【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年7月12日開催 国立大学法人電気通信大学主催「平成30年度 電気通信大学情報理工学研究科情報・ネットワーク工学専攻 修士論文中間発表会」
【解決手段】OFDMを用いる無線通信装置とバイタル情報推定装置との間に被験者を寝かせる。すると、無線通信のパケットに被験者のバイタル情報に基づく変調が生じる。この変調成分を抽出して推定するために、パケットの電波強度データをサブキャリア毎に取得する。取得したサブキャリア毎の電波強度データに、BPF、移動平均演算部で波形整形を行って電波強度粗データを生成する。その後、電波強度粗データから、平均値が平均値閾値以上であるサブキャリアのデータのみ抜粋する。そして平均値の大きい順にサブキャリア毎のデータを並べ替えた後、回帰推定部で呼吸数推定データ及び心拍数推定データを出力し、分類推定部で推定状態ラベルを出力する。
前記回帰学習パラメータは、前記基本データと、教師データである前記被験者の呼吸数を測定した呼吸数測定データ及び前記被験者の心拍数を測定した心拍数測定データとを用いて回帰学習を行う回帰学習部によって生成されるものであり、
前記分類学習パラメータは、前記基本データと、教師データである前記被験者の状態を観察した結果である状態ラベルを用いて分類学習を行う分類学習部によって生成されるものであり、
前記状態ラベルは、前記被験者が通常状態であるか、無呼吸状態であるか、あるいはうつ伏せ状態であるかを示すものである、
請求項2に記載のバイタル情報推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[バイタル情報推定装置101:全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係るバイタル情報推定装置101の全体構成を示すブロック図である。
バイタル情報推定装置101と無線LANルータ102の間に、被験者103がベッド104に寝ている。周知のパソコンであるバイタル情報推定装置101は、無線LANインターフェース(
図3にて後述)を内蔵しており、同様に無線LANインターフェース(
図2にて後述)を内蔵する無線LANルータ102と無線通信を行う。
無線LANルータ102とバイタル情報推定装置101は、IEEE 802.11シリーズに準拠する無線LANの通信方式にて無線通信を行う。特に、IEEE 802.11aまたはIEEE 802.11gにおける二次変調方式に採用されるOFDM(orthogonal frequency-division multiplexing:直交周波数分割多重方式)を変復調に利用する。これらのプロトコルは、互いに90°位相が異なる30サブキャリアを用いて、通信を行う。
【0011】
無線LANルータ102は図示しないインターネットに接続されている。
バイタル情報推定装置101は、一般的なパソコンと同様に、無線LANルータ102を介してインターネットに接続し、webブラウザを用いて任意のwebサイトを閲覧する等の機能を有する。そしてバイタル情報推定装置101はこの他に、無線LANルータ102との無線通信を実行する際に、無線LANルータ102から受信する電波の強度をリアルタイムに取得する。そして、電波の強度に重畳している被験者103のバイタル情報を推定する。
【0012】
なお、
図1ではバイタル情報推定装置101と通信を行う装置として、無線LANルータ102を例示しているが、必ずしも無線LANルータ102である必要はない。例えばパソコンやスマートフォン等、バイタル情報推定装置101と無線LANにて無線通信を実行することができる装置であればよい。これ以降、実施形態は無線LANルータ102で説明するが、バイタル情報推定装置101と無線LANにて無線通信を実行する装置を無線LANルータ102に特定しない場合には「無線通信装置」と呼ぶ。
【0013】
[無線LANルータ102:ハードウェア構成]
図2は、無線LANルータ102のハードウェア構成を示すブロック図である。
マイコンよりなる無線LANルータ102は、バス201に接続された、CPU202、ROM203、RAM204、フラッシュメモリ等の不揮発性ストレージ205を備える。
バス201には更に、ネットワークインターフェース(
図2中「NIC」と表記)206及び無線LANインターフェース(
図2中「無線LAN I/F」と表記)207が接続されている。
不揮発性ストレージ205には、ネットワークOSと、マイコンを無線LANルータ102として稼働させるためのプログラムが格納されている。
【0014】
[バイタル情報推定装置101:ハードウェア構成]
図3は、バイタル情報推定装置101のハードウェア構成を示すブロック図である。
周知のパソコンであるバイタル情報推定装置101は、バス301に接続された、CPU302、ROM303、RAM304、液晶ディスプレイ等の表示部305、キーボード及びマウス等のポインティングデバイスである操作部306、不揮発性ストレージ307を備える。
バス301には更に、無線LANインターフェース(
図3中「無線LAN I/F」と表記)308が接続されている。
不揮発性ストレージ307には、ネットワークOSと、パソコンをバイタル情報推定装置101として稼働させるためのプログラムが格納されている。
【0015】
[バイタル情報推定装置101:学習フェーズにおけるソフトウェア機能]
図4は、バイタル情報推定装置101の、学習フェーズにおけるソフトウェア機能を示すブロック図である。なお、無線LANルータ102のソフトウェア機能ブロックも図示している。
無線LANルータ102は、情報処理部401を通じて所定のデータを送信部402から電波に載せてバイタル情報推定装置101へ送信する。
また逆に、無線LANルータ102はバイタル情報推定装置101から送信される電波を受信部403で受信し、復調してデータを取得する。
【0016】
バイタル情報推定装置101は、無線LANルータ102から送信される電波を受信部405で受信する。また逆に、バイタル情報推定装置101は情報処理部406を通じて所定のデータを送信部407から電波に載せて無線LANルータ102へ送信する。
受信部405は受信した電波を復調してデータを取得し、情報処理部406に引き渡す。情報処理部406は取得したデータに所定の処理を施し、必要に応じて表示部305に表示する。あるいは、操作部306の操作情報に所定の加工を施してデータを生成し、送信部407を通じて無線LANルータ102へ送信する。
【0017】
受信部405には電波強度取得部408が機能として含まれている。
無線LANのプロトコルにおいては、実質的なデータの送受信を行っていないときも、1秒間に50回、パケットの送受信が行われる。このパケットはOFDMにて変調された電波である。電波強度取得部408は、パケット1個につき、30サブキャリア分の電波強度の集合体である電波強度生データを出力する。
【0018】
電波強度取得部408が出力する電波強度生データは、電波強度バッファ409に格納される。電波強度バッファ409はRAM上に形成されるリングバッファである。電波強度バッファ409は、電波強度生データを最低2分だけ記憶する。すなわち電波強度バッファ409には、1秒当たりパケット50個×60秒×2分×30サブキャリア=180000個の電波強度生データが格納される。なお、電波強度生データは、1サブキャリア当たり6000個になる。
【0019】
電波強度バッファ409に格納された電波強度生データは、バンドパスフィルタ(
図4中「BPF」と略記、以下「BPF」と略)410に入力される。BPF410は電波強度生データに対するノイズフィルタとして機能し、30サブキャリア毎に上限周波数及び下限周波数でフィルタリングを施す。なお、BPF410を通すことで、電波強度生データに含まれるDC成分は除去される。
BPF410を通過した電波強度生データは、更に移動平均演算部411に入力される。移動平均演算部411は、30サブキャリア毎に周知の移動平均演算処理を施す。こうして、移動平均演算部411は電波強度粗データ412を出力する。
【0020】
電波強度粗データ412は有効データ選択処理部413に入力される。次に、
図5を参照して、有効データ選択処理部413の処理を説明する。
図5は、有効データ選択処理部413のソフトウェア機能を示すブロック図である。
先ず、電波強度粗データ412は、最大値検出部501に入力される。最大値検出部501は、30サブキャリア毎の最大値を検出し、30サブキャリア毎の最大値を列挙した最大値リスト502を出力する。
【0021】
最大値検出部501が出力した最大値リスト502は、第一サブキャリア選択部503に入力される。第一サブキャリア選択部503は内部にコンパレータ504を内蔵する。コンパレータ504は30サブキャリア毎の最大値を予め定めた最大値閾値505と比較する。比較の結果、最大値閾値505以上の最大値を有するサブキャリアについては論理の「真」を出力する。出力した論理値は、サブキャリア選択フラグリスト506に記憶される。つまり、最大値閾値505以上の最大値を有するサブキャリアは、サブキャリア選択フラグリスト506において論理の「真」が記憶される。逆に、最大値閾値505未満の最大値を有するサブキャリアは、サブキャリア選択フラグリスト506において論理の「偽」が記憶される。
【0022】
サブキャリア選択フラグリスト506は、第一検査部507に入力される。第一検査部507は、サブキャリア選択フラグリスト506に含まれる論理の「真」のレコードの数が、予め定められた既定値以上であるか否かを確認する。例えば、予め定めた既定値は8サブキャリアに設定されるものとする。
仮に、論理の「真」のレコード数が既定値に満たない場合には、第一検査部507は入出力制御部414(
図4参照)にその旨を通知する。入出力制御部414はこの通知を受けると、これ以降の処理を中断し、新たな電波強度生データに対して、BPF410から処理を再開する。
もし、論理の「真」のレコード数が既定値に達している場合には、第一検査部507はピーク間隔検出部508を起動する。
【0023】
ピーク間隔検出部508は、電波強度粗データ412とサブキャリア選択フラグリスト506を読み込む。そして、電波強度粗データ412のうち、サブキャリア選択フラグリスト506にて論理の「真」のフラグが付されているサブキャリアに限って、ピーク間隔検出部508は、電波強度を時間軸で見た時の波形のピークを検出する。そして、ピークとピークの時間間隔をサブキャリア毎に出力する。こうして、ピーク間隔検出部508はピークとピークの時間間隔をサブキャリア毎に列挙したピーク間隔リスト509を出力する。
なお、これ以降に説明する処理において「サブキャリア毎に」と書かれる処理は、サブキャリア選択フラグリスト506にて論理の「真」のフラグが付されているサブキャリアに限定される。すなわち、サブキャリア選択フラグリスト506は、最終的に有効なデータであるサブキャリアを示すためのフラグのリストである。
【0024】
ピーク間隔リスト509は第二サブキャリア選択部510に入力される。第二サブキャリア選択部510は内部に標準偏差演算部511とコンパレータ512を内蔵する。標準偏差演算部511は、サブキャリア毎にピーク間隔の標準偏差を算出する。次に、コンパレータ512は標準偏差演算部511が算出した標準偏差を予め定めた標準偏差閾値513と比較する。比較の結果、標準偏差閾値513未満の標準偏差を有するサブキャリアについては論理の「真」を出力する。出力した論理値は、サブキャリア選択フラグリスト506に記憶される。つまり、ピーク間隔の標準偏差が標準偏差閾値513未満であるサブキャリアは、サブキャリア選択フラグリスト506において論理の「真」が記憶される。逆に、ピーク間隔の標準偏差が標準偏差閾値513以上であるサブキャリアは、サブキャリア選択フラグリスト506において論理の「偽」が記憶される。
ピーク間隔の標準偏差が標準偏差閾値513未満である、ということは、ピーク間隔の周期性が所定の値以上であることを意味する。
【0025】
サブキャリア選択フラグリスト506は、第二検査部514に入力される。第二検査部514は、第一検査部507と同様に、サブキャリア選択フラグリスト506に含まれる論理の「真」のレコードの数が、予め定められた既定値(例えば8サブキャリア)以上であるか否かを確認する。
もし、論理の「真」のレコード数が既定値に満たない場合には、第二検査部514は入出力制御部414にその旨を通知する。入出力制御部414はこの通知を受けると、これ以降の処理を中断し、新たな電波強度生データに対して、BPF410から処理を再開する。
もし、論理の「真」のレコード数が既定値に達している場合には、第二検査部514は平均値算出部515を起動する。
【0026】
平均値算出部515は、電波強度粗データ412とサブキャリア選択フラグリスト506を読み込む。そして、電波強度粗データ412のうち、サブキャリア選択フラグリスト506にて論理の「真」のフラグが付されているサブキャリアに限り、当該サブキャリアの平均値を算出する。こうして、平均値算出部515は平均値をサブキャリア毎に列挙した平均値リスト516を出力する。
【0027】
平均値リスト516は第三サブキャリア選択部517に入力される。第三サブキャリア選択部517は内部にコンパレータ518を内蔵する。コンパレータ518は平均値リスト516に格納されているサブキャリア毎の平均値を予め定めた平均値閾値519と比較する。比較の結果、平均値閾値519以上の平均値を有するサブキャリアについては論理の「真」を出力する。出力した論理値は、サブキャリア選択フラグリスト506に記憶される。つまり、平均値が平均値閾値519以上であるサブキャリアは、サブキャリア選択フラグリスト506において論理の「真」が記憶される。逆に、平均値が平均値閾値519未満であるサブキャリアは、サブキャリア選択フラグリスト506において論理の「偽」が記憶される。
【0028】
サブキャリア選択フラグリスト506は、第三検査部520に入力される。第三検査部520は、第一検査部507及び第二検査部514と同様に、サブキャリア選択フラグリスト506に含まれる論理の「真」のレコードの数が、予め定められた既定値(例えば8サブキャリア)以上であるか否かを確認する。
もし、論理の「真」のレコード数が既定値に満たない場合には、第三検査部520は入出力制御部414にその旨を通知する。入出力制御部414はこの通知を受けると、これ以降の処理を中断し、新たな電波強度生データに対して、BPF410から処理を再開する。
もし、論理の「真」のレコード数が既定値に達している場合には、第二検査部514はサブキャリア選択出力部521を起動する。
【0029】
サブキャリア選択出力部521は、電波強度粗データ412と平均値リスト516を読み込む。そして、サブキャリア毎に平均値リスト516に格納されている各サブキャリアの平均値により電波強度粗データ412の並べ替え(sort:ソート)を行い、上位から予め定められた既定値だけ(例えば8サブキャリア)を抜粋する。
サブキャリア選択出力部521が電波強度粗データ412から抜粋したサブキャリアのデータは、基本データ415として出力される。
【0030】
基本データ415は、電波強度粗データ412のうち、平均値の大きい順から所定のサブキャリア数(例えば8サブキャリア)だけ抜粋されたものである。このため、基本データ415のデータ構造は、サブキャリアの番号にかかわらず、平均値の大きい順から並べ替えられている。
なお、サブキャリア選択出力部521はサブキャリア選択フラグリスト506を読み込まない。何故なら、第三検査部520による検査を正常終了した時点で、サブキャリア選択出力部521が所定のサブキャリア数を選択するので、サブキャリア選択フラグリスト506はその役目を終えているからである。
【0031】
再び、
図4に戻って、処理の説明を続ける。
有効データ選択処理部413が出力した基本データ415は、回帰学習部416に入力される。
回帰学習部416には、被験者103の体表面に貼付する形態の不図示のバイタル計測装置によって測定した教師データである呼吸数測定データ417と心拍数測定データ418が、基本データ415と共にリアルタイムで与えられている。すると、回帰学習部416は、これらのデータの回帰学習処理を実行して、回帰学習パラメータ419を出力する。なお、回帰学習部416としては、例えばサポートベクター回帰(Support Vector Regression:SVR、以下「SVR」と略)が用いられる。
【0032】
一方、有効データ選択処理部413が出力した基本データ415は、分類学習部420にも入力される。
分類学習部420には、被験者103の状態を示す教師データである状態ラベル421を、基本データ415と共にリアルタイムで与えられている。すると、分類学習部420は、状態ラベル421と基本データ415について分類学習処理を実行し、分類学習パラメータ422を出力する。なお、分類学習部420としては、例えばサポートベクターマシン(Support Vector Machine:SVM、以下「SVM」と略)が用いられる。また、状態ラベル421のラベルは以下の3通りが考えられる。
(1)被験者103が仰向けまたは横方向に寝ている状態で、正常な呼吸を行っている「通常状態」。
(2)被験者103が仰向けまたは横方向に寝ている状態で、呼吸が止まっている「無呼吸状態」。
(3)被験者103がうつ伏せに寝ている「うつ伏せ状態」。
【0033】
回帰学習部416が出力する回帰学習パラメータ419と、分類学習部420が出力する分類学習パラメータ422は、バイタル情報推定装置101の不揮発性ストレージ307にファイルとして保持される。そして、後述する推定フェーズにおいて使用される。
【0034】
入出力制御部414は、バイタル情報推定装置101の、電波強度バッファ409から回帰学習部416及び分類学習部420のデータ処理のシーケンス制御を実行する。電波強度バッファ409に格納される電波強度生データは、2分という長い時間幅を有する。バイタル情報推定装置101の処理能力を効果的に使用するために、電波強度取得部408から出力される電波強度生データを2分毎に区切って処理を行うのではなく、先行するデータの処理が終わった時点でリングバッファである電波強度バッファ409から順次取り出して処理を行うことが望ましい。
【0035】
例えば、電波強度バッファ409に15時30分13秒から15時30分15秒までの電波強度生データが格納されている状態で、15時30分15秒に処理を開始して、15時30分16秒に処理を完遂したとする。この時点で、電波強度バッファ409には15時30分14秒から15時30分16秒までの電波強度生データが格納されている。そこで、電波強度バッファ409から即座に15時30分14秒から15時30分16秒までの電波強度生データを取り出して処理を実行する。
【0036】
[バイタル情報推定装置101:推定フェーズにおけるソフトウェア機能]
図6は、バイタル情報推定装置101の推定フェーズにおけるソフトウェア機能を示すブロック図である。
なお、
図6において、
図4と同じ機能ブロックについては同一の符号を付して、説明を省略する。すなわち、
図4と
図6との相違点は、基本データ415を処理する回帰推定部601、分類推定部602以降の機能ブロックのみである。
図4と
図6は、基本データ415を生成する処理までは同一である。
【0037】
有効データ選択処理部413が出力した基本データ415は、回帰推定部601に入力される。
回帰推定部601は、基本データ415がリアルタイムで与えられると、回帰学習パラメータ419を読み込んで回帰推定処理を実行し、被験者103の呼吸数推定データ603と心拍数推定データ604を出力する。
【0038】
一方、有効データ選択処理部413が出力した基本データ415は、分類推定部602にも入力される。
分類推定部602は、基本データ415がリアルタイムで与えられると、分類学習パラメータ422を読み込んで分類推定処理を実行し、被験者103の推定状態ラベル605を出力する。この推定状態ラベル605は、被験者103が通常状態であるか、無呼吸状態であるか、あるいはうつ伏せ状態であるかを示す。
【0039】
回帰推定部601が出力する呼吸数推定データ603及び心拍数推定データ604と、分類推定部602が出力する推定状態ラベル605は、バイタル情報推定装置101の表示部305に表示され、あるいは不揮発性ストレージ307に記憶される。他にも、任意の情報処理装置へ出力されて、様々な用途に供される。特に、推定状態ラベル605が無呼吸状態及びうつ伏せ状態である場合は、被験者103が健康上危険な状態に陥る可能性が高いので、何らかのアラームを発することが好ましい。
【0040】
入出力制御部414は、バイタル情報推定装置101の、電波強度バッファ409から回帰推定部601及び分類推定部602のデータ処理のシーケンス制御を実行する。電波強度バッファ409に格納される電波強度生データは、2分という長い時間幅を有する。しかし、バイタル情報推定装置101のリアルタイム性を確保するために、電波強度取得部408から出力される電波強度生データを2分毎に区切って処理を行う必要はなく、先行するデータの処理が終わった時点で、リングバッファである電波強度バッファ409から順次取り出して処理を行うことが望ましい。
【0041】
図4、
図5及び
図6を見てわかるように、BPF410、移動平均演算部411、有効データ選択処理部413、回帰学習部416、分類学習部420、回帰推定部601、分類推定部602は、プログラムで構成される。また、バイタル情報推定装置101は一般的なパソコンであり、無線LANルータ102も市販品に何ら手を加えることなくそのまま利用できる。すなわち、汎用機器に本発明に係るプログラムを実行することで、本発明に係るバイタル情報推定装置101を実現できる。
【0042】
[データ構造]
図7は、無線LANのサブキャリアを示す模式図である。横軸は周波数であり、縦軸はレベルである。
OFDMを採用する無線LANの電波は、互いに90°の位相差を有する30サブキャリアにて構成される。90°の位相差があるため、隣接するサブキャリア同士は混変調の影響を受けないという利点がある。
【0043】
図8は、無線LANのパケットの電波強度をサブキャリア毎に周波数軸上及び時間軸上に展開した模式図である。
無線通信装置は、1秒間に50回、パケットをバイタル情報推定装置101へ送信する。このパケットは前述の通り、30サブキャリアを含む。
図4を見ると、無線通信装置から送信されるパケットがバイタル情報推定装置101に到達する途中に、被験者103が存在する。被験者103の心拍によって生じる血液の流れや、被験者103の呼吸は、パケットに対して何らかの変調となってパケットに重畳される。すなわち、無線LANのパケットは50Hzのサンプリングクロックで被験者103のバイタル情報を検出する信号であると考えることができる。被験者103のバイタル情報は、
図8に示されるパケットの電波強度の、時間軸上の振幅や位相の変動等に現れるものと考えられる。
【0044】
一方、無線通信全般に言えることであるが、無線通信にはフェージングやノイズの混入等、信号の品質を悪化させる要素が多く重畳される。またこれらノイズ要素は、全てのサブキャリアに対して一様に生じることは少なく、サブキャリア毎にランダムに発生することが多い。
単一の周波数の電波で被験者103のバイタル情報をサンプリングしようとすると、上述のノイズ要素によってS/N比が悪化し、バイタル情報の推定が正常に行われない。しかし、複数の周波数の電波であれば、ある1個の周波数の電波のS/N比が悪化しても、他の周波数の電波で補完することが可能になる。
OFDMは、一つの通信において複数のサブキャリアを持つので、本発明のバイタル情報推定装置101に適している。
【0045】
被験者のバイタル情報の取得を変動等が大きい電波を用いて行うため、ノイズ除去や不適切なデータの排除等の前処理が重要になる。このため、本発明の実施形態に係るバイタル情報推定装置101では、BPF410で不要な高周波成分とDC成分を除去し、移動平均演算部411で変動成分が抑制された電波強度粗データ412を得た。その上で更に、有効データ選択処理部413にて、電波強度粗データ412に3つの条件を課して、電波強度粗データ412のうち有効なサブキャリアのデータのみで構成される基本データ415を生成した。
【0046】
改めて以下に、有効データ選択処理部413にて実行する3つの条件を列挙する。
<第一の条件>
最大値検出部501にて、サブキャリア毎の電波強度の最大値を取得する。
そして、第一サブキャリア選択部503にて、電波強度の最大値が所定の最大値閾値505以上(電波強度が所定値以上である)のサブキャリアのみ選択する。
但し、選択されたサブキャリア数が規定サブキャリア数に満たない場合には、第一検査部507にて現在処理中の電波強度粗データ412を破棄する。
【0047】
<第二の条件>
第一の条件をクリアしたサブキャリアについて、ピーク間隔検出部508にてサブキャリア毎のピーク同士の間隔を計測し、標準偏差演算部511にてそれら間隔の標準偏差を算出する。
そして、第二サブキャリア選択部510にて、標準偏差が所定の標準偏差閾値513を下回る(周期性が所定値以上である)サブキャリアのみ選択する。
但し、選択されたサブキャリア数が規定サブキャリア数に満たない場合には、第二検査部514にて現在処理中の電波強度粗データ412を破棄する。
【0048】
<第三の条件>
第一及び第二の条件をクリアしたサブキャリアについて、平均値算出部515にて電波強度の平均値を算出する。
そして、第三サブキャリア選択部517にて、平均値が所定の平均値閾値519以上のサブキャリアのみ選択する。
次に、サブキャリア選択出力部521にて、電波強度の強い順から規定サブキャリア数のデータのみ選択し、基本データ415を出力する。
但し、選択されたサブキャリア数が規定サブキャリア数に満たない場合には、第三検査部520にて現在処理中の電波強度粗データ412を破棄する。
【0049】
有効データ選択処理部413にて選択され、電波強度の平均値の大きい順に並べ替えられた基本データ415を生成することで、電波強度のデータを機械学習処理に適した形式に変換することができる。
【0050】
図9Aは、電波強度生データ及び電波強度粗データ412のデータ構造を示す概略図である。
第一サブキャリアから第三十サブキャリアまで、30のサブキャリア毎に、時刻t001から時刻t6000まで、パケットの電波強度が格納される。
第一サブキャリアの時刻t001にはデータDA901が、時刻t002にはデータDA902が、…時刻t6000にはデータDA96000が、格納される。
第二サブキャリアの時刻t001にはデータDB901が、時刻t002にはデータDB902が、…時刻t6000にはデータDB96000が、格納される。
第三十サブキャリアの時刻t001にはデータDAD901が、時刻t002にはデータDAD902が、…時刻t6000にはデータDAD96000が、格納される。
【0051】
図9Bは、サブキャリア選択フラグリスト506のデータ構造を示す概略図である。
サブキャリア選択フラグリスト506には、第一サブキャリアから第三十サブキャリアまで、30のサブキャリア毎に、当該サブキャリアが有効であるか否かを示すフラグが格納される。
図9B中、論理の「真」を「OK」、論理の「偽」を「NG」と表記している。
【0052】
図10は、電波強度粗データ412のうち、あるサブキャリアの値を短期的に観察したグラフである。横軸は時間であり、縦軸は電波強度の変動値である。縦軸は電波強度そのものではなく、BPF410を通過しているため、電波強度のDC成分が除去されていることに注意されたい。
サブキャリアの波形自体は、心拍に類似する波形である。したがって、この波形のピーク同士から心拍を推定することが可能になる。
波形W1001及び波形W1002は、呼吸による影響によって、心拍を表すピークの振幅に変動が生じる有り様を示している。
拡大波形W1003は、心拍による影響によって、心拍のピークとピークの間に変動が生じる有り様を示している。
回帰推定部601は、これら波形の特徴を捉えて、呼吸数及び心拍数の推定データを出力する。
【0053】
図11は、電波強度粗データ412のうち、あるサブキャリアの値を長期的に観察したグラフである。横軸は時間であり、縦軸は電波強度の変動値である。
図11に示すグラフは、被験者103が通常状態にあるとき、無呼吸状態にあるとき、寝返り動作を行ったとき、うつ伏せ状態にあるときの4種類の状態を示している。
波形W1101は、被験者103が通常状態にある時の電波強度の変動値の波形である。
被験者103が通常状態では、電波強度の変動値の振幅は±0.2程度と、比較的大きめである。
波形W1102は、被験者103が無呼吸状態にある時の電波強度の変動値の波形である。
被験者103が無呼吸状態では、電波強度の変動値の振幅は±0.1未満程度と、極端に小さくなる。
波形W1103は、被験者103が寝返り動作を行った時の電波強度の変動値の波形である。
被験者103が寝返り動作を行ったときには、電波強度の変動値に大きな変化が生じる。
波形W1103h4は、被験者103がうつ伏せ状態にある時の電波強度の変動値の波形である。
被験者103がうつ伏せ状態では、電波強度の変動値の振幅は±0.1程度であるが、電波強度の変動値の上昇と下降に偏りが生じる、特徴的な波形が現れる。
分類推定部602は、これら波形の特徴を捉えて、被験者103が通常状態であるか、無呼吸状態であるか、あるいはうつ伏せ状態であるかを推定し、推定状態ラベル605を出力する。
【0054】
以上説明した本発明の実施形態は、以下のような変形例を採り得る。
(1)回帰推定部601には、SVRの他、以下に示す教師あり回帰学習アルゴリズムが利用可能である。
線形回帰、ロジスティクス回帰、回帰木、AR,MA,(s)ARIMAモデル、状態空間モデル、ランダムフォレスト、勾配ブースティング木、パーセプトロン、CNN、RNN、ResNet
(2)分類推定部602には、SVMの他、以下に示す教師あり分類学習アルゴリズムが利用可能である。
決定木、ナイーブベイズ、KNN、ブースティング、ランダムフォレスト、勾配ブースティング木、パーセプトロン、CNN、RNN、ResNet
(3)本発明の実施形態に係るバイタル情報推定装置101が使用する無線通信は、OFDM等の、複数のサブキャリアを用いる無線通信方式であれば、必ずしも無線LANでなくてもよい。例えば第3.9世代移動通信システム、第4世代移動通信システム等が挙げられる。
【0055】
本発明の実施形態においては、バイタル情報推定装置101を開示した。
OFDMを用いる無線通信装置とバイタル情報推定装置101との間に被験者103を寝かせる。すると、無線通信のパケットに被験者103のバイタル情報に基づく変調が生じる。この変調成分を抽出して推定するために、パケットの電波強度データをサブキャリア毎に取得する。取得したサブキャリア毎の電波強度データに、BPF410、移動平均演算部411で波形整形を行って電波強度粗データ412を生成する。その後、電波強度粗データ412から、最大値が最大値閾値505以上、かつピーク間隔の標準偏差が標準偏差閾値513未満、かつ平均値が平均値閾値519以上であるサブキャリアのデータのみ抜粋する。そして平均値の大きい順にサブキャリア毎のデータを並べ替えた後、回帰推定部601で呼吸数推定データ603及び心拍数推定データ604を分類推定部602で推定状態ラベル605を出力する。
【0056】
以上の処理は全てソフトウェアにて実行が可能であり、特殊なハードウェア等を作成する必要が全くない。このため、既存の設備をそのまま流用して、被験者103のバイタル情報を推定することが可能である。すなわち、既存の設備にソフトウェアをインストールするだけで、極めて低コストにて、独居老人の見守りや、乳幼児の見守り等を実現することが可能である。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【0058】
101…バイタル情報推定装置、102…無線LANルータ、103…被験者、104…ベッド、201…バス、202…CPU、203…ROM、204…RAM、205…不揮発性ストレージ、206…ネットワークインターフェース、207…無線LANインターフェース、301…バス、302…CPU、303…ROM、304…RAM、305…表示部、306…操作部、307…不揮発性ストレージ、308…無線LANインターフェース、401…情報処理部、402…送信部、403…受信部、405…受信部、406…情報処理部、407…送信部、408…電波強度取得部、409…電波強度バッファ、410…BPF、411…移動平均演算部、412…電波強度粗データ、413…有効データ選択処理部、414…入出力制御部、415…基本データ、416…回帰学習部、417…呼吸数測定データ、418…心拍数測定データ、419…回帰学習パラメータ、420…分類学習部、421…状態ラベル、422…分類学習パラメータ、501…値検出部、502…値リスト、503…第一サブキャリア選択部、504…コンパレータ、505…値閾値、506…サブキャリア選択フラグリスト、507…第一検査部、508…ピーク間隔検出部、509…ピーク間隔リスト、510…第二サブキャリア選択部、511…標準偏差演算部、512…コンパレータ、513…標準偏差閾値、514…第二検査部、515…平均値算出部、516…平均値リスト、517…第三サブキャリア選択部、518…コンパレータ、519…平均値閾値、520…第三検査部、521…サブキャリア選択出力部、601…回帰推定部、602…分類推定部、603…呼吸数推定データ、604…心拍数推定データ、605…推定状態ラベル