【課題】 回転体に設けられた動力軸を挟持する挟持部材に挟持力を与えるばね等の弾性体が劣化したとしても、運転中に騒音を起こさぬようするとともに、回転体が脱落する危険を低減する。
【解決手段】 前記挟持部材は、前記動力軸を挟持する第1挟持部および第2挟持部を有し、前記動力軸を前記第1接触部および前記第2接触部が挟持している状態から、前記解除部材によって離れ始める方向を、それぞれ第1接触部解除方向または第2接触部解除方向としたとき、それぞれの接触部を前記動力軸の横断面において、前記動力軸の中心を通るそれぞれの接触部解除方向を軸として非線対称に配置する。
前記動力軸の前記縮径溝部において、第1接触部および第2接触部で挟持される位置から少なくとも動力装置とは逆側の溝面が、テーパー面となっている請求項1記載の着脱装置。
第1挟持部は、その端部に第1接触部解除方向と一致する方向へ直線状に延びた第1直線部を有し、第1直線部は、挟持部材が第1接触部解除方向に移動しても、そのいずれかの箇所で前記動力軸と接触し、および/または
第2挟持部は、その端部に第2接触部解除方向と一致する方向へ直線状に延びた第2直線部を有し、第2直線部は、挟持部材が第1接触部解除方向に移動しても、そのいずれかの箇所で前記動力軸と接触する
ように構成される請求項1〜3のいずれか1項に記載の着脱装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施例1>
本発明に係るレンジフード1について説明する。
図1は、本実施例におけるレンジフード1の正六面図(一部)、
図2は、本実施例におけるレンジフード1の整流板7を取り外した時の右下から見た斜視図、
図3は、レンジフード設置時における手前側−奥側の前後方向の断面図を示す。
【0011】
本発明のレンジフード1は、下方または周囲で行われる調理によって発生する湯気や油煙等を捕集するための、上方に凹状の内面パネル5を内面に有する薄型のフード2を有する。フード2は、上部後方に位置する連通口6付近で、排気ダクト(図示せず)に接続された送風機ボックス3と連結される。送風機ボックス3は、内部にシロッコファンであり空気の流れを発生させるファン4を有する。従って、ファン4が稼働すると連通口6は負圧となり、内面パネル5の下方の空気は連通口6を通して吸入され、排気ダクトを通して外部に排出される。
【0012】
連通口6には、空気の流れを通過させる孔を有する円盤状のグリスフィルタ8と、グリスフィルタ8の円盤の中心に動力軸を着脱装置10により連結され、グリスフィルタ8を回転させるモータ81が設けられる。
【0013】
内面パネル5の下方の空気は、調理によって発生する油煙等を含んでおり、ファン4が稼働すると、連通口6に存在する、即ちファン4が発生させた空気の流れの流路上であってファン4より上流側に位置するグリスフィルタ8の孔に吸引され、その孔を通過することになる。グリスフィルタ8は、モータ81により回転可能に設けられており、レンジフード1が稼働(通常運転)すると、ファン4が空気の流れを発生させると共にモータ81がグリスフィルタ8を回転させる。グリスフィルタ8が回転すると、空気は孔を通って通過するが、油分はグリスフィルタ8の表面に衝突する。レンジフード1は、グリスフィルタ8を回転させることにより、空気に含まれる油分を捕集する。
【0014】
グリスフィルタ8と動力軸を連結する着脱装置10は、整流板7の直上に位置するので、作業者が、グリスフィルタ8を洗浄等するために動力軸から取り外す場合は、まず整流板7を取り外し、
図2に示すようにグリスフィルタ8を露出させてから本発明の着脱装置10を操作する。
上記本発明のレンジフードの構造は、一例を示すものであって、これに限るものではない。
【0015】
図4は、動力軸20へファン4を装着した状態を示している。ファン4のモータ9は、動力軸20を介してファン4を駆動する。ファン4と動力軸20は、本発明の着脱装置10により取り付けられている。着脱装置10の側面からは、解除部材の操作部121が出ており、操作部121を押すことでファン4を動力軸20から抜くことができるように構成されている。動力軸20とファン4が、着脱装置10を用いて止着されることで、モータ9等の動力装置の駆動力がファン4に伝達される。
【0016】
(着脱装置)
図5は、ファン4の着脱装置10を拡大した斜視図である。解除部材12の操作部121は着脱装置10から突出しており、解除部材12の操作部121を押し込むことで、後述するように動力軸20を挟むように付勢された挟持部を押し開き、動力軸20からファン4をワンタッチで取り外しできるようになっている。着脱装置10は、後述する挟持部などの部品に油分が付着するのを防止するため、また内部の各機構を隠すことですっきりと見せるために覆う着脱装置カバー25で覆われている。着脱装置カバー25には、着脱装置取付孔30が設けられている。着脱装置取付孔30を用いてファンボスへ螺子等で固定できるように構成されており、固定により着脱装置10とファン4は一体化される。
【0017】
(着脱装置を構成する部材)
図6は、着脱装置10の分解図である。最も基部側、すなわち、ファンボス側には、ファンボス固定金具18が設けられている。次いで、ファンボス固定金具18上にファンボスベース17が配設される。着脱装置取付孔30、ファンボスベース取付孔171、ファンボス取付孔181は位置合わせされ、図示されていないファンボスへ螺子等で固定される。これにより、ファン4と着脱装置10は一体化される。
【0018】
(挟持部材と解除部材)
図6を参照されたい。ファンボスベース17の中央には、挟持部ガイド溝172が設けられ、第1挟持部111および第2挟持部112がはめ込まれる。
挟持部材11を構成する第1挟持部111および第2挟持部112は、トーションばね115で常時閉まる方向(動力軸20を挟む方向)に付勢されている。
ファンボスベース17の挟持部ガイド溝172にはめ込まれた第1挟持部111および第2挟持部112が外れないように、プレート15が設けられ、プレート取付孔152を用いて螺子でファンボスベース17に取り付けられている。
【0019】
図7には、第1挟持部111と第2挟持部112がファンボスベース17に設けられている状態が図示されている。ファンボスベース17には挟持部ガイド溝172が設けられており、両側に挟持部の移動をガイドするガイド部173が設けられている。両挟持部(111、112)は、挟持ガイド溝172にはめ込まれている。第1挟持部111の両側には、第1挟持部開閉ガイド部1113が設けられている。また、第2挟持部112の両側にも、同様に第2挟持部開閉ガイド部1123が設けられている。両挟持部(111、112)が、ガイド溝172のガイド部173に沿って摺動することにより、両挟持部(111、112)は、左右に移動する。
挟持部材11は、第1挟持部111と第2挟持部112の外方に当接するトーションばね(図示せず)から構成されている。両挟持部(111、112)は、トーションばね115により、動力軸20を挟むように付勢されている。
【0020】
図8は、解除部材12の拡大図である。解除部12には、作業者がファンを動力軸から抜くときに押すための操作部121が設けられている。
解除部材12の中間には、後述する状態保持部材14と掛合う解除部材掛合部124が設けられている。
解除部材12の操作部121とは逆側の端部には、規制部123が設けられている。規制部123の作用については後述する。
【0021】
押圧部122は、第1挟持部111および第2挟持部112と当接しており、操作部121を押すことで両挟持部は開いてゆく。
図9は、第1挟持部111の構造を分かりやすく説明するため側方からみた斜視図である。第2挟持部は図示されていない。第1挟持部111の内面に、前記した解除部材12の押圧部122と接触し摺動する解除部材移動ガイド部1114が設けられている。
また、
図8の規制部123と係合する板状の係合部1119が設けられている。
【0022】
図8に示されるように、解除部材12の両側面には、押圧部122が設けられており、操作部121を押すと、
図9で示される第1挟持部111の内面にある解除部材移動ガイド部1114と
図8で示される解除部材12の押圧部122が摺動する。
その結果、
図7に図示されているように、ファンボスベース17の挟持部ガイド溝172の両側に設けられたガイド部173に沿って、第1挟持部111がトーションばね(図示されていない)の押圧力に抗して摺動し、次第に第1挟持部111が動力軸20から離れる方向に押しやられる。第2挟持部112も第1挟持部111と逆方向に同様の動きをする。
実施例1では、解除部材12の移動方向と直交する方向に両挟持部(111、112)が移動するように構成されている。
なお、第1挟持部111と第2挟持部112の解除方向は適宜であり、実施例で示される方向はその一例に過ぎない。
【0023】
図10は、第1挟持部111および第2挟持部と解除部材12との係合関係を示す斜視図であり、動力軸20は説明のために図示していない。この状態は、ファン4を動力軸20に装着した状態、すなわち、トーションばね115、第1挟持部111および第2挟持部112と構成される挟持部材11で、動力軸20を挟持している状態を図示している。
解除部材12は、動力軸からファンを抜くときに使用する操作部121を有している。なお、ファン4を動力軸に装着した状態(両挟持部材111、112)では、操作部121は、
図5に示すように、着脱装置10から外へ飛び出ている。(
図5参照)
【0024】
(解除部材に設けられた規制部)
図10に戻ると、解除部12の端部には、凹状の規制部123が設けてあり、両挟持部(111、112)が動力軸20を挟持している状態では、規制部123内に第1挟持部111の係合部1119が入り込んでいる。挟持を解除すべく解除部材12の操作部121を押すと、凹状の規制部123から係合部1119が抜け出るように構成されている。第2挟持部112も同様である。
【0025】
両挟持部(111、112)の係合部(1119、1129)と規制部123の関係をより分かるように示したのが
図11である。
図11は、解除部材12の操作部121を押圧する前の状態であり、すなわち、動力軸20を両挟持部(111、112)が挟持している状態を示している。
第1挟持部111の係合部1119と第2挟持部112の係合部1129が解除部材12の規制部123に入り込んでいる様子が分かる。
仮に、第1挟持部111および第2挟持部112が動力軸20を挟持している状態で、トーションばね115が破断するという最悪の事態が発生したとしても、両挟持部(111、112)の端部にある係合部1119が解除部材12の凹状になった規制部123に入り込んでいるため、多少移動することはあっても、動力軸20から離れる方向に両挟持部(111,112)が大きく移動することを妨げることができる。解除部材12は遠心力を常に受けており、回転中は両挟持部(111、112)を解除方向に移動しないようになっているから、両挟持部材(111、112)の係合部(1119、1129)は規制部123に入ったまま維持され、ファン4が軸抜けすることを防止する。
【0026】
(動力軸と挟持部との接触部)
図12は、第1挟持部111および第2挟持部112が動力軸20を挟持している状態を示す側面図である。両挟持部(111、112)は、動力軸20の縮径部202を挟持している。そして、動力軸20には、縮径部202から動力軸先端側にかけてテーパー面201が設けられている。
動力軸先端側にテーパー面201があるため、ファン4の全荷重が、両挟持部(111、112)とテーパー面201との境界部203にかかっている。
前記境界部203にかかったファンの荷重(重量)により、両挟持部(111、112)と動力軸20との接触部は、テーパー面201に沿って動こうとし、その結果、常に両挟持部(111、112)を開こうとする力(矢印で図示)がかかっていることになる。
【0027】
図13は、従来の挟持部の構造におけるファンの荷重による影響を示す概念図である。
図13に示す正常な挟持状態では、
図13(a)および(b)のように、両挟持部は動力軸の縮径部に隙間なく接触している。
挟持部を押圧するトーションばね等の弾性体は、消耗品であり、経年劣化により挟持力が弱まる等の事態が起きると、挟持部が縮径溝との境界部を越えてテーパー面に乗り上げ始める。
図13(c)のように一旦テーパー面に乗り上げると、テーパー面では動力軸の径は大きくなるのに対して、挟持部は、動力軸の縮径部の径に合わせた径の接触部を有するため、径の違いから、
図13(d)のように点で接触するような状態となり、挟持力が急激に失われ、ファンの軸抜けが起きる。
このため、第1接触部111および第2接触部112が動力軸20を挟持している状態から、両挟持部(111、112)が動力軸20から離れ始める方向へ、わずかでも移動させないようにすることが求められる。
【0028】
図14は、本発明の第1挟持部111と動力軸20との接触状態を示す図である。第2挟持部は図示していない。第1挟持部111が動力軸20と連続的に接触する第1接触部1115を、太線で強調して描いている。第1挟持部111は、前記したように第1挟持部111の両側に設けられた第1挟持部開閉ガイド部1113に沿って動くから、第1挟持部111が解除部材によって離れ始める方向(第1接触部解除方向)は、第1挟持部開閉ガイド部1113と同じ方向となる。
図14で図示されている動力軸20の中心を通る線は、第1接触解除方向と平行に通る線を示している。第1接触部1115は、当該線を軸として非対称になっている。図中の接触部領域Aの範囲は、円周の1/4を占めているのに対して、接触部領域Bの範囲は、これに満たない。
【0029】
(本発明の着脱装置の作用)
本発明の着脱装置の作用を説明する。
図15は、本発明の実施例1の概念図である。
図14では、第1接触部解除方向(動力軸を前記第1接触部1115が挟持している状態から、前記解除部材によって離れ始める方向)は左方向であるが、説明の都合上
図15では上方向となるように、向きを変えており、第1挟持部111と第2挟持部112は、互いに上下方向に離れるように移動するように方向を変えて図示している。
第1挟持部111および第2挟持部112は、それぞれ動力軸20と太線で示される第1接触部1115および第2接触部1125を有している。第1直線部1117および第2直線部1127では、動力軸20と接触していない。
以下、第1挟持部111を中心に説明する。第1挟持部111と動力軸20の接触部である第1接触部1115には、ファンの荷重(重量)により生じるテーパー面に沿った第1挟持部111を開こうとする成分を含む力が均等にかかっている。
図15では、この力を黒矢印で示すように動力軸20の法線方向に同じ長さ(力)のベクトルとして図示している。
【0030】
この内、Cで示された成分は、動力軸20を第1接触部111が挟持している状態から、解除部材によって離れ始める方向である第1接触部解除方向と90°ずれた方向の力である。
図7に図示されているように、ファンボスベース17の挟持部ガイド溝172の両側に設けられたガイド部173に沿って、第1挟持部111が摺動するから、第1接触部解除方向と90°ずれた方向の力Cを第1挟持部111が受けたとしても、構造上第1挟持部111が開くことはない。
ところが、Aで示された成分の力は、第1接触部解除方向と完全に一致する方向の力であり、第1挟持部111を開く方向に作用する。
Bで示された成分の力は、分力ベクトルを図示しているように、その力の一部に第1接触部解除方向と一致する方向の成分の力を含んでいる。
【0031】
前記したように解除部材によって離れ始める方向である第1接触部解除方向と90°ずれた方向(Cの方向)の分力ベクトルの力の総和が増えたとしても、第1挟持部111は開くことはないので当該方向の力の総和を考慮する必要は全くない。
ところが、解除部材によって離れ始める方向である第1接触部解除方向の分力ベクトルの力の総和が増えると、第1挟持部111が開き始めてしまうため、できる限り当該方向の分力ベクトルの総和を減らす必要がある。
通例の使用状況では、トーションばね115が強く両挟持部(111、112)を挟みつけているため、ファンの荷重(重量)を受けても両挟持部が開き始めることはないが、トーションばね115は、消耗品であり経年劣化により挟持力が弱まると、次第にファンの荷重(重量)の影響を受けるようになってくる。
【0032】
以下、
図15に図示された本発明の1つの態様である実施例1を用いて、第1接触部解除方向の分力ベクトルの総和を計算し、比較対照例のそれと対比することで、本発明の作用を説明する。
実施例1では、第1挟持部111は、第1直線部1117を有しているため、この部分は動力軸20と接触しておらず、動力軸の中心から30°の角度の領域が非接触となっており、30°〜180°の領域で動力軸20と接触している。その結果、動力軸の中心を通る第1接触部解除方向と平行な線と非対称に第1接触部1115が配置されている(30°〜90°の範囲と90°〜180℃の範囲)。なお、ここで示した角度は、一つの実施例の角度であり、第1接触部が、動力軸の中心を通る第1接触部解除方向と平行な線と非対称に配置されるのであれば、どのような角度でもよい。
【0033】
以下、次のようにパラメーターを置く。
ファンの荷重(重量):2w
動力軸の半径:r
動力中心から第1接触部の角度:θ
【0034】
実施例1では、側面図である
図12に示されるように動力軸20と両挟持部(111、112)が接触する第1接触部1115(挟持部に隠れて図示されていない)および第2接触部1125(挟持部に隠れて図示されていない)は面である。ところが、ファンの荷重(重量)2wは、垂直下方にかかる荷重であり、両挟持部(111、112)の第1接触部および第2接触部の下端が境界部203に接触するため、両接触部の下端に集中的にファンの荷重(重量)がかかることになる。特に、トーションばね115が経年劣化で挟持力が弱くなると、ファンの荷重(重量)は、両接触部の下端がテーパー面201に乗り上げるように力がかかるため両接触部の下端に集中的にかかる。
これを断面概念図で示せば
図15のように、動力軸の中心からみてθが30°から180°の弧状の接触部領域にファンの全荷重(重量)がかかることになる。その弧の長さは、5/6πrである。
第2挟持部もファンの荷重(重量)を受けるから、ファンの荷重(重量)2wの半分、すなわち、wが第1接触部1115の下端の弧に均等にかかる。第1接触部1115下端の弧の単位長さ当たりにかかるファンの荷重(重量)は数1で示される。
【0036】
これが、
図15で示される個々の黒矢印で示されるベクトルの長さ(力)になる。
個々のベクトルは、
図15に示されるように、第1挟持部解除方向の分力ベクトルと第1挟持部解除方向と直交する方向のベクトルに分けることができ、第1挟持部解除方向の分力ベクトル成分の力は、sin成分として計算されるから、数2で表される。
【0038】
第1挟持部111にかかる第1挟持部解除方向の分力ベクトルの総和は、数3で表される。第1挟持部解除方向の積分計算において、第1挟持部解除方向の力が、θによって負の成分と正の成分が混在することはないから、絶対値で括ると、数3のように表される。(なお、0°〜180°でsinが負の値をとることはない。)
【0042】
これに対して、比較対照例となる従来技術が
図16である。動力軸の中心を通る第1接触部解除方向と平行な線と、対称か非対称かで相違する以外は同じ条件とするため、
図16の比較対照例は、本発明の実施例の第1接触部1115と同じ弧長で動力軸と接触する第1接触部1115’を有している。比較対照例では、動力軸の中心を通る第1接触部解除方向と平行な線と対称に第1接触部1115‘が配置されており、両側に15°ずつ動力軸と接触しない領域が設けられている。すなわち、比較対照例では、動力軸に対して、15°〜165°の範囲で接触する第1接触部1115’が設けられている。
第1挟持部111‘にかかる第1挟持部解除方向の分力ベクトルの総和は、数5のように計算される。
【0044】
本発明(数4)と比較対照例(数5)の結果をみれば明らかなように、動力軸の中心を通る第1接触部解除方向と平行な線と対称に第1接触部1115を配置する本発明の方が、第1挟持部解除方向の分力ベクトルの総和が小さい。従来技術と比べ、ファンの荷重(重量)により挟持部が開きにくくなっていることが分かる。
【0045】
動力軸の中心からみてθが30°から180°の接触部を有する実施例1に限らず、動力軸の中心を通る接触部解除方向と平行な線と非対称な接触部を有するものなら、角度の範囲に限らず対称な接触部を有するものより挟持部解除方向の分力ベクトルの総和は小さくなる。
幾何学的に説明するなら、
図16で示され動力軸の中心を通る接触部解除方向と平行な線と対称な接触部を有する比較対照例において、15°〜30°の範囲の弧を、165°〜180°の弧へと振り替えたものが本発明の
図15であると考えることができる。90°に近づくほど第1接触部解除方向の分力ベクトルが増し(sinθが大きくなる)、0°または180°に近づくほど第1接触部解除方向の分力ベクトルは減る(sinθが小さくなる)。
sin(15°〜30°)>sin(165°〜180°)が成立することがわかる。対称な接触部を有するものから、弧を振り替えたと考えれば、どのような角度であっても、これを積分した挟持部解除方向の分力ベクトルの総和は小さくなることが分かるであろう。
【0046】
このように、トーションばね115が経年劣化して挟持力が弱まったとしても、ファン4が動力軸20から軸抜けする危険性を簡単な工夫で減らすことができる。
【0047】
(挟持部に設けられた直線部)
図14に示されているように、第1接触部1115の一方の端部に第1直線部1117が設けられている。第1直線部1117は、第1接触部解除向と一致する方向である。
第2挟持部112は、図示していないが同様の構成を有している。
【0048】
第1挟持部111は、第1挟持部開閉ガイド部1113が、前記したようにファンボスベース17の挟持部ガイド溝172にガイドされ第1挟持部解除方向へ直線的に動く(
図7参照)。
図17は、両挟持部(111および112)が解除方向に若干移動した状態を示す断面図であり、第1挟持部111および第2挟持部112で隠れて見えない部位を含め、説明のため動力軸20に設けられたテーパー面201を図示している。両挟持部(111、112)挟持部解除方向へ移動したため、両挟持部間には若干の空隙が生じている。
両挟持部が若干移動したとしても、第1直線部1117のどこか一ヶ所(1116、1126)で動力軸20と接触を保つ。なお、
図17は断面図のため、点で接触しているように示されているが、実際には動力軸の軸方向に線状に接触する接触線1116(第1接触線)となっている。第2挟持部112も同様であり、第2直線部1127上の第2接触線1126で接触している。
そして、両挟持部(111、112)の直線部(1117、1127)が、その領域外まで移動するまで、動力軸20を挟み続ける。
テーパー面201は、動力装置と逆側(動力軸先端側)に設けられており、ファン4の荷重は、前記したように縮径溝202とテーパー面201との境界部203にかかっている。(
図12参照)
両直線部(1117、1127)にかかる位置まで両挟持部(111、112)が開いてしまうと、たった2つの接触線(1116、1126)で動力軸20は挟まれているだけになる。しかしながら、一対の接触線(1116、1126)は、矢印で図示した第1挟持部解除方向および第2挟持部解除方向と直交する方向に挟んでおり、一対の第1接触線1116および第2接触線1126に対してテーパー面201を介してファン4の全荷重がかかっても、両挟持部は解除方向へは動かない。これは、両挟持部(111、112)は、ファンボスベース17の挟持部ガイド溝172にはめ込まれている(
図7参照)ため、構造上接触線(1116、1126)からテーパー面201に向かって動くことができないからである。
この作用を、両挟持部に挟持力を与えるトーションばね115が破断するという極端な状態が起きた場合を想定して、具体的に説明する。トーションばね115の破断により、両挟持部(111,112)は動力軸20を挟持する力を完全に失う。その結果、
図17に示すように、両挟持部(111、112)の移動により両挟持部間に空隙を生じ始める。
しかし、前記したように挟持ガイド溝172にはめ込まれた両挟持部(111、112)の構造上、第1直線部(1117)上の第1接触線(1116)は左右のみに動くことが許され、
図17の上方向(テーパー面201方向)へ動くことは許されない。同様に、第2接触線(1126)も
図17の下方向に動くことは許されない。ファンの全荷重が一対の接触線(1116および1126)にかかることになるが、両挟持部(111、112)が互いに上下方向へ離れるように動くことができないため、接触線(1116および1126)がテーパー面201に沿って動くことはなく、動力軸20を挟み続ける。それどころか、一対の接触線(1116、1126)は、挟持力を失ってもなお
図17に図示されている方向において互いに上下方向に離れるように動かないため、動力軸20に設けられたテーパー面201でファン4が支えられることとなる。テーパー面201より上方側で、一対の接触線(1116、1126)が動力軸と接触している限り、ファンの軸抜けは防止される。
このように、トーションばね115が破断するという極端な状態を想定しても、動力軸20と両直線部(1117、1127)上の一対の接触線(1116および1126)の接触が保たれている限り、テーパー面20に支えられる形でファン4の軸抜けは完全に防止される。
このように、本発明は、挟持部に直線部を設けるという非常に簡単な工夫で、軸抜けを完全に防止できるというきわめて大きな作用を奏する。
【0049】
再び
図17を参照されたい、第1接触部解除方向と平行に通る線が記載されている。
動力軸に線状に接触する第1接触線1116は、第1挟持部に存在する唯一の接触部であり、動力軸の横断面において、動力軸の中心を通る第1接触部解除方向と平行に通る線を軸として非線対称に配置されていることが分かる。この実施例で明らかなように、本発明でいう動力軸20と接触する「接触部」とは、面だけではなく線や点を含み得る。
【0050】
(状態保持部材と解除部材)
状態保持部材14は次の機能を有する。
(1)ファン4を動力軸20に装着した際に、ファン4の回転により生じる遠心力により、解除部材12が着脱装置カバー25の外へ飛び出さないよう状態を保持する。
(2)ファン4を動力軸20から取り外すために解除部材12の操作部121を押し込んだ際に、解除状態を保持する。
【0051】
再び、着脱装置10の分解図である
図6に戻って説明する。離れて図示されているが、解除部材12の上に状態保持部材14が当接して設けられている。状態保持部材14には、第1掛合部141および第2掛合部142が設けられ、共に解除部材12と掛け合う。
状態保持部材14の第1掛合部141および第2掛合部142は、
図8の解除部材掛合部124と掛け合うことになる。
さらに、状態保持部材14を解除部材12側に押圧する押圧ばね13が、状態保持部材14上に当接して設けられる。
【0052】
(解除部材掛合部124と状態保持部材14の第1掛合部141との掛け合い)
図18は、解除部材12の上に状態保持部材14が当接している状態を示す斜視図である。
図18は、状態保持部材14の第1掛合部141と解除部材掛合部124は掛け合っておらず、若干の空隙146が存在する。ファン取り付け時には、
図18において矢印で示された[第1掛合部141と解除部材掛合部124との掛け合い時の解除部材移動方向]へ、解除部材12が移動することにより空隙146はなくなり、第1掛合部141と解除部材124は当接し掛け合う状態となる。
ファンを動力軸に取り付けた状態では、
図5に示すように解除部材12の操作部121が、着脱装置カバー25から飛び出た状態にあり、ファン4の回転による強い遠心力を受けている。状態保持部材14の第1掛合部141と解除部材掛合部124が掛け合うことで、遠心力により解除部材12が操作部121方向に飛び出さないようになっている。
【0053】
(ファン取り外し時の各部材の動き)
次いで、動力軸からファンを取り外す工程を説明する。
動力軸20からファン4を取り外す際には、第1挟持部111および第2挟持部112による挟持を解除すべく、解除部材12の操作部121を押して
図18に矢印で示された[ファン取り外し時の解除部材移動方向]へ解除部材12を移動させる。
図10に示すように、トーションばね115で、第1挟持部111および第2挟持部112は、動力軸を挟持する方向へと常時押圧されており、両挟持部材(111、112)と接触する解除部材12の押圧部122もトーションばね115の押圧力を受けている。トーションばね115の押圧力に抗して、解除部材12を押し込むことで両挟持部材(111、112)が動力軸20から離れてゆく。
このとき、解除部材12の上面と状態保持部材14の摺動面143が摺動し、次第に第2掛合部142の方向に、解除部材掛合部124が移動する。
状態保持部材14の上には、押圧ばね13が設けられているため、状態保持部材14は、常に解除部材12側へと押圧されている(図中の矢印で示された[押圧ばね押圧方向]方向参照)。
摺動しながら、第2掛合部142の端部に解除部材掛合部124が到達したとき、状態保持部材14は押圧ばね13の押圧力により下へと押し下げられ、第2掛合部142の深くへと解除部材掛合部124が押し込まれ掛け合う。押圧ばね13により解除部材12が押し込まれた状態が継続されるため、解除部材12は、前記掛合により動くことができず、ロックされた状態となる。この状態を示すのが、
図19である。
解除部材12がロックされるため、第1挟持部111および第2挟持部112も動力軸20から離れた状態に維持(ロック)され、ファン4を簡単に抜くことができるようになる。
【0054】
(ファン装着時の各部材の動き)
ファン装着時には、
図19のように両挟持部が挟持解除状態でロックされており、ファン4を動力軸20に装着しやすいようになっている。ファンと一体となった着脱装置10に動力軸(図示せず)を挿入すると、着脱装置10内に設けられた状態保持部材14の動力軸当接部144に動力軸20が当接する。当接したまま動力軸20を押し込み続けると、状態保持部材14が押圧ばね13の押圧力に抗して押し上げられ、第2掛合部142と解除部材掛合部124の掛け合いが外れる。
トーションばね115で、第1挟持部111および第2挟持部112は、動力軸を挟持する方向へと常時押圧されており、前記掛合が外れると両挟持部(111、112)は、動力軸を挟持する方向へと移動する。これに伴い、両挟持部材(111、112)と接触する解除部材12の押圧部122が、両挟持部の移動に伴い押し出され、解除部材12が移動する。
その後、状態保持部材14の第1掛合部141と、解除部材12の解除部材掛合部124が掛け合って止まるまで摺動する。このようにして、動力軸20へのファン4の装着が完了する。
【0055】
<実施例2>
実施例1は、
図12に記載のように、縮径部202の動力装置とは逆側にテーパー面201を設けた態様であった。
実施例2は、テーパー面の無い縮径部を有する動力軸22にファン4を取り付ける態様である(特許文献3参照)。第1挟持部111および第2挟持部112の構造は実施例1と全く同じであり、動力軸の構造だけが上記したように異なっている。
【0056】
図20(A)は、従来の挟持部の構造において、ファンの振動が動力軸の縮径溝に与える影響を示す概念図である。消耗品であるコイルばねが劣化し挟持力が弱まると、ファン4が高速で回転しているため、動力軸20に対してファン4がランダムな方向に振動を起こし、ファン4に設けられている両挟持部(111、112)が、動力軸20にぶつかる。動力軸20と第1接触部(太線)1115との間の空隙は、両者が振動によりぶつかった結果生じた空隙を示している。
この振動は、
図20(B)に示すように、ファン4に設けられた部材である第1挟持部111および第2挟持部112に対して反力となって、両挟持部材(111、112)を押し広げる力となって作用する。
この内、Cで示された成分は、動力軸20を前記第1接触部111が挟持している状態から、解除部材によって離れ始める方向である第1接触部解除方向と90°ずれた方向の力であり、この方向に第1挟持部111が力を受けたとしても、構造上第1挟持部が開くことはない。
ところが、Aで示された成分は、第1接触部解除方向と完全に一致する方向の力を含んでおり、第1挟持部111を開く方向に作用する。
Bで示された成分は、その一部に第1接触部解除方向と一致する方向の成分の力を含んでいる。
これは、動力軸にテーパー面を設けた実施例1の態様と同じである(
図15参照)。
【0057】
図20(B)のように、動力軸20と両挟持部(111、112)間に一旦空隙が生じると、より振動の振幅は大きくなり、両挟持部(111、112)を押し広げる力が急速に増し、最悪の場合、ファン4が脱落する。
ファンが脱落するまで至らなくとも、振動により騒音が発生する。
【0058】
そのため、動力軸4と両挟持部(111、112)の接触部が離れ始めないようにする、すなわち、空隙が生じることを防ぐことが重要となる。
【0059】
第1接触部1115が、動力軸20の中心を通る第1接触部解除方向と平行な線と非対称に配置されていること、および/または、第2接触部1125が、動力軸の横断面において、前記動力軸の中心を通る前記第2接触部解除方向と平行に通る線を軸として非線対称に配置されている作用は、 [0029]〜[0038]の(本発明の作用)で説明したのと同様である。
従来のものと比較して、トーションばねが経年劣化して挟持力が弱まったとしても、ファンの振動により、両挟持部(111、112)と動力軸20との接触部が解除方向に移動する危険性を低減できる。
(他の態様)
【0060】
(挟持部材に複数箇所の接触部を設ける態様)
第1挟持部111または第2挟持部112は、接触線1116に加え、複数箇所の接触部1115を有してもよい。
【0061】
(接触線や接触点を含む態様)
第1挟持部111または第2挟持部112は、動力軸に点で接触する接触点、動力軸に線状に接触する接触線1116を含んでもよい。
【0062】
(回転体)
実施例では、回転体をファン4として説明したが、
図4のグリスフィルタ8の着脱装置10であってもよい。グリスフィルタ8はファン4と異なり、大きな抜け荷重がかかることはない。しかしながら、グリスフィルタ8は高速で回転しており、挟持部材11を閉める方向に付勢しているトーションばね115が劣化すると、動力軸20とグリスフィルタ8との間で振動が起き、騒音が発生する。また、振動により、グリスフィルタ8が抜け落ちることもあり得る。本発明の構成を採ることで、騒音や軸抜けを防止することができる。
また、回転体をファンとした場合、シロッコファン、遠心ファン、軸流ファン等、ファンの種類を問わない。
【0063】
(ばね)
実施例では、トーションばね115と押圧ばね13が使用されているが、板ばねやコイルばね等、同等の機能を発揮する部品であればどのようなものでも使用できる。ばねに限らず、ゴム等の弾性体であってもよい。
【0064】
(動力軸の形状)
図12に記載のように縮径溝部とテーパー面を有する動力軸でもよいが、動力軸の形状は、縮径溝の無い拡径部を有するものでもよい。また、拡径部にテーパー面はなくてもかまわず、動力軸の形状は、いかなるものであってもよい。
【0065】
さらに、実施例では、動力軸の断面形状が円形であったが、六角形や八角形のように多角形でもよい。
【0066】
(解除方向)
実施例1では、解除方向がファンボスベース17には挟持部ガイド溝172に沿って、左右に平行に、すなわち、両挟持部(111、112)が互いに180°逆方向に離れる態様を示した。(
図7参照)
第1挟持部111と第2挟持部112の解除方向は、それぞれどのような方向に移動するものでもよい。
また、各々の挟持部が、円弧状に移動するものであってもよい(特許文献3の
図9)。この場合、各々の挟持部の円弧状の移動軌跡が、第1接触部解除方向および第2接触部解除方向となるわけではなく、本発明の「前記動力軸を前記第1接触部および前記第2接触部が挟持している状態から、前記解除部材によって離れ始める方向を、それぞれ第1接触部解除方向または第2接触部解除方向」とする定義に従い、円弧状に移動する際、接触部が離れ始める方向が第1接触部解除方向または第2接触部解除方向となる。
【0067】
(第1挟持部と第2挟持部にある接触部の面積および配置)
実施例では、説明を簡略にするため第2挟持部について詳しく言及してこなかったが、第1挟持部111の接触部の面積と第2挟持部の接触部の面積が異なっていてもよい。また、接触部の配置が第1挟持部と第2挟持部で異なっていてもよい。
【0068】
(動力軸の方向)
実施例では、動力軸20が垂直に設けられているものを中心に説明したが、動力軸20は水平であっても、傾斜していてもよい。動力軸20の角度にかかわらず、第1挟持部111および第2挟持部112を挟持する力が弱まれば、振動や軸抜けが起きる。この点については、動力軸の角度がどうあれ事情は変わらない。
【0069】
以上のように、本発明は、ファン等の回転体の回転中に、解除方向に挟持部材が移動しないようにしたものである。加えて、移動したとしても安全が保てるように、様々な手段を加えることで、多重的に軸抜け防止や回転体の振動低減を図ることができる。