【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき、本発明を説明する。
[実施例1]
(原料)
葛花として、葛花(Pueraria thomsonii)を熱水抽出して乾燥した葛花熱水抽出末(株式会社東洋新薬製)を用いた。
トウガラシとして、伏見甘長の乳酸菌発酵末(株式会社東洋新薬製)を用いた。
松樹皮として、フランス海岸松樹皮の含水エタノール抽出末である「フラバンジェノール(登録商標)」(株式会社東洋新薬製)を用いた。
大麦若葉として、大麦若葉を搾汁して乾燥した大麦若葉搾汁末(株式会社東洋新薬製)を用いた。
【0036】
(被験物質の調製)
葛花熱水抽出末、伏見甘長の乳酸菌発酵末及び大麦若葉搾汁末について、次のように被験物質を調製した。
1)原料を超純水で60mg/mLに調製し、ロータリーミキサーで1時間攪拌した。
2)15,000rpmで5分遠心分離し、上清を使用した。
3)希釈バッファーで300倍希釈した(200μg/mL)。
【0037】
フランス海岸松樹皮の含水エタノール抽出末について、次のように被験物質を調製した。
1)原料をDMSOで60mg/mLに調製し、ロータリーミキサーで1時間攪拌した。
2)15,000rpmで5分遠心分離し、上清を使用した。
3)KRPHバッファーで300倍希釈した(200μg/mL)。
【0038】
なお、上記被験物質の調製において用いたKRPHバッファー、希釈バッファーは、以下の通りのものである。以降の操作においても、KRPHバッファー、希釈バッファーと称するものは、同じものである。
【0039】
〈KRPHバッファー〉
終濃度が1.2 mM KH
2PO
4、1.2 mM MgSO
4・7H
2O、1.3 mM CaCl
2、118 mM NaCl、5 mM KCl、30 mM Hepes(pH7.5)になるように超純水で調製し、KRPHバッファーとした。
【0040】
〈希釈バッファー〉
DMSOをKRPHバッファーで300倍希釈し、希釈バッファーとした。
【0041】
(測定サンプルの調製)
1)37℃、5% CO
2インキュベーター内で、75cm
2フラスコを用いて、マウス筋芽細胞株(C2C12)を通常培地にて培養した。
2)トリプシン処理により浮遊させた細胞を、75cm
2フラスコから96well plateの各wellに10,000cells/wellの細胞密度で播種した。
3)37℃、5% CO
2インキュベーター内でコンフルエントになるまで前培養した。
4)分化誘導培地に置換し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で培養し、筋管細胞へと分化誘導した。
5)2%BSA-DMEMに置換し、さらに一晩37℃、5% CO
2インキュベーター内で培養した。
6)KRPHバッファーで1回洗浄し、KRPHバッファーを100μL/wellで入れた。
7)終濃度の2倍濃度の被験物質(100μL/well)を添加し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で3時間培養した。なお、被験物質に代えて希釈バッファーを添加したものをコントロールとした。
【0042】
8)あらかじめ37℃で温めておいたKRPHバッファーで3回洗浄した。
9)1mM 2DG-KRPHを加え、37℃、5% CO
2インキュベーター内で30分培養した。
10)氷冷PBSで素早く3回洗浄し、細胞破壊(溶解)のため0.1N NaOHを25μL/wellで添加し、−80℃フリーザーで凍結させ、さらに細胞を破壊した。
11)融解した後、0.1N HClを25μL/wellで添加(中和)した。
12)85℃で45分加温した。
13)室温に冷やし、3×バッファーを25μL/wellで添加し、測定サンプルとした。
【0043】
なお、上記測定サンプルの調製において用いた通常培地、分化誘導培地、3×バッファーは、以下の通りのものである。なお、以降の操作においても、通常培地、分化誘導培地、3×バッファーと称するものは、同じものである。
【0044】
〈通常培地〉
p/s(ペニシリン/ストレプトマイシン)を1%添加したDMEMに、10% FBSとなるように調製し、通常培地とした。
【0045】
〈分化誘導培地〉
p/sを1%添加したDMEMに、2% ウマ血清(HS)、0.1μg/mL Insulinとなるように調製し、分化誘導培地とした。
【0046】
〈3×バッファー〉
終濃度が150mM 2,2',2''-Nitrilotriethanol (TEA) (pH8.1)、150mM KCl、1.5mM MgCl
2、0.06% BSA、0.36μM NADP
+、8.0mM ATPになるように超純水で調製し、3×バッファーとした。
【0047】
(糖取り込み測定)
糖取り込み測定キット(コスモ・バイオ株式会社製)を用いて糖取り込み量を測定した。
1)検量線又は測定サンプル25μLを96wellブラックプレートに移した。
2)糖取り込み測定液を調製し、50μL/wellで添加した。
3)添加後、遮光して37℃で3時間インキュベーションした。
4)蛍光(励起波長:540nm/蛍光波長:590nm)を測定した。
5)検量線を作成し、取り込まれた2DG(2-Deoxy-D-glucose)濃度を算出した。
【0048】
(タンパク質定量)
BCAタンパク質測定キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いてタンパク質量を測定した。
1)検量線又はサンプルを5μL、発色試薬を100μL添加した。
2)37℃で1時間インキュベート後、562nmの波長を測定した。
【0049】
(結果の算出)
1)2DG濃度/タンパク質量を算出し、比較した。
【0050】
(結果)
結果を
図1に示す。
図1に示すように、葛花熱水抽出末、伏見甘長の乳酸菌発酵末、松樹皮の含水エタノール抽出末及び大麦若葉搾汁末を添加することにより、コントロールと比較して筋管細胞へと分化誘導したC2C12への糖取り込み量が増加することが明らかとなった。
【0051】
[実施例2]
(原料)
大麦若葉として、大麦若葉を搾汁して乾燥した大麦若葉搾汁末(株式会社東洋新薬製)を用いた。
【0052】
(被験物質の調製)
1)大麦若葉搾汁末を超純水で60mg/mLに調製し、ロータリーミキサーで1時間攪拌した。
2)15,000rpmで5分遠心分離し、上清を使用した。
3)上清を用いて、次の被験物質溶液を調製した。大麦若葉搾汁末100μg/mL、大麦若葉搾汁末100μg/mL+Compound C 12.5μM、大麦若葉搾汁末100μg/mL+Wortmannin 10μM。各被験物質の溶媒の組成は、0.1% DMSO/2% BSA-KRPHバッファーとした。
【0053】
(測定サンプルの調製)
1)37℃、5% CO
2インキュベーター内で、75cm
2フラスコを用いて、マウス筋芽細胞株(C2C12)を通常培地にて培養した。
2)トリプシン処理により浮遊させた細胞を、75cm
2フラスコから96well plateの各wellに10,000cells/wellの細胞密度で播種した。
3)37℃、5% CO
2インキュベーター内でコンフルエントになるまで前培養した。
4)分化誘導培地に置換し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で培養し、筋管細胞へと分化誘導した。
5)1mM AICAR-2% BSA-DMEMに置換し、さらに一晩37℃、5% CO
2インキュベーター内で培養した。
6)DMEMで3回洗浄した(100μL/well)。
7)2% BSA-DMEMに置換し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で1時間培養した。
8)KRPHバッファーで3回洗浄した。
9)被験物質(100μL/well)を添加し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で3時間培養した。なお、被験物質を添加しないものをコントロール(0.1% DMSO/2% BSA-KRPH)とした。
【0054】
10)あらかじめ37℃で温めておいたKRPHバッファーで3回洗浄した。
11)1mM 2DG-KRPHを加え、37℃、5% CO
2インキュベーター内で30分培養した。
12)氷冷PBSで素早く3回洗浄し、細胞破壊(溶解)のため0.1N NaOHを25μL/wellで添加し、−80℃フリーザーで凍結させ、さらに細胞を破壊した。
13)融解した後、0.1N HClを25μL/wellで添加(中和)した。
14)85℃で45分加温した。
15)室温に冷やし、3×バッファーを25μL/wellで添加し、測定サンプルとした。
【0055】
(糖取り込み測定及びタンパク質定量)
実施例1と同様に、糖取り込み測定及びタンパク質定量を行った。
【0056】
(結果の算出)
1)2DG濃度/タンパク質量を算出し、比較した。
【0057】
(結果)
結果を
図2に示す。
図2に示すように、コントロールと比較して、大麦若葉搾汁末添加群は筋管細胞へと分化誘導したC2C12への糖取り込み量が増加した。また、大麦若葉搾汁末添加群に対して大麦若葉搾汁末及びCompound Cを添加した群では糖取り込み量の減少は認められなかったが、大麦若葉搾汁末及びWortmanninを添加した群では糖取り込み量が減少した。
筋肉細胞へ糖の取り込みの経路としては、インスリンを介した経路とAMPKを介した経路があるところ、インスリンシグナルの下流のPI3Kの阻害剤であるWortmanninの添加によって糖の取り込みが阻害され、AMPKの阻害剤であるCompound Cの添加によっては阻害されなかったことから、大麦若葉の糖の取り込み促進作用は、インスリンシグナルの活性化を介していると考えられる。
【0058】
[実施例3]
(原料)
実施例2と同様に、大麦若葉を搾汁して乾燥した大麦若葉搾汁末を原料とした。
(被験物質の調製)
1)実施例2と同様に処理し、上清を用いて、次の被験物質溶液を調製した。大麦若葉搾汁末100μg/mL、大麦若葉搾汁末100μg/mL+Wortmannin 10μM。各被験物質の溶媒の組成は、0.1% DMSO/2% BSA-KRPHバッファーとした。
【0059】
(測定サンプルの調製)
1)37℃、5% CO
2インキュベーター内で、75cm
2フラスコを用いて、マウス筋芽細胞株(C2C12)を通常培地にて培養した。
2)24well plateコラーゲン溶液(株式会社東洋紡製)を300μL/wellで入れ、1時間コーティングした。
3)コラーゲン溶液を回収後、PBSで2回洗浄した。
4)トリプシン処理により浮遊させた細胞を、75cm
2フラスコから3)の24well plateの各wellに60,000cells/wellの細胞密度で播種した。
5)37℃、5% CO
2インキュベーター内でコンフルエントになるまで前培養した。
6)分化誘導培地に置換し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で培養し、筋管細胞へと分化誘導した。
【0060】
7)1mM AICAR含有分化誘導培地に置換し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で24時間培養した。
8)DMEMで3回洗浄した。
9)2% BSA-DMEMに置換し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で3時間培養した。
10)培地を抜いて被験物質(100μL/well)を添加し、37℃、5% CO
2インキュベーター内で30分培養した。なお、被験物質を添加しないものをコントロール(0.1% DMSO/2% BSA-DMEM)とした。
【0061】
11)氷冷PBSで1回洗浄し、細胞溶解液を50μL添加した。
12)細胞をより破壊するために、−80℃フリーザーで凍結させた。
13)室温で速やかに溶解させ、氷上においた。
14)先を曲げたチップで細胞をこそぎ落とし、1.5mLチューブに移して再び−80℃フリーザーで凍結させて、細胞をさらに破壊した。
15)室温で速やかに溶解させ、4℃、15,000rpmで10分間遠心した。
16)上清を新しい1.5mLチューブに回収した。上清を測定サンプルとして用いた。
【0062】
なお、上記被験物質の調製において用いた細胞溶解液は、以下の通りのものである。
【0063】
〈細胞溶解液〉
RIPAバッファー(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)で100×プロテアーゼインヒビターと100×ホスファターゼインヒビターを100倍希釈したものを細胞溶解液とした。
【0064】
(タンパク質定量)
実施例1と同様に、測定サンプル中のタンパク質定量を行った。
【0065】
(ウェスタンブロッティング)
1)測定サンプルのタンパク質量が5μg/wellになるように調製した。
2)調製したサンプル希釈液を、10% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にかけた。
3)電気泳動後のタンパク質を、PVDF膜に転写した。
4)5% BSA-TBSTでブロッキングしたメンブレンに一次抗体としてウサギ抗p-Akt(Thr308)抗体又はウサギ抗Akt抗体(Cell Signaling Technology社製)を用い、二次抗体として、HRP-抗ウサギIgG抗体(Cell Signaling Technology社製)を用いてp-Akt又はAkt発現量を測定した。定量は、Chemi Doc XRS+システム(バイオ・ラッド社製)を用いて行った。
5)シグナルの濃淡を数値化し、p-Akt/Aktを算出し、コントロールを1として比較した。
【0066】
(結果)
p-Akt発現量の結果を
図3に示す。
図3に示すように、大麦若葉搾汁末添加群のp-Akt発現量は増加し、Wortmanninの添加で発現量が減少した。すなわち、大麦若葉搾汁末の添加によってp-Akt発現量が増加し、Wortmanninの添加によってこの増加が減少したことから、大麦若葉の糖の取り込み促進作用は、インスリンシグナルの活性化によるものであり、その作用点はPI3Kの上流であることが示唆された。
【0067】
以上の結果より、葛花、トウガラシ、松樹皮、及び大麦若葉のいずれかを用いることにより、筋芽細胞への糖取り込み量が増加することがわかった。特に、本発明の大麦若葉を含む糖取り込み促進用組成物は、インスリンシグナルを活性化させることにより、筋肉細胞への糖取り込みを促進することができることが示唆された。