【解決手段】ブラケットに、トリムロッドの先端が接触する受け部10が設けられており、受け部は、樹脂又はゴムからなる緩衝部材12と、緩衝部材の面のうちトリムロッドが配置された側の面に設けられる金属からなりトリムロッドの先端が接触する接触部材13と、を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、近年において、推進力を高めるための駆動力の上昇によって、トリムロッドとこれを受ける受け部との接触部分にこれまで以上に負荷がかかる傾向にあり、接触部分における強度や摩耗、及び接触時の音の発生の問題が顕著になってきた。
【0007】
そこで、本開示では、トリムロッドの先端と受け部との接触部分の強度及び耐摩耗性を有しつつ接触時の音を長期間に亘って抑制できる船外機昇降装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本開示について説明する。ここでは分かり易さのため、図面に付した参照符号を括弧書きで併せて記載する。
【0009】
本開示の1つの態様は、船体(9)に回動可能に設けられ、推進器(2)に固定されるブラケット(5)と、推進器及びブラケットを回動させるチルトロッド(4a)及びトリムロッド(4b)を備えるロッドユニット(4)と、を有し、ブラケットには、トリムロッドの先端を受ける受け部(10、10a、10b、10c、10d)が設けられており、受け部は、樹脂又はゴムからなる緩衝部材(12)と、緩衝部材の面のうちトリムロッドが配置された側の面に設けられる金属からなりトリムロッドの先端が接触する接触部材(13)と、を備える、船外機昇降装置(3)である。
【0010】
接触部材(13)のうち緩衝部材(12)に対向する面には突起(13b)が設けられており、緩衝部材は、接触部材に対向する面に、突起を収容するように凹んだ凹部、又は、突起を収容する穴を有していてもよい。
【0011】
緩衝部材(12)の面のうち接触部材(13)が配置された側の面とは反対側の面に保持部材(11)が具備されてもよい。
【0012】
保持部材(11)は1つの壁部が開口した箱状であり、箱状である内側に緩衝部材(12)が配置されてもよい。
【0013】
保持部材(11)の面のうち、緩衝部材(12)が配置される側の面とは反対側の面には柱状の雄ねじ(11c)が設けられてもよい。
【0014】
接触部材(13)の面のうち、トリムロッド(4b)が接触する側の面が凹状の曲面とされてもよい。
【0015】
本開示の他の態様は、上記の船外機昇降装置(3)と、船外機昇降装置のブラケット(5)に取り付けられた推進器(2)と、を備える、船外機(1)である。
【発明の効果】
【0016】
本開示発明によれば、トリムロッドの先端と受け部との接触部分の強度及び耐摩耗性を有しつつ接触時の音を長期間に亘って抑制できる船外機昇降装置等を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ各種の形態例を説明する。
【0019】
図9、
図10に船外機1の概要を説明する図を示した。これら図からわかるように、船外機1は推進器2及び船外機昇降装置3を備えている。
【0020】
推進器2は船体9(
図9、
図10には船体9のうち船尾の一部が表れている。)に推進力を付与する機器であり、筐体2aの内外に必要な機器が配置されている。例えば筐体2aの内側の上部には内燃機関(エンジン)等のような駆動源が配置され、筐体2aの外側の下部にはプロペラ2bが配置されている。このプロペラ2bの回転により船体9は推進力を得る。そのために推進器2の筐体2aの内側には駆動源からプロペラ2bに適切な回転力を伝達する軸や各種ギアも収められている。
【0021】
船外機昇降装置3は、推進器2の姿勢を変更するための装置であり、この船外機昇降装置3によって推進器2の上部側を中心にして推進器2を回転させ、推進器2の下部側を昇降することができるように構成されている。
このような推進器2の回動による昇降は、その昇降の程度(回転角度)の違いによってチルト及びトリムという2種類に区別される。チルトはプロペラ2bが水面よりも上にまで達するように回動させる昇降である。これに対してトリムはプロペラ2bを水中に留めつつ推進器2の角度を変更する回転による昇降である。
【0022】
このようなチルト及びトリムをさせるため船外機昇降装置3は、ロッドユニット4及びブラケット5を備えている。
ロッドユニット4は船体9の船尾に配置されており、少なくとも2種類のロッドが具備されている。1つがチルトのための棒状部材であるチルトロッド4a、他がトリムのための棒状部材であるトリムロッド4bである。
チルトロッド4aは船外機1を船体9の船尾に設置した姿勢で上下方向に移動する。これに対してトリムロッド4bは船外機1を船体9に設置した姿勢で船体9から離隔する方向の斜め上方に進行し、及びその逆方向に後退するように移動する。通常、トリムロッド4bはチルトロッド4aを挟んで水平方向にその一方側とその反対側との2か所に設置されている。
【0023】
ブラケット5は、チルトロッド4a及びトリムロッド4bからの押圧力を推進器2に伝達して推進器2を所望の角度に回転させて昇降させる部材である。
ブラケット5は、所望の回動を得るためのリンク機構を構成するための部材である構造体からなる本体5aを具備している。この本体5aが推進器2のうちの船尾側の面に取り付けられるとともに、その一端が船尾に回転可能に取り付けられている(船体軸着部5b)。また、本体5aには、船体軸着部5bとは離れた位置にチルトロッド4aの先端が回転可能に取り付けられている(チルトロッド軸着部5c)。これにより、
図10の上側の図に示したように、チルトロッド4aを上昇させるとチルトロッド軸着部5cが上昇し、船体軸着部5bを中心に本体5a及び本体5aに取り付けられた推進器2が回転してチルトが行われる。
【0024】
一方、ブラケット5とトリムロッド4bとは固定されておらず、推進器2の姿勢によりトリムロッド4bの先端がブラケット5の本体5aに接触したり離隔したりできるように構成されている。そのため、ブラケット5の本体5aには、トリムロッド4bの先端が接触する部位である受け部10が設けられている。通常この受け部10はチルトロッド軸着部5cよりも下方に配置されている。
図10の下側の図に示したように、トリムロッド4bの先端が受け部10に接触した姿勢でトリムロッド4bの先端を船尾から遠ざけるように移動させると、トリムロッド4bの移動に追随して船体軸着部5bを中心に本体5a及び本体5aに取り付けられた推進器2が回転してトリムが行われる。
【0025】
船外機及びここに備えられる船外機昇降装置の基本的な構造は上記の通りであり、以下に説明する各形態において共通である。以下では、各形態で共通する部位以外の構成について図示しつつ説明をする。そして説明の際に重複する構成については
図9及び
図10を参照するとともにここで用いた符号を利用することがある。
【0026】
図1は第1形態の船外機昇降装置に備えられる受け部10を説明する図であり、船外機昇降装置3に具備されるブラケット5のうち、受け部10を拡大して表した図である。
図1は受け部10の断面、
図2は受け部10を
図1の矢印Aの方向から見た図である。
これら図からわかるように、受け部10は、保持部材11、緩衝部材12、及び、接触部材13を具備している。各部材は次の通りである。
【0027】
保持部材11は、緩衝部材12及び接触部材13をブラケット5の本体5aに保持する部材である。
図1及び
図2からわかるように、本形態の船外機昇降装置3の保持部材11は、1つの壁部が開口した箱状である。そして、その底壁11aが本体5aに接触して該本体5aに固定されている。そしてこの底壁11aの縁から側壁11bが環状に立設している。
保持部材11の平面視形状(
図2の視点からの形状)は特に限定されることはなく、本形態のように四角形である他、円形、楕円形、三角形、多角形、及び、その他任意の幾何学形状とすることができる。
【0028】
保持部材11を構成する材料は特に限定されることはないが、強度の観点から金属を用いることができ、具体的にはステンレス鋼を始めとする各種鋼材、銅及び銅合金、並びにチタン等を挙げることができる。
【0029】
保持部材11の本体5aへの固定手段は特に限定されることはなく、公知の手段を用いることができる。例えば
図3に表したように、保持部材11の底壁11aのうち、緩衝部材12が配置される側とは反対側の面から突出するように雄ねじ部11cを設け、不図示のナットを用いて、本体5aを底壁11aと当該ナットとで挟んで固定してもよい。その他、接着剤により保持部材11を本体5aへ固定することもできる。
【0030】
緩衝部材12は、保持部材11の箱状である内側に配置され、受けた衝撃や振動を減衰し、隣接した部材にこれら衝撃や振動を伝達し難い材料からなる部材である。従ってその材料は弾性率が小さい部材により構成することができ、例えばゴムや樹脂が挙げられる。
ゴムである場合には、耐摩耗性や機械特性等の観点からニトリルゴム、ウレタンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴムを挙げることができる。または、硬さの観点でいえば、JIS K 6253におけるデュロメータ タイプAによる測定方法でA40以上A80以下のものを適用することができる。
一方、樹脂である場合には、各種汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックを適用することができる。
【0031】
本形態では、緩衝部材12にはその中央に穴12aが設けられている。この穴12aは保持部材11の底壁11a側からその反対側(接触部材13側)に貫通する穴であり、ここに、後述する接触部材13の規制突起13bが収容される。
【0032】
本形態では上記のように穴12aが設けられたが、この形態に限定されない。第2形態の船外機昇降装置に備えられる受け部10aを
図4に示す。
図4において、受け部10と同様の構成には、
図1乃至
図3で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図4に示した受け部10aのように、緩衝部材12に、保持部材11の底壁11a側からその反対側(接触部材13側)に貫通しない凹部12bが設けられ、ここに後述する接触部材13の規制突起13bが収容される形態であっても良い。
【0033】
また、緩衝部材12は、箱状である保持部材11の内側を全て埋めるとともに、保持部材11の開口から保持部材11の外側に突出する大きさにすることができる。このように緩衝部材12を保持部材11から突出させることによって、後述するようにトリム操作時における異音の発生の抑制がさらに効果的に行われる。
【0034】
接触部材13は、緩衝部材12の面のうち、保持部材11の底壁11aに接する側の面とは反対側の面に固定され、トリムロッド4bの先端が直接接触してこれを受ける部材である。
接触部材13は、強度及び耐摩耗性の観点から金属により構成されている。具体的に適用される金属は特に限定されることはないが、ステンレス鋼を始めとする各種鋼材、銅及び銅合金、並びにチタン等を挙げることができる。
特許文献1に開示されているように、トリムロッドを受ける面(トリムロッドに接触する面)に合成樹脂を配置することにより、金属(トリムロッド)と樹脂とを接触させるように構成すると、摺動するトリムロッドを受ける部位に配置された樹脂が剥がれたり、この樹脂に穴があいたりする虞がある。樹脂が剥がれたり樹脂に穴があいたりすると、異音が大きくなるため、特許文献1に開示されている技術には、異音の発生を長期間に亘って抑制することが難しい、という問題があった。
一方、特許文献2に開示されているように、金属製のエンドブロックを首振り自在に設けると、ボール状に構成されるトリムピストンロッドの先端部に応力が集中しやすく、この先端部が破損しやすいので、異音の発生を抑制する効果を長期間に亘って維持し難い。また、特許文献2においても、金属製のエンドブロックと樹脂製のトリムパッドとを接触させる。そのため、樹脂が剥がれたり樹脂に穴があいたりする虞があり、その結果、異音の発生を長期間に亘って抑制することが難しい、という問題があった。
これに対し、本形態では、トリムロッド4bの先端を受ける接触部材13を金属で構成する。これにより、異音の発生を長期間に亘って抑制することが可能になる。
【0035】
接触部材13は、受け片13a及び規制突起13bを備えている。
受け片13aは緩衝部材12の面を覆うように配置され、トリムロッド4bに直接接触する板状の片である。
規制突起13bは受け片13aの面から立設された柱状の突起であり、緩衝部材12の穴12aや凹部12b(凹部12bについては
図4参照。以下において同じ。)に収容されている。
【0036】
接触部材13の緩衝部材12への固定方法は特に限定されることはないが、例えば接着剤を用いることが挙げられる。
【0037】
以上のように構成された受け部10を備える船外機昇降装置3及びこれを具備する船外機1は例えば次のように作用する。
図10の上側に示したように、チルトロッド4aが上方に移動され、プロペラ2bが水面より上となる姿勢(いわゆるチルトアップの姿勢)から、
図9に示したようにチルトロッド4bが下方に移動され、プロペラ2bが水中にあり、トリムロッド4bの先端が受け部10に接触する姿勢(いわゆるチルトダウンの姿勢)に変更したとき、
図5の上側に表した状態から
図5の下側に表した状態となり、トリムロッド4bの先端が受け部10に具備された接触部材13の受け片13aの面に所定の衝突力を有して接触する。
これに対して受け部10によれば、当該衝突を緩衝部材12により吸収して衝突音を低減することができる。そして受け部10によれば、受け片13aが板状の金属からなるので、トリムロッド4bの先端からの集中した衝突力を広い面に分散するようにして衝撃部材12に伝達する。これにより、衝突音の低減をより効果的に行うことができ、このような衝突の繰り返しに対しても耐久性(強度及び耐摩耗性)が高いものとなる。
また、緩衝部材12に穴12aを設けた場合には、この穴12aによる空間が、トリムロッド4bの衝突の際における緩衝部材12の変形に起因した寸法変化を吸収して衝突力の吸収に寄与するともできる。
【0038】
一方、
図9に示した姿勢でプロペラ2bを回転させて推進力が付与された状態において、
図9の姿勢から
図10の下側の姿勢に変更する、いわゆるトリム操作を行う場合、トリムロッド4bは推進力に抗して受け部10を押圧するとともに、トリムロッド4bと受け片13aとの接触角に変化が生じるため、
図6に矢印Bで示したようにトリムロッド4bの先端が受け片13aの面上を滑るように移動し、このとき異音が発生することがある。これは受け片13aの面上をトリムロッド4bの先端が滑る際に、滑り速度に所定の繰り返し変化(摩擦面への付着と滑りの繰り返し、「スティックスリップ」や「びびり振動」と呼ばれることもある。)が発生して異音になると考えられる。
これに対して受け部10によれば、このような現象が発生しないように緩衝部材12が振動を吸収して当該異音の発生を抑制することが可能となる。
【0039】
ここで、緩衝部材12に穴12aや凹部12bが設けられ、ここに接触部材13の規制突起13bが収容された形態としたときには、矢印Bの方向への力に対して、矢印Cで示した方向への緩衝部材12の変形の追随性を高めることができ、異音発生の抑制の効果を高めることができる。
同様に、緩衝部材12が保持部材11から突出した部位(
図6にDで示した部位)を設けることでも矢印Bの方向への力に対して、矢印Cで示した方向への緩衝部材12の変形の追随性を高めることができ、異音発生の抑制の効果を高めることができる。
【0040】
また、トリム操作では推進力に抗してトリムロッド4bで受け片13aを押圧することになるため、
図6に矢印Eで示した方向に力が働く。これにより緩衝部材12が変形して接触部材13が矢印Eの方向に移動することになる。これに対して規制突起13bを設ける形態では、当該規制部材13bが保持部材11の底壁11aに接触した位置以上に移動することが規制される。これにより緩衝部材12の過剰な変形を防止することができる。
【0041】
第3形態の船外機昇降装置に備えられる受け部10b及び第4形態の船外機昇降装置に備えられる受け部10cを
図7に、第5形態の船外機昇降装置に備えられる受け部10dを
図8に、それぞれ示す。
図7及び
図8において、受け部10と同様の構成には、
図1乃至
図3で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図7及び
図8は、
図1と同じ視点による図である。これらの図に示した受け部10b、10c、10dを適用しても、チルト時及びトリム時における上記説明した異音の発生を抑制しつつ、トリムロッドの先端と受け部との接触部分の強度及び耐摩耗性を高いものとすることができる。
【0042】
図7の上側に示した受け部10bは、保持部材11が具備されていない。受け部10bは、緩衝部材12が直接ブラケット5の本体5aに固定される。
【0043】
図7の下側に示した受け部10cは、接触部材13が受け片13aのみにより構成されており、規制突起13bが具備されていないとともに、受け片13aが緩衝部材12よりも大きく形成されている。従って、受け部10cは受け片13aが緩衝部材12に対して突出している。これにより
図6の矢印Eと同じように
図7に矢印Eで示した方向への変形に際し、受け片13aの突出部が保持部材11に引っ掛かり、これ以上の変形が防止され、規制突起13bと同様に機能して緩衝部材12の過剰な変形を防止することができる。
なお、この例では緩衝部材12の穴12aや凹部12bは必ずしも設けることを要しない。
【0044】
図8に示した受け部10dは、受け片13aの面のうち、トリムロッド4bが接触する面が曲面とされている。具体的には、受け片13aの中央部分で深く、外周部に向けて浅くなるように凹状の曲面となっている。これによりトリム操作の際にトリムロッド4bと受け片13aの面との接触角の変化に対して、力の方向を一定に保つ方向に作用するので、より円滑な滑りとなり、スティックスリップによる異音の発生をさらに抑制することができる。
【0045】
本開示の上記各形態はそのままに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態とすることができる。各形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。