【解決手段】造形領域内に載置されたベースプレート上に金属の材料粉体を所定の高さに均一に撒布して材料層を形成し、前記材料層の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して前記材料粉体を加熱溶融、冷却固化を繰り返して焼結層を形成、積層して所望の三次元形状を有する焼結体を生成し、前記焼結体と前記ベースプレートの少なくとも一部分を含んで所望の三次元造形物を得る三次元造形物の製造方法において、前記ベースプレートは、熱処理を施していない生材であって、熱処理を施したときに組織が変態することによって体積が変化する鋼材でなり、前記焼結体の材質に固有の熱処理特性と同類の熱処理特性を有し、かつ、前記焼結体の材質と異なる材質であることを特徴とする三次元造形物の製造方法、が提供される。
造形領域内に載置されたベースプレート上に金属の材料粉体を所定の高さに均一に撒布して材料層を形成することと、前記材料層の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して前記材料粉体を加熱溶融させた後に冷却固化させることによって前記所定の照射領域における材料層を焼結して焼結層を形成することとを繰り返して、前記焼結層を積層して所望の三次元形状を有する焼結体を生成し、前記焼結体と前記ベースプレートの少なくとも一部分を含んで所望の三次元造形物を得る三次元造形物の製造方法において、
前記ベースプレートは、熱処理を施していない生材であって、熱処理を施したときに組織が変態することによって体積が変化する鋼材でなり、前記焼結体の材質に固有の熱処理特性と同類の熱処理特性を有し、かつ、前記焼結体の材質と異なる材質であることを特徴とする三次元造形物の製造方法。
1層以上所定の数の前記焼結層が新たに形成される毎に少なくとも新たに形成された前記焼結層でなる上面層を第1温度、第2温度の順番で温度調整するものであって、前記第1温度をT1、前記第2温度をT2、前記焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび前記焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMf、とすると、下記式(1)から(3)の関係が全て満たされるように温度調整を行ないながら前記焼結体を生成することを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
前記焼結体の材質がマルテンサイト系ステンレス鋼であるときには、前記ベースプレートの材質が熱処理を施すときにマルテンサイト変態を生じる炭素鋼であることを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
前記焼結体の材質がマルエージング鋼であるときには、前記ベースプレートの材質が析出硬化型ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0014】
図1に示すように、本発明の製造方法に適用される焼結体とベースプレートの少なくとも一部分で構成される三次元造形物を生成する積層造形装置は、チャンバ1とレーザ照射装置13とを有する。
図1に示される積層造形装置は、材料粉体からなる材料層8を形成し、この材料層8の所定箇所にレーザ光Lを照射して照射位置の材料粉体を焼結させることによって、複数の焼結層を積層して所望の三次元造形物を造形する積層造形装置である。ここでいう「焼結」とは、レーザ光Lが材料粉体に照射されることにより、材料粉体が加熱されて溶融した後に冷却されて固化することを意味する。
【0015】
チャンバ1は、所定の造形領域Rを覆い且つ所定濃度の不活性ガスで充満される。チャンバ1には、内部に材料層形成装置3が設けられ、上面部に保護ウインドウ汚染防止装置17が設けられる。材料層形成装置3は、ベース台4とリコータヘッド11とを有する。
【0016】
ベース台4は、三次元造形物が形成される造形領域Rを有する。造形領域Rには、造形テーブル5が設けられる。造形テーブル5は、造形テーブル駆動機構31によって駆動されて上下方向(
図1の矢印A方向)に移動することができる。積層造形装置の使用時には、造形テーブル5上にベースプレート7が配置され、その上に材料層8が形成される。また、所定の照射領域は、造形領域R内に存在し、所望の三次元造形物の輪郭形状で囲繞される領域とおおよそ一致する。
【0017】
造形テーブル5の周りには、粉体保持壁26が設けられる。粉体保持壁26と造形テーブル5とによって囲まれる粉体保持空間には、未焼結の材料粉体が保持される。
図1においては不図示であるが、粉体保持壁26の下側には、粉体保持空間内の材料粉体を排出可能な粉体排出部が設けられてもよい。かかる場合、積層造形の完了後に造形テーブル5を降下させることによって、未焼結の材料粉体が粉体排出部から排出される。排出された材料粉体は、シューターガイドによってシューターに案内され、シューターを通じてバケットに収容されることになる。
【0018】
リコータヘッド11は、
図2および
図3に示すように、材料収容部11aと材料供給部11bと材料排出部11cとを有する。
【0019】
材料収容部11aは材料粉体を収容する。材料供給部11bは、材料収容部11aの上面に設けられ、不図示の材料供給装置から材料収容部11aに供給される材料粉体の受口となる。材料排出部11cは、材料収容部11aの底面に設けられ、材料収容部11a内の材料粉体を排出する。なお、材料排出部11cは、リコータヘッド11の移動方向(矢印B方向)に直交する水平1軸方向(矢印C方向)に延びるスリット形状である。
【0020】
また、リコータヘッド11の両側面には、それぞれブレード11fb、11rbが設けられる。ブレード11fb、11rbは、材料粉体を撒布する。換言するとブレード11fb、11rbは、材料排出部11cから排出された材料粉体を平坦化して材料層8を形成する。
【0021】
切削装置50は、スピンドル60が設けられた加工ヘッド57を有する。加工ヘッド57は、不図示の加工ヘッド駆動機構により、スピンドル60を所望の位置に移動させる。
【0022】
スピンドル60は、不図示のエンドミル等の切削工具を取り付けて回転させることができるように構成されており、材料粉体を焼結して得られた焼結層の表面や不要部分に対して切削加工を行うことができる。また切削工具は複数種類の切削工具であることが好ましく、使用する切削工具は不図示の自動工具交換装置によって、造形中にも交換可能である。
【0023】
チャンバ1の上面には、保護ウインドウ1aを覆うように保護ウインドウ汚染防止装置17が設けられる。保護ウインドウ汚染防止装置17は、円筒状の筐体17aと、筐体17a内に配置された円筒状の拡散部材17cを備える。筐体17aと拡散部材17cの間に不活性ガス供給空間17dが設けられる。また、筐体17aの底面には、拡散部材17cの内側に開口部17bが設けられる。拡散部材17cには多数の細孔17eが設けられており、不活性ガス供給空間17dに供給された清浄な不活性ガスは細孔17eを通じて清浄室17fに充満される。そして、清浄室17fに充満された清浄な不活性ガスは、開口部17bを通じて保護ウインドウ汚染防止装置17の下方に向かって噴出される。
【0024】
照射装置として、レーザ照射装置13が、チャンバ1の上方に設けられる。レーザ照射装置13は、造形領域R上に形成される材料層8の所定箇所にレーザ光Lを照射して照射位置の材料粉体を焼結させる。具体的には、
図4に示すように、レーザ照射装置13は、レーザ光源42と2軸のガルバノミラー43a、43bとフォーカス制御ユニット44とを有する。なお、各ガルバノミラー43a、43bは、それぞれガルバノミラー43a、43bを回転させるアクチュエータを備えている。
【0025】
レーザ光源42はレーザ光Lを照射する。ここで、レーザ光Lは、材料粉体を焼結可能なレーザであって、例えば、CO2レーザ、ファイバーレーザ、YAGレーザ等である。
【0026】
フォーカス制御ユニット44は、レーザ光源42より出力されたレーザ光Lを集光し所望のスポット径に調整する。2軸のガルバノミラー43a、43bは、レーザ光源42より出力されたレーザ光Lを制御可能に2次元走査する。ガルバノミラー43a、43bは、それぞれ、不図示の制御装置から入力される回転角度制御信号の大きさに応じて回転角度が制御される。かかる特徴により、ガルバノミラー43a、43bの各アクチュエータに入力する回転角度制御信号の大きさを変化させることによって、所望の位置にレーザ光Lを照射することができる。
【0027】
ガルバノミラー43a、43bを通過したレーザ光Lは、チャンバ1に設けられた保護ウインドウ1aを透過して造形領域Rに形成された材料層8に照射される。保護ウインドウ1aは、レーザ光Lを透過可能な材料で形成される。例えば、レーザ光LがファイバーレーザまたはYAGレーザの場合、保護ウインドウ1aは石英ガラスで構成可能である。
【0028】
本発明の実施形態に係る積層造形装置においては、焼結体の材質がマルテンサイト系の材料であるときには、温度調整装置によって、1層または複数層の焼結層が新たに形成される毎に、焼結層のうち少なくとも新たに形成された焼結層を第1温度、第2温度の順番で温度調整するようにし、マルテンサイト変態にともなう変形を制御して、残留応力による変形を抑制することができるようにしている。なお、第1温度および第2温度は温度調整装置によって調整可能な温度幅に含まれ、第1温度をT1、第2温度をT2、焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMf、とすると、下記式(1)から(3)の関係が全て満たされる。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
また、以下において、新たに形成された焼結層、すなわち形成されてから第1温度、第2温度の順番で行われる温度調整が1度も実施されていない焼結層を上面層と呼ぶ。焼結後、温度調整される前の上面層は、オーステナイト相を含む状態であって、温度調整により少なくとも一部がマルテンサイト相へと変態する。
【0029】
温度調整装置は、上面層を第1温度および第2温度に温度調整可能に構成されていればよい。特に、温度調整装置は上面層を加熱可能な加熱器と、上面層を冷却可能な冷却器のうち少なくともいずれか一方を有し、好ましくは両者を有する。
【0030】
例えば、温度調整装置90は、造形テーブル5に設けられる。
図5に示すように、一実施形態においては、温度調整装置90を備える造形テーブル5は、天板5aおよび3つの支持板5b,5c,5dを備える。天板5aとこれに隣接する支持板5bの間には天板5aを加熱可能な加熱器92が配置されている。また、支持板5bの下側の2枚の支持板5c,5dの間には天板5aを冷却可能な冷却器93が配置されている。造形テーブル5は、加熱器92および冷却器93によって温度調整可能に構成されており、加熱器92および冷却器93が温度調整装置90を構成する。なお、
図5に示される実施形態では、管材を支持板5c,5dの間に挟み込むようにして冷却器93を構成しているが、例えば、支持板5c,5dの一方または両方に配管穴を形成し支持板5c,5dを合わせることによって支持板5c,5dに直接冷却配管を形成するようにして冷却器93を構成するようにすることができる。なお、造形テーブル駆動機構31の熱変位を防止するため、温度調整装置90と造形テーブル駆動機構31との間に一定の温度に保たれた恒温部が設けられてもよい。以上のように温度調整装置90を構成することで、所望の温度に設定された造形テーブル5の天板5aと接触するベースプレート7および下層の焼結層を介して、上面層を所望の温度に調整することが可能である。なお、材料層8は焼結にあたり所定温度に予熱されていることが望ましいが、温度調整装置90は材料層8の予熱装置としての役割も果たす。具体的に、材料層8は温度調整装置9によって第1温度に保温される。
【0031】
また、例えば、
図6に示すように、積層造形装置は、上面層をその上方側から温度調整するように構成されている温度調整装置95を備えるよう構成してもよい。温度調整装置95の加熱器97は、例えば、ハロゲンランプである。また、温度調整装置95の冷却器98は、例えば、上面層に対しチャンバ1に充満される不活性ガス等と同種の冷却気体を吹き付ける送風機であってもよいし、あるいはペルチェ素子等によって冷却された冷却板を上面層に接触させるよう構成してもよい。このような温度調整装置95によれば、直接上面層を温度調整することができるため、多数層の焼結層を形成した後でも迅速に上面層の温度調整を行うことができる。
【0032】
前述の通り、温度調整装置は、上面層を第1温度および第2温度に温度調整可能に構成されればよく、種々の形態を採用可能である。上に具体的に示した温度調整装置90,95は組み合わせて実施してもよいし、一方のみでもよい。またはその他の形態であってもよい。
【0033】
また、
図6に示すように、積層造形装置は、上面層の温度を測定する温度センサ99を有し、温度調整装置90,95はフィードバック制御されてもよい。かかる構成により、より正確に上面層の温度を制御することができる。なお、温度センサ99は、複数設けてもよい。また、温度センサ99は、例えば、赤外線温度センサである。
【0034】
チャンバ1は所定濃度の不活性ガスが供給されるとともに、材料層8の焼結時に発生するヒュームを含んだ不活性ガスを排出している。具体的には、チャンバ1には、不活性ガス供給装置15と、ダクトボックス21,23を介してヒュームコレクタ19が接続されている。不活性ガス供給装置15は、不活性ガスを供給する機能を有し、例えば、周囲の空気から窒素ガスを取り出す膜式窒素セパレータを備える装置である。不活性ガス供給装置15は、チャンバ1に設けられた供給口から不活性ガスの供給を行い、チャンバ1を所定濃度の不活性ガスで充満させる。また、チャンバ1の排出口から排出されたヒュームを多く含む不活性ガスはヒュームコレクタ19へと送られ、ヒュームが除去された上でチャンバ1へと返送される。なお、本明細書において、不活性ガスとは、材料粉体と実質的に反応しないガスをいい、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等から材料粉体の種類に応じて適当なものが選択される。
【0035】
以下に、
図7〜
図9を用いて焼結体を形成して三次元造形物を生成するプロセスを具体的に説明する。なお、
図7〜
図9では、視認性を考慮し
図1では示していた構成要素を一部省略している。また、以下において、造形領域Rに対して所望の三次元造形物を所定高さで分割してなる複数の分割層毎に材料層8を形成する工程をリコート工程、材料層8の所定の照射領域にレーザ光Lを照射して焼結させ焼結層81を形成する工程を焼結工程、焼結層81のうち少なくとも上面層を第1温度、第2温度の順番で温度調整する工程を温度調整工程と呼ぶ。
【0036】
まず、1回目のリコート工程を行う。
図7に示すように、造形テーブル5上にベースプレート7を載置し、造形テーブル5の高さを適切な位置に調整する。この状態で材料収容部11a内に材料粉体が充填されているリコータヘッド11を
図7の矢印B方向に造形領域Rの左側から右側に移動させることによって、ベースプレート7上に1層目の材料層8を形成する。
【0037】
次に、1回目の焼結工程を行う。材料層8中の所定部位にレーザ光Lを照射し材料層8のレーザ照射位置を焼結させることによって、
図8に示すように、1層目の焼結層81aを得る。ここで、1層目の焼結層81aは、第1温度に温度調整される。
【0038】
次に、2回目のリコート工程として、造形テーブル5の高さを材料層8の所定厚(1層)分下げ、リコータヘッド11を造形領域Rの右側から左側に移動させることによって、焼結層81a上に2層目の材料層8を形成する。
【0039】
次に、2回目の焼結工程として、材料層8中の所定部位にレーザ光Lを照射し材料層8のレーザ照射位置を焼結させることによって、
図9に示すように、2層目の焼結層81bを得る。ここで、2層目の焼結層81bは、第1温度に温度調整される。
【0040】
以上の工程を繰り返すことによって、3層目以降の焼結層が形成される。所定数の焼結層が形成された段階で、温度調整装置によって温度調整工程が行われる。まず、第1温度に保持されている上面層を冷却し、第2温度へと温度調整する。次に、第2温度へと温度調整された上面層を昇温し、第1温度へと再び温度調整する。
【0041】
このようなリコート工程、焼結工程および温度調整工程が繰り返され、所望の焼結層81が積層造形物として形成される。なお、温度調整工程は焼結層を1層形成する毎に実施してもよいし、複数層形成する毎に実施してもよいし、切削工程を実施する場合は切削工程毎に実施してもよい。また、造形物の形状に応じて温度調整工程の周期は可変に設定してもよい。例えば、通常時には焼結層を5mm積層する毎に温度調整工程を行うが、割れやすい形状の焼結層を形成する直前には温度調整工程を割り込ませるようにしてもよい。
【0042】
以上のような温度調整工程により、焼結層の冷却による収縮に起因する引張応力を軽減し、造形物の変形を抑制することが可能である。すなわち、マルテンサイト変態が生じる金属材料においては、マルテンサイト変態時に体積が膨張し、冷却時の体積収縮が緩和される。ここで、マルテンサイト変態は焼結層がマルテンサイト変態開始温度(Ms)からマルテンサイト変態終了温度(Mf)まで急冷する際に発生する。すなわち、Ms以下かつMf以上の範囲でマルテンサイト変態が起こる。
【0043】
また、この変態量(=膨張量)は、第1温度、第2温度、マルテンサイト変態終了温度、およびマルテンサイト変態開始温度の関係により制御することができる。すなわち、それらの温度関係によって三次元造形物の残留応力を制御することができる。そして、変形の大きさに関係する、例えば、焼結体およびベースプレートの材質とサイズ等に対応して、要求される変態量に従っていくつかの温度制御パターンに基づいて温度制御を行なう。
【0044】
一例として、マルテンサイト変態が起こる温度帯には第1温度、第2温度の両方が含まれないようにする温度制御パターンを提示する。この制御パターンは、下記式(1)〜(5)をすべて満たす。この温度制御パターンの上面層の温度変化の概略図を
図10に示す。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
T1>Ms (4)
T2<Mf (5)
【0045】
この温度制御パターンでは、温度調整装置による温度調整が可能な範囲で第1温度の上限および第2温度の下限に制限がなくなるため温度制御が容易となる。また、マルテンサイト変態が起こる温度帯の全ての範囲でマルテンサイト変態を起こすため再現性が高い。マルテンサイト変態による膨張量が造形時の収縮量以下である材料に適する制御方法である。
【0046】
温度調整工程によって変形を抑制することができる焼結体の材質は、上記温度調整工程によってマルテンサイト変態が生じる金属材料であり、好ましくは、変態量を調整することが比較的容易であるマルテンサイト系ステンレス鋼が有効である。マルテンサイト変態が生じる金属材料の他の例として、炭素鋼がある。材料粉体の形状は、例えば平均粒径20μmの球形である。以上のように、造形中に温度制御を行って残留応力による変形を抑制するようにしておくことによって、造形完了後に三次元造形物に熱処理を施すときに生じる変形がより抑制される利点がある。
【0047】
次に、本発明を実施するために適切なベースプレート7について具体的に説明する。ベースプレート7は、熱処理を施していない生材であって、熱処理を施したときに組織が変態することによって体積が変化する材質であって、焼結体の材質に固有の熱処理特性と同じ種類の熱処理特性を有する材質である。
【0048】
ここで、本発明でいう焼結体とは、所定の高さ毎に規定される分割層毎に金属材料粉体を所定の高さに均一に撒布して材料層8を形成し材料層8の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して加熱溶融させた後に冷却固化させることによって所定の照射領域における材料層8を焼結して焼結層を形成することを繰り返して焼結層を積層して造形完了後に生成される金属体である。特に、本発明においては、焼結体は、所望の三次元造形物の上層の部位を構成する。
【0049】
また、熱処理特性が同じ種類であるということは、熱処理において温度に対して膨張または縮小する寸法の変化の仕方あるいは体積の変化の度合が同じであるということ意味する。具体的には、温度に対する寸法または体積の変化を表わすグラフの曲線がおおよそ同じ形状になる場合は、熱処理特性が同類であるという。したがって、焼結体とベースプレート7の材質が全く同じであるなら、
図12Aに示されるとおりに、熱処理における寸法の変化の状態が同じであって、理論上、変形しない。
【0050】
熱処理における三次元造形物の焼結体の部位とベースプレート7の部位のそれぞれの体積の変化は、それぞれの組織の変態に依存するので、焼結体の材質と同じ組織の変態をする材質のベースプレート7が適用できる可能性が高い。温度に対する寸法または変化の度合は、具体的に、例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2の焼戻しのときの温度に対する寸法の変化の状態は、
図13Aに示されるとおりである。また、マルテンサイト系の鋼材である冷間合金工具鋼SKD11の焼戻しのときの温度に対する寸法の変化の状態は、
図13Bに示されるとおりである。したがって、SUS420J2とSKD11とは、共に焼入れのときの温度の上昇に合わせてオーステナイト相がマルテンサイト相に変態することによって体積が膨張し、焼戻しのときに
図13Aおよび
図13Bに示されるような寸法の変化をする熱処理特性を有している。そのため、材料粉体の材質、言い換えると焼結体の材質がマルテンサイト系ステンレス鋼であるときに、ベースプレート7の材質が同じマルテンサイト系の冷間合金工具鋼であるならば、同じ種類の熱処理特性であるので、
図12Bのような体積の変化の関係にあり、熱処理後の変形を抑えることができる。
【0051】
また、例えば、焼結体の材質がマルエージング鋼である場合、析出硬化型の熱処理特性を有しており、
図14に示されるように、時効処理中に徐々に収縮する特徴を有するが、析出硬化型ステンレス鋼SUS630は、図示しないが、マルエージング鋼と同じように、時効処理中に体積が収縮する熱処理特性を有している。したがって、マルエージング鋼のように、ベースプレート7として入手することが困難な材質の焼結体に対しては、ベースプレート7の材質を析出硬化型ステンレス鋼にすることによって、
図12Bに示される矢印とは反対の収縮する方向の体積の変化の関係で、熱処理後の変形を抑えることができる。
【0052】
反対に、例えば、焼結体の材質がマルテンサイト系ステンレス鋼であるときに、析出硬化型ステンレス鋼のベースプレート7を使用すると、焼結体とベースプレート7の材質が同じステンレス鋼でありながら、一方の熱処理特性が膨張であり、他方の熱処理特性が収縮であって、おおよそ相反する関係にあるので、
図12Cに示すように、熱処理後に変形して形状精度が低下し、三次元造形物が損傷するおそれもある。
【0053】
より具体的に、焼結層81を形成する材料粉体にSUS420J2(マルテンサイト系ステンレス鋼)として、製品名OPM-SUPERSTAR(OPMラボラトリー社)を用い、ベースプレート7には、SUS420J2を改良した同規格製品である製品名STAVAX(ウッデホルム社)、製品名S−STAR(大同特殊鋼)、製品名HPM38(日立金属)などを用いる場合は、それぞれのベースプレート7の材質は、合金を形成する各含有成分の含有比率が異なっているため、それぞれ固有の熱処理特性を有しているものの、全てマルテンサイト系ステンレス鋼であって熱処理特性が同じ種類であることから、同じ寸法の変化の特徴を有し、熱処理後に、三次元造形物の形状精度の低下を抑えることができ、三次元造形物の損傷を免れることが期待できる。
【0054】
本発明の代表的な実施形態といくつかの変形例を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0055】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
材料粉体として、平均粒径20μmのSUS420J2(マルテンサイト系ステンレス鋼、炭素含有量:<0.44wt%、Ms:約100℃、Mf:約0℃、)を用い、種々の温度条件において、125×125×15mm(縦×横×厚さ)のベースプレート7上に、80×80×35mm(縦×横×厚さ)の造形物の積層造形を行った。
【0057】
<実施例>
造形テーブル5上に材料粉体と同じマルテンサイト系ステンレス鋼で構成されるベースプレート7を載置して、厚さ100μmの材料層8の上面層を形成した後にレーザ光を照射して焼結しながら温度調整を行なって約70℃に保たれていた造形テーブル5の温度を29℃まで降温して上面層の温度が29℃に降温してから所定期間後に再び造形テーブル5の温度を70℃に昇温した。材料層8を形成する毎に同様の工程を繰り返して、80×80×35mm(縦×横×厚さ)の焼結体を得た。また、同じ造形を材質が冷間合金工具鋼SKD11および機械構造用炭素鋼S45Cのベースプレート7を用いて、それぞれ同じように焼結体を得た。その後、焼結体とベースプレート7とで一体で構成される三次元造形物に焼入れと焼戻しを行った。
【0058】
<比較例>
実施例と同じ工程を、材質が一般構造用鋼SS400のベースプレート7を用いて、同様に三次元造形物全体に焼入れと焼戻しを行った。また、材質が析出硬化系ステンレス鋼SUS630のベースプレート7を用いて、三次元造形物に熱処理を施した。
【0059】
上記実施例および比較例の造形結果を
図11および
図12に示す。
図11および
図12に示すように、ベースプレート7に焼結体と同じ系統のマルテンサイト系ステンレス鋼材質を適用した場合、または炭素鋼適用した場合には、焼入れと焼戻しによる熱処理において同類の熱処理特性で体積が変化し(
図12A)、三次元造形物の形状精度の低下が比較的小さく抑えられた。
【0060】
それに対して、ベースプレート7の材質に一般構造用圧延鋼(SS400)を用いた場合には、熱硬化処理によって材料層8が膨張するのに対して、ベースプレート7が熱処理による組織の変態をおこさないため、ベースプレート7は寸法変化は生じない結果となった(
図12B)。この場合、ベースプレート7と材料層8とを比較すると、材料層8の膨張分のみの寸法差が生じることとなった。
【0061】
さらに、ベースプレート7の材質を析出硬化系ステンレス鋼にした場合には、熱処理によってベースプレート7が収縮し、ベースプレート7と焼結層81との間には、大きな寸法差が生じた(
図12C)。この場合、焼結体とベースプレート7との境界に大きな割れが発生し、三次元造形物の損傷が確認された。
造形領域内に載置されたベースプレート上に金属の材料粉体を所定の高さに均一に撒布して材料層を形成することと、前記材料層の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して前記材料粉体を加熱溶融させた後に冷却固化させることによって前記所定の照射領域における材料層を焼結して焼結層を形成することとを繰り返して、前記焼結層を積層して所望の三次元形状を有する焼結体を生成し、前記焼結体と前記ベースプレートの少なくとも一部分を含んで所望の三次元造形物を得る三次元造形物の製造方法において、
前記ベースプレートは、熱処理を施していない生材であって、熱処理を施したときに組織が変態することによって体積が変化する鋼材でなり、造形完了後に前記焼結体と共に熱処理が施されるときに、前記焼結体の材質に固有の温度に対して膨張または縮小する体積の変化の度合である熱処理特性と同類の熱処理特性を有し、かつ、前記焼結体の材質と異なる材質であり、
前記製造方法は、前記生材における寸法変化と焼戻し温度との関係または寸法変化と時効温度の保持時間との関係に基づいて、前記ベースプレートの材質を決定する工程を含むことを特徴とする三次元造形物の製造方法。
1層以上所定の数の前記焼結層が新たに形成される毎に少なくとも新たに形成された前記焼結層でなる上面層を第1温度、第2温度の順番で温度調整するものであって、前記第1温度をT1、前記第2温度をT2、前記焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび前記焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMf、とすると、下記式(1)から(3)の関係が全て満たされるように温度調整を行ないながら前記焼結体を生成することを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
前記焼結体の材質がマルテンサイト系ステンレス鋼であるときには、前記ベースプレートの材質が熱処理を施すときにマルテンサイト変態を生じる炭素鋼であることを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
前記焼結体の材質がマルエージング鋼であるときには、前記ベースプレートの材質が析出硬化型ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。