【解決手段】本発明は、有価金属粉を含むレジスト廃液から有価金属粉を回収する方法であって、前記レジスト廃液を浮遊性有価金属粉含有上澄み液と、沈降性有価金属粉含有沈殿物とに沈降分離する工程、前記沈降分離する工程から越流した上澄み液に不溶性粒子を添加する工程、及び前記不溶性粒子を含む上澄み液をろ過する工程を有する。
前記有価金属粉は、金、銀、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、銅、ニッケル、コバルト、及びクロムよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の有価金属粉回収方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らはレジスト廃液に含まれる有価金属粉の回収方法について検討した。レジスト廃液には様々なサイズの有価金属微粒子と有価金属薄膜が含まれており、これらを同時に処理しなければならない(以下、有価金属微粒子と有価金属薄膜をあわせて有価金属粉と記載する)。またレジスト廃液はレジストに起因して粘性が高いためフィルターが目詰まりしやすいという問題があった。本発明者らは目開きの異なる複数のフィルターを設けて段階的に有価金属粉の回収を試みたが、短時間でフィルターの目詰まりが生じて高頻度でフィルターを交換しなければならなかった。他の有価金属粉回収方法として例えばレジスト廃液中の有価金属粉を沈殿させて回収することも検討したが、工場から排出されるレジスト廃液を短時間で処理するためには大型の沈降槽が必要となり、設置スペースの確保が難しかった。このように従来の有価金属粉回収方法は高頻度のメンテナンスが必要であり、また十分な処理量を確保するには装置が大型化するため設置スペースが必要になるなど実用上問題があった。
【0016】
本発明者らは有価金属粉回収方法について鋭意検討を重ねた結果、レジスト廃液中の有価金属粉の一部を沈殿させた後、上澄み液に残った有価金属粉をろ過分離することとし、その際、ろ過に先立って上澄み液に不溶性粒子を添加しておけば、省スペース、かつ高収率で有価金属粉を回収できることがわかった。特に本発明によればろ過膜の長寿命化も図れるためメンテナンス頻度を大幅に低減できることがわかった。
【0017】
以下、本発明の有価金属粉回収方法、及び該有価金属粉回収方法に好適な装置について説明する。
【0018】
本発明のレジスト廃液から有価金属粉を回収する方法は以下の工程を有する。
(1)有価金属粉含有レジスト廃液を浮遊性有価金属粉含有上澄み液と、沈降性有価金属粉含有沈殿物とに分離する工程(以下、沈降分離工程という)
(2)上記沈降分離工程から越流した上澄み液に不溶性粒子を添加する工程(以下、添加工程という)
(3)上記不溶性粒子含有上澄み液をろ過する工程(以下、ろ過工程という)
上記回収方法によって有価金属粉は沈殿物、ろ過残渣としてレジスト廃液から高収率で回収できる。しかもろ過膜のメンテナンス期間を大幅に伸長できる。
【0019】
(レジスト廃液)
本発明の対象とするレジスト廃液は、フェノール樹脂などの各種公知の高分子系レジスト成分、及びレジストの除去に使用した各種公知現像液、エッチング液、洗浄液などのレジスト除去液、及び有価金属粉を含む廃液である。またレジスト廃液には感光剤、溶剤など各種添加剤が含まれていてもよい。レジスト廃液の組成は排出源によって異なるがいずれも本発明で処理可能である。レジスト廃液はレジスト材料に起因して粘性を有するが、本発明で対象とするレジスト廃液の粘性は排出源によって異なるため特に限定されない。レジスト廃液の粘性は例えば室温において1.0cP以上である。
【0020】
本発明ではレジスト廃液に含まれる有価金属粉は、金、銀、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、銅、ニッケル、コバルト、及びクロムが例示される。回収対象とする有価金属粉は、好ましくは金、銀、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、銅、ニッケル、コバルト、及びクロムよりなる群から選択される少なくとも1種、より好ましくは金である。したがって沈殿物やろ過残渣に回収対象以外の金属が含まれている場合は各種公知の方法で分離すればよい。なお、本発明で回収対象とする有価金属は微粒子状や薄膜状でレジスト廃液中に析出している金属であり、未析出の金属は含まない。
【0021】
レジスト廃液中の有価金属粉濃度は半導体製造工程などの各種製造工程における有価金属使用量、レジスト量、レジスト除去液量などによって変動するため特に限定されない。本発明ではレジスト廃液に含まれる有価金属粉濃度が高くても目詰まり等の問題を生じることなく、高収率で有価金属粉を回収できる。したがってレジスト廃液に含まれる有価金属粉濃度は好ましくは0.001g/L以上、より好ましくは0.01g/L以上であってもよい。また上限は特に限定されない。有価金属粉濃度の測定方法はレジスト廃液をろ過し、その残渣をろ紙ごと乾燥させて重量測定し、ろ紙の乾燥重量を差し引いて固形物重量を算出することとする。
【0022】
またレジスト廃液に含まれる有価金属粉のサイズは最大粒子径が0.1μm以上であることが好ましい。レジスト廃液中の有価金属粉は移送過程で衝突等によって微細化されるが、本発明では有価金属粉の微細化が抑制できるため、最大粒子径が0.1μm以上である有価金属粉を対象とすれば高収率を達成できる。有価金属粉の最大粒子径の上限や薄膜状有価金属粉の膜厚は半導体製造工程などにおける製造条件に依拠しているため限定されない。本発明における有価金属粉の最大粒子径は、レーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置にて測定する。
【0023】
以下、
図1に基づいて本発明の有価金属粉回収方法を説明する。
レジスト廃液は半導体製造工程などのレジスト廃液発生源1から本発明の沈降分離工程3に供給される。レジスト廃液はレジスト廃液発生源1から直接、あるいは一旦、レジスト廃液貯蔵タンク2で貯留してから沈降分離工程3に供給してもよい。レジスト廃液貯蔵タンク2を設けると本発明の有価金属粉回収工程がメンテナンス中でも半導体などの製造ラインを停止する必要がない。またレジスト廃液貯蔵タンク2を設けることで本発明の有価金属粉回収工程に供給するレジスト廃液の成分組成を均一化できる。更に本発明の有価金属粉回収工程の処理量に応じてレジスト廃液の供給量を調整できる。レジスト廃液は連続的に沈降分離工程3に供給してもよいし、一定量づつ供給してバッチ処理してもよい。沈降分離工程3での有価金属粉の沈殿効率などを考慮するとバッチ処理が好ましい。
【0024】
(1)沈降分離工程
本発明の沈降分離工程3は、レジスト廃液を浮遊性有価金属粉含有上澄み液と、沈降性有価金属粉含有沈殿物とに分離する工程である。レジスト廃液中の有価金属粉の一部を沈殿させることによって上澄み液中の有価金属粉濃度を低減できる。したがって上澄み液をろ過工程でろ過する際に有価金属粉に起因するろ過膜の目詰まりを抑制できる。本発明において浮遊性有価金属粉と沈殿性有価金属粉はいずれもレジスト廃液中の有価金属粉であるが、所定時間内で沈殿せずにレジスト廃液中に浮遊している有価金属粉を浮遊性有価金属粉、比重が大きく沈殿した有価金属粉を沈殿性有価金属粉という。また上澄み液とは沈降分離工程3から添加工程4に供給されるレジスト廃液をいう。
【0025】
ろ過工程7におけるろ過膜の目詰まりを抑制するためにはレジスト廃液中の有価金属粉は沈降分離工程3においてできるだけ沈殿させることが望ましい。沈殿させる有価金属粉量はレジスト廃液中の有価金属粉濃度、およびろ過工程7の処理能力などに応じて適宜決定すればよい。例えば沈降分離工程3に導入されるレジスト廃液中の有価金属粉量に対して沈降分離工程3から添加工程4に供給される上澄み液中の有価金属粉量(=上澄み液中有価金属粉量(g)/レジスト廃液中有価金属粉量(g)×100%)は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
【0026】
沈降分離工程3における分離処理条件、特にレジスト廃液の滞在時間は、上澄み液中の有価金属粉が所定濃度となるように適宜決定すればよい。また沈殿した有価金属粉は各種公知の方法で回収すればよい。なお、本発明では自然沈降による有価金属粉の沈降分離であり、凝集剤などの各種添加剤は添加しない。
【0027】
本発明では沈降分離工程3においてレジスト廃液中に浮遊している有価金属粉のうちレジスト廃液の水面近傍に浮いている有価金属粉を取り除くことも好ましい。レジスト廃液の水面近傍に浮いている有価金属粉を取り除くと、次工程に供給される上澄み液の有価金属粉濃度を更に低減できる。レジスト廃液の水面近傍の有価金属粉は任意の手段、例えば不織布などをレジスト廃液に接触させることで有価金属粉を該不織布に付着させたり、フィルターなどの固液分離手段をつかって有価金属粉を除去してもよい。あるいは後記するように遮断板16などの板部材を設けてレジスト廃液の越流を阻害してもよい。
【0028】
レジスト廃液をバッチ式に沈降分離工程3に供給する場合は、新たなレジスト廃液の供給によってレジスト廃液の水面が上昇する。またレジスト廃液を連続的に沈降分離工程3に供給する場合は、連続的にレジスト廃液の水面が上昇する。沈降分離工程3内のレジスト廃液は一定水位を超えると該超過分は上澄み液として添加工程4に供給される。なお、本発明ではレジスト廃液を沈降分離工程3から添加工程4に越流によって供給している。そのため配管やポンプなどによって工程間を接続してレジスト廃液を移送させる場合と比べて有価金属粉の微細化を抑制でき、ろ過膜の目詰まり抑制に有効である。
【0029】
(2)添加工程
本発明の添加工程4は、上記沈降分離工程3から越流した上澄み液に不溶性粒子を添加する工程である。不溶性粒子は次工程であるろ過工程7でボディフィードとしても機能するため、ろ過膜への有価金属粉やレジスト成分の付着を抑制できる。
【0030】
(不溶性粒子)
本発明で使用する不溶性粒子はレジスト廃液に対して不溶性の個体である。好ましくはレジスト廃液に含まれるレジスト除去液に対して不溶性である有機粒子または無機粒子であり、より好ましくは無機粒子である。また不溶性粒子は多孔質であることが好ましい。多孔質の不溶性粒子は上澄み液中の有価金属粉のうち微細な有価金属粉を吸着し、ろ過時に有価金属粉を孔内に保持するため、より一層ろ過膜への有価金属粉の付着を低減できる。また不溶性粒子は、ろ過時に沈殿する程度の比重を有するものが好ましい。
【0031】
不溶性粒子としてはセルロース、炭素などの有機吸着材、珪藻土、パーライト、ガラスビーズなどの無機吸着材が例示される。これらの中でも多孔質の無機吸着材が好ましく、珪藻土がより好ましい。不溶性粒子は1種、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0032】
不溶性粒子の平均粒子径は好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは20μm以上であって、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは40μm以下ある。不溶性粒子の平均粒子径はボディフィード効果を向上させる観点からは粒子径は大きい方が好ましいが、粒子径が大きすぎると充填密度が低くなってボディフィード効果が低下することがある。また多孔質を有する不溶性粒子の平均粒子径が大きくなりすぎると表面積低減に伴って微細な有価金属粉の吸着量が低くなることがある。
【0033】
不溶性粒子の添加量はレジスト廃液中の有価金属粉濃度や添加する不溶性粒子の比重等により異なるが、上澄み液中に好ましくは0.001g/L以上、より好ましくは0.005g/L以上、更に好ましくは0.01g/L以上であって、好ましくは10g/L以下、より好ましくは5g/L以下、更に好ましくは1g/L以下である。不溶性粒子の添加量が多くなる程、上記効果は向上するが、多すぎると処理量が増大する。
【0034】
添加した不溶性粒子は上澄み液と混合して均一に分散させることが好ましい。不溶性粒子は粉状のまま、あるいは水などの溶媒に添加して液状(以下、不溶性粒子含有液という)にしてから上澄み液に添加してもよい。クリーンルームなど粉末の飛散が望ましくない環境下においては不溶性粒子含有液が好ましい。
【0035】
上澄み液に添加した不溶性粒子は沈降しやすいため、上澄み液を攪拌して均一な分散状態を維持することが望ましい。上澄み液を攪拌する手段は特に限定されない。例えば非機械的攪拌手段で上澄み液を攪拌することが好ましい。非機械的攪拌手段としてはノズルなどの噴射手段が例示される。例えば空気などの気体;不溶性粒子含有液や混合槽内の上澄み液などの液体を噴射手段から上澄み液に供給し、噴流による攪拌(以下、非機械的手段という)が好ましい。本発明では予め調整された不溶性粒子含有液を不溶性粒子貯蔵タンク5に貯蔵しておき、該タンク5からノズルなどの噴射手段を介して上澄み液に供給してもよいし、或いは混合槽内の上澄み液を抜き出して上記噴射手段から供給して上澄み液を循環させてもよい。
【0036】
(3)ろ過工程
ろ過工程7は不溶性粒子が添加された上澄み液(以下、混合液という)を有価金属粉含有残渣と、有価金属粉非含有廃液とに固液分離する工程である。ろ過後、有価金属粉含有残渣から公知の手段で有価金属粉を回収できる。ろ過は有価金属粉の回収率、メンテナンス性、省スペース化、処理速度などに優れているため、他の固液分離手段、例えば沈降分離、遠心分離、フィルター分離などよりも好ましい。
【0037】
ろ過に用いるろ過膜は有価金属粉の収率、処理効率などを考慮して適宜決定すればよい。ろ過膜の孔径を小さくするほど有価金属粉の収率は向上する。一方、ろ過膜の孔径を小さくしすぎるとレジスト成分による目詰まりが生じやすくなる。本発明では沈降分離工程3から添加工程4への上澄み液の移送や上澄み液と不溶性粒子との混合において有価金属粉の微細化を抑制しているため、ろ過で最大径0.1μm以上の有価金属粉を捕集できれば、十分高い収率、例えば混合液に含まれる有価金属粉の好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上を回収できる。したがって本発明によれば長期間目詰まりを抑制しつつ、高い収率を確保できる。
【0038】
具体的には精密ろ過(MF)が好ましい。限外ろ過(UF)やナノろ過(NF)でも有価金属粉を捕集できるが、レジスト成分や有価金属粉による目詰まりが生じやすくなることがあり、メンテナンス性を考慮すると精密ろ過(MF)が好ましい。本発明では回収対象が最大粒径0.1μm以上の有価金属粉であることを考慮するとろ過膜の孔径は好ましくは0.01μm以上、より好ましく0.05μm以上であって、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下が好適である。またろ過は自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過のいずれでも良いが、ろ過速度の向上を図る観点からは減圧ろ過、または加圧ろ過が好ましい。
【0039】
ろ過膜の材質はポリエチレン、4フッ化エチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、パルプ等の有機膜、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、ステンレス、ガラス等の無機膜が例示される。ろ過膜の材質はレジスト廃液の液性(例えばpH、液温、有機物の組成、レジスト除去成分など)に応じて耐久性などを考慮して適宜選択することが望ましい。本発明では紙ろ紙、ガラスろ紙が好ましい。
【0040】
ろ過条件はろ過装置の能力を考慮して適宜決定すればよい。例えばろ過流量20L/分、ろ過圧力−0.07MPaである。
【0041】
本発明ではろ過を行う前にプリコート層6を形成することが好ましい。プリコート層6を設けることで有価金属粉やレジスト成分によるろ材の目詰まりをより一層抑制できる。プリコート層6を形成する材料は好ましくは上記不溶性粒子として例示した材料を使用できる。またプリコート層6に使用する材料は1種、あるいは2種以上を併用してもよい。プリコート層6に使用する材料と上記不溶性粒子として使用する材料の異同は問わない。
【0042】
また添加工程4からろ過工程7に供給される混合液に含まれている不溶性粒子は、ろ過膜上、あるいはプリコート層6上に順次堆積してろ過ケーキを生成する。そのためろ過ケーキの最表面は順次更新されてろ過の進行に伴うケーキ抵抗の増大を抑えることができ、ろ過膜の目詰まりを長時間抑制できる。
【0043】
以上、本発明によればレジスト廃液から有価金属粉を分離、回収できる。また本発明によればレジスト廃液の処理に使用するろ過膜の長寿命化を図ることができる。
【0044】
以下、本発明の有価金属粉回収方法に好適な有価金属粉回収設備について
図2〜4に基づいて説明する。
【0045】
有価金属粉回収設備
本発明の上記有価金属粉回収方法に好適な有価金属粉回収設備は、少なくとも沈殿混合装置10(
図2、3)、ろ過装置11(
図4)を有している。本発明の有価金属粉回収設備は更にレジスト廃液貯蔵タンク(
図1の2)、及び/または不溶性粒子含有液貯蔵タンク(
図1の5)を有していてもよい。これら装置、及びタンクは配管(
図1の8a〜8e)で相互に接続されている。また配管には必要に応じて図示しないポンプやバルブを設けて供給量の調整が行われている。
【0046】
沈殿混合装置
本発明の沈殿混合装置10は沈降分離工程3を行う沈降槽12と添加工程4を行う混合槽13を有する構成である。沈殿混合装置10は好ましくは直方体乃至立方体であり、沈殿混合装置10の内部を隔壁17で仕切ることで沈降槽12と混合槽13とに分けている。隔壁17は天井面22と隔壁17の上端部との間に空隙ができるように設置されている。該空隙を設けることで沈降槽12のレジスト廃液の液面が隔壁17の上端を超えると越流して混合槽13に供給される。なお、図示例とは異なり、隔壁17を天井面22と接するように設置した場合は、隔壁17に開口部を設けて該開口部から上澄み液が混合槽13に供給されるように構成してもよい。
【0047】
沈降槽
沈降槽12はレジスト廃液を所定時間滞在させて有価金属粉の少なくとも一部を沈殿させる手段である。沈降槽12はレジスト廃液供給口19、流路板14を有している。以下では流路板14と沈降槽12の壁面20cの間の空間(すなわち、レジスト廃液供給口19が設けられている側)を第1沈降部30、流路板14と隔壁17の間の空間を第2沈降部31ということがある。
【0048】
レジスト廃液供給口19はレジスト廃液発生源から送給されるレジスト廃液を沈降槽12に供給する手段である。レジスト廃液供給口19は図示しない半導体製造工程などのレジスト廃液発生源やレジスト廃液貯蔵タンクなどと接続されている。レジスト廃液供給口19は第1沈降部30側の天井面22に設けられている。レジスト廃液供給口19の下端部の位置は特に限定されない。図示例ではレジスト廃液受け部15近傍まで延伸している。
【0049】
流路板14は供給されたレジスト廃液の流れを制御する手段である。流路板14は沈降槽12の壁面20cと隔壁17の間に設けられている。流路板14の側面は
図3に示す様に沈降槽12の対向する壁面20a、20bで固定されている。流路板14の上端部は隔壁17の上端部よりも高ければよく、沈降槽12の天井面22との接触の有無は問わない。また流路板14の下端部は沈降槽12の底面21との間に空隙ができるように設置されている。第1沈降部30側から供給されたレジスト廃液は流路板14の下端と沈降槽12の底面21との間の空隙を通って第2沈降部31側に供給される。流路板14の下端部は隔壁17の上端、または隔壁17に開口部を設けた場合は該開口部(以下、同じ)よりも低いことが好ましい。流路板14の下端部と沈降槽12の底面21との間の空隙が狭すぎると該空隙を通過するレジスト廃液の流速が早くなって沈殿物を巻き上げることがある。このような巻き上げを抑制する観点から流路板14の下端部と底面との間の空隙の高さは、沈降槽の高さの20%程度であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。流路板14を設けることで供給されたレジスト廃液の流速を減衰でき、その結果、第2沈降部31に滞留しているレジスト廃液中の有価金属粉の沈降阻害を抑制できる。
【0050】
沈降槽12の底面21には傾斜板18を必要に応じて設けてもよい。傾斜板18は沈殿物を第1沈殿部30側から第2沈殿部31側に移動させる手段である。傾斜板18は第1沈降部30側の壁面20c側から隔壁17に向かって低くなるように設置することが好ましい。レジスト廃液供給口19から供給されたレジスト廃液が流路板14の下端部の空隙を経由するため該空隙近傍に沈殿物が堆積しやすい。そのため傾斜板18を設けると該空隙部分での沈殿物の堆積を抑制できる。また第2沈殿部31側に沈殿物が集積するため沈殿物の回収が容易となる。
【0051】
沈降槽12には遮断板16を必要に応じて設けてもよい。遮断板16はレジスト廃液表面に浮遊している有価金属粉が上澄み液と共に混合槽13に供給されることを抑制する手段である。遮断板16の側面は、
図3に示す沈降槽12の対向する壁面20a、20bで固定されている。遮断板16の下端部は隔壁17の上端部よりも低くなるように設置する。また遮断板16の下端面は壁面20a、20b方向に水平であることが好ましい。遮断板16の下端部は沈降槽12の底面21との間に空間ができるように設置されていればよい。遮断板16の下端部は隔壁17の上端部よりも好ましくは1cm〜5cm、より好ましくは5cm〜10cm程度下側になるように設置すればよい。遮断板16の上端部は隔壁17の上端部よりも高くしてレジスト廃液が越流しなければよく、沈降槽12の天井面22との接触の有無は問わない。遮断板16は沈降槽12の壁面20cに対して傾斜して設置してもよく、その場合は図示例のように遮断板16の隔壁17側が上側、流路板14側が下側となるように傾斜させることが好ましい。遮断板16を傾斜配置すると遮断板16上に集積された有価金属粉が隔壁17方向(液面と逆の方向)に向かって押し出されるため、集積された有価金属粉が再びレジスト廃液中に戻ることがなく、有価金属粉を効率的に回収できる。
【0052】
沈降槽12にはレジスト廃液受け部15を必要に応じて設けてもよい。レジスト廃液受け部15はレジスト廃液供給口19から供給されたレジスト廃液の流速を減衰させる手段である。図示例ではレジスト廃液受け部15は底面及び四方に壁面を有し、天井面は開口した形状であり、壁面20c側のレジスト廃液受け部15の側面には開口部15aが複数設けられている。図示するようにレジスト廃液受け部15の側面は沈降槽12の壁面20a、20bで固定されている。また壁面20cとレジスト廃液受け部15の間には空隙32が設けられている。供給されたレジスト廃液はレジスト廃液受け部15の開口部15aから壁面20cをつたって第1沈降部30に供給される。
【0053】
沈降槽12の底面21には排出口38を設けることが好ましい。排出口38は沈降槽12内の沈殿物を排出する手段である。沈降槽12内のレジスト廃液は沈殿物と共に排出口38から排出してもよいし、或いは排出口38とは別に図示するように抜き出し口36を設けてレジスト廃液を抜き出してもよい。沈降槽12の任意の位置、好ましくは底面21近傍に抜き出し口36を設けて、レジスト廃液を排出した後、沈降槽12内から沈殿物を回収してもよい。排出したレジスト廃液はレジスト廃液貯蔵タンクに戻すなどして再度、沈降槽12に供給してもよい。あるいは排出したレジスト廃液をろ過装置11に供給して固液分離してもよい。
【0054】
混合槽
混合槽13は沈降槽12から供給された上澄み液に不溶性粒子を添加して撹拌混合する手段である。混合槽13は不溶性粒子供給手段34、攪拌・混合手段35、排出口33とを有する。
【0055】
不溶性粒子供給手段34は、混合槽13に供給された上澄み液に不溶性粒子を供給する手段である。不溶性粒子供給手段34の先端部分は特に限定されず、ノズルなどの公知の供給手段を採用できる。不溶性粒子供給手段34は図示しない不溶性粒子貯蔵タンクなどの不溶性粒子供給源と接続されており、ポンプなどの送給手段を介して混合槽13に供給されるように構成されている。粉体の不溶性粒子をフィーダーなどで供給してもよいし、不溶性粒子を液体などに混合させて圧縮エアなどで供給してもよい。ろ過装置での処理を考慮すると不溶性粒子は液体と混合するよりも粉体で供給することも好ましい。供給した不溶性粒子が飛散しないように不溶性粒子供給手段34の先端部の設置位置を調整することが望ましい。例えば不溶性粒子として珪藻土を圧縮エアで送供する場合、不溶性粒子供給手段34の先端部が混合槽内の上澄み液に接触していると圧縮エアによって上澄み液がバブリングして珪藻土が飛散し、沈降槽12に混入することがある。そのため該先端部は液面に接触しないように設置することが望ましい。
【0056】
攪拌・混合手段35は、上澄み液と不溶性粒子を攪拌し、混合する手段である。攪拌・混合手段35は先端部にノズル37a、37bなどの噴射手段を有しており、該ノズル37a、37bから射出される液体、乃至気体などの射出物によって上澄み液を流動させる。混合時に有価金属粉の微細化を抑制する観点からは、噴射手段は攪拌・混合手段35の先端部は射出物によって上澄み液が渦巻き状に流動するように設置することが望ましい。効率的に上澄み液を流動させる観点からは底面21近傍であることがより好ましい。攪拌・混合手段35の設置数は1又は2以上であり、好ましくは2である。図示例では水平面における対角線上に噴射手段であるノズル37a、37bを設置している。攪拌混合手段35は混合槽13の下部、即ち、排出口33と接続されている。稼働中は図示しないポンプを介して混合槽13から抜き出した上澄み液は攪拌・混合手段35の供給口35aから供給され、ノズル37a、37bから上澄み液中に射出される。
【0057】
排出口33は不溶性粒子が混合された上澄み液(以下、混合液という)の抜き出し手段である。排出口33と接続されている配管は分岐して供給口35と接続していると共に、ろ過装置11と接続している。分岐した配管には夫々バルブなどの調整手段を設けることが好ましい。排出口33は混合槽13の底面に設けられており、混合液を排出口33から適宜抜き出し、図示しない配管を通ってろ過装置11の混合液供給手段40からろ過膜39に供給される。例えばバルブや一時貯留タンクなどの調整手段を設けてろ過装置11への上澄み液の供給量を調整してもよい。
【0058】
ろ過装置
本発明で使用するろ過装置は工業的に利用されているろ過装置を使用できる。そのため図示例に限定されず、適宜変更可能である。ろ過装置11は上澄み液を有価金属粉含有残渣と有価金属粉が除去された廃液(以下、処理液という)とに分離する手段である。ろ過装置11はろ過膜39、混合液供給手段40を有する。ろ過膜39には所望のろ過性能を有するろ過膜を用いる。ろ過膜39の周縁部は保護板44などの固定手段により固定されていていることが好ましい。なお、図示例ではろ過膜39を示すために透過させている。
【0059】
混合液供給手段40は混合槽13から送給される混合液をろ過膜39に供給する手段である。混合液供給手段40は混合液をろ過膜39に供給する供給口42を有する。図示例では混合液が垂直方向に流下するように設置された供給経路43aと混合液が水平方向に流通するように設置された供給経路43bを介して供給口42から混合液がろ過膜39に供給されるように構成されている。具体的には供給経路43bは
図4(C)に示す様にリング状に形成されている。また供給口42はリング状の供給経路43bの外側斜め下方向、好ましくは混合液が保護板44に当たるように設置されている。このような構成により、供給口42から供給された混合液の落下衝撃を保護板44で減衰させてからろ過膜39に供給される。また供給口42から保護板44までの距離が離れていると供給口42から落下した液滴の跳ね返りが生じてろ過膜39を損傷させることがある。したがって供給口42と保護板44との距離はできるだけ近いことが好ましい。具体的な距離は液滴のサイズ、ろ過膜の強度などを考慮して適宜設定できる。なお、
図4(C)ではプリコート層41を省略している。ろ過液はろ過液タンク46に一時的に貯蔵され、その後、適宜処理される。
【0060】
ろ過膜上には必要に応じてプリコート層41を設けてもよい。プリコート層41には既に例示した各種公知のプリコート材を使用できる。本発明の不溶性粒子を使用することも可能である。
【0061】
以下、本発明の上記装置を利用したレジスト廃液からの有価金属粉の回収方法について説明する。
【0062】
レジスト廃液はレジスト廃液供給口19から沈降槽12にバッチ式、乃至連続的に供給される。レジスト廃液はレジスト廃液受け部15に設けた開口部15aから壁面20cをつたって第1沈降部30に供給され、更に流路板14下端と底面21との間の空隙を通って第2沈降部31側に供給される。第2沈降部31内でレジスト廃液の液面が隔壁17の上端よりも高くなると越流して混合槽13に供給される。沈降槽12の下部には有価金属粉を含む沈殿物が堆積する。またレジスト廃液の液面に浮遊している有価金属粉の一部は遮断板16上に集積する。混合槽13に導入された上澄み液には不溶性粒子供給手段34から不溶性粒子が供給される。また排出口33から抜き出された上澄み液はノズル37a、37bから上澄み液に射出される。上澄み液は該射出により渦巻き状に流動して上澄み液と不溶性粒子との混合が行われる。所定時間混合した後、混合液は排出口33から抜き出された混合液はろ過装置11の混合液供給手段に供給される。混合液は供給経路43a、43bを経由して供給口42からろ過膜39に供給される。ろ過膜39によって混合液は有価金属粉を含む個体と有価金属粉が除去された処理液とに分離され、処理液はろ過膜39を通過して、ろ過液タンク46へと排出される。有価金属粉は沈降槽12から沈殿物、遮断板16上の集積物として、またろ過装置11からろ過残渣として回収される。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0064】
実験1
下記条件でレジスト廃液から金粉の回収を行って使用したろ過膜の寿命について調べた。ろ過膜の寿命はろ過膜へのレジスト廃液供給速度がろ過速度以上となった場合にろ過寿命に達したと判断した。具体的にはろ過速度が0.043mL/sec・4.9cm
2未満となった時点をろ過寿命と判断した。各実験結果を表1に示すと共に、ろ過膜の処理量とろ過速度との関係を
図5に示した。
【0065】
ろ過膜寿命は、4Lの上澄み液を200mlずつろ過し、ろ過時間の推移データグラフを作成した。そのグラフの関数からろ過速度が許容できる下限(0.043ml/sec・4.9cm
2)となる時の通液量を求め、設置が想定される工場から排出される平均的なレジスト廃液量(L/日)から日数を算出した。
【0066】
比較例1
半導体製造工場から排出されるレジスト成分、レジスト剥離液、及び金粉(0.04g/L)を含有するレジスト廃液(52L)を沈降槽(幅320mm×奥行460mm×高さ500mm)に供給して有価金属粉の沈降分離を行った。50分経過後、上澄み液(10L)を抜き出して吸引ろ過(ろ過圧:−0.07MPa)を行った。ろ紙は1μmのガラスろ紙(ろ過面積:4.9cm
2)を用い、ボディフィード、プリコートは共に行わなかった。
【0067】
比較例2
ろ過する際に珪藻土(0.2g:昭和化学工業社製ラジオライト(登録商標)#800)によるプリコート層を形成した以外は比較例1と同様にしてろ過を行った。ろ過面積:4.9cm
2に対して0.2gの珪藻土をプリコートした。
【0068】
実施例1
比較例1と同様にしてレジスト廃液を沈降槽に供給して金粉の沈降分離を行った。沈降分離後、上澄み液(10L)を別のビーカーに移し替え、不溶性粒子として珪藻土粉末0.5gを添加した後、ガラス棒で10秒程度、攪拌して上澄み液と珪藻土を混合した。得られた混合液を吸引ろ過(ろ過圧:−0.07MPa)した。ろ紙は1μmのガラスろ紙(ろ過面積:4.9cm
2)を用いた。
【0069】
実施例2
ろ過する際に珪藻土(0.2g)によるプリコート層をろ過膜上に2mm程度形成した以外は実施例1と同様にしてろ過を行った。
【0070】
【表1】
【0071】
表1、
図5から以下のことがわかる。
実施例1、2では上澄み液に不溶性粒子を添加することでろ過膜の寿命が著しく伸長したことがわかる。更にプリコート層を設けることでより一層、ろ過膜の寿命が伸びたことがわかる。
【0072】
一方、不溶性粒子を添加しなかった比較例1、2ではプリコート層の有無にかかわらず、ろ過膜の寿命が著しく低かった。ろ過膜寿命について比較例1と比べると実施例1は3倍以上、実施例2は4倍以上であった。
【0073】
なお、実施例1、2、及び比較例1、2のろ過後の処理液中の金粉濃度を調べたが、いずれも金粉は含まれていなかった。この結果はろ過膜のろ過性能によって達成されたものであるが、上記の様に処理方法によってろ過膜の寿命が異なっている。したがってろ過寿命を考慮すると実施例1、2は比較例1、2と比べて優れた効果を有する。
【0074】
実験2
上記実施例1における不溶性粒子の添加量を表2に示すように変更してろ過膜の寿命を同様に調べた。なお、使用したレジスト廃液の金粉含有量は同じであったが(0.04g/L)、更新前の剥離液を含むレジスト廃液であったため実験1よりもレジスト成分の濃度が高く、高粘性であった。各実験結果を表2に示すと共に、ろ過膜の処理量とろ過速度との関係を
図6に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
表2より、上澄み液に添加した不溶性粒子の濃度が高くなる程、ろ過寿命が向上した。
【0077】
実験3
No.3−1
実験2で使用したレジスト廃液を使用した以外は実施例1と同様にして実験を行った。
No.3−2
実験2で使用したレジスト廃液を使用した以外は実施例2と同様にして実験を行った。
結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示すようにプリコート層を形成すると、ろ過膜の寿命がより長くなった。また実施例1、2の結果も考慮すると、プリコート層を形成することでレジスト廃液の性質にかかわらずろ過膜の寿命が長くなり、メンテナンス頻度を低減できる。
【0080】
実験4
沈降分離前後の金粉濃度を調べた。具体的には実験1で使用したレジスト廃液(5L)を沈降槽(幅320mm×奥行57.5mm×高さ500mm)に表4に示す通液量で供給し、処理前のレジスト廃液に含まれている金粉濃度と処理後のレジスト廃液に含まれている金粉濃度をそれぞれ測定し、沈降分離での金粉の除去率を調べた。なお、通液流量以外は同一条件とした。沈降分離前のレジスト廃液に含まれている金粉濃度は各回共に0.3045g/Lであった。沈降分離後のレジスト廃液に含まれている金粉濃度を調べた結果を表4に示す。同じレジスト廃液を使用して実験を4回行った。結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4の結果から、通液流量が多かった4回目の実験では沈降分離後のレジスト廃液中の金粉濃度が高かった。したがって通液流量を適切にコントロールすることで沈降分離後のレジスト廃液に含まれる金粉濃度を低減できることがわかる。なお、試験毎の金粉の粒度分布が一定ではないため、通過率等が変動しているが、概ね良好な結果となった。