【課題】樹脂成形体に応力が加わってもフッ素含有領域が剥離して撥油性が低下することがなく、樹脂成形体の表面全体に均一に撥油性を付与することが可能な樹脂成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素のうち少なくとも一方を含む樹脂基材を有する樹脂成形体であって、前記樹脂基材の表層部には、炭化水素部にフッ素を付加、置換し、撥油性を向上させるフッ素化領域が形成され、前記フッ素化領域は、表面から内方に向かってフッ素濃度が低くなるフッ素濃度勾配があることを特徴とする。
前記フッ素化領域を有する樹脂成形体は、フッ素化領域を形成しない樹脂成形体よりも可視光線の平均反射率が低いことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した各特許文献に記載されたフッ素含有塗膜を備えた樹脂成形体は、いずれも樹脂基材の表面に、樹脂基材とは組成の異なるフッ素含有塗膜層を形成しているので、外部応力などによってフッ素含有塗膜層が樹脂基材から剥離してしまうことがあった。このため、樹脂基材とフッ素含有塗膜層との密着性を高める目的で、樹脂基材とフッ素含有塗膜層との間に密着層などを形成する必要があり、層構造が複雑で製造コストが高くなるという課題がある。
【0007】
また、樹脂基材の表面にフッ素含有塗膜層を形成する場合、樹脂基材の形状に微細な凹凸などが存在すると、樹脂基材の表面全体に均一な厚みおよび均一な表面粗さでムラなくフッ素含有塗膜を形成することが困難であった。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、樹脂成形体に応力が加わってもフッ素含有領域が剥離して撥油性が低下することがなく、樹脂成形体の表面全体に均一に撥油性を付与することが可能な樹脂成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の樹脂成形体は、脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素のうち少なくとも一方を含む樹脂基材を有する樹脂成形体であって、前記樹脂基材の表層部には、炭化水素部にフッ素を付加、置換し、撥油性を向上させるフッ素化領域が形成され、前記フッ素化領域は、表面から内方に向かってフッ素濃度が低くなるフッ素濃度勾配があることを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂成形体によれば、樹脂基材の表層部にフッ素濃度勾配があるフッ素化領域を形成することによって、撥油性が高く、かつフッ素化領域の剥離が生じにくい樹脂成形体を実現することができる。
【0011】
また、本発明では、前記フッ素化領域を有する樹脂成形体は、フッ素化領域を形成しない樹脂成形体よりも可視光線の平均透過率が高くてもよい。
【0012】
また、本発明では、前記フッ素化領域を有する樹脂成形体は、フッ素化領域を形成しない樹脂成形体よりも可視光線の平均反射率が低くてもよい。
【0013】
また、本発明の樹脂成形体の製造方法は、前記各項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、前記樹脂基材の表層部にフッ素を含む反応ガスに反応させ、前記フッ素化領域を形成するフッ素化工程を有し、前記フッ素化工程において、前記反応ガスのフッ素濃度、反応圧力、反応時間、反応温度のうち、少なくとも1つを制御することにより、前記フッ素化領域におけるフッ素濃度勾配、前記フッ素化領域の表面粗さ、および、前記フッ素化領域の深さを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂成形体に応力が加わってもフッ素含有領域が剥離して撥油性が低下することがなく、樹脂成形体の表面全体に均一に撥油性を付与することが可能な樹脂成形体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の樹脂成形体、およびその製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
(樹脂成形体)
図1は、本発明の一実施形態の樹脂成形体の表面近傍の断面図である。
本実施形態の樹脂成形体10は、樹脂基材11を有する。樹脂基材11は、脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素のうち少なくとも一方を含む樹脂である。こうした樹脂基材11の具体例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状脂肪族オレフェン系樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂は、硫黄(S)、酸素(O)、窒素(N)を含んでいても良い。本実施形態では、樹脂基材11としてポリカーボネート樹脂を用いている。
【0018】
樹脂基材11は、樹脂基材11を構成する炭化水素部にフッ素を付加、置換させたフッ素化領域12が表層部に形成されている。なお、ここでいう表層部とは、樹脂基材11の表面11aから所定の深さ範囲までの領域である。
【0019】
このようなフッ素化領域12は、例えば、厚みが100nm〜5000nm程度になるように形成される。
【0020】
フッ素化領域12は、樹脂基材11の表面11aから内方に向かってフッ素濃度が低くなるフッ素濃度勾配があるように形成されている。例えば、フッ素化領域12は、表面11aから内方に向かってフッ素濃度が低くなっている。なお、フッ素化領域12のフッ素濃度勾配は、表面11aから内方に向かってフッ素濃度が不均一に減少していたり、一様に減少していたり、段階的に減少していてもよく、フッ素の減少度合いが限定されるものでは無い。
フッ素化領域12のフッ素濃度勾配は、例えば、樹脂基材11の表面11aにフッ素ガスを作用させた際の、樹脂基材11へのフッ素の浸透度合いと比例していればよい。
【0021】
このようなフッ素化領域12は、樹脂基材11にフッ素ガスを作用させて、樹脂基材11を構成する炭化水素部にフッ素を付加や置換させることによって形成する。形成されたフッ素化領域12と、フッ素に置換されていない樹脂基材11との間に界面は存在しない。
【0022】
本実施形態では、フッ素化領域12の屈折率が樹脂基材11の屈折率に達するまでの深さ位置までをフッ素化領域12と称する。
【0023】
以上のような構成の樹脂成形体10によれば、樹脂基材11の表層部にフッ素化領域12を形成することによって、樹脂基材11を構成する炭化水素部にフッ素が付加、置換されたC−F結合が形成されるので、樹脂基材11の表面11aは、フッ素化領域12を形成しない領域よりも撥油性が高められる。これにより、樹脂成形体10に、油汚れなどの付着を抑制する撥油性を付与することができる。
【0024】
また、樹脂基材11の表層部にフッ素化領域12を形成することによって、樹脂基材11の表面11aの表面粗さを制御することができる。後述する樹脂基材11にフッ素化領域12を形成する工程では、樹脂基材11の表面11aにフッ素ガスを作用させるが、この時、フッ素化前の樹脂基材11の表面11aがフッ素ガスによって表面改質されるので、樹脂基材11の表面11aの表面粗さを自在に制御できる。
【0025】
これにより、例えば、樹脂成形体10を光学レンズなどの光学部材に適用した際に、表面粗さを低減すれば乱反射を抑制することができる。また、こうした樹脂基材11の表面11aの表面粗さが粗くなるように制御すれば、撥油性をより一層向上させることができるとともに、アンカー効果を利用した密着性の向上や摩擦力を増加させることができる。
【0026】
また、樹脂基材11を構成する炭化水素部にフッ素が付加、置換されることで、樹脂基材11よりも屈折率が低いフッ素化領域12が形成されると、フッ素化領域12の形成前と比較して可視光線の反射率の平均値である平均反射率が低下する。また、透明性を有する樹脂成形体10である場合、可視光線の透過率の平均値である平均透過率が上昇する。
【0027】
これにより、樹脂基材11に可視光線を照射すると、フッ素化領域12を形成しない樹脂基材と比較して、樹脂基材11を透過可能な可視光線の光量が増加し、かつ反射される可視光線の光量が抑制される。これにより、例えば、樹脂成形体10を光学レンズなどの光学部材に適用した際に、光学レンズで反射される可視光線を減らして、透過する可視光線の光量を高め、光学的に明るいレンズを実現することができる。
【0028】
また、フッ素化領域12にフッ素濃度勾配があることによって、フッ素化領域12のうち、フッ素濃度が最も高い樹脂基材11の11aにおいて、フッ素化しない樹脂基材と比較して、可視光線の透過率が最も高められ、かつ、可視光線の反射率を最も低くすることができる。これにより、例えば、樹脂成形体10を光学レンズなどの光学部材に適用した際に、光学レンズの最表面(入射面)において、入射する可視光線の表面反射を最大限抑制し、入射量を高めることができ、光学的に明るいレンズを実現することができる。
【0029】
そして、本実施形態の樹脂成形体10によれば、フッ素化領域12の剥離を防止することができる。本実施形態の樹脂成形体10におけるフッ素化領域12は、樹脂基材11にフッ素を反応させて形成したものであり、フッ素化領域12と、フッ素化されていない樹脂基材11との間には界面は存在しない。しかも、このフッ素化領域12は、樹脂基材11の表面11aから、樹脂基材11のうちフッ素化されていない領域(内方)に向かうほどフッ素濃度が低くなり、フッ素化されていない樹脂基材11に対して化学的組成の違いが少なくなり、親和性が高くなる。
【0030】
これにより、樹脂基材11に外部応力が加わったり、温度変化による収縮が生じても、フッ素化領域12だけが剥離することが無い。よって、例えば樹脂成形体10を形状が変化するフィルム状にして、屈曲や伸縮させるなど物理的な応力を加えても、撥油性の低下を防止することができる。
【0031】
なお、上述した実施形態では、板状の樹脂基材の一方の表層部にフッ素化領域を形成した例を挙げて説明しているが、フッ素化領域の形成部分はこれに限定されるものでは無い。例えば、樹脂基材全面の表層部にフッ素化領域を形成することもできる。また、樹脂基材は、曲面や不定形面を有する各種形状に形成されたものであってもよい。
【0032】
(樹脂成形体の製造方法)
次に、本発明の一実施形態の樹脂成形体の製造方法を説明する。
上述したような構成の樹脂成形体10を製造する際には、樹脂基材11の表面11aにフッ素ガスを作用させる工程によって、フッ素濃度勾配のあるフッ素化領域12を形成する。
より具体的には、例えば、真空チャンバー内にフッ素化前の樹脂基材11を載置し、真空チャンバー内を減圧した後、不活性ガスで所定濃度に希釈したフッ素(反応ガス)が所定の反応圧力となるように真空チャンバー内に導入する。そして、真空チャンバー内の樹脂基材11を所定の温度で所定時間、反応ガスに暴露させる。
【0033】
樹脂基材11は、その表面11aから徐々に樹脂基材11を構成する炭化水素部の水素原子がフッ素に置換され、また、フッ素が付加され、C−F結合を形成する。こうした樹脂基材11のフッ素化反応は、反応ガスに暴露される樹脂基材11の表面11a側が最も大きく、表面11aから遠ざかるにつれて漸減する。これにより、樹脂基材11の表層部に、所定の深さでフッ素濃度勾配を要するフッ素化領域12が形成される。
【0034】
樹脂基材11にフッ素化領域12を形成する工程での条件例としては、反応ガス中のフッ素濃度は0.01%〜100%、好ましくは0.01%〜50%、より好ましくは0.01%〜30%である。フッ素濃度が高いと短時間でフッ素化が進行するが、樹脂基材11の表面11aがフッ素によって分解される恐れがある。また、希釈用の不活性ガスとしては窒素やアルゴンを用いることができるが、コスト面から窒素が好ましい。
【0035】
真空チャンバー内の圧力(反応圧力)は0.1kPa〜1000kPa、好ましくは0.1kPa〜300kPaの範囲である。反応温度は5℃〜100℃、好ましくは15℃〜70℃、より好ましくは15℃〜30℃の範囲である。反応温度が100℃を超えると、樹脂基材11が軟化する懸念がある。また、樹脂基材11の表面11aを反応ガスに暴露させる時間(反応時間)は1分〜24時間、好ましくは5分〜8時間、より好ましくは5分〜60分の範囲である。反応時間が長くなるほどフッ素化率は大きくなるが、樹脂基材11の表面11aがフッ素によって分解される恐れがある。
【0036】
樹脂基材11の表層部にフッ素化領域12を形成する工程では、上述した反応ガスのフッ素濃度、反応圧力、反応時間、反応温度のうち、少なくとも1つを制御することによって、フッ素化領域12におけるフッ素濃度勾配、樹脂基材11の表面11aの表面粗さ、および、フッ素化領域12の深さを目的の範囲内にできる。
【0037】
例えば、反応ガスのフッ素濃度を高くすることで、フッ素化領域12の表面粗さを粗くして、樹脂基材11の表面11aをより粗くすることもできる。また、例えば、反応ガスのフッ素濃度を高くして、フッ素化領域12の深さを深くすることもできる。反応時間を長くしたり、反応温度を高くすることで、樹脂基材11の表面11aの表面粗さを粗くしたり、フッ素化領域12の深さを深くすることもできる。
【0038】
本発明の樹脂成形体の製造方法によれば、樹脂基材11にフッ素を含む反応ガスを作用させるだけで、樹脂基材11の表層部にフッ素化領域12を形成した樹脂成形体10を容易に製造することができる。これにより、例えば、複数の局面が組み合わされた複雑な形状の樹脂基材11や、表面に凹凸が存在する形状の樹脂基材11であっても、フッ素濃度勾配を有するフッ素化領域12を所定の厚みでムラなく均一に形成することができる。
【0039】
こうした一例として、曲面を有する樹脂ボトルや、非球面樹脂レンズなどに対して、均一な厚みのフッ素化領域12を容易に形成することができる。従来のように、フッ素コーティングによってフッ素化層を積層したレンズは、フッ素化層の厚みがバラつくと、レンズ表面に虹色の干渉模様を生じることがあったが、本実施形態の樹脂成形体10では、フッ素化領域12の形成条件を制御することで、フッ素化領域12の厚みを均一化でき、虹色の干渉模様の発生を防止することができる。
【0040】
なお、樹脂成形体10を製造する際に、樹脂基材11がフィルム状の樹脂膜である場合には、例えば、繰出しロールから巻取ロールに樹脂基材11を移動させるロールtoロールの経路中に真空チャンバーを設置し、樹脂基材11の表面11aを反応ガスに暴露させてフッ素化領域12を連続して効率的に形成することができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
上述した樹脂成形体の製造方法に従って、厚さ2mmの板状のポリカーボネート樹脂(樹脂基材)をフッ素を含む反応ガスによってフッ素化し、フッ素化領域を形成した。ポリカーボネート樹脂は密閉容器内に設置し、真空ポンプにて脱気を行ない、窒素置換、脱気を繰り返し行なった。その後、真空ポンプにて減圧し、窒素で30%に希釈したフッ素を密閉容器内の圧力が1kPaに達するまで導入し、反応温度が室温(25℃)、反応時間が5分間となるように、ポリカーボネート樹脂を反応ガスに暴露した。5分経過後、密閉容器内を窒素で置換し、脱気操作を繰り返し行なった後に窒素置換し、フッ素化領域が形成された実施例1の樹脂成形体を得た。
【0043】
[実施例2]
実施例1と同様に、窒素で30%に希釈したフッ素(反応ガス)を密閉容器内の圧力が16kPaに達するまで導入し、反応温度が室温(25℃)、反応時間が10分間となるように、ポリカーボネート樹脂を反応ガスに暴露した。10分経過後、密閉容器内を窒素で置換し、脱気操作を繰り返し行なった後に窒素置換し、フッ素化領域が形成された実施例2の樹脂成形体を得た。
【0044】
[実施例3]
実施例1と同様に、窒素で30%に希釈したフッ素(反応ガス)を密閉容器内の圧力が35kPaに達するまで導入し、反応温度が70℃、反応時間が60分間となるように、ポリカーボネート樹脂を反応ガスに暴露した。60分経過後、密閉容器内を窒素で置換し、脱気操作を繰り返し行なった後に窒素置換し、フッ素化領域が形成された実施例3の樹脂成形体を得た。
【0045】
[比較例1]
比較例1として、フッ素化領域を形成しないポリカーボネート樹脂を用意した。
【0046】
(表面粗さ測定)
上述した実施例1〜3および比較例1について、表面粗さを測定した。
表面粗さの測定には、原子間力顕微鏡(AFM:MFP-3D Infinity AFM(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製))を用いた。それぞれの試料の表面粗さには、AFMから算出される算術平均粗さ(Ra)の値を指標とした。
【0047】
(フッ素化領域の厚み測定、屈折率分布の測定)
上述した実施例1〜3について、フッ素化領域の厚みを測定した。また、実施例1〜3および比較例1について、屈折率分布を測定した。
フッ素化領域の厚み測定、屈折率分布の測定には、分光エリプソメーター(分光偏光楕円率計測器 M-2000DI(J.A.Woolam社製))を用いた。屈折率分布においては、可視光領域、すなわち400nm〜800nmの波長域について測定した。
【0048】
(撥油性の測定)
上述した実施例1〜3および比較例1について、油汚れに対する撥油性の指標として、油の接触角を測定した。
油の接触角の測定には、全自動接触角計(全自動接触角計:DM-701 (協和界面科学株式会社製))を用いた。油種にはn−ヘキサデカン(表面自由エネルギー:27.6mN/m,20℃)を用いた。
【0049】
以上の表面粗さ、フッ素化領域の厚み、撥油性について、表1に結果を示す。また、屈折率分布について、
図2に結果を示す。また、実施例3および比較例1の最表面の状態を
図3に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示す結果によれば、フッ素化処理条件(フッ素濃度、反応圧力、反応温度、反応時間)を変化させることによって、表面粗さ、およびフッ素化領域の厚さを制御することができる。また、実施例1〜3は、比較例1よりも優れた撥油性を示し、また、フッ素化処理条件を変化させることで撥油性の強弱を調整することができ、油汚れに対する撥油性を付与できる。
また、
図2に示す結果によれば、実施例1〜3のフッ素化領域の屈折率は、可視光領域(400nm〜800nm)の全域において、比較例1よりも低屈折率であることが確認された。
【0052】
(元素濃度の測定、フッ素濃度分布の測定)
上述した実施例1〜3および比較例1について、元素濃度を測定した。元素濃度の測定には、Al線源を使用したX線光電子分光(XPS:PHI5000 VersaProbeII(アルバック・ファイ株式会社製))を用いた。また、フッ素置換率として各元素のピーク面積から算出されるフッ素元素と炭素元素の元素組成比(F/C)を算出した。この結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
また、フッ素化領域のフッ素濃度分布については、アルゴンガスクラスターイオン銃による表面エッチングを併用し、表面から内方にかけてのF1s軌道のピーク強度の減衰からフッ素濃度の減衰を測定した。実施例1のフッ素化領域のフッ素濃度分布の測定結果を
図4に示す。
図4に示すように、フッ素のピーク強度すなわちフッ素化領域のフッ素濃度は、フッ素化領域の表面から内方に向かうにしたがって徐々に減少していくフッ素濃度勾配があることが確認できた。
【0055】
(平均反射率および平均透過率の測定)
上述した実施例1〜3および比較例1について、可視光領域(400nm〜800nm)における平均反射率および平均透過率を測定した。測定には分光光度計(UH4150(株式会社日立ハイテクサイエンス製))を用いた。この平均反射率および平均透過率の測定結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示す結果によれば、低屈折率のフッ素化領域を樹脂基材の表層部に形成することにより、フッ素化領域を形成しない比較例1よりも低反射率、高透過率を示し、光学的に優れた樹脂成形体が得られることが確認できた。