【課題】硬度がより高く耐摩耗性により優れ、且つ摺動性にもより優れるめっき皮膜を形成することができ、且つ共析性及び浴安定性を維持する無電解めっき液、上記無電解めっき液により形成されためっき皮膜、上記めっき皮膜を有するめっき品及びめっき皮膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤、及び炭化ケイ素を必須成分として含有する無電解めっき液であって、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物若しくはその塩を含有し、且つ得られるめっき皮膜のリン含有率が0.1〜4質量%であることを特徴とする無電解めっき液、当該無電解めっき液により形成されためっき皮膜、及び当該めっき液に被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程を有するめっき皮膜の形成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硬度がより高く耐摩耗性により優れ、且つ摺動性にもより優れるめっき皮膜を形成することができ、且つ共析性及び浴安定性を維持する無電解めっき液、上記無電解めっき液により形成されためっき皮膜、上記めっき皮膜を有するめっき品及びめっき皮膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤、及び炭化ケイ素を必須成分として含有する無電解めっき液であって、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物若しくはその塩を含有し、且つ得られるめっき皮膜のリン含有率が0.1〜4質量%であることを特徴とする無電解めっき液、当該無電解めっき液により形成されためっき皮膜、及び当該めっき液に被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程を有するめっき皮膜の形成方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤、及び炭化ケイ素を必須成分として含有する無電解めっき液であって、
ポリカルボン酸型高分子界面活性剤及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物若しくはその塩を含有し、且つ得られるめっき皮膜のリン含有率が0.1〜4質量%であることを特徴とする無電解めっき液。
【0009】
項2. 前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物がナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物である、項1に記載の無電解めっき液。
【0010】
項3. 前記炭化ケイ素の平均粒子径が0.1〜3.0μmである、項1又は2に記載の無電解めっき液。
【0011】
項4. 前記炭化ケイ素の含有量が0.01〜100g/Lである、項1〜3のいずれかに記載の無電解めっき液。
【0012】
項5. 項1〜4のいずれかに記載の無電解めっき液を用いて形成されためっき皮膜。
【0013】
項6. 項5に記載のめっき皮膜を有するめっき品。
【0014】
項7. 項1〜4のいずれかに記載の無電解めっき液に、被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程1を有する、めっき皮膜の形成方法。
【0015】
項8. 工程1により形成された無電解めっき皮膜を熱処理する工程2を有する、項7に記載のめっき皮膜の形成方法。
【0016】
項9. 前記熱処理の温度が400℃以下である、項8に記載のめっき皮膜の形成方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硬度がより高く耐摩耗性により優れ、且つ摺動性にもより優れるめっき皮膜を形成することができ、且つ共析性及び浴安定性を維持する無電解めっき液、上記無電解めっき液により形成されためっき皮膜、上記めっき皮膜を有するめっき品及びめっき皮膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0019】
1.無電解めっき液
本発明の無電解めっき液は、
水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤、及び炭化ケイ素を必須成分として含有する無電解めっき液であって、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物若しくはその塩を含有し、且つ得られるめっき皮膜のリン含有率が0.1〜4質量%である。
【0020】
水溶性ニッケル化合物としては、めっき液に可溶性であって、所定の濃度の水溶液が得られるものであれば特に限定なく使用できる。例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等を用いることができる。特に、溶解性が良好である点で硫酸ニッケルが好ましい。水溶性ニッケル化合物は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。水溶性ニッケル化合物の濃度は、浴安定性等の観点から、0.001〜1mol/L程度とすることが好ましく、0.01〜0.3mol/L程度とすることがより好ましく、0.01〜0.03mol/L程度とすることがさらに好ましい。
【0021】
還元剤についても特に限定はなく、無電解めっき液で用いられている公知の還元剤を用いることができる。この様な還元剤としては、次亜リン酸、次亜リン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等のリン含有還元剤、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等を例示できる。これらの中でも、浴安定性等の観点から、リン含有還元剤が好ましく、次亜リン酸、次亜リン酸塩等がより好ましく、次亜リン酸塩がさらに好ましい。還元剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。還元剤の濃度は、浴安定性等の観点から、0.001〜1mol/L程度とすることが好ましく、0.002〜0.5mol/L程度とすることがより好ましい。
【0022】
錯化剤についても特に限定はなく、無電解めっき液で用いられている公知の錯化剤を用いることができる。この様な錯化剤としては、酢酸、蟻酸等のモノカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;エチレンジアミンジ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を例示できる。更に、ホスホン酸類、グリシン、グルタミン酸等のアミノ酸類等も錯化剤として用いることができる。これらの中でも、浴安定性等の観点から、グリシン等のアミノ酸類、乳酸等のヒドロキシカルボン酸等が好ましい。これらの錯化剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。錯化剤の配合量は、浴安定性等の観点から、0.001〜2mol/L程度とすることが好ましく、0.002〜1mol/L程度とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の無電解めっき液は、炭化ケイ素粒子を含有する。炭化ケイ素粒子の形状は特に限定されず、球状、角錐、立方体形状等のいずれの形状であってもよい。
【0024】
炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、耐摩耗性、摺動性等の観点から、0.1〜5.0μmが好ましく、0.1〜3.0μmがより好ましい。炭化ケイ素粒子の平均粒子径が大き過ぎると、形成されるめっき皮膜と接する他の部材が摩耗し易くなるおそれがあり、小さ過ぎると、形成されるめっき皮膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0025】
炭化ケイ素粒子の含有量は、耐摩耗性、摺動性等の観点から、0.05〜200g/Lが好ましく、0.1〜100g/Lがより好ましく、0.5〜100g/Lがさらに好ましい。炭化ケイ素粒子の含有量が多過ぎると、形成されるめっき皮膜と接する他の部材が摩耗し易くなるおそれがあり、少な過ぎる、形成されるめっき皮膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明の無電解めっき液は、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物若しくはその塩(本明細書において、これらをまとめて「A成分」と示すこともある。)を含有する。これにより、低リン浴でも、SiCの分散性、良好な共析性、浴安定性等を維持することができる。
【0027】
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物における芳香族部分については、代表的にはナフタレン環が挙げられる。ただ、これに限定されず、他の芳香族環、例えばベンゼン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、フェナントレン環等の炭素原子数6〜20(好ましくは6〜12、より好ましくは6〜10)も挙げられる。
【0028】
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物としては、特に制限されないが、代表的にはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物が挙げられる。
【0029】
塩の種類は、特に制限されない。塩としては、例えばナトリウム塩が挙げられる。
【0030】
A成分の含有量は、SiCの分散性、良好な共析性、浴安定性等の観点から、0.001〜30g/Lが好ましく、0.005〜20g/Lがより好ましく、0.01〜10g/Lがさらに好ましい。
【0031】
本発明の無電解めっき液により得られるめっき皮膜のリン含有率(=リン元素としての含有率)は、0.1〜4質量%である(換言すれば、本発明の無電解めっき液は、リン含有率0.1〜4質量%のめっき皮膜の形成用、である。)。該含有率は、摩耗性、摺動性等の観点から、好ましくは1〜3質量%である。このようなリン含有率のめっき皮膜は、めっき液中の、めっき皮膜として析出し得るリン含有成分の含有量を調整することにより、得ることができる。例えば、リン含有成分がリン含有還元剤を含む場合であれば、本発明の無電解めっき液におけるリン含有還元剤の含有量は、例えば0.001〜0.20mol/L程度とすることが好ましく、0.002〜0.18mol/L程度とすることがより好ましく、0.01〜0.16mol/L程度とすることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の無電解めっき液には、その他必要に応じて、通常用いられている各種の添加剤を配合することができる。例えば、安定剤として、硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩;硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩;チオ硫酸ナトリウム等の硫黄化合物等を1種単独又は2種以上混合して添加することができる。安定剤の添加量は、特に限定的ではないが、例えば、0.01〜100mg/L程度とすることができる。
【0033】
また、pH緩衝剤として、酢酸、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、炭酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を配合することができる。これらの中でも、浴安定性等の観点から、酢酸が好ましい。緩衝剤の配合量は特に限定的ではないが、浴安定性等の観点から、0.002〜1mol/L程度とすることが好ましい。
【0034】
本発明の無電解めっき液のpHは、通常、2〜12程度とすればよく、4〜10程度とすることが好ましく、5〜8程度とすることがより好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸および水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。
【0035】
2.めっき皮膜
本発明は、また、上記無電解めっき液を用いて形成されためっき皮膜でもある。上記めっき皮膜の厚みは、0.1〜1000μm程度が好ましく、0.5〜100μm程度がより好ましく、1〜50μm程度が更に好ましい。
【0036】
めっき皮膜のリン含有率(=リン元素としての含有率)は、0.1〜4質量%である、該含有率は、摩耗性、摺動性等の観点から、好ましくは1〜3質量%である。
【0037】
めっき皮膜のビッカース硬度は、後述するめっき皮膜の形成方法で熱処理を行わない場合、例えば500(好ましくは600、より好ましくは700)〜800程度である。該硬度は、後述するめっき皮膜の形成方法で熱処理を行った場合、例えば780(好ましくは800、より好ましくは820、さらに好ましくは850)〜1300程度である。特に、300℃から350℃の熱処理により約1000〜1300の硬度が得られる。
【0038】
本明細書において、めっき皮膜のビッカース硬度は、ビッカース硬度計(ミツトヨ製、HM−200)を使用して荷重100gf(0.98N)で測定される値である。
【0039】
めっき皮膜の耐摩耗性は、下記の耐摩耗性試験で測定される摩耗量が、例えば4mg以下、好ましくは3.5mg以下、より好ましくは3mg以下である。下限は特に制限されず、例えば0.5mg、1mg、2mg、2.5mgである。
【0040】
本明細書において、上記摩耗量は、めっき皮膜の表面について、スガ摩耗試験機(スガ試験機製、NUS−ISO−3)を用いて、荷重:1.5kgf(14.7N)、研磨紙:#600、且つ往復回数:300回の測定条件で試験を行い、測定される値である。
【0041】
めっき皮膜の摺動性は、下記の摩擦摩耗試験機で測定される摩擦係数の平均値が、例えば0.7未満である。熱処理なしの場合、該値は、好ましくは0.65以下、より好ましくは0.6以下である。該値の下限は、特に制限されず、例えば0.2、0.3、0.4、0.5である。
【0042】
本明細書において、上記摩擦係数の平均値は、めっき皮膜の表面について、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学株式会社製 製品名:トライボギアHHS−2000)を用いて、加減重往復測定の測定方法により、測定子φ10mmSUSボール、100〜500gf、往復回数50回、移動距離15mm、移動速度5mm/sec、サンプルレート50Hzの測定条件により、摩擦係数を測定し、100〜500gfの各荷重の、往復回数50回目の摩擦係数の平均値を算出して得られる値である。
【0043】
3.めっき皮膜の形成方法
本発明は、また、水溶性ニッケル化合物、還元剤、錯化剤、及び炭化ケイ素を必須成分として含有する無電解めっき液であって、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物若しくはその塩を含有し、且つ得られるめっき皮膜のリン含有率が0.1〜4質量%であることを特徴とする無電解めっき液に、被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程1を有するめっき皮膜の形成方法でもある。
【0044】
(工程1)
工程1は、上記無電解めっき液に被めっき物を接触させてめっき皮膜を形成する工程である。上記無電解めっき液としては、上述のものを用いることができる。上記無電解めっき液を用いてめっき皮膜の形成を行うには、常法に従って、該無電解めっき液を被めっき物に接触させればよい。通常は、該無電解めっき液中に被めっき物を浸漬することによって、効率よくめっき皮膜を形成することができる。
【0045】
無電解めっき液の液温は、通常、25℃以上程度とすればよく、40〜100℃程度とすることが好ましい。また必要に応じて、めっき液の撹拌や被めっき物の揺動を行うことができる。
【0046】
被めっき物の材質については特に限定はない。例えば、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム等の金属やこれらの合金等は無電解めっきの還元析出に対して触媒性を有するので、常法に従って前処理を行った後、直接めっき皮膜を形成することができる。銅等の触媒性のない金属や、ガラス、セラミックス等については、常法に従ってパラジウム核などの金属触媒核を付着させた後に、めっき処理を行えばよい。
【0047】
(工程2)
本発明のめっき皮膜の形成方法は、更に、工程1により形成された無電解めっき皮膜を熱処理する工程2を有していてもよい。
【0048】
工程1により形成された無電解めっき皮膜を熱処理する方法としては特に限定されず、従来公知の方法により熱処理することができる。上記無電解めっき皮膜を熱処理する方法としては、例えば、被めっき物に形成されためっき皮膜を被めっき物と共に加熱炉内で加熱する方法が挙げられる。
【0049】
上記熱処理の温度は特に限定されないが、400℃以下が好ましい。本発明の別の一態様においては、100〜300℃がより好ましく、130〜200℃がさらに好ましく、150〜190℃がよりさらに好ましく、160〜180℃が特に好ましい。本発明の一態様において、より高い硬度が得られるという観点から、300〜400℃がより好ましい。上記下限値は、硬度をより向上させるという観点、摩耗量をより低減するという観点等から、好ましい。上記上限値は、めっき皮膜の強度をより高くするという観点、摩耗量をより低減するという観点等から、好ましい。
【0050】
上記熱処理の加熱時間としては特に限定されないが、10〜180分が好ましく、30〜120分がより好ましい。加熱時間が短過ぎるとめっき皮膜の耐摩耗性が十分でないおそれがあり、長過ぎるとめっき皮膜表面の摩擦係数が高くなり、めっき皮膜と接触する他の部材の摩耗を十分に抑制できないおそれがある。
【0051】
4.めっき品
本発明は、また、上記めっき皮膜を有するめっき品でもある。めっき品としては、本発明のめっき皮膜を有していれば特に限定されず、被めっき物の表面にめっき皮膜が形成されていればよい。
【0052】
上記被めっき物の材質としては特に限定されないが、例えば、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銅等の金属やこれらの合金、又は、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
【0053】
本発明のめっき品は、特に、機械装置の摺動部、自動車の摺動部品等の、他の部材と摺動する部材であると、本発明のめっき品と摺動する他の部材の摩耗を抑制することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
(無電解めっき液の調製)
表1〜5に示す配合により、実施例1〜20及び比較例1〜5の無電解めっき液を調製した。なお、炭化ケイ素としては、炭化ケイ素粒子(平均粒子径0.5μm)を使用した。溶媒としては水を使用した。
【0056】
得られた各実施例及び比較例の無電解めっき液を用いて、下記の方法によりめっき皮膜の形成を行った。
【0057】
表1〜5に示す化合物を含有する各無電解ニッケルめっき液を用いて、軟鋼板(JIS−SPCC−SB)5×10cmを被めっき物として、浴温90℃の無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を浸漬することによって厚さ30μmの無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0058】
前処理工程および使用薬品は以下の通りである。
(1)浸漬脱脂(商標名:エースクリーン801 奥野製薬工業(株)製)
(2)電解脱脂(商標名:トップクリーナーE 奥野製薬工業(株)製)
(3)酸活性(商標名:トップサン 奥野製薬工業(株)製)
得られた各試料をそのまま、或いは各試料を加熱炉を用いて170℃で60分間熱処理してから、下記方法によりリン含有率、硬度、耐磨耗性、及び摺動性を測定した。
【0059】
(リン含有率)
めっき皮膜のリン含有率をエネルギー分散型X線分析装置(堀場製作所製、EMAX ENERGY EX−350)により測定した。
【0060】
(硬度)
めっき皮膜のビッカース硬度を、ビッカース硬度計(ミツトヨ製、HM−200)を使用して荷重100gf(0.98N)で測定した。
【0061】
(耐摩耗性)
めっき皮膜の表面について、スガ摩耗試験機(スガ試験機製、NUS−ISO−3)を用いて、荷重:1.5kgf(14.7N)、研磨紙:#600、且つ往復回数:300回の測定条件で試験を行い、摩耗量を測定した。
【0062】
(摺動性)
めっき皮膜の表面について、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学株式会社製 製品名:トライボギアHHS−2000)を用いて、加減重往復測定の測定方法により、測定子φ10mmSUSボール、100〜500gf、往復回数50回、移動距離15mm、移動速度5mm/sec、サンプルレート50Hzの測定条件により、摩擦係数を測定した。100〜500gfの各荷重の、往復回数50回目の摩擦係数の平均値を算出し、摩擦係数の測定値とした。
【0063】
(共析性)
めっき皮膜表面および断面を走査型電子顕微鏡(日立製、S−3400N)にて観察し、皮膜中の炭化ケイ素の共析状態を評価した。
<評価基準>
○ 均一に共析
△ やや凝集
× 凝集酷い。
【0064】
(浴安定性)
めっき処理後、めっき液を90℃で加温放置し、めっき液の状態およびビーカー
に析出したNiの析出量を目視により評価した。
<評価基準>
○ 浴安定性良好
△ やや不安定、ビーカーの底にNiが少し析出
× 浴分解発生、ビーカーの底にNiが全面析出。
【0065】
結果を表1〜5に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
表1〜5から明らかなように、リン含有率が低く且つ炭化ケイ素を含有するめっき液により、硬度が高く耐摩耗性に優れ、且つ摺動性にも優れためっき皮膜を形成できることが分かった。また、低リン浴では、SiCの分散性、良好な共析性、浴安定性等を維持することが困難であったが、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤及び/又は芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物若しくはその塩を添加することでこれらの問題を解決できた。