導波路装置は、第1および第2の方向に沿って拡がる第1導電性表面を有する第1導電部材と、前記第1導電性表面に対向する第2導電性表面を有する第2導電部材と、前記第1導電部材と前記第2導電部材との間に位置し、前記第1の方向に沿って延びる導波部材であって、前記第1導電性表面に対向する導電性の導波面を有する導波部材と、前記導波部材の両側に位置する導電性の複数のロッド列であって、各ロッド列は前記第1の方向に沿って配置された複数の導電性ロッドを含む複数のロッド列と、を備える。前記第1導電部材および前記第2導電部材の少なくとも一方は、少なくとも1つの穴を有する。
前記少なくとも1つの穴は、前記第3の方向から見たとき、前記複数の導電性ロッドのうちの隣接する何れか2つの導電性ロッドの間、または、前記複数のロッド列に含まれる互いに隣り合う4つの導電性ロッドの間に、中心が位置する穴を含む、請求項1または2に記載の導波路装置。
前記複数の穴は、前記第3の方向から見たとき、前記複数のロッド列におけるいずれかの導電性ロッドに重なる位置にある穴を含む、請求項4から8のいずれかに記載の導波路装置。
前記複数の穴は、前記第2導電部材と、前記複数のロッド列に含まれる導電性ロッドまたは前記導波部材とを貫通する1つ以上の穴を含む、請求項4から9のいずれかに記載の導波路装置。
前記第3の方向から見たとき、前記少なくとも1つの穴の形状は、円、楕円、多角形、および角の丸い多角形のいずれかの形状である、請求項4から10のいずれかに記載の導波路装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0013】
前述の特許文献1から5、ならびに非特許文献1および2に開示されているリッジ導波路は、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられている。このような人工磁気導体を、本開示に基づき利用するリッジ導波路(以下、WRG:Waffle−iron Ridge waveGuideと称する場合がある。)は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子(放射素子ともいう)を高密度に配置することが可能である。そのような導波路構造の基本的な構成および動作の例については、特許文献4および5に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0014】
ワッフルアイアン構造は、典型的には、導電性の複数のロッドを備えた導電部材と、各ロッドの先端部に対向する導電性表面を有するもう一つの導電部材との、2つの導電部材から構成される。これら二つの導電部材は、電気的に接続しておく必要が無い。その点で、ワッフルアイアン構造は製造および組み立てが比較的容易である。しかし、これら導電部材の表面は、連続した導電性の表面を備えている必要がある。このため、各導電部材の少なくとも表面は、途切れ目無く金属で覆われている必要があった。この制約は、少なからず、ワッフルアイアン構造の用途を制約していた。これに対して、本発明者らは、各導電部材に穴を開けても、穴の開口径が小さければ、人工磁気導体としての機能が維持されることを見出した。穴は、導電部材を貫通する貫通孔、または導電部材を貫通しない底を有する穴であり得る。以下の説明において、底を有する穴を「凹部」と称することがある。ワッフルアイアン構造で閉じ込められるべき電磁波の自由空間波長をλoとするとき、穴の開口径(円形の場合は直径、矩形の場合は長辺の長さ)がλo/4未満である場合は、人工磁気導体としての機能は維持され得る。また、開口径がλo/4以上であってもλo/2未満である場合は、穴が貫通孔であったとしても電磁波が貫通孔を通って外部に漏れることを回避することができる。このような、少なくとも一方の導電部材が貫通孔または凹部などの穴を有するワッフルアイアン構造は、マイクロ波集積回路からの電磁波の漏洩を防ぐための閉じ込め部材として使用することができる。また、導電部材の何れか一方がリッジ状の導波部材を有する場合は、WRG構造を構成することができる。更に、リッジ状の導波部材の導波面にも、開口径が小さければ、貫通孔または凹部を設けることができる。このような構造を採用することで、ワッフルアイアン構造の用途が大きく拡がる。
【0015】
本開示の導波路装置は、アンテナ装置に限らず、他の様々な用途に利用することが可能である。例えばマイクロ波化学反応装置またはテラヘルツ分光分析装置などの各種の装置に、本開示の導波路装置を利用することができる。本開示はさらに、ワッフルアイアン構造を有する新規な電磁波閉じ込め装置も提供する。複数の穴を開けることにより、これらの装置の軽量化を図ることもできる。本明細書において、「ワッフルアイアン構造」とは、導電部材上に複数の導電性ロッドが配列され、電磁波の閉じ込め機能を有する構造を意味する。
【0016】
以下、本開示の実施形態をより詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0017】
(実施形態1)
図1Aは、本開示の例示的な第1の実施形態による導波路装置100Aを示す斜視図である。
図1Bは、本実施形態の導波路装置100Aにおける第1導電部材110を除いた構造を示す斜視図である。
図1Cは、
図1Bに示す構造を+Z方向から見たときの平面図である。なお、
図1Aから
図1Cは、導波路装置100Aの一部のみを示している。この点は、以下の実施形態においても同様である。
【0018】
図1Aから1Cにおいては、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0019】
導波路装置100Aは、第1導電部材110と、第2導電部材120と、導波部材122と、導波部材122の両側に位置する複数のロッド列124Xとを備える。複数のロッド列124Xの各々は、Y方向に並ぶ複数の導電性ロッド124を含む。
【0020】
第1導電部材110は、第1の方向(本実施形態ではY方向)、および第1の方向に交差する第2の方向(本実施形態ではX方向)に沿って拡がる第1導電性表面110aを有する。第2導電部材120は、第1導電性表面110aに対向する第2導電性表面120aを有する。本実施形態における第1導電部材110および第2導電部材120は、いずれも板形状を有する。第1導電部材110および第2導電部材120の各々は、ブロック形状を有していてもよい。
【0021】
導波部材122は、第1導電部材110と第2導電部材120との間に位置し、第1の方向(Y方向)に沿って延びる構造を有する。本実施形態における導波部材122は、第2導電部材120の第2導電性表面120aから突出するリッジ形状を有する。導波部材122は、第1導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを、その頂部に有する。
【0022】
複数のロッド列124Xは、導波部材122に沿って配置されている。複数のロッド列124Xは、第2の方向(X方向)に沿って並んでいる。各ロッド列124Xは、第1の方向(Y方向)に沿って配置された複数の導電性ロッド124を含む。各導電性ロッド124は、第2導電性表面120aに接続された基部と、第1導電性表面110aに対向する先端部とを有する。これらの複数の導電性ロッド124は、前述の人工磁気導体として機能する。
【0023】
導波部材122の導波面122aおよび各導電性ロッド124の先端部と、第1導電性表面110aとは接触しておらず、間隙が存在する。第1導電性表面110aと導波面122aとの間に導波路が規定される。
【0024】
導波路装置100Aは、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波を導波面122aに沿って伝搬させる用途で用いられる。本明細書において、第1導電性表面110aと導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波の動作周波数帯域の中心周波数に対応する自由空間における波長をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。
【0025】
第1導電性表面110aと第2導電性表面120aとの間隔は、λm/2未満に設定される。導波部材122の幅(X方向のサイズ)、各導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)、隣接する2つの導電性ロッド124の間隙の幅、導波部材122と導電性ロッド124との間隙の幅についても同様に、λm/2未満に設定される。この条件は、第1導電性表面110aと第2導電性表面120aとの間の空間で共振が生じ、電磁波の閉じ込め効果が失われることを避けるために課される。
【0026】
一例として、導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。この場合、λmは3.8934mmとなるので、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さい値に設計される。第1導電部材110と第2導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、第1導電部材110と第2導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、第1導電部材110および/または第2導電部材120の全体または一部の表面が曲面形状を有していてもよい。
【0027】
複数の導電性ロッド124の形状および配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、第2導電部材120上の位置によって異なっていてよい。各導電性ロッド124の高さは一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0028】
各導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、各導電性ロッド124は、その幅が基部から先端部にわたって一定である必要はない。例えば基部から先端部に向かって幅が単調に減少する形状であってもよい。
【0029】
本実施形態における導波部材122は、Y方向に沿って一様な幅および一様な高さを有する。このような形態に限定されず、導波部材122の幅および高さは、Y方向に沿って変動していてもよい。例えば、伝搬する電磁波の位相を調整する目的で、導波部材122の導波面122aの高さまたは幅を局所的に変化させてもよい。
【0030】
本実施形態では、導波部材122の+X方向側および−X方向側のそれぞれに、3列ずつロッド列124Xが配置されている。これらのロッド列124Xの各々は、8個の導電性ロッド124を含む。さらに、導波部材122の+Y方向側の一端から間隙を介して、3つの導電性ロッド124を含むロッド列124Xが配置されている。これらの計7個のロッド列124Xは、X方向に等間隔に並んでいる。なお、このような構成はあくまでも例示であり、ロッド列の数および各ロッド列に含まれるロッドの数、およびそれらの配列態様は用途に応じて様々に決定される。
【0031】
第1導電部材110は、複数のロッド列124Xに沿って配置された複数の貫通孔116を有する。第2導電部材120も、複数のロッド列124Xに沿って配置された複数の貫通孔126を有する。本実施形態では、第1導電部材110および第2導電部材120の両方が複数の貫通孔を有する。このような構造に限らず、導電部材110、120の一方のみが複数の貫通孔を有していてもよい。また、複数の貫通孔の少なくとも1つを、底のある穴すなわち凹部に置換してもよい。複数の貫通孔または凹部は、必ずしも複数のロッド列124Xの全てに沿って配置されている必要はなく、一部のロッド列124Xに沿って配置されていてもよい。第1導電部材110および第2導電部材120の少なくとも一方が有する穴の個数は1つであってもよい。言い換えれば、第1導電部材110および第2導電部材120の少なくとも一方が、複数のロッド列124Xに含まれるいずれかの導電性ロッドに隣接して配置された少なくとも1つの穴を有し得る。
【0032】
貫通孔または凹部などの穴を設けることによって、第1導電部材110または第2導電部材120の軽量化を図ることができる。この目的で貫通孔または凹部を設ける場合、達成される軽量化の程度は、貫通孔または凹部の位置によらない。しかし、他の効果を得ることを目的とする場合は、貫通孔または凹部の位置が効果に差異をもたらす場合がある。例えば、導波路装置をマイクロ波化学反応装置に用いる場合は、導波部材122に隣接する位置、あるいは導波部材122上に1つ以上の貫通孔を設けることが好ましい。導波部材122の周辺で電磁波の強度が最も高く、貫通孔を通して供給される原料物質は、その強い電磁波に晒され、反応が効率的に進むことになるからである。他方、第1導電部材110あるいは第2導電部材120の位置決めに用いる貫通孔や凹部などの穴を設ける場合は、導波部材122との間に1列のロッド列を隔てた位置に穴を配置することがより好ましい。言い換えれば、第3の方向(本実施形態ではZ方向)から見たとき、導波部材122に隣接する第1種のロッド列と、第1種のロッド列に隣接する第2種のロッド列との間に、開口の中心が位置するように、貫通孔または凹部などの穴が配置され得る。そのような配置にすることで、貫通孔または凹部の位置における電磁波の強度が大きく低下し、貫通孔または凹部が導波路の特性に与える影響が小さくなるからである。加えて、導波部材122と貫通孔または凹部との間には、1列のロッド列のみが介在していれば良いので、導波路装置の寸法を小型に設計することができる。
【0033】
図1Cは、第1および第2の方向の両方に垂直な第3の方向(本実施形態ではZ方向)から見た第2導電部材120、導波部材122、複数の貫通孔126、および複数のロッド列124Xの位置関係を示している。複数の貫通孔126は、X方向およびY方向の両方に列を成す。また、複数のロッド列124Xの各々はY方向に並ぶ複数の導電性ロッド124を含む。このため、複数の導電性ロッド124も、X方向およびY方向の両方に列を成す。本実施形態では、複数の貫通孔126の列と、複数の導電性ロッド124の列は、X方向においてもY方向においても重ならない。複数の導電性ロッド124の列が無い場所に、複数の貫通孔126の列が位置する配置が採用されている。このような配置を採用することで、多くの貫通孔126を開けても、第2導電部材120の機械的強度を比較的高く保つことができる。
【0034】
図1Cには示されていないが、第1導電部材110における複数の貫通孔116は、Z方向から見たとき、第2導電部材120における複数の貫通孔126と同じ位置にある。複数の貫通孔116、126の各々の中心は、Z方向から見たとき、導波部材122および導電性ロッド124に重ならない位置にある。より具体的には、複数の貫通孔116、126の多くの中心は、Z方向から見たとき、互いに隣り合う4つの導電性ロッド124の間に位置する。
【0035】
導電部材110、120を、例えばダイキャスト法あるいは射出成型などの、型内の空洞に流動状態にある素材を注入する方法で製造する場合、穴を上記の配置とすることで、製品の品質が向上し得る。各穴の中心を導電性ロッドの直下とは異なる位置に配置することにより、空洞のうちの導電性ロッドを形成する部分に、流動状態にある素材が流入しやすくなるためである。また、穴の中心を、第1種のロッド列または第2種のロッド列を構成する複数の導電性ロッドのうち、隣接する何れか2つの間に位置させても良い。この場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0036】
このような形態に限らず、複数の貫通孔116、126の一部が、第3の方向から見たとき、導波部材122または導電性ロッド124に重なっていてもよい。ただし、複数の貫通孔116、126の少なくとも一部は、第3の方向から見たとき、導波部材122、および導波部材122に隣接するロッド列124Xと導波部材122との間隙のいずれにも重ならない位置に配置される。
【0037】
本実施形態における複数の導電性ロッド124は、X方向およびY方向に沿って行および列状に配置されている。複数の貫通孔116、126も、X方向およびY方向に沿って行および列状に配置されている。本実施形態において、複数の導電性ロッド124の行数は8、列数は7であり、複数の貫通孔116、126の行数は7、列数は6列である。ただし、これは例示に過ぎない。これらの行数および列数は、用途に応じて最適な数に設定される。
【0038】
本実施形態では、複数の導電性ロッド124および複数の貫通孔116、126の、X方向(第1の方向)およびY方向(第2の方向)における配置周期は一定であるが、必ずしも一定である必要はない。各ロッド列124Xにおける複数の導電性ロッド124が、Y方向に第1の周期で配置されている場合、複数の貫通孔116、126も、Y方向に第1の周期で配置され得る。複数の導電性ロッド124、および複数の貫通孔116、126は、X方向に第2の周期で配置され得る。第2の周期は、第1の周期と一致していてもよいし異なっていてもよい。
【0039】
本実施形態においては、第3の方向から見た複数の貫通孔116、126の各々の形状は、角の丸い正方形状である。その一辺の長さsは、使用される周波数帯域の中心周波数における電磁波の自由空間波長λoの1/8程度である。ただしこのような形状および寸法に限定されない。第3の方向から見たときの各貫通孔116、126の形状として、例えば、円形、楕円形、多角形、または角の丸い多角形などの種々の形状を採用できる。各貫通孔116、126の大きさについても、機能または耐久性に影響を及ぼさない限り、自由に設定することができる。ただし、各貫通孔の開口の幅は、その貫通孔に最も近い2つの隣接する導電性ロッド124の中心間の間隔よりも小さい値に設定される。ここで貫通孔の「開口」とは、その貫通孔において、第1導電性表面110aまたは第2導電性表面120aと同一の平面内にあるとみなせる部分を指す。「開口の幅」は、その開口の中心と、その開口の両端部とを結ぶ直線または折れ線の長さを意味する。以下、
図1Dを参照して、「開口の幅」の例を説明する。
【0040】
図1Dは、貫通孔の開口の形状のいくつかの例を示している。
図1Dの(a)は、角の丸い正方形状の貫通孔の開口を示している。
図1Dの(b)は、直線的な形状の貫通孔の開口を示している。
図1Dの(c)は、U型の開口形状を有する貫通孔の一例を示している。
図1Dの(d)は、Z型の開口形状を有する貫通孔の一例を示している。
図1Dの(c)および(d)の例における貫通孔は、平行な一対の直線状部分と、それらの端部同士を結ぶ他の直線状部分とを含む。
図1Dの(e)は、H型の開口形状を有する貫通孔の一例を示している。この例における貫通孔は、平行な一対の直線状部分(「縦部」とも称する。)と、一対の直線状部分の中央部同士を結ぶ他の直線状部分(「横部」とも称する。)とを含んでいる。このように、本開示の実施形態において使用され得る貫通孔の開口形状は多様である。
【0041】
図1Dの(a)から(e)において、貫通孔の開口の幅が両矢印で示されている。
図1Dの(a)に示すように、貫通孔の開口形状が矩形に近い場合、長辺の長さが開口の「幅」に相当する。
図1Dの(b)に示すように、貫通孔の開口形状が楕円形に近い場合、長軸の長さが開口の「幅」に相当する。
図1Dの(c)から(e)に示すように、貫通孔の開口が複数の直線状部分の組み合わせによって構成される場合、それらの直線状部分の中心線を開口の一端から他端まで結んだ長さのうちの最大の長さが、その開口の「幅」に相当する。
【0042】
第1導電部材110の各貫通孔116の形状、寸法、位置は、アンテナ素子としてのスロットとして機能しない形状、寸法、位置に設定される。すなわち、各貫通孔116は、導波部材122の導波面122aに沿って伝搬する電磁波の伝搬を妨げないようにその形状、寸法、および位置が設計される。仮に導波部材122に最も近接する複数の貫通孔116が、Y方向に長くX方向に短い平面形状を有し、導波面122aの縁に対向する位置またはその近傍に配置された場合、その貫通孔116はスロットすなわちアンテナ素子として機能し得る。その場合、導波面122aに沿って伝搬する電磁エネルギーの損失を招く。よって、本実施形態における各貫通孔116は、アンテナ素子として機能する条件を満たさないように設計される。例えば、各貫通孔116は、λo/2よりも小さい寸法(例えば辺の長さまたは直径)を持つように設計される。
【0043】
導波路装置100Aがミリ波の伝送に用いられる場合、使用される周波数は、およそ30GHz以上300GHz以下であり、λoは、およそ1mm以上10mm以下である。その場合、各貫通孔116、126のY方向およびX方向の寸法は、例えば0.5mm未満、典型的には0.25mm未満に設定され得る。使用される電磁波がテラヘルツ波である場合、この寸法はさらに小さくなる。
【0044】
なお、第1導電部材110の+Z方向側の表面および各貫通孔116の内壁面は、必ずしも導電性を有している必要はない。第2導電部材120の−Z方向側の表面および各貫通孔126の内壁面も同様に、必ずしも導電性を有している必要はない。
【0045】
本実施形態では、Z方向から見たとき、第1導電部材110における複数の貫通孔116と、第2導電部材120における複数の貫通孔126とが、重なるように配置されている。しかし、本開示はこのような構造に限定されない。第3の方向から見たとき、第1導電部材110における複数の貫通孔116と、第2導電部材120における複数の貫通孔126とが部分的に重なっていてもよいし、全く重なっていなくてもよい。
【0046】
本実施形態では、第2導電部材120における複数の貫通孔126は、導波部材122および複数の導電性ロッド124が配置されていない箇所に配置されている。このような構造に限らず、例えば後述する実施形態3、4のように、複数の貫通孔126が、第2導電部材120と、導波部材122または導電性ロッド124とを貫通する1つ以上の貫通孔を含んでいてもよい。
【0047】
複数の貫通孔116、126は、導波路装置100Aの軽量化に寄与する。したがって、本実施形態の導波路装置100Aを備えた装置(例えばアンテナ装置)を、より軽量にすることができる。また、複数の貫通孔116、126は、放熱効果ももたらす。したがって、例えば導波路装置100Aに接続された電子回路(例えばマイクロ波集積回路)から発生する熱を効果的に放出することができる。さらに、これらの貫通孔116、126は、液体などの流体を、第1導電部材110と第2導電部材120との間の空間に供給することを可能にする。このことは、後述するように、導波路装置100Aを、例えばマイクロ波化学反応装置およびテラヘルツ波分析装置などの各種の用途に利用することを可能にする。さらには、第1導電部材110と第2導電部材120との間を、水あるいはその他の洗浄液を用いて洗浄することも可能になる。したがって、導波路装置100Aを、屋外などの汚れ易い環境に設置して使用することが可能である。
【0048】
(実施形態2)
図2Aは、本開示の例示的な第2の実施形態による導波路装置100Bを示す斜視図である。
図2Bは、導波路装置100Bから第1導電部材110を除いた構造を示す斜視図である。
図2Cは、導波路装置100Bから第1導電部材110を除いた構造を示す平面図である。
【0049】
本実施形態では、第1導電部材110および第2導電部材120における貫通孔の個数および配置が、実施形態1とは異なっている。本実施形態では、第1導電部材110は、ほぼ矩形の平面形状を有する複数の貫通孔116aと、ほぼ円形の平面形状を有する複数の貫通孔116bとを有する。第1導電部材110における矩形の貫通孔116aの各々は、互いに隣接する4つの円形の貫通孔116bの間の位置にある。複数の貫通孔116bの一部は、導波部材122の導波面に対向する位置にある。
【0050】
図2Bおよび
図2Cに示すように、第2導電部材120も、ほぼ矩形の平面形状を有する複数の貫通孔126aと、ほぼ円形の平面形状を有する複数の貫通孔126bとを有する。矩形の貫通孔126aの各々は、X方向において隣り合う2つの導電性ロッド124の間、またはX方向において隣り合う導波部材122と導電性ロッド124との間に位置する。円形の貫通孔126bの各々は、Y方向において隣り合う2つの導電性ロッド124の間に位置する。このような構成とすることで、実施形態1の第2導電部材120よりも、孔の領域を大きくすることが可能である。Z方向から見たとき、第1導電部材110における矩形の貫通孔116aは、第2導電部材120における矩形の貫通孔126aに重なり、第1導電部材110における円形の貫通孔116bは、第2導電部材120における円形の貫通孔126bに重なる。
【0051】
本実施形態では、第1導電部材110は、導波部材122の導波面122aに対向する複数の円形の貫通孔116bを有する。これらの貫通孔116bの直径は、導波路を伝搬する電磁波の自由空間波長λoの1/2よりも十分に小さく、例えばλoの1/8よりも小さい。このような貫通孔116bが配置されていても、電磁波は、貫通孔116bから外部に漏出することなく、導波部材122に沿って伝搬する。
【0052】
(実施形態3)
図3Aは、本開示の例示的な第3の実施形態による導波路装置における第2導電部材120を示す斜視図である。
図3Bは、本実施形態における第2導電部材120を示す平面図である。図示されていないが、本実施形態における第1導電部材110は、第1の実施形態における第1導電部材110と同一の構造を有する。第1導電部材110は、第2の実施形態における第1導電部材110と同様の構造を有していてもよい。
【0053】
本実施形態における第2導電部材120は、第1の実施形態における複数の貫通孔126と同じ位置に配置された複数の貫通孔126aに加えて、第2導電部材120と導波部材122とを貫通する複数の貫通孔126bを有する。これらの貫通孔126bは、Z方向から見たときに、一辺の長さが導波部材122の導波面の幅よりも小さい正方形状を有する。これらの貫通孔126bの平面形状は、正方形状に限らず、円形などの他の形状であってもよい。このような貫通孔126bを設けることで、導波部材122に沿って伝搬する電磁波の位相を調整することができる。このような貫通孔126bに代えて、複数の凹部または凸部を導波面に設けてもよい。その場合も同様に位相を調整することができる。
【0054】
(実施形態4)
図4Aは、本開示の例示的な第4の実施形態による導波路装置における第2導電部材120を示す斜視図である。
図4Bは、本実施形態における第2導電部材120を示す平面図である。図示されていないが、本実施形態における第1導電部材110は、第1の実施形態における第1導電部材110と同一の構造を有する。第1導電部材110は、第2の実施形態における第1導電部材110と同様の構造を有していてもよい。
【0055】
本実施形態における第2導電部材120は、第1の実施形態における複数の貫通孔126と同じ位置に配置された複数の貫通孔126aに加えて、複数の導電性ロッド124をそれぞれ貫通する複数の貫通孔126bを有する。これらの貫通孔126bは、Z方向から見たときに、直径が導電性ロッド124の幅よりも小さい円形状を有する。このような構成とすることで、実施形態2の導電部材120よりも、孔の領域を大きくすることが可能である。このような貫通孔126bを設けた場合も、複数の導電性ロッド124は、人工磁気導体として機能する。よって、導波路の機能を損なうことなく、上述した効果を得ることができる。
【0056】
本実施形態の構成に加えて、さらに実施形態3のように導波部材122を貫通する1つ以上の貫通孔を設けてもよい。また、導電性ロッド124を貫通する貫通孔126bのみを設け、導電性ロッド124に隣接する貫通孔126aが設けられていなくてもよい。
【0057】
(実施形態5)
図5は、本開示の例示的な第5の実施形態による電磁波閉じ込め装置の構成を模式的に示す斜視図である。本実施形態の電磁波閉じ込め装置は、前述の導波路装置に類似する構造を有するが、導波部材を備えていない。
図5では、わかり易くするため、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔を極端に広げた様子が示されている。実際に使用されるときには、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔は、使用される電磁波の自由空間波長の1/2未満の間隔に保持される。
【0058】
本実施形態における第1導電部材110は、貫通孔を有しない。第2導電部材120は、複数の導電性ロッド124に沿って行および列状に配置された複数の貫通孔126a、126bを有する。複数の貫通孔126aの各々は、導電性ロッド124に隣接して配置され、複数の貫通孔126bの各々は、第2導電部材120と導電性ロッド124とを貫通する。本実施形態では、各貫通孔126a、126bは、円形の平面形状を有する。
【0059】
本実施形態の電磁波閉じ込め装置には、外部から高周波の電磁波が供給される。ここで高周波(radio frequency:RF)とは、10kHz以上の周波数を指す。電磁波閉じ込め装置は、高周波の電磁エネルギーを閉じ込めるワッフルアイアン構造を備える。複数の導電性ロッド124は人工磁気導体として機能する。このため、供給された電磁波のエネルギーは、第1導電部材110と第2導電部材120との間に閉じ込められる。
【0060】
本実施形態では、第2導電部材120が貫通孔126a、126bを備えている。第2導電部材120に代えて第1導電部材110が1つ以上の貫通孔を備えていてもよい。あるいは、第1導電部材110および第2導電部材120の両方が1つ以上の貫通孔を備えていてもよい。貫通孔に代えて、底のある穴が第1導電部材110または第2導電部材120に設けられていてもよい。第1導電部材110および第2導電部材120の少なくとも一方は、Z方向から見たとき、2つの隣接する導電性ロッド124の間で且つ第2導電部材120の導電性表面または第1導電部材110の導電性表面に対向する位置、またはいずれかの導電性ロッド124に重なる位置に配置された少なくとも1つの穴を有するように構成され得る。当該少なくとも1つの穴の開口の幅は、当該穴に最も近い2つの隣接する導電性ロッドの中心間の間隔よりも小さい値に設定され得る。当該少なくとも1つの穴は、Z方向(第3の方向)から見たとき、複数の導電性ロッド124のうちの隣接する何れか2つの導電性ロッドの間、または、複数のロッド列に含まれる互いに隣り合う4つの導電性ロッド124の間に、中心が位置する穴を含み得る。
【0061】
(他の実施形態)
本開示の実施形態による導波路装置においては、第1導電部材110および第2導電部材120の少なくとも一方が、1つまたは複数の貫通孔を有する。それらの貫通孔を通して、液体または気体などの流体を、第1導電部材110と第2導電部材120との間に供給することができる。このため、導波路装置を、例えばマイクロ波化学反応装置に利用することができる。
【0062】
マイクロ波化学反応装置は、マイクロ波を原料に照射することによって原料を加熱し、化学反応を促進させる装置である。マイクロ波化学反応装置は、原料を比較的短時間で、均一に加熱できるなどの利点があるため、種々の化学反応に利用することが期待されている。
【0063】
マイクロ波化学反応装置は、前述のいずれかの実施形態における導波路装置と、導波路装置に接続されたマイクロ波発生装置とを備える。
図6は、マイクロ波化学反応装置の構成の一例を模式的に示している。このマイクロ波化学反応装置は、実施形態1における導波路装置100Aと、マイクロ波発生装置250とを備える。マイクロ波発生装置250は、高周波発振器(radio frequency oscillator)を含み得る。高周波発振器としては、例えばマグネトロン(cavity magnetron)あるいはクライストロン(klystron)を用いることができる。高周波発振器は、導波路装置100Aに接続され、導波部材122の導波面122aと第1導電部材110の導電性表面110aとの間のWRG導波路に、マイクロ波を供給する。高周波発振器は、WRG導波路に直接的に接続されていてもよいし、他の導波路を介してWRG導波路に接続されていてもよい。
【0064】
第1導電部材110および第2導電部材120は、反応容器の内部に配置され得る。あるいは、第1導電部材110および第2導電部材120は、反応容器の一部として使用され得る。複数の貫通孔を通して、第1導電部材110と第2導電部材120との間に原料の溶液を供給することができる。高周波発振器は、マイクロ波をWRG導波路に供給する。WRG導波路を伝搬したマイクロ波は、原料を加熱し、化学反応を促進させる。マイクロ波化学反応装置は、反応をさらに促進させるために、第1導電部材110と第2導電部材120との間の溶液を循環させる攪拌装置(例えば、羽根車を備える)をさらに備えていてもよい。
【0065】
本開示の導波路装置および電磁波閉じ込め装置は、マイクロ波を利用する用途に限らず、例えばテラヘルツ波を利用する用途にも使用され得る。テラヘルツ波は、マイクロ波よりも高い周波数(およそ300GHz以上3THz以下)を有する。テラヘルツ波は、例えば分光分析に利用され得る。一例として、本開示の実施形態による導波路装置は、テラヘルツ波を利用した分光分析装置に利用することができる。そのような分析装置は、前述の導波路装置と、当該導波路装置に接続されたテラヘルツ波源(例えば、フェムト秒レーザ)と、テラヘルツ波を検出する検出器とを備え得る。導波路装置の第1導電部材110と第2導電部材120との間に、分析対象の気体または液体が供給される。
【0066】
以上において説明した本開示の実施形態においては、第1導電部材および第2導電部材の少なくとも一方が、複数の貫通孔を有する。本開示の実施形態においては、貫通孔に代えて、凹部すなわち底のある穴を用いることもできる。すなわち、上述した本開示の実施形態において、複数の貫通孔の一部または全てを、導電性表面に開口を有する凹部すなわち底のある穴で置き換えても、導波路装置または電磁波閉じ込め装置を得ることができる。以下に説明する例でも同様に、貫通孔を底のある穴で置き換えることができる。
【0067】
次に、アンテナ装置の実施形態を説明する。
【0068】
本開示の実施形態によるアンテナ装置は、前述の導波路装置と、導波路装置における導電部材の導波面と第1導電部材の導電性表面との間の導波路に結合する1つ以上のアンテナ素子とを備える。以下、アンテナ装置の一例として、複数のスロットを複数のアンテナ素子として備えるスロットアレイアンテナを説明する。
【0069】
図7Aは、例示的な実施形態によるスロットアレイアンテナ300の構成を模式的に示す斜視図である。
図7Bは、このスロットアレイアンテナ300におけるX方向に並ぶ3つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。
【0070】
図7Cは、わかりやすさのため、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔を極端に離した状態にあるスロットアレイアンテナ300を模式的に示す斜視図である。現実のスロットアレイアンテナ300では、
図7Aおよび
図7Bに示すように、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔は狭く、第1導電部材110は、第2導電部材120の導電性ロッド124を覆うように配置される。
【0071】
本実施形態における第1導電部材110は、3列のスロット列と、その周囲に配置された複数の貫通孔116とを有する。各スロット列は、Y方向に並ぶ複数のスロット112を含む。第2導電部材120上には、3つの導波部材122と、複数の導電性ロッド124とが配置されている。第2導電部材120は貫通孔を有していない。
【0072】
本実施形態では、隣接する2つの導波部材122の間の導電性ロッド124の列数が少なく、1列のみである。このため、隣接する2つの導波部材122の間に2列以上の導電性ロッド124の列が配置された構成と比較して、複数の導波部材122の相互の間隔、およびX方向のスロット間隔を短縮することができる。このため、X方向において、スロットアレイアンテナ300のグレーティングローブの発生する方位を、中心方向から離すことができる。周知のように、アンテナ素子の配列間隔(すなわち、隣接する2つのアンテナ素子の中心間隔)が、使用される電磁波の波長の半分よりも大きくなると、アンテナの可視領域内にグレーティングローブが現れる。アンテナ素子の配列間隔がさらに広がると、グレーティングローブの生じる方位が主ローブの方位に近づく。グレーティングローブの利得は、セカンドローブの利得よりも高く、主ローブの利得と同等である。このため、グレーティングローブの発生は、レーダの誤検知および通信アンテナの効率の低下を招く。そこで、本実施形態では、隣り合う2つの導波部材122の間の導電性ロッド124の列数を1列にして、X方向のスロット間隔を短縮している。これにより、グレーティングローブの影響を低減できる。
【0073】
図7Cに示されている各導波部材122の導波面122aは、Y方向に延びるストライプ形状(「ストリップ形状」と称することもある。)を有する。各導波面122aは平坦であり、一定の幅(X方向のサイズ)を有する。ただし、本開示はこのような例に限定されず、導波面122aの一部に、高さまたは幅が他の部分とは異なる部分を有していてもよい。そのような部分を意図的に設けることにより、導波路の特性インピーダンスを変化させ、導波路内の電磁波の伝搬波長を変化させたり、各スロット112の位置での励振状態を調整したりすることができる。なお、本明細書において「ストライプ形状」とは、縞(stripes)の形状を意味するのではなく、単一のストライプ(a stripe)の形状を意味する。一方向に直線的に延びる形状だけでなく、途中で曲がったり、分岐したりする形状も「ストライプ形状」に含まれる。導波面122a上に高さまたは幅の変化する部分が設けられている場合も、導波面122aの法線方向から見て一方向に沿って延びる部分を含む形状であれば、「ストライプ形状」に該当する。
【0074】
本実施形態では、第1導電部材110の全体が導電性の材料で構成され、各スロット112は、第1導電部材110に設けられた開口である。しかし、スロット112はこのような構造に限定されない。例えば、第1導電部材110が内部の誘電体層と表面の導電層とを含む構成では、導電層にのみ開口が設けられ、誘電体層には開口が設けられていない構造であってもスロットとして機能する。
【0075】
図7Bに示すように、第2導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124の各々は、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一または実質的に同一の平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも上面および側面に沿って拡がる導電層があればよい。この導電層はロッド状構造物の表層に位置してもよいし、表層が絶縁塗装または樹脂層からなり、ロッド状構造物の表面には導電層が存在していなくてもよい。第2導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。第2導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導電体によって電気的に接続されていればよい。第2導電部材120の導電性を有する層は、絶縁塗装または樹脂層で覆われていてもよい。言い換えると、第2導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、第1導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電層を有していればよい。
【0076】
図示される第1導電部材110と各導波部材122との間の導波路は、両端が開放されている。
図7Aから
図7Cには示されていないが、各導波部材122の一端に近接してチョーク構造が設けられ得る。チョーク構造は、典型的には、長さがおよそλo/8の付加的な伝送線路と、その付加的な伝送線路の端部に配置される深さがおよそλo/4である複数の溝、または高さがおよそλo/4である導電性のロッドの列から構成され、入射波と反射波との間に約180°(π)の位相差を与える。これにより、導波部材122の両端から電磁波が漏洩することを抑制できる。
【0077】
チョーク構造における付加的な伝送線路の長さはλr/4が良いと考えられていた。ここでλrは伝送線路上での信号波の波長である。しかし、本発明者らは、チョーク構造における付加的な伝送線路の長さがλr/4よりも短い場合において、電磁波の漏洩を抑制し、良好に機能し得ることを見出している。実際には、付加的な伝送線路の長さは、λr/4よりも短いλo/4以下とすることがより好ましい。本開示のある実施形態において、付加的な伝送線路の長さは、λo/16以上λo/4未満に設定され得る。
【0078】
図示されていないが、スロットアレイアンテナ300における導波構造は、不図示の送信回路または受信回路(すなわち電子回路)に接続されるポート(貫通孔)を有する。ポートは、例えば
図7Cに示す各導波部材122の一端または中間の位置(例えば中央部)に設けられ得る。ポートを介して送信回路から送られてきた信号波は、導波部材122上の導波路を伝搬し、各スロット112から放射される。一方、各スロット112から導波路に導入された電磁波は、ポートを介して受信回路まで伝搬する。第2導電部材120の裏側に、送信回路または受信回路に接続された他の導波路を備えた構造体(本明細書において「分配層」または「給電層」と称することがある。)が設けられていてもよい。その場合、ポートは、分配層または給電層における導波路と導波部材122上の導波路とを繋ぐ役割を担う。
【0079】
この例では、X方向に隣接する2つのスロット112が等位相で励振される。そのために、送信回路からそれらの2つのスロット112までの伝送距離が一致するように給電路が構成されている。それらの2つのスロット112は、等位相かつ等振幅で励振され得る。さらに、Y方向に隣接する2つのスロット112の中心間の距離は、導波路中での波長λgに一致するように設計され得る。これにより、全てのスロット112から等位相の電磁波が放射されるため、高い利得の送信アンテナを実現することができる。
【0080】
なお、Y方向に隣接する2つのスロット112の中心間隔を波長λgとは異なる値にしてもよい。そのようにすることにより、複数のスロット112の位置で位相差が生じるため、放射される電磁波が強め合う方位を正面方向からYZ面内の他の方位にずらすことができる。また、X方向において隣接する2つのスロット112は、厳密に等位相で励振されなくてもよい。用途によっては、π/4未満の位相差であれば許容される。
【0081】
このような、複数のスロット112が平板状の第1導電部材110に二次元的に設けられたアンテナ装置は、フラットパネルアレイアンテナ装置とも呼ばれる。用途によっては、X方向に並ぶ複数のスロット列の長さ(スロット列の両端のスロットの間の距離)が互いに異なっていても良い。X方向に隣り合う2つの列の間で、各スロットのY方向の位置をずらした千鳥状の(staggered)配列を採用してもよい。また、用途によっては複数のスロット列および複数の導波部材は、平行ではなく角度を持たせて配置された部分を有していてもよい。各導波部材122の導波面122aが、Y方向に並ぶ全てのスロット112に対向している形態に限らず、各導波面122aは、Y方向に並ぶ複数のスロットのうちの少なくとも1つのスロットに対向していればよい。
【0082】
図8は、スロット112毎にホーン114を有するスロットアレイアンテナ300Aの構造の一部を模式的に示す斜視図である。このスロットアレイアンテナ300Aは、二次元的に配列された複数のスロット112および複数のホーン114を有する第1導電部材110と、複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uが配列された第2導電部材120とを備える。第1導電部材110における複数のスロット112は、第1導電部材110の導電性表面110aに沿った第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に配列されている。
図8では、簡単のため、導波部材122Uの各々の端部または中央に配置され得るポートおよびチョーク構造の記載は省略されている。
【0083】
図9Aは、
図8に示す20個のスロットが5行4列に配列されたアレイアンテナ300Aを+Z方向から見た上面図である。
図9Bは、
図9AのC−C線断面図である。このアレイアンテナ300Aにおける第1導電部材110は、複数のスロット112にそれぞれ対応して配置された複数のホーン114を備えている。複数のホーン114の各々は、スロット112を囲む4つの導電壁を有している。このようなホーン114により、指向特性を向上させることができる。
【0084】
図示されるアレイアンテナ300Aにおいては、スロット112に直接的に結合する導波部材122Uを備える第1導波路装置100aと、第1導波路装置100aの導波部材122Uに結合する他の導波部材122Lを備える第2導波路装置100bとが積層されている。第2導波路装置100bの導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lは、第3導電部材130上に配置されている。第2導波路装置100bは、基本的には、第1導波路装置100aの構成と同様の構成を備えている。
【0085】
図9Aに示すように、第1導電部材110は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に直交する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット112を備える。各導波部材122Uの導波面122aは、Y方向に延びており、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ4つのスロットに対向している。この例では第1導電部材110は、5行4列に配列された20個のスロット112を有しているが、スロット112の数はこの例に限定されない。各導波部材122Uは、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ全てのスロットに対向している例に限らず、Y方向に隣接する少なくとも2つのスロットに対向していればよい。隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、例えば波長λoよりも短く設定され、ある例では、波長λo/2よりも短く設定される。
【0086】
図9Cは、第1導波路装置100aにおける導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。
図9Dは、第2導波路装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図から明らかなように、第1導波路装置100aにおける導波部材122Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2導波路装置100bにおける導波部材122Lは分岐部および屈曲部の両方を有している。第2導波路装置100bにおける「第2導電部材120」と「第3導電部材130」との組み合わせは、第1導波路装置100aにおける「第1導電部材110」と「第2導電部材120」との組み合わせに相当する。
【0087】
図9Cに示される第2導電部材120、および
図9Dに示される第3導電部材130は、それぞれ貫通孔126、136を有する。この例において、これら貫通孔126、136の内径は、導電性ロッド124Lおよび導電性ロッド124Uの幅よりも小さい。貫通孔126および136は、導電性ロッド124Uの配列の中に位置し、導電性ロッド124Uの間に開口する。これら貫通孔126、136は、第2導電部材120または第3導電部材130を固定するためのネジ孔、あるいは、位置決めのためのピンを収容するための孔として用いることができる。導電性ロッド124Uの配列は、導波部材122Uに沿って伝搬する電磁波の漏洩を防止するための構造であるが、その構造の一部に孔を開けても、漏洩を防止の機能は失われない。
【0088】
貫通孔126と導波部材122Uとの間には、導電性ロッド124Uの列が一つだけ存在する。すなわち、導波部材122Uに沿って並ぶ導電性ロッド124Uの列のうち、導波部材122Uに最も近い列と、2番目に近い列の間に、貫通孔126は配置されている。導波部材122Uに最も近い列と、導波部材122Uとの間に貫通孔を開けても、電磁波の漏洩は防がれる。しかし、導波部材122Uによって構成される導波路としての特性には変化が現れ得る。これに対し、上述した位置に貫通孔126を設ける場合は、その特性の変化は遥かに小さく、許容できる程度に留まることが多い。このため、導波路の設計を終えた後で、必要に応じて位置決め用の孔等の貫通孔を配置しても、導波路の構造に大きな修正を加える必要はない。このような性質は、実際の製品の設計に当たっては有用である。また、導波部材122Uに比較的近い場所に貫通孔126を配置できるため、孔の配置の為に導波路装置の寸法を不必要に大きくする必要がない。
【0089】
第1導波路装置100aにおける導波部材122Uは、第2導電部材120が有するポート(貫通孔)145Uを通じて第2導波路装置100bにおける導波部材122Lに結合する。言い換えると、第2導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第1導波路装置100aの導波部材122Uに達し、第1導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬してきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子(放射素子)として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する第1導波路装置100aの導波部材122Uに結合し、第1導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬する。第1導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第2導波路装置100bの導波部材122Lに達し、第2導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬することも可能である。第2導波路装置100bの導波部材122Lは、第3導電部材130のポート145Lを介して、外部にある導波路装置または高周波回路(電子回路)に結合され得る。
図9Dには、一例として、ポート145Lに接続された電子回路310が示されている。電子回路310は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路310は、例えば、第3導電部材130の背面側(
図9Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。そのような電子回路は、マイクロ波集積回路であり、例えば、ミリ波を生成または受信するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)であり得る。
【0090】
図9Aに示される第1導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図9Cに示される第2導電部材120、導波部材122U、および導電性ロッド124Uの全体を「励振層」と呼び、
図9Dに示される第3導電部材130、導波部材122L、および導電性ロッド124Lの全体を「分配層」と呼んでも良い。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでも良い。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0091】
この例におけるアレイアンテナ装置では、
図9Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現されている。例えば、
図9Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
【0092】
図9Dに示される導波部材122Lによれば、第3導電部材130のポート145Lから第2導電部材120の各ポート145U(
図9C参照)までの、導波部材122Lに沿って測った導波路に沿った距離が、全て等しい。このため、第3導電部材130のポート145Lから、導波部材122Lに入力された信号波は、第2導波部材122UのY方向における中央に配置された4つのポート145Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、第2導電部材120上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
【0093】
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。
図9Dに示される構成において、第3導電部材130のポート145Lから第2導電部材120の複数のポート145U(
図9C参照)までの導波路に沿った距離が、それぞれの間で異なっていてもよい。励振層および分配層(給電層に含まれる各層)における導波部材122のネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
【0094】
電子回路310は、
図9Cおよび
図9Dに示すポート145U、145Lを介して各導波部材122U上の導波路に接続されている。電子回路310から出力された信号波は、分配層で分岐した上で、複数の導波部材122U上を伝搬し、複数のスロット112まで到達する。X方向に隣接する2つのスロット112の位置で信号波の位相を同一にするために、例えば電子回路310からX方向に隣接する2つのスロット112までの導波路の長さの合計が実質的に等しくなるように設計され得る。
【0095】
なお、上記のアンテナ装置におけるスロット112、貫通孔116、導波部材122、導電性ロッド124、およびホーン114のそれぞれの個数、形状、寸法、および配置は、例示に過ぎず、用途または目的に応じて適宜変更してもよい。
【0096】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダ装置は、上述したいずれかの実施形態におけるアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続されたマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダ装置と、当該レーダ装置のマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。本開示の実施形態のアンテナ装置は、小型化が可能な多層のWRG構造を備えているため、従来の中空導波管を用いた構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を著しく小さくすることができる。このため、当該アンテナ装置を搭載したレーダシステムを、例えば車両のリアビューミラーの鏡面の反対側の面のような狭小な場所、またはUAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)のような小型の移動体にも容易に搭載することができる。なお、レーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。
【0097】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、無線通信システムにも利用できる。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態におけるアンテナ装置と、通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。
【0098】
本開示の実施形態におけるアンテナ装置は、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。アンテナ装置はまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
【0099】
以上のように、アンテナ装置は、様々な用途に応用することができる。そのような応用例の詳細は、特許文献4および5に開示されている。特許文献4および5の開示内容の全体は、本明細書に援用される。
【0100】
なお、本明細書では、本発明者の一人である桐野による論文(非特許文献1)、および同時期に関連する内容の研究を発表したKildalらの論文の記載を尊重して、「人工磁気導体」という用語を用いて本開示の技術を記載している。しかし、本発明者らの検討の結果、本開示に係る発明には、従来の定義における「人工磁気導体」を必ずしも必須としないことが明らかになってきている。即ち、人工磁気導体には、周期構造が必須であると考えられてきたが、本開示に係る発明を実施するためには、必ずしも周期構造は必須ではない。
【0101】
本開示において、人工磁気導体は導電性ロッドの列で実現している。よって、導波面から離れる方向に漏れ出てゆく電磁波を止めるためには、導波部材(リッジ)に沿って並ぶ導電性ロッドの列が、導波部材の片側に少なくとも2つあることが必須であると考えられてきた。導電性ロッド列の配置「周期」は、列が最低限2本なければ存在しないからである。しかし、本発明者の検討によれば、平行して延びる2つの導波部材の間に、導電性ロッドの列が1列しか配置されていない場合でも、一方の導波部材から他方の導波部材に漏れ出る信号の強度は−10dB以下に抑えられる。これは、多くの用途において実用上十分な値である。不完全な周期構造しか持たない状態で、この様な十分なレベルの分離が達成される理由は、今のところ不明である。しかし、この事実を考慮し、本開示においては、「人工磁気導体」という概念を拡張し、「人工磁気導体」の用語が、便宜上導電性ロッドが1列のみ配置された構造をも包含することとする。