【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1として、
図2に示す鋳物Cを用いる。この鋳物Cにおける押湯C3は、円柱部C33の高さ(40mm)が、80mmの直径(D)の0.5倍に相当する。以下、
図3に示す押湯C3、すなわち実施例1における押湯C3を縦長球状(1)の押湯と称する。縦長球状(1)の押湯C3の全体の高さ(H)は120mmになる。
【0059】
この縦長球状(1)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を表1に示す。
【0060】
【表1】
図2に示すように押湯C3の半径方向には、製品部C4であったり、隣の押湯C3が配置されており、特に
図2(a)に示す矢印方向にはスペース的に余裕がない。縦長球状(1)の押湯C3は、真球状の押湯を高さ方向(上下方向)にのみ延ばしたものである。直径が同じ80mmの真球状の押湯の体積は、268083mm
3である。縦長球状(1)の押湯C3は、直径が同じ真球状の押湯に比べて、体積が1.75倍になっている。
【0061】
なお、実際には、押湯は、基本形状に対して、鋳型や鋳造模型として使いやすいように適宜の形状の修整変形が施されて用いられている。例えば、造型の型抜き性のために適宜の抜け勾配、角R、隅Rなどを付したり、押湯頂部の引け誘発のために押湯頂部に円錐穴やV溝などを設けたり、ウィリアムスコアを設けたり、あるいは製品部との関係から押湯形状の一部を削ったり、余肉を付けたり等する。また、場合によっては、押湯の基本形状の上に溶湯ヘッド(溶湯圧)を付与するために押湯の直径や幅よりも小さい直径や幅の棒状の部分を追加して設けることもある。
図3に示す押湯C3では、これらの修整変形は図示省略されており、体積や表面積の計算においても、これらの修整変形は加味されていない。このことは、実施例2以降および比較例においても同様である。
【0062】
また、縦長球状(1)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(1)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(1)の押湯C3の球形度は0.968であった。
【0063】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.332×10
−4mm
2であった。
(実施例2)
図5は、実施例2における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図5でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図5(c)に右側面図が示されている。
【0064】
以下、これまで説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、これまで付した符号と同じ符号を付して説明する。また、これまで説明した事項と重複する事項については説明を省略する場合がある。
【0065】
図5に示す押湯C3は、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0066】
この
図5に示す押湯C3は、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ60mmの円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。すなわち、
図5(b)に示すように、実施例2における押湯C3は、第1半球部C31、第2半球部C32、および第1半球部C31と第2半球部C32に挟まれた円柱部C33を有し、実施例1における縦長球状(1)の押湯よりも円柱部C33の高さが20mm高いものである。以下、
図5に示す押湯C3、すなわち実施例2における押湯C3を縦長球状(2)の押湯と称する。縦長球状(2)の押湯C3は、円柱部C33の高さ(60mm)が、80mmの直径(D)の0.75倍に相当する。また、縦長球状(2)の押湯C3の全体の高さ(H)は140mmになる。
【0067】
縦長球状(2)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0068】
この縦長球状(2)の押湯C3も、縦長球状(1)の押湯と同じく、真球状の押湯を高さ方向(上下方向)にのみ延ばし、縦長球状(2)の押湯C3は、直径が同じ80mmの真球状の押湯に比べて、体積が2.13倍になっている。
【0069】
また、縦長球状(2)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(2)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(2)の押湯C3の球形度は0.944であった。
【0070】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.284×10
−4mm
2であった。
(実施例3)
図6は、実施例3における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図6でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図6(c)に右側面図が示されている。
【0071】
図6に示す押湯C3も、
図5に示す縦長球状(2)の押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0072】
この
図6に示す押湯C3は、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ86.6mmの円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。すなわち、
図6(b)に示すように、実施例3における押湯C3も、第1半球部C31、第2半球部C32、および円柱部C33を有し、実施例1における縦長球状(1)の押湯よりも円柱部C33の高さが46.6mmも高いものである。以下、
図6に示す押湯C3、すなわち実施例3における押湯C3を縦長球状(3)の押湯と称する。縦長球状(3)の押湯C3は、円柱部C33の高さ(86.6mm)が、80mmの直径(D)の1.08倍に相当する。また、縦長球状(3)の押湯C3の全体の高さ(H)は166.6mmになる。
【0073】
なお、上記球体は、真球に限られず、例えば、楕円体であってもよい。また、円柱部C33も、高さ方向に直交する方向に沿った断面形状が真円の形状のものに限られない。例えば、断面形状が楕円若しくは角丸長方形の形状のものであってもよい。
【0074】
また、
図6に示す押湯C3も、ネック部C5と不図示の湯口との間に設けられたものであってもよいし、いわゆる揚がり押湯であってもよい。
【0075】
縦長球状(3)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0076】
この縦長球状(3)の押湯C3も、縦長球状(1)の押湯と同じく、真球状の押湯を高さ方向(上下方向)にのみ延ばし、
図6に示す押湯C3の頂部C3tは、製品部C4の上端(ここでは上面C41)よりも上方に突出している。製品形状によっては、押湯の頂部が、製品部の上端の高さ以下であると、製品部上端の溶湯圧力が低くなるため、押湯の頂部より先に製品部上端が引けてしまい(凝固収縮が生じてしまい)、製品部に引け巣欠陥が発生してしまうことがある。この場合には、押湯の径方向にスペース的に余裕があっても、押湯の径方向に押湯の体積を増加させず、上方向にのみ押湯の体積を増加させる。すなわち、湯口、湯道、製品部、およびネック部のうちの少なくとも一つとの位置関係により押湯の基本形状として球形の基本形状をとることができる状態であっても、押湯の径を長くして押湯全体で体積を増加させるのではなく、上方向にのみ押湯の体積を増加させる。こうして、押湯C3の頂部C3tが、製品部C4の上端よりも高い位置にあるようにする。なお、鋳型においても同じであり、押湯形成空間の頂部が製品部形成空間の上端よりも高い位置にあるようにする。こうすることで、押湯C3の頂部C3tから引けるようになる。縦長球状(3)の押湯C3は、直径が同じ80mmの真球状の押湯に比べて、体積が2.62倍にもなっているが、縦長球状(3)の押湯C3の高さである166.6mmを直径にする真球状の押湯に比べて、体積は0.3倍以下に削減されている。
【0077】
また、縦長球状(3)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(3)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(3)の押湯の球形度は0.913であり、0.91以上である。
【0078】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.239×10
−4mm
2であった。
(実施例4)
図7は、実施例4における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図7でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図7(c)に右側面図が示されている。
【0079】
図7に示す押湯C3も、
図5に示す縦長球状(2)の押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0080】
この
図7に示す押湯C3は、直径88mmの球体を半分にした間に、高さ12.3mmの円柱体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。すなわち、
図7(b)に示すように、実施例4における押湯C3も、第1半球部C31、第2半球部C32、および円柱部C33を有し、実施例1における縦長球状(1)の押湯よりも、径方向に8mm大きく、円柱部C33の高さは27.7mmも低いものである。以下、
図7に示す押湯C3、すなわち実施例4における押湯C3を縦長球状(4)の押湯と称する。縦長球状(4)の押湯C3は、円柱部C33の高さ(12.3mm)が、88mmの直径(D)の0.14倍に相当する。また、縦長球状(4)の押湯C3の全体の高さ(H)は100.3mmになる。
【0081】
縦長球状(4)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0082】
この縦長球状(4)の押湯C3は、縦長球状(1)の押湯とは異なり、直径が80mmの真球状の押湯に対して、径方向と、高さ方向(上下方向)の両方向に延ばしたものであり、直径が80mmの真球状の押湯に比べて、体積が1.61倍になっている。
【0083】
また、縦長球状(4)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦長球状(4)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦長球状(4)の押湯C3の球形度は0.996であり、縦長球状(1)の押湯よりも球形度が高く、真球に近いことになる。なお、真球の場合には、球形度は1になる。
【0084】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.361×10
−4mm
2であった。
(実施例5)
図8は、実施例5における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図8でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図8(c)に右側面図が示されている。
【0085】
図8に示す押湯C3も、これまでの実施例における押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0086】
この
図8に示す押湯C3は、これまでの実施例における押湯と形状が異なっている。すなわち、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ60mmの中間体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものであるが、ここにいう直径80mmの球体は、断面形状が真円ではなく、角丸長方形の形状であり、二つの等しい長さの平行線と二つの半径40mmの半円弧からなる形状である。すなわち、直径(D)80mmの真球の球体が、
図2(a)に示す矢印方向に潰された形状である。また、高さ60mmの中間体は、角丸長方形の上面と下面を有するものである。この中間体の、1点鎖線で示す見切り面に沿った断面形状も、角丸長方形の形状である。また、
図8に示す押湯C3は、同図(c)に示すように、側面(
図2に示す矢印方向)から見ても、角丸長方形(小判状)に見える。以下、
図8に示す押湯C3、すなわち実施例5における押湯C3を縦横長球状(1)の押湯と称する。縦横長球状(1)の押湯C3は、高さ(H)が140mmであり、
図2に示す矢印と直交する幅方向(
図8(c)における左右方向に相当)の長さは100mmであり、
図6に示す縦長球状(3)の押湯C3よりも、1.25倍の幅広である。
【0087】
縦横長球状(1)の押湯C3は、真球状の押湯を、小判状となるように、
図2(a)に示す矢印方向に潰した形状であり、
図2(a)に示す矢印方向と直交する幅方向に拡がり、押湯の体積を増加させている。
【0088】
なお、
図6に示す押湯のように、
図8に示す押湯C3も、頂部C3tが、製品部C4の上端(ここでは上面C41)よりも上方に突出するまで延ばしてもよい。また、鋳型においても同じであり、押湯形成空間の頂部が製品部形成空間の上端よりも高い位置にあるようにしてもよい。
【0089】
縦横長球状(1)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0090】
また、縦横長球状(1)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦横長球状(1)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦横長球状(1)の押湯C3の球形度は0.960であった。
【0091】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.283×10
−4mm
2であった。
(実施例6)
図9は、実施例6における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図9でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図9(c)に右側面図が示されている。
【0092】
図9に示す押湯C3も、これまでの実施例における押湯と同じく、
図2を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5を通して溶湯を補給するものである。
【0093】
この
図9に示す押湯C3も、
図8に示す縦横長球状(1)の押湯と同じく、直径80mmの球体を半分にした間に、高さ60mmの中間体を高さ方向から挟み込んだ基本形状のものである。この実施例6においても、直径80mmの球体は、断面形状が真円ではなく、角丸長方形の形状であり、二つの等しい長さの平行線と二つの半径40mmの半円弧からなる形状である。すなわち、直径(D)80mmの真球の球体が、
図2(a)に示す矢印方向に潰された形状である。また、高さ60mmの中間体は、角丸長方形の上面と下面を有するものである。この中間体の、1点鎖線で示す見切り面に沿った断面形状も、角丸長方形の形状である。また、
図9に示す押湯C3は、同図(c)に示すように、側面(
図2に示す矢印方向)から見ても、角丸長方形に見える。以下、
図9に示す押湯C3、すなわち実施例6における押湯C3を縦横長球状(2)の押湯と称する。縦横長球状(2)の押湯C3は、高さ(H)が140mmであり、
図2に示す矢印と直交する幅方向(
図9(c)における左右方向に相当)の長さは120mmであり、
図6に示す縦長球状(3)の押湯C3よりも、1.5倍の幅広である。
【0094】
縦横長球状(2)の押湯C3は、真球状の押湯を、
図2(a)に示す矢印方向に、縦横長球状(1)の押湯C3よりも潰した形状であり、
図2(a)に示す矢印方向と直交する幅方向により拡がり、押湯の体積をさらに増加させている。
【0095】
この縦横長球状(2)の押湯C3の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)を上記表1に示す。
【0096】
また、縦横長球状(2)の押湯C3と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/縦横長球状(2)の押湯C3の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。縦横長球状(2)の押湯C3の球形度は0.955であった。
【0097】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.250×10
−4mm
2であった。
(比較例)
図10は、比較例における鋳物の押湯まわりを示す図である。この
図10でも、
図3と同じく、同図(b)に正面図が示され、同図(a)に平面図が示されている。また、
図10(c)に右側面図が示されている。
【0098】
以下、
図1で説明した構成要素の名称と同じ名称の構成要素には、
図1で使用した符号と同じ符号を付して説明する。また、これまで説明した事項と重複する事項については説明を省略する場合がある。
【0099】
図10に示す押湯C3’は、
図1を用いて説明した8個込めの横込め鋳造によって鋳造される鋳物に設けられた押湯であり、
図2や
図3に示す製品部と同じ製品部C4’に、
図2や
図3に示すネック部と同じネック部C5’を通して溶湯を補給するものである。
【0100】
この
図10に示す押湯C3’は、直径(D)80mm、高さ(H)140mmの円柱を基本形状とするものである。この押湯C3’の高さ(140mm)は、80mmの直径の1.75倍に相当する。以下、
図10に示す押湯C3’、すなわち比較例における押湯C3’を円柱状の押湯と称する。
【0101】
この円柱状の押湯C3’の体積、表面積、モジュラス(押湯の体積/押湯の表面積)も上記表1に示す。
【0102】
また、円柱状の押湯C3’と同じ体積を有する真球の直径(等体積球直径)と、その直径を用いて求めた真球の表面積(等体積球表面積)を求め、さらにその等体積球表面積を用いて、“等体積球表面積/円柱状の押湯C3’の表面積”によって表される球形度を求めた。こられの値も表1に示す。円柱状の押湯C3’の球形度は、0.91を下まわる0.846であった。
【0103】
さらに、単位体積当たりのモジュラスを押湯効率としてみてみると、0.221×10
−4mm
2であった。
【0104】
引け巣欠陥のない健全な鋳物製品を製造するためには、製品部の凝固収縮を補う必要があり、そのためには製品部が凝固終了するまで押湯から溶湯を補給し続ける必要がある。そのためには、押湯の凝固時間を製品部の凝固時間より長くする必要がある。凝固時間tは、下記式(1)のクボリノフの法則からモジュラスMの2乗に比例し、そのモジュラスMは下記式(2)のように表せるため、押湯の能力を評価する指標としてモジュラスMは非常に重要である。
t=C・M
2 式(1)
M=V/S 式(2)
ただし、Cは係数、Vは体積、Sは表面積を表す。
【0105】
しかし、押湯の体積が大きいほどモジュラスMも大きくなり、押湯の能力は高くなるものの、鋳込み重量も大きくなってしまう。このため、鋳造歩留り(製品部重量/鋳込み重量)の面からは好ましくない。そこで、上述のごとく、単位体積当たりの押湯のモジュラスを押湯効率Eとして求めた。すなわち、押湯効率Eは下記式(3)で表される。
E=M/V=S
−1 式(3)
従来の押湯には、高さが直径の1.5〜2倍の円柱状のものが一般的に用いられている。したがって、
図10に示す、高さが直径の1.75倍の円柱状の押湯は、一般的な押湯の代表例に相当する。以下、高さHcが直径Dのα倍の円柱状の押湯について、上記式(1)〜上記式(3)を用いて計算すると以下のようになる。
Hc=αD
Vc=(π/4)×D
2×Hc=(π/4)×αD
3 式(4)
Sc=(π/4)×D
2×2+πD×Hc=π/2×(1+2α)D
2
Mc=Vc/Sc={π/4×αD
3}/{π/2×(2α+1)D
2}=αD/{2(2α+1)} 式(5)
Ec=Sc
−1=2D
−2/{π(2α+1)} 式(6)
ただし、Vcは円柱状の押湯の体積、Scは円柱状の押湯の表面積、Mcは円柱状の押湯のモジュラス、Ecは円柱状の押湯の押湯効率を表す。
【0106】
次に、円柱状の押湯の直径と同じ直径Dの球を半分にした間に円柱体を高さ方向から挟み込んだ縦長球状の押湯(例えば、実施例1〜4の押湯)について検討する。まず、この縦長球状の押湯全体の高さHsは直径Dのβ倍とすると、
Hs=βD
で表される。そして、挟み込まれた円柱体の高さはHs−Dになる。そうすると、縦長球状の押湯の体積Vsと表面積Ssは以下の式で表される。
Vs=(π/6)×D
3+(π/4)×D
2×(Hs−D)=(π/12)×D
3(3β−1) 式(7)
Ss=πD
2+πD(Hs−D)=πβD
2
上記式(2)より縦長球状の押湯のモジュラスMsは、以下の式で表される。
Ms=Vs/Ss={(π/12)×D
3(3β−1)}/{πβD
2}=(D/12β)×(3β−1) 式(8)
また、上記式(3)より縦長球状の押湯の押湯効率Esは、以下の式で表される。
Es=Ss
−1=(πβ)
−1×D
−2 式(9)
続いて、上記円柱状の押湯のモジュラスMcと同等のモジュラスMsを持つ縦長球状の押湯について検討する。
Mc=Msであることから、上記式(5)および上記式(8)を用いて、
αD/{2(2α+1)}=(D/12β)×(3β−1)
が成り立ち、
β=(2α+1)/3 式(10)
が求められる。この式(10)は、直径Dのα倍の高さHcを有する円柱状の押湯と、その円柱状の押湯のモジュラスMcと同等のモジュラスMsを持つ、直径Dのβ倍の高さHsを有する縦長球状の押湯との間で成立する式になる。
縦長球状の押湯の体積Vsは、上記式(7)より、
Vs=(π/12)×D
3(3β−1)
であり、これに上記式(10)を代入すると、
Vs=(π/6)×αD
3
になる。
また、円柱状の押湯の体積Vcは、上記式(4)より、
Vc=(π/4)×αD
3
になる。
これらの結果、
Vs/Vc={(π/6)×αD
3}/{(π/4)×αD
3}=2/3≒0.6667
になり、円柱状の押湯と同じ直径およびモジュラスを持つ縦長球状の体積は、直径や高さにかかわらず、円柱状の押湯より体積が常に約33%小さくなることがわかる。
【0107】
また、押湯効率で比較すると以下のようになる。
円柱状の押湯の押湯効率Ecは、上記式(6)より、
Ec=2D
−2/{π(2α+1)}
で表され、縦長球状の押湯の押湯効率Esは、上記式(9)より、
Es=(πβ)
−1×D
−2
で表され、これに上記式(10)を代入すると、
Es=3D
−2/{π(2α+1)}
になる。
これらの結果、円柱状の押湯に対する縦長球状の押湯の押湯効率比率は、
Es/Ec=[3D
−2/{π(2α+1)}]/[2D
−2/{π(2α+1)}]=3/2=1.5
になり、このことから、縦長球状の押湯は円柱状の押湯の1.5倍の押湯効率を有することがわかる。
【0108】
また、比較例である、高さHcが直径Dの1.75倍になる円柱状の押湯では、
α=1.75
であり、その円柱状の押湯の球形度を計算すると、表1に示したように0.846になる。一方、上記式(10)に、α=1.75を代入すると、
β=(2×1.75+1)/3=1.5
になる。すなわち、直径Dの1.75倍の高さHcを有する円柱状の押湯のモジュラスMcと同等のモジュラスMsを持つ縦長球状の押湯の高さは、直径Dの1.5倍になる。この、直径Dの1.5倍の高さHsを有する縦長球状の押湯は、実施例1の縦長球状(1)の押湯C3になり、球形度を計算すると、表1に示したように0.968になる。
【0109】
したがって、同等のモジュラスを持つ、円柱状の押湯と縦長球状の押湯とでは、縦長球状の押湯の方が、円柱状の押湯より球形度が高いことがわかる。
【0110】
次に、直径に対して高さが1.75倍であった、比較例の円柱状の押湯C3’は、上述のごとく一般的な押湯の代表例に相当する押湯であり、以下、この円柱状の押湯C3’と各実施例を比較してみる。
【0111】
実施例1における押湯(縦長球状(1)の押湯C3)と、円柱状の押湯C3’とを比較すると、モジュラスは同じである。一方、球形度は、実施例1における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高いことがわかる。また、押湯効率をみてみると、実施例1における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.5倍であることがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例1における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.667倍であることがわかる。
【0112】
実施例1の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、モジュラスは同じ、すなわち押湯としての保温性、言い換えれば押湯効果は同等でありながら、押湯効率は1.5倍になる一方、体積は、円柱状の押湯C3’に対して33%削減することができる。
【0113】
実施例2における押湯(縦長球状(2)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.04倍になる。また、球形度は、実施例2における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高い。また、押湯効率をみてみると、実施例2における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.29倍であることがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例2における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.810倍であることがわかる。
【0114】
実施例2の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、モジュラスも高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例2の押湯は、上記式(1)より凝固時間が、円柱状の押湯C3’に対して1.08倍延び、さらに、押湯効率は1.29倍になる一方、体積は、円柱状の押湯C3’に対して19%削減することができる。
【0115】
実施例3における押湯(縦長球状(3)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.08倍になる。また、押湯効率をみてみると、実施例3における押湯C3は、実施例2における押湯C3よりは劣るものの、円柱状の押湯C3’の1.08倍であることがわかる。また、押湯体積をみてみると、実施例3における押湯C3は、円柱状の押湯C3’とほぼ同じ体積である。この実施例3の押湯C3における球形度は0.913であり、実施例2における押湯C3よりも低いものの、円柱状の押湯C3’よりは十分に高い。
【0116】
実施例3の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、体積は、円柱状の押湯C3’と同程度でありながらも、モジュラスが高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例3の押湯は、凝固時間が円柱状の押湯C3’に対して1.17倍延び、さらに、押湯効率も向上している。
【0117】
実施例4における押湯(縦長球状(4)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは同程度である。また、球形度は、実施例4における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも遙かに高い。また、押湯効率をみてみると、実施例4における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.63倍と非常に高いことがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例4における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.614倍であり体積が抑えられていることがわかる。
【0118】
実施例4の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が遙かに高くなり、モジュラスは同程度であっても、押湯効率が1.63倍にもなり、体積も、円柱状の押湯C3’に対して39%も削減することができる。
【0119】
実施例5における押湯(縦横長球状(1)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.07倍になる。また、球形度は、実施例5における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高い。また、押湯効率をみてみると、実施例5における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.28倍であることがわかる。さらに、押湯体積をみてみると、実施例5における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の0.833倍であることがわかる。
【0120】
実施例5の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、モジュラスも高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例5の押湯は、凝固時間が円柱状の押湯C3’に対して1.14倍延び、さらに、押湯効率は1.28倍になる一方、体積は、円柱状の押湯C3’に対して17%削減することができる。
【0121】
実施例6における押湯(縦横長球状(2)の押湯C3)は、円柱状の押湯C3’に対して、モジュラスは、1.13倍であり高い。また、球形度も、実施例6における押湯C3の方が、円柱状の押湯C3’よりも高い。さらに、押湯効率をみてみると、実施例6における押湯C3は、円柱状の押湯C3’の1.13倍であることがわかる。また、押湯体積をみてみると、実施例6における押湯C3は、円柱状の押湯C3’と同じ体積である。
【0122】
実施例6の押湯C3を用いることで、円柱状の押湯C3’に比べ球形度が高くなり、体積は、円柱状の押湯C3’と同じでありながらも、モジュラスが高くなることで押湯としての保温性が向上し、実施例6の押湯は、凝固時間が円柱状の押湯C3’に対して1.28倍延び、さらに、押湯効率も向上している。
【0123】
ここで、或る押湯の体積をV、表面積をSとした場合、モジュラスはV/S=Mで表される。
【0124】
上記或る押湯の体積(V)と同じ体積を有する真球(等体積球)の体積(Va)は、直径をDaとした場合、Va=V=(π/6)Da
3になり、その表面積(Sa)は、Sa=πDa
2になる。この結果、等体積球のモジュラス(Ma)は、Ma=Da/6になる。この結果、等体積球の体積(Va)とモジュラス(Ma)の関係は、Va=V=(π/6)Da
3=(π/6)(6Ma)
3=36πMa
3になり、Ma=(V/36π)
1/3と書き改めることができる。
【0125】
上記或る押湯のモジュラス(M)と同じモジュラス(Mb)を有する真球(等モジュラス球)の体積(Vb)は、直径をDbとした場合、Vb=(π/6)Db
3になり、その表面積(Sb)は、Sb=πDb
2になる。この結果、等モジュラス球のモジュラス(Mb)は、Mb=M=Db/6になる。この結果、等モジュラス球の体積(Vb)とモジュラス(Mb)の関係は、Vb=(π/6)Db
3=(π/6)(6M)
3=36πM
3になり、M=(Vb/36π)
1/3と書き改めることができる。
【0126】
そして、上記或る押湯の球形度(ψ)は、“等体積球の表面積(Sa)/上記或る押湯の表面積(S)”となり、ψ=Sa/(V/M)=(Sa・M)/V=(Sa・M)/(Sa・Ma)=M/Ma=[(Vb/36π)
1/3]/[(V/36π)
1/3]=(Vb/V)
1/3と書き改めることができる。この結果、上記或る押湯の体積(V)と等モジュラス球の体積(Vb)の比率(Vb/V)は、球形度(ψ)を用いて表せば、Vb/V=ψ
3になる。
【0127】
上記或る押湯が、球形度(ψ)が0.91の押湯であった場合、その或る押湯の体積(v)は、V=Vb/ψ
3=1.33Vbで表される。この結果、球形度(ψ)が0.91を下まわる押湯であった場合には、理想的な球形である等モジュラス球の体積(Vb)に対して33%を超えて体積が増加してしまう。1/3を超える体積増加は見過ごすことができず、鋳造歩留りの低下が顕著になってしまう。
【0128】
また、円柱状の押湯C3’と同程度の体積であった実施例3の押湯C3と実施例6の押湯C3うち、実施例3の押湯C3は高さ方向のみに延ばしたものであるのに対して、実施例6の押湯C3は高さ方向の他に幅方向にも延ばしたものである。実施例6の押湯C3では、二方向への延ばしでありながら、延ばした程度が相対的に小さく、一方、実施例3の押湯C3では、一方向への延ばしでありながら、延ばした程度が相対的に大きかったことから球形度に差が生じた。このことから、円柱状の押湯C3’と体積を同程度にすることを前提条件にすれば、押湯を一方向に延ばす場合の限界は、球形度で管理することができ、その限界値は0.91であることがわかる。
【0129】
なお、押湯の基本形状は、縦長球状や縦横長球状といった、球体を分割した球体部分が分散配置された基本形状に限られることはなく、球形度が0.91以上1.00未満になる基本形状であればよい。このことは、押湯形成空間の基本形状についても同様である。
【0130】
各実施例における押湯C3によれば、球形度が0.91以上と高く、押湯の保温性は比較例の円柱状の押湯C3’と同等以上であることがわかる。これによって、製品部C4に対応する好適なモジュラスを有し、かつ球形度が0.91以上と高いことで、小さな体積の押湯で十分な押湯効果を得ることができる。したがって、押湯の基本形状として球形の基本形状を採用することができない状態であっても、鋳造歩留りを低下させることなく押湯効果を発揮することができる。この結果、押湯に必要な溶湯を大幅に削減することができ、溶解のための消費電力および溶湯処理費等を大幅に削減できるようになる。また、CO
2削減にも大きく貢献できる。