃焼室17の中の燃焼が、運転状態に応じたSI率の燃焼となるよう、燃焼室17の中の状態量の調節、噴射量の調節、噴射タイミングの調節、及び、点火タイミングの調節を行うための演算を行う。
【0091】
ECU10は、SI率とθciとの二つのパラメータを用いてSPCCI燃焼をコントロールする。具体的にECU10は、エンジン1の運転状態に対応する目標SI率及び目標θciを定め、実際のSI率が目標SI率に一致しかつ、実際のθciが目標θciとなるように、燃焼室17内の温度の調節と、点火時期の調節とを行う。燃焼室17内の温度は、燃焼室17内に入る排気ガスの温度及び/又は量を調節することによって調節する。
【0092】
ECU10は先ず、I/F回路103を通じて各センサSW1〜SW17の信号を読み込む。次いで、ECU10のマイクロコンピュータ101における、目標SI率/目標θci設定部101aは、各センサSW1〜SW17の信号に基づいてエンジン1の運転状態を判断すると共に、目標SI率(つまり、目標熱量比率)及び目標CI燃焼開始時期θciを設定する。目標SI率は、エンジン1の運転状態に応じて定められている。目標SI率は、メモリ102の目標SI率記憶部1021に、記憶されている。目標SI率/目標θci設定部101aは、エンジン1の負荷が低い場合には、目標SI率を低く設定し、エンジン1の負荷が高い場合には、目標SI率を高く設定する。エンジン1の負荷が低い場合には、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制と燃費性能の向上とが両立する。エンジン1の負荷が高い場合には、SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制に有利になる。
【0093】
θciは、前述したように、SPCCI燃焼において、CI燃焼が開始するクランク角タイミングを意味する(
図5参照)。目標θciも、エンジン1の運転状態に応じて定められている。目標θciは、メモリ102の目標θci記憶部1022に、記憶されている。θciが遅角側であれば、燃焼騒音が小さくなる。θciが進角側であれば、エンジン1燃費性能が向上する。目標θciは、燃焼騒音を許容レベル以下に抑えることができる範囲において、可能な限り進角側に設定されている。
【0094】
目標筒内状態量設定部101bは、メモリ102に記憶しているモデルに基づいて、設定した目標SI率及び目標θciを実現するための目標筒内状態量を設定する。具体的に目標筒内状態量設定部101bは、燃焼室17の中の目標温度、目標圧力、及び、目標状態量を設定する。
【0095】
筒内状態量制御部101cは、目標筒内状態量を実現するために必要な、EGR弁54の開度、スロットル弁43の開度、エアバイパス弁48の開度、スワールコントロール弁56の開度、吸気電動S−VT23の位相角(つまり、吸気弁21のバルブタイミング)、及び、排気電動S−VT24の位相角(つまり、排気弁22のバルブタイミング)を設定する。筒内状態量制御部101cは、これらのデバイスの制御量を、メモリ102に記憶しているマップに基づいて設定する。筒内状態量制御部101cは、設定した制御量に基づいて、EGR弁54、スロットル弁43、エアバイパス弁48、スワールコントロール弁(SCV)56、吸気電動S−VT23、及び、排気電動S−VT24に制御信号を出力する。ECU10の信号に基づいて各デバイスが動作をすることによって、燃焼室17の中の状態量が目標状態量になる。
【0096】
筒内状態量制御部101cはさらに、設定した各デバイスの制御量に基づいて、燃焼室17の中の状態量の予測値、及び、状態量の推定値をそれぞれ算出する。状態量予測値は、吸気弁21が閉弁する前の燃焼室17の中の状態量を予測した値である。状態量予測値は、後述するように、吸気行程における燃料の噴射量の設定に用いる。状態量推定値は、吸気弁21が閉弁した後の燃焼室17の中の状態量を推定した値である。状態量推定値は、後述するように、圧縮行程における燃料の噴射量の設定、及び、点火タイミングの設定に用いる。
【0097】
第1噴射量設定部101dは、状態量予測値に基づいて、吸気行程中における燃料の噴射量を設定する。吸気行程中に分割噴射を行う場合には、各噴射の噴射量を設定する。尚、吸気行程中に燃料の噴射を行わない場合、第1噴射量設定部101dは、燃料の噴射量をゼロにする。第1噴射制御部101eは、インジェクタ6が所定の噴射タイミングで燃焼室17の中に燃料を噴射するよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。第1噴射制御部101eはまた、吸気行程中の燃料の噴射結果を出力する。
【0098】
第2噴射量設定部101fは、状態量推定値と、吸気行程中の燃料の噴射結果と、に基づいて、圧縮行程中における燃料の噴射量を設定する。尚、圧縮行程中に燃料の噴射を行わない場合、第2噴射量設定部101fは、燃料の噴射量をゼロにする。第2噴射制御部101gは、予め設定されているマップに基づく噴射タイミングで、インジェクタ6が燃焼室17の中に燃料を噴射するよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。第2噴射制御部101gはまた、圧縮行程中の燃料の噴射結果を出力する。
【0099】
点火時期設定部101hは、状態量推定値と、圧縮行程中の燃料の噴射結果と、に基づいて、点火タイミングを設定する。点火制御部101iは、設定した点火タイミングで、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に点火をするよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。
【0100】
ここで、エンジン1の制御ロジックは、点火タイミングを調節することによって、SI率及びθciを調節する。より詳細に、ECU10は、筒内圧センサSW6の信号に基づいて、燃焼波形に関係する指標を演算する。燃焼波形に関係する指標には、前述したθciの他に、燃焼重心、及び、図示平均有効圧力を含んでいる。ECU10は、燃焼波形に関係する指標に基づいて、次のサイクルの点火タイミングを調節する(つまり、フィードバック制御)。燃焼波形に関係する指標を用いたフィードバック制御によって、SPCCI燃焼の自己着火タイミングが微調節される。
【0101】
点火プラグ25が混合気に点火をすることにより、燃焼室17の中でSI燃焼又はSPCCI燃焼が行われる。筒内圧センサSW6は、燃焼室17の中の圧力の変化を計測する。
【0102】
筒内圧センサSW6の計測信号は、θciずれ演算部101kに入力される。θciずれ演算部101kは、筒内圧センサSW6の計測信号に基づいて、CI燃焼開始時期θciを推定すると共に、推定したCI燃焼開始時期θciと、目標θciとのずれを計算する。θciずれ演算部101kは、計算したθciずれを、目標筒内状態量設定部101bに出力する。目標筒内状態量設定部101bは、θciずれに基づいて、モデルを修正する。目標筒内状態量設定部101bは、次回以降のサイクルにおいて、修正したモデルを用いて目標筒内状態量を設定する。
【0103】
ECU10が、SI率の調節を、状態量の調節によるSI率の大まかな調節と、燃焼波形に関係する指標を用いた点火タイミングのフィードバック制御との二段階で行うことにより、エンジン1は、運転状態に対応する狙いのSPCCI燃焼を正確に実現することができる。
【0104】
(燃焼騒音抑制制御)
SPCCI燃焼は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた燃焼形態であるため、SI燃焼に起因したノッキング、及び、CI燃焼に起因したノッキングのそれぞれが発生する可能性がある。SI燃焼に起因したノッキングをSIノックとし、CI燃焼に起因したノッキングをCIノックとすると、SIノックとは、燃焼室17内において混合気がSI燃焼した領域の外側の未燃ガスが異常な局所自着火(正常なCI燃焼とは明確に異なる局所自着火)により急速燃焼する現象のことであり、CIノックとは、CI燃焼による圧力変動に起因してエンジン1の主要部品(シリンダブロック/ヘッド、ピストン、クランクジャーナル部など)が共振する現象のことである。SIノックは、局所自着火により燃焼室17内で気柱振動が起きることにより、約6.3kHzの周波数をもった大きな騒音として出現する。一方、CIノックは、エンジン1の主要部品の共振が起きることにより、約1〜4kHzの周波数(より厳密には当該範囲に含まれる複数の周波数)をもった大きな騒音として出現する。このように、SIノックとCIノックとは、異なる原因に起因した異なる周波数の騒音として出現する。
【0105】
ECU10は、SIノック及びCIノックが共に発生しないよう、SPCCI燃焼を制御する。具体的にECU10は、筒内圧センサSW6の検知信号をフーリエ変換することによって、SIノックと関連したSIノック指標と、CIノックと関連したCIノック指標とを算出する。SIノック指標とは、SIノックの発生に伴い増大する6.3kHz付近の筒内圧力スペクトルであり、CIノック指標とは、CIノックの発生に伴い増大する1〜4kHz付近の筒内圧力スペクトルである。
【0106】
そして、ECU10は、SIノック指標及びCIノック指標のそれぞれが許容限界を超えないようなθci限界を、予め定めたマップに従って決定すると共に、エンジン1の運転状態から定めたθciと、θci限界とを比較することにより、θci限界がθciと同じ又は進角側であれば、θciを目標θciに定める一方、θci限界がθciよりも遅角側であれば、θci限界を目標θciに定める。この制御により、SIノック及びCIノックは、共に抑制される。
【0107】
つまり、ECU10は、燃焼波形に関係する指標を用いて点火タイミングのフィードバック制御を行うことに加えて、筒内圧センサSW6の信号に基づいて算出するSIノック指標及びCIノック指標を用いて点火タイミングを調節することにより、エンジン1を運転している。これによりエンジン1は、安定的に運転する。以下において、SIノック指標及びCIノック指標を総称して、燃焼騒音に関係する指標と呼ぶ。
【0108】
(筒内圧センサの異常診断)
SPCCI燃焼を行うエンジン1は、前述の通り、筒内圧センサSW6の検知信号を用いて、点火制御及び燃焼騒音の抑制制御を行う。エンジン1において、筒内圧センサSW6の検知信号は重要である。筒内圧センサSW6が異常値を出力している場合に、その信号を用いてエンジン1を制御すると、エンジン1の運転に支障を来す恐れがある。そこで、エンジンシステムは、筒内圧センサSW6の異常診断装置100を備えている。
【0109】
図7は、筒内圧センサSW6の異常診断装置100の構成を例示している。異常診断装置100は、算出部111と、運転部112と、診断部113と、を備えている。算出部111、運転部112及び診断部113はそれぞれ、ECU10において構成される機能ブロックである。
【0110】
算出部111は、前述したように、筒内圧センサSW6の信号に基づいて、燃焼波形に関係する指標及び燃焼騒音に関係する指標を算出する。算出部111は、燃焼波形に関係する指標、及び、燃焼騒音に関係する指標を、常時算出し、運転部112に出力する。燃焼波形に関係する指標及び燃焼騒音に関係する指標は、エンジン1の制御に用いられる。
【0111】
運転部112は、
図7では、インジェクタ6と点火プラグ25とに信号を出力することによってエンジン1を運転する。運転部112は、前述したように、燃焼波形に関係する指標及び燃焼騒音に関係する指標を用いて、点火プラグ25の点火時期を調節する。
【0112】
運転部112が実行するエンジン1の制御には、エンジン1の燃料カット制御も含まれる。具体的に、運転部112は、自動車の走行中に、減速燃料カット条件が成立したときに、インジェクタ6を通じてエンジン1への燃料の供給を停止する。運転部112は、アクセル開度センサSW12の検知信号に基づいて、減速燃料カット条件が成立したことを判定する。燃料の供給が停止すると、エンジン1は、燃料カット運転を行う。燃料カット運転中は、点火プラグ25も点火を行わない。
【0113】
診断部113は、筒内圧センサSW6の異常を診断する。ここで、筒内圧センサSW6の異常例について説明をする。
図8は、筒内圧センサSW6が異常値を出力しているときの、筒内圧センサSW6の信号の変化を例示している。
図8の上
図81の縦軸は、筒内圧センサSW6が出力する電圧であり、横軸は時間である。
図8の上
図81は、燃焼室17が吸気行程にあるときに筒内圧センサSW6が出力した電圧をプロットしている。
【0114】
図8は、自動車の走行中にエンジン1が燃料カット運転(F/C)をしている状態で、運転者がアクセルペダルを急激に踏み込むことによって、燃料カット運転が終了した後を示している。上
図81に(1)で示すように、燃料カット運転が終了した直後、筒内圧センサSW6の出力する電圧は、一時的に低下する。これは、低温の燃焼室17内へ比較的多量の燃料が供給されて高温の燃焼が急に開始されると、先ず、筒内圧センサSW6のダイヤフラム71の薄肉部712が温められることにより、ダイヤフラム71が燃焼室17の内部の方に変形するためである。ダイヤフラム71が変形するため、燃焼室17内の圧力に対する圧電素子75の潰れ量が少なくなって、筒内圧センサSW6の出力する電圧が低下する。
【0115】
その後、上
図81に(2)で示すように、ダイヤフラム71が熱膨張することによって、圧電素子75が押されて潰れる。その結果、筒内圧センサSW6の出力する電圧が高くなる。
【0116】
その後、上
図81に(3)で示すように、筒内圧センサSW6の内部のインナハウジング73に熱が伝わり、インナハウジング73が外方へ膨張をする。これにより、圧電素子75の予荷重が低下する。その結果、筒内圧センサSW6の出力電圧が、次第に低下する。つまり、エンジン1が燃料カット状態から急激に復帰することに伴い、燃焼室17内の発熱量が急変することに起因して、筒内圧センサSW6が出力する電圧が低下するドリフト現象が発生する。
【0117】
さらにその後、筒内圧センサSW6への入熱が安定することによって、筒内圧センサSW6の内部の台座76が熱により膨張して圧電素子75を押すと共に(上
図81の(4)参照)、筒内圧センサSW6の内部の電極77が熱により膨張して圧電素子75を押す(上
図81の(5)参照)。筒内圧センサSW6のチャージアンプ710の時定数により、出力電圧が次第に高くなって、ドリフト現象から復帰する。
【0118】
筒内圧センサSW6の入熱変化に起因するドリフト現象が発生すると、前述したように、筒内圧センサSW6の出力電圧が低下する。
図9は、筒内圧センサSW6の出力特性を例示している。
図9の縦軸は筒内圧センサSW6の出力電圧であり、
図9の横軸は筒内圧センサSW6のダイヤフラム71に付与される圧力である。筒内圧センサSW6は、線形の出力特性を有している。筒内圧センサSW6のダイヤフラム71は、ダイヤフラム71に付与される圧力が高くなるほど、出力電圧が高くなる。
図9に示す破線は、ECU10が、筒内圧センサSW6の出力電圧を認識することができる範囲を示している。筒内圧センサSW6の出力電圧が低すぎたり、高すぎたりすると、ECU10は、筒内圧センサSW6の出力電圧を認識することができない。ドリフト現象が生じて筒内圧センサSW6の出力電圧が低下すると、ECU10は、筒内圧センサSW6の出力する信号の一部を認識することができなくなる。
【0119】
図10は、筒内圧センサSW6が正常値を出力しているときに、その筒内圧センサSW6の信号に基づいてECU10が認識をした筒内圧の変化(実線)と、筒内圧センサSW6がドリフト現象により異常値を出力しているときに、その筒内圧センサSW6の信号に基づいてECU10が認識をした筒内圧の変化(破線)と、を比較している。同図からわかるように、ECU10は、筒内圧センサSW6の出力電圧が低い異常時に、燃焼室17の圧力変化が小さいと誤認識してしまう。
【0120】
ECU10は、燃焼波形に関係する指標(θci、燃焼重心、及び、図示平均有効圧力)、及び、燃焼騒音に関係する指標を、筒内圧センサSW6の信号に基づいて算出する。筒内圧センサSW6がドリフト現象により異常値を出力しているときに、ECU10は、これらの指標を精度良く算出することができなくなる。誤った指標を用いてエンジン1を制御する結果、エンジン1の運転に支障を来す恐れがある。
【0121】
診断部113は、筒内圧センサSW6の検知信号に基づいて、ドリフト現象が発生しているか否かを判断する。具体的に診断部113は、吸気行程中の筒内圧センサSW6の検知信号が、予め定めた第1所定値を下回ると、ドリフト現象が発生していると判断する(
図8の上
図81参照)。吸気行程中は筒内圧の変化が小さい。そのため、吸気行程中の筒内圧センサSW6の検知信号に基づいてドリフト現象の発生有無を判断することにより、診断部113は、ドリフト現象の発生を正確に判断することができる。
【0122】
診断部113は、運転部112に信頼性フラグを送信する。診断部113は、ドリフト現象が発生していないと判断した場合には、信頼性フラグを1にする。運転部112は、受信した信頼性フラグが1である場合には、燃焼波形に関係する指標及び燃焼騒音に関係する指標を用いてエンジン1を制御する。筒内圧センサSW6の検知信号の信頼性が確保されているため、エンジン1は安定的に運転する。
【0123】
診断部113は、ドリフト現象が発生していると判断した場合には、信頼性フラグを0(ゼロ)にする。
図8の下
図82は、信頼性フラグの変化を例示している。同図においては、時刻t1に、筒内圧センサSW6の検知信号が第1所定値を下回るため、信頼性フラグは1から0になる。
【0124】
運転部112は、受信した信頼性フラグが0である場合には、燃焼波形に関係する指標を用いてエンジン1を制御することを制限する。信頼性が低い筒内圧センサSW6の信号に基づいてエンジン1の制御を行うことは、エンジン1の運転に支障を来す恐れがあるためである。
【0125】
より詳細に、運転部112は、燃焼波形に関係する指標のうち、燃焼重心、及び、図示平均有効圧力を用いたエンジン1の制御は行わない。運転部112は、燃焼波形に関係する指標のうち、θciを用いたエンジン1の制御は行う。また、運転部112は、燃焼騒音に関係する指標を用いたエンジン1の制御も行う。
【0126】
燃焼重心及び図示平均有効圧力は、燃焼の開始から終了までの燃焼波形の全体に基づいて算出される。
図10に例示するように、ドリフト現象が発生すると、ECU10は、燃焼の開始から終了までの燃焼波形の全体を正確に把握することができない。そのため、算出部111が算出した燃焼重心、及び、図示平均有効圧力の信頼性は低い。
【0127】
これに対し、SPCCI燃焼のCI燃焼開始時期は、圧縮上死点付近である。θciは、圧縮上死点付近の燃焼波形に基づいて算出することができる。
図10に例示するように、ドリフト現象が発生しても、ECU10は、圧縮上死点付近の燃焼波形の形を把握することができるから、算出部111が算出したθciの信頼性は比較的高い。また、SIノックも圧縮上死点付近において発生する。燃焼騒音に関係する指標は、圧縮上死点付近の燃焼波形に基づいて周波数解析を行うことにより算出される。算出部111が算出したθciの信頼性は比較的高い。
【0128】
よって、信頼性フラグが0の場合に、運転部112は、燃焼重心、及び、図示平均有効圧力を用いた点火タイミングの調節に係るフィードバック制御を行わない。このことによって、エンジン1は安定的に運転する。また、運転部112は、信頼性フラグが0の場合に、θci、及び、燃焼騒音に関係する指標を用いた点火タイミングの調節に係るフィードバック制御を行う。エンジン1は、適切に運転する。
【0129】
尚、運転部112は、燃焼重心、及び、図示平均有効圧力を用いたエンジン1の制御を制限する場合、燃焼重心、及び、図示平均有効圧力の前回値を用いて点火タイミングのフィードバック制御を行ってもよい。
【0130】
前述したように、ドリフト現象が発生した場合でも、筒内圧センサSW6への入熱が安定化すれば、筒内圧センサSW6が出力する電圧は、次第に高くなる(
図8の上
図81参照)。つまり、筒内圧センサSW6は、ドリフト現象から復帰する。診断部113は、筒内圧センサSW6の検知信号が、予め定めた第2所定値を上回ると、ドリフト現象が解消したと判断する。診断部113は、信頼性フラグを1にする。運転部112は、前述した制限を解除し、燃焼波形に関係する指標及び燃焼騒音に関係する指標を用いて、エンジン1を制御する。エンジン1は安定的に運転する。
【0131】
ここで、第2所定値は、第1所定値よりも大きい。第2所定値を第1所定値よりも高くすることにより、筒内圧センサSW6を用いたエンジン1の運転を制限することと、制限を解除することとの切り替えが繰り返されることが抑制される。エンジン1は安定的に運転する。
【0132】
図8に示すように、このエンジンシステムは、自動車の走行中にエンジン1への燃料の供給を停止している状態から、エンジン1へ燃料の供給を開始した後に、筒内圧センサSW6の信号を用いてエンジン1を運転することを制限する制限期間(つまり、下
図82の時刻t1から時刻t2までの期間)を設けていることと等価である。制限期間は、信頼性フラグが0の期間に対応する。
【0133】
(筒内圧センサの異常判断の手順)
図11は、異常診断装置100が実行する、筒内圧センサSW6の異常判断の手順を示すフローチャートである。スタート後のステップS1において、異常診断装置100は、各センサSW1〜SW17の検知信号を読み込む。続くステップS2において、算出部111は、筒内圧センサSW6の信号に基づいて、燃焼波形に関係する指標、及び、燃焼騒音に関係する指標を算出する。
【0134】
ステップS3において診断部113は、現在の信頼性フラグが1であるか否かを判断する。信頼性フラグが1の場合、プロセスはステップS4に進む。信頼性フラグが0の場合、プロセスはステップS9に進む。
【0135】
ステップS4において、診断部113は、前述したように、筒内圧センサSW6の検知信号に基づいて、吸気行程中の電圧値が第1所定値を下回ったか否かを判断する。電圧値が第1所定値を下回っていない場合は、プロセスはステップS5に進む。電圧値が第1所定値を下回った場合は、プロセスはステップS7に進む。
【0136】
ステップS5において診断部113は、ドリフト現象が発生してないと判断し、続くステップS6において診断部113は、信頼性フラグを1にし、運転部112に出力する。
【0137】
一方、ステップS7において診断部113は、ドリフト現象が発生していると判断し、続くステップS8において診断部113は、信頼性フラグを0にし、運転部112に出力する。運転部112は、前述したように、燃焼波形に関係する指標を用いたエンジン1の制御を一部制限する。
【0138】
信頼性フラグが0になった以降、診断部113は、ステップS9において、筒内圧センサSW6の検知信号に基づいて、吸気行程中の電圧値が第2所定値を上回ったか否かを判断する。電圧値が第2所定値を上回っていない場合は、プロセスはリターンする。信頼性フラグは0のままである。電圧値が第2所定値を上回った場合は、プロセスはステップS10に進む。
【0139】
ステップS10において診断部113は、筒内圧センサSW6はドリフト現象から復帰したと判断し、続くステップS11において、診断部113は、信頼性フラグを1に変える。運転部112は、前述したように、燃焼波形に関係する指標及び燃焼騒音に関係する指標を用いてエンジン1を制御する。
【0140】
(他の実施形態)
尚、前記においては、エンジン1の燃料カット運転が終了した場合に、筒内圧センサSW6のドリフト現象が生じると説明しているが、筒内圧センサSW6のドリフト現象は、筒内圧センサSW6への入熱の変化が大きい状況において発生する場合がある。例えば自動車が急加速を行うような場合である。ここに開示する技術は、燃料カット運転が終了した場合以外の場合に適用してもよい。その場合に、異常診断装置100は、
図11のフローに準じて、筒内圧センサSW6が異常値を出力していることを診断してもよい。
【0141】
また、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジン1の構成は、様々な構成を採用することが可能である。