(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-10417(P2020-10417A)
(43)【公開日】2020年1月16日
(54)【発明の名称】パルス生成装置
(51)【国際特許分類】
H02M 9/04 20060101AFI20191213BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20191213BHJP
【FI】
H02M9/04 Z
H02M1/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-126427(P2018-126427)
(22)【出願日】2018年7月2日
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093816
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝
【テーマコード(参考)】
5H740
5H790
【Fターム(参考)】
5H740BA01
5H740BB01
5H740BB07
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM06
5H790CC01
5H790EA01
5H790EA04
5H790EA13
5H790EB01
(57)【要約】
【課題】サイラトロンの代替となる、高速スイッチング可能な、高電圧大電流パルスを生成するパルス生成装置を提供する。
【解決手段】本発明は、複数のサイリスタが直列に接続され前記サイリスタをゲート電流ゼロでスイッチさせるアバランシェ回路と、前記アバランシェ回路の最下段にトリガー信号を供給するトリガー回路と、前記アバランシェ回路の複数の前記サイリスタに均等に印加電圧を供給する均等電圧供給回路からなり、
前記アバランシェ回路の最下段に前記トリガー信号が入力されることによって、
前記サイリスタがオン状態になり、前記アバランシェ回路が絶縁状態から低抵抗状態へ移行する前記スイッチング回路に、外部電源から直流高電圧が印加されることで、
負荷に高電圧、大電流の高速パルスを生成することを特徴とするパルス生成装置とした。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサイリスタが直列に接続され前記サイリスタをゲート電流ゼロでスイッチさせるアバランシェ回路と、前記アバランシェ回路の最下段にトリガー信号を供給するトリガー回路と、前記アバランシェ回路の複数の前記サイリスタに均等に印加電圧を供給する均等電圧供給回路からなり、
前記アバランシェ回路の最下段に前記トリガー信号が入力されることによって、
前記サイリスタがオン状態になり、前記アバランシェ回路が絶縁状態から低抵抗状態へ移行する前記スイッチング回路に、外部電源から直流高電圧が印加されることで、
負荷に高電圧、大電流の高速パルスを生成することを特徴とするパルス生成装置。
【請求項2】
前記高速パルスは、スイッチング時間100ナノ秒以下であることを特徴とする請求項1に記載のパルス生成装置。
【請求項3】
前記高電圧は20kV以上、かつ前記大電流は400A以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパルス生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイラトロンの代替となる、高速スイッチング可能な、高電圧大電流パルスを生成するパルス生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大電流、高電圧パルスの生成にはサイラトロンスイッチ(ガス放電管)が使われている。サイラトロンスイッチは単体で数十kV、数kAをスイッチすることが出来る。スイッチング速度は高速のものは50ナノ秒程度のものがある。一般に高電圧、大電流のものはスイッチング速度が遅く、50ナノ秒程度まで高速のものは数十kV、2kA程度の性能が限界であった。
【0003】
図1に示すように、従来のサイラトロンスイッチを用いた回路は、ガスで満たされた放電管10であり、高電圧を印加した状態でグリッド(1),(2)間にトリガーが入力されることによって放電を起こし、アノード、カソード間は導通状態になる。トリガー信号の入力信号によって安定に放電させるために、サイラトロンスイッチにはヒーター電源、リサーバー電源、キープアライブ電源が必要であり、それぞれの電源を環境条件、サイラトロンの経過寿命に合わせて調整する必要がある。
【0004】
図2に示すように、従来のパルス電源回路11のサイラトロンスイッチ11aは、トリガー信号がない時は絶縁状態にあり、印加した直流高電圧による電流は流れず、コンデンサー7の両端に抵抗(1)を介して充電される。サイラトロンスイッチ11aにトリガー信号が入力されると導通状態になり、コンデンサー7に蓄積された電荷はサイラトロンスイッチ11aを流れる。この電流は抵抗(2)を流れ、抵抗(2)の両端にパルス出力として現れる(パルス8)。このサイラトロンスイッチ11aに接続する外付電源と、負荷の回路は色々な構成があり、正極性や負極生のパルスを生成したり、方形波のパルスを取り出したりすることが出来る。
【0005】
従来のサイラトロンスイッチ11aは、上述の通りであるので、高価で、使用に際して寿命があるため、定期的に交換する必要がある。また、トリガー信号に対する安定度にも問題があり、温度、使用環境などで動作が変化する点問題であった。また、サイラトロンスイッチを用いたパルス電源では3メートル四方の大きさで、広い設置スペースを必要としていた。さらに、ヒーター電源を投入してから2時間程度のウォームアップが必要である改良が求められていた。
【0006】
そのため、大電流、高電圧パルスの生成を半導体スイッチで実現する努力が続けられている。最近の半導体スイッチ技術は高電圧化、大電流化が進んできている。しかしながら、サイリスタ単体では電圧、電流が足らないため、
図3に示すように、サイラトロンを代替するにはサイリスタを縦横に接続し、それぞれに同時にトリガー信号を入力する必要がある。
【0007】
そのため、各サイリスタには付属するトリガー回路(ゲートドライバー)が多数必要となり、容積も大きくなる。さらに、トリガー回路は高電圧でも動作する必要があり、絶縁のため特殊な構成とする必要がある。また、それらの故障に対するインターロック回路も組み込まなければならないのが現状である。
【0008】
これまでの半導体スイッチによる大電流、高電圧パルスの生成技術は、結果的にサイラトロンより容積が大きくなり、コストも安価にならないことから、一般にはまだ普及していない。
【0009】
ここで、
図4を参照してサイリスタの動作特性について説明する。サイリスタは電圧(横軸)を印加した状態でゲート電流(縦軸)を流すことによってオフからオン状態になり急激に電流が増加する。通常、ゲート電流(I
G)によりアノード、カソード間の電流を制御している。ゲート電流(I
G)がゼロであっても一定電圧を超過する超過電圧によって半導体内で電子雪崩(アバランシェ)が発生し、ゲート電流(I
G)を流した時と同様に回路がオン状態になる。超過電圧でスイッチする電圧をブレークオーバー電圧と呼ぶ。
【0010】
ブレークオーバー電圧でスイッチするサイリスタのスイッチング速度は、サイリスタ個々の特性に依存するが、アバランシェでのスイッチング速度は通常の動作に比べて高速であることが知られている。通常の使い方ではないためサイリスタの特性として市販の際、表記、規格されることはない。
【0011】
他方、市販されている半導体のスイッチングデバイスのうちサイリスタ、或いはIGBTでは1000Aを超える大電流をスイッチすることが出来る。しかし、スイッチング速度は数百ナノ秒からマイクロ秒でしかスイッチング出来ず、高速スイッチング要求に十分満たすものではないのが現状である。
【0012】
また、FETは100ナノ秒以下のスイッチング速度が可能であるが、一個あたりの電流が30A程度と低いため大量に並列接続する必要がある。さらに、半導体一個あたりの作動電圧も1kV前後であるためサイラトロンが使用されている20kVから数十kVの電圧を得るにはスイッチングデバイスを20〜数十段直列接続しなければならない。一方、FETを直列接続すると、さらにスイッチング速度は遅くなるため、現在実現しているのはマイクロ秒のパルス生成のみである。
【0013】
以上の通り、高電圧化、大電流化している半導体スイッチでも、1000Aを超える大電流で100ナノ秒以下のスイッチング速度を持つパルス電源は半導体スイッチでは実現出来ていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】NIM-A 796(2015)72-29 “Development of a high-power solid-state switch using static induction thyristors for a klystron modulator”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、サイラトロンの代替となる、高速スイッチング可能な、高電圧大電流パルスを生成するパルス生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)
複数のサイリスタが直列に接続され前記サイリスタをゲート電流ゼロでスイッチさせるアバランシェ回路と、前記アバランシェ回路の最下段にトリガー信号を供給するトリガー回路と、前記アバランシェ回路の複数の前記サイリスタに均等に印加電圧を供給する均等電圧供給回路からなり、
前記アバランシェ回路の最下段に前記トリガー信号が入力されることによって、
前記サイリスタがオン状態になり、前記アバランシェ回路が絶縁状態から低抵抗状態へ移行する前記スイッチング回路に、外部電源から直流高電圧が印加されることで、
負荷に高電圧、大電流の高速パルスを生成することを特徴とするパルス生成装置。
(2)
前記高速パルスは、スイッチング時間100ナノ秒以下であることを特徴とする(1)に記載のパルス生成装置。
(3)
前記高電圧は20kV以上、かつ前記大電流は400A以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のパルス生成装置。
とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、サイリスタのアバランシェモードを用いてスイッチングを行うため、高電圧、大電流パルスを生成することができる。その結果、本発明は、サイラトロンスイッチを代替することができるようになった。
【0018】
本発明は、市販の汎用のサイリスタを、アバランシェモードで動作させるパルス生成装置であり、安定に多段動作可能である。サイリスタをアバランシェモードで安定に多段動作させる回路は直列接続のみならず、印加電圧を並列充電、直列放電するマルクス回路構成にして使用することも出来る。そのため、サイラトロンに比べ印加電圧を低くすることが可能となる。
【0019】
加えて、トリガー回路はシンプルな構成で、通常のサイリスタのスイッチング動作より高速のスイッチング動作をすることができる。そして、回路構成がシンプルであるため容積も小さくなり、また、部品の点数が少ないことから信頼性が高いパルス生成装置となる。
【0020】
そして高速スイッチが可能なことから、本発明は、高電圧放電、例えば、電子銃電源、レーザーのスイッチ回路などの高電圧スイッチを必要とする技術分野に応用できる。
さらに、高電圧パルス電源の大きさを、従来のサイラトロンスイッチでは3メートル四方の大きさであったが、本発明のパルス生成装置を用いたパルス電源では数十センチメートルの大きさにすることが出来る。そのため、パルス電源の設置場所の省スペース化に資する。
また、本発明によるパルス電源は、ヒーター電源、さらにリザーバー電源を必要としないため、電源投入後すぐに運転することが可能となる。また、半導体の特徴である高寿命、パルスの安定性などが期待出来る。
【0021】
以下、より具体的な応用について概説する。電子銃には通常、数マイクロ秒の高電圧パルスが使われているが、これを100ナノ秒以下のパルスにすることによって放電を回避することが出来、結果的にコンパクトな効率のよい電子銃を作ることが出来る。
なお、従来の電子銃はパルス電圧をさらにパルストランスを用いて昇圧し、100kV以上の電圧を作りだして使用しているが、電子銃のアノード電極が高電圧になると放電が発生するため40センチメートルに及ぶ絶縁碍子を使用している。さらに縁面放電を避けるためにガスによって絶縁する必要があった。
他方、本発明によるパルス電源を用いた電子銃では、高電圧の短パルス化が実現し、パルス電源のみならず、電子銃そのものを小さくしても放電しないため、絶縁碍子を数センチメートルまで小さくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来のサイラトロンスイッチを用いた回路である。
【
図2】サイラトロンスイッチを用いたパルス電源回路の例である。
【
図3】サイリスタ等の半導体でサイラトロンと同様の機能を有するスイッチ回路の例である。
【
図4】サイリスタの動作特性を示す電圧と電流の関係を示すグラフである。
【
図5】本発明であるパルス生成装置のスイッチ回路である。
【
図6】本発明であるパルス生成装置の動作説明図である。
【
図7】本発明に係るパルス生成装置の出力波形の例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は下記形態例に限定されるものではない。
【0024】
図5,6に示すように、本発明のパルス生成装置1は、複数のサイリスタ2aの直列接続によって構成されるアバランシェ回路2とトリガー回路4と均等電圧供給回路6とからなるスイッチング回路1aと、スイッチング回路1aに高電圧を印加する、
図2に示す従来のサイラトロンスイッチを用いたパルス電源回路と同様に、高電圧回路、パルス出力を取り出す出力回路などを含んでなる。
【0025】
アバランシェ回路2は、サイリスタ2aのゲート電流をゼロにするためにゲート入力をカソードに接続したユニットを直列に接続した回路である。
【0026】
トリガー回路4は、アバランシェ回路2の最下段のサイリスタ(サイリスタ(1))に超過電圧を印加するために、1kV前後のマイナスの電位差を作る。
【0027】
図5では、サイリスタ2aを通常のゲートスイッチでトリガー信号を生成しているが、FETや他のスイッチングデバイスも使用することが出来る。
【0028】
均等電圧供給回路6は、ツェナーダイオードを用いてアバランシェ回路2の各サイリスタ2aに一定電圧を印加する。均等電圧供給回路6の動作は以下のようになる。
【0029】
アバランシェ回路2の各サイリスタ2aにはブレークオーバー電圧に近い電圧が印加されており、トリガー回路4が作動するとサイリスタ(1)のカソード電位は1kV前後マイナスに下がる。サイリスタ(1)のアノード,カソード間には既にブレークオーバー電圧に近い電圧が印加されているため、カソードの電位が下がることによってブレークオーバー電圧を超過し、オン状態になる。
サイリスタ(1)がオン状態になると、サイリスタ(2)のカソードの電位が下がりサイリスタ(2)もオン状態になり、連続して全てのサイリスタ(1)〜(N)がオン状態になる。結果、スイッチング回路1aのA, B間は導通状態(低抵抗状態)になる。
【0030】
上記構成による本願発明は、従来のサイラトロンスイッチと同様に、高電圧、大電流のパルス7a生成し、高速スイッチングが可能になる。
【実施例1】
【0031】
図7に、本発明で使用したサイリスタ(IXYS社 IXHX40N150V1HV,1500V耐圧)の17段による出力波形の例を示した。コンデンサーに25kVを印加し、50Ω負荷抵抗使用時、ピーク電圧22kV,ピーク電流440A,スイッチング時間(10〜90%)20ナノ秒を示す。
【0032】
なお、本発明で使用したサイリスタは、最大ピーク電流が7.6kA仕様であるため、並列接続の必要がない。また、アバランシェ回路2の各サイリスタ2aにはゲート信号を必要としないため、サイリスタ2aの通常動作の回路である
図3と比較して、スイッチング回路1aは非常に単純な回路構成となる。
【符号の説明】
【0033】
1 パルス生成装置
1a スイッチング回路
2 アバランシェ回路
2a サイリスタ
4 トリガー回路
6 均等電圧供給回路
7 コンデンサー
7a パルス
10 放電管
11 パルス電源回路
11a サイラトロンスイッチ