特開2020-110178(P2020-110178A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-110178(P2020-110178A)
(43)【公開日】2020年7月27日
(54)【発明の名称】キャッサバ発酵残物の利用方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/08 20060101AFI20200626BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20200626BHJP
   A23K 10/12 20160101ALI20200626BHJP
   A23K 10/14 20160101ALI20200626BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20200626BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20200626BHJP
【FI】
   C12P7/08
   A23K10/37
   A23K10/12
   A23K10/14
   A23K10/16
   A23K10/18
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-52188(P2020-52188)
(22)【出願日】2020年3月24日
(62)【分割の表示】特願2015-156515(P2015-156515)の分割
【原出願日】2015年8月6日
(71)【出願人】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】501121277
【氏名又は名称】カセサート大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】村田 善則
(72)【発明者】
【氏名】杉田 毅
(72)【発明者】
【氏名】町田 雅志
(72)【発明者】
【氏名】牛若 智
(72)【発明者】
【氏名】ピラニー バイタノムサット
(72)【発明者】
【氏名】アンティカ ブーンダェング
(72)【発明者】
【氏名】ワルニー タナパセ
(72)【発明者】
【氏名】スコーン クーナウートリットリオン
(72)【発明者】
【氏名】ジラヤット ケムサワット
(72)【発明者】
【氏名】ダナイ ジャッタワ
【テーマコード(参考)】
2B150
4B064
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA08
2B150AB07
2B150AC24
2B150AC25
2B150AC26
2B150AD02
2B150AD21
2B150BA01
2B150BB01
2B150BB06
2B150BD01
2B150BD10
2B150BE03
2B150CA06
2B150CA14
2B150CE16
4B064AC03
4B064AH19
4B064CA06
4B064CA21
4B064CE01
4B064DA11
(57)【要約】
【課題】ミルク中の体細胞数を抑制する動物用飼料を提供する。
【解決手段】キャッサバ芋からでんぷんを搾取した後の滓であるキャッサバ残渣を、でんぷん分解酵素と微生物とでエタノール発酵し、得られたエタノール発酵物からエタノールを除去して、乳中の体細胞数を減少するキャッサバ発酵残物を得て、キャッサバ発酵残物を動物用飼料として用いる。ミルク中の体細胞数はミルクの品質の指標であり、品質の高いミルクを提供することが可能になる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャッサバ芋からでんぷんを搾取した後の滓であるキャッサバ残渣を、でんぷん分解酵素と微生物とでエタノール発酵し、
得られたエタノール発酵物からエタノールを除去して、乳中の体細胞数を減少するキャッサバ発酵残物を得て、
該キャッサバ発酵残物を動物用飼料として用いることを特徴とする、キャッサバ発酵残物の利用方法。
【請求項2】
前記キャッサバ残渣を飼料とした場合に比べて、前記乳中の体細胞数が減少する、請求項1に記載のキャッサバ発酵残物の利用方法。
【請求項3】
前記でんぷん未抽出のキャッサバを原料としてエタノール発酵して得られる残渣を飼料とした場合に比べて、前記乳中の体細胞数が減少する、請求項1に記載のキャッサバ発酵残物の利用方法。
【請求項4】
前記微生物が、クリベロミセス属微生物又はサッカロミセス属微生物である、請求項1〜3のいずれかに記載のキャッサバ発酵残物の利用方法。
【請求項5】
前記乳中の体細胞数が626000cells/mlより少ない、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャッサバ発酵残物の利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャッサバ芋のでんぷんを抽出した後に残ったキャッサバ残渣を原料とし、これをエタノール発酵してエタノールを除去した後に残ったキャッサバ発酵残物を、動物用飼料として有効活用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャッサバ芋を含め、でんぷんを含む作物は世界各地で重要な作物として栽培されており、でんぷんは、食用や工業原料として広く利用されている。例えば、トウモロコシでんぷんは、食用として利用されるほか、トウモロコシを原料としてエタノールを製造することが行われており、エタノールを抽出した残渣(トウモロコシDDGS:トウモロコシ醸造粕)を家畜用飼料として利用することが知られている(引用文献1)。
キャッサバ芋の場合、根茎に含まれるでんぷんを食用にするほか、でんぷんを抽出した後のキャッサバの残渣を原料として、エタノールを製造することが検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8399224号
【特許文献2】特開2014?14337号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたDDGSは、でんぷんを含むトウモロコシを醸造して得た醸造粕を開示するもので、トウモロコシからでんぷんを抽出した残渣を原料としてエタノール発酵して得られたものを開示するものではない。特許文献2は、でんぷんを抽出したキャッサバ残渣をエタノール発酵する技術であって、エタノール分離後の残渣の利用を開示するものではない。すなわち、キャッサバにおいては、これまで、エタノール抽出後の残渣を利用することは行われていない。
【0005】
本発明者らは、アミノ酸やビタミン等の栄養価がもともと乏しいでんぷん抽出後のキャッサバ残渣(以降、本願明細書では、単にキャッサバ残渣という。)を有効活用することを目的として、研究を進めたところ、キャッサバ残渣をでんぷん分解酵素と微生物とで発酵処理し、得られたキャッサバ残渣の発酵物からエタノールを除去して得られたキャッサバ発酵物の残渣(以後、「キャッサバ残渣DDGS」又は「キャッサバ発酵残物」という)には粗タンパク質含有量が豊富に含まれているだけでなく、キャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)を与えた乳牛のミルク中の白血球数が減少する知見を得て、キャッサバ発酵残物が家畜の病気等の予防に寄与することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、キャッサバ残渣を原料とした栄養価の高い動物又は魚類用飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動物用飼料であるキャッサバ残渣DDGSは、でんぷん抽出後のキャッサバ残渣を原料とするものであり、キャッサバ残渣をでんぷん分解酵素と微生物とで発酵処理した後、当該アルコールを除去した後に得られるもので、好ましくは、発酵処理後、液体成分を除去して得られるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、これまで利用価値のなかったキャッサバ残渣DDGSを栄養価の高い飼料として利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】キャッサバ残渣及びキャッサバDDGS(デンプンを抽出していないキャッサバをエタノール発酵し、エタノールを除去して得られた残渣)と比較した、本発明のキャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)を与えた乳牛のミルク生産量を示すグラフである。
図2】キャッサバ残渣及びキャッサバDDGSと比較した、本発明のキャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)を与えた乳牛のミルク中のラクトース含量を示すグラフである。
図3】キャッサバ残渣及びキャッサバDDGSと比較した、本発明のキャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)とを与えた乳牛のミルク中の体細胞数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
本発明で得られるキャッサバ残渣DDGSは、キャッサバ残渣をでんぷん分解酵素とクリベロミセス属微生物とで発酵処理し、得られた発酵物から液体成分を除去して製造することができる。
【0010】
キャッサバ残渣とは、キャッサバ芋からでんぷんを搾取した滓であり、搾取後の水分含有量は、通常、70重量%以上であるが、これに限定されるものではなく、水分含有量は、糖化発酵のためには、30重量%以上であればよい。
また、乾燥したキャッサバ残渣を使用してもよい。乾燥キャッサバ残渣を使用する場合は、水を加え、前述の水分値に調整すればよく、また、乾燥キャッサバをでんぷん搾取後の高水分含有のキャッサバ残渣に混合して使用してもよい。
【0011】
キャッサバ残渣は、そのまま発酵処理してもよいが、キャッサバ残渣に残存するでんぷんを糊化するため、発酵処理の前に加熱処理することが好ましい。加熱条件は、60℃以上で、5分以上行えばよい。加熱温度が60℃以下の場合、キャッサバ残渣に残存するでんぷんの糊化効率が低くなることがある。
加熱時間は、特に限定されるものではなく、加熱温度を考慮して適宜定めればよい。
【0012】
加熱処理後、キャッサバ残渣を冷却し、でんぷん分解酵素と微生物とで発酵処理する。でんぷん分解酵素による処理と発酵処理とは、別々に行ってもよいが、同時に行ってもよい。
【0013】
発酵処理に用いる微生物は、エタノール発酵に使用できる微生物であればよいが、酵母菌が好ましい。酵母菌として、具体的には、サッカロミセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はクリベロミセス属マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)を用いることができるが、栄養価の観点及び発酵処理におけるコンタミネーションを防止する観点から、サッカロミセス属セレビシエよりも温度が高い条件下でも生育及び発酵が可能な耐熱性酵母であるクリベロミセス属マーキシアナスが好ましい。
発酵条件は、使用する酵素及び微生物に応じ、適宜定めてよい。
【0014】
使用するアミラーゼ分解酵素は、特に限定されるものではなく、でんぷんを分解する酵素であればよく、例えばαアミラーゼ、グルコアミラーゼを挙げることができる。
キャッサバ残渣の粘性を下げるために、でんぷん分解酵素以外に、ペクチナーゼ、セルラーゼを併用してもよい。
【0015】
α?アミラーゼは、キャッサバ残渣1g当たり9×10?5U以上600U以下、好ましくは8×10?3U以上0.6U以下で添加する。グルコアミラーゼは、キャッサバ残渣1g当たり3×10?4U以上200U以下、好ましくは3×10?2U以上0.2U以下で添加する。
セルラーゼ分解酵素を用いる場合、添加量は、キャッサバ残渣1g当たり1×10?4U以上100U以下、で添加することが好ましい。
ペクチナーゼを用いる場合は、キャッサバ残渣1g当たり1×10?3U以上1000U以下、特に1×10?1U以上1U以下で添加することが好ましい。
【0016】
得られた発酵物に含まれるエタノール等の液体成分は、発酵物を圧搾あるいは加熱して、発酵物から液体を除去する操作により行えばよい。
【0017】
キャッサバ残渣DDGSは、粗タンパク質、ビタミン類を豊富に含むだけでなく、家畜の病気等の予防にも優れた効果を有するため、動物又は魚類用飼料として利用することができる。
【0018】
以上述べたように、これまで用途のなかったキャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)を動物又は魚類用飼料として利用することができる。
以下、いくつかの実施例を挙げてさらに説明する。
【実施例1】
【0019】
キャッサバ残渣(含水分率75%)1gを80℃で1時間加熱処理した。
ついで、1.0ユニットのセルラーゼ及び10ユニットのペクチナーゼ、5.5ユニットのα?アミラーゼ及び2.0ユニットのグルコアミラーゼを用い、加熱処理したキャッサバ残渣を37℃以上で酵素処理した。
【0020】
酵素処理後、クリベロミセス属マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)を加え、30℃で発酵処理を行った。表1に、キャッサバ残渣とキャッサバ残渣の発酵物とに含まれる粗タンパク質、ビタミン類の含有量を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
表1に示すように、キャッサバ残渣の発酵物は、キャッサバ残渣に比べ、粗タンパク質量、ビタミン類を豊富に含み、栄養分が高いことがわかる。
【0023】
得られたキャッサバ残渣の発酵物を圧搾して、エタノールを含む液体を除去してキャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)を製造した。
キャッサバ残渣、キャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)及び、でんぷん未抽出のキャッサバを原料としてエタノール発酵を行った後、エタノールを抽出して残った残渣(キャッサバDDGS)(Sunshine Biotech International Co.,Ltd製商品)を餌として乳牛に60日間与え、ミルクの生産量、ミルク中のラクトース含量及び、牛の健康状態を把握するため、ミルク中の白血球数と体細胞数とを調べた。
結果を図1から図3に示す。
図2のミルク中のラクトース含量は、ミルクの品質を示す指標であり、ラクトース含量は値が高いほど鮮度が高いことを示し、図3の体細胞数もミルクの品質を示す指標であるが、体細胞数が低いほど牛の健康状態が良い状況に保たれていることを意味する。
なお、グラフ横軸の記号「CP」はキャッサバ残渣、「FCP」はキャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)を示す。「DDGS」は、でんぷん未抽出のキャッサバを原料としてエタノール発酵を行った後、エタノールを抽出して残った残渣(Sunshine Biotech International Co.,Ltd製商品)を意味する。
本発明のキャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)を与えた場合、キャッサバ残渣(CP)又はでんぷん未抽出のキャッサバを原料としてエタノール発酵を行った後、エタノールを抽出して残った残渣(Sunshine Biotech International Co.,Ltd製商品)(DDGS)を餌とした場合に比べ、ミルクの生産量が高く、鮮度がよく、乳牛の健康状態を良い状態に保つことができ、キャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)が飼料として優れたものであることがわかる。
【実施例2】
【0024】
バナメイエビの餌として、キャッサバ残渣DDGS又はキャッサバ残渣を配合した飼料を用い(飼料成分を表2に示す)、エビの稚魚7匹を1ロットとして、それぞれの飼料について4ロットを4週間養殖した。
【0025】
【表2】
【0026】
養殖後のエビの個体重量は、キャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)配合飼料を用いた場合に増加する傾向がみられたほか、生存率に大きな相違がみられた。
生存率は、キャッサバ残渣を配合した飼料で64.3%であるのに対し、キャッサバ残渣DDGS(キャッサバ発酵残物)配合飼料では、75.0%と高くなっており、エビの総重量もキャッサバ残渣配合飼料が78.92gに対し、キャッサバ残渣DDGS配合飼料では、100.3gであった。
図1
図2
図3