【解決手段】本発明に従うアノードは、金属の電解精製に用いられる。このアノードは、アノード本体部と、吊下げ部とを備える。アノード本体部は、電解精製時に電解槽内の電解液に浸かる。吊下げ部は、電解精製時に、電解液に浸からずに、給電部に電気的に接続された電解槽の上方に位置するブスバーに第1及び第2フックを介して吊り下げられる。吊下げ部は、基部と、第1及び第2引掛け部とを含む。基部は、幅方向の長さがアノード本体部よりも短く、アノード本体部の上端の中央部から上方に延びる。第1引掛け部は、基部から幅方向における第1方向に延び、第1フックが引っ掛けられる。第2引掛け部は、基部から第1方向とは異なる第2方向に延び、第2フックが引っ掛けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているアノードにおいては、フックを引っ掛けるための孔が耳部に形成されている。しかしながら、耳部に孔を形成することは必ずしも容易ではない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、フックを引っ掛けるための孔を有していなくても、電解槽の上方に位置するブスバーに吊下げ可能なアノードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従うアノードは、金属の電解精製に用いられる。このアノードは、アノード本体部と、吊下げ部とを備える。アノード本体部は、電解精製時に電解槽内の電解液に浸かる。吊下げ部は、電解精製時に、電解液に浸からずに、給電部に電気的に接続された電解槽の上方に位置するブスバーに第1及び第2フックを介して吊り下げられる。吊下げ部は、基部と、第1及び第2引掛け部とを含む。基部は、幅方向の長さがアノード本体部よりも短く、アノード本体部の上端の中央部から上方に延びる。第1引掛け部は、基部から幅方向における第1方向に延び、第1フックが引っ掛けられる。第2引掛け部は、基部から第1方向とは異なる第2方向に延び、第2フックが引っ掛けられる。
【0007】
このアノードにおいて、吊下げ部は、各々が幅方向に延びた第1及び第2引掛け部を含む。第1及び第2引掛け部には、第1及び第2フックの一端がそれぞれ引っ掛けられる。第1及び第2フックの各々の他端は、電解槽の上方に位置するブスバーに引っ掛けられる。したがって、このアノードによれば、アノードが孔を有していなくても、第1及び第2フックを介してアノードをブスバーに吊り下げることができる。
【0008】
また、電解液の液面位置におけるアノードの太さが細い程、電解精製が進むにつれて、当該液面位置においてアノードが折れる可能性が高くなる。本発明に従うアノードにおいて、第1及び第2引掛け部は、共通の基部を介してアノード本体部から延びている。すなわち、第1及び第2引掛け部の各々よりも太い基部が電解液の液面位置に位置する。したがって、このアノードによれば、第1及び第2引掛け部の各々が単独で電解液の液面位置に位置する場合よりも、アノードが電解精製途中で折れる可能性を低減することができる。
【0009】
また、フックとアノードとの接点において大電流が生じると、アノードが発熱する。アノードの発熱に起因してアノードの電気抵抗値が上昇すると、アノードに電流が流れにくくなる。その結果、電解精製の効率が低下する。本発明に従うアノードにおいて、吊下げ部は、第1及び第2引掛け部を含む。すなわち、給電部から流れる電流は第1及び第2引掛け部の各々に分岐するため、フックとアノードとが1点で接している場合と比較して、各引掛け部に流れる電流の大きさは小さくなる。したがって、このアノードによれば、フックとアノードとの接点において流れる電流の大きさを抑制することができるため、電解精製の効率低下を抑制することができる。
【0010】
上記アノードにおいて、アノード本体部の上端のうち基部が形成されていない領域には、テーパが形成されていてもよい。
【0011】
このアノードによれば、鋳造時に鋳型内において材料がテーパに沿って流れるため、アノードを容易に製造することができる。また、テーパが形成されているため、電解液の液面の位置が多少低かったとしても、テーパが形成されていない場合と比較して、液面上に露出するアノードの体積を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フックを引っ掛けるための孔を有していなくても、電解槽の上方に位置するブスバーに吊下げ可能なアノードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
[1.概要]
図1は、本実施の形態に従うアノード100が適用された電解装置10の概略を示す図である。電解装置10は、銀(Ag)の電解精製を行なうための装置である。なお、
図1は電解装置10を矢印F方向から見た図であり、矢印UDLRFBの各々は各図面で共通である。
【0016】
図1に示されるように、電解装置10は、電解槽300と、電解液500と、アノード(陽極)100と、カソード(陰極)200と、給電部400とを含んでいる。電解槽300としては、任意の構造の電解槽を使用することができる。電解槽300には、電解液500が充填されている。電解液500としては、一般的に銀の電解精製に用いられる公知の電解液を用いることができる。電解液500としては、たとえば、硝酸、硫酸等の酸系電解液が用いられる。
【0017】
アノード100は、電解精製時に一部が電解液500に浸けられる。アノード100は、銀を含む。アノード100は、たとえば銀以外の金属をさらに含んでもよい。また、アノード100は、用途によっては、さらに非金属(セラミック、ガラス等)を含んでもよい。なお、アノード100における、銀、銀以外の金属及び非金属の割合は、特に限定されない。
【0018】
カソード200は、電解精製時に一部が電解液500に浸けられる。カソード200は、たとえば、ステンレス又はチタンによって構成される。すなわち、カソード200は、電解液500によって腐食しにくい電極材料によって構成されていればよい。
【0019】
給電部400は、直流電源であり、アノード100及びカソード200間に直流電圧を印加するように構成されている。給電部400によってアノード100及びカソード200間に電圧が印加されると、アノード100及びカソード200間に電流が生じ、電解精製が進行する。
【0020】
このような電解装置10において、アノード100のうち電解液500に浸かっていない部分は、電解精製にほとんど寄与しない。すなわち、アノード100のうち電解液500に浸かっている部分の体積が大きい程、電解精製の効率は高くなる。
【0021】
本実施の形態に従うアノード100においては、電解液500に浸かる部分の体積が大きくなるような構成上の工夫が採り入れられている。以下、アノード100の構成について詳細に説明する。
【0022】
[2.アノードの構成]
図2は、電解装置10におけるアノード100の位置関係の詳細を示す図である。
図3は、アノード100の平面図である。
図2及び
図3を参照して、アノード100は、板状であり、アノード本体部110と、吊下げ部115とを含んでいる。
【0023】
アノード本体部110は、電解精製時に電解槽300内の電解液500(以下、単に「電解液500」とも称する。)に少なくとも一部が浸かるように構成されている。アノード本体部110は、六角形状である。より詳細には、アノード本体部110の下方は矩形状であり、アノード本体部110の上方は等脚台形状である。アノード本体部110の上端からは、吊下げ部115が上方(矢印U方向)に向かって延びている。アノード本体部110の上端のうち、吊下げ部115が形成されていない領域には、アノード100の幅方向(矢印BF方向)外側に向かって下方(矢印D方向)に向かうテーパが形成されている。アノード100によれば、鋳造時に鋳型内において材料がテーパに沿って流れるため、アノード100を容易に製造することができる。また、テーパが形成されているため、電解液500の液面の位置が多少低かったとしても、テーパが形成されていない場合と比較して、液面上に露出するアノード100の体積を抑制することができる。
【0024】
吊下げ部115は、電解精製時に電解液500に少なくとも一部が浸からないように構成されている。吊下げ部115は、電解槽300の上方に位置するブスバー600にフック700,710を介して吊り下げられるように構成されている。吊下げ部115は、上方に向かって二股に分かれた碇形状であり、基部120と、引掛け部130,140とを含んでいる。
【0025】
基部120は、電解精製時に電解液500に少なくとも一部が浸からないように構成されており、アノード本体部110の上端の中央部から上方に延びている。アノード100の幅方向における基部120の長さは、アノード本体部110よりも短い。
【0026】
引掛け部130,140は、基部120からそれぞれ左右方向(矢印BF方向)に延びている。すなわち、引掛け部130,140は、基部120から互いに異なる方向に延びている。引掛け部130,140は、それぞれフック700,710の一端に引っ掛けられる。フック700,710の他端は、ブスバー600に引っ掛けられる。すなわち、電解装置10において、アノード100は、フック700,710を介してブスバー600に吊り下げられる。給電部400(
図1)によって電圧が印加されると、ブスバー600及びフック700,710を介してアノード100に電力が供給される。
【0027】
このように、アノード100は、i)フック700,710を介してブスバー600に吊り下げられ、ii)吊下げはアノード100の幅方向に延びる引掛け部130,140を介して行なわれ、iii)吊下げに用いられるフックの数は2本であり、iv)引掛け部130,140の各々が共通の基部120から延びている、という特徴を有している。アノード100がこれらの特徴を有している理由について次に説明する。
【0028】
図4は、電解装置10Xにおける、第1の比較対象のアノード100Xの位置関係を示す図である。
図4に示されるように、電解装置10Xにおいては、アノード100Xの引掛け部130X,140Xが電解槽300の縁に直接引っ掛けられている。電解液500が電解槽300から溢れ出ると問題であるため、電解槽300には電解液500が必ずしも満タンまで入れられるわけではない。したがって、第1の比較対象のように引掛け部130X,140Xを電解槽300の縁に直接引っ掛ける場合には、アノード100Xのうち電解液500に浸からない部分の体積が大きくなる。
【0029】
再び
図2を参照して、本実施の形態に従うアノード100は、フック700,710を介してブスバー600に吊り下げられ、電解液500内のより深い位置まで浸けられるため、上記第1の比較対象と比較して、電解液500に浸からない部分の体積を小さくすることができる。
【0030】
図5は、電解装置10Yにおける、第2の比較対象のアノード100Yの位置関係を示す図である。
図5に示されるように、アノード100Yは引掛け部130Yを含み、引掛け部130Yには孔H1が形成されている。アノード100Yは、孔H1に引っ掛けられたフック700を介してブスバー600に吊り下げられている。しかしながら、引掛け部130Yに孔H1を形成することは必ずしも容易ではない。たとえば、アノード100Yを鋳造によって製造する場合には、引掛け部130Yに孔H1を形成することが困難である。
【0031】
再び
図2を参照して、本実施の形態に従うアノード100は、アノード100の幅方向に延びる引掛け部130,140(
図3)にそれぞれ引っ掛けられたフック700,710を介してブスバー600に吊り下げられる。引掛け部130,140は、鋳造であっても比較的容易に形成することができる。
【0032】
再び
図5を参照して、アノード100Yは、1本のフック700を介してブスバー600に吊り下げられている。この場合には、アノードが複数のフックを介してブスバー600に吊り下げられている場合と比較して、1本のフック700に大電流が流れる可能性がある。フック700とアノード100Yとの接点において大電流が生じると、アノード100Yが発熱する。アノード100Yが発熱するとアノード100Yの電気抵抗値が上昇するため、アノード100Yに電流が流れにくくなる。その結果、電解精製の効率が低下する。
【0033】
再び
図2を参照して、本実施の形態に従うアノード100は、2本のフック(フック700,710)を介してブスバー600に吊り下げられている。すなわち、給電部400から流れる電流は引掛け部130,140の各々に分岐するため、フックとアノードとが1点で接している場合と比較して、引掛け部130,140の各々に流れる電流の大きさは小さくなる。したがって、このアノード100によれば、引掛け部130,140に流れる電流に起因したアノード100の発熱が抑制され、アノード100における電気抵抗値の上昇が抑制されるため、電解精製の効率低下を抑制することができる。
【0034】
図6は、電解装置10Zにおける、第3の比較対象のアノード100Zの位置関係を示す図である。
図6に示されるように、アノード100Zは、引掛け部130Z,140Zを含む。引掛け部130Zはアノード100Zの幅方向の一方の端部の上端から上方に延びており、引掛け部140Zはアノード100Zの幅方向の他方の端部の上端から上方に延びている。すなわち、引掛け部130Z,140Zは、本実施の形態に従うアノード100における引掛け部130,140(
図3)のように共通の基部120から延びていない。その結果、本実施の形態に従うアノード100と比較して、電解液500の液面位置におけるアノード100Zの太さ(領域T2,T3の太さ)が細い。電解液500の液面位置におけるアノード100Zの太さが細い程、電解精製が進むにつれて、当該液面位置においてアノード100Zが折れる可能性が高くなる。
【0035】
再び
図2を参照して、本実施の形態に従うアノード100において、引掛け部130,140(
図3)は、共通の基部120を介してアノード本体部110から延びている。すなわち、引掛け部130,140の各々よりも太い基部120(領域T1)が電解液500の液面位置に位置する。したがって、このアノード100によれば、引掛け部130,140の各々が単独で電解液500の液面位置に位置する場合よりも、アノード100が電解精製途中で折れる可能性を低減することができる。
【0036】
[3.特徴]
以上のように、本実施の形態に従うアノード100において、吊下げ部115は、各々が幅方向に延びた引掛け部130,140を含む。引掛け部130,140には、フック700,710の一端がそれぞれ引っ掛けられる。フック700,710の各々の他端は、電解槽300の上方に位置するブスバー600に引っ掛けられる。したがって、このアノード100によれば、アノード100が孔を有していなくても、フック700,710を介してアノード100をブスバー600に吊り下げることができ、その結果、アノード100のうち電解液500に浸からない部分の体積を減らすことができる。
【0037】
また、本実施の形態に従うアノード100は、2本のフック(フック700,710)を介してブスバー600に吊り下げられている。すなわち、給電部400から流れる電流は引掛け部130,140の各々に分岐するため、フックとアノードとが1点で接している場合と比較して、引掛け部130,140の各々に流れる電流の大きさは小さくなる。したがって、このアノード100によれば、フックとアノードとの接点において流れる電流の大きさを抑制することができ、アノード100における発熱を抑制できるため、電解精製の効率低下を抑制することができる。
【0038】
また、本実施の形態に従うアノード100において、引掛け部130,140(
図3)は、共通の基部120を介してアノード本体部110から延びている。すなわち、引掛け部130,140の各々よりも太い基部120が電解液500の液面位置に位置する。したがって、このアノード100によれば、引掛け部130,140の各々が単独で電解液500の液面位置に位置する場合よりも、アノード100が電解精製途中で折れる可能性を低減することができる。
【0039】
[4.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。但し、以下の変形例は適宜組合せ可能である。
【0040】
(4−1)
上記実施の形態において、引掛け部130,140の各々の下面は、アノード100の幅方向の外側に向かってやや下方に向かう平面であった。しかしながら、引掛け部130,140の各々の下面の形状はこれに限定されない。たとえば、以下の
図7、
図8に示されるような形状であってもよい。
【0041】
図7は、第1の変形例におけるアノード100Aの平面図である。
図7に示されるように、アノード100Aは、引掛け部130A,140Aを含む。各引掛け部の下面は、引掛け部130A,140Aのように、曲面であってもよい。
【0042】
図8は、第2の変形例におけるアノード100Bの平面図である。
図8に示されるように、アノード100Bは、引掛け部130B,140Bを含む。各引掛け部の下面は、たとえば、引掛け部130B,140Bのように、アノードの幅方向の外側に向かって水平に延びる平面であってもよい。要するに、引掛け部130,140の形状は、基部120から互いに異なる方向に延びており、フック700,710をそれぞれ引っ掛け可能な形状であればよい。
【0043】
(4−2)
また、上記実施の形態において、アノード本体部110の平面視における形状は、六角形状とされた。しかしながら、アノード本体部110の形状は、これに限定されない。たとえば、アノード本体部110の形状は、四角形状であっても、五角形状であっても、円形状であってもよい。要するに、アノード本体部110の形状は、どのような形状であってもよい。
【0044】
(4−3)
また、上記実施の形態において、アノード100は、2本のフック(フック700,710)を介してブスバー600に吊り下げられた。しかしながら、アノード100の吊下げに用いられるフックの本数はこれに限定されない。たとえば、アノード100は、3本以上のフックによってブスバー600に吊り下げられてもよい。この場合には、フックの数に対応した数の引掛け部が基部120から延びることとなる。
【0045】
(4−4)
また、上記実施の形態において、電解装置10は、銀の電解精製に用いられた。しかしながら、電解装置10の用途は、必ずしもこれに限定されない。たとえば、電解装置10は、銅、金、白金、鉛、錫、ニッケル等の電解精製に用いられてもよい。この場合には、アノード100の材料として、適宜適切な材料が選択される。