【解決手段】本発明は、デフケース11内に収容されてデフピニオンギヤ13と噛合する差動装置10用のサイドギヤ20であって、ドライブシャフトに外嵌される筒状の軸筒部23と、軸筒部23の外周面23aから突出する環状の環状壁部24と、環状壁部24からドライブシャフトの軸線方向の一側に突出し、デフピニオンギヤ13と噛合するギヤ部24と、環状壁部24の外周面24aから突出する補強リブ26と、環状壁部24の内部を肉抜きして成り、ドライブシャフトの軸線方向の他側に開口する凹部30と、凹部30の内面を凹設して成る溝部40と、を備え、環状壁部24の外周面24bは、デフケース11の内壁14aに摺接する摺動部を有し、溝部40は、周方向に延在するとともに、周方向の一端側から他端側に向うにつれて径方向外側に位置していることを特徴とする。
前記溝部は、周方向の一端側から他端側に向うにつれて径方向外側に位置する第1溝部と、周方向の他端側から一端側に向うにつれて径方向外側に位置する第2溝部と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の差動装置用のサイドギヤ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
続いて各実施形態の差動装置を適用した終減速装置について図面を参照しながら説明する。各実施形態で共通する技術的要素には、共通の符号を付するとともに説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
終減速装置1は、FFベースの四輪駆動車に搭載され、プロペラシャフトから伝達された動力を減速したうえで左右の後輪に伝達する装置である。
図1に示すように、終減速装置1は、ドライブピニオン2と、リングギヤ3と、差動装置10と、これらを収容するハウジング4とを備えている。
【0011】
ドライブピニオン2は、前後方向に延びる軸線O1を中心に回転する棒状の部品であり、ドライブピニオン2の後部に円錐台状のピニオンギヤ2aが形成されている。
リングギヤ3は、左右方向に延びる軸線O2を中心に回転するリング状の部品である。リングギヤ3は、噛合するピニオンギヤ2aよりも大径に形成され、ピニオンギヤ2aから伝達される動力を減速している。リングギヤ3は、差動装置10の後述するデフケース11のフランジ15に対しボルト3aで締結されている。
ハウジング4内の下部には潤滑油が貯留しており、回転するリングギヤ3がこの潤滑油を掻き上げ、各部品に飛沫した潤滑油が供給される。
【0012】
差動装置10は、軸線O2を中心に回転するデフケース11と、デフケース11に固定され軸線O2に直交する方向に延びるピニオンシャフト12と、ピニオンシャフト12を中心として回転する一対のデフピニオンギヤ13、13と、一対のデフピニオンギヤ13、13に噛合する一対のサイドギヤ20、20と、各サイドギヤ20の外周側に配置される一対のワッシャ27,27と、を備えている。
【0013】
デフケース11は、略球体状を呈するとともに軸線O2方向に開口するデフケース本体14と、デフケース本体14の外周面から突出するフランジ15と、デフケース本体14の左端部から突出する円筒状の左ボス部16と、デフケース本体14の右端部から突出する円筒状の右ボス部17と、を備えている。
【0014】
デフケース本体14の内周面14aは、ピニオンシャフト12の中心線O3と軸線O2との交点Oを中心に略球面状に形成されている。
【0015】
左ボス部16は、左テーパーローラーベアリング6を介して、ハウジング4の左壁部に支持されている。左ボス部16の左開口は、ハウジング4の下部に貯留される潤滑油が流入するための入口となっている。また、左ボス部16の内周面には、螺旋溝16aが形成されており、左ボス部16内に流入した潤滑油は、螺旋溝16aにより案内されてデフケース本体14内に案内される。
【0016】
右ボス部17は、右テーパーローラーベアリング7を介して、ハウジング4の右壁部に支持されている。右ボス部17の右開口は、ハウジング4の下部に貯留される潤滑油が流入するための入口となっている。右ボス部17の内周面には、螺旋溝17aが形成されており、右ボス部17の内部に流入した潤滑油は、螺旋溝17aにより案内されてデフケース本体14内に案内される。
【0017】
なお、ハウジング4の左壁部において、左ボス部16と対向する部位には、左貫通穴4aが形成されている。そして、左ドライブシャフト(
図1の仮想線L参照)は、左貫通穴4aと左ボス部16内を貫通し、右端部がデフケース本体14内に配置される。
同様に、ハウジング4の右壁部において、右ボス部17と対向する部位には、右貫通穴4bが形成されている。そして、右ドライブシャフト(
図1の仮想線R参照)は、右貫通穴4bと右ボス部17内を貫通し、左端部がデフケース本体14内に配置される。
【0018】
一対のサイドギヤ20,20は、ピニオンシャフト12の左側に配置された左サイドギヤ21と、ピニオンシャフト12の右側に配置された右サイドギヤ22と、を備えている。また、左サイドギヤ21と右サイドギヤ22は、互いに同一形状に形成されている。以下、左サイドギヤ21を代表例として説明し、右サイドギヤ22の説明を省略する。
【0019】
図2に示すように、左サイドギヤ21は、金型を用いて製造された鍛造品であり、軸線O2を中心とする円筒状の軸筒部23と、軸筒部23の外周面23aから突出する環状の環状壁部24と、デフピニオンギヤ13と噛合するギヤ部25と、環状壁部24の外周面24bから突出する補強リブ26と、環状壁部24を肉抜きして成る凹部30と、凹部30の内面を凹設して成る溝部40と、を備えている。尚、本発明のサイドギヤ20は、鍛造品に限定されず、焼結により製造されたものであってもよい。
【0020】
軸筒部23内には、左ドライブシャフト(
図1の仮想線L参照)の右端部が挿入されている。また、軸筒部23の内周面には、左ドライブシャフトのスプライン軸(不図示)とスプライン嵌合するスプライン溝23bが形成され、軸線O2回りに相対回転しないようになっている。
【0021】
なお、軸筒部23の左端部23cと対向する左ボス部16の右端部には、左ボス部16の内径よりも拡径した拡径溝14bが形成され、この拡径溝14b内に軸筒部23の左端部23cが収容されている。また、軸筒部23の左端部23cと拡径溝14bは離間しており、隙間Sが形成されている。
【0022】
環状壁部24は、ギヤ部25を支持するための部位である。
環状壁部24の断面形状は、軸筒部23の外周面23aから径方向外側に向うにつれて左側に位置するように傾斜している。このため、環状壁部24の左側面24aと軸筒部23の外周面23aとの間には、断面視で略三角形状の空間(凹部30)が形成されている。また、環状壁部24の外周面24bは、デフケース本体14の内周面14aと対向するとともに円弧状に形成されている。
【0023】
図3に示すように、ギヤ部25は、軸線O2を中心に周方向に配列された複数の歯25aにより構成されている。
【0024】
図2に示すように、補強リブ26は、環状壁部24の外周面24bからデフケース本体14の内周面14aに向って突出する断面略台形状のリブである。また、補強リブ26は、外周面24bの右端に位置している。
図3に示すように、補強リブ26は、軸線O2方向から視ると円形状を呈し、周方向に連続している。
【0025】
図2に示すように、ワッシャ27は、環状壁部24の外周面24bとデフケース本体14の内周面14aとの間に介在する環状の金属部品である。ワッシャ27の厚みは、補強リブ26の突出量よりも大きく、補強リブ26がデフケース本体14の内周面14aに当接(摺接)しないようになっている。
以上から、終減速装置1に動力が伝達されてデフケース11が軸線O2回りに回転する場合、左サイドギヤ21は、ギヤ部25が噛合しているデフピニオンギヤ13から左方へ離間するような荷重を受ける。このため、ワッシャ27は、環状壁部24の外周面24bに押圧されてデフケース本体14の内周面14aに押し付けられる。さらに、左サイドギヤ21がデフケース11に相対回転する場合、環状壁部24の外周面24bがワッシャ27に対し摺動したり、ワッシャ27がデフケース本体14の内周面14aに対し摺動したりする。言い換えると、外周面24bは、デフケース11に対して摺動する摺動部を構成している。尚、本実施例ではデフケース本体14の内周面14aと、外周面24bとの間に、ワッシャ27を設ける構成となっているが、本発明はワッシャ27を設けない構成としてもよい。
【0026】
図2に示すように、凹部30は、環状壁部24の内部を肉抜きして成る空間であり、左方に開口している。凹部30は、軸線O2方向を中心に周方向に連続しており、環状を呈している(
図3参照)。
凹部30の断面形状は、前記したように断面視で略三角形状に形成されている。凹部30の外周側を囲む外側周面30aは、環状壁部24の左側面24aにより構成され、開口30c側に向うにつれて径方向外側に位置するように傾斜している。凹部30の内周側を囲む内側周面30bは、軸筒部23の外周面23aにより構成されている。また、軸筒部23の外周面23a(凹部30の内側周面30bを含む)は、軸線O2方向に平坦に形成されている。
【0027】
溝部40は、環状壁部24の左側面24a(凹部30の外側周面30a)に形成されている。溝部40は、軸線O2を中心とし、左回り方向(
図3の矢印D1参照)に向うにつれて径方向外側に位置するような渦巻状の渦巻き溝41である。
なお、車両の前進時において、左サイドギヤ21は軸線O2を中心に右回り(
図3の矢印D2参照)に回転する。また、
図3において、渦巻き溝41(溝部40)を見易くするため、渦巻き溝41(溝部40)の範囲を複数の点(ドット)で塗っている。
渦巻き溝41における径方向の幅Mは、径方向内側から外側に向うにつれて次第に狭くなっている。
本実施形態において渦巻き溝41は、2つ設けられており、軸線O2を中心として点対称となるように配置されている。
【0028】
次に潤滑油の流路について
図4を参照しながら説明する。
車両の前進により左ボス部16が軸線O2回りに回転すると、ハウジング4(
図1参照)内から左ボス部16内に流入した潤滑油は、螺旋溝16aにより右側(左サイドギヤ21側)に案内される(矢印A1参照)。
左ボス部16の右開口から流出した潤滑油は、軸線O2の径方向外側に向う遠心力が作用して隙間S内に入り込み、デフケース本体14の内周面14aに到達する(矢印A2参照)。また、潤滑油には、引き続き遠心力が作用しているため、潤滑油デフケース本体14の内周面14aに沿って径方向外側に移動する(矢印A3参照)。
【0029】
ここで、デフケース本体14の内周面14aと環状壁部24の外周面24aとの間には、ワッシャ27及び補強リブ26が介在し、流路が狭くなっている。よって、補強リブ26を超えてギヤ部25及びデフピニオンギヤ13に供給される潤滑油(矢印A4参照)の量が制限される。
この結果、ワッシャ27及び補強リブ26により堰き止められた潤滑油は、デフケース本体14の内周面14aと環状壁部24の左側面24aと軸筒部23の外周面23aとに囲まれる空間に滞り、第1凹部31内と第2凹部32内に貯留される。
【0030】
以上、第1実施形態によれば、凹部30により環状壁部24が肉抜きされ、一対のサイドギヤ20,20が従来のものよりも軽量化している。一方で、環状壁部24は、補強リブ26により強度が向上し、所定強度が確保されている。
【0031】
環状壁部24の左側面24aが傾斜面となっていることから、環状壁部24の左側面24aの近傍の潤滑油は、遠心力により左側面24aに沿って径方向に移動して渦巻き溝41内に入り込む(
図3の矢印B1参照)。
また、渦巻き溝41内に入り込んだ潤滑油は、左サイドギヤ21の右回転(車両の前進状態で、左右のサイドギヤ20、20に差回転が生じているとき)により径方向外側に案内される(
図3の矢印B2参照)。
以上から、潤滑油が積極的に摺動部(環状壁部24の外周面24b)側に供給され、摺動部(環状壁部24の外周面24b)や、サイドギヤ20のギヤ部25とデフピニオンギヤ13との噛み合い箇所に潤滑油が継続して供給される。
【0032】
また、軸筒部23の外周面23aは平坦に形成されていることから、潤滑油が外周面23aに沿って右方に移動する場合であってもスムーズに移動し(
図4の矢印C参照)、凹部30内に貯留するようになる。
また、凹部30は、三角形状を呈していることから、製造時において凹部30を形成する金型を左方に抜き易く、製造が容易となる。
【0033】
以上、第1実施形態について説明したが、本発明における溝部40の形状は、渦巻き溝41に限定されない。つぎに、溝部40の形状が異なる第2実施形態、第3実施形態のサイドギヤについて説明する。
【0034】
(第2実施形態)
図5に示すように、サイドギヤ120は、軸筒部23と、環状壁部24と、ギヤ部25と、補強リブ26と、凹部30の内面を凹設して成る溝部140と、を備えている。
なお、軸筒部23、環状壁部24、ギヤ部25、補強リブ26、並びに凹部30については第1実施形態で説明したため説明を省略する。
【0035】
溝部140は、径方向に延在するとともに、径方向内端から径方向外側に向うにつれて左回り方向に位置するように湾曲する円弧状の円弧溝141により構成されている。
また、円弧溝141は、複数設けられており、周方向に等間隔で配置されている。
【0036】
以上、第2実施形態によれば、凹部30内に貯留された潤滑油のうち円弧溝141内に入り込んだ潤滑油は、左サイドギヤ21の右回転(車両の前進状態で、左右のサイドギヤ20、20に差回転が生じているとき)により、径方向外側に案内される(
図5の矢印B3参照)。
また、円弧溝141は、周方向に等間隔で複数形成されていることから、偏ることなく補強リブ26の全周に均等に潤滑油が供給される。
以上から、摺動部(環状壁部24の外周面24b)や、サイドギヤ20のギヤ部25とデフピニオンギヤ13との噛み合い箇所に潤滑油が継続して供給される。
【0037】
(第3実施形態)
図6に示すように、サイドギヤ220は、軸筒部23と、環状壁部24と、ギヤ部25と、補強リブ26と、凹部30の内面を凹設して成る溝部240と、を備えている。
なお、軸筒部23、環状壁部24、ギヤ部25、補強リブ26、並びに凹部30については第1実施形態で説明したため説明を省略する。
【0038】
溝部240は、複数の第1円弧溝241と、複数の第2円弧溝242とから構成されている。
第1円弧溝241は、径方向に延在しつつ、径方向内端から径方向外側に向うにつれて左回り方向に位置するように湾曲している。一方で、第2円弧溝242は、径方向に延在しつつ、径方向内端から径方向外側に向うにつれて右回り方向に位置するように湾曲している。また、第1円弧溝241と第2円弧溝242とは、周方向に交互に配置されている。
【0039】
第3実施形態によれば、車両の前進時で左右のサイドギヤ20、20に差回転が生じているとき、左サイドギヤ21が右回転するため、第1円弧溝241に入り込んだ潤滑油が径方向外側に案内される(
図6の矢印B4参照)。
一方で、車両の後退時で左右のサイドギヤ20、20に差回転が生じているとき、左サイドギヤ21が左回転するため、第2円弧溝242に入り込んだ潤滑油が径方向外側に案内される(
図6の矢印B5参照)。
以上から、車両の前進時に限らず、車両の後退時でも摺動部(環状壁部24の外周面24b)側に潤滑油が供給され、摺動部(環状壁部24の外周面24b)や、サイドギヤ20のギヤ部25とデフピニオンギヤ13との噛み合い箇所に潤滑油が常時供給される。
【0040】
(第4実施形態)
図7に示すように、サイドギヤ320は、軸筒部23と、環状壁部24と、ギヤ部25と、補強リブ26と、凹部30の内面を凹設して成る溝部340と、を備えている。
なお、軸筒部23、環状壁部24、ギヤ部25、補強リブ26、並びに凹部30については第1実施形態で説明したため説明を省略する。
【0041】
溝部340は、左巻き溝341と、右巻き溝342と、左巻き溝341と右巻き溝342とが互いに交差する交差領域343と、により構成されている。
なお、
図7において、左巻き溝341と右巻き溝342とを見易くするため、左巻き溝341と右巻き溝342の範囲を複数の点(ドット)で塗っている。一方で、交差領域343の範囲には、複数の点(ドット)を塗らず白色となっている。
【0042】
左巻き溝341は、軸線O2を中心に左回り方向(
図7の矢印D1参照)に向うにつれて径方向外側に位置するように形成されており、交差領域343よりも上流側の第1左巻き溝341aと、交差領域343よりも下流側の第2左巻き溝341bと、を備えている。
【0043】
右巻き溝342は、軸線O2を中心に右回り方向(
図7の矢印D2参照)に向うにつれて径方向外側に位置するように形成されており、交差領域343よりも上流側の第1右巻き溝342aと、交差領域343よりも下流側の第2右巻き溝342bと、を備えている。
【0044】
上記した第4実施形態によれば、車両の前進時、左サイドギヤ21が右回転する。よって、第1左巻き溝341aに入り込んだ潤滑油は、溝に沿って案内されて交差領域343に到達する(
図7の矢印B6参照)。潤滑油が交差領域343に次第に溜まり、溢れた潤滑油が第2左巻き溝341bに入り込む。そして、第2左巻き溝341bに入り込んだ潤滑油は、溝に沿って案内されて径方向外側に流出する(
図7の矢印B7参照)。
【0045】
一方で、車両の後退時、左サイドギヤ21が左回転する。よって、第1右巻き溝342aに入り込んだ潤滑油は、溝に沿って案内されて交差領域343に到達する(
図7の矢印B8参照)。潤滑油が交差領域343に次第に溜まり、溢れた潤滑油が第2右巻き溝342bに入り込む。そして、第2右巻き溝342bに入り込んだ潤滑油は、溝に沿って案内されて径方向外側に流出する(
図7の矢印B9参照)。
以上から、車両の前進時に限らず、車両の後退時で左右のサイドギヤ20、20に差回転が生じているときも、摺動部(環状壁部24の外周面24b)側に潤滑油が供給され、摺動部(環状壁部24の外周面24b)や、サイドギヤ20のギヤ部25とデフピニオンギヤ13との噛み合い箇所に潤滑油が常時供給される。
【0046】
以上、各実施形態について説明したが、本発明における凹部の断面形状は、三角形状に限らず、半円形状や四角形状などでもよく、特に限定されない。また、本発明における第1凹部の外側周面は、開口側に近づくに径方向外側に傾斜する傾斜面でなくてもよい。
また、溝部の形状は、周方向に延在するとともに、周方向の一端側から他端側に向うにつれて径方向外側に位置していればよく、実施形態で渦巻き状、円弧状に限られず、例えば直線状であってもよい。