【0016】
本実施形態では、特定の量の硫酸塩を含む酸化マグネシウム粉末を使用する。酸化マグネシウム粉末の硫酸塩の含有率(酸化マグネシウム粉末の質量基準)は、不溶化効果と強度発現性の両立及び原料コストの点から、SO
3換算で0.07〜6.73質量%であり、好ましくは0.08〜3.67質量%であり、より好ましくは0.09〜2.60質量%であり、更に好ましくは0.11〜2.00質量%である。具体的には、硫酸塩の含有率(SO
3換算)が0.07質量%未満の酸化マグネシウム粉末を使用した場合、強度発現性が不十分となるとともに原料コストが増大する。他方、硫酸塩の含有率(SO
3換算)が6.73質量%を超える酸化マグネシウム粉末を使用した場合、重金属類の不溶化効果が不十分となる。本実施形態で使用する酸化マグネシウム粉末としては、硫酸塩のうち、特に硫酸マグネシウム(MgSO
4)の含有率(SO
3換算)が上記範囲であることが好ましい。
【0024】
不溶化処理土の改良特性(固化性能)の指標となるコーン指数は、例えば1200kN/m
2以上(日本道路協会、ダンプトラックの走行に必要なコーン指数)であることが望ましい。なお、一般に、一軸圧縮強さ(qu)とコーン指数(qc)との間には、qc=(5〜10)qu(kN/m
2)の関係があるといわれていることから(固化処理工法研究会、技術資料 第4章設計)、不溶化処理土の一軸圧縮強さは240kN/m
2以上であることが望ましい。本実施形態の不溶化材は、不溶化処理土の固化性能を高める効果に優れることから、これを用いた不溶化方法によれば、不溶化処理土の一軸圧縮強さを、240kN/m
2以上まで高めることができる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明について実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
1.使用材料
〔原土〕
原土に砂岩を用いた。原土の性状を表1に示す。含水比は、JIS A 1203「土の含水比試験方法」に準拠して測定した。粒度は、原土を目開き75μmの篩上で水洗いし粗粒分を十分に洗い流した後、篩残留分の全量を110℃で1日間乾燥させ、得られた乾燥土を目開き2mm、425μm、75μmの篩を用いて分級することにより算出した。pHは、JGS 0211−2009「土懸濁液のpH試験方法」に準拠して測定した。
【0027】
【表1】
【0028】
〔試料土〕
表1に示す原土Aに、セレン酸ナトリウム(Na
2SeO
4、和光純薬工業社製)を溶解した水溶液を所定量添加し、ソイルミキサーを用いて90秒間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、さらに90秒間練り混ぜた。再度土を掻き落とし、90秒間練り混ぜた後、試料土をポリエチレン袋で密閉した状態で8日間養生し、試料土A(模擬汚染土)とした。試料土A(模擬汚染土)の性状を表2に示す。含水比は、原土と同様の方法で測定した。湿潤密度は、直径5cm、高さ10cmの型枠に試料土を充填し、充填された試料土の質量と型枠の容積から求めた。セレンの溶出量は、環境庁告示18号法に準拠して検液を作製し、検液の全セレンの濃度をJIS K 0102:2016「工業排水試験方法」に準拠して測定した。
【0029】
【表2】
【0030】
表1に示す原土Bに、蒸留水を所定量添加し、ソイルミキサーを用いて90秒間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、さらに90秒間練り混ぜた。再度土を掻き落とし、90秒間練り混ぜた後、試料土をポリエチレン袋で密閉した状態で1日間養生し、試料土Bとした。試料土Bの性状を表3に示す。含水比は、原土と同様の方法で測定した。湿潤密度は、試料土A(模擬汚染土)と同様の方法で測定した。
【0031】
【表3】
【0032】
〔酸化マグネシウム粉末〕
酸化マグネシウム粉末として、軽焼酸化マグネシウム粉末(宇部マテリアルズ株式会社製)及び硫酸マグネシウム無水和物(MgSO
4、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。軽焼酸化マグネシウム粉末の化学組成を表4に示す。また、硫酸マグネシウム無水和物の化学組成を表5に示す。この軽焼酸化マグネシウム粉末に、硫酸マグネシウム無水和物を所定量添加し、SO
3の含有率が異なる酸化マグネシウム粉末(不純物を含む模擬酸化マグネシウム粉末)を調製した。調製した酸化マグネシウム粉末の化学組成を表6に示す。なお、軽焼酸化マグネシウム粉末の強熱減量(ig.loss)は、試料を1000℃で恒量になるまで強熱したときの減量から求めた。軽焼酸化マグネシウム粉末中のSiO
2(不溶残分を含む)及びSO
3の含有率は、JIS R 9101:2018「せっこうの化学分析方法」を参考に測定した。すなわち、軽焼酸化マグネシウム粉末中のSiO
2(不溶残分を含む)の含有率は、試料を塩酸及び過塩素酸で溶かした後、加熱してSiO
2を脱水し、不溶性とした後、可溶分をろ過し、ろ紙上のSiO
2と不溶残分を強熱して質量をはかることにより測定した。軽焼酸化マグネシウム粉末中のSO
3の含有率は、試料に塩酸と水を加えて煮沸して可溶残分を溶かした後、ろ紙でろ過し、得られたろ液及び洗液に塩化バリウム溶液を加えて硫酸バリウムを沈殿させ、沈殿をろ過して強熱し、質量をはかることにより測定した。軽焼酸化マグネシウム粉末中のAl
2O
3、Fe
2O
3、CaO、及びMgOの含有率は、JIS K 8432:2017「酸化マグネシウム(試薬)」のアルカリ金属元素(Na、K)の試験方法を参考にして測定した。すなわち、試料に水と塩酸を加え加熱して溶かした後、Fe
2O
3を吸光光度法で測定し、Al
2O
3、CaO、MgOをICP発光分析法で測定した。硫酸マグネシウム無水和物の化学組成は、アルカリ融解−ICP発光分光分析法により測定した。酸化マグネシウム粉末の化学組成は、軽焼酸化マグネシウム粉末と硫酸マグネシウムの配合割合から算出した。
【0033】
【表4】
【0034】
【表5】
【0035】
【表6】
【0036】
〔塩化第一鉄〕
塩化第一鉄には、塩化第一鉄四水和物(FeCl
2・4H
2O、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0037】
〔不溶化材〕
表6に示す酸化マグネシウム粉末と塩化第一鉄を所定の比率で配合し、不溶化材を調製した。不溶化材の配合割合を表7に示す。
【0038】
【表7】
【0039】
2.試験方法
〔不溶化試験〕
表7に示す各種不溶化材を、試料土A(模擬汚染土)1m
3に対して35.7kg添加し、ソイルミキサーを用いて90秒間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、更に90秒間練り混ぜることにより、不溶化処理を行った(比較例1、実施例1〜6及び比較例2)。得られた不溶化処理土をポリエチレン袋で密閉した状態で20℃で1日養生した後、環境庁告示18号法に準拠して検液を作製した。検液の全セレンの濃度をJIS K 0102:2016「工業排水試験方法」に準拠して測定した。
【0040】
〔固化性能〕
表7に示す各種不溶化材を、試料土B1m
3に対して30.0kg添加し、ソイルミキサーを用いて90秒間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、更に90秒間練り混ぜることにより、不溶化処理を行った(比較例1、実施例1〜6及び比較例2)。得られた不溶化処理土を、直径5cm、高さ10cmの型枠に充填し、円柱供試体を作製し、20℃で1日密閉養生した後、JIS A 1216:2009「土の一軸圧縮試験」に準拠して、一軸圧縮強さを測定した。
【0041】
3.試験結果
不溶化処理土からのセレンの溶出量及び不溶化処理土の一軸圧縮強さを表8に示す。なお、セレンの溶出量が0.007mg/L以下に低減し、かつ一軸圧縮強さが240kN/m
2以上を満たした場合は○と判定し、前記以外の場合は×と判定した。なお、表8には参考例1として未処理土のセレン溶出量及び一軸圧縮強さの測定値を示した。
【0042】
【表8】
【0043】
表8に示すように、硫酸塩をSO
3換算で0.07〜6.73質量%含有する酸化マグネシウム粉末と塩化第一鉄とを含む不溶化材2〜9(実施例1〜6)は、硫酸塩含有率の多い酸化マグネシウム粉末と塩化第一鉄とを含む不溶化材8(比較例2)に比べ、セレンの不溶化効果が高く、硫酸塩含有率の少ない酸化マグネシウム粉末と塩化第一鉄とを含む不溶化材1(比較例1)に比べ、一軸圧縮強さが高くなっていることが分かる。その結果、セレンの溶出量が0.007mg/L以下に低減し、かつ、一軸圧縮強さが240kN/m
2以上を満たした。
【0044】
所定量の硫酸塩を含まない酸化マグネシウム粉末と塩化第一鉄とを含む不溶化材(比較例1)では、不溶化処理土の固化性能が不十分であった。そのため、不溶化材添加量を増やすことになり、結果として処理コストが高くなる。また、軽焼マグネシウム部分水和物と石膏とを含む不溶化材や、マグネシウム含有物質と塩化第一鉄等の還元性物質と石膏粉末及び炭酸カルシウム含有粉末等の補助材とを含む不溶化材では、石膏や炭酸カルシウム由来のカルシウムイオンにより、処理土の周辺環境(地下水等)のpH緩衝能が低下し、またセレンを含む重金属類の不溶化効果が低下する恐れがある。これに対し、上記実施例に係る不溶化材によれば、30〜40kg/m
3の添加量でセレンの溶出量を0.007mg/L以下に低減することができ、かつ一軸圧縮強さを240kN/m
2以上にまで高めることができる。