【解決手段】焼結層形成工程では、造形温度T1において、リコート工程と焼結工程とを1回以上繰り返すことによって焼結層を形成し、前記リコート工程では、造形領域上に材料粉体を供給し且つ平坦化して材料粉体層を形成し、前記焼結工程では、前記材料粉体層の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して前記材料粉体を焼結させ、前記冷却工程は、前記焼結層を冷却温度T2まで冷却する温度低下工程と、前記冷却温度T2まで低下した前記焼結層の温度を維持する温度維持工程とを含み、前記焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび前記焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMf、とすると、下記式(1)から(3)の関係が全て満たされる。T1≧Mf(1)、T1>T2(2)、T2≦Ms(3)
【背景技術】
【0002】
金属の積層造形には複数の方式があるが、例えば焼結積層造形法では、不活性ガスが充満された密閉されたチャンバ内において、上下方向に移動可能な造形テーブルに載置されたベースプレート上に金属材料からなる材料粉体を均一の厚さで供給し、供給された材料粉体の所定箇所にレーザ光または電子ビームを照射して照射位置の材料粉体を焼結させることによって複数の焼結層を積層する。特に、焼結層の外形を整えるように、積層された焼結層に切削加工を施すようにすることがある。そして材料粉体の供給、所定箇所における材料粉体の焼結、焼結層の切削を繰り返すことにより、所望の三次元形状を有する積層造形物を生成する。
【0003】
このような金属の積層造形において、材料粉体へのレーザ光または電子ビームの照射により形成された焼結層は、焼結直後は非常に高温であるが、既に形成されている焼結層、造形プレートまたは不活性ガス雰囲気への放熱等により温度が急速に低下する。このとき、金属では熱膨張係数が正であるために体積が収縮する。しかし、隣接する焼結層や造形プレートとの密着により収縮量は制限されるため引張応力として残留する。
【0004】
一方、金属材料がマルテンサイト系の材料である場合、焼結層として形成された直後はオーステナイト相であるが、所定の温度条件等を満たした上で冷却されることによってマルテンサイト相へと変態する。マルテンサイト変態は体積の膨張を伴うため、圧縮応力が発生する。
【0005】
上記の技術的背景の下、本出願人は、1層または複数層の焼結層を形成する毎に焼結層を冷却させ、意図的にマルテンサイト変態を進行させることで、金属の収縮による引張応力をマルテンサイト変態による圧縮応力で軽減して造形物の残留応力を制御し、造形物の変形を抑制可能な積層造形装置および積層造形物の製造方法に係る発明を提案した(特許文献1)。特許文献1の発明においては、意図的にマルテンサイト変態を進行させるために、1層または複数層の焼結層を形成する毎に該焼結層に所定の温度調整を行っている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、それぞれが独立して発明を構成する。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る積層造形装置は、マルテンサイト系金属である材料粉体からなる材料粉体層8を形成し、この材料粉体層8の照射領域にレーザ光Lを照射して材料粉体を溶融および固化させる(以下、焼結ともいう)を繰り返すことで、複数の焼結層を積層して所望の三次元形状を有する積層造形物を生成する積層造形装置である。本発明の積層造形装置は、チャンバ1とレーザ照射装置13とを有する。
【0015】
チャンバ1は、所定の造形領域Rを覆い且つ所定濃度の不活性ガスで充満される。チャンバ1には、内部に材料層形成装置3が設けられ、上面部に保護ウインドウ汚染防止装置17が設けられる。材料層形成装置3は、ベース台4とリコータヘッド11とを有する。
【0016】
ベース台4は、積層造形物が形成される造形領域Rを有する。造形領域Rには、造形テーブル5が設けられる。造形テーブル5は、造形テーブル駆動機構31によって駆動されて上下方向(
図1の矢印A方向)に移動することができる。積層造形装置の使用時には、造形テーブル5上に治具プレート7が配置され、その上に材料粉体層8が形成される。また、所定の照射領域は、造形領域R内に存在し、所望の三次元形状を有する積層造形物の輪郭形状で規定される領域とおおよそ一致する。
【0017】
造形テーブル5の周りには、粉体保持壁26が設けられる。粉体保持壁26と造形テーブル5とによって囲まれる粉体保持空間には、未固化の材料粉体が保持される。
図1においては不図示であるが、粉体保持壁26の下側には、粉体保持空間内の材料粉体を排出可能な粉体排出部が設けられてもよい。かかる場合、積層造形の完了後に造形テーブル5を降下させることによって、未固化の材料粉体が粉体排出部から排出される。排出された材料粉体は、シューターガイドによってシューターに案内され、シューターを通じてバケットに収容されることになる。
【0018】
図2および
図3に示すように、リコータヘッド11は、材料収容部11aと材料供給部11bと材料排出部11cとを有する。
【0019】
材料収容部11aは材料粉体を収容する。材料供給部11bは、材料収容部11aの上面に設けられ、不図示の材料供給装置から材料収容部11aに供給される材料粉体の受口となる。材料排出部11cは、材料収容部11aの底面に設けられ、材料収容部11a内の材料粉体を排出する。なお、材料排出部11cは、リコータヘッド11の移動方向(矢印B方向)に直交する水平1軸方向(矢印C方向)に延びるスリット形状である。
【0020】
また、リコータヘッド11の両側面には、それぞれブレード11fb、11rbが設けられる。ブレード11fb、11rbは、材料粉体を撒布する。換言するとブレード11fb、11rbは、材料排出部11cから排出された材料粉体を平坦化して材料粉体層8を形成する。
【0021】
切削装置50は、スピンドル60が設けられた加工ヘッド57を有する。加工ヘッド57は、不図示の加工ヘッド駆動機構により、スピンドル60を所望の位置に移動させる。
【0022】
スピンドル60は、不図示のエンドミル等の切削工具を取り付けて回転させることができるように構成されており、材料粉体層を焼結して得られた焼結層の表面や不要部分に対して切削加工を行うことができる。切削工具は複数種類の切削工具であることが好ましく、使用する切削工具は不図示の自動工具交換装置によって、造形中にも交換可能である。
【0023】
チャンバ1の上面には、保護ウインドウ1aを覆うように保護ウインドウ汚染防止装置17が設けられる。保護ウインドウ汚染防止装置17は、円筒状の筐体17aと、筐体17a内に配置された円筒状の拡散部材17cを備える。筐体17aと拡散部材17cの間に不活性ガス供給空間17dが設けられる。また、筐体17aの底面には、拡散部材17cの内側に開口部17bが設けられる。拡散部材17cには多数の細孔17eが設けられており、不活性ガス供給空間17dに供給された清浄な不活性ガスは細孔17eを通じて清浄室17fに充満される。そして、清浄室17fに充満された清浄な不活性ガスは、開口部17bを通じて保護ウインドウ汚染防止装置17の下方に向かって噴出される。
【0024】
照射装置として、レーザ照射装置13が、チャンバ1の上方に設けられる。レーザ照射装置13は、造形領域R上に形成される材料粉体層8の所定箇所にレーザ光Lを照射して照射位置の材料粉体を焼結させる。具体的には、
図4に示すように、レーザ照射装置13は、レーザ光源42と2軸のガルバノミラー43a、43bとフォーカス制御ユニット44とを有する。なお、各ガルバノミラー43a、43bは、それぞれガルバノミラー43a、43bを回転させるアクチュエータを備えている。
【0025】
レーザ光源42はレーザ光Lを照射する。ここで、レーザ光Lは、材料粉体を溶融可能なレーザであって、例えば、CO2レーザ、ファイバーレーザ、YAGレーザ等である。
【0026】
フォーカス制御ユニット44は、レーザ光源42より出力されたレーザ光Lを集光し所望のスポット径に調整する。2軸のガルバノミラー43a、43bは、レーザ光源42より出力されたレーザ光Lを制御可能に2次元走査する。ガルバノミラー43a、43bは、それぞれ、不図示の制御装置から入力される回転角度制御信号の大きさに応じて回転角度が制御される。かかる特徴により、ガルバノミラー43a、43bの各アクチュエータに入力する回転角度制御信号の大きさを変化させることによって、所望の位置にレーザ光Lを照射することができる。
【0027】
ガルバノミラー43a、43bを通過したレーザ光Lは、チャンバ1に設けられた保護ウインドウ1aを透過して造形領域Rに形成された材料粉体層8に照射される。保護ウインドウ1aは、レーザ光Lを透過可能な材料で形成される。例えば、レーザ光LがファイバーレーザまたはYAGレーザの場合、保護ウインドウ1aは石英ガラスで構成可能である。
【0028】
本発明の実施形態に係る積層造形装置は、1層または複数層の焼結層が新たに造形される毎に、新たに造形された焼結層を第1温度(造形温度)、第2温度(冷却温度)の順番で温度調整する温度調整装置を有する。なお、造形温度および冷却温度は温度調整装置によって調整可能な温度幅に含まれ、造形温度をT1、冷却温度をT2、焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMf、とすると、下記式(1)から(3)の関係が全て満たされる。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
ただし、本発明は、造形温度T1と冷却温度T2で実施した前の冷却工程の次の冷却工程において、造形温度T1または冷却温度T2を前の冷却工程における造形温度T1または冷却温度T2と同じ温度に設定する場合だけではなく、上記式(1)から(3)を満足する範囲で前の冷却工程における造形温度T1とは異なる造形温度T1'に変更して設定する場合(T1'→T)、あるいは、前の冷却工程における冷却温度T2とは異なる冷却温度T2'に変更して設定する場合(T2'→T2)を含む。
【0029】
なお、以下においては、焼結層形成工程によって新たに形成された焼結層を上面層とも呼ぶ。上面層は、焼結層によって構成される焼結体の上部に位置することとなる。焼結後、冷却工程において冷却される前の上面層はオーステナイト相を含む状態であって、冷却により少なくとも一部がマルテンサイト相へと変態する。
【0030】
温度調整装置は、上面層を造形温度および冷却温度に温度調整可能に構成されていればよい。特に、温度調整装置は上面層を加熱可能な加熱器と、上面層を冷却可能な冷却器のうち少なくともいずれか一方を有し、好ましくは両者を有する。
【0031】
一例として、温度調整装置90は、造形テーブル5に設けられる。
図5に示すように、本実施形態においては、温度調整装置90を備える造形テーブル5は、天板5aおよび3つの支持板5b,5c,5dを備える。天板5aとこれに隣接する支持板5bの間には天板5aを加熱可能な加熱器92が配置されている。
【0032】
支持板5bの下側の2枚の支持板5c,5dの間には天板5aを冷却可能な冷却器93が配置されている。造形テーブル5は、加熱器92および冷却器93によって温度調整可能に構成されており、加熱器92および冷却器93が温度調整装置90を構成する。
【0033】
なお、
図5に示される実施形態では、管材を支持板5c,5dの間に挟み込むようにして冷却器93を構成しているが、例えば、支持板5c,5dの一方または両方に配管穴を形成し支持板5c,5dを合わせることによって支持板5c,5dに直接冷却配管を形成するようにして冷却器93を構成してもよい。
【0034】
また、造形テーブル駆動機構31の熱変位を防止するため、温度調整装置90と造形テーブル駆動機構31との間に一定の温度に保たれた恒温部が設けられてもよい。以上のように温度調整装置90を構成することで、所望の温度に設定された造形テーブル5の天板5aと接触する治具プレート7および下層の焼結層を介して、上面層を所望の温度に調整することが可能である。なお、材料粉体層8は焼結にあたり所定温度に予熱されていることが望ましいが、温度調整装置90は材料粉体層8の予熱装置としての役割も果たす。具体的には、材料粉体層8は温度調整装置90によって造形温度に保温される。
【0035】
チャンバ1は所定濃度の不活性ガスが供給されるとともに、材料粉体層8の溶融時に発生するヒュームを含んだ不活性ガスを排出している。具体的には、チャンバ1には、不活性ガス供給装置15と、ダクトボックス21,23を介してヒュームコレクタ19が接続されている。
【0036】
不活性ガス供給装置15は、不活性ガスを供給する機能を有し、例えば、周囲の空気から窒素ガスを取り出す膜式窒素セパレータを備える装置である。不活性ガス供給装置15は、チャンバ1に設けられた供給口から不活性ガスの供給を行い、チャンバ1を所定濃度の不活性ガスで充満させる。
【0037】
チャンバ1の排出口から排出されたヒュームを多く含む不活性ガスはヒュームコレクタ19へと送られ、ヒュームが除去された上でチャンバ1へと返送される。なお、本開示において、不活性ガスとは、材料粉体と実質的に反応しないガスをいい、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等から材料粉体の種類に応じて適当なものが選択される。
【0038】
(積層造形物の製造方法)
図6〜
図10を用いて、上述した積層造形装置を用いた積層造形物の製造方法について説明する。なお、
図6〜
図10では、視認性を考慮し
図1〜
図5で示していた積層造形装置の構成要素を一部省略している。
【0039】
図6に示すように、造形テーブル5上に治具プレート7およびベースプレート33を載置した状態で造形テーブル5の高さを適切な位置に調整する。治具プレート7およびベースプレート33は、いずれも鉄または鋼鉄などの金属で構成される。治具プレート7およびベースプレート33は、同一の材質でもよく、または、異なる材質としてもよい。
【0040】
上記設置工程の後、焼結層形成工程を行う。焼結層形成工程では、造形テーブル5の温度を造形温度T1に設定した状態で、リコート工程と焼結工程とを1回以上繰り返す。
【0041】
図7に示すように、リコート工程において、材料収容部11a内に材料粉体が充填されているリコータヘッド11を、矢印B方向の左側から右側に移動させる。これにより、造形領域上に材料粉体を供給され且つ平坦化されることとなり、材料粉体層8が形成される。
【0042】
次に、焼結工程において、材料粉体層8の照射領域にレーザ光Lを照射することで、当該照射領域を焼結させ、ベースプレート33上に1層目の焼結層81aを形成する。
【0043】
次に、
図8に示すように、造形テーブル5の高さを1層目の焼結層81aの厚さ分下げ、再度、リコート工程と焼結工程とを行う。具体的には、リコータヘッド11を造形領域Rの右側から左側に移動させ、造形領域上に材料粉体層8を形成する。そして、材料粉体層8の照射領域にレーザ光Lを照射して焼結させ、ベースプレート33上に2層目の焼結層81bを形成する。
【0044】
このように、焼結層形成工程では、複数の焼結層81a,81b...の形成を繰り返すことによって、焼結体81が形成される。これら順次積層される焼結層同士は、互いに強く固着される。
【0045】
以上の工程を繰り返して予め定められた1つまたは複数の焼結層が形成された後、温度調整装置によって冷却工程が行われる。冷却工程は、造形テーブル5の温度を造形温度T1から、T1よりも低い冷却温度T2まで低下させる温度低下工程と、冷却温度T2まで低下した造形テーブル5の温度を維持する温度維持工程とを含む。
【0046】
上記冷却工程を行なうときに、焼結体81の表面を切削加工する切削工程を行う。
図9に示すように、切削工程では、切削装置50の備えるスピンドル60を焼結体81の近傍に移動させ、焼結体81表面に所望の切削加工を行う。
【0047】
ここで、切削工程は、荒加工工程と仕上げ加工工程とを含む。荒加工工程では、焼結体81に対して大まかな切削加工を行う。それに対して、仕上げ加工工程は、荒加工工程が完了した焼結体81に対して、精緻な形状加工を伴う切削加工を行う。
【0048】
ここで、実施の形態においては、荒加工工程と仕上げ加工工程とは、取り代と加工工程の工程数は、各工程における残り代の狙い値で規定している。冷却工程中は、冷却ともなう縮小と、マルテンサイト変態にともなう膨張とによって継続的に変形しており、変位が安定しないため、冷却工程中に切削加工を行なうと、目標の形状精度を得ることが困難であるばかりか、所望の加工形状を超えて切削してしまうと、造形途中の積層造形物に致命的な損傷を与えてしまうおそれがある。そのため、冷却工程を完了して変位が安定した後に切削加工を行うというのが常識である。しかしながら、荒加工工程は、焼結体81から材料を大まかに取り除く工程であるので、加工誤差が大きくても、または加工誤差の大きさが一定でなくても、仕上げ加工工程のために十分に取り代を残しておくならば、言い換えると、仕上げ加工工程のための十分な残り代があるならば、荒加工の後の1回以上の加工工程において加工誤差を取り除くことができる。一方、元々残り代が少ない仕上げ加工工程においては、変形にともなって生じる加工誤差を次の加工工程で修正できない可能性が高く、または、所望の加工形状を超えて加工してしまうおそれがある。本発明は、冷却工程中に変形にともなって発生する最大の加工誤差が後の加工工程で修正することが可能である"荒加工工程"を冷却工程中に行なう。
【0049】
図10は、焼結層形成工程および冷却工程における焼結体81の上面層の温度を示すグラフである。
図10に示すように、焼結層形成工程では、焼結工程におけるレーザ光の照射により、焼結体81の上面層は非常に高温(約1500℃〜1600℃)となる。その後、レーザ光の照射が完了すると、上面層の温度は造形テーブルの温度(すなわち造形温度)T1と熱平衡となるように低下し、所定の時間経過後に造形温度T1となる。その後、冷却工程が行われる。
【0050】
冷却工程では、まず温度低下工程が行われ、造形テーブル5の温度を造形温度T1から冷却温度T2に変更して設定する。それに伴い、ベースプレート33および焼結体81は冷却温度T2まで低下する。ここで、上述したように、造形温度T1および冷却温度T2は、以下の関係を満たすように設定される。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
【0051】
このとき、材料粉体としてマルテンサイト変態が生じる金属材料を用いているため、マルテンサイト変態開始温度Msからマルテンサイト変態終了温度Mfの範囲で急冷される際に焼結体81の上面層ではマルテンサイト変態が発生し、体積が膨張する。これにより、上面層の冷却による収縮に起因する引張応力を軽減することができる。
【0052】
本実施形態では、温度変化に伴い焼結体81の上面層の体積が変化する温度低下工程において、荒加工工程を実施する。上述のように、荒加工工程は、焼結体81から余剰部分を大まかに取り除く工程であって残し代が十分にあるため、焼結体81の体積変化にかかわらず実施することが可能である。
【0053】
そして所定の時間が経過すると、
図10に示すように焼結体81の上面層の温度は冷却温度T2となり、温度維持工程が行われる。温度維持工程では、造形テーブル5の温度が冷却温度T2のまま維持される。そのため、焼結体81の上面層の温度も冷却温度T2のまま維持される。本実施形態では、当該温度維持工程が行われる期間中に、仕上げ加工工程を実施する。
【0054】
仕上げ加工工程は、上述のように、焼結体81に対して精緻な形状加工を施す工程である。そのため、温度変化に伴う焼結体81の大きな体積変化は許容されない。そこで、造形テーブル5および焼結体81の上面層の温度が冷却温度T2で維持されている温度維持工程の期間中に仕上げ加工工程を行うことにより、焼結体81を変形させることなく、精緻な形状加工の精度を維持することが可能となる。
【0055】
上記温度維持工程完了後、再度造形テーブル5の温度を造形温度T1に設定し、焼結層形成工程が行われる。このようにして、焼結層形成工程と冷却工程とが繰り返される。
【0056】
以上のようにして、本実施形態では、温度低下工程の行われる期間に、切削加工工程における荒加工工程を実施する。このようにすることで、温度低下工程と切削加工工程とを同時に行うこととなり、それぞれの工程を順次行っていた場合と比較して、全体の造形時間を削減することが可能となる。
【0057】
さらに、温度低下工程実施後、温度維持工程において、仕上げ加工工程を行う。このようにすることで、造形テーブル5および焼結体81の温度が冷却温度T2に維持されている期間に仕上げ工程を行うこととなるため、焼結体81の温度変化に伴う変形の影響を受けることなく、精緻な切削加工を行う事が可能となる。
<他の実施の形態>
【0058】
なお、本開示の技術的思想の適用範囲は、上記実施形態に限定されない。たとえば、
図11に示すように、荒加工工程は、温度低下工程と同時に開始され、温度低下工程が完了した後であって温度維持工程の途中において完了されるように実施されてもよい。この場合、温度低下工程の作業時間分、造形時間を削減することが可能となる。
【0059】
また、荒加工工程の時間を計測しておき、当該計測時間に基づいて、仕上げ加工工程の開始のタイミングを決定してもよい。このようにすることで、より確実に焼結体81の冷却後に仕上げ加工を行う事が可能となる。
【0060】
また、切削工程は選択的に実施することが可能である。すなわち、焼結層形成工程と冷却工程とを繰り返す中で、冷却工程を行うたびに切削工程を行ってもよいし、特定の冷却工程においてのみ、切削工程を行ってもよい。
【0061】
また、切削工程における仕上げ工程は、2回以上行ってもよい。すなわち、温度維持工程において切削工程を行った後、形状精度を測定し、所定の基準を満たしていない場合に、再度仕上げ工程を行ってもよい。
【0062】
また、温度調整装置として、焼結体81の上面層をその上方側から加熱する加熱器を用いてもよい。この場合、温度調整装置として例えばハロゲンランプ等を用いることができる。さらに、温度調整装置として、上面層に対しチャンバ1に充満される不活性ガス等と同種の冷却気体を吹き付ける送風機、またはペルチェ素子等によって冷却された冷却板を上面層に接触させる冷却器を備えるように構成してもよい。このような温度調整装置によれば、直接上面層を造形温度および冷却温度に温度調整することができ、多数層の焼結層を形成した後でも迅速に上面層の温度調整を行うことができる。
本発明によれば、焼結層形成工程と冷却工程を繰り返すことによる繰り返し工程を備える積層造形物の製造方法であって、前記焼結層形成工程では、造形温度T1において、リコート工程と焼結工程とを1回以上繰り返すことによって焼結層を形成し、前記リコート工程では、造形領域上に材料粉体を供給し且つ平坦化して材料粉体層を形成し、前記焼結工程では、前記材料粉体層の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して前記材料粉体を焼結させ、前記冷却工程は、前記焼結層を冷却温度T2まで冷却する温度低下工程と、前記冷却温度T2まで低下した前記焼結層の温度を維持する温度維持工程とを含み、前記焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび前記焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMf、とすると、下記式(1)から(3)の関係が全て満たされ、
前記冷却工程を行なうときに選択的に前記繰り返し工程によって形成された焼結体の表面を切削加工する切削工程を実施し、前記切削工程における荒加工工程を前記温度低下工程の行われる期間に開始するとともに、前記切削工程における1回以上の仕上げ加工工程は前記温度維持工程の行われる期間中に行な