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特開2020-125964状態量推定装置、制御装置、および状態量推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-125964(P2020-125964A)
(43)【公開日】2020年8月20日
(54)【発明の名称】状態量推定装置、制御装置、および状態量推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01G 19/03 20060101AFI20200727BHJP
   G01G 23/01 20060101ALI20200727BHJP
【FI】
   G01G19/03
   G01G23/01 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-18171(P2019-18171)
(22)【出願日】2019年2月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】グプタ シュブハム
(57)【要約】
【課題】車重の推定に利用可能であり、かつ推定の精度および速度を高めることが可能な、車両の状態量を推定する技術を実現する。
【解決手段】状態量推定装置は、データ格納部(101)、予測量演算部(102)、取得部(107)、カルマンゲイン演算部(103)、推定状態量および推定共分散を算出する推定量演算部(104)、推定状態量から車重を抽出し、当該車重を時間微分した重量微分値を演算する車重抽出部(105)、および、重量微分値を用いてプロセスノイズ共分散を修正するプロセスノイズ共分散修正部(106)を備える。算出または修正された推定状態量、推定共分散およびプロセスノイズ共分散は、それぞれ、状態量、状態共分散およびプロセスノイズ共分散としてデータ格納部(101)に書き込まれ、次回の状態量推定のための演算に用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に作用する状態量、前記状態量の共分散である状態共分散、および、演算ノイズの共分散であるプロセスノイズ共分散、を格納するデータ格納部と、
前記状態量から予測状態量を演算し、前記状態共分散および前記プロセスノイズ共分散から前記予測状態量の共分散である予測共分散を演算する予測量演算部と、
車両のセンサ値を取得する取得部と、
前記センサ値および前記予測共分散を用いてカルマンゲインを演算するカルマンゲイン演算部と、
前記カルマンゲイン、前記予測状態量および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定状態量を演算し、前記カルマンゲイン、前記予測共分散および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定共分散を演算する推定量演算部と、
前記推定状態量から前記車両の重量成分を抽出し、前記重量成分を時間微分した重量微分値を演算する重量成分抽出部と、
前記重量微分値を用いて前記プロセスノイズ共分散を修正するプロセスノイズ共分散修正部と、を備え、
前記推定状態量が前記状態量として、前記推定共分散が前記状態共分散として、修正された前記プロセスノイズ共分散が前記プロセスノイズ共分散として、前記データ格納部に書き込まれる、状態量推定装置。
【請求項2】
前記重量成分抽出部は、抽出した前記重量成分を前記車両の現在の重量として外部に出力する、請求項1に記載の状態量推定装置。
【請求項3】
前記重量成分抽出部は、前記重量成分の平均をさらに演算する、請求項2に記載の状態量推定装置。
【請求項4】
前記重量成分抽出部は、
初期状態をオフとする安定フラグと、
前記推定状態量の演算回数、前記重量微分値、および、前記安定フラグのオンオフ、からなる群から選ばれる一以上を表す情報に応じて前記重量成分を決定する重量決定部と、
を含み、
前記重量決定部は、
前記推定状態量の演算回数が所定回数以下の場合には、最新の抽出した前記重量成分を抽出した前記重量成分と決定し、
前記推定状態量の演算回数が前記所定回数を超え、かつ、前記重量微分値が所定の閾値未満の場合には、前記平均を抽出した前記重量成分と決定して前記安定フラグをオンにし、
前記推定状態量の演算回数が前記所定回数を超え、前記重量微分値が所定の閾値以上であり、かつ、前記安定フラグがオンである場合には、前回以前の前記安定フラグをオンにしたときに抽出した前記重量成分を抽出した前記重量成分と決定し、
前記推定状態量の演算回数が前記所定回数を超え、前記重量微分値が所定の閾値以上であり、かつ、前記安定フラグがオフの場合には、最新の抽出した前記重量成分を抽出した前記重量成分と決定し、
前記重量成分抽出部は、前記重量決定部が決定した前記重量成分を前記車両の現在の重量として外部に出力する、請求項3に記載の状態量推定装置。
【請求項5】
懸架装置を有する車両に作用する状態量を推定して、前記懸架装置の減衰力を前記状態量に応じて制御する制御装置であって、
車両に作用する状態量、前記状態量の共分散である状態共分散、および、演算ノイズの共分散であるプロセスノイズ共分散、を格納するデータ格納部と、
前記状態量から予測状態量を演算し、前記状態共分散および前記プロセスノイズ共分散から前記予測状態量の共分散である予測共分散を演算する予測量演算部と、
車両のセンサ値を取得する取得部と、
前記センサ値および前記予測共分散を用いてカルマンゲインを演算するカルマンゲイン演算部と、
前記カルマンゲイン、前記予測状態量および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定状態量を演算し、前記カルマンゲイン、前記予測共分散および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定共分散を演算する推定量演算部と、
前記推定状態量から前記車両の重量成分を抽出し、前記重量成分を時間微分した重量微分値を演算する重量成分抽出部と、
前記重量微分値を用いて前記プロセスノイズ共分散を修正するプロセスノイズ共分散修正部と、を備え、
前記推定状態量が前記状態量として、前記推定共分散が前記状態共分散として、修正された前記プロセスノイズ共分散が前記プロセスノイズ共分散として、前記データ格納部に書き込まれる、制御装置。
【請求項6】
車両に作用する状態量、前記状態量の共分散である状態共分散、および、演算ノイズの共分散であるプロセスノイズ共分散、をデータ格納部に格納するステップと、
前記状態量から予測状態量を演算し、前記状態共分散および前記プロセスノイズ共分散から前記予測状態量の共分散である予測共分散を演算するステップと、
車両のセンサ値を取得するステップと、
前記センサ値および前記予測共分散を用いてカルマンゲインを演算するステップと、
前記カルマンゲイン、前記予測状態量および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定状態量を演算するステップと、
前記カルマンゲイン、前記予測共分散および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定共分散を演算するステップと、
前記推定状態量から前記車両の重量成分を抽出するステップと、
前記重量成分を時間微分し、重量微分値を演算するステップと、
前記重量微分値を用いて前記プロセスノイズ共分散を修正するステップと、
前記推定状態量が前記状態量として、前記推定共分散が前記状態共分散として、修正された前記プロセスノイズ共分散が前記プロセスノイズ共分散として、前記データ格納部に書き込むステップと、
を含む、状態量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態量推定装置、制御装置、および状態量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両では、例えばその運転の安全性および快適性を高めるための種々の制御が行われている。このような車両の運転に係る制御を適切に実施するために、走行中の車両の質量(車重)を精度よく把握することが求められている。車重を推定する技術には、例えば、各種センサによりその車両に依存する状態量を取得し、運動方程式に当て嵌め、さらに2つの運動方程式を減算することによりノイズを相殺して車重を推定する技術が知られている。各種センサで取得した状態量のうち、状態量の推定に適さない数値は、通常、閾値を用いて破棄される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−152170号公報(2013年8月8日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術では、センサで取得したセンサ値のうち、状態量の推定に適さない一つでも数値が含まれると、その他の適する数値も破棄されることがある。そのため、車両の状態量を推定する機会が少なくなり、少ない機会で状態量を推定しなければならない場合がある。よって、状態量の推定の精度が不十分になることがあり、また状態量の推定の安定化に時間がかかることがある。このように、上記の技術では、車両の状態量の推定における精度および速度を高める観点から検討の余地が残されている。
【0005】
本発明の一態様は、より高い精度で迅速に車両の状態量を推定する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る状態量推定装置は、車両に作用する状態量、前記状態量の共分散である状態共分散、および、演算ノイズの共分散であるプロセスノイズ共分散、を格納するデータ格納部と、前記状態量から予測状態量を演算し、前記状態共分散および前記プロセスノイズ共分散から前記予測状態量の共分散である予測共分散を演算する予測量演算部と、車両のセンサ値を取得する取得部と、前記センサ値および前記予測共分散を用いてカルマンゲインを演算するカルマンゲイン演算部と、前記カルマンゲイン、前記予測状態量および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定状態量を演算し、前記カルマンゲイン、前記予測共分散および前記センサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定共分散を演算する推定量演算部と、前記推定状態量から前記車両の重量成分を抽出し、前記重量成分を時間微分した重量微分値を演算する重量成分抽出部と、前記重量微分値を用いて前記プロセスノイズ共分散を修正するプロセスノイズ共分散修正部と、を備え、前記推定状態量が前記状態量として、前記推定共分散が前記状態共分散として、修正された前記プロセスノイズ共分散が前記プロセスノイズ共分散として、前記データ格納部に書き込まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、より高い精度で迅速に車両の状態量を推定する技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態1に係る状態量推定装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態1に係る状態量を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3】実施形態1における演算、修正処理の一態様の流れを示すフローチャートである。
図4】実施形態1における演算、修正処理の算出値を利用して車重を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】実施形態1に係る状態量推定装置が適用される車両の構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
[状態量推定のロジックの説明]
車両に発生する運動量は、運動方程式F=maで表すことができる。ここで、Fはエンジン出力から各種走行抵抗値を減算したものであり、mは車両の重量成分(車重)であり、aは車両の加速度である。aは、車速Vの時間微分値で求めることができるため、下記式1で表すことができる。式1中、Fはエンジン由来出力を表し、Fairは空気抵抗成分を表し、Fsurfaceは路面抵抗成分を表す。
【0011】
【数1】
【0012】
ここで、エンジン由来出力であるFは、車輪半径で車輪トルクを除することで求められ、路面の傾き分の重力加速度を受けることから、下記式2で表すことができる。下記式2中、τは車輪トルクを表し、Rは車輪半径を表し、θは路面の傾斜角度を表す。
【0013】
【数2】
【0014】
本明細書における「車輪トルク」とは、走行中の車両の駆動源が発生させる、車輪に働く、車両を加減速させる方向に働くトルクである。たとえば、内燃機関を駆動源とする車両では、車輪トルクとは、該車両の車輪に掛けられているトルクである。内燃機関の車輪トルクは、内燃機関が発生させたトルクを、空燃比、外気温およびスロットルバルブ解放量などから推定し、得られた推定値に、車両毎に設定されている伝達損失係数と、各減速機構による所定の減速比とを乗ずることにより求められる。
【0015】
また、車輪内に駆動源として電動モータを独立して持つ車両では、車輪トルクは、該車両の各車輪に掛けられているトルクの合計である。当該車両の車輪トルクは、各モータの仕事効率および当該モータに印加される電圧から推定されるトルクに、車両毎に設定されている伝達損失係数と、各減速機構による所定の減速比とを乗ずることにより求められる。また、車両が電気式デフなどの差動制御装置(LSD)をさらに有する場合では、これらの装置の作動状況をさらに参照して上記車輪トルクを算出してもよい。
【0016】
空気抵抗成分であるFairは、その車両に特有の空気抵抗係数に車速の二乗を乗じることで求められるから、下記式3で表すことができる。下記式3中、Cdはその車両の空気抵抗係数を表し、Vは車速を表す。
【0017】
【数3】
【0018】
路面抵抗成分であるFsurfaceは、路面の摩擦係数に車重を乗じたものの路面角度の重力加速度分であるから、下記式4で表すことができる。下記式4中、μはその車両の路面抵抗係数を表し、mは車重を表し、θは路面の傾斜角度を表す。
【0019】
【数4】
【0020】
したがって、車両に発生する運動量の運動方程式F=maは、式1〜式4により、下記式5、式6で表される。
【0021】
【数5】
【0022】
車両の走行状態を制御する場合では、車両の前後Gを検知する前後Gセンサが一般に用いられる。この前後Gセンサの値Gsensは、車速を時間微分した値の車体ピッチ角分と、路面角度と車体ピッチ角の合計の重力加速度成分であるから、下記式7、式8で表すことができる。下記式7、式8中、θは車両のピッチ角度を表し、θは路面の傾斜角度を表す。
【0023】
【数6】
【0024】
式6および式8より、式9が導き出され、式9から式10が導き出される。
【0025】
【数7】
【0026】
ここで、θは十分小さいとして、θ≒0として近似を行うと、式10から下記式11が導き出される。
【0027】
【数8】
【0028】
式11において、左辺をYに、GsensをGに、mgcosθ(μ−sinθ)をCにそれぞれ置き換えることにより、下記式12が導き出される。
【0029】
【数9】
【0030】
式12においてYおよびGは、前述の通りセンサの値を参照可能である。また、mは車重であり、車載物の重量が実質的に変わらない適当な期間であれば実質的に一定であるから、定数とする。また、式12のCについて、式11より、mは前述の通り定数であり、gは重力加速度であるから、これも定数である。車体ピッチ角sinθは、前述の通りθ≒0であるから、定数(0)とする。よって、本実施形態では、路面角度cosθおよび路面抵抗μは、変化分をすべて後述するカルマンフィルタのノイズとして扱うことができることから、ここでは定数として扱う。したがって、式12においてCは定数と考える。
【0031】
一方で、下記式13は、カルマンフィルタの予測関数である。式13において、tは演算回数を表す。なお、本明細書において、下付き文字の「t」は、いずれも演算回数を意味する。xat−1は前回の演算により推定した、車両に作用する状態量を表し、xbtは今回の演算による、車両に作用する状態の予測量(予測状態量)を表す。車両に作用する状態量は、車両に係る物理量であり、その例には、車重および道路の勾配成分が含まれる。
【0032】
【数10】
【0033】
式14は、式13からxbを行列で表示したものである。前述のようにmおよびCは定数であるから、式13は下記式14に基づき変化しないと考えられる。したがって、前回推定の状態量xat−1と今回の予測状態量xbtとは同一であり、下記式15が成り立つ。
【0034】
【数11】
【0035】
また、予測状態量xbtの共分散(予測共分散)Ptは、下記式16で表される。式16において、Pt−1は前回の演算により推定された共分散を(状態共分散)表し、Qt−1は前回の演算により推定されたプロセスノイズ共分散を表す。状態共分散は、例えば、車両に作用する状態量とプロセスノイズ共分散とを二変数とする共分散である。プロセスノイズ共分散は、演算ノイズの共分散であり、例えば、車重mの推定に係るノイズと路面傾斜等Cの推定に係るノイズとを二変数とする共分散である。
【0036】
【数12】
【0037】
ここで、カルマンフィルタの観測方程式として、式12を下記式17に対応させる。式17中、htはYに対応し、mbはmに対応し、CbはCに対応する。
【0038】
【数13】
【0039】
式11の左辺は、前述したようにセンサによって観測可能であり、また式12におけるYである。これをセンサ値(「観測量」とも言う)zとすると、下記式18が導き出される。
【0040】
【数14】
【0041】
カルマンゲインは、下記式19、20から求められる。当該カルマンゲインは、カルマンフィルタのゲインであり、観測誤差が修正された(「最適化された」とも言える)ものとなっている。
【0042】
【数15】
【0043】
下記式21によってカルマンフィルタ演算を実施し、推定状態量xaを得る。また、下記式22によってカルマンフィルタ演算を実施し、推定共分散Pを得る。
【0044】
【数16】
【0045】
推定状態量xaは、下記式23の2×2行列で表される。Ctは、前述したようにmgcosθ(μ−sinθ)を表し、路面勾配等の車重以外の状態量を表す。得られた推定状態量から車重mが求められる。車重mの重量微分値Dmは、演算によって得られた車両の重量成分の時間微分値であり、推定結果の変化量、つまりばらつきである。車重mの重量微分値Dmは、例えば、車重mを用いて下記式24から求めることができる。
【0046】
【数17】
【0047】
一方、プロセスノイズ共分散Qは、下記式25の2×2行列で表される。下記式中、Qは車重mの推定に係るノイズの分散を表し、Qは路面勾配等の他の状態量Cの推定に係るノイズの分散を表す。
【0048】
【数18】
【0049】
プロセスノイズ共分散Qは、重量微分値Dmを用いて、プロセスノイズ共分散の先の演算結果であるプロセスノイズ共分散Qt−1を修正することにより求められる。プロセスノイズ共分散Qは、例えば、重量微分値Dmに応じて当該QおよびQの一方または両方を適宜に変更することにより求められる。詳細については後述する。
【0050】
[機能的構成例]
図1は、本実施形態に係る状態量推定装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。図1に示されるように、状態量推定装置100は、データ格納部101、予測量演算部102、カルマンゲイン演算部103、推定量演算部104、車重抽出部(重量成分抽出部)105、プロセスノイズ共分散修正部106、取得部107およびセンサ類108を含む。
【0051】
データ格納部101は、状態量(xa)、状態共分散(P)およびプロセスノイズ共分散(Q)の各データを格納している。
【0052】
予測量演算部102は、状態量xaから予測状態量(xb)を演算する。また、予測量演算部102は、状態共分散Pおよびプロセスノイズ共分散Qから予測共分散(P)を演算する。
【0053】
取得部107は、車両のセンサ値(z)を取得する。取得部107は、車両に配置されている種々のセンサ類108からセンサ値zを取得する。センサ類108は、例えば、車両の状態を表す物理量を検出するための種々のセンサ、および、センサが検出した値から当該物理量を算出する装置を含む。
【0054】
カルマンゲイン演算部103は、センサ値zおよび予測共分散Pを用いてカルマンゲイン(K)を演算する。
【0055】
推定量演算部104は、カルマンゲインK、予測状態量Pおよびセンサ値zからカルマンフィルタを用いて、推定状態量xaを演算する。推定状態量xaは、予測状態量xbから推定される状態量の推定値である。また、推定量演算部104は、カルマンゲインK、予測共分散Pおよびセンサ値zからカルマンフィルタを用いて、推定共分散Pを演算する。
【0056】
車重抽出部105は、推定状態量xaから車重(m)を抽出し、該車重の時間微分値である重量微分値(Dm)を演算する。
【0057】
プロセスノイズ共分散修正部106は、車重抽出部105が演算した重量微分値Dmを用いてプロセスノイズ共分散Qを修正する。
【0058】
また、推定量演算部104は、ある状態量xaに基づく推定状態量xaを次の状態量xaとしてデータ格納部101に格納する。また、推定量演算部104は、ある状態量xaに基づく推定共分散Pを次の状態共分散Pとしてデータ格納部101に格納する。さらに、プロセスノイズ共分散修正部106は、車重抽出部105が推定状態量xaから抽出した車重mから演算した、ある重量微分値Dmを用いてあるプロセスノイズ共分散Qを修正し、次のプロセスノイズ共分散Qとしてデータ格納部101に格納する。このように、状態量推定装置100は、今回演算した推定状態量xaが次回の演算における状態量xaとしてデータ格納部101に書き込まれ、今回演算した推定共分散Pが次回の演算における状態共分散Pとして、データ格納部101に書き込まれる。以下、本発明の実施形態に係る状態量の推定に係る処理について説明する。
【0059】
[処理例]
<状態量推定処理の概要>
図2は、本発明に係る状態量推定方法の一態様としての、本実施形態に係る状態量を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0060】
データ格納部101は、状態量xa、状態共分散Pおよびプロセスノイズ共分散Qを格納している(ステップS201)。tは演算回数であり、初期値であれば0である。
【0061】
ステップS202において、状態量推定装置100は、演算回数tを一つ増やすように更新する。たとえば、今回の演算回数がtであるとすると、前回の演算回数はt−1で表され、前々回の演算回数はt−2で表され、次回の演算回数はt+1で表される。
【0062】
次いで、予測量演算部102は、前回演算時または初期値の状態量から予測状態量を演算し、前回演算時または初期値の状態共分散およびプロセスノイズ共分散から予測状態量の共分散である予測共分散を演算する。たとえば、予測量演算部102は、予測状態量と予測共分散とを所定の間隔で連続して演算する。
【0063】
すなわち、ステップS203において、予測量演算部102は、予測状態量xbを前述の式13に基づき演算し、前回の演算回数における状態量xat−1を求めるべき予測状態量xbとする。
【0064】
また、ステップS204において、予測量演算部102は、予測共分散Pを前述の式16に基づき演算し、前回の演算回数における状態共分散Pt−1およびプロセスノイズ共分散Qt−1との和により予測共分散Pを求める。
【0065】
一方、取得部107は、センサ類108から車両の状態を検出する各種センサ値(「観測量z」とも言う)を取得する。たとえば、取得部107は、センサ値を所定の間隔で連続して取得する。観測量zは、個々のセンサのセンサ値そのものであってもよく、当該センサ値から算出された、走行状態にある車両の、その車両に依存する物理量の値であってもよい。たとえば、ステップS205において、取得部107は、前後Gセンサのセンサ値であるGsenst、車速Vおよび車両におけるエンジン由来の出力値Fxを取得する。ここでGsenstは、式20におけるHである。
【0066】
ステップS206において、カルマンゲイン演算部103は、観測量zおよび予測共分散Pを用いて、前述の式19に基づいてカルマンゲインKを演算する。たとえば、カルマンゲイン演算部103は、カルマンゲインKを所定の間隔で連続して演算する。
【0067】
ステップS207において、推定量演算部104は、カルマンゲインK、予測状態量xbおよび観測量z(H)からカルマンフィルタを用いて、前述の式21に基づいて推定状態量xaを演算する。
【0068】
また、ステップS208において、推定量演算部104は、カルマンゲインK、予測共分散Pおよび観測量z(H)からカルマンフィルタを用いて、前述の式22に基づいて推定共分散Pを演算する。たとえば、推定量演算部104は、推定状態量と推定共分散とを所定の間隔で連続して演算する。
【0069】
また、ステップS209において、車重抽出部105は、推定状態量xaから車重mを抽出する。
【0070】
ステップS210において、車重抽出部105は、抽出された車重に基づいて重量微分値Dmを演算する処理を実行し、プロセスノイズ共分散修正部106は、演算された重量微分値を用いてプロセスノイズ共分散を修正する処理を実行する。以下、ステップS210で実行する処理を「演算、修正処理」とも言う。
【0071】
ステップS211において、推定量演算部104は、推定状態量xaおよび推定共分散Pをデータ格納部101に格納し、プロセスノイズ共分散修正部106は、修正したプロセスノイズ共分散Qをデータ格納部101に格納する。このように、推定状態量xaが演算回数tにおける状態量xaとして、推定共分散Pが演算回数tにおける状態共分散Pとして、また、修正されたプロセスノイズ共分散Qが演算回数tにおけるプロセスノイズ共分散Qとして、データ格納部101に書き込まれる。こうして、状態量、状態共分散およびプロセスノイズ共分散が、例えば所定の間隔で連続してデータ格納部101に書き込まれる。データ格納部101に書き込まれたこれらのデータは、演算回数が更新されると、新たな演算において前回の演算による結果として、新たな状態量の推定において上記のように用いられる。
【0072】
なお、車重抽出部105は、機能に応じてさらに分割された構成を有していてもよく、例えば、前記推定状態量から車重を抽出する抽出部と、前記車重を時間微分して重量微分値を演算する微分演算部とによって構成されていてもよい。この場合、図2のステップS209において、当該抽出部が、ステップS207において推定量演算部104が演算した推定状態量xaから車両の車重mを抽出してよい。また、ステップS210において、当該微分演算部が、ステップS209において抽出部が抽出した車重mから重量微分値Dmを演算してよい。
【0073】
また、プロセスノイズ共分散修正部106は、所定の間隔で連続してプロセスノイズ共分散Qを修正してもよい。
【0074】
演算、修正処理は、重量微分値Dmを用いてプロセスノイズ共分散Qを修正する範囲において限定されない。演算、修正処理には、様々な処理を採用することが可能である。以下、演算、修正処理についてより具体的に説明する。
【0075】
<演算、修正処理の一態様>
図3は、本実施形態における演算、修正処理の一態様の流れを示すフローチャートである。当該態様では、車重抽出部105は、抽出した車重mを時間微分して重量微分値Dmを演算し、プロセスノイズ共分散修正部106は、当該重量微分値Dmを用いてプロセスノイズ共分散Qt−1を修正する。修正されたプロセスノイズ共分散を「Q」とする。
【0076】
ステップS301において、車重抽出部105は、抽出した車重mを時間微分して重量微分値Dmを演算する。
【0077】
ステップS302において、プロセスノイズ共分散修正部106は、ステップS301で演算された重量微分値Dmを参照して、プロセスノイズ共分散Qt−1を修正し、修正されたプロセスノイズ共分散Qを取得する。この場合、修正されたプロセスノイズ共分散Qは、例えば以下のようにして求められる。
【0078】
プロセスノイズ共分散Qは、前述したように、下記式25の2×2行列で表される。下記式中、Qは車重mの推定に係るノイズの分散を表し、Qは路面勾配等の他の状態量Cの推定に係るノイズの分散を表す。プロセスノイズ共分散Qは、重量微分値Dmに応じて当該QおよびQの一方または両方を適宜に変更することにより修正することができる。
【0079】
【数19】
より詳しくは、推定状態量xaの車重mの重量微分値Dmが小さい場合では、状態量の推定に有るノイズの分散Qも小さいと言える。よって、Qを小さくする修正を行うか、またはQを大きくする修正を行ってQを相対的に小さくすることにより、プロセスノイズ共分散Qが適宜に修正され得る。
【0080】
推定状態量xaの車重mの重量微分値Dmが大きい場合では、状態量の推定に有るノイズの分散Qも大きいと言える。よって、Qを大きくする修正を行うか、またはQを小さくする修正を行ってQを相対的に大きくすることにより、プロセスノイズ共分散Qが適宜に修正され得る。
【0081】
重量微分値Dmの大小は、複数の閾値によって判断することができ、当該閾値に応じて上記のようにQまたはQを段階的に修正することができる。たとえば、Dmに対応するQまたはQをマップから読み出すことにより、Dmに応じた適当なQまたはQの値を決めることができ、それに基づきQまたはQを上記のように修正することが可能である。上述の態様によれば、車重mのその時点(例えば観測値zの観測時)の挙動に応じてプロセスノイズ共分散Qが修正されるため、車両の実情に即した、またより安定した状態量の推定が可能となる。
【0082】
<状態量推定処理の終了>
上記の一連の処理は、車両が、推定すべき状態量が変わり得る状態になった場合に、終了させてよい。当該処理は、当該状態量は車重成分を含むことから、車両の車重が変わり得る状態になった場合に終了させることができる。車両の車重が変わり得る場合の例には、車両が停止した場合、車両のドアが開閉された場合、および、車両の燃料供給口が開閉された場合、が含まれる。
【0083】
<推定した状態量の外部への出力>
本実施形態に係る状態量推定装置は、車重を含む状態量を推定する。当該状態量推定装置が推定した状態量は、車両の状態量を利用して車両の走行状態を制御するための制御装置に出力され、当該制御装置において車両の走行状態の制御に適用される。本実施形態に係る状態量推定装置は、車重を含む状態量を外部に出力する出力部をさらに有していてよい。当該出力部は、車重を含む状態量を外部に出力可能な範囲において適宜に選ばれ得る。車重を出力する場合では、出力部は、車重mを抽出する車重抽出部であることが好ましい。
【0084】
<出力される状態量の態様>
本実施形態に係る状態量推定装置を、車重に基づいて車両を制御するための制御装置に適用する場合では、車重抽出部105は、抽出した車重mを車両の現在の重量として出力してもよい。この場合、車重の推定結果を車両の走行状態の制御に利用する観点から好適である。
【0085】
また、車重抽出部105は、車重の平均をさらに演算してもよい。車重抽出部105は、演算した車重の平均を、現在の車重として出力してもよいし、車重の演算に利用してもよい。この場合、それ以前の推定結果が反映された車重を車両の走行状態の制御に利用することが可能となる。よって、車重を十分な精度で簡素に推定する観点から好適である。車重の平均は、例えば、抽出された車重全てから求められた値であってもよいし、直近の所定回数に抽出された車重から求められた値であってもよい。
【0086】
また、車重抽出部105は、車重抽出部105が演算した重量微分値を利用して出力すべき車重を推定してもよい。このような態様によれば、車両の制御に用いる車重を、車両の実情に即して、またより安定して推定する観点から好適である。以下、重量微分値を車重の推定に利用する一態様を説明する。
【0087】
<重量微分値を車重の推定に利用する一態様>
図4は、実施形態1における演算、修正処理の算出値を利用して車重を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。当該処理例では、車重抽出部105は、安定フラグと重量決定部とを含む。状態量の推定処理における安定フラグの初期状態はオフである。安定フラグには、オンの場合に1が入力され、オフの場合には0が入力される。重量決定部は、推定状態量xaの演算回数t、重量微分値Dmの値、および、安定フラグのオンオフ、からなる群から選ばれる一以上を表す情報に応じて車重mを決定する。
【0088】
ステップS401において、重量決定部は、演算回数tが所定の回数(n)を超えているか否かを判定する。
【0089】
ステップS401において演算回数tが所定の回数(n)を超えている場合には、ステップS402において、重量決定部は、車重mの平均mavetを演算する。
【0090】
ステップS403において、重量決定部は、たとえば、0.05を所定の閾値として、重量微分値Dmの絶対値が当該閾値未満か否かを判定する。
【0091】
ステップS403において重量微分値Dmが当該閾値未満である場合には、ステップS404において、重量決定部は、車重の平均mavetを、外部に出力すべき車重mと決定する。そして安定フラグをオンにする。
【0092】
ステップS403において重量微分値Dmが当該閾値以上である場合には、ステップS405において、重量決定部は、安定フラグがオンとなっているか否かを判定する。
【0093】
ステップS405において安定フラグがオンとなっている場合には、ステップS406において、重量決定部は、前回以前の前記安定フラグをオンにしたときの(例えば一つ前の演算における)車重m(例えばmt−1)を、外部に出力すべき車重mと決定する。
【0094】
ステップS405において安定フラグがオフとなっている場合、あるいは、ステップS401において演算回数tが所定の回数(n)以下である場合には、ステップS407において、重量決定部は、最新の抽出した車重mを、外部に出力すべき車重mとして決定する。
【0095】
車重抽出部105は、ステップS404、S406またはS407で決定した車重mを外部に出力する。
【0096】
上記の態様によれば、車重mを、重量微分値Dmに応じて、また今回または前回以前の演算結果を利用して、より高い信頼性を有する値に推定することが可能となることから、十分に高い精度で迅速に車両の状態量を推定する観点から好適である。
【0097】
重量微分値Dmを利用する車重mの推定処理は、本実施形態に係る状態量推定処理における、重量微分値Dmを演算した後の任意の時期に実行することができる。たとえば、当該推定処理は、図2におけるステップS210の後に実行することが好ましい。
【0098】
また、車重の平均mavetは、車重決定部によって演算されなくてもよく、例えば車重抽出部105によって演算されてもよく、あるいは、当該平均mavetなどの演算を実行するための他の構成によって演算されてもよい。
【0099】
さらに、上述の車重mの推定は、重量微分値Dmの演算処理と同期していてもよいし、同期していなくてもよい。たとえば、重量微分値Dmの演算処理を所定回数実行する毎に上述の車重mの推定処理を実行してもよい。
【0100】
[作用効果等]
本実施形態に係る状態量推定装置は、車重を含む状態量の推定にカルマンフィルタを用いる。よって、推定の条件に応じて観測量を破棄する必要がなく、実質的に全ての、獲得した観測量を演算に用い、状態量の推定に利用することが可能である。よって、車両の状態量の推定値を迅速かつ十分に取得することが可能である。
【0101】
また、本実施形態に係る状態量推定装置では、プロセスノイズ共分散が修正される。たとえば、車両の車重は、種々のセンサ値に応じて推定する場合では、車両の走行状態に応じて変化することがある。しかしながら、車重の推定を所定の期間(例えば車両が走行し始めてから停止するまで等)ごとに行う場合では、車重は実質的に一定である。本実施形態では、プロセスノイズ共分散を修正することで、車両の走行状態に起因して車重を変化させるパラメータを実質的に無視することができ、車両の状態量の推定を安定して実行することが可能となる。よって、車両の状態量を十分に高い精度で迅速に推定することが可能である。
【0102】
本実施形態に係る状態量推定装置は、前述したように、センサ値を破棄することなく車両の状態量の推定に用いることができ、かつ、プロセスノイズ共分散の修正によって、当該状態量の安定した推定が可能である。よって、状態量の推定値は、適度なロバスト性を有し、車両の走行開始後の短期間で適切な値に収束する。この推定値を用いて車両の走行状態を制御すると、車両の走行状態をより好適に制御することが可能となる。
【0103】
以下、本実施形態に係る状態量推定装置を車両に適用する例、および、当該車両における懸架装置のための制御装置に適用する実施形態、を説明する。
【0104】
〔車両への適用例〕
本実施形態に係る状態量推定装置を車両に適用する例について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0105】
当該車両は、車両を走行させる各種装備の他、プロセッサ、センサ類、および記憶媒体を有する。当該プロセッサは、前述した予測量演算部、取得部、カルマンゲイン演算部、推定量演算部、車重抽出部およびプロセスノイズ共分散修正部を含む。センサ類は、前述した前後Gセンサ、車輪軸トルクおよび車速センサを含む。記憶媒体は、前述したデータ格納部に対応しており、例えば磁気ディスクである。
【0106】
図5は、上記の状態量推定装置を有する車両の構成の一例を模式的に示す図である。図5に示されるように、車両900は、懸架装置(サスペンション)150、車体200、車輪300、車速(V)を検出する車速センサ450、エンジン500およびECU(Electronic Control Unit)600を備えている。ECU600は、前述したプロセッサに該当している。
【0107】
なお、符号中のアルファベットA〜Eは、それぞれ、車両900における位置を表している。Aは、車両900の左前の位置を表し、Bは、車両900の右前の位置を表し、Cは、車両900の左後ろを表し、Dは、車両900の右後ろを表し、Eは、車両900の後ろを表している。
【0108】
また、車両900は、車両900の前後方向の加速度(以下、「前後G」とも言う)を検出する前後Gセンサ340(前述の「Gsens」を取得する)、および、エンジン500が発生させるトルク(車輪トルク(τ))を推定する車輪トルクセンサ510を備えている。上記車輪トルクは、前述したように車両900の車輪に掛けられているトルクであり、車両900の駆動力に該当する。
【0109】
さらに、車両900は、不図示の燃料タンク中の燃料(ガソリン)の量を検出するフューエルセンサ360、車両900のそれぞれのドアの開閉を検出するドア開閉センサ550、および車両900のギアの接続位置を検出するギアポジションセンサ540を備えている。なお、ドア開閉センサ550Eは、車両900のトランクのドア(バックドア)の開閉を検出する。
【0110】
各種センサの出力値のECU600への供給、および、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。各センサは、後述の状態量の推定のために新たに設けられてもよいが、コストの面から、車両900に既存のセンサであることが好ましい。
【0111】
記憶媒体には、状態量の推定に要する種々の情報が記憶されている。当該情報の例には、車輪半径、Cd値(空気抵抗係数)、ならびに、車重などの状態量、状態共分散、重量微分値などの状態量微分値およびプロセスノイズの共分散の初期値、が含まれる。当該初期値は、テスト等により事前に決定された、初期値として適切な数値である。
【0112】
たとえば、車両900の状態量として車重を推定する場合では、当該車重の初期値は、車両900の仮の総重量であってよい。当該仮の総重量は、例えば、車両900の乾燥重量と、車両への搭載物の総重量とまたはその見込み量との和であってもよい。また、仮の総重量は、例えば、車両900の乾燥重量に、フューエルセンサ360が検出したガソリン残量を加算した値であってもよい。
【0113】
また、当該仮の総重量は、例えば、車両900の乾燥重量に、ドア開閉センサ550が検出した、開いたフロアドアの数に人間一人分相当の重量を乗じた値と、ドア開閉センサ550がバックドアの開閉を検出した場合には所定の重量との和であってよい。また、当該仮の総重量は、車両900におけるシートベルトの着用の有無をさらに参照した値であってもよい。シートベルトの着用を参照することにより、車両900に搭乗している人間の数をより高い精度で把握される。搭乗者数の高い精度での把握は、例えば車両900の重量の下限値の設定に有効であり、上記仮の総重量の信頼性をより一層高める観点から好ましい。
【0114】
車両900の状態量の推定は、実施形態1で前述したように実施される。車両900における状態量の推定プロセスは、基本的に所定の間隔で連続して行われる。状態量の推定値が安定する場合には、状態量の推定の間隔をより長い間隔で間欠的に行ってもよい。ECU600が推定した状態量は、当該状態量の推定値を必要とする車両900の他の装置において、制御などの目的で使用される。当該他の装置は、前述したように、車重抽出部で決定された車重を車重の推定値として受け取ってよいし、あるいは、推定状態量を推定量演算部から受け取ってもよいし、データ格納部から読み込んでもよい。
【0115】
車重は、一般に、車両本体の重量と車載物の総重量とによって決まり、車載物の重量は、通常、走行中には実質的には変動しない。したがって、車両が走行し始めてから停止するまでの間、車重は実質的には一定と考えることが可能である。本実施形態では、前述した状態量推定装置によって車重を含む状態量が推定されるため、車両が走行し始めると、観測量に基づいて車重の推定値が迅速に得られる。車重は、車重が変化し得るように車両の走行が中断するまで(交差点または目的地に到着することによる車両の停止、停止時におけるドアまたは燃料キャップの開閉、など)は、実質的に一定である。よって、このような走行時に車重の推定値を変化させる観測量および演算結果はプロセスのノイズと見なすことができる。よって、本実施形態におけるECUによれば、走行状態にある車両の車重は迅速かつ簡易に推定され、車重の推定を安定して実行することが可能となる。
【0116】
本実施形態において、車重が空の場合の重量(空虚重量)以下等、走行中の車両の車重として適切でない値が車重の推定値として算出された場合には、推定結果を破棄してもよい。また、前述したように、車両における車重の推定は、通常は連続して行われるが、十分に信頼可能な値を獲得している場合には、車重の推定値を破棄してもよいし、あるいは車重の推定を断続的(間欠的)に実行してもよい。
【0117】
前述した実施形態では、状態量推定装置における各種値を演算する前述の演算部または修正部は、算出した値をデータ格納部に書き込むが、本発明では、これらの値のデータのそれぞれをデータ書き込み部に書き込むための書き込み部をECUがさらに含んでいてもよい。
【0118】
上記の状態量推定装置による状態量の推定は、当該状態量が変化する可能性がある車両の状態に応じてリセットすることが可能である。たとえば、車両の車重を推定する場合では、車両のキーポジションがオフの位置となることや、ドアが開かれることによって、推定状態量の初期値をリセットし、状態量の推定を新たに開始してもよい。
【0119】
なお、上記の実施形態では、四輪自動車を例に説明したが、本発明において車両はそれに限定されない。たとえば、車両は、バイクであってもよく、また鉄道車両であってもよい。
【0120】
本実施形態では、前述したように、車両の走行開始から短時間で車重の安定した推定値を取得することが可能である。よって、車重の推定値に基づいて車両の走行状態を制御する場合に、当該制御をより安定して好適に実行することが可能である。
【0121】
〔実施形態2〕
本実施形態に係る状態量推定装置で推定された車重は、懸架装置150の制御に用いることができる。車両900における懸架装置150の制御装置は、車両900に作用する状態量を推定して、懸架装置150の減衰力を状態量に応じて制御するように構成される。本実施形態は、本実施形態に係る状態量推定装置による状態量または車重の推定値を用いる以外は、車重の推定値に応じて懸架装置150の減衰力を制御する公知の方法によって実施することが可能である。
【0122】
懸架装置150は、例えば、車両における車体と車輪との間に介在するアブソーバと、アブソーバのストロークに伴い伸縮するように配置されているスプリングとを有する。アブソーバは、シリンダと、シリンダ内を二室に仕切るとともに摺動可能なピストンと、ピストンに固定されたピストンロッドと、二室を連通する連通路と、連通路を開閉自在なソレノイドバルブとを有している。ピストンで仕切られるいずれの室にも作動油が満たされている。スプリングは、ピストンロッドの外周を囲むように配置されており、シリンダの端部とピストンロッドの端部とで支持されている。ECU600は、車重の推定量に応じて、車重の推定量が大きい程、懸架装置150の減衰力を大きくするように、ソレノイドバルブの開度を調整させる。
【0123】
なお、懸架装置150の構造は限定されない。たとえば、懸架装置150におけるソレノイドの位置は限定されない。懸架装置150は、例えば、ピストンイン型であってもよいし、外筒接続型であってもよい。また、懸架装置150の種類は、特に限定されず、例えばストラット式であってもよいし、ダブルウィッシュボーン式であってもよい。このように種々の構造または種類の懸架装置を懸架装置150に採用することができる。また、懸架装置150における減衰力の調整方法も限定されず、上記のようにアブソーバにおける減衰力を調整する方法であってもよいし、上記スプリングのスプリングレートを可変させる(自動可変プリロード)方法であってもよいし、これらの両方であってもよい。
【0124】
本実施形態によれば、前述したように、走行開始時に迅速に車両の状態量の安定した推定値が得られる。このように早期に安定して得られる、車重を含む当該状態量の推定値を用いて懸架装置を制御することから、車両の走行状態に応じた懸架装置の制御をより好適に実行することが可能となる。
【0125】
〔ソフトウェアによる実現例〕
状態量推定装置の制御ブロック(特に予測量演算部102からプロセスノイズ共分散修正部106までの各部)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0126】
後者の場合、状態量制御装置は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0127】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施の形態に係る状態量推定装置(ECU600)は、車両(900)に作用する状態量(車重)、状態量の共分散である状態共分散、および、演算ノイズの共分散であるプロセスノイズ共分散、を格納するデータ格納部(101)と、状態量から予測状態量を演算し、状態共分散およびプロセスノイズ共分散から予測状態量の共分散である予測共分散を演算する予測量演算部(102)と、車両(900)のセンサ値を取得する取得部(107)と、センサ値および予測共分散を用いてカルマンゲインを演算するカルマンゲイン演算部(103)と、カルマンゲイン、予測状態量およびセンサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定状態量を演算し、カルマンゲイン、予測共分散およびセンサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定共分散を演算する推定量演算部(104)と、推定状態量から車両の重量成分(車重)を抽出し、当該車重を時間微分した重量微分値を演算する車重抽出部(105)と、当該重量微分値を用いてプロセスノイズ共分散を修正するプロセスノイズ共分散修正部(106)と、を備える。そして、推定状態量が状態量として、推定共分散が状態共分散として、修正されたプロセスノイズ共分散がプロセスノイズ共分散として、データ格納部(101)に書き込まれる。当該構成によれば、カルマンフィルタを用いて演算するため、観測量が条件に合わないものを含んでいる場合でも観測量を破棄する必要がない。よって、センサ類から求められた観測量を演算に利用することが可能である。また、プロセスノイズ共分散を修正するため、種々異なる推定環境においても安定して車両の状態量を精度よく、また迅速に推定することが可能である。
【0128】
また、上記の状態量推定装置において、車重抽出部(105)は、抽出した車重を車両(900)の現在の重量としてさらに外部に出力してもよい。このような構成によれば、車重の推定結果を車両の走行状態の制御に利用する観点から好適である。
【0129】
また、上記の状態量推定装置において、車重抽出部(105)は、車重の平均をさらに演算してもよい。このような構成によれば、車重を十分な精度で簡素に推定する観点からより効果的である。
【0130】
また、上記の状態量推定装置において、車重抽出部(105)は、初期状態をオフとする安定フラグと、推定状態量の演算回数、重量微分値、および、安定フラグのオンオフ、からなる群から選ばれる一以上を表す情報に応じて車重を決定する重量決定部とを含んでいてよい。そして、重量決定部は、推定状態量の演算回数が所定回数以下の場合には、最新の抽出した車重を抽出した車重と決定し、推定状態量の演算回数が所定回数を超え、かつ、重量微分値が所定の閾値未満の場合には、上記の平均を抽出した車重と決定して安定フラグをオンにし、推定状態量の演算回数が所定回数を超え、重量微分値が所定の閾値以上であり、かつ、安定フラグがオンである場合には、前回以前の安定フラグをオンにしたときの抽出した車重を抽出した車重と決定し、推定状態量の演算回数が所定回数を超え、重量微分値が所定の閾値以上であり、かつ、安定フラグがオフの場合には、最新の抽出した車重を抽出した車重と決定してよい。そして、車重抽出部は、重量決定部が決定した車重を車両の現在の重量(車重)としてさらに外部に出力してよい。このような構成によれば、本実施形態に係る状態量推定装置から外部に出力すべき車重を十分な精度で、また簡素かつ迅速に安定して推定する観点からより一層効果的である。
【0131】
また、本発明の実施の形態に係る制御装置は、懸架装置(105)を有する車両(900)に作用する状態量を推定して、懸架装置(150)の減衰力を状態量に応じて制御する制御装置である。当該制御装置は、車両に作用する状態量、状態量の共分散である状態共分散、および、演算ノイズの共分散であるプロセスノイズ共分散を格納するデータ格納部(101)と、状態量から予測状態量を演算し、状態共分散およびプロセスノイズ共分散から予測状態量の共分散である予測共分散を演算する予測量演算部(102)と、車両のセンサ値を取得する取得部(107)と、センサ値および予測共分散を用いてカルマンゲインを演算するカルマンゲイン演算部(103)と、カルマンゲイン、予測状態量およびセンサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定状態量を演算し、カルマンゲイン、予測共分散およびセンサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定共分散を演算する推定量演算部(104)と、推定状態量から車重を抽出し、車重を時間微分した重量微分値を演算する車重抽出部(105)と、重量微分値を用いてプロセスノイズ共分散を修正し、するプロセスノイズ共分散修正部(106)とを備え、推定状態量が状態量として、推定共分散が状態共分散として、修正されたプロセスノイズ共分散がプロセスノイズ共分散として、データ格納部(101)に書き込まれる。このような構成によれば、車重を含む状態量を十分な精度で迅速に推定することが可能であるため、車両のより快適な走行を実現するように車両の懸架装置を制御することが可能となる。
【0132】
また、本発明の実施の形態に係る状態量推定方法は、車両(900)に作用する状態量、状態量の共分散である状態共分散、および、演算ノイズの共分散であるプロセスノイズ共分散、をデータ格納部に格納するステップと、状態量から予測状態量を演算し、状態共分散およびプロセスノイズ共分散から予測状態量の共分散である予測共分散を演算するステップと、車両(900)のセンサ値を取得するステップと、センサ値および予測共分散を用いてカルマンゲインを演算するステップと、カルマンゲイン、予測状態量およびセンサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定状態量を演算するステップと、カルマンゲイン、予測共分散およびセンサ値、からカルマンフィルタを用いて、推定共分散を演算するステップと、推定状態量から車重を抽出するステップと、車重を時間微分して重量微分値を演算するステップと、重量微分値を用いてプロセスノイズ共分散を修正するステップと、推定状態量を状態量として、推定共分散を状態共分散として、修正されたプロセスノイズ共分散がプロセスノイズ共分散として、データ格納部に書き込むステップとを含む。このような構成によれば、前述したように、センサ類から求められた観測量を演算に利用することが可能であり、また求めたい状態量に実質的には関係しないプロセスノイズ共分散の変動が求めたい状態量の推定に実質的に影響を及ぼすことを抑制することが可能である。よって、車両の状態量を精度よく、また迅速に推定することが可能である。
【0133】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、例えば、Unscented カルマンフィルタのような代替容易に考えられる、既知の技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0134】
100 状態量推定装置
101 データ格納部
102 予測量演算部
103 カルマンゲイン演算部
104 推定量演算部
105 車重抽出部(重量成分抽出部)
106 プロセスノイズ共分散修正部
107 取得部
108 センサ類
150 懸架装置
200 車体
300 車輪
340 前後Gセンサ
360 フューエルセンサ
450 車速センサ
500 エンジン
510 車輪トルクセンサ
540 ギアポジションセンサ
550 ドア開閉センサ
600 ECU(状態量推定装置)
900 車両
図1
図2
図3
図4
図5