【解決手段】(A)リチウムイオン二次電池を準備する。(B)電解液に第1剤を添加する。(C)電解液に第2剤を添加する。第1剤は双性イオン化合物を含む。双性イオン化合物は1分子内にホスホニウムカチオンとカルボキシラートアニオンとを含む。第2剤は犠牲材料を含む。犠牲材料は、リチウムイオン二次電池の充電中または放電中に、正極または負極で酸化還元反応を生起する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池は、充放電の繰り返しにより、その容量が徐々に減少する。容量減少の一因はリチウム化合物にあると考えられる。すなわちリチウムイオン(Li
+)の一部が、リチウム化合物(例えばLiF、Li
2CO
3等)を形成すると考えられる。リチウム化合物は電極(正極または負極)に付着すると考えられる。
【0005】
リチウム化合物に取り込まれたLi
+は、充放電反応に寄与しないと考えられる。したがってリチウム化合物の生成により、充放電に寄与するLi
+が減少し、容量が減少すると考えられる。さらにリチウム化合物の生成により、抵抗が増加すると考えられる。電極に付着したリチウム化合物が、Li
+の移動を阻害するためと考えられる。
【0006】
本開示の目的は、リチウムイオン二次電池の抵抗を低減し、かつ容量を回復させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0008】
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、以下の(A)〜(C)を少なくとも含む。
(A)リチウムイオン二次電池を準備する。リチウムイオン二次電池は正極と負極と電解液とを少なくとも含む。正極および負極の少なくとも一方にリチウム化合物が付着している。
(B)電解液に第1剤を添加する。
(C)電解液に第2剤を添加する。
第1剤は双性イオン化合物を含む。双性イオン化合物は1分子内にホスホニウムカチオンとカルボキシラートアニオンとを含む。第2剤は犠牲材料を含む。犠牲材料は、リチウムイオン二次電池の充電中または放電中に、正極または負極で酸化還元反応を生起する。
【0009】
図1は本開示の作用メカニズムを図解する第1概念図である。
例えばリチウムイオン二次電池の使用により、電解液成分〔例えばLi
+、PF
6+、EC(ethylene carbonate)等〕からリチウム化合物(例えばLiF、Li
2CO
3等)が生成されると考えられる。リチウム化合物は電極(正極または負極)に付着すると考えられる。電極の表面において、リチウム化合物は被膜を形成していると考えられる。リチウム化合物の生成により、充放電反応に寄与するLi
+が減少し、容量が低下すると考えられる。またリチウム化合物(被膜)の生成により、Li
+の移動が阻害され、抵抗が増加すると考えられる。
【0010】
図2は本開示の作用メカニズムを図解する第2概念図である。
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、電解液に第1剤を添加することを含む。第1剤は双性イオン化合物を含む。双性イオン化合物は1分子内に正電荷(+)と負電荷(−)とを有する。双性イオン化合物の静電的な作用により、リチウム化合物が電解液に溶解すると考えられる。これにより電極に付着したリチウム化合物(被膜)が減少し、抵抗が低減されると考えられる。
【0011】
リチウム化合物の溶解により、電解液中にLi
+が放出される。すなわち充放電反応に寄与し得るLi
+が再生される。Li
+の再生により、容量の回復が期待される。
【0012】
さらに本開示では以下に説明されるように、正極のSOC−OCP曲線と、負極のSOC−OCP曲線との対応関係のズレが解消され得る。その結果、より一層の容量回復が期待される。
【0013】
図3は本開示の作用メカニズムを図解する第3概念図である。
図3には、正極のSOC−OCP曲線と負極のSOC−OCP曲線とが示されている。
図3の縦軸は正極または負極のOCP(open circuit potential)である。
図3の横軸はリチウムイオン二次電池のSOC(state of charge)である。リチウム化合物が生成される前のリチウムイオン二次電池(すなわち容量減少前のリチウムイオン二次電池)では、充電中、例えば正極のSOCがΔx[%]増加すると、負極のSOCもΔx[%]増加すると考えられる。すなわち正極のSOC−OCP曲線と負極のSOC−OCP曲線とが対応している。
【0014】
図4は本開示の作用メカニズムを図解する第4概念図である。
充電中に負極でリチウム化合物が生成されたと仮定する。正極からは、所定量のLi
+が放出され、正極のSOCがΔx[%]増加している。しかし負極では、所定量のLi
+が吸収されずに(すなわち負極が充電されずに)、その代替としてリチウム化合物が生成される。そのため負極のSOCは増加しない。これにより正極のSOC−OCP曲線と負極のSOC−OCP曲線との対応関係にズレが生じることになる。
【0015】
リチウムイオン二次電池のOCV(open circuit voltage)は、正極のOCPと負極のOCPとの差である。正極のSOC−OCP曲線と負極のSOC−OCP曲線との対応関係にズレが生じると、リチウムイオン二次電池のSOC−OCV曲線の形状が変化することになる。SOC−OCV曲線の形状が変化することにより、利用可能な容量が減少すると考えられる。
【0016】
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、電解液に第2剤を添加することを含む。第2剤は犠牲材料を含む。犠牲材料は例えば充電中に正極で酸化される。犠牲材料の酸化反応により、電子が放出される。これにより、正極の充電反応が実質的に進行せずに、負極の充電反応のみが進行し得る。すなわち正極のSOCが実質的に増加せずに、負極のSOCのみが増加し得る。これにより正極のSOC−OCP曲線と負極のSOC−OCP曲線との対応関係のズレが解消され得る。
【0017】
以上より、本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法では、リチウムイオン二次電池の抵抗が低減され、さらに容量が回復し得る。すなわち新たなリチウムイオン二次電池が製造され得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態(本明細書では「本実施形態」と記される)が説明される。ただし以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0020】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
図5は本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を図解するフローチャートである。
【0021】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、「(A)リチウムイオン二次電池の準備」、「(B)第1剤の添加」および「(C)第2剤の添加」を少なくとも含む。
「(B)第1剤の添加」と「(C)第2剤の添加」とは同時であってもよい。例えば第1剤および第2剤の両方が溶解した溶液が、電解液に追加されてもよい。「(B)第1剤の添加」と「(C)第2剤の添加」とは相前後してもよい。
【0022】
《(A)リチウムイオン二次電池の準備》
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、リチウムイオン二次電池を準備することを含む。
【0023】
例えばリチウムイオン二次電池が新たに製造されることにより、リチウムイオン二次電池(未使用電池)が準備されてもよい。例えば市場からリチウムイオン二次電池が回収されることにより、リチウムイオン二次電池(使用済み電池)が準備されてもよい。本明細書の「使用済み」は実機(例えば電動車両、携帯電話等)に搭載された履歴を有することを示す。使用済み電池は、例えば定期点検時等に回収されてもよい。
【0024】
リチウムイオン二次電池の構成は特に限定されるべきではない。以下に説明される構成はあくまで一例である。
【0025】
図6は本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す概略図である。
電池100はリチウムイオン二次電池である。電池100は電池ケース101を含む。電池ケース101は、例えばアルミニウム(Al)合金製であってもよい。電池ケース101は密閉されている。電池ケース101は角形(扁平直方体)である。ただし電池ケース101は例えば円筒形であってもよい。電池ケース101は例えばアルミラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。
【0026】
電池ケース101は容器102および蓋103を含む。蓋103は例えばレーザ溶接により容器102と接合されている。蓋103に正極端子91および負極端子92が設けられている。蓋103に、注液口、ガス排出弁、CID(current interrupt device)等が設けられていてもよい。電池ケース101は電極群50を収納している。
【0027】
図7は本実施形態の電極群の構成の一例を示す概略図である。
電極群50は巻回型である。電極群50は、正極10とセパレータ30と負極20とセパレータ30とがこの順序で積層され、さらにこれらが渦巻状に巻回されることにより形成されている。電解液(不図示)は電極群50に含浸されている。すなわち電池100は正極10と負極20と電解液とを少なくとも含む。
【0028】
電極群50は積層(スタック)型であってもよい。すなわち電極群50は、正極10と負極20とが交互にそれぞれ1枚以上積層されることにより形成されていてもよい。正極10および負極20の各間にはセパレータ30がそれぞれ配置される。
【0029】
本実施形態では、正極10および負極20の少なくとも一方にリチウム化合物が付着している。リチウム化合物は被膜を形成していてもよい。リチウム化合物は、例えば電池100の製造時における初期充放電により生成され得る。リチウム化合物は、例えば電池100の使用(例えば充放電サイクル、長期保管等)により生成され得る。リチウム化合物に取り込まれたLi
+は、充放電反応に寄与しないと考えられる。
【0030】
リチウム化合物は、例えばLiF、Li
2CO
3、Li
2O、LiCO
2R(Rはアルキル基等を示す)等であり得る。リチウム化合物は、例えばNMR(nuclear magnetic resonance)、XPS(x−ray photoelectron spectroscopy)等により同定され得る。
【0031】
(正極)
正極10はシートである。正極10は正極集電体11および正極活物質層12を含む。正極活物質層12は正極集電体11の表面に形成されている。正極活物質層12は正極集電体11の片面のみに形成されていてもよい。正極活物質層12は正極集電体11の表裏両面に形成されていてもよい。正極集電体11は例えばAl箔等であってもよい。
【0032】
正極活物質層12は正極活物質を少なくとも含む。正極活物質は典型的には粒子群である。リチウム化合物は正極活物質の表面に付着していてもよい。正極活物質の表面にリチウム化合物の被膜が形成されていてもよい。
【0033】
正極活物質は特に限定されるべきではない。正極活物質は例えばコバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(例えばLiMnO
2、LiMn
2O
4等)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(例えばLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2等)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(例えばLiNi
0.82Co
0.15Al
0.03O
2等)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)等であってもよい。
【0034】
正極活物質層12は例えば導電材およびバインダをさらに含んでいてもよい。導電材も特に限定されるべきではない。導電材は例えばカーボンブラック等であってもよい。バインダも特に限定されるべきではない。バインダは例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等であってもよい。
【0035】
(負極)
負極20はシートである。負極20は負極集電体21および負極活物質層22を含む。負極活物質層22は負極集電体21の表面に形成されている。負極活物質層22は負極集電体21の片面のみに形成されていてもよい。負極活物質層22は負極集電体21の表裏両面に形成されていてもよい。負極集電体21は例えば銅(Cu)箔等であってもよい。
【0036】
負極活物質層22は負極活物質を少なくとも含む。負極活物質は典型的には粒子群である。リチウム化合物は負極活物質の表面に付着していてもよい。負極活物質の表面にリチウム化合物の被膜が形成されていてもよい。
【0037】
負極活物質は特に限定されるべきではない。負極活物質は例えば黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、珪素、酸化珪素、珪素基合金、錫、酸化錫、錫基合金等であってもよい。
【0038】
負極活物質層22は例えばバインダをさらに含んでいてもよい。バインダも特に限定されるべきではない。バインダは例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)等であってもよい。
【0039】
(電解液)
電解液はLi塩および溶媒を少なくとも含む。電解液はLi塩および溶媒に加えて、各種の添加剤等をさらに含んでいてもよい。Li塩は溶媒に溶解している。Li塩の濃度は例えば0.5mоl/L以上2mоl/L以下(0.5M以上2M以下)であってもよい。Li塩は、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiN(FSO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)
2等であってもよい。
【0040】
溶媒は非プロトン性である。溶媒は例えば環状カーボネートおよび鎖状カーボネートの混合物であってもよい。混合比は例えば「環状カーボネート/鎖状カーボネート=1/9〜5/5(体積比)」であってもよい。環状カーボネートは、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等であってもよい。鎖状カーボネートは、例えばジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等であってもよい。
【0041】
(セパレータ)
セパレータ30は正極10と負極20との間に配置されている。セパレータ30は多孔質膜である。セパレータ30は電気絶縁性である。セパレータ30は例えばポリオレフィン製であってもよい。セパレータ30の表面に耐熱膜が形成されていてもよい。耐熱膜は例えばベーマイト、アルミナ等の耐熱材料を含み得る。
【0042】
《(B)第1剤の添加》
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、電解液に第1剤を添加することを含む。第1剤は例えば液体であってもよい。第1剤は例えば粉体であってもよい。例えば電池ケース101に設けられた注液口から、電池ケース101内に第1剤が投入されてもよい。これにより電解液に第1剤が添加され得る。
【0043】
第1剤は双性イオン化合物を含む。第1剤は例えば双性イオン化合物のみからなっていてもよい。第1剤は例えば双性イオン化合物が溶解した溶液であってもよい。例えば第1剤は、前述の電解液に双性イオン化合物が溶解したものであってもよい。
【0044】
第1剤の添加量は特に限定されるべきではない。例えば電池100内において、電解液中の双性イオン化合物の濃度が0.01mоl/L以上0.1mоl/L以下となるように、第1剤の添加量が決定されてもよい。
【0045】
双性イオン化合物の静電的な作用により、リチウム化合物が電解液に溶解すると考えられる。リチウム化合物(被膜)の溶解により、抵抗の低減が期待される。リチウム化合物の溶解反応は常温(10℃以上30℃以下)で進行し得ると考えられる。溶解反応の促進のため、例えば電池100の充放電が実施されてもよい。溶解反応の促進のため、例えば電池100が加温されてもよい。
【0046】
本実施形態では特定の双性イオン化合物が使用される。すなわち双性イオン化合物は1分子内にホスホニウムカチオンとカルボキシラートアニオン(COO
-)とを含む。本明細書の「ホスホニウムカチオン」は、第一級ホスホニウムカチオン、第二級ホスホニウムカチオン、第三級ホスホニウムカチオンおよび第四級ホスホニウムカチオンを含む。双性イオン化合物は、例えば下記式(I)〜(IV)によって表され得る。第1剤に1種の双性イオン化合物が単独で含まれていてもよい。第1剤に2種以上の双性イオン化合物が含まれていてもよい。
【0048】
上記式(I)中、R
1は、炭素数が1〜10であるアルキレン基、エーテル結合を含みかつ炭素数が1〜10である置換基、またはアリール基を示す。R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数が1〜10であるアルキル基、エーテル結合を含みかつ炭素数が1〜10である置換基、またはアリール基を示す。R
1、R
2、R
3およびR
4は、これらのうちいずれか2つ以上が結合することにより、P
+と共に環状化合物を形成していてもよい。
【0049】
アルキレン基は直鎖状であってもよい。アルキレン基は、例えばメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ヘキシレン基、n−ヘプチレン基、n−オクチレン基、n−ドデシレン基等であってもよい。アルキレン基は分岐状であってもよい。アルキレン基は、例えばプロパン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基等であってもよい。
【0050】
アルキル基は直鎖状であってもよい。アルキル基は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等であってもよい。アルキル基は分岐状であってもよい。アルキル基は、例えばイソプロピル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等であってもよい。
【0051】
アリール基は無置換であってもよい。アリール基は、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等であってもよい。アリール基は置換されていてもよい。アリール基の置換基は、例えば、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基等であってもよい。
【0053】
上記式(II)中、R
5は、炭素数が1〜8であるアルキレン基を示す。R
6、R
7およびR
8は、それぞれ独立に、炭素数が1〜8のアルキル基を示す。
【0055】
上記式(III)中、R
9、R
10およびR
11は、それぞれ独立に、炭素数が1〜6のアルキル基を示す。置換基の炭素数が少なくなることにより、例えば双性イオン化合物の電解液への溶解性が向上することが期待される。
【0056】
(CH
3CH
2CH
2CH
2)
3P
+CH
2CO
2- (IV)
【0057】
《(C)第2剤の添加》
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、電解液に第2剤を添加することを含む。第2剤は例えば液体であってもよい。例えば電池ケース101に設けられた注液口から、電池ケース101内に第2剤が投入されてもよい。これにより電解液に第2剤が添加され得る。
【0058】
第2剤は犠牲材料を含む。第2剤は犠牲材料のみからなっていてもよい。第2剤は例えば犠牲材料を含む溶液であってもよい。例えば第2剤は、前述の電解液に犠牲材料が混合されたものであってもよい。
【0059】
犠牲材料は、電池100の充電中または放電中に、正極10または負極20で酸化還元反応を生起する。犠牲材料が、正極活物質または負極活物質の代わりに酸化還元反応を生起することにより、正極10または負極20の一方のみを充電または放電させることができる。その結果、リチウム化合物の生成に伴う、正極のSOC−OCP曲線と負極のSOC−OCP曲線との対応関係のズレが解消され得る(
図3および4を参照のこと)。
【0060】
犠牲材料の酸化電位は、正極10の使用電位範囲内であることが望ましい。犠牲材料の還元電位は、負極20の使用電位範囲内であることが望ましい。犠牲材料となり得る物質としては、例えばチオフェン、1−メチルピロールおよびテトラヒドロフラン(THF)等が考えられる。すなわち第2剤は、チオフェン、1−メチルピロールおよびTHFからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0061】
第2剤の添加量は特に限定されるべきではない。第2剤の添加量は、例えば容量減少量、リチウム化合物の生成量、犠牲材料の酸化還元反応により授受される電荷量等に基づいて決定され得る。例えば電池100内において、電解液中の犠牲材料の濃度が0.01mоl/L以上0.1mоl/L以下となるように、第2剤の添加量が決定されてもよい。
【0062】
なお犠牲材料の酸化還元反応によりガスが生じる場合には、電池ケース101からガスを放出する操作が実施されてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、本開示の実施例が説明される。ただし以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0064】
リチウムイオン二次電池(使用済み電池)が準備された。該使用済み電池では、容量減少および抵抗増加が認められる。使用済み電池が解体されることにより、正極10(劣化正極)および負極20(劣化負極)が回収された。正極10および負極20の少なくとも一方に、リチウム化合物が付着していると考えられる。
【0065】
劣化正極および劣化負極が所定サイズに切断された。これにより小型セル用正極および小型セル用負極が準備された。小型セル用正極および小型セル用負極を含む小型セルが組み立てられた。
【0066】
小型セルに電解液が注液された。注液量は規定量の50%である。「規定量」は、本実験の小型セルに対して必要と考えられる電解液量を示す。電解液は以下の成分からなる。
【0067】
(電解液)
Li塩:LiPF
6(濃度 1.1mоl/L)
溶媒:[EC/EMC/DMC=3/3/4(体積比)]
【0068】
注液後、小型セルの充放電が所定回数実施された。これにより小型セルの容量が測定された。小型セルの抵抗が測定された。抵抗は交流インピーダンス法により測定された。容量および抵抗の測定後、電解液に第1剤が添加された。添加量は規定量の25%である。第1剤は以下の成分からなる。なお「TBP
+CO
2-」は上記式(IV)により表される双性イオン化合物を示す。
【0069】
(第1剤)
Li塩:LiPF
6(濃度 1.1mоl/L)
双性イオン化合物:TBP
+CO
2-(濃度 0.05mоl/L)
溶媒:[EC/EMC/DMC=3:3:4(体積比)]
【0070】
第1剤の添加後、小型セルの充放電が実施された。充放電後、小型セルの容量および抵抗が測定された。容量および抵抗の測定後、電解液に第2剤がさらに添加された。添加量は規定量の25%である。つまり電解液、第1剤および第2剤の合計量が規定量(100%)である。第2剤は以下の成分からなる。
【0071】
(第2剤)
Li塩:LiPF
6(濃度 1.1mоl/L)
犠牲材料:チオフェン(濃度 0.05mоl/L)
溶媒:[EC/EMC/DMC=3/3/4(体積比)]
【0072】
第2剤の添加後、小型セルの充放電が実施された。充放電後、小型セルの容量および抵抗が測定された。
【0073】
<結果>
図8は実験結果を示す第1グラフである。
図8には、第1剤および第2剤の添加に伴う抵抗の推移が示されている。
図8の「抵抗」は、第1剤および第2剤が添加される前の小型セルの抵抗を100%とする相対値である。
【0074】
図8の「(B)第1剤の添加」は第1剤の添加後の抵抗を示す。第1剤の添加により、抵抗が低減している。双性イオン化合物(TBP
+CO
2-)の静電的な作用により、リチウム化合物(被膜)が溶解するためと考えられる。
【0075】
図9は実験結果を示す第2グラフである。
図9には、第1剤および第2剤の添加に伴う容量の推移が示されている。
図9の「容量」は、第1剤および第2剤が添加される前の小型セルの放電容量を100%とする相対値である。
【0076】
図9の「(B)第1剤の添加」は第1剤の添加後の放電容量を示す。第1剤の添加により、容量が回復している。リチウム化合物の溶解により、Li
+が再生されるためと考えられる。
【0077】
図9の「(C)第2剤の添加」は第2剤の添加後の放電容量を示す。第2剤の添加により、一層の容量回復が認められる。犠牲材料(チオフェン)の酸化分解により、正極のSOC−OCP曲線と負極のSOC−OCP曲線との対応関係のズレが解消されるためと考えられる。
【0078】
本開示の実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。