【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼平成30年1月31日 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0185490を通じて発表
請求項1の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、請求項1の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び請求項1の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を検出可能なポリヌクレオチドを含む、対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスク予測用試薬。
請求項2の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、請求項2の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び請求項2の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を検出可能なポリヌクレオチドを含む、対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症のリスク予測用試薬。
請求項3の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び請求項3の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を検出可能なポリヌクレオチドを含む、対象(NASH発症者)におけるNASH肝細胞癌発症のリスク予測用試薬。
請求項1の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、請求項1の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、及び請求項1の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列を有する、対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスク予測用プローブ。
請求項2の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、請求項2の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、及び及び請求項2の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列を有する、対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症のリスク予測用プローブ。
請求項3の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、及び請求項3の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列を有する、対象(NASH発症者)におけるNASH肝細胞癌発症のリスク予測用プローブ。
(1)請求項1の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、請求項1の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、及び請求項1の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域を増幅することのできる、対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスク予測用プライマー。
請求項2の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、請求項2の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、及び請求項2の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域を増幅することのできる、対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症のリスク予測用プライマー。
請求項3の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、及び請求項3の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域を増幅することのできる、対象(NASH発症者)におけるNASH肝細胞癌発症のリスク予測用プライマー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、NAFLDの発症からNASHを経てNASH-HCCに至るNAFLD関連疾患に関して、それぞれの疾患を未発症の状態から、各それぞれの疾患を発症するリスクを予測する方法及び予測用試薬を提供することである。具体的には、本発明が解決しようとする課題は、対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスクを予測するための方法及びその予測用試薬を提供すること、対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症・進展のリスクを予測するための方法及びその予測用試薬を提供すること、並びに対象(NASH発症者)におけるNASH-HCC発症のリスクを予測するための方法及びその予測(判定)用試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
NASHの発症と進行には患者の遺伝的背景が関っていることが知られており、遺伝的な高リスク群が明らかになれば、医療的介入や生活指導を効率的に行うことができると考えられる。そのため本発明者らは、まず、肝生検によって診断した476人のNASH及び58人のNASH由来肝細胞癌患者を含む902人の日本人NAFLD患者のゲノムDNAを収集し、7,672人の対照検体との間で、ゲノム上に分布する約10万個の一塩基多型(以下、「SNP」と略記する場合がある)の頻度を比較する全ゲノム関連解析(以下、「GWAS」と略記する場合がある)を行った。その結果、NAFLD、NASH、NASH-HCCの疾患感受性に関わる4個の遺伝子(PNPLA3、GCKR、GATAD2A、及びDYSF)を見出すことに成功した。更に鋭意検討を重ねた結果、上記遺伝子群が有する遺伝的変異を利用してNAFLD、NASH、及びNASH-HCCの発症・進展予測をリスクアレルの保有数をもとに算出する方法を確立し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスクを予測するための方法であって、前記対象由来の試料中の以下:
(1)ヒト第2染色体上のGCKR遺伝子の第27730940番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、
(2)ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子の第44333694番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び
(3)ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子の第19545099番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型
を検出することを含む、方法。
[2]対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症のリスクを予測するための方法であって、前記対象由来の試料中の以下:
(1)ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子の第44333694番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、
(2)ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子の第19545099番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び
(3)ヒト第2染色体上のDYSF遺伝子の第72035671番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型
を検出することを含む、方法。
[3]対象(NASH発症者)におけるNASH肝細胞癌発症のリスクを予測するための方法であって、前記対象由来の試料中の以下:
(1)ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子の第44333694番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び
(2)ヒト第2染色体上のDYSF遺伝子の第72035671番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型
を検出することを含む、方法。
[4]前記連鎖不平衡状態が、前記連鎖不平衡係数r2が0.8以上の連鎖不平衡状態である、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]前記連鎖不平衡状態が、前記連鎖不平衡係数r2が0.9以上の連鎖不平衡状態である、[4]に記載の方法。
[6][1]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、[1]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び[1]の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を検出可能なポリヌクレオチドを含む、対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスク予測用試薬。
[7][2]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、[2]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び[2]の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を検出可能なポリヌクレオチドを含む、対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症のリスク予測用試薬。
[8][3]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び[3]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を検出可能なポリヌクレオチドを含む、対象(NASH発症者)におけるNASH肝細胞癌発症のリスク予測用試薬。
[9][1]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、[1]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、及び[1]の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列を有する、対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスク予測用プローブ。
[10][2]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、及び[2]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、及び[2]の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列を有する、対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症のリスク予測用プローブ。
[11][3]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列、及び[3]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む10塩基以上の配列、若しくはその相補配列を有する、対象(NASH発症者)におけるNASH肝細胞癌発症のリスク予測用プローブ。
[12][1]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、[1]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、及び[1]の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域を増幅することのできる、対象(健常者)におけるNAFLD発症のリスク予測用プライマー。
[13][2]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、[2]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、及び[2]の(3)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域を増幅することのできる、対象(NAFLD発症者)におけるNASH発症のリスク予測用プライマー。
[14][3]の(1)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域、及び[3]の(2)に記載の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を含む領域を増幅することのできる、対象(NASH発症者)におけるNASH肝細胞癌発症のリスク予測用プライマー。
[15](A)被験者から取得した試料中の(1)ヒト第2染色体上のGCKR遺伝子の第27730940番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、(2)ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子の第44333694番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型、及び(3)ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子の第19545099番目の一塩基多型、又は前記一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型を検出する工程、
(B)(A)で検出した一塩基多型のそれぞれの数に基づいて得られる値又は総数とNAFLD発症に関する閾値とを比較する工程、
(C)(B)の結果に基づき、(A)で検出した一塩基多型の総数がNAFLD発症に関する閾値よりも大きい場合に、NAFLD発症のリスクを有する(又は高リスク群である)と判定する工程、及び
(D)(C)の結果に基づき、NAFLD発症のリスクを有する(又は高リスク群である)と判定された被験者に、NAFLD治療薬又は予防薬を投与する工程
を含む、NAFLDの治療又は予防方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NAFLD、NASH、及びNASH-HCC発症のリスク予測が可能となることにより、(1)健常者中のNAFLD発症高リスク群に対する発症予防の指導、(2)NAFLD発症者中で特にNASH発症高リスク群に対する予防的治療介入、及び(3)NASH発症者中で特に肝硬変への進展とNASH-HCC発症高リスク群に対する予防的治療介入が可能となる。また、これらを通じて、各高リスク群に対する選択的な発症遅延・予防の推進が可能となり、個人のQOLの向上とともに、医療費を含む社会保障費の削減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.本発明のリスク予測方法
本発明において、非アルコール性脂肪性疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)とは、組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認め、アルコール性肝障害など他の肝疾患を除外した病態である。エタノール換算で男性30 g/日、女性20 g/日以上の飲酒量でアルコール性肝障害を発症し得るので、NAFLDの飲酒量はそれ未満となる。NAFLDの多くは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧など生活習慣病を基盤に発症することから、メタボリックシンドロームの肝臓での表現型といえる。
【0011】
NAFLDは組織学的に中心静脈周囲の大滴性の肝脂肪変性を基盤とし、病態があまり進行しない非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)と進行性で肝硬変や肝細胞癌の発症母地にもなる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に分類される。NASHは、脂肪変性、炎症、肝細胞傷害(風船様変性)が特徴であり、線維化が進展すると肝硬変による肝不全や肝細胞癌(NASH−HCC)で死に至る。
本明細書中では、NAFLDの発症からNASHを経てNASH-HCCに至る疾患をNAFLD関連疾患と称する。
なお、本明細書中において健常者とは、現在、特定の疾患(例:NAFLD)に罹患していない対象を意味する。
【0012】
本発明は、被験者におけるNAFLD関連疾患の発症のリスクを予測(リスクを有するか否かを判定)するための方法に関し、該被験者由来の試料中のGCKR遺伝子、PNPLA3遺伝子、GATAD2A遺伝子及びDYSF遺伝子上にある一塩基多型、あるいはそれらの一塩基多型と連鎖不平衡状態にある一塩基多型の特定の組み合わせを検出することを特徴としている。
【0013】
本発明の予測方法は、いずれの人種の被験者に対しても用いることができるが、好適には日本人等のアジア人の被験者に用いることができ、より好適には東アジア人、さらに好適には日本人の被験者に用いることができる。また、本発明の方法は、男女いずれの性別、いずれの年齢の被験者に対しても用いることができるが、好適には、年齢(45歳以上)、肥満、AST/ALT比>1、血小板低値、インスリン抵抗性、高中性脂肪症、血清フェリチン高値、ヒアルロン酸及び4型コラーゲン(7s)高値等のNAFLD及びNASHのリスクファクターを有する被験者に対して用いることができる。NAFLD及びNASHは、通常自覚症状がなく、症状が悪化してから発覚することが多いため、定期的に健康診断等において、本発明の方法を適用することが好ましい。
【0014】
本発明の予測方法における被験者由来の試料とは、被験者(患者等)の遺伝子、すなわちゲノムDNAを含む生体試料であれば特に限定されず、使用する検出方法の種類に応じて適宜選択することができる。該試料は、例えば、被験者の生体組織、具体的には、血液、肝生検、頬粘膜などを採取し、そこから常法に従って調製したゲノムDNAを用いることができる。被験者由来サンプルからのゲノムDNAの調製は、当業者に周知の任意の方法を用いて行うことができる。
【0015】
本発明において検出される一塩基多型は、ヒト第2染色体上のGCKR遺伝子(Genbank:NG_028024.1)の第27730940番目のSNP(ID番号:rs1260326)である。該SNPは、配列番号1で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるチミン(T)/シトシン(C)の多型を意味し、この塩基がC(リスクアレル)である場合にはNAFLD関連疾患の可能性又は発症リスクが高いと予測(判定)することができる。また、遺伝子型を考慮して解析した場合は、CC(リスクアレルのホモ接合体)>CT(リスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体)>TT(非リスクアレルのホモ接合体)の順でNAFLD関連疾患の可能性又は発症リスクが高い。よって、この塩基がCである被験者には、NAFLD関連疾患の治療が有効である可能性が高い。
【0016】
本発明において検出される一塩基多型は、ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)である。該SNPは、配列番号2で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるチミン(T)/グアニン(G)の多型を意味し、この塩基がG(リスクアレル)である場合にはNAFLD関連疾患の可能性又は発症リスクが高いと予測(判定)することができる。また、遺伝子型を考慮して解析した場合は、GG(リスクアレルのホモ接合体)>GT(リスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体)>TT(非リスクアレルのホモ接合体)の順でNAFLD関連疾患の可能性又は発症リスクが高い。よって、この塩基がGである被験者には、NAFLD関連疾患の治療が有効である可能性が高い。
【0017】
本発明において検出される一塩基多型は、ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子(Genbank:NM_017660.3)の第19545099番目のSNP(ID番号:rs4808199)である。該SNPは、配列番号3で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるグアニン(G)/アデニン(A)の多型を意味し、この塩基がA(リスクアレル)である場合にはNAFLD関連疾患の可能性又は発症リスクが高いと予測(判定)することができる。また、遺伝子型を考慮して解析した場合は、AA(リスクアレルのホモ接合体)>AG(リスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体)>GG(非リスクアレルのホモ接合体)の順でNAFLD関連疾患の可能性又は発症リスクが高い。よって、この塩基がAである被験者には、NAFLD関連疾患の治療が有効である可能性が高い。
【0018】
本発明において検出される一塩基多型は、ヒト第2染色体上のDYSF遺伝子(Genbank:NC_000002.12)の第72035671番目のSNP(ID番号:rs17007417)である。該SNPは、配列番号4で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるチミン(T)/シトシン(C)の多型を意味し、この塩基がC(リスクアレル)である場合にはNAFLD(NASH)から肝細胞癌が発生する可能性が高い。また、遺伝子型を考慮して解析した場合は、CC(リスクアレルのホモ接合体)>CT(リスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体)>TT(非リスクアレルのホモ接合体)の順でNASH肝細胞癌が発生する可能性が高く、定期的検査による肝細胞癌早期発見が重要である。
【0019】
また上記4つの感受性遺伝子(GCKR遺伝子、PNPLA3遺伝子、GATAD2A遺伝子及びDYSF遺伝子)の一塩基多型の特定の組み合わせについて、多遺伝子スコアを用いることにより、NAFLD関連疾患に関するリスクアセスメントを行うことができる。
【0020】
具体的には、以下:
(1)ヒト第2染色体上のGCKR遺伝子(Genbank:NG_028024.1)の第27730940番目のSNP(ID番号:rs1260326)、
(2)ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)及び
(3)ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子(Genbank:NM_017660.3)の第19545099番目のSNP(ID番号:rs4808199)
の組み合わせについて、多遺伝子スコアを計算することにより、NAFLD発症のリスクについて予測(判定)することができる。
【0021】
また、以下:
(1)ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)、
(2)ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子(Genbank:NM_017660.3)の第19545099番目のSNP(ID番号:rs4808199)及び
(3)ヒト第2染色体上のDYSF遺伝子(Genbank:NC_000002.12)の第72035671番目のSNP(ID番号:rs17007417)
の組み合わせについて、多遺伝子スコアを計算することにより、線維化を伴うNASH発症のリスクについて予測(判定)することができる。
【0022】
さらに、以下:
(1)ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)及び
(2)ヒト第2染色体上のDYSF遺伝子(Genbank:NC_000002.12)の第72035671番目のSNP(ID番号:rs17007417)
の組み合わせについて、多遺伝子スコアを計算することにより、NASHからの発癌(NASH-HCC)のリスクについて予測(判定)することができる。
【0023】
本明細書中、該リスクアセスメントに用いる多遺伝子スコアは、上記感受性遺伝子のSNPがリスクアレルのホモ接合体である場合2点、リスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体の場合1点、及び非リスクアレルのホモ接合体である場合0点として計算してもよい。
【0024】
上記リスクアセスメントでは、NAFLD発症のリスク、線維化を伴うNASH発症リスクのいずれにおいても、全てリスクアレルのホモ接合体>2つがリスクアレルホモ接合体で他の1つがリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体>2つがリスクアレルのホモ接合体で他の1つが非リスクアレルのホモ接合体=1つがリスクアレルのホモ接合体で他の2つがリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体>1つがリスクアレルのホモ接合体で他の1つがリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体、残りの1つが非リスクアレルのホモ接合体=3つがリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体>1つがリスクアレルのホモ接合体で他の2つが非リスクアレルのホモ接合体=2つがリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体で他の1つが非リスクアレルのホモ接合体>1つがリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体で他の2つが非リスクアレルのホモ接合体>全て非リスクアレルのホモ接合体の順でリスクが高くなる。NASHからの発癌(NASH-HCC)のリスクにおいては、全てリスクアレルのホモ接合体>1つがリスクアレルのホモ接合体で他がリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体>1つがリスクアレルのホモ接合体で他が非リスクアレルのホモ接合体=2つがリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体>1つが非リスクアレルのホモ接合体で他がリスクアレルと非リスクアレルのヘテロ接合体>全て非リスクアレルのホモ接合体の順でリスクが高くなる。
【0025】
本発明の予測方法においては、上記に基づいて計算した遺伝子スコアをそのまま用いても十分に各疾患に対するリスクを予測することはできるが、好適な態様では、多変量解析法を用いて遺伝子スコアを補正して用いてもよい。多変量解析法としては、ロジスティック回帰分析法、判別分析法、重回帰分析法、比例ハザード分析法など当業者に周知の方法を用いることができるが、なかでも、各疾患に罹患するリスクがある・ないなどの二値変数を扱う場合には、ロジスティック回帰分析法が有効である。
【0026】
上記NAFLD関連疾患に関するリスクアセスメントのうち、例えば、NAFLD発症に関するリスクアセスメントについては、GCKR遺伝子、PNPLA3遺伝子、及びGATAD2A遺伝子上のSNP(それぞれ、rs1260326、rs2896019、及びrs4808199)に関する多遺伝子スコアを用いて、NAFLD発症に関するカットオフ値(閾値)を予め設定しておき、被験者のものと比較してもよい。例えば、被験者の多遺伝子スコアに基づく値が、カットオフ値以上である場合には、被験者がNAFLD発症のリスクを有する(あるいは高リスク群である)と予測(判定)することができる。
【0027】
「カットオフ値」は、その値を基準として疾患の判定をした場合に、高い診断感度(有病正診率)および高い診断特異度(無病正診率)の両方を満足できる値である。例えば、NAFLDを発症した個体で高い陽性率を示し、かつ、NAFLDを発症していない個体で高い陰性率を示す値をカットオフ値として設定することができる。本発明において使用し得るNAFLDの発症を予測するためのカットオフ値は、後述するように、0点に比して点数が高くなるにつれて危険性が増し、6点では0点に比して38.9倍高い確率でNAFLDが発症する。
【0028】
カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。例えば、NAFLDを発症した個体及びNAFLDを発症していない個体における上記SNPに関する多遺伝子スコアを算出し、算出された値における診断感度および診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。また、例えば、多数の健常者における上記SNPの多遺伝子スコアの「平均値+2標準偏差」をカットオフ値とすることも好ましく、この値を用いれば良好な感度および特異性でNAFLDを発症する可能性がある(あるいは高リスク群である)と判定することが可能となる。
【0029】
上記多遺伝子スコアを用いたカットオフ値によるリスクアセスメントに関する方法は、線維化を伴うNASH発症に関するリスクアセスメント及びNASHからの発癌(NASH-HCC)に関するリスクアセスメントについても、同様に行うことができる。本発明において使用し得る線維化を伴うNASHの発症を予測するためのカットオフ値は、後述するように、0点に比して1、2、3点になるにつれて危険性が高まる。5点の症例が少ないため、4に比して5では危険性が低くなっているが、これは5点の症例(個体)が極めて少ないためである。また、肝発癌に関しては、後述するように、0点に比して、4点では29.4倍の確率で発癌する可能性が高い。
【0030】
上記好適な態様の一態様として、具体的に、ロジスティック回帰分析法を用い、以下の3つの判定モデルを構築した。当該構築においては、上述の点数(0、1、及び2点)について、重み付けを行い性別による加算を行った上でlogit変換することで補正した値(p)すなわち、リスクアセスメントに用いる多遺伝子スコアを得た。
【0031】
上記判定モデルにおける具体的な値は以下の通りである。
(1)対象対NAFLD
p = 1 / 1 + e -(0.29799 * Number of risk Allele for rs1260326(GCKR) + 0.26417 * Number of risk Allele for rs4808199(GATAD2A) + 0.64271 * Number of risk Allele for rs2896019(PNPLA3) - 0.37114 * sex[male=1, female=2] - 2.76814) にて
五分位値(第1五分位値〜第4五分位値)を以下に示す。
【0033】
対照群(対象)において多遺伝子スコア上位5%となる、0.178以上を高リスク群と定義した。従って、被験者(対象)における上記値(p)が0.178以上である場合、該被験者(対象)をNAFLDの高リスク群と予測することができる。
【0034】
(2)NAFLD対NASH, NASH-HCC
p = 1 / 1 + e -(0.27093 * Number of risk Allele for rs17007417 (DYSF)+ 0.18333 * Number of risk Allele for rs4808199 (GATAD2A)+ 0.47552 * Number of risk Allele for rs2896019 (PNPLA3)+ 0.57412 * sex[male=1, female=2] - 1.28609) にて
五分位値(第1五分位値〜第4五分位値)を以下に示す。
【0036】
対照群(NAFLD)において多遺伝子スコア上位5%となる、0.73以上を高リスク群と定義した。従って、被験者(NAFLD)における上記値(p)が0.73以上である場合、該被験者(NAFLD)をNASH, NASH-HCCの高リスク群と予測することができる。
【0037】
(3)NASH対NASH-HCC
p = 1 / 1 + e -(0.9600 * Number of risk Allele for rs17007417(DYSF) + 0.3841 * Number of risk Allele for rs2896019(PNPLA3) + 1.0874 * sex[male=1, female=2] - 3.8831) にて
五分位値(第1五分位値〜第4五分位値)を以下に示す。
【0039】
対照群(NASH)において多遺伝子スコア上位5%となる、0.255以上を高リスク群と定義した。従って、被験者(NASH)における上記値(p)が0.255以上である場合、該被験者(NASH)をNASH-HCCの高リスク群と予測することができる。
【0040】
さらに、上記好適な態様の一態様として、具体的に、保有リスクアレル加算法により以下の3つの判定モデルも構築した。すなわち、当該構築においては、上述の点数(0、1、及び2点)についてのみ、補正なく加算した値を得た。
【0041】
上記判定モデルにおける具体的な値は以下の通りである。
(1)対象対NAFLD
リスクスコア = rs1260326(GCKR)のリスクアレル数 + rs4808199(GATAD2A)のリスクアレル数 + rs2896019(PNPLA3)のリスクアレル数
【0043】
対照群である対象においてリスクスコア上位5%、すなわち、リスクスコア4以上を高リスク群と定義した。従って、被験者(対象)におけるリスクスコアが4以上である場合、該被験者(対象)をNAFLDの高リスク群と予測することができる。
【0044】
(2)NAFLD対NASH, NASH-HCC
リスクスコア = rs17007417 (DYSF)のリスクアレル数 + rs4808199(GATAD2A)のリスクアレル数 + rs2896019(PNPLA3)のリスクアレル数
【0046】
対照群であるNAFLDにおいてリスクスコア上位5%、すなわち、リスクスコア4以上を高リスク群と定義した。従って、被験者(NAFLD)におけるリスクスコアが4以上である場合、該被験者(NAFLD)をNASH, NASH-HCCの高リスク群と予測することができる。
【0047】
(3)NASH対NASH-HCC
リスクスコア = rs17007417 (DYSF)のリスクアレル数 + rs2896019(PNPLA3)のリスクアレル数
【0049】
対照群であるNASHにおいてリスクスコア上位5%、すなわち、リスクスコア4を高リスク群と定義した。従って、被験者(NASH)におけるリスクスコアが4以上である場合、該被験者(NASH)をNASH-HCCの高リスク群と予測することができる。
【0050】
上記予測結果は、少なくとも医師によるNAFLD、NASH、及びNASH-HCCの確定診断あるいは上記疾患の高リスク群の決定を補助するために有用である。
【0051】
本発明においては、上記SNPに相当する塩基を解析する。「上記SNPに相当する塩基」とは、上記配列がSNP以外の位置で個体差等により若干変化していても、その前後配列に鑑みれば、該SNPであると認定できる塩基を意味する。
【0052】
また、本発明において解析するSNPは、上記4つのものに限定されず、上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNPを解析してもよい。ここで「上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNP」とは、上記のSNPとr2(連鎖不平衡係数)>0.5、好ましくはr2>0.8、より好ましくはr2>0.9、さらに好ましくはr2>0.95の関係を満たすSNP又は有意水準を示すP値TopSNP(最もP値の高い多型)の値から1桁内のP値を示すSNPをいう。また、上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNPは、例えば、HapMapデータベース(http://www.hapmap.org/index.html.ja)等を用いて同定することができる。若しくは、30人程度から採取したDNAの塩基配列を解析し、連鎖不平衡にあるSNPを探索することにより同定してもよい。上記の塩基と連鎖不平衡にある塩基は、遺伝子型を考慮して解析した場合は、リスクアレルのホモ接合体 > リスクアレルと非リスクアレルのへテロ接合体 > 非リスクアレルのホモ接合体の順でNAFLD関連疾患の可能性又は発症リスクが高い。そのような連鎖不平衡にあるSNPとしては、例えば、以下の表7〜12に示すものが挙げられる。
【0059】
本発明において解析するSNPは、該SNPを検出し得るポリヌクレオチドを、常法に従ってプライマー又はプローブとして利用し、Taqmanプローブ法、Invaderプローブ法(Third Wave Technologies社)、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)など遺伝子チップを用いたSNPタイピング法、制限酵素断片長多型分析法(RFLP:Restriction fragment length polymorphism)、ジデオキシ法及びMaxam-Gilbert法などのダイレクトシークエンス法、SSCP法 (single-stranded comformational polymorphism analysis)、ASP-PCR法(allele-specific primer PCR analysis)等の特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法で試験すればよい。あるいは、次世代シークエンス法等の公知の方法で試験してもよい。
【0060】
例えば、Taqmanプローブ法およびInvaderプローブ法を用い、本発明において解析するSNPであるヒト第2染色体上のGCKR遺伝子(Genbank:NG_028024.1)の第27730940番目のSNP(ID番号:rs1260326)、ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)、ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子(Genbank:NM_017660.3)の第19545099番目のSNP(ID番号:rs4808199)、ヒト第2染色体上のDYSF遺伝子(Genbank:NC_000002.12)の第72035671番目のSNP(ID番号:rs17007417)、及びこれらの遺伝子のSNPと連鎖不平衡状態にあるSNPから選択されるポリヌクレオチドが特異的に生成されることを確認することができる。Taqmanプローブ法を利用してSNP遺伝子型を予測する方法は当業者に周知であり、例えばApplied Biosystems社が市販するTaqMan(登録商標)SNP Genotyping Assays試薬を用い、SNP領域を検出するPCRプライマー及びSNP対立遺伝子を識別する蛍光標識されたTaqManプローブ及び被験者の遺伝子サンプル由来のゲノムDNAを混合して、キットの添付文書に従って反応させ、蛍光シグナルを解析することにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる(Nat Genet 2003; 34: 395-402)。
【0061】
また、Invaderプローブを用いてSNP遺伝子型を同定する方法も当業者に周知であり、Third Wave Technologies社が市販するSNP対立遺伝子を識別するInvaderプローブ及び反応試薬を混合し、被験者の遺伝子サンプル由来のゲノムDNAを鋳型としてkit推奨の方法に従い反応させ、汎用の蛍光プレートリーダーで蛍光シグナルを検出することにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる(J Hum Genet 2001; 46: 471-477)。
【0062】
ノーザンブロット法を利用する場合、上述の本発明において解析するSNPを検出し得るポリヌクレオチドをプローブとして用いればよい。具体的には、前記プローブを放射性同位元素(例:
32P、
33P)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プローブ(DNA又はRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルとして放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)又は蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharamcia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0063】
また、被験者の遺伝子型は、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)などの遺伝子チップを利用して検出することもでき、上述の本発明において解析するSNPを検出し得るポリヌクレオチドの配列を含む10〜100 bpまでの任意の長さのポリヌクレオチドをプローブとして用いることが可能である。GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)を用いた方法は当業者に周知であり、AFFYMETRIX社およびILLUMINA社からのkit推奨の方法に従い、本発明のポリヌクレオチドをプローブに含むDNAチップを、被験者由来の遺伝子サンプルとハイブリダイズさせることにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる。
【0064】
2.本発明の検査用(リスク予測用)試薬
本発明は、被験者のヒト第2染色体上のGCKR遺伝子(Genbank:NG_028024.1)の第27730940番目のSNP(ID番号:rs1260326)、ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)、ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子(Genbank:NM_017660.3)の第19545099番目のSNP(ID番号:rs4808199)、及びヒト第2染色体上のDYSF遺伝子(Genbank:NC_000002.12)の第72035671番目のSNP(ID番号:rs17007417)からなる群から選択される少なくとも1つを検出(解析)可能なポリヌクレオチドを含む、NAFLD関連疾患に関する発症リスクを予測するための(発症リスクを有するか否かを判定するための)試薬を提供する。
【0065】
より好ましくは、被験者のヒト第2染色体上のGCKR遺伝子(Genbank:NG_028024.1)の第27730940番目のSNP(ID番号:rs1260326)、ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)、及びヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子(Genbank:NM_017660.3)の第19545099番目のSNP(ID番号:rs4808199)を検出(解析)可能なポリヌクレオチドを含む、NAFLD発症リスクを予測(判定)するための試薬を提供する。
【0066】
より好ましくは、ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)、ヒト第19染色体上のGATAD2A遺伝子(Genbank:NM_017660.3)の第19545099番目のSNP(ID番号:rs4808199)及びヒト第2染色体上のDYSF遺伝子(Genbank:NC_000002.12)の第72035671番目のSNP(ID番号:rs17007417)を検出(解析)可能なポリヌクレオチドを含む、NASH発症リスクを予測(判定)するための試薬を提供する。
【0067】
より好ましくは、ヒト第22染色体上のPNPLA3遺伝子(Genbank:NM_025225.2.)の第44333694番目のSNP(ID番号:rs2896019)、及びヒト第2染色体上のDYSF遺伝子(Genbank:NC_000002.12)の第72035671番目のSNP(ID番号:rs17007417)を検出(解析)可能なポリヌクレオチドを含む、NASH-HCC発症リスクを予測(判定)するための試薬を提供する。
【0068】
上記「1.本発明の方法」において説明された事項は、本発明の検査用(リスク予測用)試薬の説明に全て援用される。該ポリヌクレオチドとしては、プライマーやプローブなどが含まれるが、それらに限定されない。また、該プライマー又はプローブは、Taqmanプローブ法、Invaderプローブ法(Third Wave社)、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip(ILLUMINA社)など遺伝子チップを用いたSNPタイピング法、ダイレクトシークエンス法、SSCP法(single-stranded comformational polymorphism analysis)、ASP-PCR法(allele-specific primer PCR analysis)などといった公知の遺伝子解析方法におけるプライマー又はプローブとして用いられる。
【0069】
本発明の検査用(リスク予測用)試薬では、1つのSNPを検出可能なポリヌクレオチドを、単独で検査用試薬に含めてもよいし、該ポリヌクレオチドを複数含めてもよい。検査の精度を向上するために、複数のポリヌクレオチドにより複数のSNPを検査することが好ましい。さらに、非リスクアレルを検出可能なポリヌクレオチドを含めてもよい。
【0070】
上記プローブとしては、上記SNP部位を含み、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするか否かによってSNP部位の塩基の種類を判定できるプローブが挙げられる。具体的には、例えば、配列番号1〜4から選択される塩基配列の101番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有する連続した10塩基以上の長さのプローブや、該101番目の塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基を含む配列、又はその相補配列を有する連続した10塩基以上の長さのプローブが挙げられる。プローブの長さは、例えば、好ましくは10〜50塩基であり、より好ましくは15〜40塩基であり、さらに好ましくは20〜35塩基である。複数のプローブを含むセットとしてもよい。
【0071】
前記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5 M NaCl、0.15 M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェントな条件)から0.2×SSCで50℃の条件(高ストリンジェントな条件)までから選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェントな条件)から65℃(高ストリンジェントな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
【0072】
上記プローブはSNPの検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)を含んでいてもよい。例えば、Invaderプローブ法に用いられるアレルプローブは、SNP部位の塩基の5’末端にフラップと呼ばれる付加的配列を有する。また、該プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:
125I、
131I、
3H、
14C等)、酵素(例:β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0073】
上記プライマーとしては、上記SNP部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、又は上記SNP部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、例えば、配列番号1〜4から選ばれる塩基配列の101番目の塩基を含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーや、該101番目の塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基を含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。このようなプライマーの長さは、例えば、好ましくは10〜50塩基、より好ましくは15〜50塩基、さらに好ましくは15〜35塩基、特に好ましくは20〜35塩基である。プライマーは、単独であってもよいし、又は、SNP部位の5’側領域のプライマー及びSNP部位の3’側領域のプライマーを含むプライマーセットであってもよい。また、複数のプライマーセットを含むセットとしてもよい。
【0074】
上記SNP部位をシークエンシングするためのプライマーとしては、上記塩基の5’側領域、好ましくは30〜100塩基上流の配列を有するプライマーや、上記塩基の3’側領域、好ましくは30〜100塩基下流の領域に相補的な配列を有するプライマーが例示される。PCRによる増幅の有無でSNPを判定するために用いるプライマーとしては、上記塩基を含む配列を有し、上記塩基を3’側に含むプライマーや、上記塩基を含む配列の相補配列を有し、上記塩基の相補塩基を3’側に含むプライマーなどが例示される。
【0075】
上記プライマーは、SNPの検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)、例えば、リンカー配列を含んでいてもよい。また、該プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:
125I、
131I、
3H、
14C等)、酵素(例:β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0076】
本発明の検査用(リスク予測用)試薬は、これらのプライマーやプローブに加えて、PCR用のポリメラーゼやバッファー、ハイブリダイゼーション用試薬、蛍光色素などを含むキットであってもよい。該キットは、例えば、NAFLD関連疾患の発症リスクを予測(判定)するために適している。
【0077】
3.本発明の治療及び予防方法
上記本発明のNAFLD関連疾患の発症を予測(判定)するための方法において、被験者がNAFLD発症のリスク、線維化を伴うNASH発症のリスク、又はNASHからの発癌(NASH-HCC)のリスクを有する(あるいは高リスク群である)と予測された場合、該予測(判定)結果に基づき、該被験者に投与すべきNAFLD、NASH又はNASH-HCCの治療薬又は予防薬を決定し、該被験者に治療的有効量の該治療薬又は予防薬を投与することにより、NAFLD、NASH、又はNASH-HCCを治療又は予防することができる。
【0078】
NAFLD及びNASHの治療薬として、例えば、チアゾリジン誘導体(例:ロシグリタゾン、ピオグリタゾン)、HMG-CoA還元酵素阻害薬(例:アトルバスタチン)、コレステロールトランスポーター阻害薬(例:エゼチミブ)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(例:ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン)、ビタミンEが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
NASH-HCCの治療薬としては、癌細胞の増殖に関わる分子を標的にして、その分子を阻害することにより癌細胞を殺傷する活性を有する抗癌剤である分子標的治療剤が挙げられ、具体的には、例えば、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、バンデタニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、リツキシマブ、セツキシマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ等が挙げられる。
【0080】
NASH-HCCの治療薬としては、癌細胞に関連するDNA又はRNAに損傷を引き起こすことにより癌細胞の増殖を抑制する抗癌剤(DNA障害性抗癌剤)に属する抗生物質である抗癌性抗生物質(抗腫瘍性抗生物質)が挙げられ、具体的には、例えば、アドリアマイシン、エピドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ピラルビシン、アムルビシン、イダルビシン等のアントラサイクリン系抗癌剤;マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、クロモマイシンA3、アクチノマイシンD、ジノスタチンスチマラマー等が挙げられる。
【0081】
NASH-HCCの治療薬としては、DNAの構成塩基であるグアニン、アデニンのN-7位に、2つの塩素原子部位で結合し、DNA鎖内に架橋を形成し、DNA合成を阻害することによって癌細胞の増殖を抑制する効果を発揮する抗癌剤であるプラチナ製剤が挙げられ、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等が挙げられる。
【0082】
NASH-HCCの治療薬としては、DNAをアルキル化することにより切断して癌細胞の増殖を抑制する効果を発揮する抗癌剤であるアルキル化剤が挙げられ、具体的には、例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN−オキシド、クロラムブシル、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン等のナイトロジェンマスタード類;カルボコン、チオテパ等のエチレンイミン類;ブスルファン、トシル酸インプロスルファン等のスルホン酸エステル類;ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、プロカルバジン等のニトロソウレア類、テモゾロミド等が挙げられる。
【0083】
NASH-HCCの治療薬としては、癌細胞が分裂又は増殖する際に、核酸の材料となる物質と化学的構造が近似している物質でDNAの合成を妨げ、癌細胞の代謝を阻害して、増殖を抑制する抗癌剤である代謝拮抗剤が挙げられ、具体的には、例えば、5-フルオロウラシル(5FU)、テガフール、カルモフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、フロクスウリジン、シタラビン、エノシタビン、ゲムシタビン等のピリミジン代謝拮抗剤;メルカプトプリン、チオグアニン、リン酸フルダラビン、チオイノシン等のプリン代謝拮抗剤;メトトレキサート、トリメトプリム、ピリメタシン等の葉酸代謝拮抗剤等が挙げられる。
【0084】
NASH-HCCの治療薬としては、植物アルカロイドが挙げられ、具体的には、癌細胞の分裂に作用する微小管形成を阻害するビンカアルカロイド系、異常な微小管形成を引き起こし、癌細胞の分裂を阻害するタキサン系、細胞分裂の過程でDNAの切断と再結合に作用するトポイソメラーゼを阻害して、癌細胞を死滅させるトポイソメラーゼ阻害剤等が挙げられる。
【0085】
ビンカアルカロイド系としては、例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン等が挙げられる。タキサン系としては、例えば、ドセタキセル、パクリタキセル等が挙げられる。トポイソメラーゼ阻害剤としては、例えば、イリノテカン、ノギテカン、エトポシド、ソブゾキサン等が挙げられる。
【0086】
NASH-HCCの治療薬としては、癌細胞の分裂又は増殖に関与するホルモンに作用する抗癌剤であるホルモン剤が挙げられ、具体的には、例えば、アナストロゾール、エキセメスタン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、ビカルタミド、フルタミド、プレドニゾロン、リュープロレリン、レトロゾール等が挙げられる。
【0087】
上記治療薬は、患者の症状に合わせて、適宜組み合わせて使用してもよい。また、上記治療薬の適用期間は、必要に応じて適宜に設定できるが、例えば、適用12、24、36、48、60、72、84、96週後の効果を確認してもよい。
【実施例】
【0088】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれ らにより限定されるものではないことは明らかである。
【0089】
後述の実施例では、以下のようにして実験を行った。
<研究対象集団>
この研究コンソーシアムに参加している16の病院で、合計936人のNAFLD患者を採用した。そのうち、本州で888サンプル、九州及び四国で、それぞれ14及び34サンプルを収集した。全ての患者について、肝生検の14日以内に臨床データ及び検査データを収集した。試験対象の患者の基準は、既報(Kawaguchi T et al., PloS ONE. 2012; 7: e38322.)に記載されているものと同じものとした。飲酒に関する情報を、患者調査から得た。1日に20 g以上のアルコールを飲んだ患者は除外した。全ての患者は、Matteoni分類(Matteoni CA et al., Gastroenterology. 1999; 116: 1413-1419.)に従い、肝病理医(T.O.)によって診断された。以前の研究(Kawaguchi T et al., PLoS ONE. 2012; 7: e38322.)の529例に、新たにNAFLD患者の349例、NASH-HCC患者の58例を加えた。349例のNAFLD症例のうち、34例をtype 1(脂肪肝のみ)に、60例をtype 2(脂肪変性に加え炎症細胞の浸潤)に、84例をtype 3(脂肪変性に加え肝細胞の風船様変性)に、171例をtype 4(脂肪変性・肝細胞の風船様変性に加えMallory-Denk体又は線維化)に分類した。58例のHCC症例の非腫瘍肝臓は、同じ肝病理医によって組織学的に検査され、type 4 NASHと診断された。一般の集団対照として、以前の研究(Kawaguchi T et al., PLoS ONE. 2012; 7: e38322.)で用いた932個を含む、愛知県がんセンター(ACC)で収集された3,037個と、長浜スタディ(Higasa K et al., J Hum Genet. 2016)用に収集された5,327個とからなる、本州起源の8,364個のDNAサンプルを使用した。ヘルシンキ宣言に従い、この研究の倫理審査による承認は、各施設内の治験審査委員会(IRB)(京都大学医学部の治験審査委員会及び倫理委員会、大阪府済生会吹田病院の倫理委員会、京都府立医科大学の倫理委員会、愛知県がんセンターの倫理委員会、東京女子医科大学の倫理委員会、長野赤十字病院の治験審査委員会、済生会和歌山病院の倫理委員会、済生会呉病院の倫理委員会、鹿児島大学の倫理委員会、鹿児島共済会南風病院の倫理委員会、九州大学医系地区部局臨床研究倫理審査委員会、市立大津市民病院の倫理委員会、金沢大学の医療倫理委員会、川崎医科大学及び川崎医科大学附属病院の倫理委員会、市立奈良病院の倫理委員会、高知大学及び高知大学医学部の倫理委員会、順天堂大学の倫理委員会、山形大学医学部の倫理委員会、市立池田病院の倫理委員会)から受け、被験者の書面によるインフォームドコンセントを、全ての被験者に対して得た。特に、ゲノムワイド関連研究は、京都大学医学部のIRBの承認を受けている(G1094)。全ての患者に本研究の目的及び手順を十分に知らせ、各被験者から書面による同意を得た。
【0090】
<SNPジェノタイピング及び品質管理>
イルミナ株式会社(San Diego、CA)によって提供されたSNPアレイを用いて、全てのサンプルのジェノタイプを行った。用いたジェノタイピングアレイ及びサンプル数を表13にまとめた。ジェノタイピングサンプルをスタンダード クオリティー コントロール(Standard Quality Controls)に供した後、844例のNAFLD、58例のNASH-HCC、及び7,672例の対照サンプルの間の93,606のSNPに対して関連解析(association analysis)を実施した。詳細に説明すれば、全てのサンプルをスタンダード クオリティー コントロールに供した結果、以下の被験者を除外した:1)主成分分析(PCA)により、日本人ではないと考えられた1人の患者と10人の対照、2)PI-HATにより、血縁関係を示した32人の患者と637人の対照、及び3)コールレート(call rate)が不十分な(0.95未満)1人の患者と45人の対照。続いて、Illumina Human 610-Quad、Illumina Human Omni 2.5-8及びIllumina Infinium Core Exomeアレイ間で共通な136,175個のジェノタイプしたSNPマーカーについて品質管理を実施し、以下を除外した:1)ジェノタイピングの成功率が0.99未満の33,438個のSNP、2)歪んだハーディー・ワインベルグ平衡(Hardy-Weinberg equilibrium)のp値(HWE:p <1.0 x 10
-6)を有する45個のSNP、及び3)0.01未満のマイナーアレル頻度(MAF)を有する9,086個のSNP。最後に、902人の患者(844人のNAFLD患者及び58人のNASH-HCC患者)の93,606個のSNP、並びに7,672の対照サンプルを、更なる分析に使用した。
【0091】
【表13】
【0092】
<統計分析>
ロジスティック回帰分析を、1)全てのNAFLD患者、又は2)NASH-HCC患者と、対照群とを比較する、GWASの統計分析のために用いた。集団の層別化(stratification)を、ジェノミックコントロール法(Devlin B and Roeder K., Biometrics. 1999; 55: 997-1004.)によって評価し、Genome-wide Complex Trait Analysisツール(Yang J et al., Am J Hum Genet. 2011; 88: 76-82.)を用いて計算した、10の主成分(PC)について調整した。ゲノムワイド有意性を、多重検定のためのBonferroniの補正(Bonferroni’s correction)に基づき、p = 5.3×10
-7に設定した。1000人ゲノムプロジェクトコンソーシアム(Consortium T 1000 GP. Nature. 2012; 491: 56-65.)フェーズIのリリースバージョン3をテンプレートとして、領域内の遺伝型インピュテーション(Regional genotype imputation)を、imputation qualityの閾値のr2 > 0.5を満たすSNPを用いたMACH(Li Y et al., Annu Rev Genomics Hum Genet. 2009; 10: 387-406)により実施した。連鎖不平衡(LD)指数を、PLINK(Purcell S et al., Am J Hum Genet. 2007; 81: 559-575.)により計算した。ゲノムワイド有意なSNPのアレル分布を、年齢、性別、BMI、及び10のPCを調整したロジスティック回帰により、Matteoni typeの異なるサブグループ間で比較した。
【0093】
全てのNAFLD患者について、対照群と比較した場合の多遺伝子リスクスコア(PRS)を計算した。Matteoni type 1〜3と比較した場合のMatteoni type 4 + NASH-HCCについて、また、Matteoni type 4と比較した場合のNASH-HCCについても、PRSを計算した。GWASで同定されたゲノムワイド有意なSNPを用いて、基本的な遺伝的背景としての性別を含む各比較に対するフォワードステップワイズ選択法(forward stepwise selection procedure)により、モデルを作製した。次いで、予測モデルを用いて各被験者のPRSを算出し、被験者を五分位階級(Q1〜Q5)に分けた。Rパッケージのフィシャー検定(fisher test)を用いて、最も低位の五分位点のグループ(Q1)と、他のグループ(Q2〜Q5)とを比較した。また、NAFLDに関連していることが報告されているSNPを追加することにより、モデルの改良を試みた。これらのSNPのために追加のGWASを行い、p値が低いもの(p < 1e-4)をモデルに含めた。
【0094】
実施例1.研究集団の特徴解析
902人の患者及び7,672人の対照の被験者の臨床的特徴を表14にまとめた。一般の集団対照と、Matteoni type 1サブグループ(21の特徴)、type 1及びtype 2サブグループ(31の特徴)、type 2及びtype 3サブグループ(31の特徴)、type 3及びtype 4サブグループ(32の特徴)並びにtype 4及びNASH-HCCサブグループ(31の特徴)との間の臨床的特徴の分布を比較した。それにより、以前の研究と一致して、Matteoni type 4(組織学的には典型的なNASHである)は、他の3つのMatteoni typeと臨床的に異なることが示唆された。NASH-HCC及び対照被験者は、NAFLD患者とは明らかに異なる臨床的背景も示した。検査した146の特徴のうち34に有意差(p < 3.5×10
-4)が認められ、そのうち16が対照群とtype 1サブグループとの間で認められた。type 1とtype 2サブグループとの間の脂肪滴の含有量(p = 3.2 x 10
-4)を除いて、type 1とtype 2サブグループとの間、又はtype 2とtype3サブグループとの間では、有意差は認められなかった。対照的に、肝線維症の2つのバイオマーカー(IV型コラーゲン7S及びヒアルロン酸)を含む6つの特性は、type 3とtype 4とのサブグループ間で有意差が認められた。これらの結果は、Matteoniのtype 1、type 2及びtype 3が同じサブグループに属し、Matteoniのtype 4が異なるサブグループを形成することを示唆した。type 4とNASH-HCCとの間の比較において、11の臨床的特徴が有意差を示した。これらの11のマーカーの全ては、type 4 NASH患者と比較した場合、NASH-HCCにおいて、線維症の重症度、肝臓機能の低下、又は高齢の範囲と関連していた。
【0095】
【表14】
【0096】
実施例2.ゲノムワイド関連解析(Genome-wide association studies)
93,606個のSNPマーカーに対して、58例のNASH-HCC症例を含む902人のNAFLD患者と、7,672人の集団対照との間で、GWASを行った。10のPC(λ= 1.12)を用いて集団の層別化を調整した後に、p値のわずかな増加が認められた。有意な関連シグナル(association signal)(p <5.3×10-7)が3つの染色体で検出された(
図1A、表15(GWA試験における有意な関連を示すSNPマーカー))。PNPLA3遺伝子の22q13.31において、rs2896019について最も強い関連(p = 2.3 x 10
-31)が認められたが、これはNAFLDの強力な遺伝的決定因子として繰り返し報告されている。この分析では、NAFLDと関連していると考えられる、非同義のSNPであるrs738409は同定されなかった。しかし、NAFLDとの関連は、領域内のインピュテーション解析(regional imputation analysis)で認められた(p = 1.0x10
-29)(
図2A)。2番目に強い相関は、NAFLDの別の既知の感受性遺伝子である、glucokinase regulator(GCKR)遺伝子(Speliotes EK et al., PLoS Genet. 2011; 7: e1001324)の2p23.3において、rs1260326(p = 9.6x10-10)で検出された(
図2B)。既報のSNPのrs780094もまた、NAFLDと有意な関連を示した(p = 2.1 x 10
-8)。3番目に強い相関は、GATA Zinc Finger Domain Containing 2A (GATAD2A) 遺伝子の19p13.11において、rs4808199で検出された(p = 2.3x10
-8)。Rs4808199は、NAFLDに関連することが既知のNCAN及びTM6SF2(Speliotes EK et al., PLoS Genet. 2011; 7: e1001324、Kozlitina J et al., Nat Genet. 2014; 46: 352-356.)が含まれる、360-kb LDブロックに位置していた(
図2C)。しかし、NAFLDに関連していることが報告されたNCANのrs2228603については、関連が検出されなかった。領域内のインピュテーション解析により、TM6SF2のrs58542926の指標となる関連シグナルが検出された(p = 2.2x10
-4)。rs58542926とrs4808199との間の弱い連鎖不平衡が観察された(r2 = 0.21)。
【0097】
【表15】
【0098】
さらに、58人のNASH-HCC患者と、同じ7,672人の対照との間でGWASを行った。この分析では、集団の層別化は観察されなかった(λ= 1.00)。PNPLA3の有意な関連が再び認められた(rs2896019ではp = 1.8x10
-8)。さらに、2p13.3において、dystrophy-associated fer-1-like protein(Dysferlin又はDYSF)遺伝子の近傍で、有意な関連が検出された(rs17007417ではp = 5.2x10
-7)(
図1B及び表15)。領域内のインピュテーション解析により、複数のSNPマーカーからなる関連ピーク(association peak)が検出され、rs17007417が最も高い関連を示した(
図2D)。補足として、p < 1.0 x 10
-5であるSNPマーカーのリストを以下に示す(表16)。
【0099】
【表16】
【0100】
実施例3.NAFLDの病原性に及ぼす遺伝的変異の影響の解析
次に、GWASにおいて有意であると同定された遺伝的変異が、疾患の病原性に及ぼす影響を調査した。PNPLA3のrs2896019、GATAD2Aのrs4808199、GCKRのrs1260326、及びDYSFのrs17007417の遺伝子型分布を、対照群及び5つの患者サブグループとの間で比較した。以前報告されたように(Kawaguchi T et al., PloS One. 2012; 7: e38322.)、対照群又はtype 1 サブグループと比較して、Matteoni type 4のrs2896019について有意差(p<3.3x10
-3)が認められた(それぞれ、p = 1.0x10
-28;オッズ比(OR)= 2.23(95%信頼区間(95%CI):1.93〜2.56)及びp = 7.90x10
-6;OR = 1.93(95%CI:1.45〜2.58)(
図4A及び表17)。type 4をtype 2及びtype 3と比較した場合、同じ傾向が認められたが、多重検定のために補正した後では、有意な差ではなくなった。rs2896019の差は、NASH-HCCと、対照群、type 1又はtype 3との間で最大であった。NASH-HCCをtype 2と比較した場合、関連は有意の境界に存在したが(p = 3.9x10
-3)、より重要なことに、type 4と比較した場合、関連は認められなかった。GCKRのrs1260326は、対照群と比較した場合、type 3、type 4、及びNASH-HCCと有意な関連を示した(
図4B及び表18)。特に、患者の5つのサブグループ間で統計的な差異は認められなかった。GATAD2Aのrs4808199については、type 4と対照群との比較のみが有意差を示した(
図4C及び表19)。DYSFのrs17007417は、対照群又は4つのMatteoniサブグループのいずれと比較しても、NASH-HCC症例において有意差を示した(
図4D及び表20)。
【0101】
【表17】
【0102】
【表18】
【0103】
【表19】
【0104】
【表20】
【0105】
実施例4.遺伝的変異を用いたNAFLDのリスクアセスメント
次に、NAFLDの進展に及ぼす、NAFLDに関連するリスクアレルの影響を評価した。まず、PNPLA3のrs2896019、GCKRのrs1260326、GATAD2Aのrs4808199、DYSFのrs17007417を用いて、フォワードステップワイズロジスティック回帰(forward stepwise logistic regression)により推定モデルを作成した。その後、rs2896019、rs1260326、及びrs4808199をモデルに残した。第1五分位PRSと比較した場合、OR及び95%CIは、第2〜第5の五分位PRSについて、それぞれ1.89(1.40〜2.58)、2.24(1.68〜3.01)、3.30(2.51〜4.38)、及び5.00(3.83〜6.57)であった(
図4A)。曲線下面積(AUC)は、0.65(95%CI = 0.63〜0.67)であった。次に、モデルを、rs2896019、rs1260326、及びrs4808199の代わりにrs780094、rs738409、及びrs58542926を含め、また既報のNAFLDの14個のSNPを含むことにより改良した(表21(これまでに報告されたNAFLD関連SNPについてのp値及びオッズ比の関連研究(NAFLD集団、Matteoni type 4又はNASH-HCC亜集団(subpopulation)と対照との間の関連解析))及び22(Brunt stage、Brunt grade及び脂肪滴についての関連解析))。SLC27A5のrs56225452、PPARRAのrs1800234、HFEのrs1799945、及びGCLCのrs17883901をモデルに加えたが、AUCは改善されなかった(AUC = 0.65、95%CI = 0.64〜0.67)。本GWASの可能な最大AUCを推定するために、GWAS(表23及び24(GWASで同定された、各候補遺伝子座内のp<1.0x10
-4の最小p値を示すSNPマーカーのリスト))においてp値が1×10
-4未満の候補SNPを10個追加し、モデル選択後に13個の全SNPを残した。AUCは0.69(95%CI = 0.66〜0.70)に増加した(
図5B)。Matteoni type 1〜3対type 4又はNASH-HCC、及びtype 4対NASH-HCCのリスクアセスメントの結果を、
図6及び表25に示す。
【0106】
【表21】
【0107】
【表22】
【0108】
【表23】
【0109】
【表24】
【0110】
【表25】