特開2020-120064(P2020-120064A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2020120064-磁性材料 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-120064(P2020-120064A)
(43)【公開日】2020年8月6日
(54)【発明の名称】磁性材料
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20200710BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20200710BHJP
   C04B 35/38 20060101ALI20200710BHJP
【FI】
   H01F1/34 140
   C01G49/00 E
   C04B35/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-12144(P2019-12144)
(22)【出願日】2019年1月28日
(71)【出願人】
【識別番号】519315280
【氏名又は名称】NJコンポーネント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 充次
(72)【発明者】
【氏名】浅枝 勉
(72)【発明者】
【氏名】土屋 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 清人
【テーマコード(参考)】
4G002
5E041
【Fターム(参考)】
4G002AA10
4G002AB01
4G002AD04
4G002AE02
5E041AB02
5E041BD01
5E041CA02
5E041HB15
5E041NN02
(57)【要約】
【課題】広い温度範囲でコアロスが小さな磁性材料を提供する。
【解決手段】Fe、ZnO、及びMnOからなるMn−Zn系フェライトを主成分とするとともに、CoO、TiO、及びCaOを含む副成分が前記主成分に添加されてなる磁性材料であって、前記主成分は、53.45mol%以上53.75mol%以下の前記Feと、10.05mol%以上10.65mol%以下の前記ZnOとを含むとともに、残部が前記MnOからなり、前記CoOが、前記主成分に対し、Co換算で0.38wt%以上0.46wt%以下の割合で含まれ、前記TiOが、前記主成分に対し、0.15wt%以上0.40wt%以下の割合で含まれ、前記CaOが、前記主成分に対し、CaCO換算で0.03wt%以上の割合で含まれている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、ZnO、及びMnOからなるMn−Zn系フェライトを主成分とするとともに、CoO、TiO、及びCaOを含む副成分が前記主成分に添加されてなる磁性材料であって、
前記主成分は、53.45mol%以上53.75mol%以下の前記Feと、10.05mol%以上10.65mol%以下の前記ZnOとを含むとともに、残部が前記MnOからなり、
前記CoOが、前記主成分に対し、Co換算で0.38wt%以上0.46wt%以下の割合で含まれ、
前記TiOが、前記主成分に対し、0.15wt%以上0.40wt%以下の割合で含まれ、
前記CaOが、前記主成分に対し、CaCO換算で0.03wt%以上の割合で含まれている、
ことを特徴とする磁性材料。
【請求項2】
請求項1に記載の磁性材料であって、
ZrOが、前記主成分に対して、0.02wt%以上0.05wt%以下の割合で前記副成分として含まれ、
Sbが、前記主成分に対して、0.09wt%以下の割合で前記副成分として含まれている、
ことを特徴とする磁性材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁性材料であって、40℃以下の温度でコアロスが最小値となるとともに、140℃の温度におけるコアロスが350kW/m以下であることを特徴とする磁性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスである磁性材料は、酸化鉄を含む主成分の組成によって、マンガン亜鉛系フェライト(Mn−Zn系フェライト)や、ニッケル亜鉛系フェライト(Ni−Zn系フェライト)などに区別される。このうち、Mn−Zn系フェライトは、Ni−Zn系フェライトと比較すると磁気損失(以下、コアロスと言うことがある)が小さく、直流重量特性を容易に向上させることができるため、例えば、トランスなどのコイル素子のコアの材料として用いられる。一般的に、コイル素子のコアは、秤量、及び混合された粉体状の原料を、金型を用いて成形し、その成形体を焼成することで製造される。
【0003】
ところで、近年、ハイブリッドカーや電気自動車など、モーターでの走行が可能な電動車両の普及が著しい。こうした電動車両には、例えばモーターの駆動用電源となる走行用バッテリーが扱う200V〜300V程度の高電圧を、車載用の電子機器(エアコン、オーディオなど)を作動させるための14V程度の低電圧に変換するためのDC−DCコンバーターが搭載されている。
【0004】
そして、DC−DCコンバーターによる電圧の変換効率を向上させるためには、DC−DCコンバーターに実装されているトランスのコアロスを低減させることも必要になる。さらに、電動車両に搭載されているDC−DCコンバーター用のトランスは、一般的な電源用途のトランスとは異なり、車両において、DC−DCコンバーターが配置される場所の周囲温度のみならず、広い温度範囲でコアロスが低いことが求められる。
【0005】
具体的には、電動車両用のDC−DCコンバーターは、低負荷時には25℃程度から40℃程度までの温度領域(以下、室温域と言うことがある)において動作するが、高負荷時には発熱によって周辺温度が上昇するために、100℃程度の温度から設計仕様上の上限である140℃程度の温度までの温度領域(以下、高温域と言うことがある)においても安定して性能を発揮する必要がある。したがって、こうしたDC−DCコンバーターに実装されるトランスには、上述した室温域から高温域までの広い温度範囲において低損失であることが求められる。
【0006】
図1に、Mn−Zn系フェライトを主成分とする磁性材料からなるコアを備えたコイル素子の一般的な温度特性を示した。図1において、横軸は温度(℃)を、縦軸は、コイル素子を100kHz−200mTの正弦波で励磁した際のコアロス(kW/m)を示している。図1に示したように、コアロスの温度特性曲線は、ある温度でコアロスが最小となるような谷型の形状を有している。なお、以下の特許文献1や非特許文献1には、コアロスの温度依存性を小さくするために、Mn−Zn系フェライトに適量のCoOを添加する技術について記載されている。また、以下の非特許文献2には、従来のMn−Zn系フェライトを主成分とした磁性材料であるMn−Zn系フェライト材料の特徴や、その磁性材料を用いたコイル素子のコアの特性などが記載されている。以下の特許文献2には、Mn−Zn系フェライトにCaCOとSiOとを添加した磁性材料について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−119892号公報
【特許文献2】特開2001―155915号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】藤田明、後藤聡志、”広い温度範囲で鉄損の低いMnZnフェライト”川崎製鉄技報 Vol.34 No.3 2002
【非特許文献2】FDK株式会社、”業界最高水準の低コアロスを実現したMn−Zn系フェライト新材料「6H60T」を開発〜業界標準コア形状の「UU79/129A」で提供開始〜”、[online]、[平成30年9月27日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/whatsnew-j/release20160411-j.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているMn−Zn系フェライト材料を含め、Mn−Zn系フェライト材料のコアロスと温度との関係は、図1示したような特性となる。そして、広い温度範囲においてコアロスを小さくするためには、図1に示したようなコアロスの温度依存性を小さくすることが必要となる。そこで、磁性材料に添加剤として含ませるCoOの添加量を増やすことで、低温側のコアロスを低減することが考えられる。しかし、主成分の組成を保ったままCoOの添加量を増減させても、図1に示した谷型の特性において、低温側のコアロスが低減するだけで、室温域から高温域までの広い温度範囲でコアロスを低くすることはできない。
【0010】
非特許文献1には、コアロスの温度依存性が小さい磁性材料について記載されている。しかし、電動車両では、140℃程度の高温環境下でDC−DCコンバーターが使用されることが想定されている。そして、非特許文献1に記載の磁性材料は、140℃の温度におけるコアロスが400kW/m以上ある。また、コアロスの最小値は300kW/m程度であり、コアロスが極めて低いとは言い難い。
【0011】
そこで本発明は、広い温度範囲でコアロスが小さな磁性材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、Fe、ZnO、及びMnOからなるMn−Zn系フェライトを主成分とするとともに、CoO及びTiOを含む副成分が前記主成分に添加されてなる磁性材料であって、
前記主成分は、53.45mol%以上53.75mol%以下の前記Feと、10.05mol%以上10.65mol%以下の前記ZnOとを含むとともに、残部が前記MnOからなり、
前記CoOが、前記主成分に対し、Co換算で0.38wt%以上0.46wt%以下の割合で含まれ、
前記TiOが、前記主成分に対し、0.15wt%以上0.40wt%以下の割合で含まれている、
ことを特徴とする磁性材料である。
【0013】
上記の磁性材料には、
ZrOが、前記主成分に対して、0.02wt%以上0.05wt%以下の割合で前記副成分として含まれ、
Sbが、前記主成分に対して、0.09wt%以下の割合で前記副成分として含まれている、としてもよい。
【0014】
40℃以下の温度でコアロスが最小値となるとともに、140℃の温度におけるコアロスが350kW/m以下である磁性材料であれば、より好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広い温度範囲でコアロスが小さな磁性材料が提供される。その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Mn−Zn系フェライトを主成分とする磁性材料の一般的な温度特性を示す図である。
図2】本発明の実施例に係る磁性材料の作製手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===実施例===
本発明の実施例に係る磁性材料は、電動車両に搭載されているDC−DCコンバーターに実装されるトランスのコアに使用されることを考慮し、室温域の上限である40℃以下の温度から、高負荷時に発熱したDC−DCコンバーターの温度を想定した140℃程度の高温域までの温度範囲において、コアロスが低いものとなっている。そして、実施例に係る磁性材料は、Fe、ZnO、及びMnOからなるMn−Zn系フェライトを主成分とし、当該主成分に対して副成分として、CoO、及びTiOが添加されたものであり、主成分の組成と、副成分の添加量とが最適化されている。
【0018】
<本発明に想到する過程>
磁性材料の主成分であるMn−Zn系フェライトにCoOを添加すると、磁性材料の温度依存性が小さくなる。すなわち、コアロスの最大値と最小値との差が小さく、図1に示したような、温度に対するコアロスの特性曲線が平坦な形状になる。そして、本発明に想到する過程で得た知見では、Fe、ZnO、及びMnOからなるMn−Zn系フェライトにおいて、Fe、及びZnOの割合が不足している場合には室温域におけるコアロスが増大し、Fe、及びZnOの割合が過剰な場合には高温域におけるコアロスが増大する。また、Mn−Zn系フェライトを主成分とする磁性材料において、Co換算で0.40wt%前後のCoOを添加すると、低温側でのコアロスの増大を抑制することができる。さらに、TiOの添加量が不足すると、コアロスが最小となる温度が40℃以下にならず、TiOの添加量が過剰な場合は、高温域におけるコアロスが増大する。
【0019】
そこで、本発明者は、主成分中のFe、及びZnOの割合と、副成分であるTiOの添加量とを最適化しつつ、CoOを、主成分に対してCo換算で0.40wt%前後添加しながら室温域におけるコアロスの増大を抑制することができれば、40℃以下の室温域から140℃程度の高温域までの広い温度範囲で低損失な磁性材料を作製することができると考えた。そして、本発明は、以上の知見や考察に基づいて鋭意研究を重ねた結果なされたものである。
【0020】
===磁性材料の組成の最適化===
本発明の実施例に係る磁性材料の最適な組成を決定するために、主成分、及び添加物の組成が異なる各種磁性材料を作製し、その磁性材料を焼成してなる焼結体をサンプルとした。そして、各種サンプルについて、25℃〜140℃の温度範囲におけるコアロスを計測した。
【0021】
<サンプルの作製方法>
図2に、サンプルの作製手順を示した。ここで採用したサンプルの作製手順は、図2に示したように、まず、Mn−Zn系フェライトの原料である酸化鉄(Fe)、酸化亜鉛(ZnO)、及び酸化マンガン(MnO)をそれぞれ秤量し、これらのフェライトの原料を、ボールミルなどを用いて混合した(S1)。
【0022】
次に、上記主成分の原料混合物を約900℃の温度で仮焼成し(S2)、仮焼成によって得られた粉体(以下、仮焼粉と言うことがある)を、ボールミルを用いて所定の粒度(例えば、平均粒径1μm)となるまで5時間粉砕した(S3)。そして、粉砕後の仮焼粉に、副成分の原料として、酸化チタン(TiO)、及びCoOの起源となる酸化コバルトIII(Co)をサンプルに応じた量だけ混合し、その混合物を乳鉢で混合した(S4)。なお、本実施例では、この副成分の原料を混合する工程(S4)において、Co、TiOの他に、酸化ジルコニウム(ZrO)と三酸化アンチモン(Sb)を微量添加物として適量添加している。なお、ZrOは、粒界抵抗を高めるための添加剤であり、添加量が少な過ぎると効果が得られず、多過ぎるとフェライトの抵抗率が低下してコアロスが増大する。そして、ZrOは、主成分に対して0.03wt%〜0.04wt%程度を添加することが好ましい。Sbの最適な添加量は、主成分に対して0.03wt%〜0.07wt%程度であり、Sbを適量添加することによってサンプルの組織が緻密化し、コアロスを低減させることができる。
【0023】
また、当該副成分の添加・混合工程(S4)では、副成分の原料とともに、酸化カルシウム(CaO)の起源となる炭酸カルシウム(CaCO)、さらには二酸化ケイ素(SiO)を適量添加している。CaOやSiOは、磁性材料の抵抗率を高め、コアロスを低減させる。
【0024】
なお、従来のフェライト材料において、SiOを添加する場合の当該SiOの添加量は、約0.01wt%以下である。ここでは、全てのサンプルに対し、SiOを0.005wt%添加しているが、SiOは、コアロスの温度特性に大きな影響を及ぼすことはない。
【0025】
一方、CaCO換算でのCaOの添加量は、従来のフェライト材料において、0.05〜0.15wt%程度であるものの、少なくとも、CaOの添加量の下限値については、140℃でのコアロスを所定の値以下にすることを目標として設定する必要がある。そして、ここでは、140℃でのコアロスを350kW/m以下とすることを目標とした。なお、コアロスの温度特性は、コアのサイズなどにも依存するため、CaOの添加量の上限値については、一義的に定義することが難しい。
【0026】
なお、後述するように、CaCO換算でのCaOの添加量は、円環状(トロイダルリング状)で、サイズが、直径がφ25mm、および円環の軸方向と直径方向とを含む面で切断したときの断面積が約25mmのコアであっても、0.03wt%以上の添加量が必要であることが判明した。これは、CaOの添加量がCaCO換算で0.03wt%未満であると、電気抵抗が低下して渦電流損失が増大し、それによって、コアロスが悪化するものと考えられる。そして、以下では、特に断りがない限り、全てのサンプルに対し、CaOをCaCO換算で0.08wt%添加することとする。
【0027】
次に、主成分の仮焼粉と副成分の原料との混合物に、バインダーとしてPVAを1wt%添加し、適宜な大きさの粒子径となるように造粒を行った(S5)。さらに、その造粒物を、金型を用いて上述したトロイダルリング状のコアに成形した(S6)。そして、その成形体を所定の酸素濃度において、最高約1300℃の温度で3時間焼成し(S7)、サンプルとなる焼結体を得た。
【0028】
<主成分の組成の検討>
上述したサンプルの作製手順において、本発明者は、まず、Mn−Zn系フェライトの原料であるFe、ZnO、及びMnOの割合が異なる25種類の各種磁性材料からなる焼結体をサンプル1〜25として作製した。そして、サンプル1〜25のそれぞれを、交流B−Hアナライザーを使用して100kHz−200mTで正弦波励磁したときのコアロスPcv(kW/m)を、25℃〜140℃の温度範囲で計測した。
【0029】
以下の表1にサンプル1〜25の作製条件と、各種サンプルにおけるコアロスの温度特性とを示した。
【0030】
【表1】
表1において、サンプル1〜25は、いずれも副成分の添加(S4)に際して、TiOの添加量を0.30wt%、CoOの添加量をCo換算で0.40wt%としている。また、表1では、コアロスの最大値と最小値、及び最大値と最小値のそれぞれが測定されたときの温度を示した。なお、表1では、参考までに、温度依存性という数値を示した。温度依存性は、コアロスの最大値から最小値を減算した値を、コアロスが最大となる温度からコアロスが最小となる温度を減算した値で除算して求めた値の絶対値であり、例えば、図1に示したコアロスの温度特性曲線の平坦度を示す指標となる。そして、温度依存性の数値は、温度特性の平坦度が増すほど、すなわち、コアロスの最大値と最小値との差が小さいほど、あるいはコアロスが最大値となる温度とコアロスが最小値となる温度との差が大きいほど小さくなる。
【0031】
ここで、上記非特許文献1に記載の磁性材料が、140℃の温度でコアロスが最大値400kW/mであったことを考慮して、そのコアロスの値(400kW/m)の90%未満である350kW/mを、コアロス特性の優劣を判断するための基準にすると、表1に示したように、サンプル1〜25は、いずれも、140℃の温度においてコアロスが最大となり、サンプル1、2、4、5、7〜19、22、及び23では、コアロスが350kW/m以下であり優れたコアロス特性を示した。なお、サンプル3、6、20、21、24、及び25は、コアロスが350kW/mを上回った。
【0032】
また、サンプル1、2、4、5、7〜19、22、及び23のうち、サンプル22、及び23を除くサンプルでは40℃以下の温度でコアロスが最小となった。さらに、サンプル2、4、7,8、10、12、13、15、16、17、18、及び21では、25℃の温度でコアロスが最小となった。なお、サンプル3、6、24、及び25では、コアロスが最小となった温度が60℃であり、サンプル22、及び23では、いずれもコアロスが最小となった温度が80℃であった。
【0033】
そして、コアロスの最大値が350kW/m以下であり、コアロスが最小値となる温度が40℃以下であった、サンプル1、2、4、5、及び7〜19の組成から、主成分であるMn−Zn系フェライトにおけるFeの含有量が53.45mol%以上53.75mol%以下、ZnOの含有量が10.05mol%以上10.65mol%以下、及び残部がMnOである磁性材料では、25〜140℃の温度範囲におけるコアロスの最大値を350kW/m以下にすることができるとともに、40℃以下の室温域でコアロスが最小となることが分かった。また、サンプル1、2、4、5、及び7〜19の温度依存性の平均値は、1.05であった。
【0034】
<副成分の添加量の検討>
次に、副成分の適正な添加量について検討するために、図2に示したサンプルの作製手順において、CoO、及びTiOの添加量が異なる30種類の磁性材料からなる焼結体をサンプル26〜55として作製した。サンプル26〜55の主成分の組成は、いずれも表1におけるサンプル1、2、4、5、及び7〜19におけるFe、及びZnOの割合の中央値に基づいて、Feの割合を53.60mol%、ZnOの割合を10.35mol%とし、残りの36.05mol%をMnOとした。そして、各サンプルのコアロスの温度特性を調べた。
【0035】
以下の表2に、サンプル26〜55の作製条件と温度特性とを示した。
【0036】
【表2】
表2に示したように、サンプル26〜55の全てにおいて、140℃の温度下でコアロスが最大となった。そして、サンプル27〜31、34〜38、42、46、47、50、51、及び53は、コアロスの最大値が350kW/m以下であり、コアロスが最小となるときの温度が40℃以下であり、さらに、サンプル27〜31、34、36、47、及び50〜52では、コアロスが最小となるときの温度が25℃であった。また、サンプル26〜32、35〜51、及び53では、コアロスの最小値が250kW/m以下であった。そして、表2において、コアロスの最大値が350kW/m以下であり、コアロスが最小となるときの温度が40℃以下であったサンプル27〜31、34〜38、42、46、47、50、51、及び53の温度依存性の平均値は、0.98であり、表1における同様の特性を有するサンプル1、2、4、5、及び7〜19の温度依存性の平均値の1.05よりも1.00に近かった。したがって、主成分とともに副成分の添加量が適切に調整された磁性材料は、より平坦な温度特性を有しているということが分かった。
【0037】
<微量添加物についての検討>
上述したように、本発明の実施例に係る磁性材料には、極めて微量ながら、ZrOやSbも添加物として含まれている。例えば上記の各種サンプルには、主成分に対して、ZrOを0.04wt%、Sbを0.05wt%含ませていた。なお、ZrOやSbなどの微量添加物は、敢えて、過少、又は過多に添加されるものではない。したがって、微量添加物の添加量は、過少、又は過多でなければ、磁性材料の温度特性に影響を及ぼさない。
【0038】
その一方で、磁性材料の作製工程における工程管理の容易性を考慮すれば、微量添加物の添加量を厳密に規定しない方がよい。そこで、ZrO、及びSbの添加量が異なる15種類の磁性材料からなる焼結体をサンプル56〜70として作製し、サンプルごとに温度特性を評価した。なお、ここでも、微量添加物の添加量以外のサンプルの作製条件を一定にした。具体的には、各種サンプルの主成分を、Feの割合を53.60mol%、ZnOの割合を10.35mol%とし、残りの36.05mol%をMnOとするMn−Zn系フェライトとし、0.30wt%のTiOと、Co換算で0.40wt%のCoOとを副成分として添加した。
【0039】
以下の表3に、サンプル56〜70の作製条件と温度特性とを示した。
【0040】
【表3】
表3に示したように、サンプル56〜70の全てにおいても、140℃の温度下でコアロスが最大となった。
【0041】
そして、サンプル58〜60、及び63〜67は、コアロスの最大値が350kW/m以下であり、コアロスが最小となるときの温度が40℃以下でであった。また、サンプル56〜60、及び63〜70では、コアロスの最小値が250kW/m以下であった。そして、表3において、コアロスの最大値が350kW/m以下であり、コアロスが最小となるときの温度が40℃以下であったサンプル58〜60、及び63〜67の温度依存性の平均値は、1.26であり、表2において同様の特性を有するサンプル27〜31、34〜38、42、46、47、50、51、及び53の温度依存性の平均値の0.98と比較して、温度特性の平坦性が損なわれた。しかしながら、主成分に対して添加するZrOの添加量は、0.02〜0.05wt%であればよく、Sbの添加量は、0.00〜0.09wt%であればよい。すなわち、主成分に対して添加するZrOやSbの添加量が上記の範囲内であれば、本発明の実施例に係る磁性材料は上述した効果を奏することができ、これらの微量添加物の添加量を厳密に管理する必要がないため、磁性材料の生産工程において容易に工程管理を行うことができる。
【0042】
<CaOの最適添加量>
上述したように、CaOのCaCO換算での添加量の下限値を求める必要がある。そこで、CaCOの添加量が異なる4種類の磁性材料からなる焼結体をサンプル71〜74として作製し、サンプルごとに温度特性を評価した。なお、微量添加物の添加量以外のサンプルの作製条件を一定にした。具体的には、各種サンプルの主成分を、Feの割合を53.60mol%、ZnOの割合を10.35mol%とし、残りの36.05mol%をMnOとするMn−Zn系フェライトとし、0.30wt%のTiOと、Co換算で0.40wt%のCoOとを副成分として添加した。また、主成分に対し、ZrOおよびSbを、それぞれ、0.04wt%および0.05wt%添加した。
【0043】
以下の表4に、サンプル71〜74における、CaCOの添加量と温度特性との関係を示した。
【0044】
【表4】
以上より、本発明の実施例に係る磁性材料は、53.45mol%以上53.75mol%以下のFeと、10.05mol%以上10.65mol%以下のZnOとを含むとともに、残部がMnOからなるMn−Zn系フェライトを主成分とし、副成分として、CoOが、主成分に対し、Co換算で0.38wt%以上0.46wt%以下の割合で添加され、TiOが、主成分に対し、0.15wt%以上0.40wt%以下の割合で添加され、CaOがCaCO換算で0.03wt%以上添加されてなる。
【0045】
さらに、ZrOを、主成分に対し、0.02wt%以上0.05wt%以下の割合で添加し、Sbを、主成分に対し、0.00wt%以上0.09wt%以下の割合で添加することによって、上記の温度特性を備える磁性材料をより確実に作製することができる。
【0046】
実施例に係る磁性材料を、例えば、電気自動車やハイブリッドカーに車載されるDC−DCコンバーターの回路基板に実装されるトランスなどのコイル素子のコアに適用した場合、そのDC−DCコンバーターは、広い温度範囲の使用環境下において、安定に、かつ高効率で動作するものとなる。このような広い温度範囲で低損失のコアは、そのコアを備えたコイル素子や、そのコイル素子が実装されるDC−DCコンバーターの消費電力を低減させることができる。また、実施例に係る磁性材料を用いて作製されるコアは、コアロスが小さく、そのコアを備えたコイル素子は、発熱し難いものとなる。そのため、DC−DCコンバーターの設計に際し、コイル素子の大きさが規定されている場合でも、実施例に係る磁性材料をコイル素子のコアに用いることで、コイル素子のサイズを柔軟に設定することができる。特に、設計によって、表面積が小さく放熱し難い小型のコイル素子が指定されている場合であっても、想定される広い使用温度範囲においてコアロスが小さな上記実施例に係る磁性材料からなるコアを備えたコイル素子を用いることで、コイル素子の使用温度を高めつつ、コイル素子の小型化を達成することができる。
【0047】
また、上記実施例に係る磁性材料では、副成分としてSiOが所定量添加されていたが、この副成分の有無、あるいは添加量は、磁性材料の温度特性以外の他の特性(例えば、コアロス)を、求められる数値範囲に調整するために適宜添加されていればよい。また、CaOの添加量の上限値についても、磁性材料の温度特性以外の他の特性を、求められる数値範囲に調整するために適宜に設定すればよい。
【0048】
なお、上述した実施例についての説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。本発明は、上記実施例の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。
【0049】
上述した実施例に係る磁性材料は、DC−DCコンバーターの回路基板に実装されるトランスのコアに限らず、トロイダルコアなどの他のコイル素子のコアにも適用することができる。もちろん、室温域から高温域まで低いコアロス特性が必要となる電子部品に、実施例に係る磁性材料が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
S1 主成分の秤量・混合工程、S2 仮焼成工程、S3 粉砕工程、S4 副成分の添加・混合工程、S5 造粒工程、S6 成形工程、S7 焼成工程、
図1
図2