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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-112747(P2020-112747A)
(43)【公開日】2020年7月27日
(54)【発明の名称】光学素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20200626BHJP
   C03B 11/00 20060101ALI20200626BHJP
   G02B 1/118 20150101ALI20200626BHJP
【FI】
   G02B3/00 Z
   C03B11/00 E
   G02B1/118
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-5160(P2019-5160)
(22)【出願日】2019年1月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊矢
(72)【発明者】
【氏名】細谷 成紀
(72)【発明者】
【氏名】國定 照房
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009AA01
2K009DD15
2K009FF01
(57)【要約】
【課題】光学有効面以外の領域において、指向性が高い不要な反射光を抑制すると同時に、生産歩留まりの向上が両立可能なプレス成形で得られる光学素子の提供を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、レンズ面以外の領域に反射防止用粗面を備える光学素子であって、当該反射防止用粗面は、前記レンズ面以外の領域である当該光学素子の光軸に対して略垂直な状態で存在する平面の一部又は全部に設けるものであり、且つ、周期性をもって配列した複数の微細柱状突起からなり、当該微細柱状突起の配列ピッチが、使用平均波長をλとしたとき、0.2λからλの範囲であることを特徴とする反射防止領域付き光学素子等を採用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ面以外の領域に反射防止用粗面を備える光学素子であって、
当該反射防止用粗面は、前記レンズ面以外の領域である当該光学素子の光軸に対して略垂直な状態で存在する平面の一部又は全部に設けるものであり、且つ、周期性をもって配列した複数の微細柱状突起からなり、
当該微細柱状突起の配列ピッチが、使用平均波長をλとしたとき、0.2λからλの範囲であることを特徴とする反射防止領域付き光学素子。
【請求項2】
前記微細柱状突起は、使用平均波長をλとしたとき、前記微細柱状突起の底面径Dが0.2λからλの範囲である請求項1に記載の反射防止領域付き光学素子。
【請求項3】
前記微細柱状突起の光軸方向の突出距離hは、前記微細柱状突起の底面径Dを基準とすると、0.9D以下である請求項1又は請求項2に記載の反射防止領域付き光学素子。
【請求項4】
前記反射防止用粗面を構成する任意の位置の微細柱状突起は、底面から光軸方向に向けて略峻立し、底面側から先端側に向けて断面径が減少する錐形状を備える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の反射防止領域付き光学素子。
【請求項5】
前記微細柱状突起は、ガラス転移点を有する光学素子硝材と同一の材質からなる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の反射防止領域付き光学素子。
【請求項6】
前記レンズ面にも前記反射防止用粗面を備える請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の反射防止領域付き光学素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の反射防止領域付き光学素子の製造方法であって、
光軸と略垂直に表れる平面へ周期的な微細柱状突起転写構造を備えるプレス成形用金型を用いることを特徴とする反射防止領域付き光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記プレス成形用金型は、光学素子の反射防止領域へ錐形状の微細柱状突起を形成するための微細柱状突起転写構造が、プレス成形用金型のプレス面から金型の厚さ方向に向けて内径が漸次減少する穴部を備えるものを用いる反射防止領域付き光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の反射防止領域付き光学素子を用いたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市場では、ガラス材、プラスチック材等の光透過性材料を光学素子として用いることが広く普及している。そして、この光学素子の性能を向上させるため、光学素子の光学有効面における入射光の反射を抑制し、透過光の損失を低減することが求められる。光学素子の反射防止を行うためには、光学有効面に対して誘電体薄膜を多層積層した反射防止膜、微細凹凸構造からなる反射防止構造体等を用いることが行われている。
【0003】
ところが、光学素子の用途によっては、光学素子の光学有効面以外の領域(以下、単に「光学有効面外領域」と称する。)においても、入射光の反射防止を考慮することが重要となる場合がある。この光学有効面外領域における反射率が高い場合、不要光が光学有効面内に多く伝搬され、フレアやゴーストを発生させる原因となり、画像品質の低下を招くからである。
【0004】
一般的に、光学有効面外の反射光の抑制は、製造した光学素子の心取り加工を行う際に、光学素子の光学有効面外領域を機械加工し、その表面に粗面を形成することで、光の拡散反射を促進し、光学有効面内へ伝搬する不要光の抑制を行う。さらに、この心取り加工で形成した粗面に、墨塗り加工等で不透明な膜を形成し、拡散透過光を吸収させるという手法が採用されてきた。
【0005】
そして、近年、一定の曲率を備える曲面を備える光学素子を製造する方法として、大量且つ安価に生産可能なプレス成形法が採用されている。このプレス成形法は、それぞれ鏡面を備える原料硝材と金型とを用い、加熱軟化した原料硝材が、金型の平滑なプレス面に沿って流動しながら圧縮変形するものであり、得られる光学素子の表面は基本的に鏡面に仕上がるのが通常である。ところが、このプレス成形時に、光学有効面外領域へ粗面を同時形成する技術も検討されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には、プレス成形時に所定の金型を用い、光学有効面外領域に粗面をプレス転写する方法が開示されている。特許文献2には、光学有効面外領域に粗面を形成可能なプレス面形状を備える金型を用いて、光学有効面外領域に粗面形状を転写した後、金型全体を振動させることで、流動する原料硝材を金型のプレス面に設けた粗面を形成するための凹凸に侵入させる方法が開示されている。特許文献3には、金型を用いるプレス成形法で、光学素子の光学有効面にも反射防止構造(モスアイ構造)が設けられ、光学有効面外領域にも粗面を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−196857号公報
【特許文献2】特開2012−180253号公報
【特許文献3】特開2015−028552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プレス成形により、光学素子の光学有効面外領域に粗面形成をする際には、金型の粗面形成面が原料硝材に転写形成する凹凸深さ(以下、単に「転写深さ」と称する。)に応じた問題が生じる場合がある。プレス成形で、転写深さが浅く、粗面の凹凸が小さいものを得ようとすると、軟化流動した原料硝材が金型側の粗面形成領域の凹部に侵入する途中で原料硝材が表面張力で丸まり、成形材料の鏡面が局所的に残るという現象が起こりやすい。そのため、光学素子の光学有効面外領域に粗面形成を行ったにもかかわらず、その転写面での鏡面反射を十分に抑制できなくなる傾向がある。一方、プレス成形で、転写深さが深く、粗面の凹凸が大きいものを得ようとすると、軟化流動した原料硝材が深い凹部に入り込み、金型と原料硝材との線膨張係数が異なり、冷却時の収縮量が異なるため、金型側の粗面形成領域に強固に張り付き、離型することが困難になる傾向がある。
【0009】
従って、先行技術には、以下のような問題がある。特許文献1に開示の製造方法を用いる場合、粗面を形成する際の転写深さが浅くなるため、鏡面反射する部位が多くなり、撮像時にフレアやゴーストが発生しやすく、画像品質の劣化が起こりやすい傾向がある。特許文献2に開示の製造方法を用いる場合、粗面を形成する際の転写深さが過剰に深くなり、成形した硝材を金型から離型することが困難になる傾向がある。また、離型を容易にするため、プレス成形の直後に金型全体に振動を負荷するため、この振動により組み合わせた金型が一定の範囲で動くため、光学有効面内の形状精度を悪化させる原因となる。特許文献3では、粗面の表面粗さを広く定義している。ところが、特許文献3に開示の製造方法を用いる場合の問題は、特許文献1及び特許文献2と同様である。
【0010】
そこで、本件発明は、光学有効面以外の領域における指向性の高い不要な反射光(有害光)の発生を抑制することのできる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、以下に述べる反射防止領域付き光学素子、製造方法等に想到した。
【0012】
A.本件出願に係る反射防止領域付き光学素子
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子は、レンズ面以外の領域に反射防止用粗面を備える光学素子であって、当該反射防止用粗面は、前記レンズ面以外の領域である当該光学素子の光軸に対して略垂直な状態で存在する平面の一部又は全部に設けるものであり、且つ、周期性をもって配列した複数の微細柱状突起からなり、当該微細柱状突起の配列ピッチが、使用平均波長をλとしたとき、0.2λからλの範囲であることを特徴とする。
【0013】
B.本件出願に係る反射防止領域付き光学素子の製造方法
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子の製造方法は、上述の反射防止領域付き光学素子の製造方法であって、光軸と略垂直に表れる平面へ周期的な微細柱状突起転写構造を備えるプレス成形用金型を用いることを特徴とする反射防止領域付き光学素子の製造方法。
【0014】
C.本件出願に係る撮像装置
本件出願に係る撮像装置は、上述の反射防止領域付き光学素子を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子は、光学有効面以外の領域における指向性の高い不要な反射光の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本件出願に係る反射防止領域付き光学素子の模式断面図である。
図2】微細柱状突起同士の配列ピッチ及び微細柱状突起の突出距離を説明するための模式図である。
図3】微細柱状突起同士の配列を説明するための概念図である。
図4】錐形状の微細柱状突起の模式図である。
図5】本件出願における典型的プレス方法を説明するためのイメージ図である。
図6】実施例として製造した反射防止領域付き光学素子の模式断面図である。
図7】実施例3におけるプレス方法を説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本件出願に係る反射防止領域付き光学素子、反射防止領域付き光学素子の製造方法、本件出願に係る撮像装置の形態に関して詳説する。
【0018】
A.本件出願に係る反射防止領域付き光学素子の形態
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子1は、レンズ面以外の領域に反射防止用粗面を備える光学素子である。図1に反射防止領域付き光学素子1の一例を示し、その模式断面図を示している。
【0019】
(1)反射防止領域
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子において、反射防止領域は反射防止用粗面Rとして示した領域である。そして、図1では、この反射防止用粗面Rを、反射防止領域付き光学素子1の「光軸Opに対して略垂直な状態で存在するレンズ基材2上の平面3(以下、単に「平面3」と称する。)」の全部に設けた形態を示している。しかし、この反射防止用粗面Rは、反射防止領域付き光学素子1の用途に応じて、片面側のみ、部分的領域のみ等の一部領域に設けることも可能である。
【0020】
図1では、レンズ基材2の表面にあるレンズ面Lに対して反射防止領域を設けていない形態を示している。しかし、撮像の際の画像に対し反射防止効果を得ようとすると、レンズ面Lにも反射防止効果を付与することも、当然に可能である。従って、レンズ面Lに最終的に何らかの反射防止処理を施した光学素子も、本件出願の権利範囲に含まれることを想定している。例えば、プレス成形時に平面3及びレンズ面Lに反射防止領域を設けても、プレス成形後にレンズ面Lに誘電体多層膜を成膜したものであっても良い。
【0021】
(2)微細柱状突起
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子1の反射防止用粗面Rに設ける微細柱状突起4は、「複数の微細柱状突起4が周期性をもって配列していること」、「微細柱状突起4の配列ピッチが、使用平均波長の波長λを基準として、0.2λからλの範囲であること」2つの条件を満たすことが望まれる。
【0022】
微細柱状突起の周期性: 上述のように光学有効面外領域に周期性をもって配列した微細柱状突起で反射防止領域を構成することで、光学有効面外領域における「画像品質を阻害する有害光」の発生を制御することができる。より具体的には、微細柱状突起4に入射する光の反射を低減し、又は入射光を拡散反射させることで有害光の低減が可能になる。その結果、本件出願に係る反射防止領域付き光学素子は、撮像時に光学有効面外領域における光の反射に起因するフレアやゴーストが発生しにくく、画像品質の飛躍的向上が図れるようになる。
【0023】
微細柱状突起の配列ピッチ: 本件出願に係る反射防止領域付き光学素子1の微細柱状突起4の配列ピッチは、使用平均波長の波長λを基準として、0.2λからλの範囲であることが好ましい。図2には、微細柱状突起同士の配列ピッチP(隣り会う微細柱状突起の頂点間距離)を説明するため、平面3にある微細柱状突起4を正面から見たときの配列イメージを示した模式図を示している。この配列ピッチの上限値が使用平均波長(λ)以下になると、回折を低減するとともに回折線による指向性の発生も抑制可能になり、有害光を低減することができることから十分な反射防止効果が発揮できるようになるため好ましい。より好ましい上限値はλ/2以下である。回折による有害光の発生をより効果的に抑制できるからである。一方、この配列ピッチの下限値は、後述する微細柱状突起4の底面径Dとの関係において、自ずと決まるものである。即ち、配列ピッチが0.2λの場合、隣り合う微細柱状突起同士の隙間間隔がなく、隣り合う微細柱状突起同士が接した状態を意味している。
【0024】
図4には、平面3への微細柱状突起4の配列パターンの一部を例示している。図4(a)には、3つの微細柱状突起が正三角形を形成するような一定の配列ピッチPで、周期性を備えて配列しているトライアングル配置パターンを示している。また、図4(b)には、縦方向及び横方向に格子状に配列した微細柱状突起が一定の配列ピッチPで、周期性を備えて配列しているスクエア配置パターンを示している。
【0025】
微細柱状突起の底面径: 本件出願に係る反射防止領域付き光学素子1の微細柱状突起4の底面径Dは、使用平均波長λを基準としたとき、0.2λからλの範囲にあることが好ましい。この底面径Dが0.2λ未満の場合、不必要な反射光を抑制できなくなり、フレアやゴーストが起こりやすくなり、撮像品質が低下するため好ましくない。一方、底面径Dがλを超えると、鏡面反射を起こす部位が増加する傾向にあり、微細柱状突起が果たすべき反射防止効果が得られず好ましくない。また、入射した光の回折が撮像品質に大きく影響を与える光学装置の場合には、さらに0.5λ以下にすることで安定した反射防止効果を得ることが望ましい。なお、底面径Dは、図2に示す拡大図から理解できるように、平面3の上に投影される断面のことであり、20個以上の微細柱状突起の底面径を測定して得られる平均値を、「底面径D」と称している。
【0026】
微細柱状突起の配列ピッチと底面径との関係: 微細柱状突起4の配置ピッチPと底面径Dとの関係は、[底面径D]/[配置ピッチP]の値が1以下であり、0.8以上であることが望ましい。0.8未満の場合には、反射防止領域にある微細柱状突起4の存在密度が過剰に低下することになり、鏡面領域が生じやすくなり、十分な反射防止効果が得られないため好ましくないからである。
【0027】
微細柱状突起の突出距離: 本件出願に係る反射防止領域付き光学素子1の微細柱状突起4の突出距離hは、平面3から光軸方向に沿った距離のことであり、微細柱状突起の底面径Dを基準とすると、0.9D以下であることが好ましい。この微細柱状突起の突出距離が高いほど、反射防止効果も高くなるため、本来であれば、特に上限を規定する必要はない。ところが、この突出距離hが0.9Dを超える反射防止領域付き光学素子を、金型を用いてプレス成形で得ようとすると、その製造方法の中で得られる微細柱状突起の高さのバラツキが大きくなる傾向があるため好ましくない。上限値を0.9D以下とすることで、微細柱状突起の突出距離のバラツキが少なくなり好ましい。よって、この上限値を0.8D、0.7Dと段階的に低く設定するにつれて、微細柱状突起4の突出距離のバラツキは小さくなる。ここで、特に下限値を設定していないが、効率良く拡散反射に寄与する反射率のバラツキを削減する効果を得るには、微細柱状突起の突出距離は0.2D以上であることが好ましい。なお、微細柱状突起の突出距離hとは、図2の拡大図に示すように、微細柱状突起4が平面3から光軸方向OPに向けて延びた距離のことであり、20個以上の微細柱状突起の突出距離を測定して得られる平均値を、「突出距離h」と称している。
【0028】
さらに、微細柱状突起の突出距離hは、0.24λ≦h(λは使用平均波長)の条件を満たすことが好ましい。微細柱状突起の突出距離hが0.24λ未満の場合には、微細柱状突起の高さが不足することで、十分な反射防止効果が得られなくなり、良好な反射防止効果を発揮する反射防止領域付き光学素子が得られなくなるため好ましくない。
【0029】
微細柱状突起の形状: 本件出願に係る反射防止領域付き光学素子1の反射防止用粗面を構成する任意の位置の微細柱状突起4は、底面から光軸方向に向けて略峻立した状態のものであり、その底面側から先端側に向けて断面径が減少する錐形状を備えるものである。ここで「錐形状」とは、図4に2種類の形態を示しているが、底面側から先端側に向けて断面径(光軸に垂直な仮想平面で切断したときの断面であり、その断面の外接円の直径を「断面径」と称している。)が減少するものであれば、円錐、三角錐、四角錐、その他の多角錐形状のことで有り、先端側は必ずしも先鋭化した形状でも、一定の曲率をもつ滑らかな先端であっても構わない(換言すれば、底面側の断面径よりも先端型の断面径が小さくなる先細り形状)。なお、「断面径」とは、光軸に垂直な仮想平面で切断したときの微細柱状突起4の断面であり、その断面の外接円の直径を「断面径」と称している。
【0030】
この微細柱状突起4が、上述のような錐形状を有することで、プレス成形後の金型と光学素子との離型性を向上させることができ、生産歩留まりの向上を図ることができる。
【0031】
微細柱状突起の構成材: 本件出願に係る反射防止領域付き光学素子1は、後述する金型を用いたプレス成形によって製造されるものであり、ガラス、プラスチック等のガラス転移点をもつ素材の使用が可能である。そして、本件出願における微細柱状突起4は、光学素子硝材と同一の材質で構成されることが好ましい。本件出願にかかる反射防止領域付き光学素子1は、金型を用いたプレス成型法で製造するため、全体を同一の素材とすることで、生産効率を高め、平面3に対する微細柱状突起4の定着安定性を高めることが容易になるからである。
【0032】
なお、以上の説明で用いた「使用平均波長λ」は、使用波長領域によって適宜設定が可能であり、特に限定されるものではない。例えば、使用波長領域が遠赤外線領域(約8μm〜約12μm)の場合には使用平均波長λを約10μm、近赤外線領域(約900nm〜約1700nm)の場合には使用平均波長λを約1300nm、可視光領域(約360nm〜約830nm)の場合には使用平均波長λを約600nm等に設定する。
【0033】
B.本件出願に係る反射防止領域付き光学素子の製造形態
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子の製造方法は、プレス成形用金型として、光軸と略垂直に表れる平面へ周期的な微細柱状突起転写構造を備えるものを用いることを特徴とする。以下、図面を用いて説明する。
【0034】
図5に、本件出願における典型的プレス方法を説明するためのイメージ図を示している。図5に示した第1プレス成形用金型10と第2プレス成形用金型20との両プレス用金型は、滑らかなレンズ面を得るため、レンズ面型10aとして「平滑で滑らかなプレス成形面」を備えるものを用いている。この図5に示した第1プレス成形用金型10は、レンズ面型10aと収容型10bで構成されたものを示している。ここで、レンズ面型10aの原料硝材と接する面が第1レンズ領域形成面11、光軸と略垂直に表れる平面へ周期的な微細柱状突起転写構造12である。そして、図5に示した第2プレス成形用金型20は、レンズ面型20a、収容型20b、微細柱状突起転写構造12’で構成されたものを示している。ここで、レンズ面型20aの原料硝材と接する面が第2レンズ領域形成面11’、微細柱状突起転写構造12’である。以上に述べた第1プレス成形用金型10と第2プレス成形用金型20とは、一体化した金型でも、複数にブロック化した金型であっても構わない。図5に示す第1プレス成形用金型と第2プレス成形用金型は、複数にブロック化したものを示している。なお、図5には、プレス成形のイメージが理解できるように、プレス板も示している。
【0035】
図5の上段図に示すように、第1プレス成形用金型10と第2プレス成形用金型20との間に原料硝材40を配し、原料硝材をガラス転移点以上の温度に加熱し軟化させる。そして、図5の下段図に示すように、第1プレス成形用金型10と第2プレス成形用金型20とでプレス成形し、反射防止領域付き光学素子1を得る。このプレス成形では、第1プレス成形用金型10と第2プレス成形用金型20との外周部にある対向面(図5の場合には、「第1プレス成形用金型10の微細柱状突起転写構造12」と「第2プレス成形用金型20の微細柱状突起転写構造12’」である。)が、0.5mm〜0.8Tmm(Tはレンズ厚さ(単位:mm)であり、T≧1)離間した状態となるまで加圧し、プレス状態を維持して成形することが好ましい。その結果、軟化した原料硝材が、第1プレス成形用金型30と第2プレス成形用金型40との外周にある微細柱状突起転写構造12,12’のある領域の隙間に侵入し、得られた反射防止領域付き光学素子1のレンズ面の外周全体に、良好な微細柱状突起4が形成できる。なお、図5に示すように、位置決めスリーブ14を用いて、プレス成形時における第1プレス成形用金型10と第2プレス成形用金型20との適正な離間距離を確保することが好ましい。
【0036】
この第1プレス成形用金型10及び第2プレス成形用金型20を構成する材質は、タングステンカーバイドを代表とする超硬合金、サーメット、炭化ケイ素、その他セラミックス、耐熱系金属などであることが好ましい。また、第1プレス成形用金型10及び第2プレス成形用金型20の材質を検討する場合、より線膨張係数が小さい材質を使用することが、より好ましい。これにより、室温で型を組み立てる際には、両者のクリアランスを確保し、プレス成形温度帯ではクリアランスが狭まり、成形品にバリが発生し難くなるからである。また、第1プレス成形用金型10及び第2プレス成形用金型20の厚さは、機械的強度を考慮し、最低3mmであることが好ましい。
【0037】
C.本件出願に係る撮像装置の形態
本件出願に係る撮像装置は、上述の反射防止領域付き光学素子を用いたことを特徴とする。ここでいう撮像装置に関して、特段の限定はない。反射防止効果を必要とするデジタルカメラ、ビデオカメラ等のあらゆる撮像装置に好適である。
【実施例1】
【0038】
実施例1では、図6(a)に断面図として示した反射防止領域付き光学素子1を製造した。よって、反射防止領域付き光学素子1は、滑らかな表面のレンズ面Lを備える両凸レンズであり、両面にある平面3に柱状微細突起4を備える反射防止用粗面R、滑らかなレンズ面L,L’を備えている。そして、この反射防止構造体付き光学素子1を製造するにあたり、図5に示すと同様のプレス方法を採用している。
【0039】
この実施例1では、原料硝材としてガラス転移点180℃のカルコゲナイドガラス(IRG206)を用いている。そして、第1プレス成形用金型10及び第2プレス成形用金型20は、レンズ面Lの直径(以下、単に「レンズ面径」と称する。)約27mm、中心肉厚4.5mm、平面肉厚1.5mmのものを用いた。さらに、微細柱状突起転写構造12,12’として、配列ピッチが4μm、底面径が3.5μmの円錐状の内面形状を備える穴部を備えたものを用いた。その結果、プレス成形後の離型の問題は、何ら生じなかった。
【0040】
以上のようにして得られた反射防止領域付き光学素子の平面3にある反射防止用粗面Rは、周期性をもって配列(トライアングル配置)した複数の微細柱状突起4(円錐状断面)を備えている。そして、微細柱状突起4は、以下に示すような品質を備えている。
【0041】
[実施例1で得られた反射防止領域付き光学素子の微細柱状突起]
微細柱状突起の配列ピッチP: 4μm/使用平均波長λ(10μm)の0.4λに相当
微細柱状突起の底面径D: 3.5μm/0.35λに相当
微細柱状突起の突出距離h: 2.7μm/0.77Dに相当
【実施例2】
【0042】
実施例2では、図6(b)に断面図として示した反射防止領域付き光学素子1を製造した。よって、反射防止領域付き光学素子1は、滑らかな表面のレンズ面Lを備える両凹レンズであり、両面にある平面3に柱状微細突起4を備える反射防止用粗面R、滑らかなレンズ面L,L’を備えている。そして、この反射防止構造体付き光学素子1を製造するにあたり、図5に示すと同様のプレス方法を採用している。
【0043】
この実施例2では、原料硝材としてガラス転移点288℃のガラス硝材(K−PG325)を用いている。そして、第1プレス成形用金型10及び第2プレス成形用金型20は、レンズ面径が約19mm、中心肉厚0.8mm、平面肉厚5.6mmのものを用いた。さらに、微細柱状突起転写構造12,12’として、配列ピッチが450nm、底面径が400nmの円錐状の内面形状を備える穴部を備えたものを用いた。その結果、プレス成形後の離型の問題は、何ら生じなかった。
【0044】
以上のようにして得られた反射防止領域付き光学素子の平面3にある反射防止用粗面Rは、周期性をもって配列(スクエア配置)した複数の微細柱状突起4(円錐状断面)を備えている。そして、微細柱状突起4は、以下に示すような品質を備えている。
【0045】
[実施例2で得られた反射防止領域付き光学素子の微細柱状突起]
微細柱状突起の配列ピッチP: 450nm/使用平均波長λ(1300nm)の0.35λに相当
微細柱状突起の底面径D: 400nm/0.31λに相当
微細柱状突起の突出距離h: 260nm/0.65Dに相当
【実施例3】
【0046】
実施例3では、図6(c)に断面図として示した反射防止領域付き光学素子1を製造した。よって、反射防止領域付き光学素子1は、滑らかな表面のレンズ面Lを備えるメニスカスレンズであり、両面にある平面3に柱状微細突起4を備える反射防止用粗面R、滑らかなレンズ面L,L’を備えている。そして、この反射防止構造体付き光学素子1を製造するにあたり、図5に示すと同様のプレス方法を採用している。
【0047】
この実施例2では、原料硝材としてガラス転移点384℃のガラス硝材(M−FCD1)を用いている。そして、第1プレス成形用金型10及び第2プレス成形用金型20は、レンズ面径が約20mm、中心肉厚1.3mm、平面肉厚3.6mmのものを用いた。さらに、微細柱状突起転写構造12,12’として、配列ピッチが450nm、底面径が400nmの円錐状の内面形状を備える穴部を備えたものを用いた。その結果、プレス成形後の離型の問題は、何ら生じなかった。
【0048】
以上のようにして得られた反射防止領域付き光学素子の平面3にある反射防止用粗面Rは、周期性をもって配列(スクエア配置)した複数の微細柱状突起4(円錐状断面)を備えている。そして、微細柱状突起4は、以下に示すような品質を備えている。
【0049】
[実施例3で得られた反射防止領域付き光学素子の微細柱状突起]
微細柱状突起の配列ピッチP: 450nm/使用平均波長λ(1300nm)の0.35λに相当
微細柱状突起の底面径D: 400nm/0.31λに相当
微細柱状突起の突出距離h: 300nm/0.75Dに相当
【実施例4】
【0050】
実施例4では、図6(d)に断面図として示した反射防止領域付き光学素子1を製造した。よって、反射防止領域付き光学素子1は、滑らかな表面のレンズ面Lを備えるメニスカスレンズであり、両面にある平面3に柱状微細突起4を備える反射防止用粗面R、滑らかなレンズ面L,L’を備えている。そして、この実施例4の反射防止構造体付き光学素子1を製造するにあたり、図7に示す金型を用いたプレス方法を採用している。
【0051】
図7に示した第1プレス成形用金型10は、レンズ面型10a、収容型10b、外径規制型10cで構成されたものを示している。ここで、レンズ面型10aの原料硝材と接する面が第1レンズ領域形成面11、光学素子の外周壁面を形成するための第1外径規制壁面16、光学素子の外周に環状板部17を形成するための第1水平規制面18である。そして、図7に示した第2プレス成形用金型20は、レンズ面型20a、収容型20cで構成されたものを示している。ここで、レンズ面型20aの原料硝材と接する面が第2レンズ領域形成面11’、光学素子の環状板部17を形成するための第2水平規制面18’である。
【0052】
図7の上段図に示すように、第1法レス成形用金型10と第2プレス成形用金型20との間に原料硝材40を配し、原料硝材をガラス転移点以上の温度に加熱し軟化させた。そして、図7の下段図に示すように、第1予備成形用金型10と第2予備成形用金型20とが接触しない状態までプレス成形し、図6(d)に断面図として示した反射防止領域付き光学素子1を製造した。
【0053】
この実施例4では、原料硝材としてガラス転移点180℃のカルコゲナイドガラス(IRG206)を用いている。そして、第1プレス成形用金型10及び第2プレス成形用金型20は、レンズ面径が約14mm、中心肉厚5.3mm、平面肉厚2.0mmのものを用いた。さらに、微細柱状突起転写構造12,12’として、配列ピッチが4.0μm、底面径が3.5μmの円錐状の内面形状を備える穴部を備えたものを用いた。その結果、プレス成形後の離型の問題は、何ら生じなかった。
【0054】
[実施例4で得られた反射防止領域付き光学素子の微細柱状突起]
微細柱状突起の配列ピッチP: 4μm/使用平均波長λ(10μm)の0.4λに相当
微細柱状突起の底面径D: 3.5μm/0.35λに相当
微細柱状突起の突出距離h: 2.6μm/0.74Dに相当
【産業上の利用可能性】
【0055】
本件出願に係る反射防止領域付き光学素子は、プレス成形法を採用して得られるものであるが、プレス成形後に粗面を付与する心取り加工が不要であるため、レンズ加工工程が短縮化できる。従って、高品質の反射防止領域付き光学素子を安価に市場へ提供し、高品質の撮像装置を安価に提供することが可能になる。また、本件出願に係る反射防止領域付き光学素子の製造に必要な金型も、既存の設備を用いて容易に準備可能である。また、製造方法全体としてみても、プレス成形を行うにあたり、特殊な装置を必要とするものではない。よって、従来のプレス成形設備の有効利用が可能であり、既存設備の廃棄等の社会的損失を招かない点において優れている。
【符号の説明】
【0056】
1 反射防止領域付き光学素子
2 レンズ基材
3 平面
4 微細柱状突起
10 第1プレス成形用金型
20 第2プレス成形用金型
10a,20a レンズ面型
10b,20b 収容型
10c 外径規制型
11 第1レンズ領域形成面
11’ 第2レンズ領域形成面
12,12’ 微細柱状突起転写構造
14 位置決めスリーブ
16 第1外径規制壁面
18 第1水平規制面
18’ 第2水平規制面
40 原料硝材
R 反射防止用粗面(=反射防止領域)
Op 光軸
L レンズ面
P 配列ピッチ
D 底面径
λ 使用平均波長
Cp 環状板部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7