アンテナ装置は、導電性表面、および前記導電性表面に開口するスロットを有する導電部材と、前記スロットの両側において前記導電性表面から突出する導電性の一対の側壁であって、第1の方向に並び、各々が前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って延びる一対の側壁と、前記導電性表面から突出し前記第2の方向に沿って延びる導電性の一対のリッジであって、前記導電性表面に垂直な第3の方向から見た場合に前記スロットの中央部に重なる間隙を介して互いに対向する端面をそれぞれ有する一対のリッジと、を備える。前記スロットの内部、および前記一対のリッジの前記端面の間の空間に、外部空間に繋がる導波路が規定される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0010】
本開示の実施形態によるアンテナ装置は、導電性表面、および前記導電性表面に開口するスロットを有する導電部材と、前記スロットの両側において前記導電性表面から突出する導電性の一対の側壁であって、第1の方向に並び、各々が前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って延びる一対の側壁と、前記導電性表面から突出し前記第2の方向に沿って延びる導電性の一対のリッジであって、前記導電性表面に垂直な第3の方向から見た場合に前記スロットの中央部に重なる間隙を介して互いに対向する端面をそれぞれ有する一対のリッジと、を備える。前記スロットの内部、および前記一対のリッジの前記端面の間の空間に、外部空間に繋がる導波路が規定される。
【0011】
上記の構成において、スロット、一対のリッジ、および一対の側壁は、1つのアンテナ素子として機能する。本明細書において、電磁波が放射される側、または電磁波が到来する側を「正面側」と称し、その反対側を「背面側」と称する。上記の一対のリッジおよび一対の側壁は、導電部材の正面側に配置される。電磁波の放射時において、導電部材の背面側から、スロットに高周波の信号波が供給される。それに伴い、スロットの内部(主に中央部)および一対のリッジの端面間の間隙を電磁波が伝搬し、外部空間に放射される。受信時には逆に、外部空間から到来した電磁波が、一対のリッジの端面間の間隙、およびスロットの内部(主に中央部)の空間を伝搬し、導電部材の背面側に伝送される。導電部材の背面側には、スロット内の導波路に繋がる他の導波路が構成され得る。当該他の導波路は、例えばマイクロ波集積回路に接続され得る。マイクロ波集積回路は、送信機および受信機の少なくとも一方として機能する。
【0012】
上記の構成によれば、スロットの両側に導電性の一対の側壁が存在するため、送信時または受信時に一対のリッジの間に生じる電界の集中の程度を緩和させることができる。一対の側壁は、各スロットが放射または取り込む電磁波の電界強度分布を、第2の方向に広げる作用をもたらす。あるいは、電界の強度が極大を示す位置を、第2の方向において複数個所に分裂させる効果を奏する。このため、リッジ間に電界が集中することによる種々の影響を抑制することができる。例えば、上記のアンテナ素子(即ち、スロット、一対のリッジ、および一対の側壁の組)を複数個備えるアンテナ装置(以下、「アレイアンテナ」とも称する。)において、アンテナ素子間の間隔が比較的広い場合に生じるグレーティングローブの影響を緩和することができる。
【0013】
なお、本開示において用いられる「スロット」という用語は、いわゆる「スロットアンテナ」のみを意味するものではなく、スロット(slot)という単語が意味する全ての形態を指す。通常、「スロットアンテナ」という専門用語が用いられる場合、そのスロットの深さは、電磁波の波長に比して実質的に無視できるほど小さいことが前提とされる。これに対して、本開示における「スロット」は、そのような浅いスロットに限られない。スロットが深さ方向に大きく拡がり、その下端から給電された電磁波がスロット内を伝搬して上端から放射される場合であっても、本開示においてはその構造を「スロット」と呼ぶ。そして、そのような構造を有するアンテナを、スロットによって実現されるアンテナであると見なす。
【0014】
前記一対のリッジの各々の一端は、前記第3の方向から見た場合に前記スロットの内側に向かって突出した構造を備えていてもよい。
【0015】
前記スロットの内表面は、前記第2の方向に沿った間隔が局部的に縮小している互いに対向する2つの面を有していてもよい。前記一対のリッジの前記端面は、前記2つの面にそれぞれ繋がり、前記2つの面の間隔、および前記端面の間隔は、前記外部空間に向かうに従って連続的または段階的に拡大していてもよい。
【0016】
前記一対のリッジの各々は、前記端面に交差し前記第2の方向に沿って延びる頂面を有する。前記頂面は、前記導電性表面から測った高さが、前記端面に近付くにつれて連続的または段階的に低くなる部分を含んでいてもよい。この構成を実現するために、一対のリッジの各々は、端面から離れた位置に凸部を有していてもよい。各リッジは、凸部に代えて傾斜面を有していてもよい。
【0017】
前記一対の側壁の各々は、前記スロットの内表面に繋がり連続した一つの面を成す側面を有していてもよい。前記一対の側壁の各々の側面は、前記スロットの内表面に段差を伴って繋がっていてもよい。
【0018】
前記一対のリッジの端面間の間隙の少なくとも一部は、前記一対の側壁の間に位置していてもよい。前記一対のリッジの各々の一端は、前記一対の側壁の間にあってもよい。前記一対の側壁の前記導電性表面から測った高さは、前記一対のリッジの前記一端における前記導電性表面から測った高さよりも高くてもよい。
【0019】
前記第3の方向から見た場合に、前記スロットは、前記第1の方向に延びる横部分と、前記横部分にそれぞれ繋がり、前記第2の方向に延びる一対の縦部分とを含む形状を有し、前記一対のリッジの前記端面の前記間隙は、前記スロットの前記横部分に重なり、前記一対の側壁は、前記一対の縦部分にそれぞれ隣接していてもよい。
【0020】
アンテナ装置は、前記一対の側壁の両側に、間隙を隔ててそれぞれ位置する一対の導電壁をさらに備えていてもよい。
【0021】
前記導電部材は、前記スロットを含む複数のスロットを有していてもよい。その場合、前記アンテナ装置は、前記一対の側壁を含む導電性の複数対の側壁と、前記一対のリッジを含む導電性の複数対のリッジとを備え得る。前記複数対の側壁のうちの各対の側壁は、前記複数のスロットのうちの対応するスロットの両側において前記導電性表面から突出し、前記第2の方向に沿って延び、前記第1の方向に並び、各々が前記第2の方向に沿って延びた構造を備える。前記複数対のリッジのうちの各対のリッジは、前記導電性表面から突出し、前記第3の方向から見た場合に前記複数のスロットのうちの対応するスロットの中央部に重なる間隙を介して互いに対向する端面をそれぞれ有する。前記複数のスロットの内部、および前記複数対のリッジの前記端面の間隙に、複数の導波路が規定される。
【0022】
上記の構成によれば、アンテナ装置は、複数のアンテナ素子を備える。各アンテナ素子は、スロットと、当該スロットに繋がる一対のリッジと、当該スロットの両側に位置する一対の側壁とを含む。上記構成により、複数のアンテナ素子が例えば一次元または二次元に配列されたアレイアンテナを構成することができる。
【0023】
前記複数のスロットは、前記第1の方向に並ぶ2つ以上のスロットを含んでいてもよい。この場合、第1の方向に複数のアンテナ素子が配列されたアレイアンテナを構成できる。
【0024】
前記複数のスロットは、前記第1の方向において隣り合う第1のスロットおよび第2のスロットを含んでいてもよい。前記複数対の側壁は、前記第1のスロットの両側に位置する第1の側壁対、および前記第2のスロットの両側に位置する第2の側壁対を含んでいてもよい。前記第1の側壁対の一方の側壁は、前記第2の側壁対の一方の側壁であってもよい。言い換えれば、前記第1のスロットの両側に位置する前記一対の側壁の一方、および前記第2のスロットの両側に位置する前記一対の側壁の一方のそれぞれは、単一の壁状構造体の各一部分であってもよい。この構成によれば、第1の方向において隣り合う2つの側壁が繋がっており単一の壁状構造体を構成する。そのような構成であっても、第1の方向において隣り合う2つのスロットのそれぞれの両側に一対の側壁が存在するものと解釈する。
【0025】
前記導電性表面のうち、前記第1のスロットに繋がる前記一対のリッジの一方の基部と、前記第2のスロットに繋がる前記一対のリッジの一方の基部との間の部分は、平坦面または凹面であってもよい。
【0026】
前記複数のスロットは、前記第2の方向に並ぶ2つ以上のスロットを含んでいてもよい。この場合、第2の方向に複数のアンテナ素子が配列されたアレイアンテナを構成できる。
【0027】
前記複数のスロットは、前記第2の方向において隣り合う第1のスロットおよび第3のスロットを含んでいてもよい。前記第1のスロットに繋がる前記一対のリッジの一方、および前記第3のスロットに繋がる前記一対のリッジの一方のそれぞれは、単一のリッジ状構造体の各一部分であってもよい。この構成によれば、第2の方向において隣り合う2つのリッジが繋がっており単一のリッジ状構造体を構成する。
【0028】
前記複数のスロットは、第1のスロットと、前記第1のスロットから前記第1の方向に第1の間隔を空けて位置する第2のスロットと、前記第1のスロットから前記第2の方向に、前記第1の間隔よりも大きい第2の間隔を空けて位置する第3のスロットと、を含んでいてもよい。
【0029】
アンテナ装置は、前記複数対の側壁のうち、前記第2の方向に並ぶ前記2つ以上のスロットの両側にそれぞれ位置する2つ以上の側壁の両側に、間隙を隔ててそれぞれ位置する一対の導電壁をさらに備えていてもよい。
【0030】
アンテナ装置は、前記複数対の側壁の全体の両側に、間隙を隔ててそれぞれ位置する一対の導電壁をさらに備えていてもよい。
【0031】
前記導電部材を第1導電部材とし、前記導電性表面を第1導電性表面とするとき、前記第1導電部材は、前記第1導電性表面の反対側に第2導電性表面を有していてもよい。前記アンテナ装置は、前記第2導電性表面に対向する第3導電性表面を有する第2導電部材と、前記第3導電性表面から突出して前記第2の方向に延びるリッジ状の導波部材であって、前記第2導電性表面および前記スロットに対向する導電性の導波面を有する導波部材と、前記導波部材の両側において前記第3導電性表面から突出し、前記第2導電性表面に対向する先端部を有する複数の導電性ロッドと、をさらに備えていてもよい。
【0032】
上記構成においては、導波部材の導波面と第2導電性表面との間に導波路が規定される。複数の導電性ロッドは、人工磁気導体として機能し、導波面に沿って伝搬する電磁波の漏出を抑制する。このような導波路を、本明細書において、ワッフルアイアンリッジ導波路(Waffle−iron Ridge waveGuide:WRG)またはWRG導波路と称する。WRG導波路は、スロットの内部および各対のリッジの端面間に形成される導波路に接続される。WRG導波路は、直接的に、または他の導波路を介してマイクロ波集積回路に接続され得る。マイクロ波集積回路は、送信機および受信機の少なくとも一方として機能する。
【0033】
本開示の実施形態によるレーダシステムは、上記のいずれかのアンテナ装置と、前記アンテナ装置に接続された送信機および受信機の少なくとも一方と、前記送信機に接続されたD/Aコンバータおよび前記受信機に接続されたA/Dコンバータの少なくとも一方と、前記D/Aコンバータおよび前記A/Dコンバータの前記少なくとも一方に接続された信号処理回路と、を備える。前記送信機および前記受信機の前記少なくとも一方は、マイクロ波集積回路を含む。前記信号処理回路は、到来方向推定および距離推定の少なくとも一方を実行する。
【0034】
本開示の他の実施形態による通信システムは、上記のいずれかのアンテナ装置と、前記アンテナ装置に接続された送信機および受信機の少なくとも一方と、前記送信機に接続されたD/Aコンバータおよび前記受信機に接続されたA/Dコンバータの少なくとも一方と、前記D/Aコンバータおよび前記A/Dコンバータの前記少なくとも一方に接続された信号処理回路と、を備える。前記信号処理回路は、デジタル信号のエンコードおよびデジタル信号のデコードの少なくとも一方を実行する。
【0035】
以下、本開示の実施形態をより具体的に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明においては、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0036】
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。また、以下に説明する実施形態の構成を適宜組み合わせて、他の実施形態を構成してもよい。
【0037】
(実施形態)
図1は、本開示の例示的な実施形態によるアンテナ装置10の一部を示す斜視図である。アンテナ装置10は、複数のアンテナ素子180を備えるアレイアンテナである。以下の説明において、アンテナ装置10を「アレイアンテナ10」とも称する。アンテナ装置10は、第1導電部材110と、第2導電部材120と、第3導電部材130とを備える。第1導電部材110、第2導電部材120、および第3導電部材130は、この順に積層されている。第1導電部材110は、正面側に第1導電性表面110aを有する。第1導電部材110の上に、複数のアンテナ素子180を含む放射部が設けられている。
【0038】
図1には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下、この座標系を用いて本開示の実施形態の構成を説明する。+Z方向側を「正面側」とし、−Z方向側を「背面側」とする。本実施形態においては、X方向が「第1の方向」、Y方向が「第2の方向」、Z方向が「第3の方向」に該当する。
【0039】
図2Aは、第1導電部材110の正面側の構造を示す斜視図である。
図2Bは、第1導電部材110の正面側の構造を示す平面図である。図示されるように、このアレイアンテナ10は、2次元的に配列された複数のアンテナ素子180を備える。各アンテナ素子180は、リッジホーンアンテナであり、X方向およびY方向に沿って配列されている。
【0040】
このアレイアンテナ10は、X方向に並ぶ4つの部分アレイ11〜14を含む。各部分アレイは、Y方向に並ぶ4つのアンテナ素子180を含む。部分アレイ11〜14は、第1導電部材110の背面側に設けられた4つの導波路からそれぞれ給電される。4つの導波路のうちの第1の導波路は部分アレイ11に給電し、第2の導波路は部分アレイ12に給電し、第3の導波路は部分アレイ13に給電し、第4の導波路は部分アレイ14に給電する。4つの導波路は、第1導電部材110と第2導電部材120との間に設けられている。これらの導波路の具体的な構造の例については後述する。なお、部分アレイの数、および各部分アレイに含まれるアンテナ素子180の数については、用途に応じて適宜調整可能である。また、用途によっては単数のアンテナ素子180を備えるアンテナ装置を構成してもよい。
【0041】
図2Bに示すように、本実施形態における部分アレイ11〜14は、X方向(第1の方向)について、最小冗長アレイ(minimum redundancy array)を構成する。すなわち、部分アレイ11〜14は、これらの中から任意に選択された2つの部分アレイのX方向における間隔(すなわち中心間距離)の冗長性が最小になるように配置されている。より具体的には、部分アレイ13と部分アレイ14との間隔をdとすると、部分アレイ11と部分アレイ12との間隔は2d、部分アレイ12と部分アレイ13との間隔は3d、部分アレイ12と部分アレイ14との間隔は4d、部分アレイ11と部分アレイ13との間隔は5d、部分アレイ11と部分アレイ14との間隔は6dである。このように、部分アレイ11〜14から任意に選択された2つの部分アレイの間隔は、いずれも間隔dの整数倍であり、かつ、間隔の重複が最小限に抑えられている。このような最小冗長アレイの構成によれば、複数のアンテナ素子180を受信アンテナとして用いた場合に、部分アレイの数が少ない場合でも、高い空間解像度を実現し易い。
【0042】
各アンテナ素子180は、スロット112と、一対の側壁160と、一対のリッジ115とを有する。スロット112は、導電部材110に穿たれた、所定形状を有する孔である。本実施形態では、一例として、H形状の複数のスロット112が導電部材110に設けられているが、スロット112の形状は、電磁波の放射または取り込みが可能である限り、任意である。一対の側壁160および一対のリッジ115は、導電部材110から突出し、少なくとも表面に導電性を有する。
【0043】
一対の側壁160は、X方向(第1の方向)に沿って並ぶ。一対のリッジ115は、Y方向(第2の方向)に沿って並ぶ。X方向において、一対の側壁160は第1の間隙を介して対向する。Y方向において、一対のリッジ115の端面は第2の間隙を介して対向する。各リッジ115の端面は、各リッジ115の端部にあるXZ面に実質的に平行な面であり、対応するスロット112の中央部の縁に繋がっている。一対のリッジ115の端部およびそれらの間の間隙(第2の間隙)は、一対の側壁160の間に位置する。つまり、第1の間隙と第2の間隙とは、部分的に重なっている。なお、この例において、各リッジ115の端面は平面状であるが、端面は凸面または凹面などの曲面状であってもよい。
【0044】
本実施形態では、一対の側壁160および一対のリッジ115は、導電部材110と一体的に形成されている。言い換えれば、導電部材110と、その上の複数対の側壁160および複数対のリッジ115のそれぞれは、単一構造体の一部である。リッジ115および側壁160の少なくとも一方は、導電部材110とは異なる部材であってもよい。その場合、それらのリッジ115および側壁160は、導電部材110上に配置され、導電部材110によって支持される。この場合もまた、リッジ115および側壁160は導電性を有する部材を用いて形成される。
【0045】
図2Aに示すように、第1導電部材110は、正面側に第1導電性表面110aを有し、背面側に第2導電性表面110bを有する。第1導電部材110は、導電性表面110aおよび110bに開口する複数のスロット112を有する。上述のように、複数のスロット112の各々は、一対のリッジ115と一対の側壁160とを伴い、リッジホーンアンテナを構成する。
【0046】
一対の側壁160、および一対のリッジ115のそれぞれは、Y方向(第2の方向)に延びた構造を備え、正面側の第1導電性表面110aから突出する。一対の側壁160は、対応するスロット112の両側に位置する。一対の側壁160は、X方向(第1の方向)に並び、各々がY方向(第2の方向)に沿って延びた構造を備える。なお、本実施形態では第1の方向と第2の方向とが互いに直交しているが、90度とは異なる角度で交差していてもよい。一対のリッジ115は、導電性表面110aに垂直なZ方向(第3の方向)から見た場合に、対応するスロット112の中央部に重なる間隙を介して互いに対向する端面をそれぞれ有する。一対のリッジ115の各々は、Y方向に沿って延びている。第3の方向から見た場合、一対のリッジ115の各々の一端は、スロット112の内側に向かって突出している。各スロット112の内表面は、Y方向に沿った間隔が局部的に縮小している互いに対向する2つの面を中央部に有する。一対のリッジ115の端面は、当該2つの面にそれぞれ繋がる。当該2つの面の間隔、および一対のリッジ115の端面の間隔は、外部空間に向かうに従って拡大する。本実施形態では、各側壁160の第1導電性表面110aから測った高さが各リッジ115の第1導電性表面110aから測った高さよりも高い。スロット112の内部、および一対のリッジ115の端面の間の空間に、外部空間に繋がる導波路が規定される。この導波路は、Z方向に延び、第1導電部材110の背面側の他の導波路に接続される。
【0047】
本実施形態における各スロット112の開口は、Y方向に延びる一対の縦部分と、一対の縦部分の中央部に繋がりX方向(第1の方向)に延びる横部分とを有するH形状を有する。一対の側壁160は、縦部分に沿って隣接する位置に配置されている。横部分は、一対のリッジ115の端面の間に位置する。すなわち、第2の間隙は、スロット112の横部分の内側の空間に接続されている。一対の側壁160の間の第1の間隙も、スロット112の内側の空間に接続されている。このように、本実施形態においては、Z方向から見た場合に、一対のリッジ115の端面の間の第2の間隙は、スロット112の横部分に重なり、一対の側壁160は、一対の縦部分にそれぞれ隣接する。
【0048】
部分アレイ13におけるリッジ115と、部分アレイ14におけるリッジ115とは、X方向において隣り合っている。X方向において隣り合うリッジ115の基部は、第1導電部材110の底面110dに接続されている。Y方向において隣り合う側壁160の基部もまた、第1導電部材110の底面110dに接続されている。底面110dは、第1導電性表面110aの一部である。この例において、底面110dは平坦であるが、凹面であってもよい。この例のように、複数のスロット112が、X方向(第1の方向)において隣り合う第1のスロットと第2のスロットとを含む場合、第1のスロットに繋がる一対のリッジの一方の基部と、第2のスロットに繋がる一対のリッジの一方の基部との間の部分は、平坦面または凹面であってもよい。底面110dは凸面であってもよいが、その場合、凸面の高さは、側壁160および周壁170のいずれの高さの半分よりも低くなるように設計される。言い換えれば、側壁160とリッジ115との間には、一定の広がりの空間が確保される。そのような空間を確保することにより、各アンテナ素子180、およびそれらのアンテナ素子180を含むアンテナアレイの帯域幅を広く確保することが可能である。
【0049】
本実施形態において、各アンテナ素子180における一対の側壁160は、各アンテナ素子180が放射あるいは受信する電磁波の電界強度分布を、Y方向に広げる作用を有する。或いは、電界の強度が極大を示す位置を、Y方向において複数個所に分裂させる効果を奏する。そのような特性を有するアンテナ素子180は、様々な用途に利用され得る。その中でも、本実施形態のようなアレイアンテナ10に用いた場合、特に有用である。例えば、グレーティングローブの影響を低減させるなどの好ましい効果を得ることができる。
【0050】
図2Bに示す例において、部分アレイ13と部分アレイ14との間隔dは、例えばλo/2に設定され得る。λoは、アレイアンテナ10の動作周波数帯域における中心周波数の電磁波の自由空間波長である。この場合、部分アレイ13と部分アレイ14のX方向におけるピッチはλo/2である。他方、部分アレイ13および部分アレイ14の各々において、Y方向に隣り合う任意の2つのアンテナ素子180のピッチはλoである。つまり、X方向において隣接する2つの部分アレイ13、14における2つのアンテナ素子180の間隔は、部分アレイ13内または部分アレイ14内でY方向において隣接する2つのアンテナ素子180の間隔よりも短い。このように、本実施形態における複数のスロット112は、第1のスロットと、第1のスロットからX方向に第1の間隔を空けて位置する第2のスロットと、第1のスロットからY方向に、第1の間隔よりも大きい第2の間隔を空けて位置する第3のスロットとを含む。
【0051】
上記の例のように、個々のアンテナ素子180が自由空間波長λo以上の間隔で配置される場合、Y方向において強いグレーティングローブが生じやすい。しかしながら、本実施形態によるアレイアンテナ10は、個々のアンテナ素子180がY方向に延びる一対の側壁160を伴うため、電界の強度が極大を示す位置がY方向に拡がる、あるいは電界の集中度が緩和される。その結果、グレーティングローブの強度も低下する。
【0052】
1つの導波路に沿って配置された複数のアンテナ素子180に電磁波を給電する場合、一般にアンテナ素子180の配置間隔には制約が加わり、λo未満の間隔で配置することは必ずしも容易ではない。その場合、グレーティングローブの発生を回避することはできない。しかし、各アンテナ素子180として、本実施形態のような一対の側壁160を伴うリッジホーンを用いれば、グレーティングローブの強度を低下させることができる。
【0053】
本実施形態におけるアレイアンテナ10は、複数のアンテナ素子180を囲む導電性の周壁170を有する。周壁170は、正面側の第1導電性表面110aから突出する。
図2Aに示すように、周壁170は、Y方向に延びる4つの導電壁170yと、X方向に延びる2つの導電壁170xとを含む。
【0054】
部分アレイ11および12のそれぞれに含まれるY方向に並ぶ4つのアンテナ素子180は、周壁170が備える導電壁170xおよび170yによって囲まれている。部分アレイ11および12における各アンテナ素子180の一対の側壁160の両側に、間隙を隔てて一対の導電壁170yが位置している。部分アレイ11と部分アレイ12との間の導電壁170yは、部分アレイ11と部分アレイ12のそれぞれを囲む周壁の一部として共用されている。
【0055】
部分アレイ13および14に含まれる複数のアンテナ素子180は、まとめて周壁170で囲まれている。本実施形態のアレイアンテナ10においては、電磁波のY方向の指向性はリッジ115と側壁160とで調整され得る。これに対して、電磁波のX方向の指向性は、リッジ115および側壁160に加え、周壁170も含めて調整され得る。周壁170を配置することで、X方向における指向性の調節が容易になり得る。
【0056】
一対のリッジ115の各々は、端面に交差しY方向に沿って延びる頂面を有する。本実施形態における各リッジ115の頂面、すなわち+Z側の上端面には、段差が設けられている。リッジ115の頂面の導電性表面110aからの高さは、段差を介して、スロット112の中央に近づくにつれて、低くなる。すなわち、頂面の導電性表面110aからの高さは、端面から離れた位置において、端面に近接する位置よりも高い。段差に代えて、傾斜面を採用してもよい。このように、各リッジ115の頂面は、導電性表面110aから測った高さが、端面に近づくにつれて連続的または段階的に低くなる部位を含み得る。
【0057】
図3Aは、部分アレイ11および12の一部を示す拡大図である。
図3Aには、部分アレイ11を構成するアンテナ素子と、部分アレイ12を構成するアンテナ素子が示されている。見やすくするために、底面110dの色と、底面110dから突出している部分の色とを相違させている。すなわち、+Z側から−Z方向に沿って見たとき、相対的に薄い色が付された底面110dは、相対的に濃い色が付された、底面110dから突出している部分の面よりも、奥側に位置する。
【0058】
図3Aにおいて、右側のスロット112の左側(−X側)に位置する側壁および導電壁(周壁170の一部)を、それぞれ「側壁160a」および「導電壁170a」とし、スロット112の右側(+X側)に位置する側壁および導電壁を「側壁160b」および「導電壁170b」とする。この例において、側壁160aの長さと側壁160bの長さとは同じである。
【0059】
スロット112の各縦部分は、縁が曲線である両端部と、両端部の間の直線部分とから構成される。この例において、Y方向に関し、スロット112の縦部分の直線部分の長さは、側壁160aおよび160bの長さと概ね同じまたはより長い。また、側壁160aと導電壁170aとの間、および、側壁160bと導電壁170bとの間には間隙が存在し、底面110dの一部が広がっている。この例のように、各アンテナ素子180の一対の側壁160aおよび160bの両側に、間隙を隔ててそれぞれ位置する一対の導電壁170aおよび170bが設けられていてもよい。
【0060】
図3Bは、部分アレイ13および14の一部を示す拡大図である。
図3Bには、部分アレイ13を構成するアンテナ素子と、部分アレイ14を構成するアンテナ素子とが示されている。
図3Aと同じく、見やすくするために、底面110dの色と、底面110dから突出している部分の色とを相違させている。底面110dには相対的に薄い色が付され、底面110dから突出している部分の面は相対的に濃い色が付されている。
【0061】
この例において、X方向に並ぶ2つのアンテナ素子の間には、周壁はない。また、図中のX方向に沿って配置されている3つの側壁160a、160bおよび160cのうち、中央の側壁160bは、2つのアンテナ素子で共有されている。すなわち、側壁160bは、スロット112aを有するアンテナ素子の一対の側壁のうち、スロット112b側の側壁として機能し、かつ、スロット112bを有するアンテナ素子の一対の側壁のうち、スロット112a側の側壁として機能する。
図3Aの例とは異なり、周壁が備える導電壁を介さずに2つのアンテナ素子が隣接している。この違いによる指向性の差を調節するために、側壁160a〜160cの長さは、各スロット112の縦部分の直線部分よりも短い。
【0062】
図4は、
図2Bに示すA−A線に沿った断面図である。図示されるように、スロット112は、導電部材110を貫通する孔である。側壁160は、スロット112の+Z側における開口から、スロット112の内表面を延長して延びる壁であるといえる。周壁170は、側壁160の間、もしくは側壁160の外側に位置する壁である。本実施形態における各アンテナ素子180における一対の側壁160の各々は、スロット112の内表面に平坦に繋がる側面を有する。言い換えれば、一対の側壁160の各々は、スロット112の内表面に繋がり連続した一つの面を成す側面を有する。各側壁160は、段差を介してスロット112の内表面に繋がっていてもよい。
【0063】
本実施形態では、
図2Aおよび
図2Bに示すように、周壁170が複数のアンテナ素子180を囲んでいる。しかし、周壁170が複数のアンテナ素子180を完全に囲むことは必須ではない。また、周壁170は、不要であれば除去してもよい。
【0064】
図5Aは、本実施形態における各スロット112の形状を説明するための図である。本実施形態における各スロット112は、一対の縦部分112Lおよび一対の縦部分112Lを繋ぐ横部分112TからなるH形状を有するH型スロットである。横部分112Tは、一対の縦部分112Lにほぼ垂直であり、一対の縦部分112Lのほぼ中央部同士を繋いでいる。スロットの形状およびサイズは、高次の共振が起こらず、かつ、スロット112のインピーダンスが小さくなり過ぎないように、その形状およびサイズが決定される。上記条件を満たすために、H形状の中心点(横部分112Tの中心点)から端部(縦部分112Lのいずれかの端部)までの、横部分112Tおよび縦部分112Lに沿った長さの2倍の寸法をLとして、λo/2<L<λo、例えば約λo/2に設定される。これに基づいて、横部分112Tの長さ(図中において矢印で示す長さ)を例えばλo/2未満にできる。
【0065】
各スロット112は、
図5Aに示すようなH型スロットに限らず、H型以外の複合スロットであってもよい。複合スロットとは、一対の縦部分および一対の縦部分を繋ぐ横部分からなる形状を有するスロットを意味する。複合スロットには、横部分が一対の縦部分の中心間を繋ぐH型スロットの他に、横部分が一対の縦部分の端部同士を繋ぐZ型スロットなどがある。
【0066】
図5Bから
図5Dは、H型スロット以外の複合スロットの例を示している。いずれのスロットも、一対の縦部分112Lと、横部分112Tとを有する。中央に位置する横部分112Tが延びる方向が第1の方向に該当する。このような形状のスロットを用いることにより、横部分112Tの長さ方向のスロット間隔を短縮することができる。
【0067】
図5Bは、横部分112Tおよび横部分112Tの両端から延びる一対の縦部分112Lを有するZ型スロットの例を示している。一対の縦部分112Lの横部分112Tから延びる方向は横部分112Tにほぼ垂直であり、互いに逆である。横部分112Tの一端と、一方の縦部分112Lの一端とが繋がり、横部分112Tの他端と、他方の縦部分112Lの一端とが繋がっている。このような形状は、アルファベットの「Z」または反転した「Z」の形状に類似するため、「Z形状」と称することがある。この例でも横部分112Tの長さ(図中において矢印で示す長さ)を、例えばλo/2未満にできる。
【0068】
図5Cおよび
図5Dは、それぞれスロットに凸部112Dが付与されたスロットの例を示している。このような形状のスロットを用いた場合であっても、同様に機能し得る。特に、
図5Cの例では、スロット112に隣接する一対の側壁160に凹部が設けられ、その凹部がスロット112の凸部112Dと連続していてもよい。
【0069】
図6は、第2導電部材120の正面側の構造の一例を示す図である。第2導電部材120は、正面側に第3導電性表面120aを有する。第3導電性表面120aは、第1導電部材110の第2導電性表面110bに対向する。第3導電性表面120a上には、複数の導波部材122と、複数の導電性ロッド124とが配置されている。各導波部材122は、第3導電性表面120aから突出してY方向(第2の方向)に延びるリッジ状の構造を有する。各導波部材122は、第2導電性表面110bおよび複数のスロット112に対向する導電性の導波面(頂面)を有する。複数の導電性ロッド124は、導波部材122の各々の両側において第3導電性表面120aから突出し、第2導電性表面110bに対向する先端部を有する。複数の導電性ロッド124は、人工磁気導体として機能し、導波部材122に沿って伝搬する電磁波の外部への漏出を抑制する。このような構造により、前述のWRG導波路が、各導波部材122に沿って形成される。WRG導波路のより詳細な構成については後述する。
【0070】
この例における第2導電部材120は、複数の導波部材122の中央の位置に開口する複数の貫通孔126(ポート)を有する。貫通孔126は、第2導電部材120の背面側にある他の導波路に接続される。
【0071】
なお、本実施形態では、第2導電部材120上に4つの貫通孔126および4つの導波部材122が設けられているが、これらの数は、第1導電部材110上の部分アレイの数に依存する。部分アレイの数が1つである場合は、貫通孔126および導波部材122の数は1つであり得る。
【0072】
図7は、第3導電部材130の正面側の構造の一例を示す図である。第3導電部材130は、正面側に第3導電性表面130aを有する。第3導電性表面130aは、第2導電部材120の背面側の導電性表面に対向する。第3導電性表面130aの上にも、複数の導波部材132および複数の導電性ロッド134が設けられている。複数の導電性ロッド134は人工磁気導体として機能する。複数の導波部材132に沿って、WRG導波路が形成される。各導波部材132の一端132e1は、第2導電部材120における1つの貫通孔126に対向する。各導波部材132の他端132e2は、不図示のマイクロ波集積回路に接続される。マイクロ波集積回路が発生した高周波の信号波は、導波部材132に沿って伝搬し、第2導電部材120における貫通孔126を通過する。貫通孔126を通過した信号波は、第2導電部材120における導波部材122に沿って伝搬し、第1導電部材110における複数のスロット112を励振する。これにより、各スロット112から電磁波が放射される。受信時においては、逆の過程により、各スロット112から取り込まれた電磁波は、導波部材122および導波部材132に沿って伝搬し、マイクロ波集積回路によって受信される。
【0073】
第1導電部材110、第2導電部材120、第3導電部材130、およびこれらの上に配置された構造物の各々は、例えば樹脂などの絶縁材料の表面にメッキ層を形成することによって作製され得る。その場合、各導電部材は、当該導電部材の形状を規定する誘電体部材と、当該誘電体部材の表面を覆う導電材料のメッキ層とを含む。メッキ層を構成する導電性材料として、例えばニッケルまたは銅などの金属を用いることができる。各導電部材の全体が誘電体部材で形状が規定されている必要はない。各導電部材の一部分が、例えば金属部材で直接的に形状が規定されていてもよい。さらに、メッキ層に代えて、蒸着等によって導電体の層が形成されていてもよい。各導電部材は、鋳造または鍛造などの金属加工によって作製されてもよい。各導電部材は、金属板を加工して成形されてもよい。ダイキャスト法等によって各導電部材を成形してもよい。
【0074】
なお、
図6および
図7に示す導波路構造は一例に過ぎず、第1導電部材110における各スロット112に接続される導波路には様々な構造が考えられる。例えば、前述のWRG導波路とは異なる他の種類の導波路が各スロット112に接続されていてもよい。他の種類の導波路には、例えば中空導波管およびマイクロストリップラインが挙げられる。これらの種類の異なる複数の導波路を組み合わせて各スロット112とマイクロ波集積回路とを接続してもよい。
【0075】
以上の実施形態およびその変形例における構造は例示的なものに過ぎず、適宜変形可能である。例えば、各導電部材におけるスロット、側壁、リッジ、周壁、貫通孔、導電性ロッド、導波部材等のそれぞれの形状、個数、位置および寸法は、用途および要求される特性に応じて変更してもよい。
【0076】
[WRGの構成例]
次に、本開示の実施形態によるアンテナ装置が備え得るワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)の構成例をより詳細に説明する。WRGは、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられ得るリッジ導波路である。このようなリッジ導波路は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子を高密度に配置することが可能である。以下、そのような導波路構造の基本的な構成および動作の例を説明する。
【0077】
人工磁気導体は、自然界には存在しない完全磁気導体(PMC: Perfect Magnetic Conductor)の性質を人工的に実現した構造体である。完全磁気導体は、「表面における磁界の接線成分がゼロになる」という性質を有している。これは、完全導体(PEC: Perfect Electric Conductor)の性質、すなわち、「表面における電界の接線成分がゼロになる」という性質とは反対の性質である。完全磁気導体は、自然界には存在しないが、例えば複数の導電性ロッドの配列のような人工的な構造によって実現され得る。人工磁気導体は、その構造によって定まる特定の周波数帯域において、完全磁気導体として機能する。人工磁気導体は、特定の周波数帯域(伝搬阻止帯域)に含まれる周波数を有する電磁波が人工磁気導体の表面に沿って伝搬することを抑制または阻止する。このため、人工磁気導体の表面は、高インピーダンス面と呼ばれることがある。
【0078】
例えば、行および列方向に配列された複数の導電性ロッドによって人工磁気導体が実現され得る。このようなロッドは、ポストまたはピンと呼ばれることもある。これらの導波装置のそれぞれは、全体として、対向する一対の導電プレートを備えている。一方の導電プレートは、他方の導電プレートの側に突出するリッジと、リッジの両側に位置する人工磁気導体とを有している。リッジの上面(導電性を有する面)は、ギャップを介して、他方の導電プレートの導電性表面に対向している。人工磁気導体の伝搬阻止帯域に含まれる波長を有する電磁波(信号波)は、この導電性表面とリッジの上面との間の空間(ギャップ)をリッジに沿って伝搬する。
【0079】
図8は、このような導波装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。図示されている導波装置100は、対向して平行に配置された板形状(プレート状)の導電部材110および120を備えている。導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
【0080】
図9Aは、導波装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
図9Aに示されるように、導電部材110は、導電部材120に対向する側に導電性表面110bを有している。導電性表面110bは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110bは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110bは平面である必要は無い。
【0081】
図10は、わかり易さのため、導電部材110と導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波装置100では、
図8および
図9Aに示したように、導電部材110と導電部材120との間隔は狭く、導電部材110は、導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
【0082】
図8から
図10は、導波装置100の一部分のみを示している。導電部材110、120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、実際には、図示されている部分の外側にも拡がって存在する。導波部材122の端部には、前述のように、電磁波が外部空間に漏洩することを防止するチョーク構造が設けられる。チョーク構造は、例えば、導波部材122の端部に隣接して配置された導電性ロッドの列を含む。
【0083】
再び
図9Aを参照する。導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110bに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一または実質的に同一の平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも上面および側面に沿って拡がる導電層があればよい。この導電層はロッド状構造物の表層に位置してもよいが、表層が絶縁塗装または樹脂層からなり、ロッド状構造物の表面には導電層が存在していなくてもよい。また、導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導電体によって電気的に接続されていればよい。導電部材120の導電性を有する層は、絶縁塗装や樹脂層で覆われていてもよい。言い換えると、導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、導電部材110の導電性表面110bに対向する凹凸状の導電層を有していればよい。
【0084】
導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図10からわかるように、この例における導波部材122は、導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なる値を有していてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110bに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要は無く、導電部材110の導電性表面110bに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0085】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110bとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波装置100内を伝搬する電磁波(信号波)の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の幅、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110bとの間隙の大きさによって調整され得る。
【0086】
次に、
図11を参照しながら、各部材の寸法、形状、配置等の例を説明する。
【0087】
図11は、
図9Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。導波装置は、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。本明細書において、導電部材110の導電性表面110bと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図11に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置等の例は、以下のとおりである。
【0088】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0089】
(2)導電性ロッドの基部から導電部材110の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110bまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110bとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0090】
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110bまでの距離は、導電部材110と導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8934mmとなるので、導電部材110と導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さく設計される。導電部材110と導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、導電部材110と導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、導電部材110と導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、導電部材110および/または導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していてもよい。他方、導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0091】
図9Aに示される例において、導電性表面120aは平面であるが、本開示の実施形態はこれに限られない。例えば、
図9Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であってもよい。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状をもつ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。このような構造であっても、導電性表面110bと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、
図9Bに示す装置は、本開示の実施形態における導波装置として機能し得る。
【0092】
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110bまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110bとの間を電磁波が往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。なお、複数の導電性ロッド124のうち、少なくとも導波部材122と隣り合うものについては、先端が導電性表面110bとは電気的には接触していない状態にある。ここで、導電性ロッドの先端が導電性表面に電気的に接触していない状態とは、先端と導電性表面との間に空隙がある状態、あるいは、導電性ロッドの先端と導電性表面とのいずれかに絶縁層が存在し、導電性ロッドの先端と導電性表面が絶縁層を間に介して接触している状態、のいずれかを指す。
【0093】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110bとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0094】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要は無く、単純な規則性を示さずに分散して配置されていてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、導電部材120上の位置に応じて変化していてよい。
【0095】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要は無く、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0096】
各導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、各導電性ロッド124は、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0097】
導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110bと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λo/4に設定され得る。
【0098】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλo/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0099】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110bとの距離がλm/2以上となるからである。
【0100】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110bとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110bとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離L1はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、距離L1を、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0101】
導電性表面110bと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110bと導電性ロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)技術を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0102】
次に、導波部材122、導電部材110、120、および複数の導電性ロッド124を有する導波路構造の変形例を説明する。以下の変形例は、本開示の各実施形態におけるいずれの箇所のWRG構造にも適用され得る。
【0103】
図12Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。導電部材110および導電部材120も同様に、導波部材122が位置する側の表面(導電性表面110b、120a)のみが導電性を有し、他の部分は導電性を有していない。このように、導波部材122、導電部材110、120の各々は、全体が導電性を有していなくてもよい。
【0104】
図12Bは、導波部材122が導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。この例では、導波部材122は、導電部材110と導電部材とを支持する支持部材(例えば、筐体の内壁等)に固定されている。導波部材122と導電部材120との間には間隙が存在する。このように、導波部材122は導電部材120に接続されていなくてもよい。
【0105】
図12Cは、導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、相互に導電体で接続されている。一方、導電部材110は、金属などの導電性材料で構成されている。
【0106】
図12Dおよび
図12Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110c、120bを有する構造の例を示す図である。
図12Dは、導体である金属製の導電部材の表面を誘電体の層で覆った構造の例を示す。
図12Eは、導電部材120が、樹脂などの誘電体製の部材の表面を、金属などの導体で覆い、さらにその金属の層を誘電体の層で覆った構造を有する例を示す。金属表面を覆う誘電体の層は樹脂などの塗膜であってもよいし、当該金属が酸化する事で生成された不動態皮膜などの酸化皮膜であってもよい。
【0107】
最表面の誘電体層は、WRG導波路によって伝播される電磁波の損失を増やす。しかし、導電性を有する導電性表面110b、120aを腐食から守ることができる。また、直流電圧や、WRG導波路によっては伝播されない程度に周波数の低い交流電圧の影響を遮断することができる。
【0108】
図12Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、導電部材110の導電性表面110bのうち、導波面122aに対向する部分が、導波部材122の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図11に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。
【0109】
図12Gは、
図12Fの構造において、さらに、導電性表面110bのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図11に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。なお、導電性表面110bの一部が突出する構造に代えて、一部が窪む構造であってもよい。
【0110】
図13Aは、導電部材110の導電性表面110bが曲面形状を有する例を示す図である。
図13Bは、さらに、導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。これらの例のように、導電性表面110b、120aは、平面形状に限らず、曲面形状を有していてもよい。曲面状の導電性表面を有する導電部材も、「板形状」の導電部材に該当する。
【0111】
上記の構成を有する導波装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110bとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110bとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって電気的に接続する必要もない。
【0112】
図14Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110bとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
図14Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110bおよび導波面122aに対して垂直である。
【0113】
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110bとの間隙を伝搬する。
図14Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、
図14Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
【0114】
図14Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
【0115】
図14Bは、参考のため、中空導波管730の断面を模式的に示している。
図14Bには、中空導波管730の内部空間723に形成される電磁界モード(TE
10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管730の内部空間723の幅は、波長の半分よりも広く設定されなければならない。すなわち、中空導波管730の内部空間723の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
【0116】
図14Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
【0117】
図14Dは、参考のため、2つの中空導波管730を並べて配置した導波装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管730は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管730を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間723の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管730の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
【0118】
これに対して、人工磁気導体を備える導波装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアンテナアレイへの給電に好適に用いられ得る。
【0119】
図15Aは、上記のような導波路構造を利用したアンテナ装置200の構成の一部を模式的に示す斜視図である。
図15Bは、このアンテナ装置200におけるX方向に並ぶ2つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。このアンテナ装置200においては、第1導電部材110が、X方向およびY方向に配列された複数のスロット112を有している。この例では、複数のスロット112は2つのスロット列を含み、各スロット列は、Y方向に等間隔に並ぶ6個のスロット112を含んでいる。第2導電部材120には、Y方向に延びる2つの導波部材122が設けられている。各導波部材122は、1つのスロット列に対向する導電性の導波面122aを有する。2つの導波部材122の間の領域、および2つの導波部材122の外側の領域には、複数の導電性ロッド124が配置されている。これらの導電性ロッド124は、人工磁気導体を形成している。
【0120】
各導波部材122の導波面122aと、導電部材110の導電性表面110bとの間の導波路には、不図示の送信回路から電磁波が供給される。Y方向に並ぶ複数のスロット112のうちの隣接する2つのスロット112の中心間の距離は、例えば、導波路を伝搬する電磁波の波長と同じ値に設計される。これにより、Y方向に並ぶ6個のスロット112から、位相の揃った電磁波が放射される。
【0121】
図15Aおよび
図15Bに示すアンテナ装置200は、複数のスロット112の各々をアンテナ素子(放射素子とも称する。)とするアンテナアレイである。このようなアンテナ装置200の構成によれば、アンテナ素子間の中心間隔を、例えば導波路を伝搬する電磁波の自由空間における波長λoよりも短くすることができる。複数のスロット112には、ホーンが設けられ得る。ホーンを設けることで、放射特性または受信特性を向上させることができる。
【0122】
図16は、スロット112毎にホーン114を有するアンテナ装置200の構造の一部を模式的に示す斜視図である。このアンテナ装置200は、二次元的に配列された複数のスロット112および複数のホーン114を有する導電部材110と、複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uが配列された導電部材120とを備える。
図16は、導電部材110、120の相互の間隔を極端に離した状態を示している。導電部材110における複数のスロット112は、X方向およびY方向に配列されている。
図16には、導波部材122Uの各々の中央に配置されたポート(貫通孔)145Uも示されている。導波部材122Uの両端部に配置され得るチョーク構造の図示は省略されている。本実施形態では、導波部材122Uの数は4個であるが、導波部材122Uの数は任意である。本実施形態では、各導波部材122Uは、中央のポート145Uの位置で2つの部分に分断されている。
【0123】
図17Aは、
図16に示す16個のスロットが4行4列に配列されたアンテナ装置200をZ方向からみた上面図である。
図17Bは、
図17AのC−C線断面図である。このアンテナ装置200における導電部材110は、複数のスロット112にそれぞれ対応して配置された複数のホーン114を備えている。複数のホーン114の各々は、スロット112を囲む4つの導電壁を有している。このようなホーン114により、指向性を向上させることができる。なお、各ホーン114は、
図16に示す構造に代えて、例えば
図1に示すように、一対のリッジと、一対の側壁を有する構造を有していてもよい。そのような構造によれば、前述の実施形態と同様、グレーティングローブの影響を抑制することができる。
【0124】
図示されるアンテナ装置200においては、スロット112に直接的に結合する第1の導波部材122Uを備える第1の導波装置100aと、第1の導波装置100aの導波部材122Uに結合する第2の導波部材122Lを備える第2の導波装置100bとが積層されている。第2の導波装置100bの導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lは、導電部材130上に配置されている。第2の導波装置100bは、基本的には、第1の導波装置100aの構成と同様の構成を備えている。
【0125】
図17Aに示すように、導電部材110は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に直交する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット112を備える。複数の導波部材122Uの導波面122aは、Y方向に延びており、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ4つのスロットに対向している。この例では導電部材110は、4行4列に配列された16個のスロット112を有しているが、スロット112の数および配列はこの例に限定されない。各導波部材122Uは、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ全てのスロットに対向している例に限らず、Y方向に隣接する少なくとも2つのスロットに対向していればよい。X方向に隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、例えば波長λoよりも短く設定され、より好ましくは、波長λo/2よりも短く設定される。
【0126】
図17Cは、第1の導波装置100aにおける導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。
図17Dは、第2の導波装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図に示すように、第1の導波装置100aにおける導波部材122Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2の導波装置100bにおける導波部材122Lは、分岐部および屈曲部の両方を有している。
【0127】
第1の導波装置100aにおける導波部材122Uは、導電部材120が有するポート145Uを通じて第2の導波装置100bにおける導波部材122Lに結合する。言い換えると、第2の導波装置100bの導波部材122Lを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第1の導波装置100aの導波部材122Uに達し、第1の導波装置100aの導波部材122Uを伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬してきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する第1の導波装置100aの導波部材122Uに結合し、第1の導波装置100aの導波部材122Uを伝搬する。第1の導波装置100aの導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第2の導波装置100bの導波部材122Lに達し、第2の導波装置100bの導波部材122Lに沿って伝搬することも可能である。
【0128】
図17Dに示すように、第2の導波装置100bの導波部材122Lは、1本の幹状部分と、幹状部分から分岐した4つの枝状部分を有する。導波部材122Lの幹状部分は、Y方向に延びており、ポート145Lに接続されている。ポート145Lは、任意の導波路を介して、高周波信号を生成または受信する電子回路290に接続される。
【0129】
電子回路290は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路290は、例えば、導電部材130の背面側(
図17Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。そのような電子回路は、例えば、ミリ波を生成または受信するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)などのマイクロ波集積回路を含み得る。電子回路290は、マイクロ波集積回路に加えて、他の回路、例えば、信号処理回路をさらに含んでいてもよい。そのような信号処理回路は、例えばアンテナ装置を備えたシステムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。電子回路290は、通信回路を含んでいてもよい。通信回路は、アンテナ装置を備えた通信システムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。
【0130】
マイクロ波集積回路は、高周波信号を生成または処理するように構成される。マイクロ波集積回路は、送信機および受信機の少なくとも一方として機能する。電子回路290は、送信機に接続されたA/Dコンバータ、および受信機に接続されたD/Aコンバータの一方または両方を備えていてもよい。電子回路290は、さらに、A/DコンバータおよびD/Aコンバータの一方または両方に接続された信号処理回路を備えていてもよい。信号処理回路は、デジタル信号のエンコードおよびデジタル信号のデコードの少なくとも一方を実行する。そのような信号処理回路は、アンテナ装置が送信する信号の生成、またはアンテナ装置によって受信された信号の処理を行う。
【0131】
なお、電子回路と導波路とを接続する構造は、例えば、米国特許出願公開第2018/0351261、米国特許出願公開第2019/0006743、米国特許出願公開第2019/0139914、米国特許出願公開第2019/0067780、米国特許出願公開第2019/0140344、および国際特許出願公開第2018/105513に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0132】
図17Aに示される導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図17Cに示される導電部材120、導波部材122U、および導電性ロッド124Uの全体を含む層を「励振層」と呼び、
図17Dに示される導電部材130、導波部材122L、および導電性ロッド124Lの全体を含む層を「分配層」と呼んでもよい。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでもよい。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0133】
この例におけるアンテナアレイでは、
図17Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現されている。例えば、
図17Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
【0134】
図17Dに示される導波部材122Lは、ポート145Lに接続される1本の幹状部分と、幹状部分から分岐した4つの枝状部分を有する。4つの枝状部分の先端部の上面に対向して、4つのポート145Uがそれぞれ位置している。貫通孔212から導電部材120の4つのポート145Uまでの、導波部材122Lに沿って測った距離は、全て等しい。このため、導電部材130の貫通孔212から、導波部材122Lに入力された信号波は、導波部材122UのY方向における中央に配置された4つのポート145Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、導電部材120上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
【0135】
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。励振層および分配層における導波部材122Uおよび122Lのネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
【0136】
励振層、分配層を構成するに当たっては、導波路における様々の回路要素を利用する事ができる。それらの例は、例えば米国特許第10042045、米国特許第10090600、米国特許第10158158、国際特許出願公開第2018/207796、国際特許出願公開第2018/207838、米国特許出願公開第2019/0074569に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0137】
本開示におけるアンテナ装置は、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダ装置は、上述したいずれかの実施形態における導波装置を備えたアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続されたMMICなどのマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダ装置と、当該レーダ装置のマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。本開示の実施形態におけるアンテナ装置と、小型化が可能なWRG構造とを組み合わせた場合、従来の中空導波管を用いた構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を小さくすることができる。このため、当該アンテナ装置を搭載したレーダシステムを、狭小な場所にも容易に搭載することができる。レーダシステムは、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。信号処理回路は、例えば、マイクロ波集積回路によって受信された信号に基づき、到来波の方位を推定する処理等を行う。信号処理回路は、例えば、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などのアルゴリズムを実行して、到来波の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成され得る。信号処理回路は、さらに、公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成されていてもよい。
【0138】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に1つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されてもよい。例えば、信号処理回路の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路として機能し得る。
【0139】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、無線通信システムにも利用され得る。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態における導波装置を含むアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続された通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。送信回路は、例えば、送信すべき信号を表す信号波をアンテナ装置内の導波路に供給するように構成され得る。受信回路は、アンテナ装置を介して受信された信号波を復調してアナログまたはデジタルの信号として出力するように構成され得る。
【0140】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。アンテナ装置はまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
【0141】
WRG構造を有するスロットアレイアンテナを備えたレーダシステム、通信システム、および各種監視システムの応用例が、例えば米国特許第9786995号明細書および米国特許第10027032号に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。本開示のスロットアレイアンテナは、これらの文献に開示された各応用例に適用することができる。