【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:ポリイミド・芳香族系高分子会議予稿集26巻、発行者:日本ポリイミド・芳香族高分子研究会、発行年月日:2018年10月13日 集会名:ポリイミド・芳香族系高分子会議、開催日:2018年10月13日
【解決手段】光照射を受けることで構造変化を生じる、下記一般式(1)で表す部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーを含み、上記構造変化により屈折率が大きくなることを特徴とする光学材料を用いる。下記一般式(1)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、置換基を有してもよい芳香環、又は下記一般式(a)で表す2価の基である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の発明によれば、光照射により屈折率を安定的に増加させる光学材料が提供されるが、光学素子のさらなる性能向上のために、光照射の前後で0.010以上の屈折率増加を示す材料を求める声もある。本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、光照射を受けることによって屈折率が大きくなる特性を有する光学材料、及びそれを用いた光学素子を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、光照射を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する化合物を利用して物品の屈折率を増加させる方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、下記一般式(1)で表す部分構造を有する化合物やその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーでは、光照射を受けた際に、光フリース転位反応(本発明では、ウレタン結合におけるN−C結合が開裂することに伴うラジカル的な転位反応)に基づく構造変化により極性基であるアミノ基を生成し、その屈折率が大きくなることを見出した。このような屈折率の変化は、次のような理由によりもたらされるものと考えられる。すなわち、有機化合物の屈折率nは、[R]を分子屈折とし、Vを分子体積とすると、下記数式で表されるLorents−Lorenzの式に基づいて求められる。すなわち、屈折率nは、分子体積と分子屈折の比である[R]/Vに依存して決定されることになる。ここで、上記構造変化をもたらす反応前後において分子体積(V)が殆ど変化しないとすると、屈折率は化合物がもつ官能基の分子屈折の変化に依存することになる。分子屈折は、化学構造中の原子団や官能基の原子屈折から予想することができ、大きな原子屈折を示す原子団や官能基が存在すると分子屈折は大きくなる。構造変化後に生じるアミノ基は、そのような構造変化を生じる前よりも大きな原子屈折を持つので、上記のような構造変化でこうした極性基を生じると分子全体の屈折率が大きくなることになる。
【0010】
【数1】
【0011】
本発明は、以上のような知見により完成されたものであり、具体的には以下のようなものを提供する。
【0012】
(1)本発明は、下記一般式(1)で表す、光照射を受けることで構造変化を生じる部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーを含み、上記構造変化により屈折率が大きくなることを特徴とする光学材料である。
【化1】
(上記一般式(1)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、置換基を有してもよい芳香環、又は下記一般式(a)で表す2価の基である。)
【化2】
(上記一般式(a)中、各Ar
1は、それぞれ独立に置換基を有してもよい芳香環であり、L
1は、分枝を有してもよい炭素数1〜8のアルキレン基である。)
【0013】
上記部分構造は、下記一般式(2)で表されることが好ましい。
【化3】
(上記一般式(2)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
1は、分枝を有してもよい2価の有機基である。)
【0014】
上記部分構造は、下記一般式(3)で表されることが好ましい。
【化4】
(上記一般式(3)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、L
2は、分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基である。)
【0015】
上記ポリマーは、下記一般式(4)で表す構造を繰り返し単位の少なくとも一部とするポリウレタン、又は下記一般式(4a)で表すポリイソシアナート化合物と下記一般式(4b)で表すポリオール化合物との重付加反応により生成する分岐型ポリウレタンであることが好ましい。
【化5】
(上記一般式(4)中、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基である。)
【化6】
(上記一般式(4a)中、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、nは、2〜6の整数である。上記一般式(4b)中、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、mは、2〜6の整数である。また、n及びmの少なくともいずれかは3以上である。)
【0016】
(2)また本発明は、光照射を受けることにより屈折率を変化させる部材として上記の光学材料を含む光学素子でもある。
【0017】
(3)また本発明は、下記一般式(1)で表す、光照射を受けることで構造変化を生じる部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーを用い、その構造変化に伴って屈折率が大きくなる性質を利用して物品の屈折率を増加させる方法でもある。
【化7】
(上記一般式(1)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、置換基を有してもよい芳香環、又は下記一般式(a)で表す2価の基である。)
【化8】
(上記一般式(a)中、各Ar
1は、それぞれ独立に置換基を有してもよい芳香環であり、L
1は、分枝を有してもよい炭素数1〜8のアルキレン基である。)
【0018】
上記部分構造は、下記一般式(2)で表されることが好ましい。
【化9】
(上記一般式(2)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
1は、分枝を有してもよい2価の有機基である。)
【0019】
上記部分構造は、下記一般式(3)で表されることが好ましい。
【化10】
(上記一般式(3)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、L
2は、分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基である。)
【0020】
上記ポリマーは、下記一般式(4)で表す構造を繰り返し単位の少なくとも一部とするポリウレタン、又は下記一般式(4a)で表すポリイソシアナート化合物と下記一般式(4b)で表すポリオール化合物との重付加反応により生成する分岐型ポリウレタンであることが好ましい。
【化11】
(上記一般式(4)中、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基である。)
【化12】
(上記一般式(4a)中、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、nは、2〜6の整数である。上記一般式(4b)中、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、mは、2〜6の整数である。また、n及びmの少なくともいずれかは3以上である。)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1には、光照射を受けることによって屈折率が大きくなる特性を有する光学材料、及びそれを用いた光学素子が提供される。また、本発明によれば、第2には、光照射を受けることによって、屈折率が大きくなる特性を有する化合物を利用して物品の屈折率を変化させる方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の光学材料の一実施形態、本発明の光学素子の一実施形態、及び本発明の物品の屈折率を向上させる方法の一実施態様について、それぞれ説明する。
【0024】
<光学材料>
本発明の光学材料は、光照射を受けることで構造変化を生じる部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーを含み、その構造変化により屈折率が大きくなることを特徴とする。このため、本発明の光学材料は、光照射を受けることにより屈折率が大きくなる特性を備える。この化合物や、ポリマーの繰り返し単位中に含まれる上記部分構造は、下記一般式(1)で表される。
【0026】
上記一般式(1)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、置換基を有してもよい芳香環、又は下記一般式(a)で表す2価の基である。Arが置換基を有してもよい芳香環の場合、Arは、2本の結合子を備えた当該芳香環からなる2価の基になる。なお、ここでいう「2本の結合子」とは、上記一般式(1)におけるArの両側に記載された結合を意味する。
【0027】
上記置換基を有してもよい芳香環は、芳香族性を備えた環構造からなる2価の基であり、単環であってもよいし、複数の環が縮合した縮合多環であってもよい。このような芳香環としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラン環、チオフェン環、ナフタレン環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、アクリジン環、アントラセン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環等からなる2価の基を挙げることができる。これらの中でも、上記一般式(1)におけるArとしては、ベンゼン環が好ましく挙げられる。この場合、Arは、フェニレン基となるが、このフェニレン基に含まれる2本の結合子の位置は問わない。すなわち、Arがベンゼン環の場合、Arで表される2価の基は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基のいずれであってもよい。また、芳香環が置換基を備える場合、その置換基としては特に限定されず、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子等のような有機化学でよく見られる1価の基みのみならず、他のポリマーの主鎖若しくは側鎖そのもの、又はこれらに結合する基であってもよい。この場合、上記他のポリマーの鎖がArから分岐することになる。
【0029】
上記一般式(a)中、各Ar
1は、それぞれ独立に置換基を有してもよい芳香環であり、L
1は、分枝を有してもよい炭素数1〜8のアルキレン基である。すなわち、Ar
1は、2本の結合子を備えた、置換基を有してもよい芳香環からなる2価の基になる。なお、ここでいう「2本の結合子」とは、上記一般式(a)におけるAr
1の両側に記載された結合を意味する。Ar
1で表される芳香環としては、上記Arについて述べた芳香環と同様である。これら芳香環の中でも、Ar
1としては、ベンゼン環が好ましく挙げられる。この場合、Arは、フェニレン基となるが、このフェニレン基に含まれる2本の結合子の位置は問わない。すなわち、Ar
1がベンゼン環の場合、Ar
1で表される2価の基は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基のいずれであってもよい。
【0030】
L
1としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、2,2−ジメチルプロピレン基等が挙げられ、これらの中でもメチレン基が好ましく挙げられる。
【0031】
上記一般式(1)で表される部分構造は、芳香族ウレタンであり、光照射を受けることにより、フリース転位反応を生じてその部分構造内にアミノ基を生成する。このアミノ基を生成することにより、この部分構造を備えた化合物は分子屈折が大きくなり、屈折率が増加する。光照射に用いる光は、上記一般式(1)で表される部分構造が吸収することのできる波長のものが用いられ、典型的な例としては紫外線が挙げられる。次に、この光フリース転位反応について説明する。
【0032】
以下の説明では、理解を容易にするために、上記一般式(1)におけるArをベンゼン環(p−フェニレン基)としたものを例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。この例示の部分構造は、紫外線照射を受けると、下記の反応機構に示すような光フリース転位反応を生じる。この反応機構から理解されるように、上記一般式(1)に含まれるウレタン結合(−NHC(=O)O−)の窒素原子側に隣接して芳香環が結合していれば、光フリース転位反応によりアミノ基を生じることになる。上記一般式(1)におけるArは、置換基を有してもよい芳香環、又は上記一般式(a)で表す2価の基だが、いずれの場合であっても、上記ウレタン結合の窒素原子側に隣接して芳香環が結合していることになり、光フリース転位反応によりアミノ基を生じる。このことは、上記芳香環が置換基を有していても変わらないが、当該置換基は、光フリース転位を阻害するものでないことが望ましい。なお、下記の反応機構は、分子内にアミノ基を生じるという結果に基づく推定のものであり、実際にはこの推定とは異なる反応機構であったとしても本発明の範囲が限定的に解釈されることはない。
【0034】
上記部分構造を有する化合物としては、芳香環にイソシアナート基が結合した化合物と、水酸基を備えた化合物とを反応させたものが挙げられる。これらの化合物を反応させると、イソシアナート基と水酸基との間で付加反応を生じ、上記部分結合に示すウレタン結合を生成する。このとき、水酸基を備えた化合物として、脂肪族アルコール化合物やフェノール類等を選択して用いることもできるが、カリックスアレーン類やカリックスレゾルシンアレーン類のような独特な立体構造を備えたものや、複数の水酸基を側鎖に備えたポリマー又はオリゴマーや、主鎖の両端に水酸基を備えたポリマー又はオリゴマー等を用いてもよい。
【0035】
上記部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーとしては、2以上のイソシアナート基が芳香環に結合した化合物と、2以上の水酸基を備えた化合物とを重付加反応させて得たポリウレタンが挙げられる。2以上のイソシアナート基が芳香環に結合した化合物としては、ポリウレタン合成の分野で通常用いられるポリイソシアナート化合物が挙げられ、そのような化合物の一例としては、トリレン−2,4−ジイソシアナート(2,4−TDI)、トリレン−2,6−ジイソシアナート(2,6−TDI)、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアナート(2,2’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアナート(2,4’−MDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)等が挙げられる。これらのポリイソシアナート化合物は、単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。2以上の水酸基を備えた化合物としては、ポリウレタン合成の分野で通常用いられるポリヒドロキシ化合物が挙げられ、そのような化合物の一例としては、1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(MPDO)、1,3−プロパンジオール(PDO)等の化合物や、主鎖の端部又は側鎖に複数の水酸基を備えたポリマー又はオリゴマー等が挙げられる。これらのポリヒドロキシ化合物は、単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。ポリイソシアナート化合物及びポリオール化合物のいずれか又は両方を2種以上組み合わせて用いることにより、得られるポリウレタンをコポリマーとしてもよい。
【0036】
上記一般式(1)で表す部分構造のより具体的な例として、下記一般式(2)で表される部分構造を挙げることができる。
【0038】
上記一般式(2)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
1は、分枝を有してもよい2価の有機基である。
【0039】
X
1としては、途中に環構造や分枝を有してもよい2価の有機基が挙げられる。このような環構造としては、置換基を有してもよい、炭素数1〜12の脂肪環又は芳香環が挙げられる。また、分枝としては、2価の有機基であるX
1の主鎖(上記一般式(2)において、X
1の両側に存在する結合子に挟まれた直線構造を形成する鎖)に結合する炭素数1〜5のアルキル基や、X
1から分岐して延びる他のポリマーの主鎖若しくは側鎖そのもの、又はこれらに結合する基であってもよい。また、X
1で表す2価の有機基は、ポリマーの主鎖であってもよい。例えば、両端に水酸基を備えたポリマーをジオール化合物としてポリウレタンを合成した場合には、X
1で表す2価の有機基がポリマーの主鎖になる。
【0040】
なお、X
1が芳香環を含む場合、上記一般式(2)の酸素原子に結合するX
1の末端には、アルキレン基が存在することが好ましい。このことを、X
1の上記末端に芳香環が存在する場合と、X
1の上記末端にアルキレン基を介して芳香環が存在する場合の2つの反応式を下記に示すことで説明する。
【0042】
上記2つの反応式のうち、X
1の上記末端にアルキレン基を持たない構造を出発とする上側の反応式では、N−C間が開裂してアミノ基を有する構造(I)を与える反応の他、C−O間が開裂して水酸基を有する構造(II)を与える副反応を生じる。この場合であっても、反応の前後で化合物又はポリマー全体として屈折率の増加が見込まれるが、(I)の構造のみを与える場合と比べて屈折率の増加が小さくなる可能性がある。これに対して、X
1の上記末端にアルキレン基が存在する構造を出発とする下側の反応式であれば、N−C間が開裂してアミノ基を有する構造(I)を与える反応のみが起こり、構造(II)を与えるような副反応を生じないので好ましい。なお、X
1が芳香環を持たない場合には、構造(II)のような水酸基を与える副反応はそもそも生じない。
【0043】
このように、X
1の上記末端にはアルキレン基が存在することが好ましく、この点から、上記一般式(1)や(2)で表す部分構造のより具体的な例として、下記一般式(3)で表す部分構造を好ましく挙げることができる。
【0045】
上記一般式(3)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、L
2は、分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基である。
【0046】
L
2としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、2,2−ジメチルプロピレン基等が挙げられる。これらの中でも、L
2としてはメチレン基が好ましく挙げられる。
【0047】
X
2としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、2,2−ジメチルプロピレン基等のアルキレン基、ベンゼン環、ピリジン環、ピラン環、チオフェン環、ナフタレン環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、アクリジン環、アントラセン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環等の芳香環からなる2価の基を挙げることができる。また、芳香環が置換基を備える場合、その置換基としては特に限定されず、他のポリマーの主鎖若しくは側鎖そのもの、又はこれらに結合する基であってもよい。この場合、上記他のポリマーの鎖がX
2から分岐することになる。これらの中でも、X
2としては、フェニレン基、フェニレンメチレン基(−Ph−CH
2−)等が好ましく挙げられる。また、X
2はポリマー構造を備えた2価の基であってもよい。ポリマー構造は、ある種の構造を繰り返してなる構造であり、特に限定されない。例えば、両端に水酸基を備えたポリマーをジオール化合物としてポリウレタンを合成した場合、X
2はポリマー構造を備えた2価の基となる。
【0048】
上記の部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーとして、より具体的には、下記一般式(4)で表す構造を繰り返し単位の少なくとも一部とするポリウレタンを好ましく挙げることができる。このようなポリウレタンは、上記の部分構造を備え、光照射を受けることにより構造変化を生じて分子内にアミノ基を生成させる。なお、「繰り返し単位の少なくとも一部とする」とは、下記一般式(4)で表す一種類の繰り返し単位を備えたホモポリマーであってもよいし、下記一般式(4)で表す複数種の繰り返し単位を備えたコポリマーであってもよいし、下記一般式(4)を繰り返し単位の一部として含むコポリマーであってもよいという意味である。例えば、ポリイソシアナート化合物やポリオール化合物のいずれか又は両方を2種以上組み合わせて用いた場合には、下記一般式(4)で表す複数種の繰り返し単位を備えたコポリマーとなり、ポリウレタンとはならない構造の繰り返し単位と下記一般式(4)で表す繰り返し単位とを併せ持つ場合には、下記一般式(4)で表す構造を繰り返し単位の少なくとも一部とするコポリマーとなる。後者の場合であっても下記一般式(4)で表す繰り返し構造を備えることになるので、本発明ではこれをポリウレタンとして扱う。
【0050】
上記一般式(4)中、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、又は置換基を備えてもよい芳香環であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基である。
【0051】
X
2の詳細については、上記一般式(3)で表される部分構造で説明した内容と同じなので、ここでの説明を省略する。L
3が分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基となる場合、当該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、2,2−ジメチルプロピレン基等が挙げられる。これらの中でも、L
3としてはメチレン基が好ましく挙げられる。
【0052】
上記一般式(4)で表すポリウレタンは、2つのイソシアナート基が芳香環に結合したジイソシアナート化合物と、2つの水酸基を備えたジオール化合物とを重付加反応させることで得られる。この反応は、例えばジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)等の触媒を加えた溶液中で室温又は加温下にて行うことができる。ジイソシアナート化合物の一例としては、トリレン−2,4−ジイソシアナート(2,4−TDI)、トリレン−2,6−ジイソシアナート(2,6−TDI)、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアナート(2,2’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアナート(2,4’−MDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)等が挙げられる。これらのジイソシアナート化合物は、単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。また、ジオール化合物の一例としては、1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(MPDO)、1,3−プロパンジオール(PDO)等の化合物や、主鎖の端部又は側鎖に2つの水酸基を備えたポリマー又はオリゴマー等が挙げられる。ジイソシアナート化合物及びジオール化合物のいずれか又は両方を2種以上組み合わせて用いることにより、得られるポリウレタンをコポリマーとしてもよい。また、これらのジイソシアナート化合物やジオール化合物に加えて、イソシアナート基や水酸基といった官能基を3以上備えた化合物を組み合わせて架橋構造を形成させてもよい。ここで、下記化学式にて、2,4−TDI若しくは4,4’−MDIと1,4−BDMとを反応させ、2,4−TDI若しくは4,4’−MDIと1,4−BDMとMPDOとを反応させ、又は4,4’−MDIと1,4−BDMとPDOとを反応させ、上記一般式(4)で表す構造を繰り返し単位とするポリウレタン(P−1〜P−5)の合成例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
また、上記の部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーは、下記一般式(4a)で表すポリイソシアナート化合物と、下記一般式(4b)で表すポリオール化合物との重付加反応により生成する分岐型ポリウレタンであってもよい。このような分岐型ポリウレタンもまた、上記の部分構造を備え、光照射を受けることにより構造変化を生じて分子内にアミノ基を生成させる。この分岐型ポリウレタンは、下記一般式(4a)で表すポリイソシアナート化合物と、下記一般式(4b)で表すポリオール化合物に加えて、他のポリイソシアネート化合物やポリオール化合物を組み合わせた重付加反応により生成したものであってもよい。なお、このポリマーは、3以上の反応点を備えたモノマーから合成された重合体であり、複雑な分岐構造を備える。そのため、このポリマーは、その構造が複雑になりすぎて一般式で表すことはできず、構造又は特性により直接特定することが不可能又はおよそ非現実的であるといえる。このことから、本発明においては、このポリマーを上記のような製造方法で特定している。
【0056】
上記一般式(4a)中、Arは、一般式(1)におけるものと同じであり、nは、2〜6の整数である。上記一般式(4b)中、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、mは、2〜6の整数である。また、n及びmの少なくともいずれかは3以上である。
【0057】
X
2の詳細については、上記一般式(3)で表される部分構造で説明した内容と同じであり、L
3の詳細については、上記一般式(4)で説明した内容と同じであるので、ここでの説明をそれぞれ省略する。なお、n及びmの少なくともいずれかは3以上なので、一般式(4a)で表す化合物と一般式(4b)で表す化合物とを重付加反応させて得られるポリマーは、必ず分岐構造を備えることになる。
【0058】
本発明の光学材料は、上記一般式(1)で表す、光照射を受けることで構造変化を生じる部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位の少なくとも一部とするポリマー(以下、単に「上記ポリマー等」とも呼ぶ。)を含むものである。上記ポリマー等を含む光学材料の製法としては、光学材料を構成するための基材に上記ポリマー等を添加する(又は練り込む)方法、光学材料を構成する基材に上記ポリマー等を塗布する方法、上記ポリマー等そのもので光学材料を形成する方法等が挙げられるが、これらに限定されず、何らかの形で光学材料に上記ポリマー等が含まれることになるものであればよい。なお、上記ポリマー等そのもので光学材料を形成する場合には、公知の成膜法や成形法を用いることができる。
【0059】
既に説明した通り、上記ポリマー等は、光照射を受けることで構造変化を生じて分子内にアミノ基を生成させ、それ自体の屈折率を増加させる性質を備える。したがって、上記ポリマー等を含む光学材料もまた、光照射を受けることでその屈折率を増加させるものであり、その光学材料は、高分子導波路や光スイッチのような光通信デバイスや、光ディスクのように高密度な記録容量を有する記録デバイス等の材料として有用である。
【0060】
<光学素子>
上記光学材料から作製された光学素子も本発明の一つである。このような光学素子は、光照射によって屈折率を増加させる能力を有するので、光照射をトリガーとして屈折率を変化させることが求められる用途に好ましく使用される。このような光学素子としては、高分子導波路や光スイッチ等の光通信デバイスや、光ディスクのように高密度な記録容量を有する記録デバイスや、光情報の伝達デバイス、変換デバイス等が挙げられる。
【0061】
<物品の屈折率を増加させる方法>
以上の通り、本発明の光学材料及び光学素子について説明したが、本発明は、光照射を受けることで構造変化を生じる下記一般式(1)で表す部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーを用い、その構造変化に伴って物品の屈折率を大きくする点を特徴とするものである。このような観点から、下記一般式(1)で表す、光照射を受けることで構造変化を生じる部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーを用い、その構造変化に伴って屈折率が大きくなる性質を利用して物品の屈折率を増加させる方法も本発明の一つである。なお、下記一般式(1)で表す部分構造を有する化合物、又はその部分構造を繰り返し単位中に有するポリマーについては既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【0062】
【化23】
(上記一般式(1)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、置換基を有してもよい芳香環、又は下記一般式(a)で表す2価の基である。)
【化24】
(上記一般式(a)中、各Ar
1は、それぞれ独立に置換基を有してもよい芳香環であり、L
1は、分枝を有してもよい炭素数1〜8のアルキレン基である。)
【0063】
また、これも既に述べたように、上記一般式(1)で表す部分構造のより具体的な一例として、下記一般式(2)で表される部分構造を挙げることができる。
【0064】
【化25】
(上記一般式(2)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
1は、分枝を有してもよい2価の有機基である。)
【0065】
また、これも既に述べたように、上記一般式(1)又は(2)で表される部分構造のさらに具体的な一例として、下記一般式(3)で表される部分構造を挙げることができる。
【0066】
【化26】
(上記一般式(3)中、波線の付された結合は、上記部分構造から他の原子への結合を表し、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、L
2は、分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基である。)
【0067】
また、これも既に述べた通り、上記ポリマーのさらに具体的な一例として、下記一般式(4)で表す構造を繰り返し単位とするポリウレタン、又は下記一般式(4a)で表すポリイソシアナート化合物と下記一般式(4b)で表すポリオール化合物との重付加反応により生成する分岐型ポリウレタンを挙げることができる。
【化27】
(上記一般式(4)中、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基である。)
【化28】
(上記一般式(4a)中、Arは、上記一般式(1)におけるものと同じであり、nは、2〜6の整数である。上記一般式(4b)中、X
2は、分枝及び/若しくは置換基を備えてもよい炭素数1〜8のアルキレン基、置換基を備えてもよい芳香環、又はポリマー構造を備えた2価の基であり、各L
3は、それぞれ独立に、単結合、又は分枝を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、mは、2〜6の整数である。また、n及びmの少なくともいずれかは3以上である。)
【0068】
屈折率を増加させる物品としては特に限定されず、また、当該物品に対して本発明で使用される上記ポリマー等を適用する手段も特に限定されない。つまり、本発明で使用される上記ポリマー等が何らかの物品に対して適用され、それによりその物品が屈折率を増加させる能力を獲得する方法であれば、本発明の範囲に含まれる。これらについては、上記で詳細に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げることにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
・トリレン−2,4−ジイソシアナート(2,4−TDI)と1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)を用いたポリウレタン(P−1)の合成
【化29】
【0071】
50mLのナス型フラスコに、トリレン−2,4−ジイソシアナート(2,4−TDI)3.66g(20.6mmol)、1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)2.76g(19.8mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)0.150g(0.237mmol)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)41.5mLを加え、アルゴン雰囲気下で、60℃にて内容物を24時間撹拌した。その後、メタノールを2〜3滴加えて反応を停止させ、メタノール及びアセトンの混合溶媒(5:1)250mLで再沈殿を行い、沈殿物を濾別した後、75℃にて減圧乾燥させることで白色固体のポリウレタン(P−1)を得た(収量3.4g、収率56%)。
FT−IR(KBr,cm
−1):3309(ν
ウレタンN−H),1706(ν
ウレタンC=O),1219(ν
ウレタンC−O)
1H−NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ(ppm):9.66(s,0.880H,H
f)、8.92(s,0.94H,H
a)、7.52(s,0.985H,H
e),7.41(s,2.88H,H
h),7.14(d,0.959H,J=8.00Hz,H
d),7.04(d,1.00H,J=8.50Hz,H
c),5.11(s,4.00H,H
g),2.09(s,3.00H,H
b)
【化30】
GPC(DMF,Polystyrene std.,MALS)M
n=18700,M
w=46400,M
w/M
n=2.49
【0072】
・ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)と1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)を用いたポリウレタン(P−2)の合成
【化31】
【0073】
50mLのナス型フラスコに、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)1.79g(6.79mmol)、1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)0.966g(6.93mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)0.0880g(0.139mmol)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)7mLを加え、アルゴン雰囲気下で、室温にて内容物を24時間撹拌した。その後、メタノールを2〜3滴加えて反応を停止させ、メタノール及びアセトンの混合溶媒(5:2)350mLで再沈殿を行い、沈殿物を濾別した後、75℃にて減圧乾燥させることで白色固体のポリウレタン(P−2)を得た(収量1.96g、収率72%)。
FT−IR(KBr,cm
−1):3319(ν
ウレタンN−H),1708(ν
ウレタンC=O),1525(ν
ウレタンC−N),1222(ν
ウレタンC−O)
1H−NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ(ppm):9.64(s,1.00H,H
a),7.41(s,1.85H,H
f),7.34(d,2.34H,J=6.50Hz,H
b),7.07(d,1.99H,J=7.50Hz,H
c),5.11(s,2.06H,H
e),3.77(s,1.00H,H
d)
【化32】
GPC(DMF,Polystyrene std.,MALS)M
n=38000,M
w=65100,M
w/M
n=1.71
【0074】
・ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)と1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)と2−メチル−1,3−プロパンジオール(MPDO)を用いたポリウレタン(P−3)の合成
【化33】
【0075】
50mLのナス型フラスコに、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)3.60g(14.4mmol)、1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)0.967g(7.00mmol)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(MPDO)0.630g(6.99mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)0.174g(0.276mmol)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)28.4mLを加え、アルゴン雰囲気下で、室温にて内容物を24時間撹拌した。その後、メタノールを2〜3滴加えて反応を停止させ、メタノール及びアセトンの混合溶媒(5:2)350mLで再沈殿を行い、沈殿物を濾別した後、75℃にて減圧乾燥させることで白色固体のポリウレタン(P−3)を得た(収量4.79g、収率94%)。
FT−IR(KBr,cm
−1):3333(ν
ウレタンN−H),1701(ν
ウレタンC=O),1526(ν
ウレタンC−N),1225(ν
ウレタンC−O)
1H−NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ(ppm):9.60(s,1.97H,H
a),9.55(s,1.97H,H
g),7.41−7.34(br,12.1H,H
c,f),7.20−7.18(br,8.13H,H
b),5.12(s,4.07H,H
e),4.08−3.88(s,4.23H,H
h),3.77(s,4.00H,H
d),2.19−1.83(br,1.08H,H
i),0.985−0.843(br,3.08H,H
k)
【化34】
GPC(DMF,Polystyrene std.,MALS)M
n=19100,M
w=54435,M
w/M
n=2.85
【0076】
・ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)と1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)と1,3−プロパンジオール(PDO)を用いたポリウレタン(P−4)の合成
【化35】
【0077】
50mLのナス型フラスコに、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(4,4’−MDI)1.68g(6.70mmol)、1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)0.441g(3.19mmol)、1,3−プロパンジオール(PDO)0.243g(3.19mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)0.0812g(0.129mmol)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)13.1mLを加え、アルゴン雰囲気下で、室温にて内容物を24時間撹拌した。その後、メタノールを2〜3滴加えて反応を停止させ、メタノール及びアセトンの混合溶媒(5:2)350mLで再沈殿を行い、沈殿物を濾別した後、75℃にて減圧乾燥させることで白色固体のポリウレタン(P−4)を得た(収量2.15g、収率94%)。
FT−IR(KBr,cm
−1):3325(ν
ウレタンN−H),1701(ν
ウレタンC=O),1528(ν
ウレタンC−N),1222(ν
ウレタンC−O)
1H−NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ(ppm):9.65(s,1.97H,H
a),9.55(s,1.93H,H
g),7.49−7.22(br,12.1H,H
c,f),7.08−7.07(br,8.09H,H
b),5.19−4.96(br,3.89H,H
e),4.16−4.09(br,3.81H,H
h),3.77(s,4.00H,H
d),2.00−1.72(br,2.28H,H
i)
【化36】
GPC(DMF,Polystyrene std.,MALS)M
n=12600,M
w=35910,M
w/M
n=2.85
【0078】
・トリレン−2,4−ジイソシアナート(2,4−TDI)と1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)と2−メチル−1,3−プロパンジオール(MPDO)を用いたポリウレタン(P−5)の合成
【化37】
【0079】
50mLのナス型フラスコに、トリレン−2,4−ジイソシアナート(2,4−TDI)3.17g(18.2mmol)、1,4−ベンゼンジメタノール(1,4−BDM)1.24g(9.00mmol)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(MPDO)0.810g(8.99mmol)、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)0.226g(0.358mmol)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)36.2mLを加え、アルゴン雰囲気下で、室温にて内容物を24時間撹拌した。その後、メタノールを2〜3滴加えて反応を停止させ、メタノール及びアセトンの混合溶媒(5:2)350mLで再沈殿を行い、沈殿物を濾別した後、75℃にて減圧乾燥させることで白色固体のポリウレタン(P−5)を得た(収量4.82g、収率93%)。
FT−IR(KBr,cm
−1):3294(ν
ウレタンN−H),1713(ν
ウレタンC=O),1535(ν
ウレタンC−N),1221(ν
ウレタンC−O)
1H−NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ(ppm):9.62(s,0.933H,H
f),9.52(s,0.885H,H
k),8.89(s、1.16H,H
a),8.70(s,0.768H,H
j),7.47(d,1.90H,J=8.00Hz,H
e),7.38−7.26(br,4.12H,H
h,i),7.11(d,2.11H,J=8.00Hz,H
d),7.01(d,1.93H,J=8.50Hz,H
e),5.15−5.08(br,4.13H,H
g),4.03−3.96(br,4.00H,H
l),2.16−1.96(br,7.11H,H
b,m),0.943−0.839(br,3.07H,H
i)
【化38】
GPC(DMF,Polystyrene std.,MALS)M
n=60700,M
w=144466,M
w/M
n=2.38
【0080】
・P−1〜P−5フィルムの光照射に伴うUV−vis(紫外−可視)吸収スペクトルの測定
P−1の2wt%乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)溶液、P−2の2wt%N−メチルピロリドン(NMP)溶液、P−3の3wt%N−メチルピロリドン(NMP)溶液、P−4の3wt%N−メチルピロリドン(NMP)溶液、又はP−5の2wt%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を調製し、スピンコート(1500〜3000rpm、180〜300秒)により石英基板上にフィルムを作製し、これを室温、減圧下で乾燥した。作製したフィルムにキセノンランプを用いて254nm、1.75mW/cm
2の光を、0〜30分までを5分間隔、30〜60分までを10分間隔で照射し、各照射時間におけるUV−vis吸収スペクトル測定を行った。それにより得られた、P−1についての光照射時間に対するUV−vis吸収スペクトル変化を示すチャートを
図1に示し、P−2についての光照射時間に対するUV−vis吸収スペクトル変化を示すチャートを
図2に示し、P−3についての光照射時間に対するUV−vis吸収スペクトル変化を示すチャートを
図3に示し、P−4についての光照射時間に対するUV−vis吸収スペクトル変化を示すチャートを
図4に示し、P−5についての光照射時間に対するUV−vis吸収スペクトル変化を示すチャートを
図5に示す。
【0081】
図1〜
図5に示すように、P−1〜P−5のいずれも、等吸収点を保ったまま光照射時間に応じたスペクトル変化を示した。等吸収点が保たれていることから、P−1〜P−5のいずれも、光照射に伴って主鎖のウレタン結合の光フリース転位反応が選択的に進行し、副反応はほぼ生じていないことが理解できる。
【0082】
・光照射後のP−1溶液におけるP−1とクロラニルの呈色反応
P−1のTHF溶液(0.05mol/L)に60分間光照射(254nm、1.75mW/cm
2)を行った。その後、当該溶液にクロラニルを1.33当量添加し、60℃で80分間撹拌した。これに伴って、芳香族1級アミンとクロラニルとの反応に伴う呈色が確認された。このことから、P−1は、光照射により1級アミノ基を生成したことが確認された。なお、P−2〜P−5についても同様の結果が得られた。
【0083】
・P−1及びP−2フィルムの光照射に伴う屈折率変化の測定
P−1の5wt%乾燥DMF溶液、又はP−2の7wt%NMP溶液を調製し、スピンコート(2500rpm、300秒)によりシリコン基板上にフィルムを作製し、これを室温、減圧下で乾燥した。作製したフィルムにキセノンランプを用いて254nm、1.75mW/cm
2の光を、0〜30分までを5分間隔、30〜60分までを10分間隔で照射し、エリプソメータを用いた楕円偏光解析法により各照射時間における屈折率を測定した。各照射時間における屈折率n、及び光照射開始前に対する各照射時間における屈折率変化量Δnをそれぞれ表1に示す。なお、光照射前におけるP−1フィルムの厚さは102.6±0.4nmであり、光照射前におけるP−2フィルムの厚さは107.1±0.5nmだった。
【0084】
【表1】
【0085】
・P−3〜P−5フィルムの光照射に伴う屈折率変化の測定
P−3〜P−5の3wt%N−メチルピロリドン(NMP)溶液をそれぞれ調製し、スピンコート(P−3;3000rpm、300秒、P−4;1650rpm、180秒、P−5;1900rpm、180秒)によりシリコン基板上にフィルムをそれぞれ作製し、これを室温、減圧下で乾燥した。作製したフィルムにキセノンランプを用いて254nm、1.75mW/cm
2の光を60分間照射し、エリプソメータを用いた楕円偏光解析法により各照射時間における屈折率を測定した。それぞれのフィルムについての屈折率、及び屈折率変化量Δnを表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
屈折率変化材料として応用するには、+0.010以上の屈折率変化を生じる必要がある。この点、表1に示すように、P−1は10分後、P−2は5分後には屈折率変化が0.010以上となることから、いずれも屈折率変化材料への応用に適していることがわかる。また、P−1は、60分後に屈折率が0.036増加し、P−2は、60分後に屈折率が0.041増加した。そして、表2に示すように、P−3は、60分後に屈折率が0.032増加し、P−4は、60分後に屈折率が0.036増加し、P−5は、60分後に屈折率が0.029増加した。このことから、本発明の光学材料は、屈折率増加を示す材料として優れることが理解される。